しつけて委員長5
おむつバレ!
(おむつ、交換してこないと)
授業が終わった昼休み。
ツンと澄ました顔でさりげなく席を立ったのは円華だった。
だけど澄ました顔をしていても、お尻を包み込んでいる紙おむつはおしっこで重たくなっていて、今にも落ちそうになっているほどだった。
だけどミニにしているスカートはしっかりおむつでおもらしをしたときのことを計算した丈にしてあるから『オムちら』ということはないはずだ。
円華が通っているつぼみ学園は、学食派と弁当派、そして持ち込み派に分かれている。
円華はいつも登校するときにパンを買って食べることにしているけど、その前に濡れてしまったおむつを交換しておきたかった。
(おトイレで交換しよ)
おむつとパンが入っているカバンを手に取ると、気怠げに教室を出て行き――、
だが、教室のドアを出ようとした、そのときだった。
その前に男子生徒が現れたかと思ったら、ドンッ!
「きゃっ」
円華は勢いよくその男子とぶつかってしまったのだ。
ただでさえおむつに気を取られていたから、円華は無防備にもM字に脚を開いて尻餅をついてしまっていた。
スカートが捲れ上がり、鮮やかなレモン色に染まった紙おむつがご開帳されてしまう。
グジュッ!
円華のおしっこを吸いきってブヨブヨになっている紙おむつが、お尻と床に潰れる。
尻餅の振動に、円華の貧弱な尿道が耐えられるはずがなかった。
しょわわわわわ~。
おむつにどんなに尿意を放ったといっても、それでもどこか躊躇いがあったのだろう。
膀胱に溜まっていた残尿が漏れ出してきて、股間がジンワリと生温かくなる。
「あっ! あっ! あっ!」
引き攣るような悲鳴を上げる円華。
しかし今までたくさんの円華のおしっこを吸収しきった紙おむつは、ついに力尽きてしまう。
しゅいいいいい……。
くぐもった水音とともに、おむつの足口から横漏れしてきてしまったのだ。
少量とはいえ、レモン色の恥水が教室の床に広がっていく。
だけど、円華自身は尻餅をついた痛みのあまり、そしておむつの気持ち悪い感触にばかり気を取られて余裕が無い。
M字に脚を開いておむつを晒していることも、おしっこが横漏れしていることにも気づいていない。
無防備に、おむつを晒し続けている。
……目の前に立っている男子……長政の視線が、おむつに釘付けになっていることも知らずに。
「えっ? 委員長……、それって、おむつ!?」
「ふぇ? あっ、ちょっ、これは……!!」
慌ててスカートでおむつを隠すも、もはや手遅れ。
長政にばっちりおむつを見られてしまっている。しかも鮮やかなレモン色に染まっていて、おしっこが横漏れしているところも。
「あ、あの、これは、その……!」
頬から出そうなくらい熱くなって、この場から逃げようと立ち上がろうとするも、あまりの羞恥心に腰が抜けてしまったのだろう。
立ち上がることさえもできなかった。
「あの、これは、これは、これは……!」
こうなってしまうと、円華は壊れたラジカセのように何度も同じ言葉を繰り返すことしかできなくなる。
それでも、恥ずかしい状況が終わってくれるはずはなく――。
「きゅう~~~」
尻餅をついたまま円華はついにオーバーヒートしてしまう。
目を回し、後ろに倒れ込み……そうなったところを、咄嗟に長政に抱きかかえられて、頭を打つことはなかったけど。
それでもただでさえ落ち着きのない昼休みの教室は、ちょっとした騒ぎになってしまった。
『どうしたんだ?』
『なに? 委員長、倒れたの?』
『体調でも悪かったのか?』
『御影のやつ、ちゃっかり委員長に抱きついてるぞ。やつが諸悪の根源か?』
長政にとっては事故もいいところだった。
だけど幸いなことに円華の紙おむつに気づいている生徒は誰もいないらしい。
(ここは委員長の尊厳を守らなければ……!)
