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時間停止の記事 (5)

おかず味噌 2022/03/31 23:56

能力者たちの饗宴<???能力>「調査報告」

 私は「機関」から「各エージェント」に支給されている「端末」の画面に目を落とす。

――△×商事にて、女性社員二名の「異常行動」を確認。

 専用回線を介して送信されたメッセージは、一度読むと同時に「消去」される仕組みになっている。故に私は、必要な情報だけを即座に記憶する。

――内一名は、オフィス内における「放尿行為」。
――他一名は、オフィス内における「脱糞行為」。
――両名共に、一連の騒動後すでに「退社済み」。

 両者に共通するのは、それが身体において必要不可欠な「代謝機能」であるという点。その点においては、「私の能力」とやや似通った部分もあるのだったが…。

――機関の「能力者データベース」と照合したところ、そのいずれにも該当せず。

 仮に「未知の能力」によるものだったとして。まさか好き好んで、人前で「排泄物」をまき散らす者など居ないだろう。(二十代のうら若き乙女ならば尚更に)

 ここはやはり彼女達自身が「能力者」なのではなく、何者かによって能力を行使された「被害者」と見るべきであろう。

――以下、両名に「事情聴取」を行った際の「記録」である。(一部抜粋)

 私は二人の簡潔な「プロフィール」に目を通し、添付された「音声ファイル」を開くのだった。


<麻美の供述>

「『トイレ』に居たんです!!」
「えっ?何をしてたかって、そんなの決まってるじゃないですか…」
「それって言わなきゃダメですか?」

 自らの「生理現象」を告白することに、彼女は若干の難色を示す。

「お、『おしっこ』です…」
「長かった、って。それは、その…」
「『うんち』とかじゃないですよ?ちょっと、手間取ったというか…」

「排泄行為」を幼児言葉で呼称する彼女。「大便」を羞恥だと感じているところからも、その幼稚さが窺えた。

「もうちょっとで『出そう』ってところだったんです。それで…」

 彼女は何かを「隠している」ようだった。多くの「犯罪者」と関わる仕事柄、ついつい相手の「虚言」を見抜こうとする癖が身に付いてしまった。だが今回のそれについては、あくまでも「本件」とは無関係だろう。

