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染みパンの記事 (9)

おかず味噌 2021/05/16 16:00

クソクエ 勇者編「黄昏の証明 ~女僧侶の着衣脱糞観察~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404020

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380



――ヒルダさんの「お尻」から生み出されたモノ。

 地面にしゃがみ込み、下穿きを脱ぎ、「割れ目」を剥き出しにして、

――ヒルダさんの「お尻」から産み落とされたモノ。

 紛れもないそれは、「うんち」だった。


 これまでの彼の人生において、「悪意」と呼べるものとはおよそ無縁であった。
 いや、そうした感情の標的になったことが全くないといえば、やはり嘘になるだろう。村での日々において、彼はよく同年代達から嘲りや揶揄いの対象にされてきたのだった。
 だがそれも、彼にとっては己の愚鈍さや臆病さにこそ原因があり。あくまで自分が他人より劣っているからこその、いわば当然の「報い」なのだと信じて疑わなかった。
 それ故に、彼はまさか自らが悪意を抱くことなど微塵も考えたことはなく。ましてや、自ら悪意をもって他者を貶めようなどとは夢にも思わなかったのである。

 あるいは悪意とはいかずとも、単にそれは「悪戯心」と呼ぶことだって出来るだろう。だけどやはり、そんな「出来心」さえも彼の中には未だかつて存在せず――。
 そうした彼の純粋さこそがひいては聖剣に選ばれる理由となり、神にさえも認められ、勇者たりえる「しるし」となり得たのかもしれない。

 だがしかし。何処からか訪れた「暗雲」が、瞬く間に「日輪」を隠してしまうように。ここ最近、彼の精神性においてもやや「翳り」が窺えつつあるのだった。
 かつて「黎明」と共に誓ったはずの彼の崇高なる意志は、やがて「逢魔が時」を迎えることとなる。それもやはり、彼女たちの尻から出づる「黄昏」によって――。


「申し訳ありません。私事なのですが…、出立を少々お待ち頂けませんでしょうか?」

 アルテナな控え目な口調で、あくまで慇懃に言う。

「えっ?あ、はい…大丈夫ですけど」

 まさに、いよいよこれから「冒険に出る」という時に。彼女の口からもたらされたその申し出は見事に出鼻をくじくものであったが、それでも彼は了承する。

「すぐに済みますので…」

 そう言い残して、女僧侶は早々にその場から立ち去ろうとする。

「なんだ、『便所』かい?」

 あえて間接的に言ったアルテナの気も知らず、ヒルダが直接的に訊ねる。

「ハァ!?いえ、その…(はい)」

 女戦士の、そのあまりに不躾な物言いに苛立ちを見せつつも。そこは彼の手前もあってかろうじて平静を保ちつつ、ついにアルテナは白状したのだった。

 そして。間もなく「トイレ」へと向かう彼女の後ろ姿を眺めて、彼は。

――「おしっこ」かな?それとも…。

 またしてもつい、あらぬ想像を抱いてしまうのだった。

 とはいえ、その「大小」を確かめる術は彼にはない。野外で行う場合とは異なり、個室で行われる秘事において、その行為を盗み見ることは叶わず。あくまでそれを阻むものは薄い扉と、そこに掛けられた簡易な錠前のみではあるものの。「盗賊のカギ」はおろか「最後のカギ」を用いてもなお、解錠することは出来ず。仮に開錠したとしても、もはやそれを知られてしまったら何の意味もなく、やはり状況の打開とはなり得ないのである。

 ふと、彼は手元に重みを感じた。アルテナが「用便」に向かう際、元はヒルダに預けていった荷物だった。さほどの重量ではなかったものの、パーティの生命を預かるべく重責からだろうか、それは見た目以上に重荷に感じられるのだった。

 アルテナが直接、それを彼に手渡すことはなかった。普段から何かと、事あるごとに彼に頼ろうとすることで。彼と触れ合う機会をなるべく多く持とうと、口実を打算する彼女であったが――。そこはやはり「乙女の矜持」として、さすがに自らの「排泄」のために彼を利用することは憚られたのだろう。

 だが、それにしても。アルテナは「意図」して、彼に対して気を遣っている節がある。
 単にそれは「厚意」によるものか、あるいは彼だけに向けられた「好意」のためか。(とはいえ「意中の人」である彼自身は、あくまで「意識」さえしていなかったものの)果たしてその「真意」は分からずとも、紛れもなく「善意」から生じるであろう感情に。だが彼は決して「得意」になることはなく、自らの「誠意」を示すこともままならずに、ただただ「敬意」をもって返すのみであった。

「アタシも行っとこうかな…」

 ヒルダもまた欲求を口にする。受け取った「道具袋」をそのまま彼にパスすると、彼女はなぜかアルテナとは「別方向」に向かうのだった。

「あれ?一番近い『トイレ』はそっちじゃないのに…」

 彼は女戦士の行動を疑問に思いはしたものの。後になってからよくよく考えてみると、その理由に行き当たる。
 彼にとって二人がかえがえのない仲間であるように、やはり彼女たちにとってもそれは間違いなく。だが同時に両者が互いを「ライバル」だと認識していることは、彼の目から見ても明らかだった。
 だからこそ自らが「踏ん張る」様子を(いかに壁で隔てられているとはいえ)その気配すらも悟られたくはなく、ましてや「排泄音」を聞かれることに抵抗を覚えたのだろう。

 二人に置いてけぼりにされ、一人きりとなった彼は他にやることもなく、皮袋に視線を落とす。紐できつく結ばれた口を開くと、わずかながらも暗闇が窺えた。
 彼は深淵に手を伸ばし――、本来パーティの「共有物」であるはずのそれに、あるいはどちらかの「私物」が紛れ込んでいないかと、漁り始めるのだった。

 目的の「宝具」こそ見つからなかったものの。やがて彼はある「道具」を探り当てる。さらに小袋に入れられたそれを丸ごと取り出し、中身を改める。

「回復薬」にはそれほど詳しくない彼であったが、それでも。その「丸薬」については、入手した経緯を含めて、その「用法」を記憶していた。それは――、

「即効性の下剤」であった。

 服用したならば、たちまち「排泄欲求」を高めるもの。
 紛れもない薬であるはずのそれ。「便通」を促し、体内の毒物もろとも体外に排出することで、解毒するためのもの。
 にも関わらず。今の彼はどうしたって、その「効能」ばかりに目を向けてしまう。

――これを、二人に飲ませれば…。

 勇者は再び妄想してしまう。彼女たちの「その姿」を。
 とはいえ、まさか面と向かって「飲んで!」などと言えるはずもない。何のために?「便秘」であるとか、毒を浴びた状態であるとか。そういった事情が無ければ、これ自体もまた「毒」であることに違いないのである。だけど、もしも――、

――気づかれることなく、二人にこれを飲ませることが出来たなら…。

 勇者は思い浮かべる。彼女たちの「痴態」を。
 予期せぬ「便意」とその解消。果たしてそれは屋内にて行われるのだろうか?あるいはいつかの彼女のように野外でだろうか?きちんと下穿きを脱いだ上でされるのだろうか?それとも、穿いたままでか?

