息子の告白/3
「あなたの本当のお母さんは、理佐子さんと言うんだけれど、あなたが一歳くらいのときに亡くなったの。わたしは、理佐子さんとは昔からとても仲良くしていてね……理佐子がいまわの際に、あなたのことを、あなたと、あなたのお父さんのことを、わたしに頼みたいって言ってきたのよ。わたしにしか頼めないって。わたしは――」
「ちょっとタイム、母さん」
続けようとしたところを、息子に止められた久美子は、彼のどんな質問にも答えようと思った。詳しい経緯を知りたいことだろう。全て話すつもりである。
「これだけ、まず確認しておきたいんだけど、おれは、母さんの血を分けた息子じゃないんだね?」
「高典。確かに、わたしはそういう意味ではあなたの母親ではないかもしれないけれど――」
「いや、ちょっと待って。まず、それをちゃんと確かめておきたいんだ。どうなの?」
「さっき言った通りよ」
「じゃあ、おれたちの間に、血のつながりはない?」
「……ええ」
「まったく血縁関係は無いんだね?」
久美子は、胸が締め付けられるように痛むのを覚えた。こんなに何度も何度も他人であることが強調されると、これまで過ごしてきた日々が、何の意味も無かったかのように聞こえる。いや、もしかしたら、現に彼はそう感じているのかもしれない。
「もう一回だけ確認するけど、本当に本当に、血のつながりが無いんだね。おれと母さんの間には? もうすぐ四月だけど、エイプリルフールとかじゃなくて」
エイプリルフールだったらどんなにかよかったことだろう。しかし、これは、全て紛れない真実だった。久美子は、ゆっくりとうなずいた。すると、それを見た息子は、
「よし!」
と大きくガッツポーズするではないか。そうして、心底嬉しそうな顔を作った。久美子は、足元が覚束なくなった。床につけているはずの足先の感触が無い。ソファにつけている尻の感触もなくなった。
「か、母さん……?」
久美子は、知らないうちに涙を流していた。彼にショックを与えることは分かっていた。罵られることも覚悟していた。しかし、まさか、ガッツポーズを取られるとは思ってもいなかった。嘘をついていたことは確かに悪い。いかようにも謝罪するつもりである。だが、まがりなりにもこれまで育ててきた者に対してする所作がこれだとは。悲しさと情けなさが入り交じった気持ちが、久美子の大きめの瞳から溢れ出したのだった。