112-113.異世界に勇者として転移したが、強過ぎるサキュバスとか魔女とかに屈服してイカされ続けた

『異世界に勇者として転移したが、強過ぎるサキュバスとか魔女とかに屈服してイカされ続けた』の続編です。
 これ以前の話は以下のリンクから読めます↓
pixiv ノクターンノベルズ

112.エリィの過去(前編)

 春先の谷にてケンジがマリエーヌに決意表明をした日、魔王エリィは自分の城にいた。
7階にある、かつてケンジとエリィが初めて出会った部屋の中である。
彼女の城は石造りで、その壁は石灰で塗装されているため白色だ。
大きくて縦長の部屋で、赤い絨毯が敷かれている。

 現在、昼下がり。
今日もエリィの魅力は顕在だ。
薄暗い部屋の中、玉座に座りながら絨毯の上に2人の魔人を並べている。
その2人とは、トロルイ兄と弟である。
かつて彼らはエリィを暗殺しようとして返り討ちにあった魔人であり、今は彼女の奴○として生活している。
エリィは全裸の彼らを正座させて、食事を楽しむつもりだ。
サキュバスにとって食事とは、もちろん雄の精液を搾り出して体内に取り入れることである。
 トロルイ兄弟は全裸なので、その鍛え上げられた筋骨隆々の肉体があらわになっている。
そんな実力者でさえもエリィの美貌には敵わず、その視線は彼女の姿に釘付けだ。
 その一方で、エリィは腕を組んだ状態で立ちながら奴○達を見下ろしている。
長いストレートの艶やかな黒髪に、綺麗な白い肌。
細い体にもかかわらず、大きな胸。
丈の長い黒いドレスにキラキラと光るヒールを合わせている。
胸元が見えるドレスなので、その膨よかなおっぱいの上半分が見えていて興奮を誘う。
もし彼女が仰向けに寝ていたとしても、その膨らみは充分過ぎるほど大きなものだ。
彼女の端麗な立ち姿を見ただけで、奴○の魔人達は勃起してしまっている。

「さて……今日もお前らの精液をいただくぞ」

 大きな瞳をさらに見開き、エリィが宣言する。
兄のほうは先の戦いでミルフィーヌに魅了されていたが、搾精され続けて再びエリィにも魅了されてしまっている状態だ。
 エリィが冷徹な視線を2人に向け、舌を出して自身の厚みのある唇を舐める。
尻尾の先端がハート型から女性の性器のように変形し、兄の肉棒に食らいついた。
彼の全身が震える。

「あはぁっ!? ああぁっ!! あひぃぃぃぃ!?」

 尻尾は肉棒の根元まで吸い付いて離さない。
日常的に搾り取られているものの慣れることはなく、快感に酔いしれる魔人。

(きょ、今日もなんという快感……!! 暖かい! 締まりは昨日よりも強い!! き、気持ち良い……)

 彼は正座の状態のままヨダレを垂らし、白目を剥きながら叫んでいる。
 
「さぁ、いくぞ? 私を満足させてみろっ!」 

 エリィが強めに言葉を放つ。
冷徹な視線のまま、兄を見下ろしながら。

(エリィ様に見下ろされる快感!! 下から見るエリィ様の美しさ!!」

 下から見ると、黒いドレスに包まれた胸の膨らみが目立ち、興奮を誘う。
エリィは腕を組んでいるが、それでも胸のシルエットは充分に確認できる。

「毎日毎日、エリィ様の美しい姿を見られるなんて!! こ、この状況……す、すぐに出てしまう! すぐに出てしまうぅっ……!!)

 肉棒の根元に位置していた尻尾の先端が、亀頭まで上がっていく。
一瞬動きを止めた後で再び根元に戻り、その往復動作を繰り返す。
襲いかかる肉体的な快感と、冷酷な表情のエリィに見下ろされるという精神的な快楽に兄の射精感が強まる。

「ああああぁっ!! で、出るぅ……! 出ますうぅっ……!! あ、ああああぁっー!!」

 ペニスの根元から先までを3往復したところで、彼は射精した。

「出したか。どれ、今日の味はどうだ?」

 エリィの尻尾が肉棒をバキュームし、精液が彼女の体内に吸い込まれる。

「う、うわあぅっ……!! あ! あはぁ……あああぁぁっ……! はぁっ……はあぁっ……」

 魔人は喜びの表情を浮かべながら息を切らしている。
正座のまま体を痙攣させ、下からエリィを見つめていた。

「まあまあだな。……さぁ、次だ」

 エリィはバキュームするのを終了し、すぐさま弟の魔人の股間に尻尾を向かわせる。

「う、嬉しいです!! ありがとうございます! ありがとうございます……!!」

 隣で兄が搾精されているのを見て、弟はオナニーしたい衝動を必死で抑えていた。
ついに自分の番が来た……と、歓喜の声を上げる。
彼のペニスがエリィの尻尾でゆっくりと覆われていく。

(や、やっぱりすごいぜ……! これまで何度も何度も搾精されているのに、初めてかのような快感だ!! き、気持ち良い……。し、幸せだぁ……)

 エリィは相変わらず腕を組みながら立ち、尻尾だけを動かしている状態だ。
そんな最小限の動きで搾取されながらも幸せを感じる弟の魔人。
ゆっくりと動いていた尻尾の動きが止まり、根元まで咥え終えたことに気づいた。
男根が全て覆われたことに嬉しくなり、弟は満面の笑みを浮かべた。
エリィは彼の笑顔に目もくれず、冷めた表情で口を開く。

「いつもより尻尾の中を細かく速く動かしてやろう」

 エリィの尻尾の中には無数のヒダが存在している。
ヒダの1つ1つを思い通りに動かすことができるため、その動きのバリエーションが無数にある。
これが何度搾精されようとも快楽に浸れる理由の一つだ。

「ああぁっ!? あひぃっ! き、きもちいいぃぃっ……!! で、で、でちゃううぅ……」

 尻尾の中は暖かく、高級なローションでも塗られているかのような滑りの良さである。
さらに無数のヒダを細かく速く思い通りに動かされては、射精まで時間は掛からない。
情けない大声が部屋中に響く。