 今一度、周囲を確かめつつ、彼は「丸薬」に手に取る。
 かつて浴室にて、ヒルダの下穿きへと手を伸ばした時と同様に。緊張とも恐怖とも取れない、得体の知れない何かが背筋を這い上がるのを感じた。
 そして。三つある内の一つを掴み取ると、彼はそれを自らのズボンのポケットに仕舞い込んだのだった。

「道具袋」の中にあるものは全て、いわばパーティの「共有財産」である。ということはつまり、彼自身の「所有物」でもあるのだ。あくまで「持ち物」の保管場所を移動させるというだけのその行為に。だが仲間の目を盗んで行われる秘事に。
「勇者」であるはずの彼は、まるで自らが「盗人」にでもなったかのような背徳感を抱くのだった。

 悪意とは何も他者に不利益を被らせようと抱く感情のみを指してそう呼ぶのではない。自己の利益のため他者を蔑ろにする行為もまた、やはり悪意に他ならないのである。

 とはいえ。彼のそれは、ほんの一瞬「魔が差した」だけのもの。そこに計画性はなく、現段階では未遂とさえいえないだけのもの。だがそれでも。
 欲望のみによって発露し、願望を果たすべく為された行動。自己の裏に潜む影の如く「エゴ」はまさしく――、

 これまで「日向」の道を歩いてきた彼が、唐突に出会った「日陰」の感情であり。
 彼が生まれて初めて抱くことになる、紛れもない「悪意」なのだった。

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おかず味噌 2021/02/04 16:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力> 「ギャルに教育的指導」

 前から歩いてきた「二人組のギャル」(その言葉自体、もはや死語なのだろうか?)が私を見るなり、あからさまに嫌な顔をした。
 一人分にしては十分過ぎるほど大袈裟に身を躱し、しばし無言のまますれ違うや否や。

「ヤバくない…?」
「マヂ、ヤバイ!!」

 若者特有の、あまりに語彙力に乏しい感想を述べ合う。
 果たして、私の何がそんなにヤバイというのだろう?見るからに中年である私の、あるいは「勃起の持続力」についてだろうか。はたまた彼女たちは一目で私の「能力」を見抜いたとでもいうのだろうか。

「ねぇ、あんなハゲが父親だったらどうする?」
「ムリムリムリ!!!」

 黒い方が予期せぬ仮定を問い、白い方が「擬音」でそれに答える。
 分かりきっていたことだ。彼女らはあくまで私の容姿についてそう言及し、そこに透けて見える私の人生に対して、身勝手にも「ヤバイ」と一言で片づけたのである。
 あたかも私という存在の、その全てが「間違い」であると断定するように――。

「てか、聞こえるよ…?」

「白」がやや冷静になって言う。だがその声すらも私の耳には届いていたし。何より彼女たち自身、私に聞かれたところでそれを何ら不都合にも感じていないらしかった。その証拠に。

「なんか、めっちゃ性欲強そう…」

 一度は友人を咎めたその口で、やはり私の「外見」についてそう呟く。
 彼女の私に対する「予見」は、ある意味では当たっている。確かに私は同年代と比べて、どちらかといえば性欲に従順な方である。だがそれも、彼女たちのように男を「とっかえひっかえ」するのではなく。あくまで、唯一無二の恋人である「右手」に執着し続けるのであったが。

「わかる!!」

「黒」が同調を示す。そうすることが彼女たちにとって、数少ないコミュニケーションの手段であるというように。
 友人に乗せられたことで、「白」はさらに増長する。そしてついに許容の一線を、私の琴線に触れる一言を放ってしまう。

「ホント、何が楽しくて生きてるんだろうね~」

 その発言はつまり、私に「死ね」と言っているのと同義だ。もはや「生きる価値なし」と、私の生命さえも否定するに等しい言葉なのである。

 彼女たちにしてみれば、あくまで私の命など取るに足らないものなのかもしれない。
 ただ道ですれ違うだけの存在。彼女たちの人生において、普通に暮らしていれば巡り合うことのない人種。仮にも同じ世界に生きているとはいえ、我々の世界線が交わることなど決してなく。
 それ故に彼女たちは私に対して傲慢に、後々の関係性を気にすることなく不遜に振舞えるのだろう。もう二度と、あるいは一度たりとも関わることがないからこそ。

 だが、たとえそうだったとしても。私の年齢のおよそ半分にも満たない小娘なんかに、なぜこうも好き勝手に罵詈雑言を浴びせられなくてはならないのか?
 ただ彼女たちの視界に入った、というだけの理由で、あたかもそれ自体が何らかの罪であるかのように。あからさまな嫌悪を抱かれなくてはならないのか?
 あるいは、これがもし逆の立場だったなら。見ず知らずの他人にすれ違いざまに暴言を吐く、頭のおかしな人物として。明らかな不審者として通報され、逮捕されるまである。

 若いというだけで、「女性」というだけの理由で。あくまで被害者はあちら側であると当然にように推定され、社会的に優遇される。
 そうした世間の不平等に、私は憤りを感じずにはいられなかった。普段はむしろ「自分たちこそ強者である」と尊大にしておきながら、都合の良い時だけ「弱者」としての武器を盛大に振りかざす彼女らに対して。
「ついカッとなって、頭に血が上った――」のではなく。意思とは裏腹に、私の血液は「別の箇所」へと運び込まれる。
 そして。私の股間は逃げ場を失ったズボンの中で、固く「勃起」していた。

 その瞬間、世界は時を止める。

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おかず味噌 2020/07/18 22:07

ちょっとイケないこと… 第十八話「姉と弟」

(第十七話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/344430


「あの夜、お姉ちゃんがパンツを洗ってるのを見てから――」

 私から追及されてもいないのに、純君は唐突に自供を始める。

「どうしてもお姉ちゃんの穿いてるパンツが気になって――」

 私が沈黙を貫いているのをいいことに、彼は滔々と語り出す。

「洗濯機に入ってた、お姉ちゃんの洗ってないパンツを――」

 私にとって知りたくない事実を、彼はのうのうと打ち明ける。

「えっ…!?ちょ、ちょっと待って、それってどういう――」

 私は驚愕のあまり、とうとう弟に訊き返してしまうのだった。


「『一回だけ』じゃ、なかったってこと…?」

 私は緩んだ括約筋を引き締め直し、体勢を立て直してから、改めて彼に問い直す。

 今度は純君の方が黙り込む番だった。まさか遮られるとは思わなかったのだろう。彼はバツが悪そうな表情をしながらも、ひどく面倒臭そうにベッドから起き上がる。

 私は正面の純君から目線を逸らしてドアの方を見る。彼に脱がされたショーパンがまるで抜け殻の如く取り残されている。その右ポケットの中に一時的に収納された、私があの夜穿いていたショーツを想う。洗濯されたことで今や清浄となった衣類を。

 そもそも今の状況は純君が姉のショーツを隠し持っていたことが元凶なのである。だけどそれはあくまでも「洗濯後」のものであって、まさか「洗濯前」のものにさえ彼が興味を抱いていたなんて。私はもはや幾度目かの頬が紅潮する感覚に襲われた。


 まあ、それはそうだろう。むしろ、当然ともいえる。

「洗う直前」つまり「脱いだ直後」の方がより直接的に情報を得られるのであって。それに比べれば「洗った直後」のショーツなど、単なる布切れに過ぎないのである。

 だけどそれは私にとってやや都合が悪い。なぜなら洗面台で手洗いをしている時に私は知ってしまったのだ。私の下着がいかに汚れてしまっているのかということを。

 私自身とっくに確認済みなのだ。あの夜見た私のショーツは汚濁にまみれていた。それは『おしっこ』によるものだけでなく、汚物による染色が幾つも付着していた。

 純君は気づいただろうか。いや、外部から見ただけなら分からないかもしれない。だが欲望に負けて思わず拝借してしまうほど興味津々である対象物の観察において、より肝心といえる内部まで確認せずに済ませるなんてことが果たしてあるだろうか。


「ねぇ、お姉ちゃんのパンツは今も汚れてるんだよね?」

 間もなく純君の口から回答が得られる。彼自身の秘めたる願望を告白するように。それを訊くということはつまり彼は気づいてしまったのだろう、姉の羞恥の秘密に。

 とはいえ、私がノーパンのまま弟の部屋を訪れたことはすでに周知の事実である。それはどこかのコンビニのゴミ箱に投棄され、とっくに消失してしまったのだから。私が今日穿いていたショーツは粗相の証拠と共にもはや完全に隠滅されたのだった。

 だから純君が言っているのはやはり、それもまた想像の産物に過ぎないのだろう。私がショーツを穿いているのだと仮定して、それが汚れているに違いないだろうと。だけどその妄想には実体が伴っている。私の下着の実態を彼は知ってしまっている。


「『おしっこ』とか、女の子だけの『汚れ』とか…」

 すかさず純君は指摘してくる。これでもかとばかりに私的な『シミ』を炙り出す。

「う、『うんち』…、とかも付けちゃってるんでしょ?」

 彼は余さず確認してしまったのだろう。姉のショーツに刻印された数多の汚辱を。

「そ、そんなわけ…ないでしょ!!」

 即刻、私は否定する。だけど本当は分かっている。あの夜、私自身もそれを見た。後方部分にくっきり描かれた茶色の一本道。肛門付近にべっとり付いた『うんち』。拭き残しによるものか、力んだ拍子に予期せず漏れてしまったものかは分からない。それでも割れ目に沿ってばっちりと、我ながら「ばっちい」と思える恥辱の一本筋。

