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官能物語 2021/07/12 10:00

美少女のいる生活/16

 モンブランを食べ終えた貴久は、食べ終える前とは異なった世界線にやって来たにも関わらず、どうにもそんな感じではなかった。美咲のことはきちんと考えているつもりだが、やはり、あまり現実感がないのである。彼女が大がかりな冗談をやっているという可能性も捨て切れない。

「お皿、片付けますね」
「ありがとう」

 シンクで、鼻歌を歌いながら、洗い物をする彼女を見ながら、この光景が毎日のものになるだけではなく、溌剌とした美しさを身にまとう少女が自分のものになるということに関する現実感はやはり無かった。そんなもんあるわけない。

「夜はどうする? 転入祝いに外で食べてもいいかなって思ってたんだけど」

 洗い物が終わった彼女に訊くと、

「お昼も外だったのでもったいないです。わたしが作りますから、あとでお買い物行きませんか? 何でも好きなものを言ってください、貴久さん」

 と答えた。

「キミは家政婦じゃない」
「はい、妻候補でーす」

 美咲は元気よく手を挙げて、

「あっ、そうだ、あと、パジャマも買いたいです」

 と付け加えた。

「何にも持ってないので。明日届くと思うんですけど……あっ、そうだ! 貴久さんのTシャツでも借りて、パジャマ代わりにさせてもらおうかな」
「キミは経済観念がしっかりしているな」
「これも、結婚のために鍛えたところがあります。まずは何を置いてもお金が無いと始まらないので」
「なるほど」
「あと……もう一つ、すごく大事なお話があるんです、貴久さん」
「結婚以上に?」
「ある意味では」
「ええっ……どこか、体でも悪いのか?」
「まあ、ある意味ではそうです」
「お父さんからそんな話聞いてないけどな」
「父には話していませんので」
「そんなことをおれに?」
「はい」
「いいのか?」
「もちろんです」

 自信ありげにうなずく彼女ほど、貴久は自信が持てなかったが、まあ報告すべき事であれば、友人に報告すればいいと思った。もしも自分の胸の内にとどめておけることであればとどめておけばいい。子どもとはいえ、すでに大学生ということであれば、親に対して秘密の一つや二つを持っていなければ、その方が珍しいくらいのものだろう。

 それから少しして、二人は買い物に出かけた。特に何を食べたいと言うこともなかった貴久は、

「じゃあ、ビーフストロガノフ、作ります!」

 と言う彼女に任せることにした。

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官能物語 2021/07/11 23:00

美少女のいる生活/15

「絶対に冗談ではないです! 本気も本気、本気の108乗です!」
「108って、煩悩の数じゃないか」
「煩悩の塊です、わたし!」

 美咲は席を立ち上がって、宣言した。

「なんのカミングアウトだよ」
「本当にいいんですか? わたしはクーリングオフは効きませんからね、返品不可ですよ!」
「きみを誰にも渡す気は無いよ」

 貴久が言うと、美咲は頬を染めた。そのあと、顔を横に振ってから、

「デレデレしている場合じゃないわ。お父さんに報告しないと!」

 と言った。

「まあ、待て待て、ちょっと落ち着けよ、美咲ちゃん」
「落ち着いていられませんよ。今、プロポーズを受けてもらったんですよ! これがどうして落ち着いていられるんですか? 貴久さんにだって、そういう経験あるでしょ!?」
「んー、まあ……」
「えっ、あるの、なんで? 誰に? 誰から? わたしというものがありながら!」

 貴久は、じーっと美咲のことを見てやった。
 彼女は、こほんと咳払いをした。

「あの……本当にいいんですか? わたし、冗談をやっているように見えるかもしれませんけど――」
「見えるな」
「でも、冗談じゃないです。ずっと好きだったんです、貴久さんのこと」
「信じてるよ」
「はい!」
「まあ、婚約はいいけど、とりあえずキミには大学生活がある。だから、それを優先させないといけない」
「結婚よりもですか?」
「結婚ていうのは、自立した個人が互いをパートナーとして認め合うことだ。キミは、自立しているか?」
「……してないと言わざるを得ません」
「そういうことだ」
「じゃあ、もしかして、わたしが大学を卒業するまで、結婚はおあずけですか?」
「いや、それだと4年後になるから、おれもそのときは44だ。それはそれで、遅すぎるかもしれない。とはいえ、今すぐ、結婚式というわけにはいかない。そこで、1年くらいは、互いのことを知り合う時間があってもいいんじゃないかと思うんだ。1年同棲してみれば、互いのことがよく分かるだろうし、いろいろと根回しをすることもできるだろう」

