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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 18:02

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 18:00

ロリ男子七草先輩の途中下車

 §
 放課後の教室、窓際に立つ少女は、パタンと本を閉じ言った。
 夕焼けに染まる、文芸部室のことだった。
「持って来てくれましたか?」
「……」
「大丈夫、ここには誰も来ませんよ」
 鈴の音を思わせる声、紅茶を思わせる雰囲気、それはさながら、古書店に住まう乙女といったところ。本棚に囲まれて、ここだけが自分の城とでも言うかのよう。
 落ち着いた場で会う彼女は、最初に会った時と同じ、素朴な少女そのものだった。おとなしく、時におどおどとした表情さえ見せそうな少女。クラスの端にいる、大人びているけどどこか引っ込み思案な女の子。あどけなさを残した包容力が、僕の心を落ち着けた。
 もちろん、あの時僕を犯した、満員電車の絶対君主とはまるで違う。

「……これ」
 赤面して下着を渡すのを見てなお、眼鏡っ娘美少女は態度を変えない。
「ありがとうございます。まさか本当に来てくれるとは思いませんでしたが」
「弱みを握っておいて……」
 ふふ、どうでしょう、と文学少女が朗らかに笑う。洒落た眼鏡の奥で目を細める。だんだん様子が変わってきた。おかしい。年下の少女とら思えない。

「と、とにかくもう、僕は帰るから」
「あら。抱っこして欲しくないんですか?」
「欲しいわけないでしょう?!」
「へえ?」
 ずいっと目の前に立つ。圧迫感を覚える、起伏の激しいロリ巨乳ボディ。ふわりとした体温と影を投げかけられ、無意識に後ずさった。
 それを、びっくりするくらい強引に引き寄せると。
「ぎゅ~~……ッ♡」
 僕を、体格差ハグで締め上げる。14歳の女の子に、つま先が浮くほど抱き締められるのだ。30cm近い身長差のむちむちハグで、顔は胸に包まれ抵抗なんて不可能。電車のトラウマを思い出させる感覚だった。
「思い出してますね? ちょっと震えてますよ? でも興奮してる。かわい〜……♡」
 涙目で見上げる。頬を紅潮させた、美少女眼鏡っ娘の微S顔。中学生女子に優越感たっぷりに見下ろされて、じわぁっと、頭が熱くなった。

 けれど。
 アハッと彼女は笑うと。
「貴方はこの胸で殺されかけたんです♪」
 僕の髪を掴んで、
「電車で♪」
 谷間に、顔を叩き込む。
「助けも呼べず♪」
 窒息しかけたところで頭を上げると、
「年下の女の子に♪」
 再度エッチな年下巨乳にぶち込んだ。
「こんなふうに♪ 無理やり♪ この体で♪ グッチャグチャに♪」
 それから、優しく、“むっぎゅうぅ~……ッ♡♡”と抱き締め、頭を撫でると。
「ね?」
 手を離す。ドサッと崩れ落ちる僕を、クスクス笑う。

 少しずつ、危険な欲求を燻らせ始める女の子。そしめ、軽く靴先で僕の頬を撫でると。
「舐めてください♪」
 そう命じるのだ。
「……え?」
「え、じゃありません♪ 舐めろ」
「そんな……! せめて、他の……」
「あは♡ いやでーす♪」
 後輩の2人と違って、彼女はまるで接点のない女の子。そんな子供に呼びつけられて、下僕のように命じられている。
 でも、抗えない。
 僕は、震える手で革靴に手を添えると、キスしようとして……。
 矮躯を突き飛ばしたのは、彼女のおみ足。倒れかけた僕を、少女がネクタイで強引に引っ張る。
「やめてください、靴が汚れるじゃないですか」
「ぐぇッ?!」
 首輪のように引っ張り、美脚に侍らせる。というより、太ももに抱き着かされた。文学少女の、白樺の大木みたいなニーソ太もも。むちぃッとした柔らかさが腕に広がって、一瞬心が沸き立った。
 そして、思いっきり顔面を生肌に押し潰されるのだ。
「ぶっ?!」
「ばーか♡ 靴くらい脱がせてください♪ だーれが靴なんかにキスしろって言いました? キスするなら足♪ 当然ですよね?」
 グリグリと生肌に押し付けられ、窒息させられる。後頭部を掴む手は強引で、太ももの肉感は膨大。なんとか呼吸を取り戻そうとすれば、すりぃっと絶対領域を頬でなぞりあげてしまった。太ももに抱きついたまま、年下少女に慈悲を乞う体勢だ。