「あああぁっ!! イキます! イキますぅっ!! こんなに早くうううぅっ……!!」

 弟の全身が痙攣する。
そして、正座の状態を続けられなくなって前に倒れる。
エリィの妙技が瞬時に絶頂をもたらした。

「もう出したか。兄は3往復耐えたが、弟のほうは一瞬だったな」

「あ……あはぁんっ! あはあんっ……!! エ、エ、エリィさまぁ……!!」

 倒れた弟は、体を痙攣させながらエリィの名前を呼んでいる。

「尻尾の内部を動かしてしまうと一瞬で射精してしまうな。精液の味も劣ってきたか……?」

 彼女はバキュームしながら精液の味を確かめたが、少し不満そうだ。
すぐに気持ちを切り替え、尻尾をペニスから外す。

「……そう言えば、今日は魔界から客が来る。それまではひたすら頂くぞ」

 エリィは腕を組んで兄弟を見下ろしながら、その後も兄、弟、兄……と、交互にひたすら精液を搾り取っていく。
ときに腕を組み替え、脚の位置を変える。
そして、射精が近くと少し口元を緩ませながら舌で自分の唇を舐める。
そんな細やかな動きをする度にエリィの胸が揺れ、その揺れに合わせて艶のある高級な黒いドレスもわずかに動く。
ただそれを見ているだけでも、彼らの心は奪われていく。

「エ、エリィさま! エリィさまぁっ~!!」
「ありがとうございます! ありがとうございますぅ……!!」

 兄弟ともにお礼を繰り返す。
そんな感謝の言葉など聞きもせずに、エリィは沈黙して何かを考えている。

(ふぅ……こいつらの味は悪くはないが、満たされない。やはりチキュウ人の精液が欲しい。……早く戻って来い。私は我慢しているぞ……!)

 エリィは日常の食事に満足していない。
最も美味である精液をもつケンジのことを思い出している。
毎日味わえないことを強く認識し、弱気な表情になっていた。

「エ、エリィ……さま?」
「大丈夫でしょうか……?」

 彼女の表情を見て、魔人達が心配している。

(くっ……! 奴○達の前で弱さを見せてしまったか! 最近、私はおかしい。あのチキュウ人には弱いところばかり見せている気がする。この城の王である私としたことが、なぜか弱気な発言をしてしまうのだ!! この生活を守るために、もっとしっかりしなくては……)

 最高級の精液を思い通りに味わえないこと、そしてケンジが用いた濃縮液の影響により、エリィは精神的に不安定な状態にあった。
弱気な表情を隠すことに努めていると、誰かが7階に上がってくる気配がした。

(む……誰だ? まだ客は来ないはずだが……)

 エリィが入り口のほうに目をやると、懐かしいサキュバスの姿が見えた。

「……食事中に失礼するわ。久しぶりね、エリィ」

 部屋に姿を現したのは、エリィに勝るとも劣らない美女。
赤毛のボブカットで赤い瞳、真紅のロングドレスを身に纏っている。
エリィほどではないが、美形・美白で細い体、そして豊満な胸の持ち主だ。
目尻が上がっており、強気な目つきである。
もちろん他のサキュバスと同様に黒い翼と尻尾が生えている。
玉座に向かって足早に歩き出すと、徐々にその姿がハッキリと見えてきた。
薄暗い部屋の中、その目から放たれる鋭い視線がエリィの大きな瞳をとらえる。

「……む? お前か、【シャーロット】。予定の時刻より早かったな」

 会う約束をしていたのは、このシャーロットと呼ばれたサキュバスだ。
赤い絨毯の上を優雅に歩いている彼女に対して、エリィは身構えている。
シャーロットは正座する奴○達の前に立ち止まって口角を上げ、再び口を開く。

「あら? 私……ずいぶんと警戒されているのかしら? あなたとは親友だと思っていたけど」

 自分に対して身構えたエリィを見て、疑問を口にした。

「親友……だと? 笑わせるな。そんな綺麗な関係ではないだろう」

「そうかしら? 私たち、命を助け合った仲よね? 腕っぷしはあなたより弱いけど、私のほうが戦略とか政治とかに使う頭は良いわよ。お互いの長所を活かして頼って頼られる戦友……そんな関係が適しているかしら?」

 彼女の言葉を受けて、エリィが眉間にシワを寄せる。

(私は頭が悪い……と言いたいのか? 相変わらず嫌なことを平気で言う奴だ)

 嫌な感じがしたが、彼女の言っていることは概ね正しい。
そこには触れずに会話を続けることにした。

「お前のことを頼りにしている面はある。……が、この世界を生き抜くために、政治的な意味で頼りにしているだけだ。親友や戦友といった、『友』という言葉を使うのは違うな」

「あら、冷たいのね」

 首を傾げるシャーロット。

「……」

 沈黙するエリィを見て、シャーロットが話題を変える。

「そう言えば、相変わらず美術品や高価なインテリアを集めているのね。ここに来る途中にも色々と飾ってあったわ」

 部屋を見渡しながら、エリィが集めた品物について言及した。
エリィの城には、至るところに絵画や壺、置物などが飾ってある。
他にもシャンデリアや絨毯なども、自分で選んだものだ。
そんな拘りの強いところが彼女にはある。

(急になんだ? 会話の目的は一体……?)

 エリィが様子を伺っていると、シャーロットが口を開く。

「この赤い絨毯は、いつだか魔界に来て私のところに取りに来たものよね? エリィ……私と最後に会ったのは、その時だったかしら?」

 彼女が言う『その時』とは、以前エリィがマステラ王国に国王と暗殺者を返しに行ったときのことだ。
その際、シャーロットの国にも顔を出していた。
じつはシャーロットは、魔界にあるサキュバスの国の一つを統治している王なのである。

「ああ、そうだな。……そんなことよりシャーロット、お前の用件は何だ?」

「あら? 用がないと来ちゃダメなの?」

 口元に笑みを浮かべて返答するシャーロット。

「……」

 またしても沈黙するエリィ。

(シャーロットとは命を助け合った仲だ。確かに頼りになる。しかし、何か腹の中で別のことを考えている気がするのだ。ただのカンなのかもしれないが、信じ切っていいものか……)

 頭の中で考えをまとめていると、シャーロットが真剣な表情になった。

「じつは私……あなたの城が半壊したっていう噂を聞いてね。それで来たのよ」

 マリエーヌ達がケンジを奪回しに来た際、エリィの城が一部壊れたことが魔界で噂になっていた。

「半壊……? 確かに侵入者が盛大に暴れたが、そこまで壊れはしなかったぞ……」

「……確かにね。でも、下のほうの階はまだボロボロだったわよ。こっぴどくやられたようね」

(こ、このっ……! いちいち嫌なことを言う! こういうところが、この女を信頼し切れない理由なのかもしれない)

