投稿記事

火傷の記事 (34)

リクエスト「イケニエマラソン」

Skebにてリクエストを頂きました。

「生贄ガールズ裸足マラソン大会の小説をお願いします。メンバーは稽古屋さんにお任せします。」

リクエストにお答えして生贄のみんなに裸足でマラソン大会をしてもらいました。
もちろんメチャクチャ過酷です。
中でも最も過酷なのは60mにわたって続く、手すりのない鉄製の橋。
真夏の直射日光でギンギンに焼かれた橋の上を女の子たちが素足で渡ります。

今回の主人公は一色沙耶ちゃん。
マラソン大会で優勝すれば、なんと……! 24時間足裏○問ペアご招待券がプレゼントされます。
草間風花ちゃんのことが大好きな沙耶ちゃんは「風花ちゃんと一緒に地獄に落ちたい!」と思い、優勝目指してがんばります!


『イケニエマラソン』

 真夏の太陽が燦々と輝く中、裸足の生贄たちがスタートダッシュを決めて一斉に山中の砂利道を走り出しました。そんな中、私一人だけはその場で四つん這いになっています。それを命じた王仁さんが、私の背後から楽しそうな声で言いました。

「じゃあ、景気付けに一発入れるね」
「は、早くお願いします!」
「うん。分かってるって」
「い、急いで!」

 四つん這いの私は、王仁さんが打ちやすいように素足の両足裏を揃えて差し出しています。早く、早く! お願い! 私が心の中でそう祈る中、業務用ビデオカメラが私の足裏を捉え、王仁さんが手にした乗馬鞭をゆっくりと掲げ上げます。

「ッぎ……ッ!」

 空気を切る甲高い音に続いて私の両足裏から炸裂音が響き、焼けるような鋭い痛みが走りました。ですが、私は悲鳴を飲み込んですぐに立ち上がります。

「王仁さん、行きましょう、早く!」
「う、うん! 待ってよ、沙耶ちゃん」

 砂利道を素足で踏みしめて私は走り出します。鞭を持った王仁さんが慌てて自転車にまたがって私の後を負い始めました。……ああ、もう! 先輩たちの背中はもうずっと先です。いつもの生贄の制服姿の群れと、それに並走する自転車複数が遠くに見えています。

 真夏の直射日光で熱された砂利が足の裏に突き刺さり、それに加えてさっきの鞭の痛みが足裏でズキズキと響きますが、私はそれを必死に飲み込んで走り続けます。今回の裸足チャレンジ「生贄マラソン大会」は絶対に一位を取りたい! だってだって! 一位の副賞が豪華すぎるんだもん!

 Bクラスの生贄である私――、一色沙耶がその企画を聞いたのは一週間前のことでした。

 名物プロデューサーである王仁玲子さんの裸足チャレンジ番組『素足でいんふぇるの』の新企画としてマラソン大会……つまり、生贄による人間競馬が行われるというのです。

 今回のマラソン大会はチャリティーイベントでもあります。まず最初に、出場する生贄が一人一人競売にかけられます。落札者はその生贄の「馬主」となります。馬主は鞭を振るって馬である生贄を励ます役割です。

 さらに視聴者は「馬券」を買うことができ、お気に入りの生贄を応援することができます。この落札金額と馬券の収入は、半分がアフリカの恵まれない子供たちに、もう半分が生贄ガールズの運営資金として寄付されます。万年綱渡り経営の生贄ガールズとしては大変ありがたい話です。運営部は前のめりで協力を約束しました。

 そして、落札金額を吊り上げるため、また、生贄の参加意欲を盛り上げるために、副賞もとても豪華なものとなっていました。三位入賞まで副賞が付くのですが、なんといっても目玉は一位の副賞「実験室24時間貸し切りペアご招待券」です。

 生贄ガールズの本部ビル地下にある実験室ーー。ここには様々な裸足チャレンジの実験素材が揃っています。火渡り用の薪や焼印用の焼きごて、根性焼き用の煙草、鞭、拘束具などなど……。簡単な人体実験であれば、ここに生贄を連れ込んですぐに実験することが可能です。

 今回の副賞では、そんな実験室をなんと24時間も貸し切ることができるんです! 馬主と馬券購入者は一位になった生贄をこの実験室に連れ込みます。そして、24時間の間、生贄の足の裏に何をしても良いのです。条件はたった一つ。生贄が死なないこと。それだけです。

 どんなにむごたらしくおぞましい地獄を味わうことになるのか、想像するだけでも身震いがしてきますが、素敵なのはここからです。「ペアご招待券」とある通り、なんと一位になった生贄は他の生贄を一人誘って、この地獄へと引きずりこむことができるんです!
 誘う相手がAクラスの生贄であれば相手の同意はもちろん不要です。Aクラスの生贄は足の裏に関する限り一切の拒否権を持ちませんし、仮に拒否権があったとして、こんな素敵な地獄へのお誘いを断るようなAクラスは絶対にいません。大喜びで二つ返事するに決まっています。

 一方で、Bクラス以下を誘う場合は相手の同意が必要です。Bクラスの裸足チャレンジは「全治一ヶ月まで」が上限とされていますが、このペアご招待券は全治一ヶ月なんてレベルで済むはずがないからです。

 同様に、この競馬への参加もBクラスは任意でした。Aクラスからは三名がこの企画にアサインされ(もちろん彼女たちに拒否権はありません)、さらにBクラスの生贄の中から、この競馬への自主的な参加者が募られました。

 Aクラス並におぞましい地獄を味わう可能性があるチャレンジです。Bクラスの生贄たちの間でも態度は二分されました。あまりの恐ろしさに尻込みする生贄が多い中、熱烈にAクラス昇級を望んでいる円城明日那(えんじょう・あすな)さんは喜々として参加表明しましたし、綿里莉奈(わたざと・りな)さんも微笑みながら参加を決めました。Aクラスの生贄であり、生贄ガールズの代表でもある百合川紗奈(ゆりかわ・さな)さんに対して強い感情を抱いている綿里さんは、きっと一位を取って百合川さんを地獄にお誘いすることを夢見ているのでしょう。

 そして、私も――。

「ね、ねえ、ふーちゃん」

 生贄ガールズの寮のダイニングで、ハーブティーを飲んでいる草間風花ちゃんを見つけて、私は緊張しながらも勇気を出して話しかけました。

「なあに、沙耶ちゃん?」

 ふーちゃんはいつもの花が咲いたような笑顔を私に向けてくれます。わぁ…………か、可愛い……大好き。
 私は顔を真っ赤にしながらも、思い切ってふーちゃんに尋ねました。

