母の浮気/61
再来週の土曜日は、久司の父は出張で家を空けて、久司も友達の家に泊まる予定になっているという。昼から家には誰もいなくなるので、そのときにということらしかった。良太は、一も二も無く同意した。そうして、
――マジか……。
と降って湧いたような話に、本当にこれは夢ではないのかと改めて疑った。念のため、ほっぺたをつねってみたけれど、ちゃんと痛かった。
良太はベッドの上に、ごろんと横になって、めぐりあわせの奇妙さをしみじみと感じた。だって、そうではないか。久司が、うちの母親とシて、そうして、良太が久司の母親とするなど、これでは、まるで母親の交換である。
――まさか、二人が仕組んだことじゃないだろうな……。
あまりのタイミングのよさに、良太はそんなことを考えてみたが、母は、久司に告白されたとき、確かに驚いているように見えた。いや、見てはいないので、聞こえた、と言った方が正しいか。もしも、あれが演技だとしたら大したものである。
――まあ、仮にそうでも、だからって言って、どうってこともないか……。
童貞を卒業させてもらえるのである。文句が言える筋合いではない。それにしても、童貞卒業。何かの流れで唐突に訪れるものだと思っていたそれが、きちんとした予定に組み込まれるのだから、それもそれで、妙な気持ちになる良太だった。
その晩、眠りについた良太は、夢を見た。
優美な体つきの女性と、行為をしている夢である。二人はからまりあい、いじりあいながら、たゆたうような時を過ごして、もう少しで達するというところで、良太は女の顔を見た。
それは、我が母の顔だった。
「良太、来て……」
母の促しに従って、良太は、腰を動かした。
「あっ、あっ、あっ、あっ、いいっ、良太、はあんっ!」
母は目尻に涙を浮かべながら、快楽を貪っていた。良太は、女に快感を与えられる自分に誇りを感じ、さらに、母が喜んでくれることを、心から嬉しく思った。
「愛しているよ、母さん」
良太が、母に言うと、母は手を伸ばして来て息子の頭を抱えて、キスをしてきた。良太は上下の唇で快感を得ながら、どくどくどくどくっ、と絶頂に達した。そうして、その瞬間、目を覚ました。
まだ明るくなっていない部屋の中で、良太は、自分が夢を見ていたことを悟ると、
――やっちまった……。
心の底から、がっかりした気持ちになった。夢精自体は気持ちいいのだけれど、問題はその後の処理である。これほど面倒なことはない。良太は、月曜の朝から、一仕事しなくてはならない自分を憐れんだ。