 決してカンだけでの判断ではないと、エリィが気づく。
そんなエリィを他所に、シャーロットは続けて喋り出す。

「最後に会ったときは、絨毯を取りに来るだけなのに、わざわざ自分で魔界まで来たわよね? 本当は何か私にお願い事があったんじゃないの?」

「いや……とくにない。マステラ王国に用事があったから、ついでに寄っただけだ。絨毯は自分で選びたかったしな」

 本当はシャーロットに助けを求めようという下心もあったが、それは言わなかった。
エリィは、この城の警備の脆弱さに不安を抱えていたのだ。

「そうなのね。……でも、地上も大変でしょう? ブルー……だったかしら? あの子達は相変わらずでしょうし……」

「……!」

 シャーロットに助けを求めようと思っていたことを見透かされているような発言だ。
今もエリィは、この城の警備に不安を持っている。

「……地上ではうまくやっている」

 エリィは動揺を悟られないように、表情を変えずに言葉を返す。

「そうかしら? 城が半壊したのに……」

「半壊はしていないと言っているだろう……! 地上には魔女がいるのだ! 戦闘力が高い者もいる……!!」

「あら? そんなに大きな声を出して……。ふふっ。何か動揺している? それにしても……魔女、魔女ねぇ……。魔女の存在は私も知っているわ。やっぱり地上も大変じゃない」

(くっ! こいつ、何が言いたいんだ……!? こちらから情報を引き出すような、真意を確かめるような……嫌な感じだ)

 エリィが不快感を表情に出す。
お構いなしに、続けて口を開くシャーロット。

「本当に私の助けは必要ないのね? あのとき、私が言ったこと……覚えているでしょ?」

「あのとき……だと?」

 『あのとき』と言われ、エリィの意識が過去に向かう。
そして、シャーロットとの過去を思い出し始めた。


 エリィは地上に来る前、魔界にいた。
今から100年以上も昔の話である。
100年と言っても、サキュバスの寿命は1000年以上と言われているため、人間からしたら10年ほどの時間感覚だ。
 当時エリィは、いくつかあるサキュバスの大国の一つを統治していた。
彼女はサキュバスの中で最強の力をもつと言われており、歯向かう国は徹底的に力でねじ伏せる、最凶の国王として恐れられていたのだ。
エリィは【親衛四天王】と呼ばれる幹部、そして兵士のサキュバス達を500人以上も従えていた。

「エリィ様……最近、北地方の魔人達が勢力を伸ばしています。あの国に対して、何らかの対策を検討しましょうか?」

 エリィが魔界の森の中に建てた巨大な城。
その玉座に座る彼女に話しかけたのは、親衛四天王の1人である【メリフィールド】だ。
紫色でセミロングの髪の毛に、健康的な肌と程良い肉づき。
目尻が下がった優しい目をしている。
髪の色と合わせたパープルカラーのミニドレスの上から黒いマントを羽織っている。
戦力・知力ともに四天王の中では断トツでトップのサキュバスだ。
エリィと付き合いが長く、もっとも彼女が信頼している部下である。

「ふむ……あの地方の魔人達は、それほど強くないはずだ。ひとまず様子を見る。この国に攻めて来たとしても私1人で殲滅できるしな。妙な動きがあったら私が出向き、ねじ伏せる」

 笑みを浮かべて拳を握りしめるエリィ。
自分の力を信じて疑わない笑みである。

「りょ、了解しました……」

 メリフィールドは一歩後ろに下がりそうになる。
エリィが拳を握りしめただけで、城の壁にヒビが入りそうだ。
そんな気迫に圧倒されたのだ。
2人の会話が途切れたところで、エリィは真上から気配を感じた。

「……む?」

 彼女が見上げると、そこにいたのは細い体の魔人の男。
突然、魔人が襲ってきたのだ。

(暗殺者か……!? まさか天井にへばりついていたのか?)

 エリィが立ち上がり、その場で尻尾を上方向に伸ばして攻撃する。
瞬時に繰り出された尻尾による強烈な攻撃。
その一瞬のうちに、数発分の打撃が魔人の体にヒットした。

「くぅっ……!! バレた……だと!?」

 エリィに反応された上に攻撃を受けて、魔人の男は攻撃することを諦めた。
床に着地し、彼女の隣で構えている。
黒い腰巻きを身に付け、その手にはナイフを握っていた。
上半身は裸であり、エリィの攻撃に耐えるほどの強靭な肉体であった。

(なに……!? 細い体ではあるが、なかなか打たれ強いな。もう少し本気で行くか)

 エリィは敵のタフさに少し躊躇したが、すぐに気持ちを切り替えて構えの体勢をとる。

「くらえっ!!」

 先に仕掛けたのは魔人の男だ。
彼は前進し、手にしていたナイフでエリィを攻撃する。

「……遅い」

 エリィはナイフによる突きをギリギリで避けるとともに、右手で掌底を放つ。
完璧なタイミングで魔人の顔面にカウンターがヒットした。
彼はフラつきながら後退したが、両足に力を入れて立ち止まる。
エリィとメリフィールドに挟まれて不利な状況になった。

「貴様……暗殺者か? いい動きだ。攻撃に移るまで、この部屋にいることに気づかなかったしな。それにしても、この城にどうやって侵入した? この城にいる多くの兵の目を掻い潜って……」

「へっ! そいつは言えねぇな。奇襲が失敗したとは言え、攻撃するまで俺の存在に気づかないとは意外と甘いねぇ? しかも、俺を攻撃するチャンスが2度あったのに殺せないとはな! それでもこの国を統治するサキュバスの王かよ……エリィ!!」

 大声で捲し立てる魔人の男。
その様を見て、エリィはため息をつく。

(やれやれ、調子に乗っているな。魔法を使うか……)

 彼女は魔法で攻撃を仕掛けようとしたが、魔人の姿を見てあることに気づいた。

「ん……? 待て、貴様……その紋章、北地方の魔人か? ここまで力をつけていたのか」

 魔人の首には黒色の紋章が刻まれていた。
メリフィールドが気にしていた北地方の魔人であることの証明である。

「……だったらどうした? エリィ王、お前を殺す気はないぜ。生け捕りだ」

「こちらこそ生け捕りにする気だから手加減をしている。メリフィールド……皆に伝えろ。こいつの仲間が侵入しているかもしれん」

 戦いに入れず、見ているだけだったメリフィールドにエリィが訪ねる。

「……」

 しかし、彼女は無表情で沈黙しており動かない。

「どうした? 早く動け」

 エリィが圧力をかけるが、メリフィールドは反応しない。
すると、部屋の入り口から3人のサキュバスが現れた。
親衛四天王の残りの3人であり、全員美貌を備えている。
そのうちの1人が一歩前に出て喋り始める。