「あ、あのさ……今度さ、生贄マラソン大会ってあるじゃん。し、知ってる……?」
「ウン、知ってるよ。一位の副賞が超豪華だよね!」
「そ、それなんだけど、さ……」

 ふーちゃんが机の下でプラプラさせている足下には巨大な包帯が巻かれています。一週間前にふーちゃんは素足で焚き火を踏み消すチャレンジを行って全治一ヶ月の大火傷を負っていました。これでは一週間後のマラソン大会には参加できません。

「も、もし……もしだよ? もし、沙耶が、もし一位を取れたら、ペアご招待券って……」
「うん」
「あの、ふーちゃん、誘っても、いい、のかな……なんて……」
「え? いいの!? もちろん大歓迎だよ、ありがと!」
「わぁああぁああぁぁ!」

 私は嬉しさのあまりに顔を真っ赤にしてパタパタと小躍りしました。そんな姿を見て、ふーちゃんがクスクスと笑ってくれます。

 馬主と馬券購入者に取り囲まれ、24時間、一秒の休みもなく足裏を○問され続ける。泣いても喚いても許してもらえず、嘔吐し大小便を漏らし、メチャクチャな姿になって苦しみ抜く……私とふーちゃんが一緒にそんな姿になる……それを思うと興奮しちゃうのは当然です。

 副賞では一応「生贄を殺してはいけない」とされていますが、もちろん何が起こるか分かったものではありません。最悪の場合は二人とも○問に苦しみ抜いて死ぬことになります。なのにふーちゃんはそんな未来を予感しながらも、一秒の迷いもなく笑顔で受け入れてくれたのです。大好きすぎる!

 私は感動のあまり涙さえこぼしながら、ふーちゃんに何度もありがとうを伝えました。

「私、死んでも一位取る! だから、一緒に苦しみ抜いて死のうね!」

 競売の結果、私の馬主に決まったのは王仁玲子さんでした。今回のイベント企画主でもあり、『素足でいんふぇるの』のプロデューサー兼ディレクターでもある彼女は私を番組構成のメインに抜擢したのです。

「Aクラスの三人は高すぎて予算オーバーだったからさ~。でも沙耶ちゃんも十分に番組のメインを張れると思ってるから!」

 私は200万円で競り落とされましたが、やはりすごかったのはAクラスの生贄三人です。百合川紗奈さんは380万円、そして、雪村織絵(ゆきむら・おりえ)さんは550万円、黒乃静音(くろの・しずね)さんに至ってはなんと720万円もの値が付いたのです。やはり一位を取れる期待値の高い生贄が高騰したようです。生贄ガールズの中でも飛び抜けた根性を誇る黒乃さんは本命中の本命であり、雪村さんがその対抗馬といったところでしょうか。

 黒乃さんや雪村さんに勝たなければならないと思うと、それだけでもハードルの高さに目眩を覚えますが、加えて、予想外のハードルとなったのが馬主が王仁さんであることでした。一キロも走るとまた王仁さんの声が後ろから飛んできます。

「沙耶ちゃん、悪いんだけど鞭入れるね!」

 私はすぐに四つん這いになり、足裏を揃えて差し出します。業務用ビデオカメラがググッと迫り、砂利道で赤く腫れ上がった私の足裏を接写します。その間にも先を行く生贄たちの背中がどんどん遠くなっていきます!

「早く、早く鞭下さい!」
「分かってるってば!」

 炸裂音と共に足裏に焼け付くような激痛が響き、私は悶絶して砂利の上に倒れますが、一呼吸の後には立ち上がって走り出しました。慌てて王仁さんが自転車に跨り直します。

 鞭は、本来は馬が走れなくなったり気合が足りてない時に入れるべきものです。ですが、私だけは関係なく、定期的に鞭を受けねばなりません。ひとえに番組の都合上です。20㎞のマラソンを通じて生贄の足の裏がどう変化するか……それを伝えるため定期的に視聴者に足裏を観察させる必要があり、私はその役割を課されていたのです。それに見ている方だって私が意味もなく鞭打たれた方が楽しいに決まっています。

「一色沙耶の足裏は砂利で真っ赤に腫れ上がり、打たれた鞭の痕は青黒く変色していた。そして、そこに新たな鞭痕が刻まれたのだ!」

 後で編集された番組を見ていたら、私の鞭打ちシーンではこんなナレーションが被せられていました。つまり、私はそういう役目を担わされていたのです。そんな制作側の事情は理解できるものの、実際、これは私にとっては相当のハンディキャップでした。

 立ち上がった私は肺が潰れそうな程に息を切らして、砂利が足裏に突き刺さる痛みを味わいながら走り続けます。そもそもアスリートでもない私たち生贄は20kmを走り抜くだけでも大変です。息を切らしながら必死に速度を上げますが、先を行く先輩たちの姿は遠いままです。今日のマラソン大会に臨んだ生贄14名は、全員が一位の「ペアご招待券」に憧れていてみんな本気なのですから。

 そうこうしているうちに2㎞が過ぎ、両足裏がズキズキと酷い痛みを訴え出した頃、ついに砂利道が終わりました。ですが、楽になるわけでは全くありません。ここからは真夏のカンカン照りに熱されたアスファルトの山道が続きます。

「この時、アスファルトの表面温度は60度にまで達していた。普通の女の子であれば裸足で10秒と立っていられない」

 編集後のナレーションではそんなことを言っていましたが、実際に地面は凄まじい熱を持っていました。真夏のプールサイドを裸足で歩くような辛さです。この熱された道がこの後、6㎞も続くのです。

 普通の女の子であればこれを走り抜くなど到底不可能でしょう。ですが私たちは生贄です。足の裏がどうなろうとどうでも良いのです。

 普通の女の子は足の裏の辛さ以上に、「火傷するんじゃないか」という恐怖で走り切ることを断念するでしょう。ですが、私たち生贄は「火傷は当然するもの」です。足の裏を焼き焦がしきった後、どこまで無理できるか、気合を見せられるかで生贄の真価が決まるのです。

 汗だくになりながら焼けたアスファルトの上を走っていると、初めて他の生贄の背中が見えてきて、追い越しました。Bクラスの生贄の雨河ミリィさん(落札価格170万円)でした。裸足アイドルから生贄に転向した女の子で、私やふーちゃんとも仲良しです。彼女はゾンビのようによろけながらヨロヨロと歩き、馬主の男性が隣で彼女を罵倒し続けていました。

