WsdHarumaki 2022/12/24 12:35

SS 七夕の夜

蛍がちらちらと見える。田舎の道を歩いていると懐かしい。
「明君も大きくなったわね」
まだ年若い叔母が自分の肩をぽんぽんと叩く、昔は叔母と一緒に住んでいた。俺の両親は仲が悪く育児放棄の状態を、叔母が助けてくれた。中学生までは田舎で育った。その後は母に引き取られて大学まで通えた。

「叔母さんもまだ若いですね」
「もぉー明君ったら」と俺の背中を肩と同じように叩く。
俺は叔母さんが好きだ。

「よぉー明、帰ってたのか」
叔父が七夕の夏祭りの準備をしている、今は帰りだろうか?
「叔父さん、おひさしぶりです」
頭をさげた、この人のおかげで俺は飢えずにすんだ。頭が上がらない。田舎での生活は本当に幸せだった。人生の中で一番、幸せかもしれない。

「明、後でちょっとつきあえ」
「わかりました」
酒でも飲むのだろう、田舎の付き合いだと長くなりそうだ。
「あなたあまり飲ませないでね、大事な体なんだから」
叔母が注意をしてくれる。
「わかってるよ」
げらげら大笑いをしながら帰って行く。

「酒くらいで、まだ体を壊しませんよ」
そんなにひ弱に見えるのだろうか?きっと中学生の頃の印象が強いのだろう。
「そうね、でもお酒でね失敗するからね」
俺は心当たりがある。そうだ遠い昔だ。

「おかあさん」
いとこの香苗ちゃんが歩いてくる、まだ9歳で浴衣姿が可愛らしい。
「あれ?おにいさん?」
「こんにちわ、赤ん坊の頃だから覚えてないよね」
香苗ちゃんが腕を絡めてくる、何か心の中が暖かくなる。
「良い子に育ったでしょ?」
叔母が意味ありげに聞いてくる。
「そうですね」
俺はそう答えるしか出来なかった。

「もう帰るの?」
香苗ちゃんは名残惜しげに俺の背中にくっつく。
「これ邪魔しないで、香奈」
叔母が娘の腕を引っ張って立たせた。
この夏はずいぶんと香奈ちゃんと遊んだ、花火をしたり楽しかった。
「おにいちゃん、バイバイ」
玄関先で手を振る香奈ちゃんに手をふりかえして駅に向かう。

一緒に歩いている叔母は、
「あの時の子供よ、旦那には内緒だけどね」
言われて確信をする、酔った叔母は七夕の夜に抱きついてきた。
その後も何回も経験をした。

「また来ます」
「来年も娘を見に来てね」

終わり

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