XCOM同人小説SCOM 本作 2-1 秘密の依頼
エマ:ね、ね。毎回思うんだけど、ここの料理、美味しいよね。食器とかインテリアも綺麗だし。
エマは野菜たっぷりのチキンサンドをかじりながら、正面に座っているエイミに話しかける。
エイミ:そうだね。私も最初はびっくりしたな。もっと、地味なところを想像してたしね。学校とか、工場とかの。
そう答えたエイミは、予め一口サイズに切られた熱くて厚いチキンステーキの中で、大き目の肉をフォークで刺して口に運ぶ。
落ち着いた照明で満たされた食堂は、清潔な銀色の壁面で囲まれている。
中にはゆったりとした間隔てテーブルが置かれ、立派なバーカウンターと見間違えるほどの綺麗なオープンキッチンが壁の一角に備わっている。
食事時間は特に指定されておらず、任務や訓練の時以外は、基本的に24時間自由だ。
食事が終わっても、そのままのんびり座って、コーヒーをお代わりしながら談笑を交える兵士達も少なくない。
SCOMは体系的な軍事組織ではあるが、まだ小規模な武装集団でしかない。それにしては確かに異質な空間である。
エマ:料理が美味しいのは料理長の腕がいいからでしょうけど、こんな綺麗な設備はやっぱりエイリアンの残し物なんだよね…
もぐもぐと美味しくチキンサンドを食べながらも、妙に複雑な気分になる。
エイミ:へー、そうなんだ。中の方は結構壊れてて、作り直した物も多いって聞いたけど。こういうのはエイリアン製なのね。
エマ:そう。独特なきれいさっぱりした曲面が、なかなか真似しにくいのよ。まあ、アタシが作るのは軍事アイテムだから、そこまでデザインに拘らなくていいんだけど。
チキンサンドの最後の一切れをぱくっと口にして、冷たいアイスティーをストローで吸い上げるエマ。
エイミが待たせまいとフォークを握った手の往復を速める。
エイミ:ごめん。ちょっと待っ…もぐもぐ…
エマ:ゆっくり食べて。取り急ぎの仕事もないんだから、今週は部長も長期不在で自由研究してるようなもんだし。
ストローで氷をガチャガチャと弄びながらエマがにこりと笑う。
エイミは頬張っていた肉をやっと飲み込んだ。
エイミ:そういや、技術部の部長って誰? 私、未だに会ったことないんだよね。
エマ:えっ、そうなの? 確かに艦内の発掘作業でほぼ不在だけど…。って、アタシも入部初日以来、顔見てないな。ねえ、どんな人だと思う?
エマが目を丸くしてエイミをじっと見つめる。
が、彼女の期待を裏切って、エイミは深く考えずに即答する。
エイミ:技術部の部長だし、まま歳とった人じゃないの?
エマは軽く溜息をついた。
エマ:はあ、エイミちゃん。面白くないな。聞いて驚くなよ!
立ち上がったエマは、エイミの耳に顔を近づける。
エマ:なんと、女・子・高・生・だよ! 女子高生! 学校通ってないから女子高生ではないけど、年齢がね。まだ17歳なんだよ。すごいじゃん? 天才なんだよ。まじ、羨ましいんだけど。
エイミ:わあっ!! くすぐったい!! きゃはは!!
エイミは肩をすくめて頬を赤くしながら笑う。
拍子抜けた表情で自分の椅子に戻ったエマは、サンドイッチの包み紙とグラスを片付けて、トレーを持って立ち上がる。
エマ:アタシも初日しか会ってないけど、とにかく凄かったよ。まあ、人の目を気にしなさすぎってのはあるけど。変人って呼ばれるのも何とも思ってなさそうだった。あ、格好いい!
クスクスと笑いながら後ろに続くエイミ。二人一緒にトレーの返却口へと歩く。
エイミがトレーを返却口へ置いて振り返ろうとした、その時。
エイミ:あっ…ちょ、ちょっと。
後ろに近付いてきた大柄な二人の男兵士。エイミの真後ろに立った男がエイミのお尻をバシンと叩いた。
その音に、エマが驚いた表情で振り返る。
エマ:ちょっと! 何してんのよ、アンタたち!!