「……私達が雇ったんです。北地方の魔人の暗殺者ですよ。エリィ様……この国では、あなたに反感を持つ者は多い。我々を筆頭にね」

 突然の告白。
3人の美しいサキュバスの目には、エリィへの明らかな敵意が宿っている。

「なっ……!! 貴様らっ!! 私を裏切ったということか!?」

 動揺するエリィに、四天王の3人は呆れた表情を向ける。

「我々の考えに全く気づいていなかったとは……」
「北の魔人を格下だと思っていましたか? 慢心ですよ、エリィ様」
「私たちのことも見下していたんじゃないんですか? そういうところですよ」

 自分に従っていたはずの幹部達。
エリィは突然の謀反に驚きを隠せない。

「『そういうところ』……? どういうところだ……? 私に……原因があるのか?」

 顔色が悪くなっていくエリィ。
四天王の3人は口撃を緩めない。

「あなたは王に相応しくないのですよ。我々の意見は一致しています。隣国のシャーロット王と怪しいつながりがある……そんな噂も流れているようですしね?」
「シャーロット王との噂もそうですが、そもそもあなたは人格的に国のトップに相応しくないんですよ」
「まだまだ北地方の魔人を連れて来ていますよ? 戦闘向きの手練れがね」

 彼女たちの後ろから現れたのは10人の魔人。

「……!!」

 全員体が大きく、大きな魔力を放っているのが分かる。
エリィは相手の力を推し量り思考する。

(……どうする? 暗殺者の魔人1人に、さらに屈強な魔人10人。そして親衛四天王が3人。この数……勝てるか? ……確実に勝てるとは言い切れんな)

 突然の裏切りに判断ができずにいるエリィ。

「そうか。私は……追い込まれているのか。メリフィールド……一緒に戦ってくれるか?」

 傍観していたメリフィールドに助けを求めるエリィ。

「いえ……私もこちら側です」

 彼女は暗殺者の魔人とともに部屋の入り口に向かって歩き、四天王達と合流する。

「なっ!? メ、メリフィールド……? お前も!? う、裏切るのかっ!?」

「はい……」

 無表情のまま返事をするメリフィールド。

「むしろ彼女が発案者です」
「メリフィールドさんに付いて行きますよ、私たちは!」
「長年、信頼していた部下に裏切られる気分はどうですか?」

 残りの四天王の発言により、彼女達の考えが次々と明らかになる。
エリィはたまらず一歩下がり、思考を巡らせる。

(なんということだ……! 私は彼女にも嫌われていたのか。皆、私の命令を聞き続けてきたから、嫌われているなんて考えたこともなかった。……ショックだ)

 自分の顔に冷や汗が伝うのを感じた。
両の拳を握りしめ、必死で言葉を捻り出す。

「くっ! 私は……信じていたぞ。信頼関係はあると思っていた……!」

 その言葉に、メリフィールドが目を細める。

「……何を言っているんですか? 私はあなたに、怒りしかありませんよ……! あなたは力に任せて言い聞かせているだけです! 誰もあなたに逆らえない! 従うしかない!!」

「き、貴様……!! 私が教えたと思っていたが……。戦い方も、魔界での生き方も……!!」

 エリィはたまらず感情的になる。
しかしメリフィールドの恨みは強く、声を荒げて発言する。

「勝てないと悟り、情に訴えかけているんですか!? あなたでも、これだけの数の力には敵いませんね!!」

(くっ! 私の言葉が伝わっていない! 私のことなど……)

 メリフィールドの反応にエリィが絶望する。 
思考を続けると、胸の辺りが苦しくなってくる。
束になった部下達の力。
彼女達から向けられる冷徹な視線。
エリィは辛い気持ちになっていた。

(体の力が入らん……。その目で見るのをやめてくれ)

 落ち込むエリィ。
自分が嫌われていることなど、考えたこともなかった。
心にダメージを受けてしまったのだ。
そんなエリィのことなどお構いなしに、メリフィールドが会話を続ける。

「せめて命は取らないでおきましょう。他国に力を示すため、あなたの名は必要です。表向きはあなたが国王ということにしておいてもいいですね。まぁ、ひとまず牢屋に閉じ込めておきましょう。あなただけが知っている他国とのやり取りを吐かせます。機密事項は全て吐いてもらいますからね」

 メリフィールドが方針を示した。
その優しかった目には憎しみがこもっている。
エリィは四天王達に取り囲まれ、連れて行かれてしまった。


113.エリィの過去(中編)

 親衛四天王に連れて行かれたエリィ。
意気消沈したまま牢屋に閉じ込められてしまった。
牢屋の中は暗く、目の前には鉄格子。
周囲には脱走を防ぐための金属でできた壁。
冷たく硬く分厚く、破壊は容易ではない。
そもそもエリィの体は拘束されていて、破壊を試みることもできない。
壁に取り付けられた鎖がエリィの手首と足首、そして尻尾を固定し、女の子座りの状態で動きを封じている。
さらに、その鎖には魔力を封じる効果があり、彼女は徹底的に無力化されてしまっているのだ。
周囲の状況を確認し、彼女の気持ちはさらに沈んでいく。

(牢屋……か。こんなことになるなんて、考えてもいなかったな)

 後ろを見上げると、背後の壁に備え付けられた小さな窓から外が見える。
わずかな月明かりに目を向けながらエリィは考え込んでいた。

(サキュバスの歴史において、謀反の例はいくつもあるが……こんなにつらい気持ちになるんだな)

 暗い気持ちが晴れない。
しばらく考え込んでいると、牢屋に誰かが入ってきた。

「どうも。○問係のブルーで~す」

 入って来たのは黒いキャミソールとミニスカート姿のブルーだ。
エリィがしっかりと拘束されていることを確認した後で陽気に挨拶をした。
しかし、その笑顔にはどこか猟奇的な危うさが混じっている。