 紛れもない、私の『ウンスジ』。

 粉みたいにカピカピになった『うんちのカス』。決して他人には知られたくない、私自身の管理不行き届き。普段の不摂生と不衛生の不可抗力による不潔なる副産物。


 それでも私はまだ諦めない。この期に及んでも尚、往生際悪くあがくことにする。

 私がショーツ内に『ウンスジ』を刻み付けていたのはあの夜だけのことであって、あの日はお腹の調子がたまたま悪かったというだけで、日常的にそうとは限らない。

 かといって人前に堂々とさらけ出せるものかといえば、あくまでも話は別だけど。少なくとも、常習的に汚物まみれのショーツを身に着けているわけではないはずだ。

 だから仮に純君に観察されたとしても、きっと大丈夫なはず。どこまでも彼の想像、恐らく不潔だという予想と、不浄であって欲しいという願望に他ならないのである。

 だけど、そこで再び彼は無情にも言い放つのだった。


「僕、知ってるよ」

 性懲りもなく純君は同じ台詞を繰り返す。揺るぎない証拠を掌握しているように。

「だって、お姉ちゃんのパンツすごく『クサかった』よ?」

 彼は回想する。私のショーツの醜悪なる芳香について、嗅覚による感想を述べる。

 突き付けられた現実はショックなんて一言では到底言い表せるものではなかった。破滅と絶望、恥辱と屈辱、嗜虐と被虐、それらが複雑に入り混じる感情なのだった。

 純君の中では「よくパンツを汚す姉」という実像が出来上がっていることだろう。女児でもあるまいし。十九歳とはいえもうとっくに大人であるはずの女子大生の姉が二度も粗相したのみならず、日常的にショーツ内に汚物を隠し秘めていたなんて…。

 もはや姉としての威厳どころか、女性としての尊厳すら完全に無くしてしまった。

 私は観念した。全ての事実を受け止め、包み隠さず事情を打ち明ける覚悟をした。


「そうだよ。お姉ちゃん、よくパンツを汚しちゃうの…」

 それについては「よく」なのか「たまに」なのか「ごく稀に」なのか分からない。日常的なショーツの状況を知る上で、あの夜だけでは明らかに情報が不足している。だが少なくとも、彼が洗濯機の中から発掘した私のショーツもそうだったのだろう。

「ちゃんと拭いてるつもりなんだけどね…」

 打って変わって弱気になりながら私は言う。まさか拭いてないなんてことはない。いつも排泄を済ませた後、トイレットペーパーで入念に拭いている。それなのに…。

「どうしても、付いちゃうの。パンツに『うんち』や『おしっこ』が…」

――私、緩いのかな?

 私は苦笑しながら純君に訊ねる。だけど彼に答えようがないことは分かっている。

「ねぇ、さっき私のお尻の穴を舐めたとき…」

――『うんちクサく』なかった?

 またしても純君に問い掛ける。それについては、さすがに彼も答えられるだろう。


「大丈夫…だったと思うよ」

 自信なく彼は答える。どうやら『うんち臭』を直接嗅がれることは免れたらしい。最底辺ともいえる質問を投げ掛けた私にとって、それは最低限の安堵なのであった。

「こんなお姉ちゃんで、ごめんね…」

 私はもう何度目かの、すっかり慣れきった謝罪をした。

――こんな、恥ずかしいお姉ちゃんで…。
――こんな、だらしないお姉ちゃんで…。
――こんな、汚らわしいお姉ちゃんで…。

――ごめんなさい。

 私は幾度となく心中で弟に詫びるのだった。


 さすがに純君も萎えただろうか、まさか姉の呆れた日常を知ることになろうとは。たとえ彼自身が秘密を暴いたにせよ、ここまで不潔な真相が待ち受けていようとは。

「じゃあ、『続き』してあげるね…」

 私は純君の顔を直視することも出来ぬまま、震える手で弟のおちんちんを掴んだ。もうとっくに時効を迎えたであろう契約を、尚も実直に履行しようとしたのだった。

 すっかり怒張を失い、萎縮し弱々しくなり掛けているはずの彼のペニスはけれど。

 今までにないくらい固く「勃起」を持続していた。

 鼓動さえも伝わってくるようだ。それほどまでに強く、己が存在を誇示していた。


――どうして…?

 ふと疑問を抱く。だけどその答えを私はすでに知っている。それはある種の趣味。マトモとはいえない、的外れな性癖。あくまで真っ当とは言い難い、間違った悪癖。

 まさか可愛い弟にそんな性質があったなんて、私はその事実を認めたくなかった。だけどこの異常なる状況が、彼の発情による反応が、明確なる解答を象徴している。

 純君は姉の汚濁に愛着を感じているのだろう。私の『おしっこ』や『うんち』に、それらが付着した汚物まみれのショーツに尋常ならざる執着を抱いているのだろう。

 あるいはその趣向は○○さんと同じなのかもしれない。私に粗相をさせた張本人。彼もまた私の『おもらし』に高揚を覚えた一人なのだ。そして今では私自身さえも。


 私は、私と彼と純君に共通項を見出していた。本来、人が目を背けたくなる事象。だが動物である以上、避けて通れない現象。排泄行為や排泄物自体に抱く性的倒錯。

 まさしく「変態」といって差し支えない性癖。大っぴらに出来ない秘めたる事情。

 私と○○さんのみならず、つまり純君もまた「こちら側」の人間だったのである。

 こうしてまた一つ、私たちは姉弟揃って他人に言えない秘密を共有したのだった。

「お姉ちゃんの『おチビりパンツ』…」
「お姉ちゃんの『おもらしパンツ』…」
「お姉ちゃんの『ウンスジパンツ』…」

 やがて純君は呪文のように唱え始める。それは紛れもない呪詛の言葉なのだった。まるで呪術に掛けられたかの如く、私はすっかり彼の術中に嵌ってしまうのだった。


 私は再び純君の上に騎乗し、気丈な口調で劣情を煽情することで絶頂に誘導する。

「お姉ちゃんの『おチビりパンツ』、臭かった?」
「うん、すごく!!」

「お姉ちゃんの『ウンスジパンツ』、嗅ぎ嗅ぎしたの?」
「うん、たっぷりと嗅いじゃったよ!!」

「『おなら』は…?『おなら』も臭かった?」
「とぉ~ても!!」

「じゃあ、お姉ちゃんの『汚パンツ』想像しながら『お射精』できる?」
「できるよ…!!いっぱい出ちゃいそう」

「純君も『お精子』を『おもらし』しちゃうんだね」
「うん、いっぱい『おもらし』する!!」

 姉の誘惑に対して、あたかもそれを待ち望んでいたかのように純君は従順になる。


「お姉ちゃんも、もう漏れちゃいそう…」

 快楽と共に徐々に高まりつつある膀胱の貯蔵量に、私は間もなく放流を予告する。

「いいよ。そのままいっぱい出して!!」

 純君は優しく私の要求を承認し、姉による『放尿ショー』を固唾を呑んで見守る。

「おふぇいひゃん、おもらひ、ひひゃう」

 私は再びペニスを頬張る。それとは別に下腹部に思いきり力を込める。そして…。


――ジョボロロ~!!!!!

 私は『おもらし』をした。純君の上で、彼の顔めがけて『おしっこ』を放出した。一度目、二度目は○○さんの眼前で。三度目の正直とばかりに、今度は弟の顔面に。

 一度目、二度目と大きく違うのは、私が下半身に何も穿いていないということだ。遮られるもののない私の『尿』は、重力の影響を直接受けてほぼ一直線に落下する。そして、直下にある純君の顔に『おしっこ』が集中豪雨のように降り注ぐのだった。

 私は自ら望んで『排尿』したし、きちんとショーツを脱いだ上で膀胱を解放した。それを『粗相』と呼ぶのか、『放尿』と呼ぶのかについては諸説あるところだろう。

 だが己の意思かどうかはこの際関係なく、それが不意であろうと故意であろうと。指定外の場所でする『排尿行為』は、紛れもない『おもらし』に違いないのだった。


「ひっぱい、でひゃう…。ひぇんひぇん、とまらないよ~!!」

――ジュビビビ!!!ジュバ~~!!!!!

