おかず味噌 2020/12/08 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の幕開け ~村一番の臆病者~」

※この「記事」には、「エロ描写」及び「スカトロ」「お漏らし」の「表現」などは一切含まれません。「読み飛ばして」頂いても一向に構いませんが、お読み頂けたならば今後の「展開」をより「お楽しみ」頂けることと思います。

 すぐに「ヌキたい」方はこちらから↓
(女戦士編)「野外脱糞」「ウンスジ」表現あり。(一部「有料支援者様限定」)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247
(女僧侶編)「水中放尿」「着衣脱糞」表現あり。(一部「有料支援者様限定」)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


――「勇者」とは何だろう…?

「勇敢」な者。強大な敵(たとえそれが「魔王」であったとしても)に怯み、臆することなく「勇猛」に立ち向かう者。あるいは、いかなる苦境に立たされたとしても「果敢」にそれを乗り越えようとする者。
 そうした、あらゆる恐怖に「打ち克つ者」。または恐怖に挑み、それに「打ち克とう」とし続ける者を指して、我々はいつしか彼らのことをこう呼ぶ。

「『勇者』である」

 と。だが無論、誰だって「勇者」になれるわけではない。では果たして――、

――「勇者」の「条件」とは何か…?

 それはつまり「選ばれる」ことである。「世界」に、「時代」に、はたまた「神」や「精霊」に。「選ばれし者」こそが「勇者」となり得るのである。
 そこにおいて、努力や才能は何ら効力を発揮しない。あくまでも素質。生まれながらにして与えられた「器」こそが、彼の者が「勇者」となれるか否かを決定し「運命」付けるのである。

 そういった意味では「勇者」と「他の職業」との成り立ちは大きく異なっている。
 例えば「武闘家」において、恵まれた体躯と腕っぷしの強さこそを必須としながらも。あるいは生まれつき小柄で矮躯である者。はたまた老境に至り、「枯れ枝」のような手足しか持たぬ者だったとしても。当人の「努力」によって、日々のたゆまぬ「研鑽」において技術を磨き続けることによって、誰しもにその機会は「平等」に与えられるのである。

 だが、こと「勇者」においては違う。たとえ、いかなる鍛錬に励もうとも――、常に、あらゆる試練に挑もうとも――、選ばれなければ、それでお終い。それもあくまで刻んだ「功績」によって「のちに選ばれる」のではなく。「生まれた瞬間」からすでにその可否は決まっているのだ。素質を持たぬ者、その道にない者には、そもそも目指すことさえも許されないのである。

 あるいは、それは「魔法の才能」にも似ているかもしれない。「素質」を「素養」と言い換えるならば――、「魔法使い」における「魔力」についてもその「絶対量」はやはり生まれつきによる部分が大きく。当人の修行によって「詠唱の速度」や「魔術の練度」を高めることはそれなりに出来はするものの――、いわゆるMPの僅少な者が「大魔術師」となった例は、これまで「一度たりとも」ない。

 だがそれでも。「勇者」と「魔法使い」では、やはりその根本からして違うのだ。勇者の「仕事」とは「魔王打倒」のみでありそれ以外にはない。そして「職業」という以上、そこには何かしらの対価があって然るべきなのだが――、「魔王」を倒したからといって莫大な富が得られるかといえば、そんなこともない。
 あくまで、得られるのは「名声」のみ。人々が恒久的な「平和」を手にする代わりに、自らが犠牲にするものを思えば、その「代償」はあまりに大きい。
 にも関わらず。当人の意志にも依らず勇者は誕生し――、選ばれたからには必ず、自らに与えられた「責務」を果たさなければならない。
 つまり「勇者」とは「職業」などでは決してなく。「魂魄」に刻みつけられた、その「称号」を指す呼び名なのである。

