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2021年 07月の記事 (19)

官能物語 2021/07/17 15:00

美少女のいる生活/19

「あっ……」

 美咲が小さく驚きの声を漏らす。

「男が可愛い女の子にすることって言ったら、決まってるだろ」

 貴久は、腰に回した腕に力を込めると、美咲をじっと見つめた。

「えっ……えっ……」
「目を閉じて、美咲ちゃん」
「ま、待ってください……まだ、心の準備が……」
「いいから」

 美咲は、素直に目を閉じた。
 貴久は、目を閉じて心なし唇を突き出すようにしている彼女の、そのおでこに、もう一方の手で軽くデコピンした。

「えっ!?」
「こういう目に遭うんだよ」
「ど、どういう目ですか。からかわれる目?」

 美咲はムッとした顔をした。
 貴久は少女の細い腰から腕を放した。

「わたしのドキドキを返してください!」
「ドキドキしてもらえるとは光栄だな」
「わたしが貴久さんのこと好きだってこと、信じてないんですか?」
「いや、信じているよ、モチロン」
「本当は?」
「ちょっと信じられない部分もある」
「ちょっと?」
「いや、かなり」
「シャワー浴びてきてください。そのあとに、お話があります」
「体のこと?」
「そうです」
「分かった」

 貴久は、勧められたとおりにシャワーを浴びた。そうして、どこかわくわくとしている自分を感じた。これから素晴らしいことが起こるような、そんな感覚である。こんな感覚は久しぶりだった。小学校の時以来かもしれないと思えば、随分と平凡な人生を歩んできてしまったものだと、げんなりした。

 シャワーから上がって、Tシャツと短パンを身につけて、ダイニングテーブルに戻ると、相変わらず露出が多い少女が、

「炭酸水飲みますか?」

 と訊いてきたので、一杯いただくことにした。炭酸水にレモンジュースを少し入れてくれたものを飲むと、シャワーをしたことと相まって、体が爽快になるようだった。

「さて、と。じゃあ、話を聞こうか」

 貴久は、ダイニングテーブルで彼女と向かい合った。彼女の表情は、これまでのものとは違って緊張しきっている。これはよほどの病状なのだろうと、貴久は考えた。そんな病状がどうして父親である友人にバレていないのか不思議であるが、まずは話を聞いてみてからのことだった。

「あの……」

 美咲は、口を開きかけて、すぐに閉じた。

「急がなくてもいいよ」
「はい……約束していただけませんか、貴久さん」
「分かった」
「まだ何も言っていませんけど」
「どんな約束でも守るよ。おれに無茶な約束はさせないだろうって、美咲ちゃんを信頼している」
「これから言うこと、誰にも言わないでもらえたらと思って」
「それはお父さんにも?」
「ち、父にですか!? もちろんです! 一番言っちゃダメな人です!」
「そうか……ショックを与えるからかもしれないからだね」
「ショック? まあ、ショックはそれほどではないと思いますよ。『そうなんだ、ふーん』くらいで」
「その程度のことなの?」
「わたしにとっては違います!」
「なるほど……」

 何のことやら貴久は、さっぱり分からなかったが、すぐに分かることになった。

「わたし、処女なんです」

 美咲が、思い切った声を出した。

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官能物語 2021/07/16 10:00

美少女のいる生活/18

 買い物袋を下げて部屋に帰ってくると、

「それじゃ、作りますね!」

 と張り切った美咲に、貴久はエプロンを与えた。

「クマのプリントがなくて悪いけど」
「我慢します」
「何か手伝えることは?」
「特に何も。テレビで相撲でも見ていてください」
「相撲は別に好きじゃない」
「じゃあ、ゲームするとか、本を読むとか、お好きに」
「了解」

 貴久は、もう何度も読んでセリフを完全に覚えてしまっている、アクション漫画を持ってきて読みながら、美咲が料理をしている姿を見ていた。さすがにこなれた動き方をしている。おそらく、料理だけではなく、家事全般できるのだろう。

 小一時間ほどで、料理は完成したようだった。

「終わりました!」
「お疲れ様」
「貴久さん、わたし、シャワー浴びてきてもいいですか?」
「もちろん」
「それで……着替えのTシャツお借りしてもいいですか?」
「ああ、いいよ。じゃあ、ちょっと待って、確かまだおろしてないのがあったはずだから」
「わたし何でもいいですよ」
「いや、これはこっちの問題なんだ。汗染みができていたり、加齢臭がするものを、女の子に渡したくない」
「結構、繊細ですね」
「お年頃なんだ」

