能力者たちの饗宴<超回復能力>「禍福は糾える縄の如し」(無料プラン更新済)
当時、私が「高校生」だった頃。
朝登校すると、必ずと言っていいほど机に突っ伏して寝ている男子生徒がいた。
――朝から、何をそんなに眠たいのだろう?
昨晩、夜更かししたのだろうか。あるいは早寝だったとしても「朝がツラい」というのは、それもまた「若さ」の証明ともいえるのだろうが。
同じく十代である私としては。「疲労」とはおよそ無縁の生活を送っていた。
どんな筋肉痛だろうと即日で「回復」し、いかなる体調不良も翌日には「快復」するのだった。
だが、そんなことは今どうだっていい。問題は、彼が頬ずりしている「その机」。
――きちんと「除菌シート」か何かで拭いたのだろうか?
仮にも自分の机とはいえ、前年度までは顔も知れぬ「他人」が使っていたものなのだ。
さらに。生徒の中には、机上に騎乗する不届きな輩もいる。
行儀の悪い連中のことだ。恐らく「地べた」にだって平気で座るに違いない。
そんな机に寝そべるというのは、床に寝転がるのと大差ないのである。
学校生活において、私が「気になること」はまだまだある。
女子という生物は何かと接触を求めたがる。その手はちゃんと「洗った」のだろうか。まさか「お手洗い」に行ってそのまま、ということは無いだろうが。しきりに髪を触り、休み時間にお菓子を食べる手は、ひどく汚いものに思えてならなかった。
そして。それが男子ともなれば、「ナニ」を触った手なのか想像するのさえ憚られる。
「気にし過ぎだよ」と言われるかもしれないが。私にとっては、そんな日々のあれこれが我慢ならなかった。
私は「潔癖症」だった。
いやむしろ私は「正常」であり、「異常」なのは「不浄」な奴らの方かもしれない。
仮に「世界的な疫病」でも流行したなら、人類ももう少し「衛生」に気を配ってくれることだろう。(そんな日常が訪れるとは到底思えないが)
だがあくまで「不潔」が蔓延る現代を生き抜く術として。私が身に着けた手段としては「アルコールスプレー」を常時携帯する他なかった。
「清浄」な私にとって、不埒な男女交際などは以ての外で。二十代半ばを過ぎた今現在においても、過剰な「清潔」を保つあまり「純潔」を守り抜いているのだった。
それについては何ら恥ずべきことではない。節操もなく「不純異性交遊」に明け暮れる若者の方が、やはり「異常」に違いないのだ。
そんな私に「転機」が訪れたのは、忘れもしない高三の体育の授業中のことだった。
だがここで語るのは、声を大にして広めたくなるような「成功体験」では決してない。あくまで唾棄すべき「失敗談」なのである。
授業前、私は「焦燥」に駆られていた。
前日、確かに鞄に入れたはずの「体操服」が見当たらなかったのである。
当時から交友関係は広く、他クラスの友人達もそれなりにいたが。「人から借りる」という選択肢はハナからなかった。
次の授業は「六時間目」。仮に体操服を持っていても、とっくに「使用済」だろうし。たとえ「未使用」だったとして、体育がある日でもないのに教室に置きっ放しの生徒の「衛生観念」などたかが知れている。
(それに。私には衣類を人から借りられない「もう一つの理由」があった)
結局、体操服を恩借できなかった私は「仮病」を使い、体育の授業を「見学」することにしたのだった。
授業開始から二十分が経過した頃、私は激しい「尿意」に苛まれていた。
幼少時から「トイレが近く」、小学生の頃は幾度となく「失敗」を繰り返してきた私。
だが成長につれて、美醜の差が明白となり。中でも特に恵まれた容姿を持つこの私が、まさか高校生にもなって「おもらし」するなどとは到底考えられなかった。
肌寒い風が吹き抜ける校庭。他の生徒が「体育座り」で膝を擦り合わせる中、私だけが地面からお尻を浮かせたまま耐えることを余儀なくされた。
さらに「不幸」なことに。とてもじゃないが授業終了までもたないことを悟った私は、「中座」を申し出ようとしたものの。「中腰」により痺れた足腰では、もはや立ち上がることさえままならなかった。
かくなる上は「最終手段」として。羞恥を捨てて下着越しに尿道口を押さえることで、かろうじて衝動に抗う。だが、そんな私の抵抗も虚しく――。
――ムジュ…、ジュビビビビ~!!!!!
