Triangle広報 2021/07/04 09:31

7月4日は【天翼のアスクレイン】の貴理梨の誕生日です!

と、ゆーわけで、斎藤なつき先生がイラストを描き下ろしてくれました!

そして、野山風一郎先生もお誕生日SSを書き下ろしてくれました!
どぞ、お楽しみください!

 1

 例年よりやや早めに海開きが行われた某海水浴場。
 夏の訪れにより勢いを増した太陽の光が灼いた砂浜の上で、水着姿の海水浴客が楽しげに遊んでいる。
 海を思いきり満喫している海水浴客たちの姿を、真久郎は立ち昇る熱で歪んだ陽炎の向こうからぼんやりと眺めていた。
「オーダー! 焼きそば二人前!」
 かけられた声に真久郎は我に返ると、慌てて目の前の鉄板にそばを投げ込む。
 夏の熱で思考力が溶けかけている真久郎は、機械的に焼きそばを作り、出来上がったものを皿に移す。
「焼きそば二丁上がりです」
 そう声をかけると、ショートパンツにTシャツというラフな格好の上に、海の家の名前がプリントされたエプロンを身につけた貴理梨が料理を受け取りに来た。
「はいはーい! 持って行きまーす!」
 お盆の上に焼きそばをのせながら、貴理梨は真久郎にウィンクを寄越す。それに真久郎は疲れ切った苦笑で応えた。

 休憩時間になり、真久郎は店の裏にある空のビールケースの上に腰を下ろす。
「ああー……疲れた……」
 朝からフル回転で働かされ、腕も足もパンパンだった。
「お疲れ、真久郎」
 そう言って同じく休憩に入った貴理梨が近寄ってくる。
 そんな貴理梨に、真久郎は言う。
「なあ、貴理梨……どうして俺、海の家で働いてるんだっけ……?」
「ん? ほら、ここママの会社の系列でやってる店だから」
 この海の家は、貴理梨の母親が実質的なオーナーらしかった。
「……うん、それはわかった。でも、だから、何で、遊びに来ただけの俺が働かされてるの?」
 真久郎はやや語尾を強調しながら言う。いきなり問答無用でバイトメンバーにされ、ちょっとばかり不機嫌だったのだ。
 そもそも海に誘ったのは貴理梨の方である。ルアナも紗耶香も用事で来られず、今度一緒に来る時の下見になればと思い、海まで足を運んだのだ。
 決して労働に汗するためではない。
「ごめんねぇ。ほら、バイトがなかなか集まらなくて、人手不足でさ。ママが今日になって急に言ってくるもんだから」
 貴理梨が手を合わせて謝罪した。
「貴理梨のお母さんか……子供の頃何度か顔を合わせた気がするけど」
 遊び人然とした娘とは違い、母親の方はいつもビシリと決めたキャリアウーマンだった。
「ママも忙しいからね。仕事でほとんど家に帰ってこないし。まあ、女手一つで何不自由なく私を育ててくれたことには感謝してるけど」
 貴理梨の両親は子供の頃に離婚している。そのことについて貴理梨は何も言わないので、真久郎も何も聞かなかった。
「まあ、お母さんの手伝いって言うなら、仕方ないか。でも、それならもっと早めに言ってくれよ。頼まれれば俺もちゃんと手伝うからさ」
 真久郎の言葉に、貴理梨は嬉しそうに目を細めた。
「えへへ、ありがと、真久郎」
 ドキリとするような可愛らしい笑顔に、真久郎は思わず視線を逸らし、話題を変えた。
「ところで貴理梨、海の家でコーヒーってどうなんだ?」
 貴理梨は勝手に新メニューを追加し、オリジナルコーヒーを販売していた。
「え? 結構売れてるよ。貴理梨ちゃんオリジナルブレンドの海水浴特化型アイスコーヒー」
「何だよ、海水浴特化型って……」
 貴理梨はコーヒーのオリジナルブレンドを開発するのが趣味なのだ。
 貴理梨は売れていると言っているが、あまり海水浴場でコーヒーを飲む絵が真久郎には想像できない。
「そうそう、真久郎、今日はできれば閉店まで手伝ってもらいたいんだけど」
「閉店まで? まあ、乗りかかった船だし、別にいいけど」
「おお、サンキュ! だったらついでに明日もよろしく!」
「やれやれ、しょうがないな……って、ちょっと待て! 明日も!?」
「チッ、聞き流さなかったか」
 舌打ちする貴理梨に、真久郎は据わった目を向ける。
「おいコラ、まさか週末ずっと手伝わせるつもりか?」
「あははは、まっさかぁ。明日は午前中は休みで午後からでいいよ」
「それほぼずっとだろ!」
「まあまあ。今日はすぐそこのリゾートホテルに部屋取ってあるし、寝床の心配はしなくていいわよ」
 貴理梨はあっけらかんと言う。
「しかも泊まりかよ!」
「さすがに土日は人手がないと店が回らないから。ね、お願い!」
 拝み倒してくる貴理梨に、真久郎は大きなため息をついた。
「ったく……今回だけだぞ」
 なんだかんだ言いながら、貴理梨が本当に困っている様子だったので、断れない真久郎だった。
「さっすがシンちゃん! よぉし、お礼にそこの岩場で一発……」
「まだ閉店まで時間あるのに余計な体力使わせるな」
「ええー? 私との真夏の炎天下野外種付け交尾フェスティバルを余計だなんて酷いわ! 実家に帰らせていただきます!」
 肩を怒らせて立ち去ろうとした貴理梨の腕を、真久郎は力強く掴むと、こう言った。
「サボろうとするな」
「てへっ♪」