「ブルー……だと?」

「そうですよー。○問部隊の一員です」

「そうか。……そういえば見たことのある顔だ」

 当時、エリィとブルーは面識がほとんどなかった。

「まぁ、私は末端の兵士ですからねー。で、今からエリィ様を○問しまーす♪ 何か秘密にしていることはありませんか? 他国のこととかでナイショにしている事がありますよね? お隣のシャーロット王との関係も怪しいと言われていますよー? 悪巧みしているんじゃないですか? 四天王さま達が抱いている疑惑について『ぜんぶ吐かせろ』と命令されています。……というわけで、正直に教えてください。そうすれば、○問しなくて済むかもしれませんよー」

 ブルーはエリィのところまで近づき、早口で説明する。
その説明を聞いてエリィの表情が変わる。

「私を○問する……だと?」

 エリィの鋭い眼光が、ブルーに突き刺さる。
初めて会話する末端の部下から『○問』という言葉が出た。
本能的に自分の身を守るスイッチが入り、眼光で威圧する。

「○問する気なんだな? 答えろ」

「そ、そう命令されているんですよー! エリィ様は動きも魔力も封じられていますよね? なので○問は可能かと……」

(○問か。メリフィールド……容赦ない命令をするんだな。それにしても、こんな遥か格下にナメた態度を取られるとはな)

 権力も戦闘力も著しく劣っているブルーからの発言に少し腹が立った。

「可能だが、お前では力不足だな。……魔力、尻尾、そして四肢を封じられたとしても、お前が私に触れた瞬間、お前に重大な危害を加えることができるぞ」

 鋭い眼光のまま、言葉でブルーを威嚇する。

「……!!」

 ただならぬ空気を察知し、エリィに近づいていたブルーが部屋の入り口まで急いで戻る。

(……こ、怖すぎィ! エリィ様に近づいたのは初めてだけど、こんなに恐ろしいなんて……)

 恐怖を感じるとともに、彼女には同時に思うことがあった。

(し、縛られているエリィさま……エ……エロすぎィ! 間近で見るとエロさがヤバっ!! ぜ、是非とも○問してみたい……!!)

 女の子座りの状態で拘束されているエリィの様子を見て興奮している。
ブルーの嗜虐心は、かつてないほど駆り立てられていた。

(ロ、ロングドレスが捲れて見えているフトモモ……! あ、あの白くて細いフトモモがセクシーです……!! そしてあの溢れんばかりのおっぱい!! 綺麗な顔! 大きな瞳!! あの透き通るような白い肌!! 同じサキュバスの私ですら、頭がクラクラしてくるー!! あのドレスの中の股間に私のナイフをグリグリして、エリィ様の威圧的な表情を恐怖の顔に変えたい!!)

 怯えていたはずのブルーが、欲望に満ちた眼差しでジッとエリィを見つめ出した。

「……な、なんだ貴様!? どういう目で私を見ている!?」

 ブルーの口からはヨダレのようなものが見えた。
その表情は恍惚としている。

「へっ!? い、いや……なんでもないです……。え、ええと、確かに……圧倒的な強さをもつエリィ様からしたら、私を虫ケラのように感じるでしょうね。○問されても反撃できる……と??」

「そうだ。頭は自由に動かせる。噛みつくことができるかもしれないぞ? 指も動かせるな。指1本、お前の体に触れることができれば、お前を殺すことは確実にできそうだ」

 エリィは不吉に笑いながら、その場で指を動かして見せる。
ブルーがゾッとし、その表情がひきつる。
縛られて魔力を封じられていたとしても圧倒的に実力が違う。
指1本で体の肉をほじくり回され、デコピン1発で頭を吹っ飛ばされることは間違いない。

「こ、怖いですねぇ。……でも、私だって触れずに○問することはできますよ? エリィ様の頭と指に注意しながら、このナイフを使って……」

 ブルーが自分の足に取り付けているホルダーからナイフを取り出す。
ブルーの案など、ささやかな反論に過ぎない……と言わんばかりにエリィがほくそ笑む。

「ふっ。良い度胸だ。ナイフが私の体に触れた瞬間、そのナイフはお前の体に突き刺さっているだろう」

「……」

 ブルーは想像する。
エリィの体をナイフで切るイメージ。
どこを切ったとても、ナイフがエリィの筋肉によって押し戻されて自分の体にナイフが刺さっているイメージになる。
また、ナイフを投げつけたとしても、彼女の体は、その筋肉は……体の中に侵入してきたナイフを跳ね返してしまうかもしれない。
まさかとは思うが、普通に考えたらあり得ないことだが、エリィの実力ならあり得る。
自分が攻撃されてしまうイメージを払拭できない。
ブルーとエリィとの実力差は明白である。
体を痛めつけて○問することは不可能だ。

「う……! で、ですよねー。エリィ様を○問するなんて……私、けっこう四天王さま達から無茶振りされてますよね……」

「お前が私を○問することが難しいことぐらい、少なくともメリフィールドはわかっているはずだ。なぜそんな指示を……」

「まぁ、私は使い捨てってことなんでしょうねー」

「なんだと? 使い捨て?」

「私の○問に対してエリィ様がどういう対処をするのか……その結果を見た上で、ちゃんと○問できる方法を考えるんじゃないですか? 私の身に何があったとしても、お構いなしです」

「そうなのか? お前は使い捨てなのか?」

 ブルーの話を聞いて、エリィが口を開けて驚く。

「○問部隊の中で私が1番嫌われていますから……。まぁ、なんか……異端児と言いますか。使い捨てにされる可能性は充分にあると思います」

「む……そうだったのか。お前のどこが異端なんだ?」

「え? ちょ、ちょっと……残忍すぎるというか、性癖が歪んでいるというか……」

「そ、そうなのか……? お前が異端扱いされているという報告は受けていないな。知らなかった」

「まぁ、王であるエリィ様が知るはずもないですよね……。私は末端ですから。わざわざ報告するわけありませんし」

「……」

 周囲から締め出されているのは、今の自分と同じ……と思うエリィ。
彼女は真顔になって考えを巡らせる。

「貴様……いつから嫌われているんだ?」

「え……もう20年以上前だと思います……。あまり覚えていませんけど」

 返答しながら、ブルーが不思議そうな表情でエリィを見る。

(エリィ様……な、なんの質問だったんだろう?)

 不思議に思うブルー。
エリィはまだ思考中だ。
立て続けに疑問が湧いてくる。

(20年以上……決して短い期間ではない。なぜ平気なんだ? 気にしないのか?)