 貴久は、まだ身につけていないグレーのTシャツを彼女に渡した。

「下はどうする? 短パンでも履く?」
「でも、これ大きいから、チュニックみたいになりません?」
「ならないと思うけど」
「やってみます」

 貴久は、彼女がシャワーを浴びている音が聞こえてくると、それにもまた奇妙な気持になった。自分がここにいるのに、シャワーの水音が聞こえるというのは、つまり、自分以外の人間がここにいるというそのことだった。当たり前。

 その当たり前に慣れないこともまた当たり前だった。二人で暮すことになってから、まだ半日ほどである。これに慣れる日が来るのだろうか、というか、これから彼女と一緒に暮していくということにどうにも現実感がなかった。

「さっぱりしました、貴久さんもシャワーどうですか?」

 そう言って現われた彼女は、下着の上に貴久のシャツを身につけた格好であって、白い太ももを惜しげ無くさらしていた。ややもすると、ショーツが見えそうなほどである。

「大丈夫そうですね」
「どこがだよ!」
「気になります?」

 美咲は、シャツの裾をちょっとめくるようにした。

「ストップ」
「冗談ですよ」
「キミはちょっとは警戒した方がいいぞ。随分とおれのことを信頼してくれているようだけど」
「警戒って、貴久さんに?」
「そうだよ」
「どうされちゃうんですか、わたし?」

 貴久は美咲に近づくと、少女の腰に自らの腕を回すようにした。

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官能物語 2021/07/13 11:00

美少女のいる生活/17

 夕食の買い出しに、もう一度出かけるということになって、貴久が美咲を伴って部屋を出ると、マンションの同じ階の住人に出会った。20代半ばほどの彼女は、一人暮らしの会社員のようであって、いつもはパンツスーツ姿でキメているけれど、今は春めいた薄手のブラウスにスカートという格好だった。

「こんにちは」

 愛想よく挨拶してくれる彼女に対して、貴久は、美咲のことを紹介した方がいいのか考えたが、彼女とはそれほど親しいわけでもない上に、話が複雑なのでやめておいた。もしも、彼女から、

「姪御さんですか?」

 などと訊かれるようなことがあれば、そうです、と適当をやろうかと思ったが、特に訊かれることもなかった。
 貴久は、一緒にエレベーターに乗って下まで行き、彼女を先に下ろした。

「ありがとうございます。失礼します」

 そう言って、立ち去る彼女を見送った貴久は、隣から軽く美咲に体をぶつけられた。

「どうした?」
「貴久さん、デレデレしてましたよ、さっきの人に」
「いや、してないだろ」
「してました」
「そうかなあ」
「鼻の下伸びまくってたじゃないですか。ちょうどあの人、景子さんくらいの年ですし。狙ってません?」
「おれは何も狙ってない。キミに狙われたんだ」
「でした、でした」

 マンション前の道はゆるやかな坂になっている。

「さっきは下っていったけど、今度は登っていこう。こっちにも、スーパーがある」
「はい」
「ビーフストロガノフって手間じゃないの?」
「材料だけあれば簡単ですよ」
「作るの見てようかな」
「どうぞ、どうぞ」

 坂を登り切ると空が開けて、その下に、大き目のスーパーがあった。貴久は美咲を連れて、店内に入ると、カートを押す役目を謹んで承った。カゴに、美咲が食材を入れていく。勝手に大がかりな料理だろうと思っていた貴久だったが、ビーフストロガノフの食材は、驚くほど少なかった。

「もちろん、本格的にやろうとすればもっと材料が必要なのかもしれませんけど、少なくとも今のわたしには無理です。精進します」

 美咲は正直なことを言った。店内を一回りすると、会計で財布を出して自分で払おうとしたので、

「ストップ、おれが払う」

 貴久はクレジットカードを出した。

「でも――」
「『でも』は無しだ。とりあえず、こういうことに関するルールを、ビーフストロガノフを食べながらでも決めないとな――あ、すみません、そのカードで会計をお願いします。はい、一回払いで」

 貴久がレジの女性に言うと、彼女はすぐにそれに従ってくれた。

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官能物語 2021/07/12 10:00

美少女のいる生活/16

 モンブランを食べ終えた貴久は、食べ終える前とは異なった世界線にやって来たにも関わらず、どうにもそんな感じではなかった。美咲のことはきちんと考えているつもりだが、やはり、あまり現実感がないのである。彼女が大がかりな冗談をやっているという可能性も捨て切れない。

「お皿、片付けますね」
「ありがとう」

 シンクで、鼻歌を歌いながら、洗い物をする彼女を見ながら、この光景が毎日のものになるだけではなく、溌剌とした美しさを身にまとう少女が自分のものになるということに関する現実感はやはり無かった。そんなもんあるわけない。