 美咲は席に着いた。

「嫌か?」
「いいえ、ただ夢みたいだと思って……」

 つぶやくようにしてから、

「夢じゃないですよね!?」
 
 テーブル越しに乗り出すようにしてきたので、その頬に手を伸ばして軽くつねってやった。

「痛くないです」
「痛くしてないからな」
「わたしの最終目標がいきなり叶っちゃいました。まさか、告白を受けてもらえるなんて。物語の第1章を読み始めようとしたら、いきなり最終章だった感じですね」
「甘いな、美咲ちゃん」
「どういうことですか?」
「男女関係は付き合うことが最終目標じゃないんだ。付き合ってからが本当のスタートなのさ」

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官能物語 2021/07/10 10:00

美少女のいる生活/14

「斬新なプロポーズだなあ」
「受けてくださって、ありがとうございますっ!」
「待て待て、受けたわけじゃない」
「ダメですか、わたしじゃ?」
「ダメなことなんてない。美咲ちゃんのプロポーズを受けない男がいたとしたら、その男は多分ゲイだ。一応言っておくけど、おれはゲイに偏見は無いが、でも、ゲイじゃない」
「ゲイだったら、お父さんと仲がいいのも、うなずけます」
「仲いいかなあ」
「いいと思いますよ」
「じゃあ、気をつけるよ。……って、なんか話がおかしな方向に言ってないか? 結婚の話をしよう」
「お父さんはわたしが説得しますね。でも、文句言えないと思いますよ。自分がしたこと考えたら。それに、相手が貴久さんだったら、よっぽどだと思います」
「待て待て。だから、なぜおれがプロポーズを受ける前提で話をしているんだよ。おれたちは、今日久しぶりに会って、これから同居を始めて、いい感じで仲を深めて行くんだろ?」
「そういうの全部省略しちゃいましょう!」
「省略!?」
「はい! だって、わたしもう貴久さんのこと、好きですもん。だから、貴久さんも、わたしのこと好きになってください。友人の娘としてじゃなくて、女の子として」

 美咲は、冗談をやっているように見えて、その瞳には常に真剣な光があった。まっすぐにこちらを見てくる少女に対して、貴久は、どう応えてやればよいか迷った。そうして、彼女が冗談をやっているにせよ、真面目なことをしているにせよ、こちらとしては、冗談をやっている時間はあまり無いのだということに気がついた。もう40歳である。冗談をやるのはいいが、やり続けるには年を取り過ぎていた。

 昔の人は、40歳のことを、不惑と言った。それは、己のなすことに惑わず、しっかりと向き合える年、そうすべき年ということだろう。そこで、貴久は、

「よし、分かった。美咲ちゃん、きみが本気なら、おれも本気で応えるよ。おれでよかったら、結婚しよう」

 言ってやった。それに対して、彼女が、

「やだ、貴久さん、こんな冗談を本気で取らないでください。ていうか、冗談ですよね。本気だとしたらちょっと怖いです」

 と言って笑われても構わないと思った。
 美咲は、笑わなかった。その代わりに、きょとんとした顔をして、今こちらが言ったことが聞こえていないような様子である。心配になった貴久は、

「大丈夫か、美咲ちゃん?」

 と訊き返した。
 美咲は、夢から覚めたように、目をパチパチとさせたあと、

「今言ってくれたこと……本当ですか?」

 と尋ねてきた。

「きみが言ったことが本当だとしたら本当になるし、冗談なのだとしたら冗談にしてもらって構わない」
「冗談じゃありません!」

 美咲の声が、さして広くない室内に響き渡った。

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官能物語 2021/07/08 10:00

美少女のいる生活/13

「全部です」
「全部?」
「そうです。例えるなら、このモンブランと同じですよ。モンブランのどこが好きかって問われても、全部って答えるしかないじゃないですか」
「なるほど……じゃあ、好きになったきっかけを教えてもらえないかな。いきなり全部を好きになるって、それじゃ一目惚れってことになるだろ。モンブランは一目で好きになるかもしれないけど、美咲ちゃんくらい年の離れた子が、おれのことを一目で好きになるということは、ちょっと無いだろ」
「貴久さん」
「ん?」

 彼女は真面目な目をした。
 美しい瞳にどきりとした貴久は、

「先に、モンブランとコーヒーいただいてもいいですか?」

 と訊かれて、同じくらい真面目な顔でうなずいてやった。

「あー、美味しい、幸せ」

 言葉通り、美咲は美味しそうにケーキを食べた。こうして、美味しそうに物を食べる女性を対面から以前見たことを、貴久は思い出したが、遠い記憶である。

「満足したかい、お姫様?」
「うむ、わらわは満足じゃ」
「それで?」
「わたし初めに会ったときから、貴久さんのこと好きでしたよ」
「それは嘘だ」
「どうしてですか?」
「初めて会ったのは、キミが赤ちゃんのときだからだ」