 思いの外、私の『おもらし』は長く続いた。全然溜まっていなかったはずなのに、予定外に『おしっこ』はたっぷり出た。私は恥を捨てて、小水の勢いに身を委ねる。

――ジョロ…。チョポ…!!ポタ…ポタ…。

 そして私が『放尿』を終えようとした時、今度は口の方で奔流を感じるのだった。


――どぴゅん!!!ドクドク…。

 純君のペニスが激しく脈打つ。ドロドロした感触と生臭い芳香が口一杯に広がる。野性味に溢れた、あるいは野菜のような青臭さを思わせる、男性器による生理現象。

 純君は精液を『おもらし』した。

 いや、そんな後ろめたい表現は適切ではないだろう。純君は立派に果たしたのだ。姉としてはむしろ「頑張ったね!」と手放しで褒めてあげるべきなのかもしれない。たとえそれが決して褒められたものではない、イケない行為の結末であるとしても。

 純君は「射精」をしたのだった。

 私の口腔に欲望の塊を解き放った。雄としての本能を見事に成就させたのである。


――ビュル…!!ピュル…!!

 まだまだ続々と精製される純君の精液を、私はゾクゾクしながら口で受け止めた。彼が私の粗相を受け入れてくれたみたいに。私の愛情を受け取ってくれたみたいに。

 ようやく純君の射精が終わる。後に残ったものは、口内を満たす残骸のみだった。本来、膣内へと放たれるべき液体。空気に触れればたちまち死んでしまう儚い存在。すぐに息絶えようとしている生命はけれど、まだもうしばらくは生きているらしい。

 口の中で彷徨う、哀れな魂。受精を目的とする、純君の元気いっぱいの子種たち。

 私は迷うことなく、それを飲み込んだ。喉の奥に引っ掛かる感触を覚えながらも、能動的に精汁を飲み終えた。清濁併せ吞むかのように。善悪すらも飲み下すように。

 純君の精子は苦かった。それもまた何かの雑誌で読んだ性経験のその通りだった。

――精子は不味い、だけど愛する人のものならば…。


 顔騎状態のまま、私は暫しの感慨に耽る。それからゆっくり純君の上から降りて、射精を終えたばかりの彼と顔を見合わせた。

 純君の顔も髪も濡れていた。それはまさしく私の『おしっこ』によるものだった。

 私はベッドにゴロンと寝転がる。シーツもまた、私の『おしっこ』で湿っていた。

 弟の横顔をチラリと窺う。彼は仰向けのまま天井を見つめて微動だにしなかった。その視線の先にあるのは限りない充足感と幸福感か、あるいは果てしない罪悪感か。脱力したような双眸に映る底知れぬ感情を、私には想像することしかできなかった。


「純君の『白いおしっこ』苦かったよ」

「お姉ちゃんの『おもらし』だって…」

 穏やかにお互いの感想を報告し合う。私と彼だけに伝わる「共通言語」を用いて。

 やがて、どちらからともなく笑い出す。どうしようもない照れ臭さと気まずさに、思わず自然と笑いがこみ上げてくる。

 私と純君は一頻り笑い合った。深夜の室内に姉弟の笑声だけが静かに染み渡った。笑い合う姉と弟。それはありふれた、ごく普通の微笑ましい姉弟の風景なのだった。


――続く――

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おかず味噌 2020/05/11 05:49

ちょっとイケないこと… 第十一話「聴覚と味覚」

(第十話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/247599


「良かった。お姉ちゃん『トイレ』に行きたかったの…」

 不安を抱くような、安心を吐くような言葉。やや籠って聞こえづらかったけれど、それは紛れもなくお姉ちゃんの声だった。

 無関係の他人ではなく、無歓迎な客人ではなく、無我無心を装った人狼でもない。やはり僕は何のためらいもなく、ドアを開けてあげるべきだったのだ。

 それでも。僕はもう一度、ドアスコープを覗いた。一体どういう原理なのだろう、小さな覗き穴からでもお姉ちゃんのほぼ全身が見て取れた。

 今朝と同じ服装。だけどその顔からはいつもの笑顔が消え去り、困っているような焦っているかのような表情が窺えた。眉は垂れ下がり、唇はきつく結ばれていた。

 両手はお腹よりも少しばかり下の位置にあてがわれて、そこを強く押さえていた。両脚は「もじもじ」と何度も組み替えられて、足踏みしながら何かを堪えていた。

 もはや全ての証拠は揃い、自供さえも得られた。それは決して僕の憶測ではなく、あるいは過去の前科による冤罪でもない。

 あの夜に目撃した証拠隠滅の現場。お姉ちゃんの『おしっこ』という名の被疑者。それが今や体内に溜め込まれ、凶器なる『尿意』による再犯を企んでいるのだった。

 ひょっとしたらひょっとするかもしれない。僕がこのままドアを開けなければ…。


「ねぇ、純君。悪いんだけど、早く開けてもらえないかな…?」

 再びお姉ちゃんの声がした。その瞬間ふと我に返り、瞬く間に悪巧みは霧散した。

――僕はなんて、意地悪なことを考えていたんだろう?

 僕がまだ小学生だった頃、よく自分のお小遣いで漫画を買ってくれたお姉ちゃん。(もちろん僕は覚えていないけれど、ママが言うには)僕がまだ赤ちゃんだった頃、オムツを替えてくれていたお姉ちゃん。(それについては覚えていなくて良かった)

 そんな優しいお姉ちゃんを。なぜ、そんな酷い目に遭わせなくてはならないのか?ほんの一瞬でも魔が差し、束の間の期待をしてしまった自分を恥じた。

「卑怯者」「裏切者」。漫画の中で敵に向けられる台詞が、僕自身に浴びせられる。

 正義の味方になりたかった時期は卒業したし、最近では悪の側に魅せられることも少なくないけれど。あくまで僕が憧れるのはカリスマ性を兼ね備えた大悪党であり、姑息で卑劣な小悪党なんかじゃない。


 僕は鍵を解錠した。チェーンロックを外して、ドアを開放する。

 すぐにお姉ちゃんがドアの隙間から滑り込んでくる。僕に体が触れるのも構わず、僕の横をすり抜けていく。(僕はアソコが当たらないようにこっそりと腰を引いた)

「ありがとう、純君」

 僕の方を振り向きもせず背中越しにお姉ちゃんは言う。よほど余裕がないらしい。普段は決してしないような行儀の悪さで靴を脱ぎ散らかし、そのまま玄関を上がる。

 廊下を進んでいく。僕の手前もあってだろうか、廊下を走るなんてことはしない。あくまでも早歩きで、お姉ちゃんは念願の目的地へと向かう。

 ここまで切迫しているということは、家にたどり着く前から催していたのだろう。お姉ちゃんがいつそれを自覚したのかは分からない。だが仮にバイト先を出た時点ですでに行きたかったのだとしたら、かなりの距離と時間を我慢していたことになる。(どうしてバイト先で行っておかなかったのだろう?)

 そこで僕はある想像をしてしまう。それは経験から培われた「想造」だった。


――お姉ちゃんは、もう…。

『チビって』しまっているのかもしれない。『おもらし』まではいかないながらも、少量の『おしっこ』をパンツに染み込ませているのかもしれない。そうやってまた、お姉ちゃんはパンツを汚してしまっているのかもしれない。

 お姉ちゃんは先を急ぐ。ここは僕の家であるのと同時にお姉ちゃんの家でもある。もちろんトイレの場所は分かっている。だから迷うことなく一直線にそこに向かう。

 お姉ちゃんの後ろ姿を目で追う。その時、僕はといえば…。

 ただ茫然と玄関に立ち尽くしていることもできた。すでに僕は役目を終えたのだ。ドアを開けてやる、というごく簡単な作業。だけどその行いによって、お姉ちゃんにささやかな恩返しができたのだ。

 なぜお姉ちゃんが鍵を持っていなかったのかは分からない。多分忘れたのだろう。お姉ちゃんはしっかり者だが、やや抜けている部分もある。がさつではないものの、おっちょこちょいな一面もある。お姉ちゃんがあくまで「カンペキ」じゃないことを僕は知っているし、今ではその証拠さえも掴んでいた。


 僕も歩き出す。玄関を上がり廊下を進む。お姉ちゃんの後をついていくみたいに。お姉ちゃんの背中を追いかけるみたいに。小学生の頃の僕がそうしていたみたいに。

 あの頃のお姉ちゃんならば、僕が追いつくまでちゃんと待ってくれたことだろう。僕の手を引いて僕に歩幅を合わせてくれていたことだろう。だけど今のお姉ちゃんは僕の手を引いてくれることもなく、僕が後ろに居ることに気づいてもいなかった。