 エリィは再び質問を投げかける。

「お前……そんな状況でもメリフィールド達の味方をし、私に無謀な○問を試みるのは何故だ?」

 ブルーの肩から力が抜け、ため息をつく。

「エリィ様……強過ぎて分からないんですね……。群れなきゃ、この魔界ではやっていけませんよー。私はサキュバスの中で弱いほうなので。まぁ、最底辺ではないですけど。……って、そんなことはどうでもいいんですよ! やっぱり○問することは難しいですから、まずはエリィ様のお世話係のサキュバスに聞いてみようと思います。秘密の会議の内容とか、秘密裏に招いているお客さんとか、いろいろ知っているんじゃないかと。1人ずつ○問すれば……」

「……なに?」

 エリィの顔が曇る。
ブルーは牢屋の外に出て、世話係のサキュバス達を引き連れて再び入ってきた。

「この子たちが世話係……ですよね?」 

 連れて来られたのは、手錠を掛けられた5人のサキュバス。
彼女達は普段、エリィの着る物や部屋の掃除、客人のアポなど、身の回りの世話や雑務を任されている。
エリィの秘密を知っている可能性は高い。

「なっ!? やめろ! 貴様……この者達に○問をしたら許さんぞ!!」

「へへへー♪ その反応……やっぱり世話係の子たちがエリィ様の秘密を知っているんですね? ここで結果を出せば、私も少しは生きやすくなるかもしれません」

「このぉっ! 殺すぞっ!!」

 エリィが鎖を引きちぎろうと、座った状態のまま全身に力を込める。

「ヒィッ!! エ、エリィ様!?」

 ブルーの怯える声とともに、何かが破壊される大きな音がした。
……が、エリィを拘束する強固な鎖は破壊されていなかった。
壊れたのは壁に取り付けられた小さな窓だった。
窓から放り込まれたのは淡く光る水晶玉。
その光はすぐに消失し、水晶玉から美しいサキュバスが姿を現した。

「エリィ、こんなところに捕われてしまったのね。探すのに苦労したわ」

 登場したのは隣国の王であるシャーロット。
真紅のドレスを身に纏い、堂々と立っている。
突然の大物の登場にブルーが驚く。

「え……シャ、シャーロット王!? そ、その水晶玉は……!?」

 床に落ちている水晶玉を拾いながら、シャーロットが喋り始める。

「ふふっ。私の実力を持ってすれば、エリィの居場所を突き止めるなんて簡単よ。魔力を感知する能力の高い仲間がいるからね。侵入も計画通りだわ。この水晶玉は時空魔法の職人が作った貴重な代物よ。空間移動に使えて便利なの。見た目も綺麗だし、エリィも欲しいんじゃない? あげないけどね」

 シャーロットが笑いながらエリィに視線を向ける。
予期せぬ事態に、エリィは動揺している。

「い、いらん! それよりシャーロット……これはどういうことだ!?」

「あなたの幹部達が怪しい動きをしていることが分かったから、私自ら来たのよ。……助けてあげようかしら?」

「私を助けに来たのか? どうやってこの事態を知った!?」

「私の情報網を甘く見ないでくれる? 部下に団結されて謀反されるだなんて情けないわ。あなたは私の国より大きな国に発展させることに成功したわ。だけど、じつは上手く指揮が取れていなかったのね」

 シャーロットが自信満々の笑みを浮かべながらエリィを批判した。

(なっ……!? い、嫌な言い方をする……! しかし、その通りだ。何も言い返せない!)

 再び気持ちが沈み始めるエリィ。

「こ、国王自ら乗り込んで来るなんてー! し、信じられません!! やっぱりシャーロット王とつながっていたんですね……!」

 状況を理解し、驚きの声を上げるブルー。

「ふふっ。さあ、エリィ。逃げるわよ。私がもっと弱かったころ、あなたに命を助けてもらったことがあったからね」

「……そんなこともあったな」

 そう答えながら、考えを巡らすエリィ。
助けが来たにもかかわらず、エリィの表情は暗くなっている。
部下の謀反に続き、シャーロットの批判が追い討ちになった。
しかし、この状況を打開するには彼女に頼るしかない。

「シャーロット……お前を信じていいのか?」

 シャーロットを信用し切れないエリィ。

「もちろんよ。悪いようにはしないわ。早くここから逃げないと。……あれが拘束を解く鍵かしら?」

 シャーロットが歩き出す。
ブルーを横目に牢屋の入り口付近にある鍵を手にする。
そしてエリィの拘束を解くシャーロット。

「背に腹は代えられん。お前と一緒に逃げよう」

「あら? 信用ないのね」

 不敵に笑うシャーロット。
自由になったエリィは半信半疑のまま逃げ出す準備をする。

「……そこにいるサキュバス達は助ける」

 エリィが世話係のサキュバス達に目をやる。

「え? そんな下位のサキュバス達を連れて行くの? 甘いわね。……そんなことをしていたら、逃げ切れなくなるわよ? ここの幹部は決して弱くはないでしょ」

「……」

 エリィは返事をせずに、世話係のサキュバス達を自分のところに誘導し始めた。

「あらあら、忠告したのに。仕方がないわね。……じゃあ、説明するわ。この水晶玉は対になっていて、外の仲間が持っている水晶玉のところに空間移動ができて……」

「問題ない。さっさと行くぞ」

 シャーロットの言葉を遮り、エリィが壁に向かって掌底を放つ。

「少し本気を出した」

 厚い金属の壁とは言え、自由になったエリィの前では意味をなさなかった。
この城を囲む森が見えるほどに壁は崩れ落ちた。

「相変わらず、とんでもないわね。この分厚い金属の壁を一撃で……」

 エリィの力技に呆気に取られるシャーロット。

「げげっ!? これは……ちょっともう私じゃ手に負えません!! ……って、エリィ様! 世話係の子達を連れて行くなんて、やっぱりその子達は何か秘密を握ってるってことですね!!」