男どもはエマの抗議を聞き流してエイミの顔をじっと見つめる。
男兵士1:お前か。今回の任務で一緒に行くのは。
男兵士2:結構可愛いじゃねーか。あいつらが命懸けでやっちまったのも、まあ、分かる気がするわ。
唇を噛み締めたエイミの表情が曇る。こいつらは以前の3人組と仲間なんだろうか。
ゲス野郎共の仲間だから、こいつらもゲスなんだろう。
(プロローグ 試作1−7 退院前日 をご参照ください。)
エイミ:ふん。あのゴミ達の仲間なのね。用件がないならどいてくれる?
エイミは冷たい表情でエマの手を握り、食堂の出口へと進む。
それを逃さまいと、男はエイミの肩を捕まえて振り向かせる。
男兵士2:おや? 最近の新人さんは礼儀がなってないな。先輩に対して、そんなふざけた態度でいいって親に教わったのか?
エイミがちらっと男のジャケットの袖を確認する。逆三角形を二つ重ねた階級章。
彼らは二人とも軍曹だった。
エイミみたいな一等兵や熟練兵の伍長とは違って、ちょっとした任務では分隊長も任される、割とベテラン兵士なのである。
エイミ:くっ…すみません…でした。でも、その前に…
謝りながらも、悔しい感情を隠さないエイミの話を大人しそうな男兵士が遮る。
男兵士1:お前も謝っとけ。余計な騒ぎを起こすな。
男兵士2:ちっ。悪かったよ。
チャラい雰囲気の男が、エイミには目もくれず、軽く謝った。
エイミ:あの、今、誰に謝ったんですか? それじゃ…
大人しそうな兵士が、またエイミの話を遮る。
男兵士1:その辺にしといてくれ。明日、任務のブリーフィングがある。難しい任務ではないが、チーム内でギクシャクしては,いくら簡単な任務でも支障をきたす。では、また。
そういって、チャラい兵士の背中を押しながら、二人は食堂を出て行った。
エイミは納得の行かない表情で、彼らの後ろ姿を睨みつける。
小規模の武装集団であるSCOMは、正式な軍隊と比べると、かなり自由奔放な雰囲気なのである。とはいうものの、明確な階級があり、入団の時期によって、上下関係が成立し、それらに係る不条理が発生する。
いくら小さくてフリーな組織といっても、軍事組織はそういうものなのだ。
エマが心配そうな目でエイミの手を掴んだ。
エマ:大丈夫? アタシ、力になってあげられなくて、ごめん…
エイミ:大丈夫。あんな奴らばかりじゃないから。ありがとう。
エイミが不安がるエマを慰める。
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ウィル: 俺ら3人組は今から、1キロ離れた地点に落ちたアドヴェントのコンテナー回収に向かう。マーティン軍曹。エイミ一等兵。ついてこい。
マーティン:へーい。
「はい。」
私は短く答えてライフルを構える。そして、数日前、食堂で絡まった二人の後ろを歩く。
ここは北アメリカ西部の荒野。トラップで破壊されたアドヴェント軍の輸送列車から、物資を回収するために来ている。
今回の編成は4人分隊。分隊長を務める中尉一人と、例の軍曹二人。そして、一等兵の私がワンチームとなった。
列車の護衛部隊は、トラップで吹き飛ばされた時、大多数が巻き込まれて死亡したそうだ。
残り少ない敵を手際よく仕留めた後、物資の入ったコンテナーを二人一組で持ち上げて、一ヶ所に集めた。
百数十キロ、いや、中には数百キロの物もありそう。でも、そこはSCOMのパワードスーツが力を発揮する。
私みたいな細柄の女の子でも、それほど疲れることもなく、十何個もコンテナーを運べた。
まあ、それ以前に、あんな重い物を軽々と持ち上げられる時点で凄いんだけど。
で、一仕事終わったと思ったら、分隊長を除いた3人で、少し遠く飛ばされたコンテナーを回収しにいくことになったのだ。
