WsdHarumaki 2023/02/22 21:16

弟の憂鬱:弟の事【魔女のミナリア、洞窟へ行く】(13/50)

第三章 弟の憂鬱
第三話 弟の事

 あらすじ
 魔女のミナリアは洞窟に居た黒髪の少女レオノーアに出会う、ミナリアに封印を解く仕事をまかされて【赤の洞窟】の攻略を成功させる、祠(ほこら)のルビーを手に入れられた。

 朝から仕度してルビーの袋を用意する。小さな袋だが価値は凄まじく高い。小分けして貰ったルビーは仲間達への報酬だ。ギルドに預ける事で、ルビーの配達や受け取りが可能になる。

 扉が上品に叩かれた。この仕草は弟なのはすぐ判る。コンコンと機械のように正確に叩く、几帳面で礼儀正しく落ち着いている。まるで大人と接している気分。自分の未熟さを突きつけられている感じもある。

 扉を開ける。黒髪で少し巻き毛のある短めの髪の少年は賢そうな顔で立っていた。

「リュカ…………」

 家を追い出された時には弟とは顔を合わせなかった。悲しくて余裕がなくて少しばかりの荷物を持つとすぐに家を飛び出した。私が邪魔なら邪魔でもかまわない、母が私を嫌いでもかまわない、だって実の子供じゃない。他人の子供の面倒を見られないのは当たり前だ、それでも悲しい。弟と血は繋がっているが、母親にそっくりだ。冷静で物事に動じない、いや冷徹にすら感じる。

「餞別を持ってきました」

 弟とは仲が悪いわけじゃない。それでも本当の姉弟はこんなに冷えた関係なのか?と思うときもある。よそよそしいのだ、まるで事務的にお付き合いしているだけで、私を遠ざけたいの? と感じる時もある。この時は餞別で泣けてきた、餞別? お別れ? それも無表情で?

 違う、弟は笑いをかみ殺していた。笑おうとして我慢しているのが判る、そんなに姉が嫌い? まぁ確かに、こき使ったりした事もあるけど、姉ならこれくらい普通よね? 程度だ。私を笑いに来たと思うと自然に涙が出た。私の思い違いなのは自分でも理解している。リュカは性格が素直で良い子だ。自分勝手な想像で悲しくなり自分の事を嫌いになる。

「今日は帰って……」

 くるりと回ると弟は帰る。私は扉を閉めるとゆっくりと窓に近づくと馬車に乗る弟を見送る。同じ母の姉弟ならもっと普通にお話できるのかな? と思う。私はルビーの袋を手に取るとギルドに向かうために部屋を出た。

xxx

「マリア、預け物があるの……」
「報酬あるわよ」
 魔女ギルドの案内人のマリアがふりむくと微笑む、前回のお手紙を届けた報酬だ。小銭なのでお昼代くらいにしかならない。

 カウンターに革袋を二つ置く、中身をマリアに話すと息をのむ、価値が高いのだ、繁華街に持ち家を買えるくらいの金額だ。

「これがあんたが倒したドラゴンの報酬? 」
「みなさんのお陰で倒せました」

 祠(ほこら)のルビーの事は正直に話すが、宝石をカットして加工した人物については、教える事はできない。洞窟の魔女の事は知られてはいけない。

「ミナリア、次は青の洞窟よ」
 いつのまにか私の後ろに居るのは、洞窟の主のレオノーアだ。彼女は気ままに私を監視している。自分を裏切らないか、彼女の秘密を人に漏らさないか…………

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索