Wedge White 2020/08/09 23:29

冷え切った頭で考え、たぎる指で奏でる物語



※今回はサイトにも投稿している、珍しい日記風のお話です

 私は元々は小説を書く人だったのですが、それは正直言ってしまえば「手段」であり、本当の目的というのは、アニメ原作者でした
 はい、今となってはきっつい過去の暴露大会なんですが、つまりはラノベを書いて一発当てて、アニメ化までこぎつけ、世界中に俺の物語をぶちまけてやろうぜ、と夢描いていた若者だったのです
今も若者じゃい!
 
 ともかく、かつてはそう望んでいた人間でしたが、こうやって同人活動を始め、目的を手段にし始めたのです
 はい、なんだかひっくり返して面白いことを言ってる風みたいですが、これが実際のところなんだと思います
 私は、小説を書いて、かつそれを一発当てなくても、自分の物語を別メディアに置き換えることができるんだ、ということを知りました
 その結果が、今主としてしている、音声作品のシナリオを書くという行為です
 ぶっちゃけますと、小説っていうのは全然キャッチーではありません
 それは確かに、たくさんの物事を伝えられるでしょう。ハマってさえもらえれば、どこまでも沼に沈み込ますことができるでしょう
 ただ、ぶっちゃけましょう。割りとこのメディア、前時代的なんです
 壁画や粘土板の時代から、ほとんど同じことはされていて、しかし、今の時代には音や動画を好きなように使えるのです
 そんな中、いつまでも小説を書いていることに固執し、ある意味であぐらをかいている訳にはいかない
 ずーっと文字の世界で生きる中で、私はそのことを感じ始めました
 私が書く物語は、私にとっては特別なものでも、他人からすれば「知らない誰かの物語」でしかなく、それは読んでみるまで面白いかどうかすらわからず、たとえ面白いものであったとしても、自分に合うのかはわからない
 そんな不確かなもののために、多くの人が立ち止まって、読んでくれる訳がない
 
 正直なところ、私は文章において明確な挫折はしたことがありませんでした
 憧れの作家デビューはできなくとも、それなりの選考結果が返ってきていた訳で、辛抱強くトライ&エラーを繰り返していたら、いつか上手くいっていたのかもしれません
 が、段々とそれが「本当に自分がしたいことなのか」と疑問に感じてきました
 そして、冒頭の自分の事実に気付いたのです
 ならば、書くものは小説である必要性は存在しない。それはもちろん続けるけど、諦めきることはしないけど、別の文章も書いてみる。書いてみたい
 そうして始めたのが、まずはゲームシナリオで、それから、音声作品シナリオへと向かっていきました
 
 音声作品のシナリオというのは、当たり前ですが小説とは大きく作法が違います
 大きな違いとして、小説には地の文があるが、音声作品にそれはない
 モノローグはあるかもしれませんが、地の文に該当するものを全てモノローグにしていては、テンポがただひたすらに悪くなってしまう
 また、とりあえず今のところ製作している作品に関しては、受け手側のセリフがありません
 ヒロインのセリフだけで全てを表現する必要がある。この点で、劇台本、つまり戯曲とも異なってきます
 まとめると
 
・セリフだけで表現する
・しかも、そのセリフはヒロインのものだけでなくてはならない
 
 小説で使えた多くの武器を手放すことになり、はっきり言って、かなり難しいものでした
 多分ですが、小説を多く書いてきた人間は、普段のメールやLINEなどを使ったメッセージでも、長文を書きがちだと思います
 多くのことを伝えたい、自分の気持ちを全て形にしたい、誤解がないようにしたい
 様々な気持ちが、長文化させるのだと思います
 しかし、シナリオではそれが許されません。言葉を尽くすほどにテンポは悪くなり、説明臭くなり、生の人間が話すことには思えなくなってしまう
 そのため、無駄をとことん削ぎ落とすことになります
 誤解を恐れるのではなく、受け取り手の想像力に委ねることになります
 そして「自分の気持ち」などという作者のエゴを捨て、キャラクターをキャラクターらしく喋らせることに注力するようになります
 小説は時として、作者の自分語りの場となります
 ところが、音声作品でそんなことはできない。キャラクターをいきいきと表現するため、作者は己を殺し、真の意味での作り手。神のごとき物語の俯瞰者にならざるを得なくなるのです
 
 そのセリフは、そのキャラクターがそのキャラクターであるために
 その表現は、受け取り手の心に響かせるために
 自分ではなく、他人のために、物語を書く
 
 その体験は、私がこれまでしてきた創作体験とは全く異なるものであり、いつしか私は、冷え切った頭でシナリオを書いていることに気づきました
 それは情熱がないのではなく、義務感だけで、まるでAIのようにシステム的に考えているのではなく、己を排し、キャラクターの表現に真剣に向かい合っているからこそ
 かつての自分のエゴを紙面に書きつけるだけの物語の作り手ではない、俯瞰の視点を獲得できている自分になっていたことに気づけました
 
 そのため、今の私がシナリオを書く時、驚くほど気持ちは静かで、ひとつひとつの場面を、受け取り手の反応と、そのキャラクターにおける合理性を意識して書いています
 恐らく、その表情は静か、あるいは冷酷。機械的ですらあるでしょう
 しかし、体は熱く、魅力的なキャラクターをこの世に生み出すために、邁進し続けています
 
 それが「今の」私の創作観でした

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