ゴーグルのHUDに表示された目標地点に向かって、私は前を行く二人を黙々とついていく。
二人は私に構わず、ずっと何かおしゃべりしながら、すたすたと先に進んでいく。
大人しそうな印象で、落ち着いた口調のウィル軍曹。
そして、チャラチャラとした大げさな口調のマーティン軍曹。
難しい任務ではないと、この前、食堂で言っていたな。
確かに、ちゃんとした下準備があって、トラップも上手く作動したみたいで、戦闘も大したことはなかった。
まあ、初出動の任務と比べたら…大違いだ。
改めて思い出すと、本当に酷かった。同期だった男の新兵は一瞬で胸を貫かれ即死し、私は…
うう、もうこれ以上は考えたくもない。
マーティン:あれ。トルーパーが3名様。コンテナーに近づいているぞ。あれだけでも持ち帰るってのか。ケチだな。エイリアン様も。
ウィル:一旦隠れる。少し様子をみよう。散開。
私も適当な岩を見つけて身を隠す。周りは崖から崩れ落ちた大きい岩や、吹き飛んだ列車のがれき等が点々と散らかっている。遮蔽物として利用できるものは結構ある方だ。
マーティン:良いチャンスじゃねーか? 敵も下っ端の奴らだし、ここならバレる心配もないしよ。
ウィル:確かにそうだ。とりあえず、一人は減らそうか。
バレる? 一人?
こういう場合は一斉攻撃で、一網打尽するのが基本では?
トルーパーは人型のエイリアンで、現在、地球の治安を担当しているアドヴェント軍の一般歩兵である。ライフル射撃が上手くて、人間の倍以上の体力と筋力を持っている。
ただし、彼らの言うとおり、エイリアン軍全体の中では末端の兵士だ。SCOMの軍曹位のレベルなら一人や二人は簡単に倒せるはず。
しかし、3人、もしくは4人分隊で行動するときは、ぴったりと噛みあって回る歯車の様に、テキパキと組織的な戦闘を繰り広げるので油断は禁物だ。
今はいないんだけど、オフィサーという指揮官がいるとき、奴らの戦術的行動はさらに精錬されて、結構厄介な存在に変わる。
という戦術教本の内容を、私は自分の身を持って知っている。
と疑問を抱いていると、二人の軍曹はいきなり遮蔽物から身を乗り出して、一人のトルーパーに集中射撃を行う。
SCOMの大口径ライフル弾で、ずたずたと打ち抜かれたトルーパーがパタンと倒れた。
「あ、あの、私は何の指示ももらってないんですけど…」
先に手榴弾を投擲すべきなのでは?
もしかして、コンテナーが巻き込まれて破壊されるのを裂けたいんだろうか。
ウィル:お前はまだ敵に位置が特定されていない。右の奴に突撃しろ。
「はい、分かりました!」
やっぱり、そういうことなんですね。コンテナーが壊されないよう、手榴弾を使わない作戦でしたか。
一人のトルーパーなら私のプラズマブレードで一撃だ。残った一人はあの二人が簡単に仕留められるはず。
エイリアンの前でビビって、弾倉1個分、全弾外した頃の私はもういないんだから。
潔くダッシュし、オレンジ色で光る剣を頭の上まで大きく振り上げる。
ドカン!!
周りを真っ白な空間に変える眩しい光。
閃光弾だ。
視力を一時的に失った私は、とりあえず転ばない様に着地して、剣を握り直す。
どこだ。敵も視力を失ったはず。私が先にやっつけないと。
いや。そもそも、何でこのタイミングで閃光弾を投げられた?
ちょっと待って。この匂い。例のエイリアンの性欲増幅剤入り特殊手榴弾の煙幕だわ。
私には分かる。だって、あの初任務の時…
(プロローグ 試作1−3 初戦闘 をご参照ください。)
「ちょっと何なんですか!! 今これ使うとこじゃないでしょ⁈ 普通に仕留められたじゃないですか!」
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