「気が付いたら、オフィスに戻ってて…」
「私、○○課長に『アソコ』を見られて…」
「○○課長の前で。私『おしっこ』を…」

「事故の詳細」を思い出し、泣き出してしまう彼女。愛おしそうに名を呼ぶ口ぶりから、彼女が「当該人物」に対して「特別な感情」を抱いていることは明らかだった。

「でも、人前でするのって何だか気持ち良く…」
「――て。私、何言ってるんだろ?」

「自己の醜態」を思い返し、つい余計なことを口走ってしまう彼女。ひた隠しにするべく行為を自白したことで、秘められた「性癖」を自覚したらしかった。


 私は続いて、もう一方の「音声データ」を再生する。


<由美の供述>

「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか!!」

 幾度となく繰り返される質問に、うんざりしたように語気を荒げる彼女。甲高い声音も相まって、盛大に「音割れ」している。

「その日は、たまたま『お腹の調子』が悪くて…」
「前日の『合コン』で、飲み過ぎたのかしら…?」

 いかにも「高飛車」そうな彼女。相手が誰であろうと「高慢な態度」を改めるつもりはないらしい。

「『一夜を共に』なんて、してません!」
「そもそも全然タイプじゃなかったし…」
「年収と身長が低い男は、こっちから願い下げなんで!!」

「調査員」という立場を行使し、女性のプライベートに土足で踏み入るかの如く行為に。「公私混同」も甚だしい、という意見もあるだろう。

 だが「捜査」において。事件とは無関係に思える事柄こそ、殊の外に重要なのである。

 全ては、およそ取るに足らないような些細な情報から事実を白日の下へと晒すために。これは必要な手続きなのだ。

「突然、意識が途切れた気がして…」
「スカートを、捲られてたんです!!」

 彼女は「恥じらい」というよりむしろ「怒り」に打ち震えているらしい。

「べ、別に『ショーツ』を見られること自体は恥ずかしくありません!」
「常日頃から、男性に見られても良いものを穿いているので…」

「水着」でもあるまいし。紛れもない「下着」を周知されることを、何ら羞恥にも感じていないらしい。それは、彼女が「ビッチ」だという証明に他ならないのだった。

 いよいよ、肝心な質問。彼女は暫し迷った挙句、たっぷりと間を置いた後。

「は、はい…」
「私は『大便』を漏らしてしまいました」

 やがて観念したように「失便」を確言する。

「『指』が、入ってきたんです…」
「あの太くてゴツゴツした感触は、「男性のモノ」に間違いありません!!」
「いや、そういう意味じゃなくて…」

 自己の発言が予期せず「男性器」であるかの如く表現をしてしまったことに。ようやくそこで彼女は恥じらいを見せる。

「『お尻』でヤッた経験はないですけど…」
「たまには『そっち』もいいかな、って…」

 またしても「個人的な話題」に逸れようとしたところで。

「こんな卑劣な『犯罪行為』をするのは――」
「『アイツ』以外に、考えられません!!」

 ふいに、彼女は「ある人物」の名を口にする。

 とはいえ。事実関係を明らかにする上で、あくまで先入観は禁物だ。

 だが仮にもそれが「被害者」である彼女たちが異口同音に証言した「排泄行為」以外の唯一の「共通項」であるとしたら――?


 機関の動向を敵勢力に秘匿するため、調査内容を書き残すことは固く禁じられている。 

 故に私は、「重要参考人」と思しき氏名を脳裏に刻み付ける。


――数日以内に、能力者の「波動」を観測。

――至急、能力者の「確保」及び「撃退」に向かわれたし。

――尚、発現者の「能力」については詳細不明のため存分に注意されたい。

 読み終えたメールが消去され始めると同時に「端末」を閉じる。そして――。

 私は再び、「職場」という名の「戦場」へと「派遣」されるのだった。

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おかず味噌 2022/02/28 23:52

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「派遣社員のレイコさん」(有料プラン更新済)

 まるで「汚物」を見るかのような目だった。

 女子社員の私に向ける視線である。私に対する二人の態度はいつだってあからさまで、だがそんな彼女たちも今や――。

「まだまだ出る!『おしっこ』止まらないよ~!!」

「『下痢便うんこ』出りゅ~!!たっぷり出ちゃう!!」

 オフィス内に響きわたる嬌声と共に、文字通り「汚物」をまき散らし。その後間もなく「寿退社」ならぬ「おもらし退社」したのだった。


 前代未聞の「異臭事件」から、一週間後。

「ちょっと皆、集まってくれ!」

 仕事中、ふいに課長から号令が掛けられる。

 全員が業務の手を止めて集合させられる中。私もスマホでエロ動画を漁る指を止めて、渋々ながらも命令に従うのだった。


 列の最後尾に加わる。どうせ毒にも薬にもならない𠮟咤激励を聞かされるのだろうと、うんざりしたままの顔を上げると――。

 課長の隣に、見慣れない「一人の女性」が立っていた。


 長い黒髪を「ポニーテール」にして、前髪はきちんと左右に撫で付けられている。

「おでこ」を出すことで、よりはっきりと分かる均整の取れた「卵型」の顔。「陶製」を思わせるかのような白くて透き通った肌。「吊り上がった目尻」は近寄り難そうな印象を与えるものの、それは彼女の「性格のキツさ」を表わすものではなく、彼女が「美人」であることの証明に他ならないのだった。

 淡い色のブラウスの上から品の良いジャケットを羽織り、下はタイトスカートではなく「パンツスタイル」。下品になり過ぎないギリギリの高さの「ハイヒール」が、彼女の「スラリと伸びた長い脚」をより強調していた。


「こちら『派遣社員』の『麗子』さん」

 課長から紹介された彼女は、小さくお辞儀をする。

「『高嶺麗子』と申します。何かと至らぬ部分もございますが、どうかご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」

