時 自若 2022/12/24 08:15

今生のローダンセ 第38話 欲望にかられるクリスマスイブ

クリスマスイヴである。
「ただいま」
軽く走ってきた彼が戻ってきた。
「寒いでしょ」
「さすがに冬だなとは思ったな」
ここではコートなどは着て走るが、仕事の場合はそういったものが間に合わない時もあるから、日頃からの慣れも大事である。
衣服類がそれを合わせたものになっていた。
だが今日はクリスマスイヴ、クリスマスイヴなのだ。
そこにコール音。
「はい、もしもし」
「あの~休みを取ってるところ悪いんだけども」
申し訳ない気持ちと断ってほしくないで、連絡するのを頼まれたようだ。
「…すまん、仕事だ」
「はいはい」
「三時ぐらいには終わるから、三時ぐらいには!」
今日も一緒に過ごすつもりでした。
「シャワーは?」
「使う。ああ、それと着替え、着替え」
「出しておくわ」
「悪い」
そういってバタバタ書類を鞄にまとめあけた後に、シャワーを使う。
(あ~今日は一緒にいて、お出かけするつもりだったんだがな)
人が足りないのもわかっている。
ままならないものであった。
現場に行くと、凄惨で、ああこれは自分が呼ばれるなといった感じ。
若手が臭いで辛そうにしてる。
「無理はしないでくれ、マスク類の装備をした方がいい」
「ありがとうございます」
臨時で呼ばれた男はさっさっと気を回して、仕事をサクサクと片付けていく。
「先に上がってくれよ」
「いいんですか?」
「特別手当て分は働いたさ、一番大変なところをお前さんがやってくれたからな」
「わかりました」
このまま帰るにしても、それこそ臭いでダメだろう。
着用しているものは血やら何やらの臭いで汚れている。
こういう現場に商売しに来るものがいて、キョロキョロと探すと顔馴染みがいた。
「チッス!」
「すまないが着替えを」
「は~い、お任せください、サイズはいつもので」
「ああ、お願いする」
馴染みなので、服のサイズや好みも把握されていた。
「これからデートします?」
「するが、一度家に戻る」
「…わかりました」
あっ、これ、ジョークで言ったら本気で返されたタイプだ
「お待たせしました」
支払いになるが、あれ?いつもより安くない?
「身罷の大家関係は、誠実な商売をした方が気を回してもらえますから、先月ぐらいから値下がりしてて、今日はお帰りは?」
「送迎される」
「ああ、ではちょうどいいですね」
それでドサッと箱で他のものもセットとして持って帰ることになった。
「いいのか?」
「いいです、たぶん見れば意味がわかりますから」
「わかったそのまま渡そう」
「そことは別にこちら買いません?」
「なんだ?」
「知己のレストランのテイクアウト付きの映画鑑賞チケット」
「映画の内容にもよるんだが…」
「そこはほら、わかってますよ、ここでサメ映画見てもね」
クリスマスイヴにサメ映画?最高やんけ!
(なんか今、どっかと混線したな)
「ヤドリギ、アカミヤのキスを原作とした、クリスマスにベタすぎる恋愛ものです」
「買おう」
「ありがとうございます、テイクアウトの方は、本日からお正月まで引き換えできるもので、あっ、ええっと彼女さん?詳しい人ならば聞いてみたら…」
商人は彼女が同一人物だと思ってません、身罷の大家関係の人に紹介されたのかな?と思ってます、実際に紹介されて断ってるのを見てましたから。
連絡したら。
それならばもう1セット買ってほしいとのこと。
「あざす」
「そのレストラン、かなりの腕があるみたいだしな」
「そうなんですよ、ただ…腕がある人にありがちな、宣伝がね」
「ああ、なるほど、結構値段がはると思ったが、ほぼ食材で消えるのか」
「いい食材扱わせると、イキイキする人なんで…こういうときにさせてあげないと」
「まあ、うちは助かるがな」
ここで笑ったのを見ると、いい人と付き合ったんだなと思うのだ。
「よいクリスマスを」
「おう!そっちもな」

「それでさ、ちょっと…お願いがあるんですけどもね」
「何かしら」
「映画を見た後にですね、その、映画のようなキスしてもいいですかね」
「?」
「ああ、ええっとですね、この映画はヤドリギという名前なんですが、クリスマスにこの下でキスをすると幸せになり、家庭円満、ずっとハッビーに」
チュ
キスの不意討ち。
「ここでそういうのは早いだろう?」
そういってお返しのキスをしてきた。
(映画行かないで、このまま部屋ですごそうかな)
そういった欲望にかられるクリスマスイブ。

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