 ――そんな真久郎と貴理梨の様子を、遠くから見ている者がいることに、二人は気づいていなかった。

 2

 翌日、朝から真久郎は貴理梨に海に連れ出されていた。
 二人とも用意してきた水着に着替え、バイトの時間まで海水浴を楽しむ。
「ふう……なんだかんだで海はいいなぁ」
 仰向けで水面に浮きながら、真久郎は波の揺れを楽しむ。
「真久郎、飲み物買ってきたよ!」
 貴理梨の声がして、真久郎は砂浜に戻る。
 レンタルしたビーチパラソルの下で待っている貴理梨は、大人っぽいビキニ姿で、真久郎は少し照れたように視線を外す。
 健康的に揺れる胸と、くびれた腰、ツンと上がったヒップ、それら魅惑的なパーツが布面積の少ない水着のおかげでいつもよりも大盤振る舞いだった。
 真久郎の照れを、貴理梨は見逃さない。
「おやおやぁ? シンちゃんってば、貴理梨ちゃんのセクシーな水着に興奮しちゃってるのかなぁ?」
 からかうように言われ、真久郎はやや強めに咳払いする。
「もう少し地味な水着の方が良かったんじゃないか? その、注目浴びてるぞ」
 整った顔でスタイルもよく、ギャルっぽい派手さのある貴理梨は、海水浴場にいる男性客の目を集めている。
 真久郎がそばにいるとその視線もやや少なくなるのだが、貴理梨が一人でいると明らかに捕食者の目をした男が周りをウロウロしていた。
「あれぇ? シンちゃんってば、独占欲? 貴理梨ちゃんのナイスバディが他の人に見られるのが耐えられない?」
 悪戯っぽく笑う貴理梨に、真久郎は視線を水平線の方に向けて言う。
「別に、俺と貴理梨は付き合ってるわけじゃないから、独占欲とかはないよ」
 それを聞いて、一瞬貴理梨は固まる。だが、次の瞬間にはケラケラと笑い始めた。
「もう、シンちゃんってば、つれないんだからぁ。私はルアナや紗耶香の次、三番手でオッケーっていつも言ってるのにぃ」
「あのな、貴理梨……」
「あ、私、かき氷買ってくるね」
 言いかけた真久郎を遮るように貴理梨は立ち上がると、真久郎に背を向けてビーチパラソルの下から出ていった。

 3

「…………」
 何となく不機嫌な顔で、貴理梨は海水浴場を歩く。
 先ほどの真久郎の一言が、貴理梨の胸に嫌なトゲを残していた。
「……そりゃ、付き合ってるわけじゃないけどさー」
 わかっているし、わきまえてもいるつもりだが、直接言葉にされるとやはりモヤモヤしてしまう。
 立場的には今くらいの距離感が一番いいのだと理解している貴理梨だったが、それで納得できない自分がいることもわかっていた。
「もうっ、真久郎が全部悪い」
 頬を膨らませながら、貴理梨はずんずんと歩く。かき氷を売っている店はとっくに通り過ぎていた。
 その貴理梨の前に、男が立ち塞がった。
「ねえ、一人? 一緒に遊ばない?」
 紋切り型の誘い文句に、貴理梨は内心げんなりする。
 男はサングラスをかけ、少々鍛えられている肉体を誇示するように胸を張っている。
 いかにもな風貌のナンパ男に、貴理梨は首を横に振った。
「悪いんだけど、連れと来てるから」
 そう言って回れ右すると、後ろにも似たようなチャラい雰囲気の男が退路を塞ぐように仁王立ちしていた。
「そんなこと言わないでさぁ。連れなんてほっとこうよ。俺らと一緒の方が絶対楽しいって」
 後ろにいた男も貴理梨にアプローチをかけてくる。
 虫の居所の悪い貴理梨は、二人まとめて吹き飛ばしてやりたい気分になったが、それはさすがにまずいのでグッとこらえる。
「ゴメンね。彼氏と来てるのよ。すぐジェラっちゃう男でさ。こんなとこ見られたら、また不機嫌になっちゃう。そういうわけで、他を当たってよ」
 適当なことを言って去ろうとした貴理梨の腕を、ナンパ男が掴む。
「そう言うなって。ちょっとだからさ。すぐに戻れば彼氏にもバレないよ」
 諦めず強引に誘ってくるナンパ男たちに、貴理梨の怒りが爆発しそうになる。
 その時だった。
「手、離してもらえますか?」
 ナンパ男の腕をいつの間にかそこにいた真久郎が掴み、貴理梨の腕から強引に引き剥がした。
「何だ、お前?」
 ナンパ男たちはドスの効いた声で真久郎を威嚇してくる。
 そんなナンパ男たちに、真久郎は一歩も退かない。
「女の子に声かけたいなら、別の誰かにしてください。こいつはダメです」
「ああん? 何でだよ? つーかお前、彼女の何よ?」
 睨み付けてくるナンパ男たちに、真久郎はこう言った。
「悪いですけど、こいつ、俺のなんで」
「!?」
 真久郎の言葉に、貴理梨は思わず硬直する。
「いくぞ、貴理梨」
「は、はい」
 真久郎は貴理梨の手を握ると、引っ張ってナンパ男たちから離れていく。
 手を握られている間、貴理梨は赤くなった顔を真久郎に見られないよう明後日の方を向いていた。
(うわっ、やばいやばい、こんなの全然私のガラじゃないよっ……!)
 自分にこんな乙女の部分があったのかと驚くほど、貴理梨は女の子っぽい反応を見せていた。
 一方真久郎も、別の意味で照れていた。
(しまった……俺の連れなんで、って言おうとしたのに、噛んで俺のなんでって言っちゃった……)
 ちょっとばかりズレてはいたが、二人の手はしっかりつながれたまま、しばらく離れることはなかった。