 今まさにこの世界において、この時代において、また一人。「勇者」が生まれようとしている。「魔王復活」を目前に控え、だがそれを知る者は厭世家の「学者」か、高山の「賢者」たちをおいて他にはいない。
 民衆は日に日に増し、これまで「安全圏」と信じて疑わなかった「村」や「町」にさえ進行してくる「魔物」たちの脅威に怯えながらも、あくまでその状況を打開するべく術は知らず。かろうじて残された「見せかけの平和」を享受することに精一杯だった。
 それでも。誰もが心のどこかで、その存在を待ちわびていた。人々を「絶望」から救ってくれる力を、人類を「希望」に導いてくれる光を。紛れもない「勇者の誕生」を――。
 いつだって、彼らは「勇者」を待ち望んでいるのだ。

 多くの「英雄譚」がそうであるように。「彼の物語」もまた、やはり「牧歌的な風景」の中から始められることとなる。やがて世界に轟き、あるいは永久に紡がれるであろう「伝説の始まり」を――。
 だけど彼はまだ自らのその「運命」を知らずに、あくまで呑気に日々を過ごしていたのだった。


――昔々あるところに「一人の青年」がいた。

 齢にして「十」にも満たぬ彼を、あるいは「少年」と。「少女」のように小柄で矮躯の彼を「童子」と。あくまで「現在の見た目」についていえば、そう呼んだ方が相応しいのかもしれない。
 だが後に語り継がれる「伝説」において、年齢などというものはやはり意味を持たず。彼の残すであろう輝かしい「功績」の前では、そうした個人を特定するべくあらゆる情報は、時に都合よく、時により大袈裟に書き換えられてしまうのである。

――彼には「名」があった。

 だがそれもまた、彼が「勇者」となったまさしくその日から失われ――。やがて人々は彼の事を「勇者様」と、皆口を揃えてそう呼ぶようになった。
 勇者には大きく分けて、「二種類」の者がいる。すなわち「自らの名」を歴史に刻む者。あるいは偉業のみが語り継がれ、後世において「別名」が与えられる者。果たして、そのどちらがより優れているというものではなく。あくまで彼については後者だった、というだけのことだ。

 彼は、主に農耕を生業とする「とある村」で育った。牧歌的で、平和な日々の暮らし。彼にとって唯一の肉親は、年老いた「祖父」のみで。彼の「生まれ」については、もはやそれだけで「前日譚」としての一つの物語となってしまいそうなので、ここでは省かせてもらうことにする。

 既述の通り――、幼い頃から貧弱で、また周囲の者に比べて成長の遅かった彼は、よく同年代たちの「揶揄い」や「嘲り」の対象となった。
 加えて当時の彼は「泣き虫」で、受けた仕打ちに対してやり返すことも、言い返すことすら出来ずに。ただただ俯き、涙をこらえるばかりだった。
 だが、そんな彼にも少なからず「味方」がいた。共に暮らす祖父については言うまでもなく。他に「もう一人」、彼を見守り、涙を拭ってくれる存在があった。

 その「少女」の名は――、「ナナリー」といった。
 彼より「二つ年上」の彼女は、「勝気」で「活発」な女性であり。村の大人や男共にも負けず劣らず、強い信念を持った「男勝り」の性格であった。
 兄弟を持たない彼にとって、ナナリーはまさしく「姉代わり」の存在で。何かと自分を気に掛けてくれる彼女を、いつしか親しみと憧憬を込めた視線で見つめるようになった。

「また、アイツらに『いじめ』られたの?」

 ナナリーはやや呆れたような顔で、彼に問う。

「いや…、その、うん…。でも…」

 短く切った言葉の中に、幾つもの逡巡と躊躇いを滲ませつつ彼は答える。
「はぁ~」

 彼女は長い「溜息」をついた後、

「嫌だったら、ちゃんと『言い返さない』と!!じゃないと、また――」

――ナメられるよ?