 後に編集された番組を見たところ、馬主はアイドル時代のミリィさんの熱烈なファンだったようです。馬主は当初は当然一位を目指してミリィさんを走らせていたものの、砂利道でも一切怯まないAクラスの生贄たちの圧倒的な走力を見て、早々に入賞を諦めたようです。

「冷静に考えて入賞は無理と判断し、割り切ってレース自体を楽しむことにしました」

 そうコメントしていました。

 つまり、馬主は諦めた瞬間に彼女を跪かせて、怒涛の鞭連打を足裏に叩き込み、彼女が泣き叫んで嘔吐するまで容赦なくそれを続けたそうです。その後、またレースに戻したのですが、当然まともに走れるはずがありません。ミリィさんは鞭打たれた足裏の激痛に呻きながら、灼熱のアスファルトの上をヨロヨロと歩き続けました。ミリィさんの進む先に日陰があると馬主が罵倒しながら進路変更させて、徹底的に日陰を避けさせます。彼女の足裏を決して休ませません。

「入賞が不可能な以上、下手に早くゴールさせるよりもこうした方がミリィちゃんの苦痛が最大化されると判断しました」

 どうです、合理的でしょう、と言いながら馬主さんがメガネをクイッとしていたのが印象的でした。

 ミリィさんを追い抜き、長い長い灼熱のアスファルトの道を走り抜く中で、Bクラスの生贄をさらに二人追い抜かします。足裏の激痛とは別に体力的な問題から、彼らは走力が限界に来ていたようです。生贄の生活は足裏を焼かれて入院の繰り返しなので、どうしても体力が減退しがちです。中学時代にバスケ部だった私はその点で少しだけ有利でした。

「沙耶ちゃん、鞭」
「はいっ」

 私は四つん這いになり両の足裏を差し出します。6㎞の焼けたアスファルトを1時間弱かけて走り抜いた私の両足裏は一面が薄ピンクに腫れ上がりジンジンする強い痛みに襲われていました。浅達性Ⅱ度の火傷と思われます。数時間経てば全体が水ぶくれに覆われるでしょう。普通の女の子ならこんな足の裏で裸足で走ろうなんて間違っても思わないでしょうが、しかし、私は生贄です。

 そんな私の足の裏に、王仁さんは喜々としながら五度目の鞭を叩き込みます。そしてニコニコとしながら前を見て、

「ここからだね~!」

 と嬉しそうに呟きました。私達の目の前には細い橋。橋桁が鉄板の全長60mの橋がありました。

 20㎞の道程の中盤に用意されたこの橋は、今回のマラソン大会の目玉とも言うべきスポットです。川の上に作られたこの橋に手すりはなく橋桁は総鉄板。当然ながら鉄板は太陽光により激しく焼かれています。私達はこの上を裸足で渡らなければならないのです。

 川の流れは穏やかで落ちても危険は少ないでしょうが、その場合は川の中を歩いて戻り、再び橋の上を渡らなければなりません。現に今も、Bクラスの生贄である綿里莉奈さん(落札価格65万円)がびしょ濡れになりながら川の中から這い上がってきました。馬主の男性が綿里さんの濡れた足先を丁寧にタオルで拭いていましたが、彼女の足裏は皮膚がドロドロに焼け爛れています。タオルで水滴を拭き取っていたのは、この後また橋の上を渡らせるからでしょう。足裏が濡れていると火傷が軽くなってしまいフェアではないからです。

 馬主の方は番組ではこうコメントしていました。

「橋を渡る前に気合を入れようと思って莉奈ちゃんの足裏に鞭を三十発叩き込んだんだけど、あれが失敗だったね。莉奈ちゃん、ほとんど歩けなくなっちゃって。で、橋の上で足の裏を焼かれまくった挙げ句、耐えれなくて川に落ちちゃった」

 そんな綿里さんの不甲斐なさに怒った馬主は、懲罰としてさらに数十発の鞭を叩き込んで再び橋を渡らせたところ、今度もまた耐えきれずに転落。そして、今ようやく川から這い上がってきたところだというのです。

 馬主は私達に「どうぞお先に」とジェスチャーします。

「こちら、少し時間が掛かりますので」

 そう言って馬主は綿里さんの足裏めがけて懲罰の鞭を振り上げ、綿里さんの甲高い悲鳴が響きました。綿里さんはこの後、大会がタイムアップとなる五時間後まで、十数回も繰り返し橋を渡ることになります。結局、最後まで踏破できることはありませんでしたが。

 さて、私たちも問題の橋の前へとやってきました。王仁さんがしゃがんで橋桁の鉄板を素手で触ります。

「熱っ……!」

 触った瞬間に慌てて手を引っ込めました。この時のナレーションではこう語られています。

「鉄製の橋桁の温度は、この時、実に75度を超えていた。1秒も触っていられない温度である。だが、生贄はこの橋桁の上を裸足で歩き抜かねばならない」

 転落の危険があるため、という建前で、この橋の上は走るのではなく歩くことが義務付けられていました。番組的には生贄が大火傷して痛みに狂った方が面白いからです。とはいえ、私にとってはそれも願ったり叶ったりです。私は躊躇なく鉄板の上へと素足を踏み出しました。

 熱い……熱いです! とてつもない熱さです。足の裏が焼かれていくのがハッキリと分かります。この苦しみは火渡りとほとんど変わりません。ですが、通常の火渡りが10メートル、長くてもせいぜい20メートルなのに対し、この橋は60mもあるのです。

 足の裏は苦痛に耐えきれず飛び跳ねそうになりますが、それを気合で押さえつけて、スタスタと素足で鉄板を踏み続けます。橋の下を流れる冷たい小川の中に飛び込みたくなる気持ちを殺して足の裏を焼き続けます。飛び跳ねることを自分に許したら、そのまま川の中へと飛び落ちてしまいそうなのです。そんな誘惑を跳ね除け、自分の足の裏をグチャグチャに焼き焦がすんだ!という気持ちで、歯を食いしばりながら橋を歩き続けます。その覚悟が限界に達するほんの手前で、ようやく対岸にたどり着きました。

「あ、ぁ……ッ!!」

 私は呻き声を上げて、たまらずその場に倒れ込みました。本当はすぐに走り出すべきなのですが、どうしても動き出せません。この時の私は気付いていませんでしたが、後で番組を見ると私の両足裏とも皮がベロベロに焼き剥がれていたのです。見事な深達性Ⅱ度熱傷を負っていました。

