官能物語 2020/11/28 14:00

母さんでもいいや/3

 里穂は、しっかりと息子に抱き締められた。男のたくましい体に抱かれた里穂は、思わず相手が息子だということを忘れて、うっとりとしてしまった。しかし、もちろん、そうしているわけにもいかないので、

「拓実、寝ぼけないで」

 と声をかけようとしたところで、彼の手が自分の尻たぶをぎゅっと掴むのを感じた。

「あんっ!」

 里穂は、思わず声を上げてしまった。男の手に尻をつかまれるなど、ここ10数年絶えて無い。また、うっとりとしかけたところで、相手が息子なのだということをもう一度、すばやく自分に言い聞かせると、

「た、拓実、起きなさいっ!」

 若干、どもりながら、しかし、はっきりとした声をかけた。すると、息子は、目を開いたようである。ホッとした里穂だったが、次の瞬間、ただでさえ近かった息子の顔がさらに近づいてきて、

――ええっ!

 唇が重ねられるのを感じた。驚いて硬直する母親の隙をつくような形で、息子は、舌を入れてきた。里穂は、体から力が抜けるのが分かった。キスも随分と久しぶりであれば、ディープキスももちろんそうである。

 里穂は、息子の舌先がまるで生き物のように動いて、自分の口内のいたるところに当てられるのが分かった。相手は息子であるにも関わらず、その気持ちよさは無類であり、里穂は、意識が飛びそうになっているのを認めた。頭の奥にピンク色のもやがかかって、何も考えられなくなりそうである。

――いけないっ!

 里穂は、残っていた理性を総動員して、息子の体を押した。そうして、自分の体を引き離した。

「お、起きなさいっ、拓実!」

 やはりどもってしまいながらも、なんとか声を上げる。
 すると、寝ぼけ眼がはっきりとして、

「母さん……?」

 と訊いてきたので、ホッとした里穂は、

「起きた?」

 と応えてから、この状況は彼にとって気まずい状態になるのではないかと思った。なにせ寝ぼけていたとはいえ、母親を抱き締めて、キスしてしまったのだ。男の子にとって、トラウマ級の出来事になるのではなかろうか。

 とはいえ、あのままディープキスされ続けていたら、自分の方がどうにかなってしまいそうだったので、やむを得ない。やむを得なくても、息子に心理的ダメージを与えたくない里穂は、どうすればいいのだろうかと迷っていたところ、

「母さんだったのか」

 息子の声を聞いた。
 その声は、特にショックを受けているものではなさそうであるので、

「カノジョとの夢でも見ていたの?」

 軽く返すことで、この事実自体の意味合いを軽くしようと思ったところ、

「ま、母さんでもいいや」

 と不思議な言葉を聞いた。
 母さんでもいいとはどういうことだろうか、と疑問に思ったそのときに、里穂は、再び息子の顔が迫り、唇が重ねられるのを感じた。

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