 肩の上で切り揃えられた、短い「赤毛」を掻きむしりながらナナリーは言う。「母親」からの遺伝らしいその「特徴的な髪色」を、彼女は気にしているみたいだが、彼としてはむしろ好意的に思っていた。

「ご、ごめんなさい…」

 彼は詫びる。それが彼なりの「処世術」であり――、なるべく早く「謝る」ことこそが彼にとっては自らの被害を未然に、あるいは出来るだけ最小限に抑えるための数少ない、あまり積極的とはいえない唯一の方法だった。
 だがナナリーにしてみれば、そうした彼の「態度」が気に入らないらしく。

「ほら、またそうやって!!」

 あくまで、彼に厳しく詰め寄る。両手を腰に当てて、胸を反らせるようにして彼を叱りつける。
 ナナリーが胸を張ることで。細身である彼女の、決して豊かとはいえない「膨らみ」が、少なからず明らかとなる。女性としての特徴ともいえるその「丘陵」は、けれど母親を知らぬ彼にとっては何らの慈愛を感じさせるものではなく。あくまでそれはそういうものなのだと。自分にはなく、けれど「同年代」たちは当然のように持っている「力強さ」や「男らしさ」にも似た、そうした「他者との違い」としてのみ理解されるのだった。

 村では慣例として、男子は「十五」、女子は「十三」で「婚礼」を迎えることとなる。相手は「本人の意思」を尊重しながらも、やはり家柄やその者の「収穫力」に依るところが大きい。
 来る年に、いよいよ「適齢期」となるナナリーについても。「村長の娘」として、その家柄は申し分なく。また「村一番の美少女」と呼び声の高い彼女の心を、「射止めたい」と願う男性陣の数と面子には、まさに錚々たるものがあったのだった。
 恐らく、秋に行われる「収穫祭」が争点となるだろう。祭りの最後、広場の「たき火」を囲んで始まる「舞踏会」において。男子は意中の女子を「踊り」に誘い、それを受けるか否かによって「互いの意思」を確認し合うのである。

 引っ込み思案な彼にとって、そのひと時は苦痛以外の何物でもなく。それは「去年」にしてみても同様で――、声を掛ける「勇気」のない彼は火の届かない「隅っこ」の方で、ただ両膝を抱えて蹲っているしかなかった。
 遠くの明かりをぼんやりと見つめる彼を、けれどナナリーはそんな時でさえも気に掛けてくれた。

「アンタは踊らないの?」

 いつの間にか「横」にいて、そう訊ねてきた彼女に対して、

「踊れないんだ…」

 彼は自分の不器用さと相手が居ないことの、その両方を含めて呟いた。

「そっか…」

「隣」に腰を下ろしたまま、同じように明かりを見つめながら彼女は言った。

「ナナリーこそ、踊らないの?」

 彼女は「踊り」だって巧かった。祭りの前日、彼の前だけで見せてくれた「舞い」は中々のもので。あるいは(彼はまだその存在を知らないが…)「踊り子」としても十分に通用するくらい「妖艶」なものだった。
 それに。彼女にしてみれば、まさしく相手だって引く手数多なのだろう。この「一夜」を彼女と共にしたいと願う男性は数知れず。現に今だって、彼女を探して忙しなく辺りを見回す村一番の力自慢の「ガストン」の様子が、彼の場所からも見て取れるのだった。

「ウチくらいになると、誘ってくるヤツも多くてさ…」

――ほんと、困っちゃうよ!!

 誇らしげに、けれどなぜかカラ元気であるように彼女は言う。

――やっぱり、そうなんだ…。

 彼は打ちのめされたような気がした。分かりきっていたことだ。だけどいざこうして「現実」を突き付けられると、自分の中に少なからず「焦燥」が生まれるのを感じた。
 それでも。その身を焦がすものの正体を、その感情の理由を、未だに彼は知らずにいたのだった。

「○○も、誰か誘えばいいのに…(ウチとか)」

 彼女は「その名」で彼を呼ぶ。やがて世界に轟く「勇者」のその「別名」を――。誰も知ることのないその「個人名」を――。けれど彼女だけは、彼が「勇者」となった後でも変わらずそう呼ぶことになるのだった。