「王仁さん、鞭を下さいっっ!!」

 私は叫ぶような声で初めて自分から鞭を懇願しました。走ることはおろか、歩くことすらできない凄まじい激痛なのです。こんな足の裏でマラソンを継続するには…………この激痛すら「マシ」になる程の痛みと恐怖が必要でした。もちろん王仁さんは私の気持ちをすぐに察してくれました。

「ギゃっ……! ひィっ、いギぃいいッ! うあギゃぁあああッ!」

 私に贈られたのは情け容赦ない鞭の連打です。十発は足裏に見舞われたでしょうか。頭の中が爆発したかと思うほどの凄まじい激痛の洪水に目の前が真っ白になります。この時の私は気付いていませんでしたが、おしっこも漏らしていたようです。視界が涙で濁り、酷い耳鳴りがする中、怒気を孕んだ王仁さんの叱咤が聞こえてきました。

「立て! 今すぐ走れ! 次は二十発叩き込むぞ!」

 私は恐怖に駆られて死ぬ気で立ち上がります。一歩踏み出すと激痛のあまりに死にたくなりますが、鞭の恐怖を糧に走り出します。でも全ての生贄がこの苦しみを味わっているのだと思うと、やっぱり願ったり叶ったりでした。だって、足の裏が焼ければ焼けるほど……状況が厳しくなり根性の勝負になればなるほど……私に逆転の目が出てくるのですから。

 そこから先、残り12㎞の苦しみは、これまでとは比べ物にならないものでした。まず4㎞の砂利道が続き、次に5㎞の焼けたアスファルト、再び2㎞の砂利道。そして最後はゴツゴツした岩が堆積した1㎞の山道です。

 ベロベロに焼け爛れた足裏で踏みしめる砂利の痛みは格別ですし、焼けたアスファルトも足裏の火傷を深めて悶え狂いそうになるほどの激痛を与えてきます。私は悲鳴を上げ、泣きわめきながらも、それでも走り続けました。走ったと言っても時速4㎞程度で、歩いているのと変わらない速度でしたが、それでもゾンビのようにヨタヨタと歩く生贄たちを何人か追い抜かしました。

 意外だったのが、Aクラスの生贄である雪村織絵さん(落札価格550万円)を追い抜かせたことです。彼女はアスファルトの道の端で、小便と吐瀉物の水たまりの中に倒れ込み、白目を剥いていました。黒乃静音さんとデッドヒートをしていた彼女は肉離れを起こして、優勝争いから脱落してしまったそうなのです。

 もちろん馬主はカンカンに怒り、雪村さんに対して、残り時間すべてを使って徹底的な懲罰を行うことに決めたようです。彼女の足裏に力任せに何十発も鞭を振るい、乗馬鞭が叩き折れると、今度は枝を拾ってきて、それで足裏をメチャクチャに鞭打ちます。雪村さんが嘔吐し小便を漏らすと、彼女を無理矢理に立たせて焼けたマンホールの上に連れていき足裏を焼き焦がしました。私が彼女を追い抜かしたのはまさにそんな処刑の真っ最中だったようです。

 約三時間にわたり懲罰を受け続け、マラソン終了後、命の危険から緊急入院となった雪村さんですが、番組のインタビューでは後にこう語っていました。

「いや、あれは当然ですよね! 肉離れだなんて、そりゃ馬主さん怒りますよ。私に550万円も払って下さったのにドブに捨てたようなものじゃないですか。私も優勝逃したの残念ですし、不甲斐ない私に馬主さんが時間いっぱい使って私を懲罰するのも当然だし、むしろやるべきだと思います。本当にすいませんでした~~!」

 グチャグチャの足裏に、定期的に鞭を振るわれながら、私は尖った砂利道や焼けたアスファルトの上を必死に走り続けます。一位になれば……今の苦しみなど比べ物にならない本物の生き地獄に大好きなふーちゃんと一緒に落ちることができるんです。そんな幸せな未来を目指して、死ぬ気で足を進めて行きます。

 しかし、そんな私でさえも気力が潰えそうになったのが最後の1km、ゴツゴツした大きな岩が堆積した、いわゆるガレ場です。砂利道やアスファルトはどれだけ痛くて苦しくとも、とにかく痛みに耐えて頭からっぽで足を進めれば先に進めますが、ガレ場では足下が極めて不安定です。ズタズタの足裏でしっかりと岩を捕捉し、力を込めて、意識的に、考えながら足を進めなければなりません。

 けれど私の視界は涙で濁ってるし、頭も激痛に支配されて真っ白です。足下の岩の状態を視認し、認識し、思考する余裕など全くありません。よろけ、つまずき、何度も転びながら進む私のスピードは極端に遅くなっていましたが、それでもさらに数人の生贄を追い抜かしました。

「ぎゃっ、ぎゃァあああっ! ぐがああァっ! ギぎゃああっッツッ! いぎィいい、ぁぎぎああっアッ!!」

 ガレ場の上に倒れ伏し、動けなくなった見村瀬奈さん(落札価格45万円)の足裏に馬主が鞭を連打しています。それでも見村さんは立ち上がれません。このガレ場は一位入賞を目指して参加した気合の入った生贄ですら、最後の最後に気力が尽きる程の困難な道程だったのです。

 そんな生贄たちの惨憺たる有り様を横目にしながら、私の馬主である王仁さんはキャッキャと楽しそうにしています。

「うふふ! 我ながら最高のコースね。このガレ場、絶対にキツイと思ったのよね~!!」

 王仁さんはこのマラソン大会のために調査チームを組織し、何度もロケハンを重ねて最高のコースを探し出したのだそうです。鉄製の橋や砂利道、そしてガレ場まで含んだこのコースを見つけ出した時、「これは神が生贄のために用意した道だ!」と大喜びしたそうです。

 ズタボロになりながら最後の1kmのガレ場を走り……いや、歩き続けた私ですが、番組ではこの場面は見事な編集がなされていました。汗と涙と鼻水とよだれにまみれて苦痛に歪んだ私の顔と、ズタズタのボロクソになった足裏の映像が同時に映されて、とても惨めでむごたらしく、こんな私の姿が全国のお茶の間に流れたのだと思うと、生贄としての誇らしさと恥ずかしさが混じった複雑な気持ちになります。なお、このシーンが番組中での瞬間最高視聴率を獲得したようです。

