能力者たちの饗宴<???能力>「調査報告」
私は「機関」から「各エージェント」に支給されている「端末」の画面に目を落とす。
――△×商事にて、女性社員二名の「異常行動」を確認。
専用回線を介して送信されたメッセージは、一度読むと同時に「消去」される仕組みになっている。故に私は、必要な情報だけを即座に記憶する。
――内一名は、オフィス内における「放尿行為」。
――他一名は、オフィス内における「脱糞行為」。
――両名共に、一連の騒動後すでに「退社済み」。
両者に共通するのは、それが身体において必要不可欠な「代謝機能」であるという点。その点においては、「私の能力」とやや似通った部分もあるのだったが…。
――機関の「能力者データベース」と照合したところ、そのいずれにも該当せず。
仮に「未知の能力」によるものだったとして。まさか好き好んで、人前で「排泄物」をまき散らす者など居ないだろう。(二十代のうら若き乙女ならば尚更に)
ここはやはり彼女達自身が「能力者」なのではなく、何者かによって能力を行使された「被害者」と見るべきであろう。
――以下、両名に「事情聴取」を行った際の「記録」である。(一部抜粋)
私は二人の簡潔な「プロフィール」に目を通し、添付された「音声ファイル」を開くのだった。
<麻美の供述>
「『トイレ』に居たんです!!」
「えっ?何をしてたかって、そんなの決まってるじゃないですか…」
「それって言わなきゃダメですか?」
自らの「生理現象」を告白することに、彼女は若干の難色を示す。
「お、『おしっこ』です…」
「長かった、って。それは、その…」
「『うんち』とかじゃないですよ?ちょっと、手間取ったというか…」
「排泄行為」を幼児言葉で呼称する彼女。「大便」を羞恥だと感じているところからも、その幼稚さが窺えた。
「もうちょっとで『出そう』ってところだったんです。それで…」
彼女は何かを「隠している」ようだった。多くの「犯罪者」と関わる仕事柄、ついつい相手の「虚言」を見抜こうとする癖が身に付いてしまった。だが今回のそれについては、あくまでも「本件」とは無関係だろう。
「気が付いたら、オフィスに戻ってて…」
「私、○○課長に『アソコ』を見られて…」
「○○課長の前で。私『おしっこ』を…」
「事故の詳細」を思い出し、泣き出してしまう彼女。愛おしそうに名を呼ぶ口ぶりから、彼女が「当該人物」に対して「特別な感情」を抱いていることは明らかだった。
「でも、人前でするのって何だか気持ち良く…」
「――て。私、何言ってるんだろ?」
「自己の醜態」を思い返し、つい余計なことを口走ってしまう彼女。ひた隠しにするべく行為を自白したことで、秘められた「性癖」を自覚したらしかった。
私は続いて、もう一方の「音声データ」を再生する。
<由美の供述>
「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか!!」
幾度となく繰り返される質問に、うんざりしたように語気を荒げる彼女。甲高い声音も相まって、盛大に「音割れ」している。
「その日は、たまたま『お腹の調子』が悪くて…」
「前日の『合コン』で、飲み過ぎたのかしら…?」
いかにも「高飛車」そうな彼女。相手が誰であろうと「高慢な態度」を改めるつもりはないらしい。
「『一夜を共に』なんて、してません!」
「そもそも全然タイプじゃなかったし…」
「年収と身長が低い男は、こっちから願い下げなんで!!」
「調査員」という立場を行使し、女性のプライベートに土足で踏み入るかの如く行為に。「公私混同」も甚だしい、という意見もあるだろう。
だが「捜査」において。事件とは無関係に思える事柄こそ、殊の外に重要なのである。
全ては、およそ取るに足らないような些細な情報から事実を白日の下へと晒すために。これは必要な手続きなのだ。
「突然、意識が途切れた気がして…」
「スカートを、捲られてたんです!!」
彼女は「恥じらい」というよりむしろ「怒り」に打ち震えているらしい。
「べ、別に『ショーツ』を見られること自体は恥ずかしくありません!」
「常日頃から、男性に見られても良いものを穿いているので…」
「水着」でもあるまいし。紛れもない「下着」を周知されることを、何ら羞恥にも感じていないらしい。それは、彼女が「ビッチ」だという証明に他ならないのだった。
いよいよ、肝心な質問。彼女は暫し迷った挙句、たっぷりと間を置いた後。
「は、はい…」
「私は『大便』を漏らしてしまいました」
やがて観念したように「失便」を確言する。
「『指』が、入ってきたんです…」
「あの太くてゴツゴツした感触は、「男性のモノ」に間違いありません!!」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
自己の発言が予期せず「男性器」であるかの如く表現をしてしまったことに。ようやくそこで彼女は恥じらいを見せる。
「『お尻』でヤッた経験はないですけど…」
「たまには『そっち』もいいかな、って…」
またしても「個人的な話題」に逸れようとしたところで。
「こんな卑劣な『犯罪行為』をするのは――」
「『アイツ』以外に、考えられません!!」
ふいに、彼女は「ある人物」の名を口にする。
とはいえ。事実関係を明らかにする上で、あくまで先入観は禁物だ。
だが仮にもそれが「被害者」である彼女たちが異口同音に証言した「排泄行為」以外の唯一の「共通項」であるとしたら――?
機関の動向を敵勢力に秘匿するため、調査内容を書き残すことは固く禁じられている。
故に私は、「重要参考人」と思しき氏名を脳裏に刻み付ける。
――数日以内に、能力者の「波動」を観測。
――至急、能力者の「確保」及び「撃退」に向かわれたし。
――尚、発現者の「能力」については詳細不明のため存分に注意されたい。
読み終えたメールが消去され始めると同時に「端末」を閉じる。そして――。
私は再び、「職場」という名の「戦場」へと「派遣」されるのだった。