「えっ…?」

 彼は訊き返す。ちょうど夜風が吹いたことで、語尾まで上手く聞き取れなかったから。それでも彼の疑問に彼女は取り合わず、二度と同じ台詞が繰り返されることはなかった。

 それから二、三言葉を交わして、やがて二人は無言になる。遠くの騒めきを聞きながら、けれど彼は風の音と自らの鼓動の音ばかりに耳を傾けていた。
 いつ、誰が、ナナリーを見つけて、あるいは彼女を誘いに来るかは分からない。
 だがそれでも。今はただ、彼女を独り占め出来ているというこの「瞬間」が――、彼女と過ごすこの「空間」が――、彼にとっては心地良く、決して明かりの届かない場所にある彼の心を優しく温めるのだった。
 どこか淋しげに見える彼女の横顔をこっそりと見つめて。「来年こそは――」と、彼は自らにとっておよそ初めてとなる「決意」を誓うのであった。

「この村」には、ある「言い伝え」があった――。
 村の「広場」。何かと「集会」などに利用され、「収穫祭」においてもまさしく「火」が焚かれる場所。その「広場」の「片隅」に、とある「オブジェ」があった。
「段差」が備えつけられ、やや「高く」なった「台座」に。何やら「植物」を模したかのような「彫像」が置かれている。
 だがよく見てみると、それは――。決して「花」を表わしたものではなく。その証拠に「花弁」にあたる部分はなく、むしろ「尖端」の方がやや「細く」なっている。「蕾」であるかのような「玉」が付いてはいるものの、だがやはり「葉」のようなものは見当たらず。「茎」の部分も「真っ直ぐ」で、これではあまりにあんまりというか。「植物」を「象った」にしては、その出来はお世辞にも「見事」とは言い難いものだった。

 それは「剣」だった――。

 だがあるいは「剣」だったとしても。そこに「刀身」と呼べるものはなく、あくまで「錆びついた」だけの「金属板」があるのみで。そもそも、いかなる「宝剣」ないしは「名剣」であったとしても、こんな「風雨」に晒される場所に「放置」されたとあらば、すぐさま立ちどころに「価値」を失ってしまうことは「必然」だった。
「一見」して、そうとは知れぬモノ――。けれどどうして「村人」が、あるいは彼さえもがそれを「剣」だと「認識」しているのかというと。それは、そのように「言い伝え」られてきたからだ。

 村の「歴史」において、「祝言」を迎える際の「儀式」として――。かつては「新郎」となる者が、その「剣」を「引き抜く」という「行事」があったらしい。
 だがもちろん、それはそう簡単に「引き抜ける」ものではなく――。というよりも未だかつて、その「剣」を「抜いた」ものは「ただの一人」もいないらしい。
 いかなる「力自慢」だろうが、あるいは「貴族」を遠い「出自」に持つ者をもってしても、それを「抜く」ことは決して叶わなかった。
 そんな「有様」だったから、いつしかその「剣」はあくまで「そういうもの」として扱われるようになり――。当初は「儀式」の「目玉」としての「催し」も、やがては単なる「興ざめ」の「行為」としてしか「意味」を持たなくなり。いつ頃からかその「祭事」は、ただただ「畑」に実った「作物」を「収穫」してみせるという、「この村らしい」といえばそれまでだが、あくまで「動き」を「真似た」だけのものへと「すり替わって」いったのだった。
 それでも。村には相変わらずその「剣」にまつわる「言い伝え」が、あるいは「伝説」として、「幾星霜」の時を経て尚、残り続けていた。それすなわち――、

――「彼の剣」を抜きし者、「勇者」とならん。

「伝承」にしてはあまりに短く、ごくごく「簡潔」なその「一文」。だが、であるからこそ。その「一節」は村で育った者ならば誰でも、幼い頃から幾度となく、それこそ「鍬」や「鋤」の「使い方」を教わるが如く、当然に「伝え聞かされる」ものなのであった。

――「勇者」とは何か?