 首輪のようにグイグイネクタイを引っ張られて、膝立ちのまま太ももに頬擦りさせられる。涙目になりながら見上げる僕を、美少女は下乳で見下ろしていた。谷間からわずかに覗く目元は、ほんのりと弧を描いていて、
「……ッ♡」
 ゾクッと、少女の何かが芽生える音がした。

「あは♡ なぜでしょう、見てるとすっっっごくイジめたくなっちゃうんです……♡ 貴方が悪いんですよ? わかってますか?」
「そんな言いがかり……きゃっ?!」
「うふふ♪ 可愛い声出すんですね♪ 本当に男性です? 女の子にこんなことしてたら、ごめんなさいしないといけませんが……」
 ネクタイを引っ張り上げ、僕を立たせる。その胸元と背比べさせて、身長差を際立てた。お姉さんと幼い妹みたいな体格差。年上男性の小柄さが、彼女の心をくすぐった。

「ちょっといいですか?」
「わっ?!」
 いきなり僕の胴に手を滑り込ませ、持ち上げる。たかいたかいするように揺らして、それから降ろした。
 しばらく思案するように頬に指を当てる。
 そして、
「えい」
 僕を突き飛ばしたのだ。
「わっ?!」
「うるさいですね」
 次の瞬間、“どむ゛ッ♡”っと降ってきたのはデカ尻。オバケかぼちゃみたいなサイズの巨尻に圧し潰され、強○的に声を殺される。片や文学少女は、ツンツン僕の股間をなぞり、はてなマークを浮かべると、ギュッと握り締めた。

「ひぐッ?!」
「……あ、やっぱりちゃんとついてるんですね。声も顔も可愛いから混乱しますが……」
「やめッ、う、~~~~ッ!!」
「動くな♡」
 どむっと、顔面をぶっ潰すお尻様。早熟のどっしりヒップが顔面から溢れ出し、まるで尻鈍器だ。座り直せばさらにどっしり押し潰される。藻掻く僕のお腹を押さえつけ、股間を触診するのだ。
「やめっ、触らないで、やめてぇ……ッ!」
「大きな声出しますよ? “女子中学校に不法侵入中の男子高校生”、間違ってませんよね?」
「うっ……」
「……っ♡ 大丈夫、可愛がらせてくれるならそんなことしませんよ♡」
 お尻をどけると人魚のように横座りになり、ヨシヨシと僕の頭を撫でる少女。ニーソをギチギチに張り詰めさせる太ももが二段重ねでせめぎ合い、隙間が見えなくなるほど密着している。
 
「ふふ、何見てるんです? 太もも、好きなんですか〜?」
「ち、違……」
「いいですよ? ちょっと、触ってみます?」
 少し上下に太ももを開き、内腿をなぞってみせるむちむち女子中学生。ニーソはぴっちり締め付けて金属のように輝き、太ももはむっちり柔らかそうで餅同然。ワニのように口を開く美脚が、エッチな内股を覗かせ誘うのだ。

「触ってみて? ニーソの境目をなぞって、そう、そうです♪ 柔らかいですよね? 気持ちいいですよね♪ ほら、もっと近寄っていいんですよ〜……♡」
 誘い込むように、僕に囁き続ける美声。軽く膝を曲げて目と鼻の先に太ももを見せつけ、太ももの間に僕を誘い込む。もう、肌のキメが見えるほど。いい匂いがする。甘い体温が伝わってくる。キスしろと言われた気がした。言われた通りにしたら頭を撫でられた。ニーソの食い込む、雪原のように美しい素肌。そして、言われるがままに太ももの間に顔を突っ込むと。