 美咲は声を上げて笑った。

「それはさすがにカウントしないでください。物心ついてからです。優しいお兄さんだなと思ってました。覚えてますか、わたしが4歳くらいの時、登ったジャングルジムから降りられなくなったことがあって、一緒にいた貴久さんが、お父さんよりも早くそれに気がついて、わたしのこと抱っこしておろしてくれたんです。それで、『怖かったね』って、優しく頭を撫でてくれて。そのときから、ずっと好きでした」

 にこにことしながら話す少女の口ぶりに嘘は無いようだけれど、嘘では無いとすると、大分大胆な話になる。

「決定的だったのは、わたしが中学生の時のことです。わたし、学校に行けなくなってしまったことがありましたよね」
「ん、ああ……あったね」
「あの時、わたし、貴久さんに電話してそのことを伝えたんです。そうしたら、貴久さんすぐにかけつけてくれて、『もしも行けなかったら、無理に行くことはない。世界のためにキミがいるんじゃなくて、キミのために世界はあるんだよ。世界はキミのものなんだ』って言ってくれたんです。そのときに、わたし、絶対に貴久さんと結婚しようって心に決めました」
「ちょ、ちょっとタイム」
「はい、どうぞ」
「ジャングルジムのことを覚えているような気がするけれど、その、The world is yours.は、よく覚えていないな。そんなこと、おれ、言ったっけ?」
「言ったかどうかということは大した問題じゃありません。大事なのは、貴久さんが言ったとわたしが信じているというそのことです」
「そうかなあ……って、あと、何、結婚?」
「はい、そのうち、わたしと結婚してください」

 美咲は、次の休みの日に映画に行ってくださいと言っているのと同じような軽さで言った。

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官能物語 2021/07/02 10:00

美少女のいる生活/12

 一回り以上年の差がある女の子を妊娠させて結婚するというとんでもない振る舞いをしたその父にして、一回り以上年の差のあるおっさんに告白するこの子ありと言ったところだろう。

「……ドン引きました?」
「えっ、いや、そんなことはないけど」
「もし、ご迷惑だったら、このケーキだけいただいたあとに、わたし、出て行きますから」
「入居初日が転居日になるなんて話は聞いたことないよ」
「じゃあ、いいんですか? 一緒に暮させてもらって」
「もちろん」

 ふうっと、美咲は大きく息をついた。

「ああ、よかった……」
「どうした?」
「だって、こんな話、絶対引かれると思ってたんですもん」
「それを、歩きながらさらっと話すってどういうことだよ」
「さらっと話したように思われたかもしれませんけど、心臓バクバク言っていますよ、触ってみます?」

 貴久は、美咲が自分の左胸に手を当てるのを見た。

「いや、周囲の人から、何か大いなる誤解を受けそうだから、やめておくよ」

 彼女がどこまで本気で言っているのか貴久にはイマイチよく分からない。親友と違って、若い子と話す機会なんて無いし、多少見知った子だったとしても、そこまで深い付き合いをしたことがあるわけでもないのである。

 そもそも、好きだというなら、好きになったきっかけがあるだろうが、それは何なのだろう。それが納得できる理由であれば、彼女が自分のことを好きだということにも納得ができることになる。

 そのあたりを訊いてみようかと考えたときにマンションに着いたので、今度こそケーキを食べながら話を聞くことにした。

「さっきご飯食べたばっかりだけど、もうお腹空いてきました」

 部屋に戻ると美咲が言った。

「サンドイッチとコーヒーだけだったからな。もっとガッツリしたものの方が良かったな」
「でも、美味しかったですよ、サンドイッチ」
「じゃあ、良かった」

 貴久が、コーヒーの用意をしようとお湯を沸かそうとすると、

「わたし、やります!」

 美咲が給仕役を買って出た。
 
 任せることにした貴久はダイニングテーブルに着いた。そこから、年若い少女がキッチンでカップを出し、ケーキのための皿を出して、ペーパードリップでコーヒーを淹れるのを見ていた。今後、この光景がデフォルトになるのかと思うと、なんだか不思議な感覚である。

「カップは適当に使わせてもらいました」

 コーヒーを持ってきてくれた美咲に、貴久はうなずいた。

「二個持ってきちゃっていいですか、ケーキ?」
「ちょっと二個は重たいな。今一個食べて、夕食後にもう一個はどう?」
「いいですね。先にモンブランでいいですか?」

 貴久はケーキを食べながら、さっき考えた通り、彼女が自分のどこを気に入ったのか訊いてみることにした。

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