 私の足裏を視聴者に晒すことも兼ねて、王仁さんは何度も何度も私の足裏に鞭を振るいました。そして、なんとか1kmのガレ場を踏破して、最後のゴールテープが見えた時、そこには既にゴール済みで、座って足裏を晒している三人の生贄の姿が! 私は愕然としましたが、それを見た王仁さんもゴールテープの直前でため息をつきました。

「あちゃ~、こりゃ入賞無理だね。残念賞あげるから、沙耶ちゃん、四つん這いになって歯を食いしばって!」

 そう言って私を座らせます。私もあんなに頑張ったのに一位が取れなかった悲しみから、もうどうにでもなれと思って、破れかぶれな気持ちで両足裏を揃えて王仁さんに差し出しました。

 もちろん私に贈られたのは王仁さんからのメチャクチャな鞭の連打です。私の足裏をブッ壊すつもりの情け容赦ない力任せの鞭打ちです。

 これは馬主の心情を考えても視聴者の心情を考えても当然だと思います。王仁さんはこれまで五時間にわたって私を苦しめ続けてきました。入賞して、さらなる地獄を私に味わわせるためです。ですが、それが無理だと分かったのだから、最後の最後に無茶苦茶をして私をブッ壊したくなるのは当然でしょう。私は200万円もの大金で落札した馬なのですから番組的にも最後まで有効活用したいでしょうし。視聴者だって、入賞を逃した私のような駄馬をこのままゴールさせて休ませたいなんて思うはずがありません。ゴール前に止めを刺したいに決まっています。

「ガッ、ぎ、あぎィ! ぐぎィいあギャっ! ギャあアァああああッ!!!!」

 岩場の上で体をぐねらせ、弾けさせ、身悶えながら、私は足裏で爆発する激痛を味わい続けます。

「ギ、ギャあッあああアあッ!! ギあ、アァぎィいッ、ひぎィギぎぎいいいッッ!!!」

 王仁さんも汗だくになりながらも、楽しそうに鞭を振るい続けます。力任せに鞭を振り下ろし続けます。

「おッ! ギャッ! ギャッッ、が、ギャッ! あ、ァあ、ギャッ! ガ! あギャッ! おあッ、ぐっ、ぐァッ! ギぎゃッ、ア!!!」

 業務用ビデオカメラ数台が様々な角度から私を捉え、おぞましくむごたらしい有り様へと変わっていく私を記録し続けます。

 後から私に追いついてきた馬主たちは、私の姿を見て「なるほど!」と気付き、同じように生贄に「残念賞」をプレゼントし始めました。ゴール前はまるで生贄の屠殺場です。

「ふーっ」

 十数分後ーー、四十度近い炎天下の中、力いっぱい鞭を振るい続ける重労働をこなした王仁さんは、汗だくになって額の汗を拭いました。そして、彼女の足下には私が……嘔吐し、おしっこも漏らして、痙攣するようにビクビクと震え続ける惨めな私の姿がありました。

「いや~~、もうムリ! 腕上がんないよぉ~。これ、明日、絶対筋肉痛~っ」

 王仁さんは爽やかな笑顔でそう言いながらも、鞭を持った腕を苦労しながら振り上げて、私の足裏に振り下ろします。

「ギャ……ぁ」
「はーい、沙耶ちゃん、立って立って! あと5メートルでゴールだから。最後まで死ぬ気で走ってね」

 その最後の5メートルがこの日一番の生き地獄となったことは言うまでもありません。

 三位入賞までの生贄は表彰台の上で縛られて、足を伸ばして座っていました。彼女たちには頑張った足裏をみんなに見てもらえる権利が与えられたのです。

 一方で私たち四位以下の生贄は、表彰台から少し離れた岩場の上にまとめて投げ捨てられました。ゴツゴツした岩の上に放り出されて倒れているので、全身が酷く痛みます。私もそうでしたが、他の生贄たちもみんな嘔吐して小便を漏らしており、中には大便すら漏らしている子もいました。そんな子たちが同じ場所にどんどん投げ込まれていくので、真夏の熱気も手伝って凄まじい悪臭が立ち上がり、ハエが無数に寄って来て私たちにたかります。ですが、足の裏が激痛すぎて、とても気にしていられません。

 女の子には見えない程に顔を苦痛に歪めて、小袖と袴を汚物でまみれさせ、一箇所にまとめて生ゴミのように投げ捨てられている私たちの姿は本当にグロテスクで、入賞を逃した私たち駄馬の末路にふさわしいものでした。

 私の足の裏は全面が焼け爛れて皮膚が剥がれ落ち、執拗に重ねられた鞭のせいで肉も裂けて、おぞましい有り様へと変わっていました。全治1ヶ月半の重傷です。通常、Bクラスの生贄が受ける裸足チャレンジは上限が全治1ヶ月と決まっていますから、足の裏がこんなことになるなんて、私たちからしてもとてもお得なチャレンジでした。「入賞はできなかったけど、参加して良かったね」と後で番組を見ながら生贄たちで語り合ったものです。

 それで今回のマラソンの入賞者ですが、まず三位を獲ったのは生贄ガールズ代表でAクラスの生贄、百合川紗奈さん(落札価格380万円)です。タイムは4時間35分。私が5時間15分での完走だったため、ゴール前で屠殺されていた時間を別計算としても、百合川さんは30分以上前にゴールしていたことになります。やっぱりAクラスの生贄はすごい……!

 百合川さんには三位の副賞として、舞姫30回がプレゼントされました。舞姫は百合川さんが開発した裸足チャレンジ用の装置で、円柱状の檻の中に裸足の女の子を閉じ込めて足下の鉄板を熱し、女の子が熱さで踊り狂うさまを楽しむというものです。1回や2回では大した火傷も負わないのですが、30回も繰り返し入れられれば足裏は焼け爛れ全治一ヶ月の大火傷を負うことになります。

 ですが、今もニコニコしながら縛られている百合川さんの足裏は既に全面がベロベロに焼け爛れて全治一ヶ月を超える火傷を負っています。ここからさらに30回の舞姫……百合川さんの足裏はどれほどむごたらしい有り様へと変貌するのでしょうか。百合川さんの大ファンだという馬主の女性も、この後の百合川さんの処刑タイムをとても楽しみにしているようです。

 続いて二位ですが、なんとBクラスの生贄である円城明日那さん(落札価格80万円)です! タイムは4時間35分。百合川さんとほぼ同着ですが、最後の最後でデッドヒートを制したようです。実は今回のマラソン、Aクラス昇級がかかっていたようで、2位以上を取れば昇級成功だったのだそうです。