 丁寧な口調で言い終えると。再び彼女は「マナー講師」の「お手本」で見るかのような計算され尽くした角度で、深々と頭を下げるのだった。


 課内全員の「盛大な拍手」をもって迎えられる彼女。

 思いがけぬ「麗人」の登場に、男性陣が内心で浮足立っているのが感じられた。

 私の初出勤日にそのような場が設けられることはなかったが、それについて特に不満に思うところはなかった。

 それよりも。私としては早速、次なる「獲物」に虎視眈々と狙いを定めるのだった。


 昼休みになり。彼女の色香に「誘引」されたが如く、男性社員が「蝿」の如く群がる。

 その様子を遠巻きに眺めて。私はといえば――、あえて「見」に回ることに務めた。

「能力を行使」するのはいつでも出来る。あくまで「息子」がその気になればの話だが。彼女の「外見」を見る限り、それについて何ら問題は無さそうだった。

 肝心なのは「中身」だ。それは何も、付き合うか否かの「判断材料」としてではなく。彼女の「高慢さ」を知ることで。いざ行為に及ぶ際の「征服感」をより高めようとする、いわば「前戯」のようなものであった。


 取り巻きの男性社員たちは、次々と彼女を「質問攻め」にしている。

「どこ出身?」
「大学は?」

「経歴」に関することから。

「趣味は?」
「彼氏はいるの?」

「プライベート」に至ることまで。

 不躾な質問に対し、彼女は謙遜したり遠慮したりしながらも終始笑顔で答えている。

 彼女の「演技」は完璧であり。誰彼構わず「愛想」を振り撒くその表情を見る限り、「八方美人」であることに違いなかった。


 だがまだ「初日」である。今後果たして彼女がどのような「本性」を現していくのかを愉しみにして。今日のところはとりあえず「彼女に似た女優」を「オカズ」にすることで矛を収めようと、私は決めるのだった。

(今の私ならば、いくらでも女を「とっかえひっかえ」出来るにも関わらず。なぜ未だに幻想の映像に拘っているのかといえば、それについては止むに止まれぬ事情があるのだ)


 私は「情報収集」を続ける。彼女の仕草におけるいかなる「瑕疵」をも見逃すまいと、あるいは会話の内容から彼女の「価値」を見定めようと聞き耳を立てる。

 そこで、彼女はふいに席から立ち上がるのだった。

 執拗な「囲み取材」から逃れ、なぜかこちらに向かってくる彼女。

 私の「熱烈な視線」に、早くも気づかれたかと怪訝に思っていると――。

「――さん。ちょっと、よろしいですか?」

 いつの間にか目の前にいた彼女は、あろうことか私に「話し掛けて」きたのだった。


 すぐさま「マスゴミ共」から不満の声が上げられる。

「おっ…!まさかの展開!?」

 あり得ぬ状況を茶化す者や。

「麗子さん、優しい~」

 思わぬ行動を称賛する者など。

 そのどれもが私に対する「低評価」と共に、彼女に「高評価」を与えるものだった。


「は、い…」

 絞り出すようにして辛うじて発せられた声が、自分でも上ずっているのが分かった。

 ごく久しぶりの「女性との会話」において、私は無様にも緊張してしまったのである。

「挨拶が、まだだったので…」

 どうやら最低限の礼儀はわきまえているらしい。両親の教育に感心させられながらも、たかがそれだけのことで篭絡させられる私ではなかった。


「あの…。――さんも『派遣社員』ですよね?」

 続く言葉で、徐々に彼女の「本性」が窺われ始める。

――ほら、来た…!!

 想定通りの展開に、私は内心で密かにほくそ笑む。

「いい歳して」と、どうせ私のことを嘲笑うつもりなのだろう。

――お前だって「派遣」だろうが!!

 口にこそ出さないものの「反論の刃」を研ぎ澄ます。

 彼女に「制裁」を与えるべくは、あくまで私の股間の「不潔の刃」なのだ。


「それが、何…」

 返す刀で私は問い返す。だが、その先を言い終える前に――。

「嬉しいです!!慣れない職場で私、心細かったので…」

 彼女は不安な心境を吐露する。

「こんなにも頼りがいのありそうな『先輩』が居て下さるなんて!」

 彼女は嬉しそうに破顔して見せる。

――頼りがい?この私が?

