文学少女の露出癖1
眼鏡少女の神崎繭。
繭には、誰にも言えない秘密があった――。
📖神崎繭~文学少女の露出癖~
(はぁ……、ロミオよロミオ、か……)
ザワザワと落ち着かない、教室の休み時間。
窓際の席に座って、無心に文庫本に視線を落としていた少女は、憂鬱げなため息をつくと、ふと空を見上げた。
教室の窓から見上げる夏の青空は四角く切り取られていて、こうして見上げていると、自分はなんて狭い世界に生きているのだろうと思い知らされる。
「この世界にはロミオなんていないんだよね。それに、私もジュリエットなんかにはなれないんだ」
モクモクと大きく隆起している入道雲を眺めながら――、
「はぁ……」
再び、ため息。
重ねるように何度もため息をつくのがこの少女の癖だった。
この少女の名前を、
神崎繭(かんざき まゆ)
と言った。
やや癖のある黒髪は肩ほどで無造作に切り揃えられていて、ところどころに寝癖が立っている。
まん丸メガネをかけた瞳はトロンと眠そうに垂れていて、見ようによってはジト目にも見えた。
(抜けるような青空なのに、私はこうして本を読んで、空を飛ぶところもできない。想像することしかできない。あのカラスみたいに空を飛べたらいいのになー)
はあ……。
再び、ため息。
シックな藍色のブレザーに包まれているふっくらとした胸が、これまた小さく上下する。
(あーあ。私もこんなに熱い恋愛してみたいのに)
シェークスピアを読みながら、繭はそんなことを夢見る。
だけど、夢と現実というのは、あまりにも落差があるようで。
「……あっ」
繭は、思わず小さな声を漏らしてしまう。
プシュッ、
しゅいいいいいい……。
股間に感じられるのは、生温かい液体の感触。
繭は、極端に尿道が緩くて、しかも人並み外れて物事に集中してしまう癖があった。
尿意さえも忘れてしまうほどに。
切迫性尿失禁――、
それは、繭の誰にも言えない秘密だった。
トイレに行きたいと思ったときには、もう手遅れなのだ。
「あっ、あぁ……出ちゃってる……。おしっこ、でちゃってるの」
しゅいいいいいい……。
股間から放たれる、背徳的な温もり。
それは股間からお尻の方へと広がっていくと、繭のお尻を優しく撫で回しているようでもある。
(ああ、またおもらししちゃったんだ……)
恥ずかしさと、自分の身体の至らなさに軽く唇を噛みしめる。
だけど、普通の女子だったら教室でおもらしなんかしたら大惨事になることだろう。
だけど、繭の場合は違った。
しょわわわわわわ……。
なんの躊躇いもなく放たれる尿意は、スカートから染み出してくることなく、すべてが納まっていた。
(おむつ、温かくしちゃった……)
そう。
繭は、丈の長いスカートのなかに紙おむつを穿いて生活しているのだ。
それも、大人の介護用の紙おむつを。
もこもこの大きな紙おむつを充てていなければ安心できないほど、繭の尿道は緩かった。
じょぼぼ、
じょぼぼぼぼぼぼぼ……。
おむつの裏側におしっこが弾けて、もこもこと膨らんでいく。
お尻の方まで生温かくなって入道雲のように膨らんでいくのは、何度味わっても慣れないものだった。
(また教室でおもらししちゃってるんだ……。昨日も、おとといも、何回もおもらししちゃうなんて、なんてダメな子なんだろう)
それでも――、
いつものこととは言え、教室で尿意を放ってしまうと言うのは思春期の少女にとっては恥ずかしいものだった。
(お願い、早く終わって)
身体が勝手におしっこを垂れ流し、繭の頬はほんのりと桃色に染まってしまう。
その様子に、一人の女子生徒が気づいた。
クラスメートの、面倒見がいい委員長だ。
「繭ちゃん? 風邪でも引いたの? なんか顔が赤いけど」
「な、なんでも、ない、の……っ」
プシュウッ!
なんとか返事をするけど、おむつの中でおしっこが噴きだしてしまった。
(あっ、あああ! おしっこ噴き出しちゃった! 委員長に見られてるのに! おしっこ、おむつの中で弾けて……、お尻に広がっていってるよぉ……!)
見られながら漏らすというのは、繭にとってはあまりにも刺激が強すぎた。
しょわわわわわわわ……。
なんの躊躇いもなくおしっこが垂れ流され、繭のお尻を撫で回していく。
それでも、なんとか顔に出さずにいると、
「そう? 繭ちゃんが平気って言うんなら大丈夫なんだろうけど……、無理そうだったら保健室、行こうね」
「うん、ありがとう。心配してくれて」
ブルルッ!
プシュウ!
なんとか返事をすると、それと同時に繭は小さな身体を大きくする震わせて、最後の一滴を噴出させた。
(全部、出しちゃった。おむつ重たくなってる)
繭が充てているのは、介護用のテープタイプの紙おむつだった。
だからよほどたくさん水を飲まない限りは、おむつから溢れ出してくるということはそうそうない。
その代わり、おしっこをしたぶんだけずっしりと重たくなるのがツラいところだけど。
(そのために、スカート長くしてあるんだもんね)
繭が穿いているスカートは、他の女子生徒よりもちょっとだけ長くしてあった。
みんなは内気な繭が、脚を隠すためにスカート丈を長くしていると思っている。
だけどそれがまさか介護用の紙おむつを隠すためだとは、誰も想像さえもしないだろう。
☆
「もう、こんな時間になってたんだ」
ふと繭が顔を上げると、窓に四角く切り取られた夜空には星が瞬いていた。
放課後の図書室――。
繭は長机の端っこの席に座って、何冊ものハードカバーの本を積み上げては、読み崩していた。
ハードカバーはお店で買おうとすると高いし、それに学校に持ってくるにしては重たすぎる。
だから繭は放課後の図書室に入り浸っては、たくさんの本を読むことにしていた。
集中しすぎると、時間さえも忘れて読書してしまうほどに。
「もう夜になってる……。それに、ううっ」
椅子から立ち上がろうとして、繭は顔をしかめてしまった。
繭が一日中充てていた紙おむつは、おしっこを吸いきってずっしりと重たくなっていたのだ。
(こんなに重たくなってるなんて。きっと読書してるあいだにも漏らしちゃってたんだ……)
集中力が高すぎる自分が嫌になってしまう。
それでもずっと図書室にいるわけにはいかなかった。
もうすぐ警備員さんが戸締まりにくることだろう。
集中して読書をしているから、繭はよく下校時間を過ぎても本を読んでいることがあった。
だから警備員さんに顔を覚えられているほどだった。
(そろそろ帰ろうかな)
重たくなっている紙おむつは、ブヨブヨになって冷たくなっていた。
それでも繭は、平然とした表情でハードカバーの本を片付けていく。
女の子は、少しくらい下半身に違和感があっても平然としていないといけないのだ。
この小説は、大決壊! 誰にも言えないに収録されている作品です。
フルカラーのイラストもありますので、気になった方は購入してもらえると創作活動の励みになります。