母の浮気/24
「大丈夫ですか?」
「あ、は、はい、大丈夫です……そのお話は、もしかして……?」
「ええ、主人から聞きました」
「そうですか……いやあ、まさか、奥さんのお耳に入っているとは、お気を悪くされたら、申し訳ありません」
「気を悪くなんてしてませんよ。それよりも、どうなんですか? 本当にスワッピングしたいの?」
「奥さん、ぼくのことをからかっていますね?」
「そんなことないですよ」
「いーや、からかっていますよ。目が笑ってますから」
「もとからこういう目ですから。ねえ、聞かせてくれてもいいでしょ」
「弱ったな……」
「何も困ることなんて無いじゃないですか。ほんの冗談なんでしょ? だって、由里子ちゃんがいながら、わたしなんて……ねえ?」
「奥さんは、『なんて』なんかじゃないですよ。女性としてすごく魅力的です」
江藤さんのお父さんの声に、初めて艶っぽい色が現われた。
良太は耳を澄ませた。
「それじゃあ、スワッピングのお話は?」
母が立ち上がって、おそらく、江藤さんの隣についたことが、音で分かった。
「ぼくは本気でした。もちろん、それはぼくだけの希望ですが。ずっと、奥さんには惹かれていましたので。妻と子を持つ身で、何を言っているんだと言われたら、それまでなのですが」
「そうですか……」
二人の会話はそこで途切れて、リビングは静かになったようだった。そこに、ソファがきしむ音と、何かがこすれるような音が聞こえてくる。さらに、はあっ、はあっ、という喘ぎ声も聞こえてきた。
「わたしも、江藤さんに惹かれていました。夫と子どもを持つ身ですけど」
本当だよ! と良太はまたもやツッコミを入れたが、そんなことはどうでもよかった。交わりが始まったのである。あとは、早く二人が和室に来てくれることを願うばかり。しかし、そんな良太の願いをあざ笑うかのように、二人はなかなか和室にやってこなかった。何かしている音はするし、
「はあっ、ああっ……」
という母の喘ぎ声はするのだが、やってこない。もしかしたら、そのままリビングでするのだろうか、と良太は思った。そんなことになったら目も当てられない。ここから出て行って、そっと和室の戸の陰に隠れて二人の行為を見ることはできないか。そんなことを考えたが、それはさすがにリスクが大きかった。
「ああっ……江藤さん、続きは和室でしましょう、ね?」
良太は、心の中で、母に喝采を送った。