 これまで仕事ぶりを見るまでもなく、ハナから「無能」というレッテルを貼られてきた私に対する思わぬ「好評」に反応に困る。


 だが口先でなら何とでも言える。そこで私は「最終試験」とばかりに右手を差し出す。(ただ「生身の彼女に触れたかった」というのもあるが…)

「よ、よろしく…」

 さりげなさを装って発した私の言葉は、あまりにもぎこちないものだった。

 だが己の葛藤には取り合わず、私はあくまで彼女の「表情筋」を注視する。

 仮にも頬がピクリとでも動こうものならば、それによって彼女の「メッキ」はパキリと剥がれることになるだろう。

――さて、どうする!?

「そんなつもりで言ったんじゃない」と。私の握手を悪手とばかりに気まずそうな表情を浮かべて無視するか、あるいは――。


 彼女は逡巡することもなく、差し出した右手を握ってきた。彼女の手に触れたことで、自分がぐっしょりと「手汗」をかいていたことに気づかされる。

 それでも、彼女は嫌な顔一つせず。「某アイドルグループ」の「イベント」のように、重ねられたもう一方の手が私の手を優しく包み込むのだった。


 彼女の掌は温かかった。

――「排卵日」が近いのだろうか?

 彼女も手汗をかいていたが、少しも不快には感じなかった。むしろ「彼女の水分」と「私の水分」が混ざり合うことで。「彼女の体温」と「私の体温」が溶け合うかのような感覚に、得も言われぬ高揚を感じるのだった。


「色々と教えてくださいね?」

「意味深な台詞」を言い残し。彼女は名残惜しそうに掌同士による「まぐわい」を解き、束の間の別れを告げるが如く私の元から歩き去る。

「ランウェイ」のモデルさながら、腰を大きく左右に揺らして歩く彼女。細身の体型にはやや不似合いな「安産型」の「パン尻」を眺めながら――。


 実に二十数年ぶりに、私は「恋」に落ちていた。

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おかず味噌 2021/08/31 23:53

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「後輩女子に部活指導」

 街ですれ違ったギャルに「教育的指導」をしてやった、翌日。 

 実に二十数年ぶりに、私は母校への凱旋を果たしていた。


 よくテレビ番組のドキュメンタリーなんかで。著名なスポーツ選手がかつての学び舎を訪れ、己の輝かしい実績を鼻にかけて「エラそうに」後輩を指導するという企画がある。

 彼らのその華々しい功績は(少なからず当人の努力によるものもあるだろうが)、やはり才能に起因する部分が大きく。いかに凡人が教えを乞うたところで、そこに再現性などあるべくもないのにも関わらず。純真無垢な後輩たちは、たった数時間の練習であたかも自身の技術が飛躍的に向上したかのように錯覚し、先輩の来訪を涎を垂らして有難がる。

 生徒のみならず、教師や父兄も一緒になって卒業生の帰校を喜び。手作りの横断幕などを用いて、有名人の来校を歓迎するのである。

 それに引き換え「私は」といえば――。
 誰にも歓迎されることなく、人知れず一人きりの凱旋なのだった。


 校庭の周囲にはフェンスが張り巡らされている。私の記憶には存在しなかった風景だ。近年「不審者対策」として、生徒たちを守るために設置されたものだろう。

 私の能力を行使すればこんな防壁など、誰に不審がられることもなく乗り越えることは可能なのであったが。だが私は「不審者」でもなければ「変質者」でもない。あくまで「傍観者」として、練習に励む後輩たちの姿を見守っていた。

 私の学生時代。やはり同じように部活動を見学している、数人の「おっさん」がいた。プロならばまだしも、彼らの眼前にいるのは完全なアマであり。さして巧くもない練習をどうして飽きもせず眺めていられるのか、と当時の私は不思議でならなかった。