 昇級試験に何度も失敗して今回が四度目だったという円城さん。ついに念願のAクラスになれることが嬉しくて仕方ない様子です。Bクラスの生贄には全治一ヶ月までの上限がありますが、Aクラスなら死なない限り足の裏に何をやっても構いません。際限のない命懸けの足裏地獄を味わえるのがAクラスの特権であり、円城さんはずっとその生き地獄に憧れていたのです。

 そして、二位の副賞は足の裏への根性焼き二千本。その発表を聞いた円城さんは縛られたまま大興奮で喜びます。これから馬主と馬券購入者全員で円城さんを取り囲んで、その足の裏に一本一本、火の付いた煙草を押し付けていくのです。

 二千本ということは、この先、7~8時間にわたって処刑が続くことになります。円城さんの足裏も当然グチャグチャに焼け爛れているし、何より20kmの全力疾走で体力も限界のはずです。ここからさらに7時間以上にわたり足の裏を焼き尽くされる……その未来を想像したのか、円城さんはニヤニヤ笑いを浮かべて、よだれすら垂らしています。これには馬主さんもニコニコです。

「俺は昔から明日那ちゃんの大ファンでさ! たったの80万円で落札できた上に2位入賞! ここからさらに明日那ちゃんの足裏を焼きまくれるなんてコスパ最高だし、それに明日那ちゃんがAクラス昇級だなんて。そんな記念すべき日に立ち会えたのが嬉しくてたまらないね」

 馬主さんは二千本のうち千五百本を押し付ける権利を得られます。ということは一本あたり533円。ボロボロに焼け爛れた女の子の足裏にワンコインでさらに煙草を押し付けられるというのはコスパで言えば確かに最高です。

 そして一位は、本命中の本命だったAクラスの生贄、黒乃静音さん(落札価格720万円)でした。タイムはなんと驚きの3時間46分。二位の円城さんたちを1時間弱引き離しての堂々の優勝です。編集後の番組を見ていると、恐ろしいことに黒乃さんは最後のガレ場を除いて時速6km前後のスピードをずっと維持し続けており、例の鉄製の橋で足裏を焼いた後も一切スピードが衰えていませんでした。

「足の裏ですか? もちろん痛かったですよ。橋で足裏を焼いた後は本当に辛かったです」

 と、黒乃さんはインタビューに答えながらも、

「でも、全部気合で耐えればいいだけなので。それが根性ってことじゃないですか」

 そう言いながら笑ってダブルピースを見せました。黒乃さんは自分の根性を人に見てもらうことが大好きなのです。今回のような裸足チャレンジは大好物だったでしょう。

 なお、黒乃さんの足裏は焼け爛れてはいましたが、鞭の痕は一切付いていませんでした。

「だって、鞭を入れる必要がないんだもん」

 と、馬主である佐都野朱莉(さとの・あかり)さんはコメントしていました。

「シズちゃん、ぜーんぜんスピードが落ちないから。そりゃもちろん私だって鞭打ちたかったですよ。でもグッと我慢しました。だって、ね!」

 佐都野さんがアイコンタクトを送ると、黒乃さんが嬉しそうにニコッと頷きます。そう、今から黒乃さんに贈られるのは一位の副賞、「実験室24時間貸し切りペアご招待券」です。

「鞭なんて今からいくらでも入れられるからね~! あぁ~、どんなメチャクチャしようかな。本当に楽しみぃ~♪」

 黒乃さんは縛られたまま、ドロドロに皮膚が焼け落ちた両足裏を揃えて、挑発的に左右に振りました。黒乃さんのこの可愛い足の裏に、今から24時間どんなひどいことをしても良いだなんて……黒乃さんの大ファンであり、黒乃さんを苦しめ抜いて殺したいと公言している佐都野さんにとってはこんなに嬉しいことはないでしょう。

「シズちゃんのこと、一応殺しちゃいけないことになってるけど、私、自分を抑えられる自信ぜーんぜんないから! 覚悟しといてね!」
「うふふ、覚悟は常にできてますよ」
「あ、そうだったね、ゴメンゴメン!」

 黒乃さんと佐都野さんが楽しそうに笑いあいます。黒乃さんはすべての裸足チャレンジに「今日のチャレンジで自分は死ぬ」と覚悟して挑んでいます。だからこそ、毎回とてつもない根性を発揮し、死ぬほどの○問にも雄々しく耐え抜くのです。そんな黒乃さんだから今日の素敵な副賞で苦しみ抜いて死ぬことも、もちろん覚悟済みなのでしょう。

「シズちゃんさ、ペアに誰を誘うかはもう決まってるの?」

 王仁さんが黒乃さんに尋ねました。

「うーん……。一人で独占しちゃうのもアリかなって思ってたんですけど」

 黒乃さんがいたずらっ子のような、はにかんだ笑みを浮かべます。24時間の地獄にたった一人で挑もうだなんて、やっぱりAクラスはスゴ過ぎます……。

「今回は、同じAクラスの子を誘いますね。なかなか裸足チャレンジできなくて困ってる子なので。きっと喜んでくれると思います」

 黒乃さんの言っている相手とは、Aクラスの茨沙樹(いばら・さき)さんのことです。とても立派な生贄なのですが、茨さんは「純粋なモルモットとして人知れず消耗される」というモットーを持っており、今回のような生贄が表舞台に出て脚光を浴びるチャレンジはすべてお断りしていました。昨今は生贄がメインを張る裸足チャレンジが増えきたせいで、茨さんの派遣される現場はどんどん減っていたのです。

 黒乃さんの言葉に、マラソンの見物客でもある馬券購入者たちが「オオーッ」と歓声を上げました。みんな、茨さんのことだと察したのでしょう。茨さんは生贄の中でも随一の美少女なのに表舞台に全く出てくれないので、生贄ファンの間ではレアキャラとして人気なのです。黒乃さんをグチャグチャのズタズタにできる上に、おまけで茨さんまで無茶苦茶にできるなんて一粒で二度美味しすぎる話です。

「じゃあ、馬券を買ったみんなにはその子をあげるから! 私は24時間、シズちゃんを独占しちゃおっかなぁ~!」

 佐都野さんも楽しそうにそう言いました。黒乃さんも楽しそうに笑っています。

 この後、黒乃さんがどうなったのか。それは皆さんのご想像のとおりです。「命が助かった」という一点を除く、この世のすべての最低最悪を黒乃さんはその身でたっぷり味わうことになりました。
 