 たとえ、その「意味」は知らずとも――。それが「選ばれし者」を指す「呼び名」であることくらいは「村民」にも分かっており。そのほとんどが「平凡」なる「農夫」である「この村」において、まさかそのような者が「現れる」などとは到底考えられず。だからもう「長年」に渡って、それを「試そう」とする者はおらず。その「剣」はやはり単なる「飾り」として、もはや「忘れ去られ」「打ち捨てられて」いるばかりであった。

「彼」は、「夜空」を見上げていた――。
「涙」が「零れ」ないようにするためではない。むしろ「涙」はとうに枯れ果て、彼の頬にその「痕跡」を刻み付けていた。
 彼は、目を擦る。すると、もはや「渇き切った」と思っていた「雫」が、またしても「こみ上げ」「溢れて」くるのだった。
 彼は、目線を落とす。そうしたならば、いよいよ「涙」は「水滴」となって、しゃがみ込んだ彼の「足元」に落ち、「石床」に滲んでいくのだった。

 彼は「台座」に腰掛けていた。あるいは「昼間」にそんなことをしようものなら――、すぐにでも口煩い「カトレーナおばさん」が「鬼の形相」で駆けつけて来て、彼を散々に「叱りつけた」後、彼をそこから「引きずり降ろして」いたことだろう。
 だが今は「夜中」である。「おばさん」はおろか、「村人」の多くは「眠り」についている。ここには、彼の他には誰もいない。彼を「いじめ」てくる「同年代」たちも、あの「ナナリー」さえも――。彼は今「ひとりぼっち」だった。

 彼は「ツラい」ことや「悲しい」ことがあったとき、「蓄積」されたそれらが「日常」の中で上手く「消化」出来なかったとき。「祖父」の寝静まった「家」を――、自分の「ベッド」を――、「こっそり」と抜け出し、よく「ここ」に来るようにしている。
「夜中」であるからこそ、誰にも「見つかる」ことはないが。それだっていつ「大人」が――、「作物」を荒らす「野生動物」や、最近「村の中」にも「頻繁」に入ってくるようになった「魔物」の「見回り」のため、「起きてくる」かわかったもんじゃない。
 もしそんな「大人たち」が――、決して出来が良いとはいえない、むしろ「愚鈍」とさえいえる「子供」である彼を「見つけた」ならば、
「こんな『夜更かし』ばかりしているから、お前はそうなんだ!!」
 とばかりに、ここぞとばかりに「悪態」をついてくることは分かりきっていた。
 にも関わらず。「平穏」を「信条」とする彼が――。どうして、そのような「危険」を冒して尚、「この場所」に留まっているのかといえば。それは単に「ここ」が彼にとって「落ち着ける場所」だったからだ。

 この「台座」に腰掛けていると――、この「剣」なのかもよく知れない「オブジェ」の「傍」にいるだけで――。何だか、とても「勇気」が湧いてくる。まるで、自分自身が「強くなった」みたいに。いかなる「苦難」だろうが、それを「乗り越えられる」と思わせてくれるように。彼にとっては「この場所」こそが、自らの「原点」であるかのような――、いつだってそんな「不思議な気持ち」になれるのだった。

 彼はふと。「剣」に手を伸ばして、それに「触れて」みた。「冷たい」感触。だがどこか「温もり」を感じさせるような、そんな――。
 何も「引き抜こう」と思ったわけではない。かの「伝説」については、いくら「無知」な彼でもさすがに知っている。今まで誰一人として、それが「叶わなかった」ことも。
 人に「当たり前」に出来ることすら、「ままならない」自分のことだ。まさか自分が「他人にさえ出来ない」ことを「成し遂げられる」などとは「夢」にも思わなかった。
 それでも、どうして彼が「手を伸ばした」のかといえば。それは「強くなりたかった」からだ。今は「非力な自分」でも――、「臆病」で「鈍臭く」「情けない」自分であったとしても――。「きっといつか」はそこから「脱却」し、そんな自分を「変えたい」と「強く」心から「願った」からだ。

