クソクエ 地下闘技場編「盤外戦 ~聖騎士の汚パンツ装備~」(完成版)
第一試合から、波瀾の幕開けとなった「地下闘技大会」。
次々と猛者共が現れては敗れ、ついにヒルダの出番が訪れる。
――どんどん、参りましょう!スライ~ム・コ~ナ~!!
司会の声に促され、若干緊張気味の彼女が登場する。
――今大会初出場。女戦士・ヒル~ダ~!!
彼が呼ぶのとは異なるイントネーションながらも。高らかに告げられた「仲間の名」に彼自身の緊張も自ずと高まる。
期待と願いを込めて手に汗握る「勇者」。彼がふと横を窺うと、隣にいる「女僧侶」もまた拳を握り締めているのだった。
仲間の晴れ舞台を見守るアルテナの心境は、今まさに複雑なものとなっていた。
あくまで「副賞」のためヒルダに「勝って欲しい」という気持ちと、彼女のみに手柄を独占させるわけにもいかず、あわよくば「負けて欲しい」という気持ちが葛藤していた。
それでもやはり彼の手前もあって。とりあえずはアルテナとしても「応援」という形を取ることにしたのだった。
――ドラゴ~ン・コ~ナ~!!
ヒルダに続いて登場したのは、銀の甲冑を身に着けた長身の美青年。
――王国直属兵士・ナル~シ~ス~!!
眉目秀麗な顔立ちをした彼は。長い前髪を風に揺らして、涼し気な表情で客席に向けて手を振って見せる。
「キャ~!ナルシス様~!!」
クールな彼に対して、熱い声援がそれに応える。いわゆる彼の「ファン」なのだろう、むさ苦しい観衆の一角だけが可憐に華やいでいた。
予期せぬ「イケメン」の登場に、彼は妙な胸騒ぎを覚える。再び隣のアルテナを窺い、彼女もまた浮足立っていると思いきや。
――「白馬の王子様」といったところでしょうか?
(彼の立場はむしろ「王に仕える身」であるのだが…)
――「夜の営み」も、平々凡々でつまらないものなのでしょう。
どこか達観した様子のアルテナに。勇者は安堵しつつも、同時に不安を抱くのだった。
――レディ…。
早速、司会によって「開戦」が告げられようとしたところで。
「暫し待たれよ!」
厳かな口調でナルシスは右手を突き出し、その先を制する。これも何かの戦略なのかとヒルダが訝しむ中。
「いかに『戦闘』とはいえ、レディ相手に『先手』を取るわけには参りません」
この期に及んで、あくまで「紳士」たらんとする彼。
「『レディ』って、もしかしてアタシのことかい…?」
あからさま「お世辞」に、頬を紅潮させる「女戦士」。慣れぬ扱いに戸惑いながらも、彼の「騎士道」にすっかり当てられてしまっている。
「『レディ・ファースト』です。どうぞ、お先に!」
回りくどい言い方をしているものの、要は「先に攻撃して来い!」という意味らしい。つまりは、ヒルダを「ナメている」ということだ。
「あのナルシスとやら、もの凄く鼻につきますわね?」
「うん。出来ることなら、今すぐ僕が出て行って『ぶん殴りたい』くらいです…」
「聖職者」らしからぬ物言いのアルテナに対し、彼もまた同調する。
沈黙の両者。会場の静寂を打ち破るように、客席から「冷やかし」が飛ぶ。
「そんなオーク女は放っておいて、私と『一戦交えて』くださいませ~!!」
ファンの女性達は、どうやら彼と「一線越える」ことを望んでいるらしい。真剣勝負に水を差す愚言に、だがヒルダが引っ掛かったのは「別の部分」であるらしかった。
「へぇ~。誰が『オーク女』だって…?」
瞬く間に女戦士の頬から「含羞」の色が消え去り、瞳に鋭い「眼光」が灯る。
「ヒルダさん、完全にキレちゃいましたね…」
「そのようですね。珍しく、彼女と気が合いそうです」
ここにきて、パーティの「利害」は完全に一致する。
「あのイケ好かない『王子様気取り』に、目に物見せてやれ!」と。
――では、改めまして。レディ~・ファイト!!!
ようやく宣戦は為されたものの、彼は宣誓通りその場から微動だにしない。それ自体は確かに見上げた志であったが、だがしかし…。
――ドゴッ!!ドッシャ~ン!!!
即座に間合いを詰めたヒルダは、分厚い甲冑などお構いなしに「一撃」を放つ。彼女の「打撃」をモロに喰らったナルシスは遥か後方まで吹っ飛び、そのまま動かなくなった。
再び、場内を静寂が満たす。そして…。
――しょ、勝者・ヒルダ~!!!
やや遅ればせながら司会が結果を宣告する。そのあまりに「あっけない結末」に女達が一時の夢から醒め、冷めた表情を浮かべる中。
――ウォォォ~!!よくやったぞ、オーク姉ちゃん!!
男共の低く地鳴りするような声が、ヒルダの「勝利」を讃える。
――ざまあみやがれ!!
吐き捨てるような台詞は一行のみならず、およそ会場全体の「総意」なのであった。
こうして。ヒルダの「初撃」にて「勝敗」は決したのだった。
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