 †

 そして、二ヶ月後ーー。

 私とふーちゃんは燃え盛る火の道の前へと立っていました。生贄の制服姿である小袖と袴。そして、足下はもちろん裸足で、私たちは火渡りの時を待っています。隣でふーちゃんが私を見てニコッと笑いました。私も嬉しくて笑顔が止まりません。

 先週のことでした。王仁さんが私に謝罪に来たのです。

「沙耶ちゃん、こないだのマラソン大会ではごめんね~。番組の都合上、しょうがなくってさあ」

 内容はもちろん私の足裏を定期的かつ無意味に鞭打ったことです。ただ、もし王仁さんの鞭がなくても黒乃さんに勝てた気は全然しないのですけど……。

「でさ、お詫びと言ってはなんなんだけど、ちょっと良い話持ってきたよ」
「?」

 その王仁さんの「良い話」が、いま私たちの目の前にある火の道なのです。私の右足首とふーちゃんの左足首が荒縄で縛られています。この後、私たちは「二人三脚火渡り」に挑戦するのです。

「これ、私からのご褒美だと思ってよ~!」

 と王仁さん。王仁さんは私が風花ちゃんと一緒に足の裏をメチャクチャにされたいことを知っていたのです。

 今日の二人三脚火渡りは20メートルの火の道が用意されています。私たちは息を揃えて、この上を歩き抜くのです。通常の火渡りよりも遥かに危険なことは言うまでもありません。

 ですが、それだけではなく、さらに二つの魅力的なルールが追加されています。一つは、火の道の周りにはフェンスが立てられており、一度スタートしたなら踏破するまで絶対に逃げられないこと。

 そして、もう一つ。こちらがより重要なのですが、踏破した後、私かふーちゃん、どちらかがおかわりを望む限り、何度でも火渡りは繰り返されるのです。Bクラス上限の「全治一ヶ月縛り」も王仁さんが百合川さんに直談判して(私とふーちゃんも直談判して)、今回は特別に不問となっています。 

 二人三脚ですので、私かふーちゃん、どちらかが苦痛のあまりパニックでも起こして息が合わなくなれば永遠にゴールできません。私たち二人はずっとずっと火の上で踊り続け、足の裏を焼き尽くされることになります。そして……

 私は、そうなるまで、何度でも火渡りをおかわりできちゃうんです。

「え、えへへ! ふ、ふーちゃん、覚悟……いい……?」
「うん! ていうか、沙耶ちゃんが挫けたら私がおかわりするからね!」
「えっ……。……あ、あり、がと……」
「当ったり前じゃん! 今日は最後まで楽しもうね、沙耶ちゃん!」
「う、うん!」

 生贄が泣こうが喚こうが叫ぼうがどうなっても絶対に途中で解放しない、と書かれた誓約書に私とふーちゃんが連名でサインします。ああ、もう、嬉しくて仕方ありません! まるで結婚式のようです。私、一色沙耶は死ぬまで草間風花ちゃんと一緒に足の裏を焼き尽くすことを誓います!


<終>

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

【発売】小説『近畿地方のある神事について』

 Kindleにて長編小説『近畿地方のある神事について』発売開始しました。

■あらすじ

日本のとある地方で過激な火渡りの儀式が行われ、参加した巫女が足裏に大火傷を負う事件が発生する。

この神事の背景には穂村之宝稀姫(ホムラノホマレヒメ)と呼ばれる女神信仰があった。
ホムラ信仰に興味を持った女性記者は奇祭の取材を重ねていくが、彼女の原稿は段々と常軌を逸していき、最後には彼女自身も行方不明となってしまう。

その女性記者のノートPCを手に入れた有堂勇次は、データ復旧へと取り掛かり、彼女の足跡を追う――。
女性記者が収集していた様々な事件記録や雑誌記事、さらにはネット上の書き込みなどから、有堂はホムラ信仰の恐るべき実態を浮かび上がらせていく。
火渡りを始めとする危険な足裏苦行がホムラ信仰の名のもとに執り行われており、多くの若い女性たちが「裸足の巫女」となって、それらの神事に参加していたのだ。
危険でおぞましい神事に競って参加し、そして、足裏に大怪我を負っていく巫女たちの姿を見ていくうちに有堂は一つの疑いを抱き始める。

 ――これは女神の呪いではないか?

大怪我を免れえない危険な神事に挑む巫女たちは正気なのか? そして、失踪した女性記者の行方は? ホムラ神事は日本各地で次々と執り行われ、裸足の巫女たちは恐怖と激痛を競って求め、痛々しい悲鳴を叫ぶ。巨大で異常な呪いが日本列島を覆っていく……。

謎に包まれた神格「穂村之宝稀姫」の正体とは? 衝撃のグロテスク・マゾヒズム・ホラー!!

■こんな人にオススメ

・マゾヒズム文学
・民俗学系ホラー
・モキュメンタリーホラー
・裸足が好き
・足裏が好き

■目次

・アライワ文書(抜粋)
・打ち合わせ 1
・九州地方のある神事について
・メール
・編集部へのメール
・事件例
・若者の見てるサイト
・フドクホムラソウ
・メール
・阿達氏へのメール
・打ち合わせ 2
・関東地方のある神事について
・編集部へのメール
・編集部からのメール
・打ち合わせ 3
・雪山の奇妙な生き物
・レアなバイト経験
・新進気鋭のアーティスト
・卒業旅行
・プロフィール
・打ち合わせ 4
・馬塔氏からのメール
・北海道のある神事について
・編集部へのメール
・編集部からのメール
・打ち合わせ 5
・阿達氏へのメール
・書き込み 1
・打ち合わせ 6
・書き込み 2
・荒岩氏へのメール
・盗聴
・呪い
・ポータルサイト
・近畿地方のある神事について
・付録

 なお、支援者限定で本作のEPUB版を配布いたします。(Kindleで読めます)

【 全治二週間 】プラン以上限定 月額:500円

EPUBファイルをDLできます

プランに加入すると、この限定特典に加え、今月の限定特典も閲覧できます 有料プラン退会後、
閲覧できなくなる特典が
あります

月額:500円

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

【続】支援者の方からの頂き画像

 以前に支援者の方より足裏○問画像を頂いたのですが、さらに追加分を頂きました!

フォロワー以上限定無料

画像9枚とおすすめ動画情報!

