恐怖のあまりに大決壊!4
うんちをしに旧校舎の女子トイレにまでやってきた千尋。
しかしそんなときに脳裏をよぎるのは学校の怪談。
トントンッ、トントンッ。
個室のなかで無様な姿を晒しながらも気を失った千尋――。
そんなことを知らずに、ドアの外では一人の少女がノックし続けていた。
スラッとしたスタイルで、手足も大人のように伸びた、黒髪おかっぱの少女……。
それは蓮に違いなかった。
「千尋ちゃん……? 千尋ちゃーん」
蓮は、それはそれは控えめな声で個室の中にいるであろう千尋の名前を呼び続ける。
その声が、個室の中にまで届いていないとは知らずに。
ただ、ノックの音だけが届いているとも知らずに。
「なんか、様子が変……?」
蓮はノックをやめて、耳を澄ませてみる。
しばらくすると……。
ブリブリブリッ。
ビチッ! ビチビチビチ!
どうやらちゃんと『出してる』みたいだけど……、それにしてはなんの返事がないのは奇妙な話だった。
せめて、ノックくらい返してくれてもいいのに。
「千尋ちゃん、千尋ちゃーん」
呼びかけても、なんの返事もない。
そもそも、なんで蓮がここにやってきたのかというと。
「私も、うんちするときは旧校舎ですることにしてるんだけどなー。けど、まさか千尋ちゃんもこの穴場を知っていたとは……」
実は蓮もお腹を壊してしまったときは旧校舎のトイレのお世話になることにしていたのだ。
今日は偶然にも蓮もお腹の調子が悪くて、千尋ちゃんの背中を追いかけていたらここにやってきたというわけだ。
「千尋ちゃーん。一番奥のおトイレ、もう紙がないよー」
呼びかけてみるけど返事はない。
この一番奥の個室に紙がないのは蓮が一番よく知っていた。
なにしろ、この前この個室でトイレットペーパーを使い切ったのは蓮自身なのだ。
旧校舎のトイレは、滅多に紙が補充されないから千尋に教えておこうと思ったのだが……。
だけど、肝心の千尋からの返事がなにもない。
「千尋ちゃーん。いるんでしょう?」
耳を澄ませていると――、
しゅいいいいいいいいい……。
かすかな、本当にかすかなくぐもった水音が聞こえてきた。
どうやら用を足してはいるみたいだけど……、
「だけど、やっぱり拭けないと困っちゃうよね」
個室の前でそんなことを考えていたときだ。
「えっ?」
蓮は、ある異変に気がついて、後ずさってしまった。
なにしろ、個室へと続くドア……その足元の隙間から、大きな水たまりが広がってきたのだ。
「うわわっ。なに、これ」
ビックリしてよく見てみると、その水たまりにはお粥のようなものが溶けていて、この女子トイレよりもキツい臭いを放っているようだった。
もしかして、この水たまりは千尋ちゃんの……?
「千尋ちゃん、大丈夫? おーい、大丈夫ですかー? お客さん、終点ですよー」
ヒソヒソ声出呼びかけても、しかしどんなに待っても返事はない。
その代わりに、ドアの下から広がっている水たまりは、更に大きさを増していた。
「ちょっと失礼しますねー」
近くにあった大きめのバケツをひっくり返して、その上に乗って個室の中を覗き込んでみると……、
「ち、千尋ちゃん!?」
上から個室を覗き込んで、蓮は目を疑ってしまった。
なにしろ千尋が壁を背にして、Mの字に脚を開いたまま気絶していたのだ。
スカートが捲れ上がって丸見えになっているしましまショーツは、お粥のような下痢にパンパンに膨らんでいて、足口からも溢れ出していた。
千尋のお尻を中心として大きな湖を作り出しているのは……、おしっこ、なのだろう。
そのレモン色の体液にお粥のような下痢が溶け込んで濁り、個室の外にまで広がっている。
ドアの下から広がってきた水たまりは、どうやら千尋ちゃんのおしっこで間違いないらしい。
「だけど、なんで目の前におトイレあるのに……。なにかに怖がってたみたい……。あ、それに紙は補給されてたんだ」
まさか自分に原因があるとも知らずに、蓮は首をかしげてみせる。
だけどいつまでもバケツの上に立って覗き込んでいる場合じゃなかった。
「千尋ちゃんを起こさないと、だね」
蓮は一度バケツから降りると、トイレから出ていく。
そして近くの教室から机や椅子を持ってきて、個室のすぐ脇に積み上げていく。
蓮が何度か教室とトイレを往復すると、机と椅子で個室に簡単に入ることができる階段を作ることができた。
「よいしょ、よいしょっと……」
今にも倒れそうな即席の階段を、バランスを取りながら登っていき……、蓮はなんの躊躇いもなく、千尋が気を失っている個室へとジャンプする。
「んっ!」
着地したときにちょっとだけ脚が痛かったけど、これくらいの痛みなら千尋ちゃんのためなのだ。なんてことはない。
「千尋ちゃん、千尋ちゃん……大丈夫? こんなところでどうしたの?」
蓮は穢れた湖に、なんの躊躇いもなく踏み込むと、千尋の身体を抱えるようにして揺り動かす。
するとすぐに千尋は意識を取り戻してくれた。
「ん、んんん……?」
「千尋ちゃん、大丈夫?」
「あれ、ここはどこ……? ボクはなんで寝てたの……?」
「よかった……。千尋ちゃん、どこか痛いところない? 誰かに酷い目に遭わされたりしてない?」
「ボクは……平気だけど……。あれ、なんかおまたが変な感じがする……なんでだろ……あっ」
この時になって千尋は気がついたらしい。
