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2021年 07月の記事 (19)

官能物語 2021/07/25 10:00

美少女のいる生活/24

 約束した時間までに家に戻ると、

「お帰りなさい!」

 パタパタと近寄ってきた美咲が、薄手のパジャマ姿である。

「今日、色々荷物が届いたんです」

 そう言われた貴久が、彼女の部屋を見に行くと、「色々」と届いた割には、部屋の中はがらんとしていて、あまり変わらなかった。

「クロゼットの中に入れてありますから」
「何が来たの」
「主に服と下着ですね」
「やっぱりベッドがいるな。あと机」
「ベッドはいりません」
「布団派だから?」
「それもありますけど……わたし、昨晩みたいに、貴久さんと一緒に寝させてもらったらダメですか?」
「えっ、これからずっと?」
「はい」
「じゃあ、よっぽどベッドがいるな」
「え……」
「あれじゃちょっと狭いだろ。もう少し大きなやつに買い替えよう」
「いいんですか!?」
「約束の週末まで、おれを襲わないという約束をしてくれたらな」
「お、襲ったりしません!」
「本当に?」
「……多分」
「次の休みにベッドを見に行こう」
「はい!」

 貴久は、先にシャワーを浴びてすっきりとしたあとに、用意された夕飯を食べた。リクエストに応じてくれた純和風のメニューは、体に優しいものである。その中の一品をすすりながら、貴久は言った。

「しじみの味噌汁とは豪勢だな」
「わかめとお豆腐にしようかなって思ったんですけど、冷凍しじみっていうのが売ってて、そもそもお買い得な上に半額のセール中だったので、つい買っちゃいました」
「ああ、そうだ、そうだ。その買い物なんだけど、今日の分はあとで返すから。あと、そのうち、美咲ちゃん用のクレジットカードが届くから、身の回り品はそれで決済するようにしてくれ」
「えっ、でも、それって、貴久さんの口座から落ちるんじゃないですか?」
「そうだよ」
「そんなのいけません。わたし、自分の生活費は自分で払いますから」
「それは絶対にダメだ。二人で生活するために必要なものは、おれが払う。そのくらいの甲斐性はある。これに関しては議論は無しだ」
「……分かりました」
「おれたちいずれ結婚するなら、家計管理は美咲ちゃんに一任するから、その予行演習だと思えばいいんじゃないかな」
「あっ……はい!」

 貴久は、今日、婚約者がいるということを会社で伝えたというエピソードを話した。そうして、帰りに、それを全く信じていない女性の同僚に飲みに誘われたことも話した。

「その人、綺麗な人ですか?」
「美咲ちゃんほどじゃないよ」
「ひえっ」
「何だよ、ひえって」
「何でもないです、驚いただけです。そういうことよくあるんですか?」
「たまにね」
「全部断ってください!」
「了解」

 貴久は、その日も美咲とベッドを共にした。美咲からは芳香が漂って、まるで、花を抱いて寝ているようだと、貴久は思いながら眠りについた。

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官能物語 2021/07/23 10:00

美少女のいる生活/23

 外に出ると、空気が輝いて見えた。それは、春という気候によるものか、それとも自らの心持ちが華やいでいるからかは分からないが、おそらくは後者のような気がした。

 会社までは、最寄り駅まで歩いてから、電車に乗り、さらにそこから歩く格好になる。せいぜいが40分くらいの道行きであって、行き帰りで、1時間20分、もったいないと言えばもったいない時間だが、片道2時間かけてくる同僚もいることを思えば、恵まれている方だろう。

 毎日毎日満員電車に揺られて、出勤する自分を憐れんだことは無いけれど、何だかなあと思ったことはいくらでもある。しかし、そのおかげをもって、いくばくかの蓄えが持てて、少女を家に迎えられたわけだから、それはそれでいいことなのかもしれなかった。

 時間は未来から過去に流れているのだと、あるビジネス書に書いてあった。未来に何をするのかということで、過去の意味が変わってくるのだと。これまでは、何のスピリチュアルだと思って鼻も引っかけなかったけれど、美咲を家に迎えるという未来が、満員電車に揺られて仕事三昧という過去を肯定してくれた今となっては、まったくその通りだ、ビジネス書もバカにできないと思うのだった。

 無事会社に到着して仕事をしていると、同僚から、

「何かいいことでもあったのか。鼻歌でも歌い出しそうだぞ」

 と突っ込まれた。どうやら、かなり機嫌良く仕事をしているらしかった。

「もしかして、彼女でもできたんですか?」

 別の同僚からのツッコミに、

「いや、この年だよ。もしもできるとしたら、婚約者だろ」

 と答えてやった。
 そんな風に言うと、返って信憑性が無くなったということで、みんな興味を無くしたようである。それにしても、もしも、美咲と結婚ということになったらどうなるだろうか。今時、年の差婚など珍しくもないけれど、それはあくまで他人の話であって、それが自分の身の上に起こったら恥ずかしいと思う気持ちはあるのだった。

