(前話はこちらから↓)
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(女戦士編はこちらから↓)
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(女僧侶編はこちらから↓)
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――ヒルダさんの「お尻」から生み出されたモノ。
地面にしゃがみ込み、下穿きを脱ぎ、「割れ目」を剥き出しにして、
――ヒルダさんの「お尻」から産み落とされたモノ。
紛れもないそれは、「うんち」だった。
これまでの彼の人生において、「悪意」と呼べるものとはおよそ無縁であった。
いや、そうした感情の標的になったことが全くないといえば、やはり嘘になるだろう。村での日々において、彼はよく同年代達から嘲りや揶揄いの対象にされてきたのだった。
だがそれも、彼にとっては己の愚鈍さや臆病さにこそ原因があり。あくまで自分が他人より劣っているからこその、いわば当然の「報い」なのだと信じて疑わなかった。
それ故に、彼はまさか自らが悪意を抱くことなど微塵も考えたことはなく。ましてや、自ら悪意をもって他者を貶めようなどとは夢にも思わなかったのである。
あるいは悪意とはいかずとも、単にそれは「悪戯心」と呼ぶことだって出来るだろう。だけどやはり、そんな「出来心」さえも彼の中には未だかつて存在せず――。
そうした彼の純粋さこそがひいては聖剣に選ばれる理由となり、神にさえも認められ、勇者たりえる「しるし」となり得たのかもしれない。
だがしかし。何処からか訪れた「暗雲」が、瞬く間に「日輪」を隠してしまうように。ここ最近、彼の精神性においてもやや「翳り」が窺えつつあるのだった。
かつて「黎明」と共に誓ったはずの彼の崇高なる意志は、やがて「逢魔が時」を迎えることとなる。それもやはり、彼女たちの尻から出づる「黄昏」によって――。
「申し訳ありません。私事なのですが…、出立を少々お待ち頂けませんでしょうか?」
アルテナな控え目な口調で、あくまで慇懃に言う。
「えっ?あ、はい…大丈夫ですけど」
まさに、いよいよこれから「冒険に出る」という時に。彼女の口からもたらされたその申し出は見事に出鼻をくじくものであったが、それでも彼は了承する。
「すぐに済みますので…」
そう言い残して、女僧侶は早々にその場から立ち去ろうとする。
「なんだ、『便所』かい?」
あえて間接的に言ったアルテナの気も知らず、ヒルダが直接的に訊ねる。
「ハァ!?いえ、その…(はい)」
女戦士の、そのあまりに不躾な物言いに苛立ちを見せつつも。そこは彼の手前もあってかろうじて平静を保ちつつ、ついにアルテナは白状したのだった。
そして。間もなく「トイレ」へと向かう彼女の後ろ姿を眺めて、彼は。
――「おしっこ」かな?それとも…。
またしてもつい、あらぬ想像を抱いてしまうのだった。
とはいえ、その「大小」を確かめる術は彼にはない。野外で行う場合とは異なり、個室で行われる秘事において、その行為を盗み見ることは叶わず。あくまでそれを阻むものは薄い扉と、そこに掛けられた簡易な錠前のみではあるものの。「盗賊のカギ」はおろか「最後のカギ」を用いてもなお、解錠することは出来ず。仮に開錠したとしても、もはやそれを知られてしまったら何の意味もなく、やはり状況の打開とはなり得ないのである。
ふと、彼は手元に重みを感じた。アルテナが「用便」に向かう際、元はヒルダに預けていった荷物だった。さほどの重量ではなかったものの、パーティの生命を預かるべく重責からだろうか、それは見た目以上に重荷に感じられるのだった。
アルテナが直接、それを彼に手渡すことはなかった。普段から何かと、事あるごとに彼に頼ろうとすることで。彼と触れ合う機会をなるべく多く持とうと、口実を打算する彼女であったが――。そこはやはり「乙女の矜持」として、さすがに自らの「排泄」のために彼を利用することは憚られたのだろう。
だが、それにしても。アルテナは「意図」して、彼に対して気を遣っている節がある。