 ブルーが叫ぶ。
牢屋に誰か近づいてくる足音がした。

「なんだなんだ!? 騒がしいな……!」
「大きな音がしたぞ! 非常事態か!?」
「○問部隊! 返事をしろ! どうした……!?」

 親衛四天王達の声と足音が牢屋に近づいてくる。

「早く! 逃げましょう……!!」

 シャーロットが先導し、エリィが破壊した箇所から外に逃げ出した。


 エリィとシャーロットは暗い森の中を走っていた。
そして彼女達の後ろを、5人の世話係のサキュバスがくっついていく。

「ちょっとエリィ! 本気でこんなに多くの部下を連れて行くの?」

 逃げながら世話係のサキュバス達の手錠を壊し始めたエリィ。

「……彼女達は弱い。知能も低いのだ。あのまま放っておいたら、私のことを聞き出すために、なす術もなく○問されてしまっていただろう」

 下位のサキュバスは精液を食らう動物的な一面が強い傾向にある。
戦闘力も低い場合、世話係や雑用係に任命される。
そんな存在ではあるが、エリィは自分の世話をしてくれるサキュバスを大切にしていた。

「まぁ、いいけど。すぐ近くに私の仲間がいるから、合流するわよ。……それにしてもエリィ、実際のところ、何故こんなことになったの? 親衛四天王の動きについては情報が入ってきたけど、動機は知らないの」

「……私には分からん。途方に暮れている。この感情のやり場も分からん。私が圧倒的に1番強いのに……! まさか親衛四天王があんなことを! 何が悪かったのだろうか……」

 メリフィールドの憎しみに満ちた表情を思い出す。

「くっ! メリフィールドまで裏切るとは……!! いつから反旗を翻すつもりでいたのだろうか!?」

「う~ん、四面楚歌になるなんて、やっぱりあなたに原因があるんじゃない?」

 そう言いながら、シャーロットが鼻で笑う。

「なっ……! お前……! 分かったようなことを……!!」

「……!? エリィ! ちょっと待って! 」

 先頭を走っていたシャーロットが急停止する。
逃げながら話していると、目の前に青い光が広がっていることに気づいたのだ。

「なんだ!? 結界か!?」

 続いてエリィ達も立ち止まる。
結界だと気づいた時にはすでに手遅れで、青い光は周囲に広がっていた。
そして、後ろから親衛四天王たちが接近してきた。
逃げたエリィ達を、すぐに追いかけていたのだ。
メリフィールド達は青い光の向こう側で立ち止まる。

「焦っていましたか? 簡単な結界に引っ掛かりましね」
「まさかシャーロット王が乗り込んで来るとは!」
「やはりあなた達2人は何かを企んでいたのでしょうか?」

 四天王だけではなく、そこには北地方の魔人達の姿が10人ほどあった。
先ほど四天王とともにエリィを追い詰めた屈強な魔人達である。
そして、ブルーも同行させられていた。

「○問部隊のお前……逃げられるとはな」
「責任は○問部隊にあるな」
「とくにお前……この罰は重いぞ?」

 ブルーは四天王達に冷たい視線を向けてられている。

(げげっ!? シャーロット王が乗り込んで来たから、絶対に無理でしたよ!? 四天王達……また無茶苦茶なことを言ってる! なんで○問部隊の責任になるのよー。また私が嫌われる! というか、城から追い出される!!)

 納得がいかないブルー。
エリィは相手側の様子を見て、まずい事態に気づく。

「待て……世話係のサキュバスが1人つかまっている」

 メリフィールドが下位のサキュバスの手首を掴んでいる。
そして彼女は、勝ち誇ったように喋り始めた。
 
「やはりエリィ様の○問は難しいでしょう。代わりにこの下位のサキュバスの○問を行ないます。あなたがわざわざ一緒に逃げ出そうとするなんて、重大な秘密を知っているのかもしれません」

 それを聞いたブルーが眉間にシワを寄せる。

(世話係のサキュバスを○問するのは、私の案なんですけど……!)

 ブルーのイライラが溜まっていく。
そんな中、動いたのはエリィだ。

「貴様! その者をこちらに返せ!!」

 前に出るエリィ。
……が、結界が邪魔をして前に進めない。
その様子を見て、メリフィールドが笑いながら喋り出す。

「そんなに必死になって……。やはり何か秘密を知っているんですね?」

 彼女の質問に対して、エリィが真剣な表情で焦りながら説明を始める。

「そいつらは何も知らない! 何もできない! 弱く、知能も低く、兵士にもなれない! それでも、私は世話になっているんだ! 必死に私の予定を管理してくれている! 私の大切な美術品も丁寧に手入れしてくれているんだ!」

 エリィの言葉に、ブルーが目を丸くする。

(え……エリィ様!? それが……理由なんですか? じ、自分の部下を助けようとするんですね! こんな……私よりもさらに弱いサキュバス達を! 冷酷で残虐と言われているエリィ様が……もしかして本当は優しい?)

 予想もしていなかった理由に、ブルーが驚いている。

「そいつは返してもらう! こんなチンケな結界で、私を封じられると思うなよ……!!」

 怒りの表情をあらわにしたエリィが魔力を解放する。
彼女の右の手の平が結界に触れると、その部分から徐々に破壊されていった。
その様子を見たメリフィールドの顔が引きつる。

「なっ!? あ、あなたは……本当に規格外ですね!!」

 焦るメリフィールドに向かって踏み込むエリィ。
繰り出された掌底が顔面を襲う。

「くっ……!!」

 顔を横にそらし、メリフィールドは紙一重で攻撃を避けた。
少し遅れてやってくる風圧に後退りしながら、ゆっくりと口を開く。

「手を……出しましたね!?」

「こいつを取り返しただけだ」

 エリィは掌底を放つとともに、尻尾を使って世話係のサキュバスを救出していた。
ブルーは部下を助け出したエリィを見て興奮する。

(エ、エリィ様……! シビれます!!)

