【クリスマス2020】F少女(本編後)SS
【F少女 クリスマスSS】
甘々成分少ないですが、特別な人になったからこその
3人の心情みたいなものを描いてみました。
12/25 比呂篇
「まさか、彼女としてクリスマスを過ごす事になるなんてなぁ。
ほんと、未来ってわかんねぇもんだな」
仕事を終えたその足で、あいつと待ち合せ場所に向かいながら、そんな事を考える。
兄貴分として、ずっとずっとあいつを見守ってきた。
その役目や立場は、一生変わる事は無いのだろうと思っていたというのに、
俺の隣にはあいつがいる。
その事を考えると、未だに口元が緩んで仕方がなかった。
「…そうだ、向かってる事を伝えねぇと」
俺はすっとスマホを取り出して、あいつとのメッセージを開いた。
そこには、仕事を終えた俺への労いの言葉と、そして「楽しみに待っている」というあいつの気持ちが届いている。
俺だけを待っててくれている……その事実が、俺を笑顔にさせた。
我ながら気持ち悪いと思うのだが、こればかりは仕方がない。
どうしたって、あいつへの気持ちが止まらないんだから。
「…やめとくか」
どうせ気持ちを伝えるなら、文字よりももっといいものがある。
俺はメッセージアプリを閉じて、通話アプリを開いた。
電話帳からタップするのは、もちろん、大切なあいつの名前。
耳にスマホを当てて数回のコールの後、最愛の人が出る。
それだけで浮つく心を何とか抑えながら、俺はあいつに言葉をかけた。
12/20 志津篇
「彼女とのクリスマスデートって、どうしたらいいのかなぁ」
"恋人達におすすめ! クリスマスにぴったりなデート場所"
なんていう見出しのページを、僕はじっと眺めていた。
12月25日、クリスマス。
クリスマスといえば、恋人同士のいちゃいちゃデイ!
ならねーさんと過ごすのが当たり前でしょ!
なんて気楽に考えていたけれど、その日が近づくにつれて僕は焦りを感じていた。
「うー、どれも僕には敷居が高すぎるよ」
「おしゃれな夜景」も「素敵な食事」も、何もかもが「大人向け」で
ネットに出るのは、学生の僕には背伸びが過ぎるプランばかり。
かといって、年上のねーさんを同年代のレベルに付き合わせたくない。
「僕が同年代だったなら…すっと決められたんだろうなぁ」
例えばねーさんが僕と同い年だったなら。
例えば僕がねーさんと同い年だったなら。
――どうしていただろう?
「…ああ、そうだった。僕は本来、そういう人間じゃん」
大事なのは、僕だけじゃなくて、二人の気持ち。
僕はいつだって「僕のしたいまま」にしてきたんだから、
わからないなら聞けばいいんだ。
ひとりクスっと微笑んで、意味のない検索結果を閉じる。
そして、ねーさんとのメッセージアプリを開いた。
12/24 一希篇
「……いい寝顔だな」
甘い気だるさに身を任せながら、
俺は隣で眠っている彼女を見つめていた。
今日はクリスマス。
12月の最大のイベント日といってもいいだろうこの日は、
俺にとって、そこまで重要な日ではなかった。
だって、この日は俺にとって大切な人のお祝いでもなんでもない。
ただ、チキンとケーキをたべる日くらいの認識で、
なんなら、余計な勧誘を受けるという意味では、
むしろ苦手な部類だったと思う。
だから、それは正直、彼女が俺の所に来てくれてからでも
変わらないのだろうと思っていた。
俺は彼女に関する事なら何でもしてあげたいとは思うけど
「彼女とクリスマス」なんてものは関係ないと思っていたから。
だけど、人っていうのは、変わるものなんだろうなと今なら思う。
何せ、クリスマスの話題が出た時、
俺は真っ先に、きっとこの世界の誰よりも早く
彼女とこの夜を過ごしたいって伝えたのだから。
「……足りない」
君が傍にいる幸せを感じたくて、抱き寄せる。
「…早く起きて、なんて思ったら、我がままかな。
でもさ、まだまだ伝えたいんだ。
君のおかげで、この日を特別だと思えるようになった感謝の気持ちを。
そして、君だけに伝えたい、心からの気持ちを……」
再び、ほどよい眠気が俺を包み込む。
朝目が覚めたら、雪が積もっているといい。
そんな事を思いながら、俺は再び夢の世界に身を委ねることにした……。
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