ボロボロ 2020/09/06 00:31

【ラヴ・コラプション】番外編 過去②【先行公開】

番外編 過去②


目が覚めたら天国にいた。
アスファルトはいつのまにか本物の柔らかなベッドに変わっていて、サイドテーブルには色とりどりのサンドイッチが載った皿があった。

体を起こそうとするが、節々に激痛が走りとてもじゃないが動けない。こんなに可哀そうな死に目にあったわたしに、死んでまで痛みを与えるとは神も無慈悲なことだ。

動くのは諦めて部屋を見回してみると、そこはまるで大昔に読んだ少女漫画のお城の一室のようだった。豪奢なシャンデリアにワインレッドの厚手のカーテン。大きな窓からは太陽の光が爛々と差し込んでいる。

急に、部屋のドアがバタンと開く。
キョロキョロと挙動不審気味に部屋を観察していたわたしは、大きな音に思わず身を竦める。

「おっ、目覚ましてるじゃない!姐さーん、この子起きたよ~!」

声の主は、まるで妖艶なモデルのような女性だった。
体のラインが出る黒いドレスから延びる脚線、わたしよりも更に大きな胸。172cmはあろうかという長身も相まって、女目線で見ても垂涎もののナイスバディだ。年は、24くらいだろうか。シャープな輪郭を包み込む赤髪のショートカットがいかにも快活そうな印象を与えている。
ちんちくりんで髪もボサボサに伸び放題な私とは対極に位置するような女性だ。

「あはっ、ごめんごめん、驚かしちゃったよね。私はメグル。ここのキャストだよ。あなたは……御来屋美虹(みくりやみこ)ちゃん、だよね?」
「えっ、あ、はい……そうですけど…すみません、あの、ここって天国ですよね?」

よほど素っ頓狂な質問だと思われたのか、驚くようにパチリと目を見開いたメグルは、急に神妙な面持ちになって返答した。

「……うん、キミはもう死んじゃったんだ。残念だけど。でも大丈夫!これからはお姉さんがいっぱいキミのことを天国で可愛がって……ってイタァーーイ!!」

パチーンと気持ち良い音が響く。いつのまにか、メグルの後ろにもう一人女性がたっていた。
身長は156cmくらいだ。年齢もわたしと同じくらいに見える。

「姐さん!急に私のおケツを叩くのやめてもらっていいですか!立派なパワハラ兼セクハラですよ!訴えてやる!」
「あなたのお尻がちょうど叩きやすい高さにあるのが悪いのよ。あとメグ、さっき聞いたんだけど、あなたまた業務外でつまみ喰いしてたらしいわね。今ここで働けないカラダにしてあげてもいいのよ?」
「ヒッ……すみませんでした……。」

メグルがカサカサと部屋の端に移動していく。見た目では、メグルのほうが今入ってきた子よりも年上に見える。力関係はその逆のようだ。
そしてメグルではないほうの子がベッドの端の腰かけ、語る。

「御来屋美虹さん、はじめまして。私のことは……とりあえず”店長”って呼んでくれればいいわ。」

メグルのインパクト溢れる見た目のせいで気づかなかったが、この”店長”と名乗る女性もとても綺麗だ。真っ直ぐにわたしを見つめるエメラルドグリーンの瞳は、学校の教科書でしか見たことがない南島の海を思い出させた。艶やかな黒いセミロングの髪はゆるく内巻きが掛けられており、自身の動きとともにふるふる揺れる。

つい、ずっと聞きたかったことが口から零れた。

「あのっ……、わたし、もう死んだのに、その、まだ何かされるんですか……?」
「はぁ……ごめんなさい、それはメグルの趣味の悪い嘘。あとでキッチリ躾けておくから許してあげて。とにかく、あなたは死んでなんかないわ。」
「え……でもわたし、こんなお城みたいなところ、天国くらいしか思い浮かばないんですけど……。」
「ふふっ、あなた面白い子ね。お城のベッドの横に、コンドーム置き場があると思う?」