 だが、自身も「中年」となった今ならば理解できる。恐らく彼らはそこに憧憬を抱いていたのだろう。

 長年の運動不足により、はたまた肉体的劣化によって「激しい運動」を出来なくなった彼らにとって。地を駆け回り、宙を跳ね回る十代の姿は眩しく映るのだろう。あるいは、己の果たせなかった「青春の面影」を重ねるように――。

 グラウンド行われる様々な運動の内、今特に私が目を留めていたのは「女子陸上部」の活動であった。


 一定のペースを保ちつつ、トラックを周回する集団。小気味の良い掛け声に合わせて、彼女たちの「ふともも」が元気に揺さぶられる。中でも「発育の良い者」はブラジャーのサイズが合っていないのか、重力により暴れ回る「ふくらみ」を盛大に上下させている。

「体操服」姿の彼女たち。下が「ブルマ」でなく「ハーフパンツ」なのが実に嘆かわしいところではあったが(「古き良き時代」とはまさにこういう事だろう)、それはそれで「制服」とはまた違った趣があるのだった。

 昨今はゼッケンというものを大会以外では付けないらしい。(それもやはり不審者対策なのだろう)大人に庇護された、匿名の彼女たち。未成熟なその肉体は「色気」などとは程遠く、だからこそ十代特有の「色香」をムンムンと放っていた。

――もっと近くで、彼女たちの雄姿を拝みたい…!!

「前のめり」な私の願望はけれど、外界と内界を隔てる「障壁」により阻まれる。唯一、「前かがみ」になることなく金網に押し付けられた私の「悪癖」が穴から顔を覗かせる。

「あの人、めっちゃこっち見てない?」
「なんか、気持ち悪いんだけど」
「先生、呼んで来ようかな…」

 ギャルと比べれば控えめな忌避感情も、真っ当な危機管理も、だがそれには及ばない。「洗練」された「曲線」を眺めることで、今まさに私の「先端」が「研鑽」されてゆく。

 その瞬間、彼女たちの「青春時計」は針を止めるのだった――。

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おかず味噌 2021/06/30 22:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「生意気OLに『報・連・相』」

(第一話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/423927


――せめて、大学に行っておけば良かった。

 そうすれば私の人生も、もう少しマシなものになっていただろう。
 仮に二流・三流大学出身だったとしても。大卒とそれ以外では就職活動時のみならず、その後の待遇においても天と地ほどの差があり(一部特殊な才能に恵まれた者を除き)、生涯年収に多大な影響を及ぼすものなのである。
 あるいは大学なんて出ていなくとも…。

――せめて、親が金持ちだったなら。

 それだけで、もはや勝ち組確定である。何もそれは金銭面についてのみそう言っているのではない。
 もし親が社長ならば――、七面倒な出世競争などに心労を割かずとも、生まれた時点で次期社長のイスは約束されているようなものだろうし。
 もし親が医者ならば――、いかに不出来であろうとそこは裏口入学やら何かで、やはり医学部に席を与えてもらうことは何ら難しくない。
 社長の息子は社長、医者の息子は医者と相場は決まっている。いかに世間知らずが否定しようとも、それはいわば世の理であり。そうした立場や役職に、「女」という生き物は滅法弱いのだ。あるいは金なんか抜きにしても…。

――せめて、イケメンに生まれていれば。

 それだけで、女共はフリフリと尻尾を振ってホイホイと付いてくる。ちょっと優しくしてやっただけで途端に「メス」の顔になり、股を濡らし脚を開くのだ。
 よく「面白いヤツがモテる」というけれど、あれは嘘だ。そこそこ顔が良くなければ、そもそも話さえ聞いてはもらえず。会話をせずして一体どうやって興味を抱いてもらえるというのだろうか?

