官能物語 2020/09/04 14:00

母の浮気/62

 最悪の出だしになった週だったが、勉強に部活に、とりあえず精を出すことができて、大過なくすごすことができた週になった。これで、例の日まで、あと二週間となったわけである。週末を迎えた夜、

「あれ、父さんは?」

 夕餉の食卓に父がいないことを、良太がいぶかった。残業で遅くなるのだろうかと思ったところ、

「何言ってるの、今日と明日は出張で、月曜日に帰ってくるって、昨日言ったでしょう」

 母に呆れた声を出された。
 そう言えば、そんなことを言っていたような、言っていなかったような気がした。この頃、父の話をあまりまともに聞いていなかった。悪いとは思いつつも、友達に聞いても、父親への対応は大体そんなところだから、それほど悪いとも思わなかった。

 さて、父がいないということは、今夜は、母と二人きりということである。オナニーを見られて、なおかつ、その夜の夢精の相手として登場したことで、どうも、母とはこの頃うまくなかった。とはいえ、久司のように、もともと、母親とべたべたしていたわけではないので、なんということもないと言えば言えるのだが、やはり、家の中で意識する人がいるというのは、ぎくしゃくとするものである。気まずい。

「明日何か予定あるの、良太?」
「別に無いけど」
「じゃあ、お母さんとデートしようか」
「はあっ?」
 
 良太は、箸の先に載せていた白いご飯を、取り落としそうになった。

「デートよ、デート。二人でどっか出かけようよ」

 良太はすぐに断った。「やだよ」

「なんでよぉ。映画にでも行こうよぉ」
「母親と一緒に出かけてる所なんて見られたら、マザコン扱いされるじゃないか」
「別にいいじゃない。お母さんが好きだって、悪いことないでしょ?」
「ないわけないだろ」
「じゃあさ……お母さん、変装するから!」
「はあっ!?」

 良太は、再び、声を上げた。

「若い子の格好するわ。まだまだイケてるでしょ、お母さんも。そうすればさ、良太も、お母さんと一緒にいるところを見られても、なんか年上のお姉さんとデートしているように見えて、友達からも嬉しがられるんじゃない?」

 勘弁してくれ、と良太は思った。そんなことしたら、良太にはマザコンの、良太の母にはコスプレイヤーの称号が与えられて、二重の被害となるだけの話である。

「お母さんだって、バカにしたもんじゃないと思うけど……現に、今日ナンパされたし」

 母がボソッと言ったことを、良太は聞き逃さなかった。

「えっ、どこで?」
「スーパーで、大学生くらいの男の子に。『いつもいいなあって思って見てました』って。そう言って、連絡先教えられたの」
 
 母はどこか得意げな顔である。
 その瞬間、良太の胸に、カッと燃え上がる思いがあらわれた。

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