指さされた方を見やると、木で編まれた拳骨ほどの大きさの籠に、コンドームがキッチリ詰められていた。

「まぁ、あなたくらいの年でラブホテルなんて行かないものね。ここはね、私の経営する風俗店。『ラブ・ハイヴ』って言うの。」
「ッ……!私に体売らせるんですね……こんなことになるくらいなら、ううぅ、死ねれば良かったのに……。もうあんな想いしたくないよぉ……。」

今までの人生の辛かったとき(といっても人生の大部分が地獄だったのだが)が走馬灯のように蘇り、枯れたと思っていた涙がぽろぽろと溢れ出す。

「もう、あなたは本当にネガティブ思考ね。大丈夫、安心して。私たちはあなたの味方よ。」
「……味方?わたしの?」
「ええ、そう。味方。あなたはもうこれからずっと、怖い思いも痛い思いもしなくていいの。私たちがあなたのことを守ってあげる。」
「……そんなこと、信じられない。今までわたしのことを助けてくれた人なんて誰もいなかったのに。」
「そうよね。……これで信用してもらえるかは分からないけど、見せたいものがあるの。ちょっと刺激が強いかもしれないけど、あなたの心の回復に役立つと信じているわ。メグ、連れてきて。」

さっきまで部屋の端で震えていたメグルは喉元過ぎればなんとやら、ソファに深く腰かけスマホをいじっていた。やっと出番かという様子で立ち上がると、廊下に出て男性を4人連れてきた。

特筆するべきことがふたつあった。
ひとつは、4人とも全裸に目隠し・猿轡・鼻フックをされ、手は後ろで縛られ乳首にはローターがテープで張り付けられていること。
もうひとつは……顔を見なくてもわかる。わたしに性暴力を振るってきた男たちだということだ。

「左から順番に、あなたと同じ高校で悪魔の所業を働いた男。女性と生命を蔑視する医者。人の親を名乗る資格などない鬼畜。国家権力をダシに、数々の強○殺人を犯してきた犬。」
「ヒッ……!」
「ごめんなさい、嫌なことを思い出すことになって辛いわよね。でもお願い、あなたはもうこんなクズに支配されるあなたじゃなくなる。あなたが、今度はこの家畜どもを手懐ける番になるの。」

店長がギュッと手を握ってくれる。彼女の声と同様、ほかほかと暖かい。
店長もメグルも正体は全くわからないけど、少なくとも今まで見てきた人間たちよりずっと信頼できそうだと直感が告げる。

「メグ、やって。」
「りょーかい♡ じゃあ最初は、このブタちゃんからにしようかな♡」

一番左の、高校で同じクラスだった男が選ばれた。猿轡のせいで何を言っているかはわからないが、喉を震わせてブヒブヒと絶叫している。
メグルはそいつの後ろに立ち、腕をそっと胴に回す。男の耳元に唇を密着させ、こう呟く。

「<解除>♡」
「ン゛ッ♡ ン゛オ゛オオオオオ゛オオオ♡」

その瞬間、男がなお猛烈に叫び始めると同時にペニスから夥しい量の精液が噴出する。それはもはや人間の出す精液の量ではない。まるで彼の全身の水分がドロドロの白い粘液になって溢れ出すように、10秒、30秒、1分といつまでも異様な射精が続く。
男は膝をつき、床に崩れ落ちる。それでもまだペニスからはとぷとぷと精液が漏れ出している。

他の3人の男どもは、目隠しのせいで眼が見えていないとは言え何かを察したのだろう。ペニスをギンギンに勃起させたまま、かたかたと小さく震えている。

メグルは舌なめずりをして、顔を紅潮させ男どもに言い放つ。

「ねぇ、分かってる?あんたたちはこんなに簡単には殺さないよ♡」

わたしにとって、文字通り人生を一変させる殺戮ショーが始まった。

<続く>

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