 それはまさしく「星」に手を「翳す」ような――、決して「届くはずのない場所」に手を「差し伸べる」ような――、「無謀な行為」に他ならなかった。
 誰もがそれを聞いて「嗤う」だろう。「――のクセに」と「生意気」に思うかもしれない。だがそれでも、彼は願った。

――「強く」なりたい!!
 と。
――「勇者」になりたい!!
 と。

 そう「願い」を込めた瞬間、なぜだか彼の「脳裏」には「ナナリー」の顔がよぎったのだった。

 彼が「それ」を「掴んだ」とき「不思議なこと」が起こった。「錆びついていた」はずの、もはや何かも分からない「その剣」が、「輝き」を放ち出したのである。
 彼は最初「朝が来た」のかと思った。「眩い」までの「光」を発するそれを――、彼は「天空」に昇った「陽光」だと「錯覚」したのだった。
 だがそれは彼のすぐ「近く」からもたらされた。「剣」それ自体が「光」を帯びているのだと、それを知って尚、彼はやはり「呑気」に「さすがに怒られるかも…」と、自らの「愚行」に対する「叱責」を恐れただけだった。
「剣」から「力」が伝わってくる――。「温もり」を超えて、もはや「熱さ」にさえ変わろうとするその「奔流」は、すぐさま彼の「全身」を駆け巡り、やがて彼自身を瞬く間に「満たして」いった。
 彼は「腕」に力を込めた。少しばかり「大きめの作物」を「収穫」するときですら、「苦労」してしまう彼なのである。とてもじゃないが、そのような「大物」を「相手」に出来るはずもない。それでも彼は今、どうしてだか「自分にならば出来る」と感じた。「両手」で「柄」をがっしりと掴んで、それを「引き抜こう」とした時――。またしても彼の「脳裏」には「ナナリー」が浮かんできたのだった。

 全くもって、「容易」なことだった。
「力を込めた」のは「最初」だけで、後はただ「自然」に「身を任せる」のみだった。「ゆっくり」と「剣」を持ち上げる。すると「台座」に隠れていた「刀身」が徐々に見え始める――。

――ズポッ!!

 やがて「全て」を抜き終えた時。再び「剣」が「光」を――、今度はより「強い光」を――、「放ち」始めた。一時は「刀身」に「集中」した「それ」が、だが次の瞬間には「全方向」へと飛び散り、ようやく光が「収まった」かのように思えたその時。これまで「錆びついた」だけの「金属棒」に過ぎなかったそれが、もはや立派な「聖剣」へと成り変わっていた――。

「その夜」から、彼の「日常」はまさしく「一変」した――。
 彼が「聖剣」を「引き抜いた」という「噂」は、すぐに「村中」へと伝わり。あるいはそれを「嘘」だと信じて疑わない「村人」も。彼の背に負われた「それ」を目にすると、たちまち「態度」を改め、どこか「納得いかない様子」ながらも、皆彼を「讃えた」のであった。
 彼を「いじめ」ていた「同年代」たちも、その「事実」を知るや否や。これまでの彼に対する「仕打ち」を詫び、もしも「冒険」に出るならば「自分を仲間にして欲しい」と「懇願」して来るのだった。
 唯一、ナナリーだけがなぜか「浮かない顔」をしていた。人々から聞かされる、およそ「初めて」となる彼の「良い噂」に、けれど彼女はどこか「不満そう」に「耳を塞ぎ」。ようやく彼が「彼女以外」にも「認められた」というのに――、あるいは「彼女自身」もそうなることを「心」から「願っていた」にも関わらず――。どうしてだか彼女はあまり「嬉しそう」ではなかった。