「えい」
 “ばむッ♡“と、太股を閉じ。
「えーい☆」
 “ぎちちぃッ♡“と、美脚で首を挟んでしまったのだ。
「ぶっ?!」
 首4の字固め。えげつない太さの太股に挟まれ、まともに首を絞め上げられるのだ。胴ほどもありそうな、たぷたぷ太ももが顔を押し潰す。慌てて逃げようとする。でも、無駄。女体の罠は強靭だった。太くて重い。びくともしない。力が出せない体勢もあって、太ももの重さを押しのけられなかった。
 なんとか体をよじって上を向けば、背中越しに彼女が微笑んでいた。
 それから、噴き出す。
「あはっ♡ だっさーい♡ 年下の女の子に唆されて、太もも、挟まれちゃいましたね♪ ほら、もがいちゃだめですよ♪」
 そしていきなり、“ぎゅっちいぃ〜ッ♡“と締め上げたのだ。
「ぐぅ゛っ……?!!」
「可愛い声出さなきゃダメじゃないですか。女の子の見た目が台無しですよ?」
「女の子、じゃ……ッ」
「ばーか♡ 喋っちゃだーめっ♡」
 そして、またもギチギチに絞め上げる極太太もも。たぷたぷとぷとぷな太股がキュッと締まって、僕の首を絞める。藻搔いても足掻いても無駄。丸太みたいなJC太ももは極悪で、すべすべの肌は指すらかからない。そして溢れ出すマシュマロ太ももに潰されて、呼吸さえ奪われてしまった。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:55

ロリ男子七草先輩の通学

§
 満員電車は海だった。
 人海。それも、自分より遥かに大きく強い人たちの。
 毎日ドアが開くたび、心拍数が有意に跳ね上がる。140㎝台のチビにとっては、小さな女子小学生が一人すし詰めの大人たちの中に紛れるようなもの。
 僕だって、男子高校生だというのに。
 
 でも今日は幸運だった。優しそうな女の人の近くに陣取れたんだから。
 ……女の人、というより、発育のいい女子中学生なのだけれど。

 ふと目が合う。
 吊りスカートにワイシャツ、赤い紐タイ。物静かな優等生といった、眼鏡っ娘。近くの女子校の子だろう。栗色の髪を三つ編みにして、でも顔立ちは華やかだから、野暮ったさはまるでない。高級なモンブランを思わせる雰囲気だった。素朴で、僕みたいな人間が落ち付ける、数少ない人種。
 それが、僕の頭一つ分上から見下ろしてくるのだ。

 お互い、妙に相手を見つめてしまって、目が合うと気まずく会釈する。
 そして、お互いほぼ同じことを思ったはず。
 “その歳で、その体格?“、と。
 まるで大人びたお姉ちゃんと小さな妹。そんな体格差で見下ろされて、見上げさせられて。でも男女も年齢もあべこべだ。

 大人しい眼鏡少女と、気弱な小男。お互い奇縁を感じずにはいられない。でも、いつまでも見つめあってる訳にはいかなかった。
 突然、どっと混み始めたのだ。
 そして、長身女子がつんのめると。
 僕を、その胸で弾き飛ばしてしまった。
「ゎ……!」
 “え?”と思う間もなかった。小さな声と共に視界いっぱいに広がるパツパツおっぱい。それが顔面にどむっとぶつかりたわむのだ。一瞬顔いっぱいに極上の柔らかさが広がった。それが次の瞬間には力強く僕を跳ね飛ばして、無力な小人を押しのける。
 少女は気付かない。いくら長身といったって、彼女自身非力な女子中学生なのは変わらないから、こけないようにするだけで必死だった。僕も半ば逃げるように移動するけど今日の混雑は凶悪。そのまま反対側のドアまで押し流されてしまう。
 閉まるドアが、開いては閉じてを繰り返し、そのたび密度を増す人の束。息詰まるほどにひしめく巨躯の世界で、僕も圧死を覚悟する。

 けれど、なぜか体が押し寄せてこない。
「…………?」
 恐る恐る見上げれば、あの子が腕を突っ張って、なんとか僕に空間を作ってくれていた。度を越したチビ男子高校生を、自分の体で圧死させたくはないみたいだ。その長躯で僕を守るように覆いかぶさり、ギュッと目をつむって耐えてくれている。
 非力な少女がぷるぷる耐えて、でも僕は申し訳なくもその厚意に甘えることしかできない。僕の目から見れば、この子は一般人にとっての200㎝に匹敵する。潰されたら大変なのは間違いない。
 そして生まれた空間の中で。
 僕の鼻に触れるか触れないかのところで、胸元が突き付けられていて。
 電車の揺れで、上下に揺れるのだ。

