おかず味噌 2021/06/30 22:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「生意気OLに『報・連・相』」

(第一話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/423927


――せめて、大学に行っておけば良かった。

 そうすれば私の人生も、もう少しマシなものになっていただろう。
 仮に二流・三流大学出身だったとしても。大卒とそれ以外では就職活動時のみならず、その後の待遇においても天と地ほどの差があり(一部特殊な才能に恵まれた者を除き)、生涯年収に多大な影響を及ぼすものなのである。
 あるいは大学なんて出ていなくとも…。

――せめて、親が金持ちだったなら。

 それだけで、もはや勝ち組確定である。何もそれは金銭面についてのみそう言っているのではない。
 もし親が社長ならば――、七面倒な出世競争などに心労を割かずとも、生まれた時点で次期社長のイスは約束されているようなものだろうし。
 もし親が医者ならば――、いかに不出来であろうとそこは裏口入学やら何かで、やはり医学部に席を与えてもらうことは何ら難しくない。
 社長の息子は社長、医者の息子は医者と相場は決まっている。いかに世間知らずが否定しようとも、それはいわば世の理であり。そうした立場や役職に、「女」という生き物は滅法弱いのだ。あるいは金なんか抜きにしても…。

――せめて、イケメンに生まれていれば。

 それだけで、女共はフリフリと尻尾を振ってホイホイと付いてくる。ちょっと優しくしてやっただけで途端に「メス」の顔になり、股を濡らし脚を開くのだ。
 よく「面白いヤツがモテる」というけれど、あれは嘘だ。そこそこ顔が良くなければ、そもそも話さえ聞いてはもらえず。会話をせずして一体どうやって興味を抱いてもらえるというのだろうか?

 およそ四十年に渡る人生において、私が学んだ教訓といえば。

――人は生まれながらにして、決して平等ではない。

 という、ただその一点に尽きる。
 見た目の美醜も、生まれの貧富も、それら全ては一度きりの運によって運命づけられ、学歴も出世も(当人の努力も少なからずあるとはいえ)いわば副産物としてのみ存在し、人生における成功及び「性交」もまた、そのおおよそが決定づけられているのである。

 思えば、これほどまでに不条理な「ガチャ」はないだろう。リセマラすらも許されず、課金できるか否かについてもやはり、与えられたアカウントだけがものをいう。
 何も持たずしてこの世に生を受けた者は、常に妬みや嫉みに苦しめられることとなり。それらは芸術などに昇華されることもなく、ただただ悶々とした日々を送るのみである。

 だが。そんな私の長いようで短かった生涯も、もう間もなく幕を閉じようとしている。右方から突っ込んできた「一台のトラック」によって――。


 時を遡ること、ほんの数十秒前。
 私はとある交差点で信号待ちをしていた。繁華街を行き交う人々は皆退屈そうな表情を浮かべつつも、どこか満たされたような顔をしていて。彼らの営みは私にとって目の毒にしかならないのだった。

 そして今まさに、私の後方では一組の「アベック」が乳繰り合っていた。

「この後、ウチ来る?」
「え~、どうしようかな~?」
「いいじゃん、ちょっと寄るだけ!」
「え~、絶対ヘンなことするでしょ~?」
「しないって!」

 聞くからに頭の悪そうな。とっくに女の側もその気でありつつも、己の価値を試すかのような、そんな無意味なやり取りに苛立ちを覚えながらも。今や私の意識は完全にそちらに向けられていたのだった。

「ねぇ、前…」

 ふいに女の発した言葉によって、私は我に返る。

 後にして思えば。単にそれは彼らの前方にいる私を指して、その容姿を揶揄しただけの言葉であったのだろうが。私としては、そのさらに前方にある信号が青になったのだとばかり思い込んだ。
 常日頃から慎ましく生きることをモットーとし、邪魔者扱いされることを臆した私は、あくまで自らの意思によって一歩を踏み出したのだった。

 けたたましく鳴らされる警告音。迫りくる自動車の走行音。気づいたときには、けれどもう遅かった。
 とっさに後ろを振り返る。私に続く者は他に誰もいなかった。そこにおいても私は孤独を味わうのだった。

 全てがスローモーションに感じられる。訪れる彼岸の間際、私が思ったことといえば。

――死ぬ前に一度でいいから、女とヤりたかった…!!

 私にとって、唯一とも取れる願い。たった一つの悲願。人生において何一つ得ることの叶わなかった私であるが。他のことはともかくとして、このまま一度も女と交わらずに「童貞」のまま生涯を終えることだけが心残りだった。

 今更ながら、私は激しい後悔に苛まれる。あるいはもう少し早く気づいていれば。
 だがもはや全てが手遅れだった。一体私はどこで間違えたというのだろう?

 もし、人生をやり直せるのならば――。
 いや、それが不可能であることはすでに分かりきっている。「時間」というものは常に不可逆であり、ただ進む一方で戻ることも止まることも許されない。だからこそ…。
 もし、来世というものがあるのならば――。
 私は今度こそきちんと努力し、己の生まれの境遇に不平不満を漏らさず、ただ真っ当に生きようと誓うのだった。


 だが、それにしても。走馬燈というのはこんなにも長いものなのだろうか。意識は明瞭ながらも指一本動かせず――、いや動く!!