 再び僕の中に葛藤が生まれる。悪党じみた考えがよぎる。

――ここで僕が、邪魔をしたら…。

 お姉ちゃんの腕を掴むなり、後ろから抱きつくなりしたならば。

――離して純君!お願いだから…。

 お姉ちゃんは懇願するような目で、僕に訴えかけることだろう。

――お姉ちゃん、もう限界なの…。

 お姉ちゃんは絶望したような顔で、僕にすがりつくことだろう。


 そして。僕はついに目撃することになる。お姉ちゃんの『おもらし』を…。

 お姉ちゃんのショートパンツから次々と水滴が溢れ出し、足元に水溜まりを作る。漫画の中ではたった一コマに過ぎなかったシーンが、映像となって僕の前に現れる。そしてそれをしてしまうのは空想の人物ではなく、僕のよく知る実在の人物なのだ。

 あと少しの思い切りだけなのだ。お姉ちゃんに追いつくのは難しいことじゃない。もう少し僕が歩速を上げて先を急げば済む話だった。それだけで僕は願望を捕捉し、想像を補足することができる。チャンスの後ろ髪は、すぐ手の届く先にあった。

 だけど。僕にはどうしても、最後の一歩の踏ん切りがつかなかった。それによってお姉ちゃんとの関係が失われてしまうことを恐れたのかもしれない。それとも単純に「やっぱりお姉ちゃんが可哀想」という己の良心に屈してしまったのかもしれない。

 結局、僕はお姉ちゃんがトイレに行くのを阻止することができなかった。


 僕に邪魔されることのなかったお姉ちゃんは、ようやく念願の目的地に辿り着く。焦っているためか何度かノブを掴み損ねながらも、何とかドアを開けることが叶う。お姉ちゃんはトイレに入り、ドアを閉めた。

 僕とお姉ちゃんの間が再び遮られる。だけどそれは分厚い金属製のドアとは違い、薄い木製のドアだった。お姉ちゃんの発する振動が詳細に伝わってくる。

 最初に聞こえたのは布の音だった。擦れるような音。お姉ちゃんがズボンを脱ぎ、パンツを下ろす音だった。

 僕はつい中の様子を思い浮かべてしまう。今まさにお姉ちゃんの下半身が丸出しになっているという状況を…。

 ドア越しに息を殺し、耳を澄ませる。それから間もなく、ある音が聴こえ始める。


――シュイ…!!ジョボロロ~!!!

 それは『おしっこ』の音だった。お姉ちゃんの股間から迸る『放尿』の擬音。

 かなり溜め込んでいたらしい。その勢いは、心地良いくらいに真っ直ぐだった。

 激流が便器に叩き付けられ、重力に従って流れ落ちる。便器内に溜まった冷水と、お姉ちゃんの出した温水が混ざり合う。(果たしてそのどちらが清浄なのだろう?)

 お姉ちゃんの『排尿』は暫く続いた。せいぜい十数秒くらいのことだったけれど、僕にはその何倍にも感じられた。あるいは永遠にも続くとさえ僕には思えた。

 だけど、やがてそれは終わりを迎える。用を足し終えたお姉ちゃんは溜息をつく。間に合ったことの安堵によるものか、それとも『おしっこ』自体の快感によるものか僕には判らなかった。

 それでも僕にはお姉ちゃんのその吐息がとても「えっち」なものに感じられたし、その息遣いはドアを隔てた僕のすぐ耳元で聞こえているみたいだった。


 またしても、僕は意識を研ぎ澄ませる。

「カラカラ」と渇いた音がして、お姉ちゃんがトイレットペーパーを巻き取る。
「ブチッ…」と切られる音がして、お姉ちゃんが一回分をちぎり取ったらしい。
「スリ…、スリ…」と拭く音がして、お姉ちゃんのアソコがキレイに保たれる。
「ジャ~~!!」と無機質な音がして、お姉ちゃんの出したものが水に流れる。
「スルスル」と再び布が擦れる音がして、お姉ちゃんはパンツを穿いたらしい。

 お姉ちゃんがトイレのドアを開ける。僕は慌てて、二、三歩ほど後ろに下がった。まさか僕がドアのすぐ前に居て、お姉ちゃんの立てる音に聞き耳を立てていたなんて知られるわけにはいかなかった。

 トイレから出てきたお姉ちゃんと鉢合わせる。僕がいるとは思わなかったらしい。お姉ちゃんは驚いたように目を丸くしてから、少しばかりバツが悪そうに苦笑した。僕としても何だか悪いような気がして、目を逸らした。

 お姉ちゃんはそのまま洗面所に向かう。お姉ちゃんはトイレの中で手を洗わない。トイレを済ませた後はわざわざ洗面台で手を洗う。その気持ちは僕にもよく分かる。トイレの水というのは、キレイだと分かっていても何となく汚い感じがするのだ。

 洗面台で手を洗うお姉ちゃんの背中。その光景はまるで、デジャヴのようだった。


 鏡越しに、お姉ちゃんと目が合う。お姉ちゃんも僕の視線に気づいたらしかった。それ自体は何の問題でもない。今日のお姉ちゃんは秘密を隠しているわけじゃない。

 それでも。やっぱりお姉ちゃんにとっては見られたくなかった姿であったらしい。お姉ちゃんはトイレを我慢していたのだ。僕にもはっきりと分かるくらいに限界で、お姉ちゃんとしても僕に知られていることに気づいているだろう。

 そして、お姉ちゃんは『おしっこ』をしたのだ。それが僕に聞こえていたなんて、それを僕が聴いていたなんて、さすがにお姉ちゃんも思っていないだろうけど…。

 普段から顔を合わせている弟である僕に、生理的欲求を気取られてしまったのだ。もちろん『おもらし』の恥ずかしさなんかとは比較にならないだろうが、気まずさは大いに感じていることだろう。


「鍵。家に忘れちゃってさ…」

 お姉ちゃんは言い訳するみたいに言う。僕の思った通りだ。やっぱりお姉ちゃんはどこか抜けているのだ。

「純君が家に居てくれて良かった」

 もし僕が家に居なかったら、どうしていたのか?その時にはきっと…。

「そういえば、パパとママは?」

 お姉ちゃんは話題を変えようとする。そんなつもりはないのかもしれないけれど、少なくとも僕はそう感じた。

「買い物だよ」

 僕は答えた。

「そうなんだ。あれっ?純君はついていかなかったの?」

 お姉ちゃんは不思議そうに訊いてくる。せっかくのチャンスを僕が逃さないことをよく知っている。

「別に。ゲームしたかったから」

 僕は嘘をついた。「勉強するため」と言わなかったのは、そんな嘘はお姉ちゃんにお見通しだと思ったからだ。だからといって、本当のことなんて言えるはずもない。「お菓子より魅力的なチャンスを得るため」だとは…。

「へぇ~、何のゲーム?」

 タオルで手を拭きながらお姉ちゃんは訊いてくる。どうやら話題を変えることにはすっかり成功したらしい。

「アニマル・ハンター」

 僕は答える。それは僕がこの前の誕生日に買ってもらったばかりのゲームだった。(ちなみにお姉ちゃんには協力プレイ用のコントローラーを買ってもらった)

「そっか」

 お姉ちゃんは興味があるのかないのか分からないような反応をする。

「ねぇ、久しぶりに一緒にゲームしない?」

 まさかの誘いがお姉ちゃんの口から発せられたことに、僕は少なからず戸惑った。もうずいぶん長いこと、お姉ちゃんと一緒にゲームなんてしていない。

 だけどコントローラーをもう一つ買ってもらったのは、友達と遊ぶためというのももちろんあるけれど。元はといえば、お姉ちゃんと一緒にゲームをするためだった。話題のゲームを買ってもらうと知ったとき、お姉ちゃんから言い出したことだった。


――確か、そのゲーム。何人かで遊べるんだよね?

 お姉ちゃんに訊かれる。「四人まで、ね」僕は得意げに答えた。

――じゃあさ、私がコントローラーを買ってあげるから一緒にやろうよ?