 それから間もなく、彼は「旅」に出ることとなった――。
「旅立ち」の朝、彼が「大勢の村人たち」に見送られる中。いつもならば「イの一番」に「駆けつけて」くれるであろうナナリーの姿は、けれどそこにはなかった。
 少しばかり「淋しい」ような気もしたが、それはそれ。もはや彼には、彼女の他にも多くの「味方」が出来ていたのだった。
 最後まで彼に「縋りつく」ように「同行」を希望していた「同年代」たちを――。だが彼はあくまでその「提案」を断り続け、結局「一人きり」で村を後にするのであった。

「村」を出てから、彼はその足ですぐさま「隣町」へと向かった。「収穫祭」の準備や、村で獲れた「作物」の「売買」や「物々交換」などで、「大人」たちは「年に数回」は「町」に「出てくる」らしいが。「村」からほとんど出たことさえない彼にとっては、まさしく「初めて」の場所だった。

「人の多さ」に圧倒されながらも、彼は早速「ギルド」へと向かった。「何はともあれ、まずはそこに行くといい」と、「祖父」に聞かされていたからだ。
「受付」で「職業」を訊かれ、やや「躊躇い」ながらも彼が「勇者…」と答えると――。担当した「女性エルフ」は思わず「噴き出し」、その後も「ごめんなさい、つい」と詫びながらも、白く「尖った耳」が真っ赤になるまでひとしきり笑っていたのだった。
 あまりの「笑い様」に、やがてそれが「ギルド全体」へと「伝播」し――。そのせいで彼はひどく「恥をかく」ことになった。
 だがそれも。「冗談も程々に…」とばかりに、彼女が「職業適性」を「確認」し始めたところで「一変」することとなる。

 彼の「職業適性欄」は「空欄」だった。つまりはどの「職業」にも「向いていない」ということである。それを受けて、またしても彼女は「笑い」そうになったが――。
 やがて「羊皮紙」に浮かび上がってくる「赤文字」を見るなり、「女性エルフ」はその「美しい声」を「失った」のだった。そこには「はっきり」と、こう書かれていた。

「勇者」
――と。

「ギルド中」を包んでいた「嘲笑」はすぐに「騒めき」へと変わる。「驚き」と「動揺」が飛び交いながらも。「あんな『ガキ』みたいなアイツが…?」と、そこには少なからず「疑いの声」も混じっていた。
 たまたま「この町」を訪れていた「熟練」の「女戦士」も――、つい最近「転生」したばかりの「女僧侶」も――。まさにその「瞬間」に「立ち会って」いた。やがて「世界」に響き渡るであろう「伝説」の「序章」に――。「産声」を上げた「勇者誕生」に――。
 けれど「二人」はやはり「疑心」に満ち溢れた「瞳」で、それを眺め――。まさか自分が、いずれは「彼」と「共」に「旅」をすることになろうなど。いつしか「その彼」が、「彼女ら」にとっての「想い人」となることなど。けれど「今はまだ」知る由もないのであった。

「ギルド」での「登録」を済ませ――、すぐさま彼は「仕事」に取り掛かった。無論、「勇者」としての「仕事」ではない。「勇者の仕事」とは、つまり「魔王征伐」である。だから彼がまず「始めた」のは、あくまで「冒険者」としての「仕事」であった。
 最初は主に「小型モンスター」を「倒す」ことにより、当面の「日銭」を「稼ぐ」ことにした。「スライム」「ゴブリン」「自立型植物」など――。「村」にいた頃であれば、「見掛ける」なり「逃げ出し」、「大人」を「呼び」に行っていた「相手」である。
 けれど今となってはその「敵」に、彼は自ら「向かって」行き、「たった一人」でそれに「挑む」のであった。