――まあ、恥ずかしいときは、恥ずかしがればいいか。

 貴久は、そんなことを適当に考えながら、5時にきっかりと仕事を終えた。貴久の会社では、基本的に残業を許していない。勤務時間内で仕事を終えられるように自己研鑽を積めというのが社訓の一つなのである。まことに有り難い会社である。

 会社を出ようとすると、後ろから声がかけられた。
 同僚の女性は年下の妙齢美人である。

「お夕飯を一緒にどうかと思いまして」
「申し訳ないけれど、約束があるんだ」
「じゃあ、明日はどうですか?」
「実は明日もなんだ」
「婚約したって本当なんですか?」
「すでに同棲もしているよ」
「ええっ!」

 びっくりする彼女を残して、貴久は帰路を取った。

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官能物語 2021/07/21 14:00

美少女のいる生活/22

 目が覚めると、一人だった。
 ベッドに起き上がった貴久は、昨夜はあのまま、美咲を腕に抱いた状態で何となく寝てしまったのだということに気がついた。時刻は6時30分である。小用を足すために部屋を出ると、

「おはようございます」

 と美咲の元気の良い声が聞こえた。
 どうやら、朝ご飯を作ってくれているようだった。

「あっ、そうか、言わなかったか。おれ、朝は食べないんだよ」

 貴久は言った。中年にさしかかってから、一日三食を食べるのがつらくなって、ここ数年は、一日二食で過ごしているのだった。

「そうなんですね……」

 美咲は、しまったという顔をした。昨日久しぶりに会ったばかりではあるが、何にも動じそうにない彼女がそういう顔をすることがあるというのが新鮮である。

「せっかく作ってくれたんだし、今朝は食べることにするよ」

 見ると、食卓に並んでいるのは、サラダにスープにハムエッグといった軽く食べられそうなものばかりである。

「でも、それで体調が悪くなったら」
「そんなことにはならないと思うけど」
「じゃあ、お昼のお弁当もいりませんか?」
「作ってくれたの?」
「はい」
「もらうよ」
「すみません、先走ってしまって」
「何にも悪いことなんてないよ。ありがとう」

 貴久は、小用を足して、顔を洗った。朝から何もしなくても、テーブルがセッティングされているというのは、ちょっとした魔法である。そうして、もちろん、それは魔法などではなくて、人の手によるものに違いなかった。

「作ってくれてありがとう」
「どういたしましてです」

 朝食の席に着いた貴久は、美味しく朝ご飯をいただくと、彼女に部屋の合い鍵を渡しておいた。

「仕事は5時に終わるから、6時には帰ってくるよ」
「お待ちしてます。今夜は何か食べたいものがありますか?」
「今日はおれが作るよ。昨日作ってもらったんだから」
「でも、今日は貴久さん、お仕事でしょう。わたしは、お休みですから、わたしが作ります」
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」

 貴久は、和食をリクエストしておいた。

「了解しました。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「あ、貴久さん」
「ん?」
「『行ってらっしゃいのチュウ』は、まだ早いですか?」
「早いな。まずは、普通のチュウをしてからじゃないと」

 貴久が真面目な顔で返すと、美咲は頬を赤らめた。

「来週の週末が楽しみです」
「おれもだよ」

 貴久は、上気した顔の少女に見送られて玄関を出た。

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官能物語 2021/07/20 10:00

美少女のいる生活/21

「じゃあ、そろそろ寝るか」

 貴久が言うと、まだ10時前だったが、美咲は素直にうなずいた。
 貴久は、美咲の部屋には客用の布団を敷いてやった。

「次の休みの時にでも、ベッドを買いに行こう」
「わたし、お布団好きですよ。家でも布団でしたし。敷いたり畳んだりするのが好きなんですね」
「まあ、でも、ここフローリングだからなあ。床の上に布団ってどうなんだろうか」
「大丈夫だと思いますけど」
「気が変わったら、言ってくれ。じゃあ、お休み」
「お休みなさーい」

 彼女と別れ、寝室のベッドに横になった貴久は、ふうっと息をついた。一人で暮しているところに、もう一人を迎えたわけだから、それなりに疲れているのは当然である。しかし、それは一仕事終えたあとの心地良い疲れとでも言うべきものであって、不快なものでは全く無かった。これから毎日、このような疲れを得て眠りにつくのかと思うと、悪くない気分である。

 うつらうつらとし始めたときに、ドアにノックの音がして、引き戸が開かれたことに貴久は気がついた。

「美咲ちゃん?」
「怖かったらいつでも来ていいって言いましたよね」
「怖かったの?」
「全然」
「おいで」
「はい」

 貴久は、彼女をベッドの中に入れた。一人用ではあるが、ちょっと広めのベッドなので、二人で寝られないこともない。貴久は、少女を腕の中に入れた。

「大胆な子だな、まだ初日だぞ」
「だって、時間は待ってくれませんもん」
「なるほど、それはその通りだ」
「あの、貴久さん」
「ん?」
「わたしって、女の子としての魅力ありますか?」
「もちろんだよ。今だって襲いかからないように、最大限の自制心を発揮しているんだ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「ふふっ、よかった……あの、これだけは言っておきたいんですけど」
「なに?」
「わたし、貴久さんのこと、お父さんみたいだとか思っていませんから」
「ん?」
「父に甘えられなかった分、貴久さんにお父さん代わりになってもらって甘えたい的な願望、ありませんからね」
「そんなこと考えもしてなかったよ」
「じゃあ、よかったです」