 どうしたらいいのかわからない。
 でも、目を離すことも出来なかった。
 鼻先に突き付けられた中学生おっぱい。文学少女然としているのに、そのボリュームでワイシャツがキリキリ悲鳴を上げそうなほど。多分Eカップはくだらない。僕の体だとさらに2、3サイズは大きく見えるロリ巨乳。それがブラにも服にも拘束されてなおどっぷりと揺れていた。まだ、14歳くらいなのに。
 パツパツ子供巨乳が鼻先を撫でる。本人の意思と関係なく僕の小ささを煽り立てた。
 おまけに車両が減速すれば、横殴りにぐぐぅっと頬に押し付けられる清楚巨乳。少女は真っ赤になって、だのに僕は逃げることも出来ない。こんな情けないことってない。この子の体温が上昇するのがわかる。体熱が漏れる。肌からふわぁっといい香りが立ち上ってきた。どんなふうに呼吸したらいいんだろう。規格外のおっぱいを突きつけられ、パツパツのパノラマを見せつけられながら否応なく香りを嗅がされて……。でも多分、本人はそこまでは気づいていない。
 少女が、なんとか体の向きを変えようと身をよじる。そうすれば、思いっきり押し付けられ、すりすり頬擦りしてくる横乳。屈辱的で、でもむにぃっとした弾力が柔らかくて、頭がおかしくなりそうだった。年下おっぱいの母性的な重みと、生々しく羞恥を飲み込む少女の気配。それに何度も何度も、頬をヨシヨシされるのだ。
 巨乳ロリにこんなに気を使わせてしまうなんて。配慮してくれた上で、こんなに何もできないなんて。そう思うと、だんだん彼女の体が怖くさえ思えてくる。この大人しい女の子に何かされても、僕は絶対抵抗できない。触れたら痴○、でも目の前にそびえ立ち、腕で檻を作って逃げられない。見上げると、ローアングルは3分の1をおっぱいで埋め尽くされていた。

 ただ、そんな優しさも幼さゆえのことだったのかもしれない。
 そして僕は、成長するための養分だった。

 急停車する。
 電車にみっちり詰まった内容物がみんなよろけて、互いに互いへよりかかった。
 結果、少女もよろけてしまって。
 “ドンッ!“と。思いっきり壁に手をついたのだ。

「ひっ?!」
 とっさに漏れた言葉は本物の恐怖。反射的に小動物に堕とされて、ビクビクと高身長巨乳○女を見上げてしまうのだ。
 そこには、目を丸くして真上から見下ろしてくる女の子がいて。
 驚いたまま、でも、わずかに頬を紅潮させていた。羞恥ではない。高揚している。彼女自身未知の感覚に、少し恍惚とさえしていた。
 目を瞬き、それから細めて。
「…………♡」
 唇を、舌先で潤したのだ。

 嫌な予感がした。
 嫌な嫌な予感がした。

 それは、想像以上に早く的中して。
「…………ごめんなさい」
 本当に小さな一言ののち。
 電柱みたいな太ももが、僕を掬い上げたのだ。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:53

口リ男子七草先輩の受難

§
 ベージュの髪をなびかせて、小柄な人影が帰路を急いでいた。

 華奢な肩、細い指、脚も細く、繊細な髪を肩元に揺らしている。トテトテと足早に、美少女然とした姿は夕焼けをまとってどこか儚い。
 大人しく賢い、長毛の猫を思わせる容貌。あどけなさを残す表情は、年齢不詳な雰囲気を醸し出す。150㎝にも達しない小躯は、触れただけで焼き菓子のように崩れてしまいそうにさえ見えた。

 それに声をかける、不逞の輩が一人。
「あの~、お嬢さん?」
 軽薄な声に呼び止められ、ふわりと振り向く小柄な影。
 大きな目で左右を見渡し、“自分?”という風に自身を指さした。
「そそ。ちょっとお話いいかな」
 長いまつ毛をしばたかせ、藍色の瞳が男を見上げた。大方のところは察したらしい。

 それから、ムッとする。

「僕、男なんですが」
「えっ?!」
 多分、彼の人生で一度もしたことのない顔だったのだと思う。浮薄な顔が間抜けに瞠目し、数人がこちらに振り返った。
「男?! 嘘だよね? あ、男除けの冗談? またまた~、脅かさないでよ~」
 やめてほしい。素っ頓狂な声を出さないでほしい。嘘はついてないし何か抱えてる訳でもない。ジト目で睨むけど、向こうはそれでもなお受け入れられずにいるらしい。