 そこで、お姉ちゃんはまさかの提案をしてきた。

 昔はよく一緒にゲームで遊んでいたけれど。いつからか僕一人で遊ぶようになり、大学生になったお姉ちゃんはもうゲームなんて卒業してしまったのだと思っていた。それなのに。お姉ちゃんは僕が買ってもらうゲームに珍しく興味を示したのだった。

――え~。お姉ちゃん、ゲーム下手だもん…。

 照れ隠しから僕は渋った。だけど僕が隠していたのは嬉しさでもあった。

 約束通り、ママからソフトとお姉ちゃんからコントローラーを買ってもらった。「お姉ちゃんとゲームをする」というもう一つの約束が果たされることはなかった。

 結局、僕はほとんど一人で新しいゲームを進めた。発売前から期待していた通り、それは一人でも十分面白いゲームだった。僕は最近、主にそのソフトで遊んでいる。唯一、お姉ちゃんから買ってもらったコントローラーだけが今のところ出番がなく、新品のまま箱に仕舞われたままだった。


「別に、いいけど…」

 僕のどっちつかずの返答に対して。

「やった~!!」

 お姉ちゃんは大袈裟に喜んでみせる。

 今はあまりゲームをやりたい気分ではなかったけれど、特に断る理由もなかった。それにもしここで断ってしまえば、もう二度とその機会は訪れないような気がした。

「じゃあ、ちょっとお洋服着替えてくるから。先にお部屋で待ってて」

 お姉ちゃんから子供っぽくそう言われて、僕は大人しく部屋に戻ることにした。(洗面台のすぐ横、洗濯機の中のものに名残惜しさを感じながら…)


 数分後。僕の部屋のドアがノックされる。返事をするとお姉ちゃんが入ってきた。

 それからママとパパが帰ってくるまでの一時間。僕はお姉ちゃんとゲームをした。それは本当に久しぶりのことだった。

 お姉ちゃんはやっぱりゲームが下手で。僕が何度も「回復薬」を使ってあげても、あっけなく「死んだ」。その度にお姉ちゃんは僕に謝ったり、悔しがったりした。

 僕一人でなら簡単に倒せる「アニマル」でも、お姉ちゃんがいるせいで苦戦した。だけど僕はお姉ちゃんにムカついたりはしなかった。ただ純粋にゲームを楽しんで、どこか懐かしさのようなものを感じていた。

 それでも僕はゲームに集中できないでいた。お姉ちゃんの様子をチラチラと窺い、その度に洗濯機の中の記憶が蘇ってきた。

――お姉ちゃんは今、どんなパンツを穿いてるんだろう?

 僕の脳内はそのことで一杯で。お姉ちゃんの操作する「女性ハンター」が動く度、露出度高めの格好をしたアバター自体がまるでお姉ちゃん自身であるかのように。「見えそうで見えない」もどかしさに襲われるのだった。


 一時間後、パパ達が買い物から帰ってきた。僕が勉強してなかったことが分かるとやっぱり叱られた。

「ほら、言った通りじゃない!」

 鬼の首を取ったように、ママは鬼になったが如くお説教を始めようとしたものの。すぐにお姉ちゃんも一緒になってゲームをしていたことが分かると…。

「結衣も、あんまり純君の邪魔しちゃダメよ?」

 軽く注意しただけで、それ以上は何も言わなかった。僕たちは「イケない秘密」を共有するみたいに目配せをして、小さく笑った。

 その夜、家族皆が寝静まった頃。僕はトイレに行くふりをして洗面所に向かった。目的はもちろん洗濯機であり、中を漁るとすぐにお姉ちゃんのパンツが見つかった。

 本日のそれは「ピンク」だった。


 お姉ちゃんのパンツは、やっぱり汚れていた。

 昼間僕が見たのと同じく、いやそれ以上に。『おしっこ』がたっぷりと染み込み、ぐっしょりと濡れていた。今回は女子特有の汚れについてはそれほどでもなかった。僕はパブロフの犬のように、条件反射的に匂いを嗅いだ。

 お姉ちゃんのパンツは『おしっこ』臭かった。不純物がないせいか、より直接的にアンモニア臭が鼻腔を刺激した。

――お姉ちゃん、やっぱり『チビって』たんだ…。

『おしっこ』を便器に出し切ることができず、パンツの中に『チビって』いたのだ。いかにも生還したような顔をしておきながら、こっそりお股を弛緩させていたのだ。


 次に、僕はお姉ちゃんのパンツを舐めてみた。なぜそんなことを思いついたのかは自分でもよく分からない。だけど僕はすでに…。

「視覚」でお姉ちゃんの汚濁を認めて、
「嗅覚」でお姉ちゃんの芳香を確かめ、
「触覚」でお姉ちゃんの幻想と交わり、
「聴覚」でお姉ちゃんの音調を聴いた。

 残るはあと一つ「味覚」のみだった。

 お姉ちゃんのパンツの濡れた部分にベロを這わせ、そのままベロベロと舐め回す。サラサラとした舌触り、ピリピリとした味覚が僕の舌先を刺激した。

 甘味がするなんて思っていたわけではない。だけど想像を超える酸味は僕の思考を麻痺させ、同時に襲い来る苦味が僕を現実に引き戻したのだった。

 パンツから顔面を引き離す。そうしてさらに観察を続ける。お尻の真ん中辺りに、何やら薄っすらと『茶色いシミ』が付いていた。

――これって、もしかして…?

 疑念を抱くと同時に、僕はある疑問に囚われるのだった。


――あの時、お姉ちゃんは「小」ではなく「大」だったのだろうか?

 いや、そんなはずはない。トイレの滞在時間からも、ドア越しに聞こえた音からもそれは明らかだった。

 だとすれば今朝『排便』をした際(お姉ちゃんは毎朝「長めのトイレ」に入る)、上手くお尻が拭けずにパンツに『ウンスジ』を付けてしまったのだろうか?

 いや、それこそあり得ない。いくらお姉ちゃんが「カンペキ」ではないとはいえ、その失敗はもはや「ガサツ」を通り越し「フケツ」といっていいほどのものだった。

 再び僕はお姉ちゃんのパンツに鼻を近づけた。パンツの底ではなく後方の部分に。お姉ちゃんのお股ではなく、お尻が触れていた部分に。

 ふと僕の脳内に場違いな映像が流れる。あれは確か、春休みに動物園に行った時。あるいはもう少し直近の記憶でいうならば、急に催して公園の公衆便所に入った時。

 あまりにも野性的で暴力的な匂い。それは紛れもない『うんち』の臭いだった。

 お姉ちゃんは『おしっこ』のみならず『うんち』までもパンツに付けていたのだ。


 僕の部屋を訪れた、あの時――。

 お姉ちゃんは部屋着に着替えていた。だけどパンツはそのままだったのだろう。(その証拠に夕飯前に洗濯機を覗いてみたけれどお姉ちゃんの下着はまだ無かった)

 僕とゲームをしている間も――。(それが今では夢の中の出来事のように思える)
 晩御飯を食べている最中も――。(なぜかお姉ちゃんはいつも以上に饒舌だった)
 夕食後の家族団欒の一時も――。(お姉ちゃんのお胸やお尻ばかりに目がいった)

 お姉ちゃんはパンツを『おしっこ』や『うんち』で汚していたのだ。

 その現実に僕は混乱した。だけどその真実は僕を激しく興奮させたのだった。


 次の休日(その日も家族は全員留守だった)、僕はお姉ちゃんの部屋に入った。

 お姉ちゃんの本棚には相変わらず難しそうな本ばかりがたくさん並べられていた。だけど背伸びしたい年頃を過ぎた僕の、今日の目的はそこではなかった。

 片付いた部屋の中を移動し、背の低い家具の前に立つ。

 僕はしゃがみ込み、タンスの引き出しを上から順番に開けていく。

 一段目には、お姉ちゃんの服が入っていた。
 二段目にも、これまたお姉ちゃんの服があった。
 三段目にして、僕はついに「アタリ」を引き当てた。

 きちんと丁寧に畳まれ、整理整頓されたカラフルな下着たち。それは僕にとって、まさしく宝の山だった。僕は堪らずに宝箱の中に顔を埋めてみた。

 洗剤と柔軟剤の香り。不快な臭いなどするはずもなく、洗濯を終えたそれらからは現実のお姉ちゃんの不都合な情報が失われ、理想のお姉ちゃんの偶像を醸していた。


 ずっと、そうしていたかったけれど。やがて僕は顔を上げて、お姉ちゃんの下着を漁り始める。

 下着の種類は大きく分けて二種類。ブラジャーとパンツ。僕がより興味があるのはもちろん下半身に付ける方だった。

 可愛らしいデザインに目移りしそうになりながらも、あくまでも僕の目的は一つ。他の誘惑に負けないように探し求めていると、すぐにそれは見つかった。

(見たところさしたる装飾のない前面上部に取って付けたかのような小さなリボンがあしらってあるだけの)黒いパンツ。

 同じ色の下着は何着かあったものの、恐らくこれに間違いないだろう。

 あの日僕が見た、お姉ちゃんが手洗いしていた、僕にとってはきっかけとなった、お姉ちゃんの『おもらしパンツ』。後ろから盗み見ることしか叶わなかったそれが、時を経て今ついに僕の手に触れたのだった。