 およそ四十年に渡る人生において、私が学んだ教訓といえば。

――人は生まれながらにして、決して平等ではない。

 という、ただその一点に尽きる。
 見た目の美醜も、生まれの貧富も、それら全ては一度きりの運によって運命づけられ、学歴も出世も(当人の努力も少なからずあるとはいえ)いわば副産物としてのみ存在し、人生における成功及び「性交」もまた、そのおおよそが決定づけられているのである。

 思えば、これほどまでに不条理な「ガチャ」はないだろう。リセマラすらも許されず、課金できるか否かについてもやはり、与えられたアカウントだけがものをいう。
 何も持たずしてこの世に生を受けた者は、常に妬みや嫉みに苦しめられることとなり。それらは芸術などに昇華されることもなく、ただただ悶々とした日々を送るのみである。

 だが。そんな私の長いようで短かった生涯も、もう間もなく幕を閉じようとしている。右方から突っ込んできた「一台のトラック」によって――。


 時を遡ること、ほんの数十秒前。
 私はとある交差点で信号待ちをしていた。繁華街を行き交う人々は皆退屈そうな表情を浮かべつつも、どこか満たされたような顔をしていて。彼らの営みは私にとって目の毒にしかならないのだった。

 そして今まさに、私の後方では一組の「アベック」が乳繰り合っていた。

「この後、ウチ来る?」
「え~、どうしようかな~?」
「いいじゃん、ちょっと寄るだけ!」
「え~、絶対ヘンなことするでしょ~?」
「しないって!」

 聞くからに頭の悪そうな。とっくに女の側もその気でありつつも、己の価値を試すかのような、そんな無意味なやり取りに苛立ちを覚えながらも。今や私の意識は完全にそちらに向けられていたのだった。

「ねぇ、前…」

 ふいに女の発した言葉によって、私は我に返る。

 後にして思えば。単にそれは彼らの前方にいる私を指して、その容姿を揶揄しただけの言葉であったのだろうが。私としては、そのさらに前方にある信号が青になったのだとばかり思い込んだ。
 常日頃から慎ましく生きることをモットーとし、邪魔者扱いされることを臆した私は、あくまで自らの意思によって一歩を踏み出したのだった。

 けたたましく鳴らされる警告音。迫りくる自動車の走行音。気づいたときには、けれどもう遅かった。
 とっさに後ろを振り返る。私に続く者は他に誰もいなかった。そこにおいても私は孤独を味わうのだった。

 全てがスローモーションに感じられる。訪れる彼岸の間際、私が思ったことといえば。

――死ぬ前に一度でいいから、女とヤりたかった…!!

 私にとって、唯一とも取れる願い。たった一つの悲願。人生において何一つ得ることの叶わなかった私であるが。他のことはともかくとして、このまま一度も女と交わらずに「童貞」のまま生涯を終えることだけが心残りだった。

 今更ながら、私は激しい後悔に苛まれる。あるいはもう少し早く気づいていれば。
 だがもはや全てが手遅れだった。一体私はどこで間違えたというのだろう?

 もし、人生をやり直せるのならば――。
 いや、それが不可能であることはすでに分かりきっている。「時間」というものは常に不可逆であり、ただ進む一方で戻ることも止まることも許されない。だからこそ…。
 もし、来世というものがあるのならば――。
 私は今度こそきちんと努力し、己の生まれの境遇に不平不満を漏らさず、ただ真っ当に生きようと誓うのだった。


 だが、それにしても。走馬燈というのはこんなにも長いものなのだろうか。意識は明瞭ながらも指一本動かせず――、いや動く!!

 指どころか腕さえも。私は手で顔を拭い、目を擦った。
 その間も、迫り来るトラックは私を待ってくれていた。

 続いて、体のあちこちを検分する。未だどこにも痛みはなく、肉体に何ら変化は訪れていない。ただ一か所、ある一部分を除いては。

 私のペニスは固く「勃起」していた。

 それはいわゆる、生命の神秘というやつなのだろう。死の間際、生物は子孫を残そうと繁殖力が飛躍的に高められるという。
 目の前に相手が居ないのにも関わらず。それどころか、一度だってそんな相手に恵まれなかったというのに。私のそこは、あくまで己の使命を全うしようと躍起になっていた。