「服見てわかりませんか。男子です。ていうか高校生です」
「その声と見た目で男子高生は……」
「何だったら脱ぎましょうか?」
「い、いや、俺が勘違いされるから……!」
 すごく失礼なことを言われてる気がする。というか実際失礼だ。でも、頭一つ分、下手したら二つ分小さい小動物系少女に男子高生だと言われて、にわかに信じられる人はそういない。正直、慣れっこだった。
 これ以上は時間の無駄。何より、“好事家”というのはどこにでも、何に対してもいる。いきなり呼びかける時点で、自分にとってもこの人は要注意人物だった。

「……じゃあ、急いでるので」
 踵を返すと僕は、足早に去っていった。


 ⁂
 小学生の頃、女の子みたいな男子というのがいたと思う。

 線が細くて髪もサラサラと長い、中性的というには女性的な子。子供らしい顎の細さや目の大きさが祟って、到底男子とは思われない。女子に可愛がられつつ嫉妬され、男子にはぎこちなく扱われる。クラスに1人はいた子供達。
 たいていは、成長と共に骨格が変わる、雰囲気も変わる。何より、本人がなんとかしようとするものだけれど。

 どうにもならなかったのが、僕だった。

 ふと窓に映る自分に、ため息も出るというものだった。
「どうして……」
 いや、どうしてもこうしてもない。背が伸びなかった。以上。おしまい。それだけの話。公称150cmの体に筋肉はつかず線は細いままで、大きさからして男子ではない。顔のパーツがいいというのも考えものだった。髪を切っても、服を変えても、俺呼びしても運動しても男らしい趣味を始めても、どうしても見た目との不調和が目立ってしまう。僕はこの、小柄性の檻から逃げられない。

 そんなメス男子、高校じゃ浮いて当然だ。
 何より小さすぎるし、性別年齢不詳すぎる。高校生に女子小学生が紛れ込んでいるようなものだ。接しようがわからない子が多いみたいで、広く興味は引くけど深くは接しない、クラスの浮石みたいな存在になっていた。僕としても、誰も彼も自分より20㎝は大きい生徒たちはちょっと怖い。……そんなことを言っているから、余計振る舞いがおかしくなっていくわけだけど。

 憩いの場所は、唯一部室だけ。
 人の寄り付かない、静かな物置部屋。それを片付けて根城にした僕は、ようやく魂の平穏を得つつあった。
 ……最初は、他にも部員が使っていたのだけれど。僕と2人きりの時間に耐えられず、1人2人と足が遠のいていった。
 結果僕は、写真部室の小さな主だ。

 と、思っていたのだけれど。

「でさ? 生地ザラザラになっちゃって! レシピ通りに作ったのにだよ?」
 突然の笑い声に肩を振るわせる。少女の、快活な声だった。
「マリナ、それは分離って言うんだよ。卵、常温にした?」
 片やダウナーな少女の声。見れば黒髪の少女が、友人に静かに相槌を打っている。聞いているのかいないのか、眠そうにも見えるが、彼女はいつもこうだ。雪野という名前のごとく、静かに降る雪に似てどこか浮世離れしている。多分、お互い慣れっこなのだろう。事実、明るい茶髪の女子高生は気にも留めない。ただ「分離??」などと首をかしげるだけ。これが星宮さんという人だった。星と言っても、月というよりは太陽だ。
「簡単に作れるっていうから作ったのに。ショート動画なんだからこう、“まとめて焼くだけ!”とかじゃないの?!」
「そのレシピは完全に“まとめて焼くだけ”だよ、マリナ」
 それに星宮さんは、“え~?”と不服そうに体を揺らすだけ。そしてむっちりとした脚を組めば、スカートがめくれ上がってしまう。僕だって男子なんだけど。というか、先輩なんだけど。そんなのお構いなしだった。

 ……彼女たち新入部員が、本当に写真に興味があるかはわからない。そもそも自分も、部室が理由の半分ではある。ちなみに残りの半分は、撮っている間は観察者の側に回れるから。だから、それは全くの不問だった。
 でも、賑やかな中で本を読むには、僕の神経は少し細すぎた。
 