 僕の指は震えた。良心の呵責ではなく発覚の恐怖から平常心ではいられなかった。


 僕には前科があった。洗濯機の中のお姉ちゃんのパンツを漁ったという罪が…。

 だけど今回ばかりは、観察するだけではなく拝借するのだ。僕は揺るぎない証拠をこの手にすることになる。もし現物を押さえられたら、それでお仕舞いなのだった。

 とはいえ、これだけあるのだから一つくらい無くなったところでバレないだろう。

 本当ならばむしろ、洗濯する前の汚れた下着を手に入れたいところではあったが。そうするわけにはいかないいくつかの理由があった。

 お姉ちゃんは洗濯が終わった下着をきちんと「セット」でタンスに収納していて。もし片方が無くなれば不審がられる可能性があった。

 あるいは、お姉ちゃんの「シミ付き」のそれを僕が部屋に隠し持っていたとして。それの放つ臭いで気づかれてしまう危険性もあった。

 だからこそ僕は。お姉ちゃんが刻み付けた汚れは失われつつも、僕の網膜と記憶に刻み付けられた黒いパンツを「思い出」と一緒にポケットにこっそりと仕舞い込み、お姉ちゃんの代わりに「お守り」にすることにした。

 普段はそれを勉強机の鍵の掛かる引き出しに入れておき、たまに取り出してみてはそこにあるはずのお姉ちゃんの肉体を想像し妄想に耽るのだった。

 そうして僕は再び、元の生活へと戻った。


 朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。トイレを済まして、手を洗って、朝食を取る。制服に着替えて、靴を履いて、登校する。授業を受けて、給食を食べて、下校する。帰宅して、漫画を読んで、ゲームをする。夕飯を食べて、TVを観て、お風呂に入る。歯を磨いて、宿題を終えて、ベッドに入る。深夜にベッドを抜け出し、下着を漁る。

 そんな毎日の繰り返し。これまでとほんの少し違った非日常の中にいるからこそ。まるで全てが本物のような、いつの間にか日常から抜け出してしまったかのような、どうにも落ち着かない気分だった。その原因はやっぱりお姉ちゃんだった。

 家族の誰も知らない秘密。それは僕とお姉ちゃんだけの秘密なのだ。


――続く――

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おかず味噌 2020/05/03 04:11

ちょっとイケないこと… 第十話「互換と五感」

(第九話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/247015


 僕は「長いトンネル」から抜け出せないでいた。

 朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。トイレを済まして、手を洗って、朝食を取る。制服に着替えて、靴を履いて、登校する。授業を受けて、給食を食べて、下校する。帰宅して、漫画を読んで、ゲームをする。夕飯を食べて、TVを観て、お風呂に入る。歯を磨いて、宿題を終えて、ベッドに入る。

 そんな毎日の繰り返し。これまでと何一つ変わらない日常の中にいるはずなのに。まるで全てが偽物のような、いつの間にか非日常に迷い込んでしまったかのような、どうにも落ち着かない気分だった。その原因は間違いなく、お姉ちゃんだった。

 といっても。別に、お姉ちゃんの様子に何か変わったところがあるわけじゃない。今朝もお姉ちゃんは僕らと一緒に朝御飯を食べて、パパとニュースの話をしていた。僕は朝は眠いからあまり喋らないけど、それでもお姉ちゃんの声に耳を傾けていた。そして、僕の方が先に家を出た。今日はお姉ちゃんもバイトが休みらしく、晩御飯も家族全員で揃って食べた。お姉ちゃんは大学の話やバイトの話、最近観て面白かったテレビの話をした。いつも通りの何も変わらないお姉ちゃんだった。

 だけど僕は知っている。家族の誰も知らない、お姉ちゃんの秘密を…。


 深夜の洗面所でパンツを洗っていたお姉ちゃん。『おもらし』をしたお姉ちゃん。顔を見るたび、挨拶を交わすたび、そんなお姉ちゃんの姿がいくつも浮かんできた。だから僕はお姉ちゃんとなるべく目を合わせないようにした。変わってしまったのはどうやら僕の方なのかもしれない。

 それでも。僕の些細な変化に、お姉ちゃんも、家族の誰も気づくことはなかった。せいぜいママに「純君、今日はやけに大人しいわね」と言われたことくらいだ。

 お姉ちゃんは知らないのだろう。あの夜、僕がすぐ後ろで息を潜めていたことを。じゃなきゃ、そんな風に平然としていられるはずがない。お姉ちゃんは僕に対してもごく自然に話しかけてきた。「学校はどう?」とか、「好きな子は出来た?」とか。僕はそれが嬉しかった。お姉ちゃんは今まで通りのお姉ちゃんで、誰のものでもない僕だけのお姉ちゃんでいてくれることが。でも僕は知ってしまった。一歩外に出れば僕の知らないお姉ちゃんで、もう僕だけのものじゃないということを。

 僕はお姉ちゃんに訊いてみたかった。

――お姉ちゃんは『おもらし』したの?
――だからあの夜、パンツを洗っていたんでしょ?

 でも訊けなかった。訊けるはずもなかった。もし訊いたなら、本当にお姉ちゃんは僕の知らないお姉ちゃんになってしまうような気がして怖かった。

 一人で洗面所にいる時はまさに気が気じゃなかった。この場所で、僕は目撃した。ここで、お姉ちゃんは『おもらし』の後始末をしていたのだ。それを思い出すだけで顔が熱くなった。そして洗面台のすぐ横には、洗濯機があった。

 その中には、洗う前の家族の洗濯物がある。もちろん、僕の服や下着だってある。そこには当然、お姉ちゃんのパンツもあるはずだった。

 僕は今まで洗濯機の中を覗いたことなんてなかった。汚れ物を洗濯機に放り込むとその先は全部ママ任せで、きちんと畳まれた衣類がタンスに仕舞われることになる。きれいになったそれを、僕はまた着るだけのことだった。

 だけど。僕はいつからか洗濯機の中を覗いてみたいという衝動に悩まされていた。そこにあるお姉ちゃんの下着を確かめてみたかった。とっくに洗濯を終えたはずの、お姉ちゃんの『おもらしパンツ』がまだ残っているような気がして…。

 僕はお姉ちゃんのことを知りたいと思った。より正確には、お姉ちゃんの下着を。僕のパンツとはだいぶ形の違う、お姉ちゃんの黒いパンツを。もう一度見てみたい、という盲動に苛まれていた。

 そして。僕がその一歩を踏み出したのは、ある休日の午後のことだった。


 その日、家族は全員出掛けていた。

 パパとママは買い物に行くらしく、僕もついて来ないかと誘われた。いつもならばお菓子を確保できるチャンスなので絶対ついて行くけれど、僕はその誘いを断った。

「勉強があるから」と明らかに嘘と分かる理由を言ったが特に疑われることもなく、パパが「おっ!純君はエラいな!」と感心しつつ手放しで褒めてくれたのに対して。ママは「どうせ、ゲームの続きがしたいんでしょ?」と見透かしたようなことを言い「ゲームばっかりしてないで、ちゃんと勉強もしないとダメよ?」と釘を刺された。

 お姉ちゃんは今日もバイトで、夕方まで帰らないらしい。

 一人きりでいると、家の中がいつも以上に広く感じられた。もちろん今までだって留守番したことは何度もある。中学生にもなれば、それくらいは普通のことだった。だけどその日の僕はとても普通じゃない、とある計画を遂行しようとしていた。