無料

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

ゲヒサイに参加しました!


 
 
 18歳未満入場禁止展覧会「下品で最低」に、こちらの展示で参加してきました。
 
 


 
 
 そして、封筒を開けるとこうなります。
 
 

https://twitter.com/nezuminoko/status/1774237745663394077


https://twitter.com/rinnea0815/status/1774263200407797992
 
 
 足裏○問という聞き慣れないジャンルの体験展示に皆さん積極的に参加して頂けました! 本当にありがとうございます。そういうジャンルがあるということだけでも覚えて帰って頂ければ幸いです。

 なお、こちらの展示の元となったゲームブックを販売してましたが、そのデジタル版も存在しております。体験版もありますので、ぜひ!

<体験版>
https://keykoya.booth.pm/items/5106844

<製品版>
https://keykoya.booth.pm/items/5106812
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01101182.html
 

※DLsiteでは現在セール特価で1100円→550円です! 4/4まで!

 †

 以下は、私が体験した他の展示のお話です。

 歴代のイメージガールたちに着床させる展示。お手持ちの硬貨にヒモを付けて精子に見立て、女陰的なものへと見事に投げ込まれば「着床成功!」となります。

 着床はなかなか難しいのですが、とりあえず胸や顔に当たれば一定の満足度(?)は得られます。

 江戸時代のローションである「いちぶのり」が体験できます。口の中に入れると唾液でドロドロしてくるので、これを使ってローションにする模様。

 口の中でローションにするのはなかなか新感覚ですが(特に味はなかったです)、その状態で咥えれば自然とローションが付くと考えれば合理的なのかもしれません……?

 碇ゲンドウがディルドに詰められている……?

 前立腺を刺激することで操作するレースゲーム。プレイ前に「普段どちらの手で自分の前立腺を刺激してますか?」と問われます。そこは前提なんですね……。

「前立腺を刺激して操作」という時点ですでに面白いのに、レースゲーム自体も作り込まれており、レース中にキャラの会話が発生したり、二択クイズが発生したり……さらには宇宙にまで進んで、隕石を避けたりUFOと戦います。

「前立腺をダブルクリックで隕石を避けろ!」

 そんなセリフ、耳にすること、ありますかね??

 個人的に一番ヒットしたのがこちらの性癖ビンゴ。通常のビンゴ同様に数字が順番に発表されるのですが、ビンゴカードにその数字があるからと言って無造作に開けることはできず、その数字に紐付いた性癖が自分にある場合のみ開放可能です。

「キメセクさえ許容できればもうビンゴなのにな~~~!!!」

 といった声が会場から上がっていました。

 そして、見事にビンゴした人はみんなの前で開放済みの性癖を確認されて晒し者にされます称えられます。
https://twitter.com/minori_72me/status/1774290193484546328
 私はあまりにもストライクゾーンが狭すぎるので、全然穴が開かなかったです……。

https://twitter.com/GEHISAI_/status/1774402003239919841

 他にも素敵な展示がたくさんありました。来年もきっと開催されると思うので、気になった方はぜひお越し下さい!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

【圧倒的感謝!】足裏○問画像を作って頂きました

https://twitter.com/keykoya21/status/1770704406948032850
 
 
 私のこんな嘆きが伝わったのでしょうか。当Ci-enの支援者限定Discordにて、ddh11氏が足裏根性焼き画像を作って下さいました!


 すごい……。感動……。自分以外の足裏根性焼き作品、初めて見ました……。


 どれも素晴らしいのですが、特にこれがグッと来ました。他の並んで座らされている画像は懲罰的なストーリーが想像できますが、これだけは一体どういう状況なのかパッとは分からない。

 自分から足裏を差し出しているような状況で、数十本の根性焼きに耐え続けている。足を引っ込めていつでも逃げれそうなのに、あえて足裏を差し出し続けている……。彼女が何を思って、どういう理由でこれをやっているのか。想像させるパワーがあります。

「え、根性焼き(笑) いいよ、やってみる? 全然平気。だって、私いつも裸足で歩いてるんだもん」
「ん~~、まあ、ちょっとは痛いけど平気平気! え、もっと? いいよいいよ、好きなだけやってみなよ(笑)」
「ねえ……もう十本目だけど、まだやるの……? ……え、いや! つ、辛くないし! いいよ! 百本でも二百本でもやってみなよ!」
「……えっ、なんでカートンで買ってきたの? ちょっと待って、マジで……??」

 そんな状況を思って興奮しちゃいますね……。

 さて、今回の有り難い画像群ですが、火傷描写的にも参考になります。火傷描写はいつもどうすればいいのか、試行錯誤し続けてるんですよね……。


https://www.pixiv.net/artworks/111612611

 こちらが私の根性焼き表現。「火傷の外周を白くする」ことで皮膚の盛り上がり(?)を表現し、「火傷の内周を黒くする」ことで影により焼けて失われた皮膚を表現するところは同じですね。見比べると、私の方は「火傷の内周を黒くする」影の描写をもっと強くした方が良いことが分かります。


https://www.pixiv.net/artworks/92525384

 昔描いたこっちの方が、影の表現はできているな……。

 根性焼きの火傷描写はかなり難しくて、まばらなうちは良いのですが、あまり多くなってくると変な模様みたいになってくるし、足裏全面を焼き切ってしまうと、根性焼きの妙味が失われてしまいます。


https://www.pixiv.net/artworks/72985240

 この作品では「足裏全面に根性焼き」が初めての経験だったので、いま見るとよく分からない事になってますね……。


https://www.pixiv.net/artworks/77290505

 後に作ったこちらの方は「全面が焼け爛れている」というニュアンスを、「隙間なく焼き尽くした」ではなく、「全面に均等に根性焼きを行った」という形で表現したので、なんとか根性焼きの妙味が残りました。

 †

 話が脱線しましたが、足の裏への根性焼き画像、本当にありがとうございました!

 今回の画像を作って下さったddh11️氏の素敵なpixivはこちらです!

https://www.pixiv.net/users/77943556/artworks

 足の裏への根性焼き、本当に大好きです。特に女の子があぐらをかいて、足裏を見せつつ、自分の手で一本一本、じっくり、ゆっくり、時間をかけて、たっぷりと苦痛を味わいながら足裏を焼き尽くしていくシチュエーションが大好きです!


https://www.pixiv.net/artworks/112575303
 それを喜んでやってると最高にいいですね……。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

« 1 2 3 4 5 6 7

月別アーカイブ

記事を検索