 私は、自分の「息子」が哀れに思われた。
 来世こそは、存分に活躍させてやろうと誓った。

 自らの「性器」に語り掛ける。
 恐らく、生涯最期の「射精」になるだろう。

「死の瞬間の快感はセックスの百倍以上」と聞いたことがあるが、まさしくこれがそうなのかもしれない。束の間に訪れた「センズリタイム」。
 死の前では全ての者が平等である。ああそうかなるほど。盛大な「一発」を打ち上げてそれで終わり、というわけだ。

 私は「イチモツ」を取り出す。太陽の下で眺めるそれは、どこか誇らしげに見えた。

「オカズ」に困ることは特になかった。たとえば、先ほどの「アベック」。彼と彼女との今後の展開を、男の方を自分と置き換えるだけで事足りた。
 叶うことならもう少し近くで、舐め回すように眺め回したいところではあったが。神もさすがにそこまでは許してくれないだろう。

 だがそれでも。満たされぬ日々の中で、主に音と映像のみによって補完され、培われた私の想像力をもってすれば――。

 最中の光景を、ありありと思い浮かべることができるのだった。

 ただでさえデカい尻がやたら強調された、スカートかズボンかも判らぬ衣服を下ろし、パンティを脱がし、前戯もなく強引にぶち込む。やがて数度のピストンを繰り返した後。 

「中に…、中に出すよ!!」

 私は「種付け」を宣告する。茎を駆け上る、私の「子種」。間もなく発射を迎えるも、だがその先に「子宮」はなく、あくまで「地球」へと放たれるのだった。

――ドッピュン!!ビュルルル…。

 アスファルトに飛び散る、私の残骸。数瞬先はあるいは私自身も…。

 快感が背筋を這い上がる。誰に遠慮するでもなく、堂々と行う「射精」というのは果たして、こんなにも気持ち良いものなのか!さらにはこれが「自慰行為」でなく、きちんとした「性行為」であったなら――。

 私の果たせなかった後悔の中にまた一つ、「青姦」の項目が書き加えられる。

 だがそれも。すっかり「賢者」と成り果てた私にとってはどうでもいいことだった。
 ズボンを穿き直した上で、迫りくる死を待ち受ける。だがなかなかどうして最後の審判は訪れなかった。

「ペニス」が下着の中で萎えていくのが分かる。そしてある一定の膨張度を下回った時、ふいに私を包んでいた静寂は消え去るのだった。


 クラクションが鳴り響き、それに続くブレーキ音。
 私は不格好のまま跳び退き、無様に尻餅をついた。

「馬鹿野郎!!」

 トラックの運転手に怒声を浴びせられる。「死にてぇのか!?」と、私に限っては頷くことさえできる問いを添えて。
 そちらの信号は青だったのだ。奴が怒るのも無理はない。それでも自動車と歩行者ではその立場は決して平等ではない。助かったのはお前の方なのだ、と私は内心で毒づく。

 苛立ち混じりの荒い運転で、見せつける迂回して走る去るトラック。
 快感と恐怖。二つの意味で腰を抜かした私はかろうじて立ち上がり、歩道へと舞い戻るのだった。

 無事に「生還」を果たした私を、彼らは「静観」をもって迎える。
 いや、そこにはクスクスと耳障りな笑い声が混じっている。中にはスマホを取り出して撮影を試みようとしていた者までいた。

 そんな彼らの野次馬根性に、だが驚くことはない。
 退屈な日々を過ごす者にとっては、他人の死さえもあくまで娯楽の一つに過ぎないのである。

 再び信号待ちをする私の周囲にだけ、不自然な空白が生まれる。さも平凡と非凡を隔てるかのように引かれたその一線は、まさしく神の領域。

 人にとって不可侵である「時間」。そこに干渉する能力があるとするならば。
 それこそまさに神の御業ともいえることだろう。

 一旦は諦めかけた人生。だが思いがけず取り留めた一命。
 かつての私は一度死んで、新たなる自分として生まれ変わったのである。

 もはや何にも誰にも遠慮することはない。私は決意する。
 残りの一生を、己の性欲を満たすことのみに捧げようと誓うのだった。

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おかず味噌 2021/02/04 16:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力> 「ギャルに教育的指導」

