能力者たちの饗宴<時間停止能力>「派遣社員のレイコさん」(有料プラン更新済)
まるで「汚物」を見るかのような目だった。
女子社員の私に向ける視線である。私に対する二人の態度はいつだってあからさまで、だがそんな彼女たちも今や――。
「まだまだ出る!『おしっこ』止まらないよ~!!」
「『下痢便うんこ』出りゅ~!!たっぷり出ちゃう!!」
オフィス内に響きわたる嬌声と共に、文字通り「汚物」をまき散らし。その後間もなく「寿退社」ならぬ「おもらし退社」したのだった。
前代未聞の「異臭事件」から、一週間後。
「ちょっと皆、集まってくれ!」
仕事中、ふいに課長から号令が掛けられる。
全員が業務の手を止めて集合させられる中。私もスマホでエロ動画を漁る指を止めて、渋々ながらも命令に従うのだった。
列の最後尾に加わる。どうせ毒にも薬にもならない𠮟咤激励を聞かされるのだろうと、うんざりしたままの顔を上げると――。
課長の隣に、見慣れない「一人の女性」が立っていた。
長い黒髪を「ポニーテール」にして、前髪はきちんと左右に撫で付けられている。
「おでこ」を出すことで、よりはっきりと分かる均整の取れた「卵型」の顔。「陶製」を思わせるかのような白くて透き通った肌。「吊り上がった目尻」は近寄り難そうな印象を与えるものの、それは彼女の「性格のキツさ」を表わすものではなく、彼女が「美人」であることの証明に他ならないのだった。
淡い色のブラウスの上から品の良いジャケットを羽織り、下はタイトスカートではなく「パンツスタイル」。下品になり過ぎないギリギリの高さの「ハイヒール」が、彼女の「スラリと伸びた長い脚」をより強調していた。
「こちら『派遣社員』の『麗子』さん」
課長から紹介された彼女は、小さくお辞儀をする。
「『高嶺麗子』と申します。何かと至らぬ部分もございますが、どうかご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」
丁寧な口調で言い終えると。再び彼女は「マナー講師」の「お手本」で見るかのような計算され尽くした角度で、深々と頭を下げるのだった。
課内全員の「盛大な拍手」をもって迎えられる彼女。
思いがけぬ「麗人」の登場に、男性陣が内心で浮足立っているのが感じられた。
私の初出勤日にそのような場が設けられることはなかったが、それについて特に不満に思うところはなかった。
それよりも。私としては早速、次なる「獲物」に虎視眈々と狙いを定めるのだった。
昼休みになり。彼女の色香に「誘引」されたが如く、男性社員が「蝿」の如く群がる。
その様子を遠巻きに眺めて。私はといえば――、あえて「見」に回ることに務めた。
「能力を行使」するのはいつでも出来る。あくまで「息子」がその気になればの話だが。彼女の「外見」を見る限り、それについて何ら問題は無さそうだった。
肝心なのは「中身」だ。それは何も、付き合うか否かの「判断材料」としてではなく。彼女の「高慢さ」を知ることで。いざ行為に及ぶ際の「征服感」をより高めようとする、いわば「前戯」のようなものであった。
取り巻きの男性社員たちは、次々と彼女を「質問攻め」にしている。
「どこ出身?」
「大学は?」
「経歴」に関することから。
「趣味は?」
「彼氏はいるの?」
「プライベート」に至ることまで。
不躾な質問に対し、彼女は謙遜したり遠慮したりしながらも終始笑顔で答えている。
彼女の「演技」は完璧であり。誰彼構わず「愛想」を振り撒くその表情を見る限り、「八方美人」であることに違いなかった。
だがまだ「初日」である。今後果たして彼女がどのような「本性」を現していくのかを愉しみにして。今日のところはとりあえず「彼女に似た女優」を「オカズ」にすることで矛を収めようと、私は決めるのだった。
(今の私ならば、いくらでも女を「とっかえひっかえ」出来るにも関わらず。なぜ未だに幻想の映像に拘っているのかといえば、それについては止むに止まれぬ事情があるのだ)