困っている人を見ると、放っておけないのが長政だった。
咄嗟に円華を抱きかかえ、ついでに円華のカバンを持つと、教室を飛び出していた。
☆
「さて、どうしたものか」
保健室のベッドサイドで戸惑っていたのは長政だった。
咄嗟の判断で円華を保健室へと運び込んで、ベッドに寝かせてみたものの、これからどうすればいいのかサッパリわからない。
保健の先生に任せておきたいところだけど、運が悪いことに保健の先生どころか一人の生徒さえもいない状態だった。
(俺の見間違いでなければ、委員長のスカートのなかには……)
長政だって男なのだ。
女子のスカートが捲れ上がれば見てしまうし、脳内メモリーに焼き付いてしまう。
これは男の悲しいサガってやつなのだ。
そして長政の脳内メモリーにも、しっかりと焼き付けられていた。
(委員長が、おむつ充ててた? しかもレモン色に染まっていたということは……)
あの真面目な委員長が、授業中におもらしをしていたということだろうか?
その事実に驚いてしまうけど、きっとそういう体質なのだろう。
昨日の公園でのおもらしの一件も、秘密の失敗と言うことならば説明はつく。
だからそのことを笑うのは、最低な奴がすることだ。
(それにしてもこうして見ると、委員長って意外と可愛いんだな)
まくらに散った黒髪はツヤツヤしてて、眉毛も形よくカールしている。
メガネの奥の素顔は、人魚のように可愛らしかった。
いつも不機嫌そうにしてる真面目な委員長も、無防備な寝顔は可愛いようだ。
(……って、俺はなに委員長に見とれてるんだよ)
今は委員長に見とれている場合ではない。
こんなに可愛い委員長のスカートのなかには、おしっこに濡れた紙おむつがあるのだ。
可愛い委員長のお尻を包み込んでいるのは、赤ん坊のような紙おむつ……。
それはなんだかとても背徳的なことのように思えた。
(まずい。変な気分になってきたぞ。……ときに、俺はどうすればいいんだ? 委員長が起きるまで待つ? それとも寝てる委員長を置いて教室に戻るか?)
もしも委員長が目を覚ましたとして、おむつを交換することになるのだろう。
そのときに隣にいるわけにもいかないし。
ここは一つ、書き置きでもして教室に帰った方がいいだろう。
ベッドサイドの小さな机にあったメモ帳に書き置きを残して立ち去ろうと――、
そのときだった。
「ん、んん……」
円華の眉目が微かに歪むと、やや吊り目気味の黒瞳が開かれてしまう。
円華は気怠げに身体を起こすけど、しかしまだ状況が飲み込めていないらしい。
目を擦りながら、座り気味の目つきでキョロキョロとあたりを見回していた。
「ここは……、保健室? 私、なんでこんなところにいるのかしら? ……あれ、御影君?」
「よ、よう」
長政は頬を引き攣らせてしまう。
面倒なことに巻き込まれたものだ。
ここで逃げ切ることができていれば、円華も自分の失態を思いだして早退なりなんなりしてくれただろうに。
だけど、こうなってしまった以上は、逃げようがない。
「あっ」
円華が短い悲鳴を漏らす。
恐らく、思いだしてしまったのだろう。
自らの失態を。
教室で長政とぶつかり、尻餅をついておむつを見られ、しかもおしっこを横漏れさせて気絶してしまったことを。
円華の頬が、みるみる赤くなっていく。
「大丈夫、クラスのみんなには見られてないと思うから」
「うう……、でも、御影君は見たんでしょう……?」
「そりゃあ、まあ」
「変だと思ったでしょ。学校でお、お、おおお、おむつ、穿いてるなんて」
「いや、そんなことは全然思ってないよ。そのことを笑う奴がいたとしたら、きっと最低な奴だと思うから」
「……笑わ、ないの?」
「ビックリはしたけど、笑ったりなんかしないよ、俺は」
「そ、そうなんだ……」