「ユミだって料理で失敗くらいするでしょ?」
「しない。私はマリナみたいに雑じゃないもん」
 星宮さんと雪野さんの緩急ある応酬が、意識を掴んで離さない。なまじ綺麗な声だから、騒音と思うこともできなかった。
 どうしよう。言うのも怖いけど、ここで立ち去ったら感じが悪い。何より、数少ない居場所が奪われてしまう。二人は別に悪いことはしていないし、これは僕の問題で……。
 
 頭がグルグルしてきて、抑えようとすればかえって思考がリフレインしてしまうようだった。とりあえず飲み物でも買ってこよう。というか、どこかに一度逃げなくちゃ。
 そう思って席を立った時。
「わっ?!」
 椅子が思いのほか音を大きく立て、辺りを静まり返らせた。……オーバーサイズの椅子から、半分飛び降りるように降りたせいだ。一斉に二人がこちらを見つめる。ちょっと、血の気が引いた。

 喉から、糸のように言葉が漏れた。

「あ、あの、……少し、静かに……お願いします」
 おずおずと、精一杯の笑みを浮かべて、優しく言う。後輩になんでこんなに気を遣わなきゃいけないんだろう。でも、大人びた女子高生二人組は僕にはちょっと怖かった。
「あ、はーい」
「マリナがわるい。うるさすぎ」
 意外に二人が素直で、ちょっと拍子抜けする。同時に、安堵もした。そうだ、こっちが気にしすぎていただけで、言えばみんなわかってくれるのに。また自分は、勝手に怯えて決めつけて……。

 少し反省しつつあった僕。けれど、二人はなぜかこっちから視線を外さなかった。
 大型犬と猫のような二人が、ジィっとこちらを見つめてくる。ぱっちり大きな目と眠たげな目、それが真正面から、僕を覗き込んでくるのだ。
「あの、な、なに……?」
 思わず後ずさりしそうになったところで、茶髪少女が一言。
「センパイ、ほんと、ちっちゃ……♪」
 クスリと笑ったのだ。
「うん。私たちと目の高さ、変わんないね」
 言われて気付く。座っているのに、二人と大して視線が変わらない。僕にしてみれば当然だけど、二人には新鮮なこと。僕が怖がって、なるべく接近を避けていたからだ。その分、女子高生たちの興味は一層こちらに向いた。
「……ロリ先輩♪」
「こら、マリナ、失礼だよ」
「でもほら、七草先輩の目おっきくて可愛いよ? 髪もサラサラ~♪」
 そう言って、僕の頭を撫でてくる後輩女子。あまりに自然に髪を触ってくるものだから、一瞬何をされているかわからなかった。
「……あ、こ、こら! 撫でない!」
「あ、手もちっちゃ~い♪ 本当にこれで先輩なんですかぁ? ホント、○女みたい♪」
 押し返そうとした手と手を合わせて、大きさ比べさせられる。どの指も一関節分は長い女性の手が、指と指を絡めるように握り込んで来た。
「やめてってばぁ……」
「七草先輩のこと、女子はみんな可愛いって言ってますよ?」
「だからって……」
「あはっ♪ 震えちゃってる♪ ユミも見て? 女の子みたいに泣いちゃいそう♪」
「ゆ、雪野さん……」
 助けを求めるように、黒髪少女に目を向ける。物静かで、落ち着いた雪野さんは頼みの綱だった。
 でも、雪野さんはじーっとこちらを見つめたまま。
 
「ここ……」
「ここ?」
「ここ、座る?」
 ぽんぽんと太ももを叩いて見せる。黒タイツをまとった、僕の胴ほどもありそうなむちむち太もも。座って潰れたそれはぶっとくて、一瞬、僕をドキッとさせた。星宮さんのクスクス笑いが聞こえなかったら、負けていたかもしれない。
「す、座りません!」
「ダメ、座って」
「わっ?!」
 無理やり後ろから抱き締められる。もろに倒れ込めば、後頭部を“むんにぃっ♡”と受け止める大きく柔らかいもの。硬直する。動いたら存在が確定する。だが、動かない訳にもいかなかった。腹筋をプルプルさせながら、必死に起き上がろうとした。
 そんな子供を、ぎゅうぅっと抱き締める黒スト女子。大人の腕力に○女同然の僕が敵うわけがない。豊満なバストに埋もれ、清楚な香りに包まれる。どこもかしこも柔らかくて、温かくて、甘い香りがして……。でも、こんなことで興奮させられたら敗北以外の何物でもない。ほとんどヤケだった。