ふとした拍子に漏れ出した少量の「尿」はみるみる内に奔流となり、溢れ出した水流はショーツを突き破り、グラウンドにサークルを描くが如く足下の土壌を黒く染めてゆく。
私の「失禁」は、たっぷり「一分間」ほど(体感としてはそれ以上)続いた。
本来、便器内で済ますべき「放尿」を着衣状態のまま「粗相」という形で終えた私は。同窓から同情の視線で見送られ、逃げるように保健室へと敗走するのだった。
濡れた制服のまま保健室をドアを開くと。見知った養護教諭と話している、見慣れない「黒スーツ姿の男性」がいた。
彼は「事情」を抱えた生徒を一瞥すると、あろうことか私に話し掛けて来たのだった。
「――さん、だね?」
ふいに呼ばれた自分の名に。警戒心を最大限にしながらも、私は頷く。
「ちょうど良かった!わざわざ探しに行く手間が省けたよ」
今まさに私の高校生活が危機に瀕しているにも拘らず、嬉々とした表情を浮かべる彼。
「あら、タイヘン!!」
そこで、年配の保険医が会話に割って入る。
「その…、先に『着替え』をさせてあげても構いませんか?」
申し訳なさそうに断りを入れる彼女に対して。
「あ、すみません!!つい…」
彼もまた配慮不足を詫び、気まずそうに視線を逸らす。
瞬間的に羞恥心を取り戻し、初対面の男性に「失禁姿」を視姦されたことに赤面した。
ベッドルームに張られたカーテン越しに「学校貸出の下着」へと穿き替えた私。
「早速だが、本題に入らせてもらうよ」
私を向かいのイスに座らせ、彼は唐突に語り始める。
「君は、『代謝能力』が人より活発だと感じたことはないかい?」
あまりにも漠然とした質問が、逆に要領を得ないながらも。しばらく考え込んだのち、私は小さく首肯する。
「はい…。『多汗症』っていうらしくて…」
さも病気であるかのような名称を用いているが、要は「汗っかき」なのである。そしてそれこそが、体操服を友人から借りられずに見学した「もう一つの理由」なのだった。
だが、こと今日に限っていえば。そうした事情もまた「僥倖」といえる。
もし仮に「借り物」を着た状態のまま「おもらし」をしていたら――。
私の「尿」の「悪臭」にまみれた体操服を。洗濯したとして返却するわけにはいかず、弁償することになっていただろう。
そう考えると。「最小限の被害」で済んだことは、やはり「不幸中の幸い」といえた。
「なるほど。やはり…」
私から得られた供述に、彼は深く納得したらしかった。「我が意を得たり」とばかりにたっぷりと間を置いたのち、ゆっくりと話を続ける。
「君が今日、その…。『失禁』してしまったのも、全ては『体質』によるものだ」
私の「しくじり」についてやや言いづらそうにしながらも、あくまで淡々と述べる彼。女子高生の「おもらし」に興奮する「特殊な性癖」でもあるのだろうか?
(私としてはなるべく早く、忘却の彼方へと追いやってしまいたい失態なのだが…)
「我々の仲間になれば、『能力』をコントロールする術を身に着けることだって出来る」
相変わらず彼の話は今一つ要領を得ないながらも。幾度となく繰り返される「大丈夫」という言葉に、なぜか無性の心強さを覚えるのだった。
その後。私は彼から誘われるがままに学業の傍ら放課後に「研修プログラム」に通い、高校卒業と同時に晴れて「機関の一員」となった。
機関直属の「研究施設」において、「精密検査」を繰り返す内に分かったことがある。それは――。
私の「代謝」はそれ自体が能力なのではなく、いわば能力の「代償」なのだと。
「十万人に一人」とも「百万人に一人」ともいわれる(全容は機関でも把握しかねているらしい)「能力者」。
二人として「同様の異能」を発現する者は存在しない、私だけに授けられた唯一無二のオリジナルの才能。
休息を取らずとも「疲労」を感じず、「致命傷」さえも急速に塞がる「超回復能力」。
さらに、強靭な「フィジカル」をもって「筋力トレーニング」に励むことで。今や私は「留学帰りの筋肉芸人」すらも羨むほどの「パワー」を手にしていた。
あくまで生得の能力により獲得した「体力」と、弛まぬ努力により会得した「体術」。それら両方を複合させることで、これまで数多くの「敵対勢力」を葬り去ってきた私。
もはや向かうところ敵なし、と半ば「天狗」になりかけていた私に。次なる「任務」が与えられたのだった。
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