円華はベッドの上であひる座りして、内股をもじもじと擦り合わせてみせる。
セーラー服のスカートのなかには蒸れ蒸れおむつを穿いているのだ。きっと気持ち悪いのだろう。
昨日も公園で漏らしてしまったようだし、今日だっておむつを穿いてきている。
なにか困っていることがあれば助けてあげたいところだが……。
「委員長って、その……漏らしやすいのか?」
「そ、そんなことないわよっ」
さすがにストレートに聞きすぎただろうか。
円華は頬を真っ赤にして睨み付けてくる。
それっきり保健室に気まずい沈黙が落ちてくる。
……が。
円華は、視線を逸らしながらも、恥ずかしそうに口を開くのだった。
「その……笑わない?」
「たぶん」
「たぶんって、なによ、それ」
「笑うかも知れないから」
「もう、意地悪なんだから。でも御影君、私のおむつを笑わなかったし。だから知っておいて欲しいの」
「お、おう」
円華の声のトーンが落ちる。
それから待つこと二十秒ほど。
円華は、ゆっくりと口を開くのだった。
「私ね、子供のころからなんだけど……人前でこっそりおしっこするのが好きな子だったの……」
「? 委員長、なにを言ってるんだ?」
「そこ、本気でキョトンとしない! 恥ずかしいじゃないのよっ」
「い、いや。驚かないほうが無理だろ。と、とにかく、人前って、たとえば」
「プールとか、茂みとか……人に見つかりそうなところ、とか」
「もしかして、昨日のプールの授業中」
「そ、そうよ……。あなたには気づかれそうで焦ったけど」
「それに公園でも?」
「うう、わざとしてました……。そういうスリルっていうの? ドキドキするのが大好きで、いつのまにか癖になっちゃってて」
まさかの真面目な委員長の告白。
それもかなり変態チックな。
長政は思わず言葉を失ってしまったけど、それでも顔を真っ赤にしている円華が余計に可愛く思えてきてしまう。
「ははっ。真面目だと思ってた委員長だけど、意外なところがあるんだな」
「やっぱり笑った」
「いや、これは違うんだ。委員長、いつも怖そうにしてたから、ギャップにビックリしたんだ」
「むー。いつも不機嫌そうで悪かったわね。ただおしっこ我慢してるだけなんだから! いい? このことは誰にも秘密だからねっ」
「わかってるよ。誰にも言わない」
「絶対に絶対なんだから」
「ああ、約束だ。二人だけの秘密ってやつだな」
「ふ、二人だけの秘密……」
その言葉が心の琴線に触れたのか、顔を更に赤くして俯いてしまった。
「でも」
円華は俯きながら呟く。
「……こんな変態な私、嫌いになったでしょう?」
「いや、別に。むしろ意外な面を知れて、可愛いなって」
「か、可愛い……ッ! そういうことを女の子に軽々しく言わないのっ」
「ほら、怒ってもやっぱり可愛い」
「もう、知らないっ」
「本当に可愛いって思ってるんだって。そうだ、代わりのおむつとか持ってきてるのか?」
「一応、カバンに入ってるけど……」
「俺がおむつを換えてやるよ。そのくらいやれば、俺が委員長のことを嫌いじゃないって証拠になると思うから」
「そ、それはさすがに恥ずかしいしっ。御影君ったら、急になにを言い出してるのよっ。そんな恥ずかしいことさせると思う!?」
「俺がそのだらしない尿道を、しっかり躾けてやらないとな」
「し、躾け……ッッッ」
しょわわわわわわ。
委員長のスカートのなかから、くぐもった水音が聞こえてくる。
どうやらたくさんおしっこを漏らしたというのに、また漏らし始めてしまったようだ。
それだけ円華の尿道はゆるゆるなのだろう。
この小説は同人誌の『大決壊! しつけて委員長』に収録してある小説です。
フルサイズのイラスト6枚も収録されています。
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