母の浮気/11
「す、すみません……奥さんのナカが気持ちよすぎて……」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、早すぎるよ」
「も、もう一回させてくださいっ!」
男の懇願するような声に、母は首を横に振った。
「もうおしまい。息子だっていつ帰ってくるか分からないし」
母はさめた声を出した。いつも弾むような楽しげな声しか母から聞いたことがない良太は、それが母の一面なのか、それとも、セックスがうまくない男には、女としては、そういう声を出さざるを得ないのか、判断がつかなかった。
男はがっくりと肩を落として母から離れると、母は、近くのティッシュ箱からティッシュを抜き取って、股間に当てるようにした。二人とも身支度が済むと、
「また来てもいいですか、奥さん?」
と男が未練がましい声を出したけれど、
「ご家庭を大事にしてください」
母は、抑揚の無い声で答えた。そういう声も初めて聞いた良太としては、そういう声を出すときの母の顔に興味が湧いたけれど、見られる角度では無かった。
母は、男を見送ったあと、リビングに帰って来なかった。耳を澄ませていると、浴室からシャワーの音が聞こえてきた。その間に、良太は、家に戻ってきた振りをした。リビングのソファに座っていると、シャワーから出てきた母は、タンクトップとショートパンツというラフな格好である。まともに、乳房の膨らみと、太ももの白さが見えて、良太はどぎまぎした。
「あら、いつの間に帰ってたの?」
不思議そうな声を出す母に、
「ちょっと前だよ」
良太は答えた。
「でも、どうやって家に入ったの? 玄関の鍵、かかっていたと思うけど」
「えっ……」
しまった、と良太は思った。今日は、横着して、押し入れから出てきて、外に回ることなく、そのまま玄関に靴だけおいてリビングのソファに座ってしまったのだった。家の鍵を持っていることもあるけれど、母が何らかの理由で外出する予定があるときに持たされるだけで、母がどこにも出かけないときは、人が家にいるわけだから、当然に鍵など持ってでかけない。そうして、今日は後者なのだった。
「あ、開いてたよ、玄関の鍵」
良太は、苦し紛れにウソをついた。
すると、母は、驚いた顔をして、
「え、うそっ!?」
と答えた。
「本当だよ」
良太は、はっきりとした声で答えた。一度ウソをついたからには、突き通すしかない。
「本当? かけ忘れちゃったのかな……」
母は、かけたはずだけどなあ、とぶつぶつ言いながら、息子の隣に腰かけた。
良太は、石鹸の匂いを嗅いだ。