WsdHarumaki 2023/01/26 19:27

洞窟の主:試練の話【魔女のミナリア、洞窟へ行く】(04/50)

第一章 洞窟の主
第四話 試練の話

 あらすじ
 魔女のミナリアは継母から働けと言われて、ギルドに入る。簡単な仕事の筈がゴブリンに襲われて撃退したが道に迷う。ミナリアは偶然見つけた洞窟の中に入ると、黒髪の少女レオノーアに出会い封印を解きたいと相談を始めた。

 レオノーアは、洞窟に迷い込んだ少女を頼りなさそうと思いながらも、素直で優しい性格なのは理解した。洞窟に入り込んだ冒険者は私の話を聞かない。宝石を持って外に出る。

 結果は呪いで死んでしまうから冒険者は骸骨にして利用している。私は呪われた事で不老不死のまま長い時間を過ごしている、その間に勉強して使役の魔法を覚えた。私はここに居る限り死なない、呪われた水晶は私を殺す事はしないが、ただし逃げられない。食べなくても飲まなくても平気なのに、空腹は感じるので細々した生活必需品は骸骨に作らせている。お茶もお菓子も骸骨のお手製。

 私は快適だが退屈な毎日を過ごす、たまに来る冒険者は貴重な召使い候補で逃がしたくない。

「宝石の洞窟は宝石を生み出し続ける便利な場所なの」

 ミナリアは青白い骸骨が持ってきたワゴンの宝石を見ている。これなら頼み事が出来そう。

「この宝石を全部あげるわ、封印を解いて欲しいの」
「あの…………質問があります」
 彼女は家庭教師に質問するような仕草で手をあげる。

「なに? 答えられる質問なら誠実に答えるつもりよ」
「自分で倒さないんですか? 」

 答えにつまる。

「やれるならやっているわよ! 」
 怒った顔をするとミナリアは悲しそうな顔をする、さすがに少女の気分を損ねるのは本意ではない。

「あのね、封印されている人が封印を解けるなら封印の意味がないでしょ? 」
「なるほど、当たり前でした」
 ミナリアは納得したように笑う。この娘は天然なのか演技なのか判らない。ただひさしぶりに同じ年頃の子と話をすると楽しい。この洞窟に来る人は年老いた魔女か野盗くらいだ。どちらも話を聞くと尻込みをするか逃げてしまう、そして呪われる。私は今回それを心配していた。もし彼女が少しでも洞窟の宝石をポケットに入れて逃げてしまうと…………

「それで封印を解いてくれるの? 」
 ミナリアは長い金髪をいじりながら考えている。私はゆっくりとお茶を飲む、まだ考えている。長い沈黙。床の一点を見つめながらずっと考えている。イライラしてくる。

「決まらない? 」
 もし決まらないなら、かわいそうだけど、彼女を殺す事になる。宝石の洞窟を広く知られるのはまずい。大量に人が洞窟に入れば次々と呪われて死んでしまう。そして誰も近寄らなくなる。誰も来なくなれば封印を解ける人も来なくなる。

 私は立ち上がると小ぶりの魔法の杖を持つ。まだ若く美しい少女だ。憐憫で手が震える。未来のある少女を殺そうとしている。私は気を強く持ち杖を彼女に向けた。

「床に傷があって、気になります」
 ミナリアは凝視している床のタイルを指さす。緊張が一気に途切れた、生きるか死ぬかの間際でそんな事が…………。いや違う、彼女は自分が死ぬ事を想像もしていない。若い彼女は夢や希望だけで生きている。

「どう? 挑戦したい? 」
 ミナリアは顔を上げるとうなずく。素直な娘だ、無知で恐れを知らない彼女に私は希望を持つ。この娘ならば封印を解除できるかもしれない。

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