「夜はどうする? 転入祝いに外で食べてもいいかなって思ってたんだけど」

 洗い物が終わった彼女に訊くと、

「お昼も外だったのでもったいないです。わたしが作りますから、あとでお買い物行きませんか? 何でも好きなものを言ってください、貴久さん」

 と答えた。

「キミは家政婦じゃない」
「はい、妻候補でーす」

 美咲は元気よく手を挙げて、

「あっ、そうだ、あと、パジャマも買いたいです」

 と付け加えた。

「何にも持ってないので。明日届くと思うんですけど……あっ、そうだ! 貴久さんのTシャツでも借りて、パジャマ代わりにさせてもらおうかな」
「キミは経済観念がしっかりしているな」
「これも、結婚のために鍛えたところがあります。まずは何を置いてもお金が無いと始まらないので」
「なるほど」
「あと……もう一つ、すごく大事なお話があるんです、貴久さん」
「結婚以上に?」
「ある意味では」
「ええっ……どこか、体でも悪いのか?」
「まあ、ある意味ではそうです」
「お父さんからそんな話聞いてないけどな」
「父には話していませんので」
「そんなことをおれに?」
「はい」
「いいのか?」
「もちろんです」

 自信ありげにうなずく彼女ほど、貴久は自信が持てなかったが、まあ報告すべき事であれば、友人に報告すればいいと思った。もしも自分の胸の内にとどめておけることであればとどめておけばいい。子どもとはいえ、すでに大学生ということであれば、親に対して秘密の一つや二つを持っていなければ、その方が珍しいくらいのものだろう。

 それから少しして、二人は買い物に出かけた。特に何を食べたいと言うこともなかった貴久は、

「じゃあ、ビーフストロガノフ、作ります!」

 と言う彼女に任せることにした。

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官能物語 2021/07/11 23:00

美少女のいる生活/15

「絶対に冗談ではないです! 本気も本気、本気の108乗です!」
「108って、煩悩の数じゃないか」
「煩悩の塊です、わたし!」

 美咲は席を立ち上がって、宣言した。

「なんのカミングアウトだよ」
「本当にいいんですか? わたしはクーリングオフは効きませんからね、返品不可ですよ!」
「きみを誰にも渡す気は無いよ」

 貴久が言うと、美咲は頬を染めた。そのあと、顔を横に振ってから、

「デレデレしている場合じゃないわ。お父さんに報告しないと!」

 と言った。

「まあ、待て待て、ちょっと落ち着けよ、美咲ちゃん」
「落ち着いていられませんよ。今、プロポーズを受けてもらったんですよ! これがどうして落ち着いていられるんですか? 貴久さんにだって、そういう経験あるでしょ!?」
「んー、まあ……」
「えっ、あるの、なんで? 誰に? 誰から? わたしというものがありながら!」

 貴久は、じーっと美咲のことを見てやった。
 彼女は、こほんと咳払いをした。

「あの……本当にいいんですか? わたし、冗談をやっているように見えるかもしれませんけど――」
「見えるな」
「でも、冗談じゃないです。ずっと好きだったんです、貴久さんのこと」
「信じてるよ」
「はい!」
「まあ、婚約はいいけど、とりあえずキミには大学生活がある。だから、それを優先させないといけない」
「結婚よりもですか?」
「結婚ていうのは、自立した個人が互いをパートナーとして認め合うことだ。キミは、自立しているか?」
「……してないと言わざるを得ません」
「そういうことだ」
「じゃあ、もしかして、わたしが大学を卒業するまで、結婚はおあずけですか?」
「いや、それだと4年後になるから、おれもそのときは44だ。それはそれで、遅すぎるかもしれない。とはいえ、今すぐ、結婚式というわけにはいかない。そこで、1年くらいは、互いのことを知り合う時間があってもいいんじゃないかと思うんだ。1年同棲してみれば、互いのことがよく分かるだろうし、いろいろと根回しをすることもできるだろう」

 美咲は席に着いた。

「嫌か?」
「いいえ、ただ夢みたいだと思って……」

 つぶやくようにしてから、

「夢じゃないですよね!?」
 
 テーブル越しに乗り出すようにしてきたので、その頬に手を伸ばして軽くつねってやった。

「痛くないです」
「痛くしてないからな」
「わたしの最終目標がいきなり叶っちゃいました。まさか、告白を受けてもらえるなんて。物語の第1章を読み始めようとしたら、いきなり最終章だった感じですね」
「甘いな、美咲ちゃん」
「どういうことですか?」
「男女関係は付き合うことが最終目標じゃないんだ。付き合ってからが本当のスタートなのさ」

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