 彼と「パーティ」を組んでくれる者など居なかった。彼から「声を掛けなかった」せいもあるだろう。だが、仮にも「勇者」であるならば――、むしろ「向こう」から幾らでも、むしろ「断り」きれないほどの「誘い」を受けたとしても、おかしくはなかった。
 にも関わらず。彼が「勇者」であることはすでに「証明済み」にも関わらず――。彼の「仲間」になりたいと申し出る者は、「ただの一人」として現れなかった。
――こんなことなら、「皆」を引き連れてくれば良かった…。
「同年代」たちの「懇願」を「固辞」したことを、今さらになって少しばかり「後悔」しつつも。けれどイマイチ「楽観的」な彼は、まあそれはそれで「仕方ない」と。あくまで「過ぎたこと」を「悔やむ」よりも、これから「訪れる」であろう「未来」へと目を向けるのだった。
 そうした、彼の「些細」な「変化」も。あるいは自分が「勇者」に「選ばれた」という「自負」が、わずかながらも「影響」するものなのかもしれなかった。

 けれど。あくまで「変わらないもの」もあった――。
 そもそも彼は、たとえ「不出来」であるとはいえ。自分に課せられた「責務」については「実直」に、あるいは「愚直」なほど「忠実」に「こなそう」とする人間であった。
 あるいはそれが「邪魔者扱い」のため――、差し当ってひとまず与えられた「石拾い」の「仕事」であったとしても。彼は「非効率」ながらも、ある時は「日暮れ」までそれを続け、村の「大人たち」を「唖然」とさせ、「祖父」を「心配」させたのだった。
 そんな彼の生まれながらの「性質」は――、けれど「村の仕事」において「日の目」を見ることはなかった。なぜならそれは、彼の「得意分野」では決してなく、彼の「才能」を充分に「発揮」出来るものではなかったからだ。
 だが一たび、「鍬」を「剣」へと「持ち替えた」ならば――。まさに「魚」が「水」を「得た」ように。彼の「本来居るべき場所」「住むべき世界」において、その「才能」は瞬く間に「開花」していったのだった。

「勇者誕生」にまつわる「伝説」に、その「物語」における「冒頭」に、こんな「一節」がある。
 すなわち「突如」として起きた「環境」の「変化」に、「日常」に訪れた「変革」に。あるいは「魔物」と「対峙」するに及んで――、「恐ろしくはなかったのか?」と。
 だがそれに「答えて」曰く、
――決して「怖く」はなかった。
 と。彼の「臆病さ」「貧弱さ」は相変わらずながらも、それをもってして尚、あくまで彼は言う。
――「聖剣」が「勇気」をくれたのだ。
 と。ただそれを「握る」だけで、それを「構えた」だけで、自然と「勇気」が湧いてきたのだと――。

 あるいは「美談」としてもあまりに「出来過ぎた話」であるかのように思われるだろうが。だが実際、彼自身そうであったのだ。たとえ「仲間」に恵まれず「一人きり」だとしても――、彼には「共」に戦ってくれる「友」がいた。かつては村の「片隅」に打ち捨てられ、ただ「錆びつき」「朽ちて」いくだけだった存在。それが今では「意味」を与えられ「使命」を帯びることにより――、もはや何にも隠せぬ「輝き」を放つようになった。
「戦友」としての「聖剣」と彼の「境遇」は、あまりにも「似て」いた。「それ故」なのだろうか。「光を放つ」その「刀身」をただ「眺めている」だけで、彼はそこに「自身」を「写している」かのような、そんな気がしてくるのだった。そして。「剣」を「振る」度に、「魔物」の「返り血」を浴びる毎に、まさしくそれは「自信」へと変わっていくのだった。

 決して「早熟」とはいえぬかもしれぬが。それでも彼は「着実」に「レベル」を上げていき、ようやく彼の「勇者」としての「名声」が、少なからず「ギルド」に聞こえ始めた頃――。「故郷」からの「救援要請」を報せる「クエスト」が貼り出されたのは、まさにそんな頃であった――。


続く――。

フォロワー以上限定無料

無料プラン限定特典を受け取ることができます

無料

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索