 貴理梨に去られたナンパ男たちは、海水浴場から離れると、スマートフォンで連絡を取っていた。
「……はい、社長のお言いつけ通りにしました。ええ、対象Aはお嬢様を守る行動を取りました。社長の見立て通りかと。わかりました、我々は撤退します」

 5

 午後から海の家でバイトしていた真久郎と貴理梨。
 合間の休憩時間、店舗の裏で休んでいると、貴理梨がカップにコーヒーを入れて真久郎に差し入れてきた。
「貴理梨ちゃん特製ブレンドコーヒーよん。さっき助けてくれたお礼。あ、コーヒーより貴理梨ちゃんの体がよかったかな?」
 貴理梨はいつもの調子を取り戻しており、真久郎をからかっていた。
 真久郎はコーヒーを飲みながら苦笑する。
「あ、そうだ。ママがせっかくだから今日もホテルに泊まっていきなさいってさ」
「今日も? まあ、バイトが終わってから帰るよりは楽だからいいけど……ホテル代で赤字にならないか?」
「ああ、それは大丈夫。あのリゾートホテルもママの会社の系列だから」
「おおう……それはそれは……」
 貴理梨の母親は思ったより大きな会社を経営しているようで、真久郎は驚きと感嘆の息を漏らした。
「そういうわけだから、今日は閉店までしっかり働いてもらうわよ!」
「了解」
 真久郎は貴理梨の淹れたコーヒーを飲み干すと、気合いを入れるように膝を叩いて立ち上がったのだった。

 その日の夜。
 ベッドで眠りに入りかけていた真久郎は、自分の上に水着姿で跨がっている貴理梨の存在に気づき、目を見開いたまま硬直した。
「えーっと……貴理梨……? 何でここに? ドアには鍵をかけといたはずだけど」
「ママの経営してるホテルだって言ったじゃない。鍵くらい手に入るわよ」
「な、なるほど……それで、どうして水着を着てるんだ?」
 真久郎の質問に、貴理梨は瞳を妖艶に光らせる。
「だって、この水着、シンちゃんってばずーっと見てたでしょ? だから、大サービス」
「いや、サービスって……」
 呆れた顔をしつつも、真久郎は貴理梨の水着姿から目を離せない。そして、下半身が急激に熱くなっているのも自覚していた。
「うふふ……興奮してるでしょ、シンちゃん。バイトの休憩時間に飲ませたコーヒー、発情効果のある貴理梨ちゃんオリジナルブレンドだからね」
 そう言って貴理梨は欲情を滲ませた笑みを浮かべる。
「ええー……コーヒーにそんな効果が?」
「コーヒーは媚薬効果がある飲み物って言われてるのよ。私も同じ物飲んだから、さっきから体が疼いてたまらないのよ」
 貴理梨は舌なめずりをすると、ゆっくりと顔を近づける。
「今夜はルアナも紗耶香もいない……二人っきりよ、真久郎。朝までたっぷり時間はあるから、ね」
 艶のある声でそう囁き、貴理梨は火照った息を真久郎に吐きかける、
 コーヒーの効果なのかどうか、すっかり股間が臨戦態勢になっている真久郎は、貴理梨の背中に手を回して抱き寄せたのだった。

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