 指どころか腕さえも。私は手で顔を拭い、目を擦った。
 その間も、迫り来るトラックは私を待ってくれていた。

 続いて、体のあちこちを検分する。未だどこにも痛みはなく、肉体に何ら変化は訪れていない。ただ一か所、ある一部分を除いては。

 私のペニスは固く「勃起」していた。

 それはいわゆる、生命の神秘というやつなのだろう。死の間際、生物は子孫を残そうと繁殖力が飛躍的に高められるという。
 目の前に相手が居ないのにも関わらず。それどころか、一度だってそんな相手に恵まれなかったというのに。私のそこは、あくまで己の使命を全うしようと躍起になっていた。

 私は、自分の「息子」が哀れに思われた。
 来世こそは、存分に活躍させてやろうと誓った。

 自らの「性器」に語り掛ける。
 恐らく、生涯最期の「射精」になるだろう。

「死の瞬間の快感はセックスの百倍以上」と聞いたことがあるが、まさしくこれがそうなのかもしれない。束の間に訪れた「センズリタイム」。
 死の前では全ての者が平等である。ああそうかなるほど。盛大な「一発」を打ち上げてそれで終わり、というわけだ。

 私は「イチモツ」を取り出す。太陽の下で眺めるそれは、どこか誇らしげに見えた。

「オカズ」に困ることは特になかった。たとえば、先ほどの「アベック」。彼と彼女との今後の展開を、男の方を自分と置き換えるだけで事足りた。
 叶うことならもう少し近くで、舐め回すように眺め回したいところではあったが。神もさすがにそこまでは許してくれないだろう。

 だがそれでも。満たされぬ日々の中で、主に音と映像のみによって補完され、培われた私の想像力をもってすれば――。

 最中の光景を、ありありと思い浮かべることができるのだった。

 ただでさえデカい尻がやたら強調された、スカートかズボンかも判らぬ衣服を下ろし、パンティを脱がし、前戯もなく強引にぶち込む。やがて数度のピストンを繰り返した後。 

「中に…、中に出すよ!!」

 私は「種付け」を宣告する。茎を駆け上る、私の「子種」。間もなく発射を迎えるも、だがその先に「子宮」はなく、あくまで「地球」へと放たれるのだった。

――ドッピュン!!ビュルルル…。

 アスファルトに飛び散る、私の残骸。数瞬先はあるいは私自身も…。

 快感が背筋を這い上がる。誰に遠慮するでもなく、堂々と行う「射精」というのは果たして、こんなにも気持ち良いものなのか!さらにはこれが「自慰行為」でなく、きちんとした「性行為」であったなら――。

 私の果たせなかった後悔の中にまた一つ、「青姦」の項目が書き加えられる。

 だがそれも。すっかり「賢者」と成り果てた私にとってはどうでもいいことだった。
 ズボンを穿き直した上で、迫りくる死を待ち受ける。だがなかなかどうして最後の審判は訪れなかった。

「ペニス」が下着の中で萎えていくのが分かる。そしてある一定の膨張度を下回った時、ふいに私を包んでいた静寂は消え去るのだった。


 クラクションが鳴り響き、それに続くブレーキ音。
 私は不格好のまま跳び退き、無様に尻餅をついた。

「馬鹿野郎!!」

 トラックの運転手に怒声を浴びせられる。「死にてぇのか!?」と、私に限っては頷くことさえできる問いを添えて。
 そちらの信号は青だったのだ。奴が怒るのも無理はない。それでも自動車と歩行者ではその立場は決して平等ではない。助かったのはお前の方なのだ、と私は内心で毒づく。

 苛立ち混じりの荒い運転で、見せつける迂回して走る去るトラック。
 快感と恐怖。二つの意味で腰を抜かした私はかろうじて立ち上がり、歩道へと舞い戻るのだった。

 無事に「生還」を果たした私を、彼らは「静観」をもって迎える。
 いや、そこにはクスクスと耳障りな笑い声が混じっている。中にはスマホを取り出して撮影を試みようとしていた者までいた。

 そんな彼らの野次馬根性に、だが驚くことはない。
 退屈な日々を過ごす者にとっては、他人の死さえもあくまで娯楽の一つに過ぎないのである。

 再び信号待ちをする私の周囲にだけ、不自然な空白が生まれる。さも平凡と非凡を隔てるかのように引かれたその一線は、まさしく神の領域。

 人にとって不可侵である「時間」。そこに干渉する能力があるとするならば。
 それこそまさに神の御業ともいえることだろう。

 一旦は諦めかけた人生。だが思いがけず取り留めた一命。
 かつての私は一度死んで、新たなる自分として生まれ変わったのである。

 もはや何にも誰にも遠慮することはない。私は決意する。
 残りの一生を、己の性欲を満たすことのみに捧げようと誓うのだった。

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