自分がおしっこばかりか下痢までも漏らしてショーツをパンパンに膨らませていることに。
「う、うそ……。なんで……? ボク、漏らしちゃったの……?」
「私が来たときには、もうこうなってたけど……、なにがあったの? 話せることがあったら話してくれたら嬉しいな」
「そんな……恥ずかしすぎるよ……」
「なにかここであったの?」
「そ、それは……」
千尋は気まずそうにスカートの裾を整えると、下痢でパンパンになっているショーツを隠す。
それでも個室に漂う濃密な腐敗臭と、大きな湖を隠しきれるはずもなくて。
観念したかのように、千尋は消え入りそうな声で呟くのだった。
「誰かが、外からノックしてきて……、それで怖くなって……」
「ちょっと待って、ノックしたのって私だよ。千尋ちゃんに紙がないって教えてあげようと思って」
「えっ?」
「紙がないって……」
「でも、まだたくさんあるけど」
「うん。補給されてたみたい。この前、私が最後に使っちゃったから、それで千尋ちゃん困るんじゃないかと思って教えておこうと思って……」
「……と、言うことは、外からのノックって、もしかして……蓮ちゃんだったの?」
「……うん」
「はあぁぁぁぁぁ……」
よほど千尋は怖かったのだろう。
千尋はどこか安堵感が混じった深くため息をついてみせた。
「ボクはてっきり、学校の怪談なのかと……」
「……えっ、千尋ちゃん、怪談なんて信じてるの?」
「悪い? 怖かったんだから」
「ううん。怖がりな千尋ちゃんも可愛い♪」
ギュッと抱きつくと、胸のなかで千尋はムガムガと暴れている。それでも蓮はしばらく小さな少女の身体を離さなかった。
こうしたまま、多分五分くらい経ったと思う。
千尋も諦めてくれたのか大人しくなったころになって、ようやく蓮は抱擁を解いた。
「そろそろ落ち着いてくれたかな」
「うん。もう大丈夫、だけど……」
「おぱんつ、交換しないとね。次の授業は体育だから、ブルマ持ってくるよ。千尋ちゃんはそのあいだにおまた綺麗にしておいてね」
「お、お願いします……」
☆
蓮が教室へと体操袋を持ってきて、旧校舎のトイレに戻ってきたのは十分くらい経ってからだった。
「おーい、千尋ちゃーん。ブルマと体操服、持ってきたよー」
「ありがと、蓮ちゃん」
「投げ入れるから、ちゃんと受け取ってね」
「うん」
千尋の返事を待ってから、蓮は持ってきた体操袋を個室へと投げ入れる。
体操袋の中には千尋の体操シャツと、紺色ブルマ、それに――。
「蓮ちゃん、なんか可愛いショーツが入ってるんだけど」
「えへへ。それ、私のお気に入りのネコさんショーツ。替えのショーツは念のためにいつも用意してあるの。今日は千尋ちゃんに貸してあげるよ」
「あ、ありがとう……」
「ビニール袋も入れておいたから、汚しちゃったショーツはその中に入れておいて」
「うん。さすが蓮ちゃん、準備がいいね」
「そんなことないよ」
遠慮がちに呟くと、蓮も隣の個室へと入って体操服に着替えていく。
二人の着替えは五分ほどで終わった。
そろそろ急がないと体育の授業に間に合わないかも知れない。旧校舎から昇降口で靴を履きかえてグラウンドに向かうのは、意外と距離があるのだ。
「……蓮ちゃん、変なところ、ないかな」
個室から出てきた千尋は、どこかへっぴり腰になっていた。
ブルマを穿いているから、余計にお尻が後ろに引けているのが分かってしまう。
さっきまでうんちでパンパンになっていたショーツを穿いていたのだから無理はないのだろうけど。
きっと、個室の中では千尋は汚泥に塗れてドロドロになった秘部やお尻を、何回もティッシュで拭っていたに違いなかった。
「もっと背筋をシャキッと伸ばした方がいいと思うな。その方が千尋ちゃんらしいし」
「で、でも……、変なところ、ない? おまた、汚くない?」
「おまたが汚いなら、千尋ちゃんにショーツなんて貸したりしないんだから」
「う、うん……。蓮ちゃんのネコさんショーツがついててくれるんだもんね。ボク、頑張るっ」
「それでこそ私の白馬の王子様なの」
☆
蓮のとっさの機転もあって、千尋は学校でうんちを漏らしたことを誰にも知られることなく体育の授業を受けることができた。
だけどただでさえ真夏の直射日光が降り注ぐ、真っ白なグラウンド。
しかも千尋は身体を動かすのが大好きだから、蓮のショーツを穿いていることも忘れて跳んだり跳ねたりしているうちに、すっかりネコさんショーツは汗を吸ってぐしょぐしょに濡れていた。
そのことに千尋が気づいたのは、体育の授業を終えてからのことだった。
女子更衣室の同じ個室で着替えていると、千尋はそれはそれは気まずそうに口を開くのだった。
「……蓮ちゃん。ぱんつ、汗でぐしょぐしょになっちゃったから、明日洗って返すね」
「えー。そのまま返してくれてもいいのにー」
「さすがにそれはボクが恥ずかしいよ」
頬を赤らめると、千尋は体操シャツとブルマを綺麗にたたんで巾着袋に入れてしまった。
蓮としては、そのまま返してくれても、まったく問題なかったのだけど……。
まさかそのことを千尋にいうわけにもいかず、蓮も大人しく体操シャツとブルマを袋にしまって、白のワンピースに着替えていくのだった。
この小説は、大決壊! 誰にも言えないに収録されている作品です。
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