 貴久は、こうして腕の中にしていてもなお、彼女のことを抱こうとは思えなかった。約束の日に本当に彼女を抱けるのかどうか、大いに疑問である。

「ていうか、その『お父さん』だけど、今回の件は、お父さんに話しておいた方がいいのかな」
「絶対やめてください。わたし、景子さんとの件について全く聞いてなかったんですから。今度はわたしがやり返してやるんです」
「あとから知られたら殴られそうだな、おれ」
「なら、わたしがやり返してあげます」
「ははっ、美咲ちゃんなら、やりそうだな」
「貴久さん」
「ん?」
「もっとくっついてもいいですか?」
「もっと?」
「はい、もっとです」
「いいよ、おいで」

 貴久は、彼女のしなやかな体つきと花のような清らかな香りを感じた。そうすると、途端に頭の奥がスパークするようになって、体の奥がうずくようになった。どうやら、ついさっきの思いを訂正しなければいけない必要性があることに、貴久は気がついた。

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官能物語 2021/07/18 19:00

美少女のいる生活/20

 貴久は反応に困った。それはそうである。以前に女の子から、自分が処女だなどと告白されたこともなければ、そんなことを告白される日が来るということなど予想だにしていなかった。しかし、大人として何かしらの反応を見せなければいけない限りは、

「これまでカレシいなかったっていうのは、本当だったんだ」

 ととりあえず無難――であると思われる――答えをすることにした。
 美咲はムッとした顔を作った。
 貴久はドキリとした。
 どうやら、何か応答を間違えたようである。

「わたし、今、すごく恥ずかしい思いをしています」
「そうだろうね。おれも自分が童貞だって言わなければいけないとしたら、恥ずかしいと思うよ」
「そういう告白を自分からしたことは?」
「童貞だったとき?」
「はい」
「いや、無いな」
「じゃあ、想像してみてください。どのくらい恥ずかしいか」

 貴久は想像してみることにした。それなりに恥ずかしい気がしたが、童貞だったときのことなど随分と昔のことである。その頃のことを想像してみようとするのは、ちょっと無理があった。

 美咲はその涼やかな目元を厳しくした。

「その恥ずかしさを思い出したとところで、もう一度、わたしのさっきの発言に対する答えを許可します」
「了解です」
「では、どうぞ」
「……おれのために取っておいてくれたんだな?」

 貴久は、おそるおそる少女の顔を見た。
 彼女は、真面目にうなずいた。

「いつにしますか?」
「『いつ』とは?」
「わたしの処女卒業の日です」
「この前、高校を卒業したばかりだろ」
「ごめんなさい、貴久さん、わたし今冗談に付き合っている気分じゃないんです」

 処女であることの告白などという行為が冗談では無いのだとしたら、今後いったい何を冗談と呼べばいいのか分からなくなるだろうと貴久は思ったが、口には出さなかった。

「それで、何、卒業?」
「そうです。つまりは、わたしと貴久さんが結ばれる日です」
「おれが、美咲ちゃんと」
「そうです!」

 貴久は、じーっと美咲を見た。
 どこからどう見ても可憐な少女である。

「やだ……そんなに見られたら照れちゃいます……」

 ちょっとノリがいいところが玉に瑕だが、そうは言っても、それほどの瑕では無いばかりか、その瑕さえも愛おしいと思わせる魅力がある。しかし、その魅力的な少女と自分が交わるという図は、どうにもイメージできなかった。

 というかしたくない。美しくない。何やら醜悪である。美女と野獣みたいなものだ。

 とはいえ、彼女が自分のことを好きと言ったからには、当然にそこまでの行為を含んでの「好き」なのだろうけれど、そういうのは、たとえそうなるとしても、もっと時間を置くものではないだろうか。エッチの、しかも、初体験のリザーブなど聞いたこともない。

「入学式がある週の週末でどうですか?」
「美咲ちゃん」
「『はい』か『いいえ』で」
「いいえって答えたらどうなるんだよ」
「その次の週末を推します」
「分かった」
「えっ……」
「えって何だよ」
「疑っているわけじゃないんですけど、何かごまかそうとしてませんか?」
「そんな男だったら、きみが処女を与えるに値しない男だろう。他のやつを探した方がいい」
「じゃあ?」
「もらいうけるよ。きみの処女を」
「ありがとうございます!」

 美咲は、契約が取れた営業ウーマンででもあるかのように、深々と頭を下げた。

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