 エリィの行動に衝撃を受けたようだ。
 
「くっ……! 全員で仕掛けましょう!!」

 メリフィールドが指示を出した。
残りの四天王と魔人達が構える。
すかさず前に出てきたのはシャーロットだ。

「ちょっと……私がいることも忘れないでね?」

 彼女が真剣な表情になる。
それを見て、メリフィールドも顔色を変える。

「シャーロット王……あなたも戦う気ですか? 国際問題ですよ? まぁ、私達の城に侵入した時点で国際問題ですが」

「国際問題? エリィとは古い仲なのよ。友人が理不尽に捕まったら、助けるのが普通じゃない? 私も戦うから、さすがに引いたほうがいいんじゃない? というか、私が1人で来ているわけないでしょ?」

 シャーロットが喋り終わるのと同時にサキュバスが2人、メリフィールド達の両隣から現れた。
彼女達はシャーロットの右腕と左腕と言われている幹部のサキュバスだ。
1人はその手に水晶玉を手にしており、シャーロットの城内への侵入に協力していたことが分かる。

「くっ……!!」

 駆けつけてきた2人のサキュバスの戦闘力は高く、メリフィールドが怖気付いている。
それを見て、シャーロットが言葉で畳み掛ける。

「戦争をするのであれば、あなた達の国は戦力ダウンね。エリィがいなくなったんだもの。あ……周囲に住んでいる魔族達から狙われるんじゃない? 北地方の魔人は味方につけているみたいだけど、どこまで耐えられるかしら? 私の国との国際問題より、そっちの心配をしたほうがいいと思うけど」

 シャーロットの警告にメリフィールドの口元が歪む。

「くっ! 引きましょう! このままでは済みませんからね……!!」

 メリフィールド達は悔しい表情を晒しながら、その場を立ち去った。
事態を収めてくれたシャーロットにエリィが話しかける。

「シャーロット……すまない」


 暗い森の中、その場に残っているのはエリィとエリィの世話係5人、シャーロットとシャーロットの幹部2人、そして……ブルーである。
ブルーにしては珍しく、真剣な表情をしている。

「エリィ様……私も連れて行ってください!」

 ブルーがエリィに近づいてアピールをした。

「ん? 確か……ブルーという名だったな。なぜだ? お前はあちら側だったはずだ」

「いやぁ、私はちょっと仲間外れでしたからね……」

「さっき牢屋で言っていたな。残虐性……だったか? まぁ、残虐なところがあるのは私も同じだが」

「あ、少しはわかってくれますか? 残虐性、出ちゃいまよねー。もう性癖なんで仕方がないんですよ」

「性癖? 私は性癖というほどではないが……」

「そんな個性も認めてくださいって感じです」

 ブルーが鼻を鳴らす。
エリィは彼女の性癖については気にしていない。
その他に疑問に思っていることを切り出す。

「私が不思議に思うのは、お前が20年間疎外されているにもかかわらず何も行動を起こさなかったことだ。悲しく、つらくなかったのか?」

 エリィは自分が築いてきた王国の幹部達に裏切られ、つらい気持ちになっている。
そのため、このような質問をブルーにした。

「え? いやぁ、私は自由に生きたいので。本当は群れるのは好きじゃないんですよ。魔界は群れないとキツいですから一緒にいただけです」

「……なるほど。それもさっき言っていたな。……そうか」

 自分と同じものを感じたが、今の話を聞いて違うと思うエリィ。

「私がエリィ様について行こうと思ったのは、エリィ様……意外と部下を大切にするようなので安心できると思ったからです」

「そうか……。まぁ、部下にもよるが……」

「……」

 ブルーは黙って何かを考えている。
なるべくエリィの言うことを聞こうと思ったようだ。

「わかった。ともに行こう」

「やった♪」

 ブルーは自分と似ている状況だと思ったが、性格や考え方は全く異なる存在だ。
エリィは、そんなブルーに興味を持った。
 2人のやり取りを見ていたシャーロットが一歩前に出て口を開く。

「ねぇ、話し込んでいないでさ。……どこか行くアテはあるの? ないなら私のところに来ない? 私の国の戦力を強化したいわ。エリィ、私とあなたが一緒にいれば無敵じゃないかしら? 魔界を揺るがす大ニュースよ」

「シャーロット……お前は古くからの知り合いだ。しかし、信じていいものか……」

 シャーロットが目を丸くして驚く。

「え……今、助けたじゃない。しかもすごい格好良くさ。まぁ……私も昔、助けられたことがあるから、貸し借りナシって感じだけど」

「助けてもらった……が、お前を信用し切ることができない。それは……お前が強いからだと思う」

「え? どういうことよ? あなたほど強くないわよ」

「単純な強さだけではない。部下を指揮する力が高く、頭の回転が早い。先ほどメリフィールドを退けたときも口が達者だと感じた。広い情報網も持っているようだな。的確な手段で私の城への侵入することに成功したし……さまざまな種類の強さを持っている。……強いものは、私を裏切る」

「え……強いからって、裏切るとは限らないと思うけど……」

「……」

「ちょっと……エリィ?」

 裏切られたことを思い出し、考え込むエリィ。
元気のない彼女に代わってブルーが話に入る。

「あ、エリィ様……部下に裏切られて疑心暗鬼になってる感じですねー。そうですよねー。ヒドいことがあったばかりですもんね。シャーロット王の誘いは、また落ち着いてから考えればいいんじゃないですか?」

「……そうだな」

 エリィが暗い表情で頷いた。

「……そう。残念だわ。でも、正直に言ってくれてありがとね」

 溜め息をつきながら答えたシャーロットをエリィが見つめる。

「……」

「何よ?」

 何も喋らないエリィを見て、シャーロットが不思議に思う。

「意外なものだ」

 色々と考えた末に口を開くエリィ。

「え、なにが?」

「お前とは古くからの長い付き合いだ。昔も今も、私のほうが強いがな。それでも国を上手に統率できているお前を羨む」

「エリィ……なんか本当に素直ね。確かにあなたの方が戦闘は強い。まぁ、向き不向きはあるわよ」

 向き不向きという言葉を聞いて、エリィは目線を逸らす。

(私は統率に不向き……か)

 エリィは少し考えた後で会話を再開する。

「……さっきお前が言ったような、2人で協力する未来もあるかもしれん。ただ、もう少し、お前の力を頼らずにがんばってみようと思う。私は……魔法陣を作成して地上に行くことにする。魔界で国を統治することに疲れた」

「あら、そうなのね。地上へ? そう……うん、まぁ……ね。メンタルが弱っているのね。まぁ、一生の中で、そういう時間が少しあっても良いかもね。あ、メリフィールドたちに復讐したくなったら協力するから」

「おそらく……それはない。先ほどお前が言ったとおり、ここまで四面楚歌だと、私に何か原因があったのだろう」

「そうかもしれないわね。あ、魔界のものが欲しかったら私に連絡してね。インテリアとか芸術品とか、協力するわよ」

「……助かる」

「魔界に戻って来たかったら、いつでも私に声をかけて。助けになれると思うわ。いくら地上とは言え強敵もいるでしょう。その子達とじゃ不安になってくると思うわ」

「わかった。また……会おう」

「ええ」

 こうしてエリィは、世話係のサキュバス5人、そしてブルーを従えて地上に向かった。

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