単にそれは「厚意」によるものか、あるいは彼だけに向けられた「好意」のためか。(とはいえ「意中の人」である彼自身は、あくまで「意識」さえしていなかったものの)果たしてその「真意」は分からずとも、紛れもなく「善意」から生じるであろう感情に。だが彼は決して「得意」になることはなく、自らの「誠意」を示すこともままならずに、ただただ「敬意」をもって返すのみであった。
「アタシも行っとこうかな…」
ヒルダもまた欲求を口にする。受け取った「道具袋」をそのまま彼にパスすると、彼女はなぜかアルテナとは「別方向」に向かうのだった。
「あれ?一番近い『トイレ』はそっちじゃないのに…」
彼は女戦士の行動を疑問に思いはしたものの。後になってからよくよく考えてみると、その理由に行き当たる。
彼にとって二人がかえがえのない仲間であるように、やはり彼女たちにとってもそれは間違いなく。だが同時に両者が互いを「ライバル」だと認識していることは、彼の目から見ても明らかだった。
だからこそ自らが「踏ん張る」様子を(いかに壁で隔てられているとはいえ)その気配すらも悟られたくはなく、ましてや「排泄音」を聞かれることに抵抗を覚えたのだろう。
二人に置いてけぼりにされ、一人きりとなった彼は他にやることもなく、皮袋に視線を落とす。紐できつく結ばれた口を開くと、わずかながらも暗闇が窺えた。
彼は深淵に手を伸ばし――、本来パーティの「共有物」であるはずのそれに、あるいはどちらかの「私物」が紛れ込んでいないかと、漁り始めるのだった。
目的の「宝具」こそ見つからなかったものの。やがて彼はある「道具」を探り当てる。さらに小袋に入れられたそれを丸ごと取り出し、中身を改める。
「回復薬」にはそれほど詳しくない彼であったが、それでも。その「丸薬」については、入手した経緯を含めて、その「用法」を記憶していた。それは――、
「即効性の下剤」であった。
服用したならば、たちまち「排泄欲求」を高めるもの。
紛れもない薬であるはずのそれ。「便通」を促し、体内の毒物もろとも体外に排出することで、解毒するためのもの。
にも関わらず。今の彼はどうしたって、その「効能」ばかりに目を向けてしまう。
――これを、二人に飲ませれば…。
勇者は再び妄想してしまう。彼女たちの「その姿」を。
とはいえ、まさか面と向かって「飲んで!」などと言えるはずもない。何のために?「便秘」であるとか、毒を浴びた状態であるとか。そういった事情が無ければ、これ自体もまた「毒」であることに違いないのである。だけど、もしも――、
――気づかれることなく、二人にこれを飲ませることが出来たなら…。
勇者は思い浮かべる。彼女たちの「痴態」を。
予期せぬ「便意」とその解消。果たしてそれは屋内にて行われるのだろうか?あるいはいつかの彼女のように野外でだろうか?きちんと下穿きを脱いだ上でされるのだろうか?それとも、穿いたままでか?
今一度、周囲を確かめつつ、彼は「丸薬」に手に取る。
かつて浴室にて、ヒルダの下穿きへと手を伸ばした時と同様に。緊張とも恐怖とも取れない、得体の知れない何かが背筋を這い上がるのを感じた。
そして。三つある内の一つを掴み取ると、彼はそれを自らのズボンのポケットに仕舞い込んだのだった。
「道具袋」の中にあるものは全て、いわばパーティの「共有財産」である。ということはつまり、彼自身の「所有物」でもあるのだ。あくまで「持ち物」の保管場所を移動させるというだけのその行為に。だが仲間の目を盗んで行われる秘事に。
「勇者」であるはずの彼は、まるで自らが「盗人」にでもなったかのような背徳感を抱くのだった。
悪意とは何も他者に不利益を被らせようと抱く感情のみを指してそう呼ぶのではない。自己の利益のため他者を蔑ろにする行為もまた、やはり悪意に他ならないのである。
とはいえ。彼のそれは、ほんの一瞬「魔が差した」だけのもの。そこに計画性はなく、現段階では未遂とさえいえないだけのもの。だがそれでも。
欲望のみによって発露し、願望を果たすべく為された行動。自己の裏に潜む影の如く「エゴ」はまさしく――、
これまで「日向」の道を歩いてきた彼が、唐突に出会った「日陰」の感情であり。
彼が生まれて初めて抱くことになる、紛れもない「悪意」なのだった。
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