 前から歩いてきた「二人組のギャル」(その言葉自体、もはや死語なのだろうか?)が私を見るなり、あからさまに嫌な顔をした。
 一人分にしては十分過ぎるほど大袈裟に身を躱し、しばし無言のまますれ違うや否や。

「ヤバくない…?」
「マヂ、ヤバイ!!」

 若者特有の、あまりに語彙力に乏しい感想を述べ合う。
 果たして、私の何がそんなにヤバイというのだろう?見るからに中年である私の、あるいは「勃起の持続力」についてだろうか。はたまた彼女たちは一目で私の「能力」を見抜いたとでもいうのだろうか。

「ねぇ、あんなハゲが父親だったらどうする?」
「ムリムリムリ!!!」

 黒い方が予期せぬ仮定を問い、白い方が「擬音」でそれに答える。
 分かりきっていたことだ。彼女らはあくまで私の容姿についてそう言及し、そこに透けて見える私の人生に対して、身勝手にも「ヤバイ」と一言で片づけたのである。
 あたかも私という存在の、その全てが「間違い」であると断定するように――。

「てか、聞こえるよ…?」

「白」がやや冷静になって言う。だがその声すらも私の耳には届いていたし。何より彼女たち自身、私に聞かれたところでそれを何ら不都合にも感じていないらしかった。その証拠に。

「なんか、めっちゃ性欲強そう…」

 一度は友人を咎めたその口で、やはり私の「外見」についてそう呟く。
 彼女の私に対する「予見」は、ある意味では当たっている。確かに私は同年代と比べて、どちらかといえば性欲に従順な方である。だがそれも、彼女たちのように男を「とっかえひっかえ」するのではなく。あくまで、唯一無二の恋人である「右手」に執着し続けるのであったが。

「わかる!!」

「黒」が同調を示す。そうすることが彼女たちにとって、数少ないコミュニケーションの手段であるというように。
 友人に乗せられたことで、「白」はさらに増長する。そしてついに許容の一線を、私の琴線に触れる一言を放ってしまう。

「ホント、何が楽しくて生きてるんだろうね~」

 その発言はつまり、私に「死ね」と言っているのと同義だ。もはや「生きる価値なし」と、私の生命さえも否定するに等しい言葉なのである。

 彼女たちにしてみれば、あくまで私の命など取るに足らないものなのかもしれない。
 ただ道ですれ違うだけの存在。彼女たちの人生において、普通に暮らしていれば巡り合うことのない人種。仮にも同じ世界に生きているとはいえ、我々の世界線が交わることなど決してなく。
 それ故に彼女たちは私に対して傲慢に、後々の関係性を気にすることなく不遜に振舞えるのだろう。もう二度と、あるいは一度たりとも関わることがないからこそ。

 だが、たとえそうだったとしても。私の年齢のおよそ半分にも満たない小娘なんかに、なぜこうも好き勝手に罵詈雑言を浴びせられなくてはならないのか?
 ただ彼女たちの視界に入った、というだけの理由で、あたかもそれ自体が何らかの罪であるかのように。あからさまな嫌悪を抱かれなくてはならないのか?
 あるいは、これがもし逆の立場だったなら。見ず知らずの他人にすれ違いざまに暴言を吐く、頭のおかしな人物として。明らかな不審者として通報され、逮捕されるまである。

 若いというだけで、「女性」というだけの理由で。あくまで被害者はあちら側であると当然にように推定され、社会的に優遇される。
 そうした世間の不平等に、私は憤りを感じずにはいられなかった。普段はむしろ「自分たちこそ強者である」と尊大にしておきながら、都合の良い時だけ「弱者」としての武器を盛大に振りかざす彼女らに対して。
「ついカッとなって、頭に血が上った――」のではなく。意思とは裏腹に、私の血液は「別の箇所」へと運び込まれる。
 そして。私の股間は逃げ場を失ったズボンの中で、固く「勃起」していた。

 その瞬間、世界は時を止める。

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