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咲崎弧瑠璃 2024/01/26 17:47

雨四十日、ノアは傘を後ろ手に

 §
 絹糸に似た雨は曇天に鈍く輝き、やがてその重さも増していった。土砂降りだった。無防備な街に人に仮借なく、いつしか人影も消えていた。
 
 昼なのか夕方なのかも判然としない厚雲の下、二人して走る。鞄を頭の上に掲げるも意味がない。道もけぶるような雨。先行く少女の足取りだけが軽い。
 目の前、ふわりと舞う銀髪。細く長い髪は輝きを残し、雫を漂わす。それもやがて雨を含むと、タイツの太ももを黒く濡らしていった。
 そして、はたと足を止めると。
「先生、こっちです」
 くるりと振り返り、ノアが言った。


 ──私たちが軒先に入った途端、雨脚は一挙に強まった。

「すぐにはやみそうにありませんね」
 ハンカチで軽く髪をぬぐいぬぐい、空を仰ぐノア。空は鉛に似てのっぺりと暗く重い。ノアの白さが眩しいくらいだ。
「タクシーは……、出払ってるみたいだね」
「D.U.といっても広いですから。運転手もたいていは学校の子たちですし」
「ミレニアムの無人タクシーを引っ張ってくるべきだったかな?」
「ふふ♪ 業務委託ならご相談に乗らせていただきますよ?」
 私の横に立ち軽やかに言うも、まだ呼吸は荒いまま。呼吸を抑え、それでも細く鳴る息づかいが生々しい。雨宿りの、どこか隔絶された雰囲気に包まれ少女と二人。雨闇に浮き上がってくる存在感が、私を落ち着かなくさせた。

「先生も、こちらをお使いください」
「……ん? うん。ありがとう」
 ノアがハンカチを差し出す。ラベンダー色の瞳が見上げれば、髪先から雫が落ちた。すっかり濡れている。
「パーカーを置いてきたのは、失敗でしたね」
 私の視線に気づき、羽織っていたジャケットを脱ぐ。ボタンを開き、色合いを重くした袖から腕を抜くと軽く雨を払った。
 私も、何気なくその所作を見やっていて。
 ドキリとしたのは、濡れてシャツが透けていたから。普段ぶかぶかなパーカーとスーツをまとっている分、ずいぶん華奢に見えるシャツ姿。細い肩から背は汗でほんのり汗ばみ、胸元は雨に濡れてぴっとりとブラの黒さを浮き出させている。……ジャケットを丸く膨らませるほどのボリュームが、そのまま浮かび上がれば想像以上の大きさに目を驚かせない訳がない。意識しないでいた生徒の艶やかさに、慌ててかぶりを振る。

「……とりあえず、羽織っておいて」
 打ちつけな申し出に目をパチリとしばたかせ、それからかすかに微笑むノア。白状するようなものだと知りつつ上着を手渡す、教師の態度をどう思ったのか。受け取らず、澄ました顔で自分のジャケットを羽織る。参った。今日はノアが、いつにもまして大人びて見える。
 
「……天気予報だと、元から雨だったみたいだね。夏の豪雨は予測しにくいと思っていたけど」
「うちの技術を使ってますから」
「でも、見なかったんだ」
「ミレニアム生らしくないと思いましたか?」
「……むしろ、逆かな」
 ノアは特に答えるでもなかったが、間違いではなかろう。彼女の端末は、バッグの中にしまったままだ。
 ──奇妙な話だが、正確無比なミレニアムの気象予報を、ミレニアムの生徒はしばしば見ずにおく。より厳密に言えば、見なかったことにする。意外性がないからだ。自己成就する予言のような天気予報は、生徒には少々退屈だった。
 あながち、子供だからという理由だけでもない。研究の多くはその実単調な確認が多く、同時に研究者として予想外の結果を期待している。占星術に興味を持つヒマリは、ある意味ミレニアム生らしいミレニアム生と言えるかもしれない。

 であるからして、多くの生徒は一瞥した予報をノイズとして処理する訳だが。
 ……気付くのが、少々遅かったかもしれない。
「──待って、ノアが天気予報を忘れることなんて……」
 ただ、少女は全てを待ってはくれなかった。

「先生、お部屋はお近くでしたよね?」
 淡々と記録を綴る少女は、私が断れないことを知っていた。

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