おかず味噌 2021/08/31 23:53

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「後輩女子に部活指導」

 街ですれ違ったギャルに「教育的指導」をしてやった、翌日。 

 実に二十数年ぶりに、私は母校への凱旋を果たしていた。


 よくテレビ番組のドキュメンタリーなんかで。著名なスポーツ選手がかつての学び舎を訪れ、己の輝かしい実績を鼻にかけて「エラそうに」後輩を指導するという企画がある。

 彼らのその華々しい功績は(少なからず当人の努力によるものもあるだろうが)、やはり才能に起因する部分が大きく。いかに凡人が教えを乞うたところで、そこに再現性などあるべくもないのにも関わらず。純真無垢な後輩たちは、たった数時間の練習であたかも自身の技術が飛躍的に向上したかのように錯覚し、先輩の来訪を涎を垂らして有難がる。

 生徒のみならず、教師や父兄も一緒になって卒業生の帰校を喜び。手作りの横断幕などを用いて、有名人の来校を歓迎するのである。

 それに引き換え「私は」といえば――。
 誰にも歓迎されることなく、人知れず一人きりの凱旋なのだった。


 校庭の周囲にはフェンスが張り巡らされている。私の記憶には存在しなかった風景だ。近年「不審者対策」として、生徒たちを守るために設置されたものだろう。

 私の能力を行使すればこんな防壁など、誰に不審がられることもなく乗り越えることは可能なのであったが。だが私は「不審者」でもなければ「変質者」でもない。あくまで「傍観者」として、練習に励む後輩たちの姿を見守っていた。

 私の学生時代。やはり同じように部活動を見学している、数人の「おっさん」がいた。プロならばまだしも、彼らの眼前にいるのは完全なアマであり。さして巧くもない練習をどうして飽きもせず眺めていられるのか、と当時の私は不思議でならなかった。

 だが、自身も「中年」となった今ならば理解できる。恐らく彼らはそこに憧憬を抱いていたのだろう。

 長年の運動不足により、はたまた肉体的劣化によって「激しい運動」を出来なくなった彼らにとって。地を駆け回り、宙を跳ね回る十代の姿は眩しく映るのだろう。あるいは、己の果たせなかった「青春の面影」を重ねるように――。

 グラウンド行われる様々な運動の内、今特に私が目を留めていたのは「女子陸上部」の活動であった。


 一定のペースを保ちつつ、トラックを周回する集団。小気味の良い掛け声に合わせて、彼女たちの「ふともも」が元気に揺さぶられる。中でも「発育の良い者」はブラジャーのサイズが合っていないのか、重力により暴れ回る「ふくらみ」を盛大に上下させている。

「体操服」姿の彼女たち。下が「ブルマ」でなく「ハーフパンツ」なのが実に嘆かわしいところではあったが(「古き良き時代」とはまさにこういう事だろう)、それはそれで「制服」とはまた違った趣があるのだった。

 昨今はゼッケンというものを大会以外では付けないらしい。(それもやはり不審者対策なのだろう)大人に庇護された、匿名の彼女たち。未成熟なその肉体は「色気」などとは程遠く、だからこそ十代特有の「色香」をムンムンと放っていた。

――もっと近くで、彼女たちの雄姿を拝みたい…!!

「前のめり」な私の願望はけれど、外界と内界を隔てる「障壁」により阻まれる。唯一、「前かがみ」になることなく金網に押し付けられた私の「悪癖」が穴から顔を覗かせる。

「あの人、めっちゃこっち見てない?」
「なんか、気持ち悪いんだけど」
「先生、呼んで来ようかな…」

 ギャルと比べれば控えめな忌避感情も、真っ当な危機管理も、だがそれには及ばない。「洗練」された「曲線」を眺めることで、今まさに私の「先端」が「研鑽」されてゆく。

 その瞬間、彼女たちの「青春時計」は針を止めるのだった――。

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