私は「情報収集」を続ける。彼女の仕草におけるいかなる「瑕疵」をも見逃すまいと、あるいは会話の内容から彼女の「価値」を見定めようと聞き耳を立てる。
そこで、彼女はふいに席から立ち上がるのだった。
執拗な「囲み取材」から逃れ、なぜかこちらに向かってくる彼女。
私の「熱烈な視線」に、早くも気づかれたかと怪訝に思っていると――。
「――さん。ちょっと、よろしいですか?」
いつの間にか目の前にいた彼女は、あろうことか私に「話し掛けて」きたのだった。
すぐさま「マスゴミ共」から不満の声が上げられる。
「おっ…!まさかの展開!?」
あり得ぬ状況を茶化す者や。
「麗子さん、優しい~」
思わぬ行動を称賛する者など。
そのどれもが私に対する「低評価」と共に、彼女に「高評価」を与えるものだった。
「は、い…」
絞り出すようにして辛うじて発せられた声が、自分でも上ずっているのが分かった。
ごく久しぶりの「女性との会話」において、私は無様にも緊張してしまったのである。
「挨拶が、まだだったので…」
どうやら最低限の礼儀はわきまえているらしい。両親の教育に感心させられながらも、たかがそれだけのことで篭絡させられる私ではなかった。
「あの…。――さんも『派遣社員』ですよね?」
続く言葉で、徐々に彼女の「本性」が窺われ始める。
――ほら、来た…!!
想定通りの展開に、私は内心で密かにほくそ笑む。
「いい歳して」と、どうせ私のことを嘲笑うつもりなのだろう。
――お前だって「派遣」だろうが!!
口にこそ出さないものの「反論の刃」を研ぎ澄ます。
彼女に「制裁」を与えるべくは、あくまで私の股間の「不潔の刃」なのだ。
「それが、何…」
返す刀で私は問い返す。だが、その先を言い終える前に――。
「嬉しいです!!慣れない職場で私、心細かったので…」
彼女は不安な心境を吐露する。
「こんなにも頼りがいのありそうな『先輩』が居て下さるなんて!」
彼女は嬉しそうに破顔して見せる。
――頼りがい?この私が?
これまで仕事ぶりを見るまでもなく、ハナから「無能」というレッテルを貼られてきた私に対する思わぬ「好評」に反応に困る。
だが口先でなら何とでも言える。そこで私は「最終試験」とばかりに右手を差し出す。(ただ「生身の彼女に触れたかった」というのもあるが…)
「よ、よろしく…」
さりげなさを装って発した私の言葉は、あまりにもぎこちないものだった。
だが己の葛藤には取り合わず、私はあくまで彼女の「表情筋」を注視する。
仮にも頬がピクリとでも動こうものならば、それによって彼女の「メッキ」はパキリと剥がれることになるだろう。
――さて、どうする!?
「そんなつもりで言ったんじゃない」と。私の握手を悪手とばかりに気まずそうな表情を浮かべて無視するか、あるいは――。
彼女は逡巡することもなく、差し出した右手を握ってきた。彼女の手に触れたことで、自分がぐっしょりと「手汗」をかいていたことに気づかされる。
それでも、彼女は嫌な顔一つせず。「某アイドルグループ」の「イベント」のように、重ねられたもう一方の手が私の手を優しく包み込むのだった。
彼女の掌は温かかった。
――「排卵日」が近いのだろうか?
彼女も手汗をかいていたが、少しも不快には感じなかった。むしろ「彼女の水分」と「私の水分」が混ざり合うことで。「彼女の体温」と「私の体温」が溶け合うかのような感覚に、得も言われぬ高揚を感じるのだった。
「色々と教えてくださいね?」
「意味深な台詞」を言い残し。彼女は名残惜しそうに掌同士による「まぐわい」を解き、束の間の別れを告げるが如く私の元から歩き去る。
「ランウェイ」のモデルさながら、腰を大きく左右に揺らして歩く彼女。細身の体型にはやや不似合いな「安産型」の「パン尻」を眺めながら――。
実に二十数年ぶりに、私は「恋」に落ちていた。
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