 早速、洗面所に向かう。そこは僕にとってもはや特別な場所へと成り果てていた。まずは手を洗う。洗面所でする当然の行動だ。誰に見られているわけでもないのに、ここに来た理由を作った。鏡に僕の顔が映り込む。いつもと変わらない自分だった。だけど内側にいつもと違う自分がいるせいか、どこか歪で醜いものに感じられた。


 僕には選択肢があった。今ならばまだ引き返せる。このまま自分の部屋に戻って、ママの監視がないのを良いことに、心ゆくまでゲームを堪能することだってできた。あるいはママの予想を裏切って、真面目に勉強するというのも悪くない考えだった。ママは僕を見直すだろう。次に買い物に行った時、ゲームはさすがに無理だろうが、漫画くらいなら買ってもらえるかもしれない。

 僕にはまだ幾つものより良い選択肢が残されていた。だが同時に僕は思っていた。この機会を逃したら次にチャンスが巡ってくるのは果たしていつになるだろう、と。僕はそれまで待てそうになかった。僕の我慢はすでに限界を越えていた。

 それは。お菓子や漫画やゲームなんかよりも、僕にとっては魅力的なものだった。ママを見返すことはできない。だけどある意味で、ママの予想は外れることになる。

 もしバレたら、こっぴどく叱られるだろう。いや、叱られるだけならまだマシだ。僕は家族から軽蔑されることになるだろう。ママやパパ、そしてお姉ちゃんからも。僕は犯罪者になってしまうかもしれない。家族のものとはいえ、許されない行為だ。僕は牢屋に入れられて、二度とお姉ちゃんと会うことさえできないかもしれない。

――それでもやるのか?

 ついに。最後の選択肢が与えられる。「このまま犯罪者になってしまうのか」、「ごく一般的な中学生のままでいるのか」という最終的な決断を迫られる。それは「宿題をする前に遊ぶのか」、「宿題をしてから遊ぶのか」という日常の選択肢とはあまりに規模の違うものだった。結局、僕が選んだのは…。


 僕は洗濯機の中を覗き込んだ。その頃には、罪悪感のようなものは失われていた。あるいは単に麻痺していただけなのかもしれない。いや麻痺なんてしていなかった。僕は後ろめたさを抱えたままだった。要は、それに打ち克ったというだけのことだ。打ち克ってしまったのだ。

 一番上に、タオルがあった。昨日家族の誰か(お姉ちゃんかもしれない)が使ったものか、今日家族の誰か(やっぱりお姉ちゃんかもしれない)が使ったものだろう。それを取り上げる。すると、次にワイシャツが出てきた。間違いなくパパのものだ。昨日、最後にお風呂に入ったのはパパだった。その情報を元に逆算する。

 昨日、お姉ちゃんがお風呂に入ったのはパパの前だった。僕は生唾を呑み込んだ。しんとした家の中で、その音だけがやたらと大袈裟に響いた。僕は後ろを振り返る。誰かに見られているんじゃないか、と警戒する。だけどもちろん、入口にも廊下にも誰もいなかった。分かりきっていたことだ。それでもなぜか視線を感じる気がする。それは、あの夜の僕自身のものだった。

 パパの服を取り去る。正直あまり触れたいものではなかったけれど、仕方がない。僕はタオルとパパの服を抱えることになった。ひとまずそれを床に置くことにした。こんな所に置くのは不衛生かなとも思ったけれど、どうせ洗うのだから一緒だろう。そうして手ぶらになった僕は再び洗濯機の中を覗き込んだ。ここから先はいよいよ、お姉ちゃんの「ゾーン」だ。


 やはり最初にタオルがあった。それは紛れもなくお姉ちゃんが使ったものだろう。だけど僕はそんなものに興味はなかった。僕が求めているのは…。

 そして。ついに、それが現れた。タオルをめくると、その下にそれは隠れていた。まるで、宝物のように。それを見つけた瞬間、僕は目眩を感じた。待ち望んだものが突然出現したことに、僕の脳は情報を上手く整理できないでいるらしかった。

 それは「白のパンツ」だった。

 僕の思っていたものと違う。てっきり黒なのだと思い込んでいた。だけど違った。すぐに予想を修正する。

 お姉ちゃんだって色んな下着を持っているだろう。男子の僕もトランクスの柄には様々な種類がある。女子のパンツにいろんな色があっても不思議じゃない。

 それでも。お姉ちゃんの下着の色は黒だと、僕の中ではそう決めつけられていた。それは、あの夜に見た光景が僕にとっての情報の全てだったからだ。僕のイメージはしっかりと固定されていた。

 だけど「白」というのもなかなか悪くない気がした。より女の子らしいと思った。黒に比べると子供っぽいような気もしたけれど、どこか可愛らしい雰囲気もあった。それに。あくまでも異性として扱うのなら、その方が好都合だった。


 僕はお姉ちゃんのパンツに手を伸ばした。動作自体は何てことないものだけれど、行為の意味を考えるとたちまち僕の鼓動は早くなった。ドクドクと自分の心臓の音がはっきりと耳に聴こえた。

 ついに。僕はお姉ちゃんのパンツに触れた。それは同じ布なのに、僕のパンツとはずいぶん違う手触りだった。なんだかサラサラとした不思議な感触だった。

 僕はお姉ちゃんのパンツを持ち上げた。それはとても軽かった。ハンカチみたいにポケットに入りそうなくらいの大きさだった。しかもハンカチよりずっと薄かった。よくママに「ハンカチくらい持って行きなさい」と言われて僕はそれを嫌がるけど、これなら全然苦にならなそうだった。

 僕の手にパンツが握られている。あの夜見たものと色こそ違うけれど、紛れもないお姉ちゃんのものだった。お姉ちゃんが穿いて、脱いだものなのだ。それを思うと、微かに温もりを感じるような気がした。(お姉ちゃんがこのパンツを洗濯機に入れてもう長い時間が経っているのは分かっているけれど)

 昨日一日のお姉ちゃんの生活を振り返る。とはいえ、僕が知っているのはせいぜい家にいるお姉ちゃんだけで外でのことは知らない。家にいる時といってもリビングにいる時のことくらいでそれ以外のことは知らない。後は想像することしかできない。それでも一つだけ確かなことがある。それは…。


――お姉ちゃんが昨日一日、このパンツを穿いていた。

 ということだ。それだけでお姉ちゃんの秘密を全て知れたわけではもちろんない。それは秘密と呼べるほどのものでさえないかもしれない。秘密というならそれこそ、あの夜の出来事のほうがずっと…。だけど僕は考える。

――この小さな布が、お姉ちゃんの大事な部分に当たっていたんだ。

 お姉ちゃんの、女の子の部分に。『おしっこ』の出る部分に。僕は思い浮かべる。これを穿いたまま『おもらし』するお姉ちゃんを。

 そんなはずはない。このパンツは乾いている。お姉ちゃんは自分で洗うことなく、これを脱いでそのまま洗濯機に入れたのだろう。だとしたら…。

 僕はお姉ちゃんのパンツをより詳しく知りたい、という次なる願望に思い当たる。中身を見たい、内側を確かめたい、という欲望に襲われる。

 僕は手の中でパンツを動かした。両端を握るのを止め、片手で下から支えながら、もう片方の手で裏返すようにして、底の部分を露わにした。

 僕はお姉ちゃんのパンツの内側を見た。そして、思わず自分の目を疑った。

 お姉ちゃんのパンツは、とても汚れていた。

 普段僕を子供扱いしてくるお姉ちゃんを十分見返せるくらいに、それは汚かった。小学生の頃の僕だって、ここまで下着を汚したりはしない。『おしっこ』をした後は入念におちんちんを振っているし、もちろんパンツの中で『チビったり』もしない。それに。女子は『おしっこ』をした後だってちゃんと拭くのではなかっただろうか。実際見たことがあるわけではないけれど、たぶんそうだ。それなのに…。

 お姉ちゃんの白いパンツには、ばっちりと黄色いシミが付いていた。紛れもなく『おしっこ』によるものだ。それが、お股の部分にたっぷりと染み込んでいる。

 ふと僕の中に、ある疑問が生まれる。

――お姉ちゃんは『おしっこ』した後、拭かないのだろうか?

 几帳面でキレイ好きなお姉ちゃんに限って、そんなはずがないとは分かっている。だけどそうじゃないと説明がつかないほど、お姉ちゃんの下着には恥ずかしい痕跡が現に証拠として刻み付けられているのだった。


 さらにお姉ちゃんの下着の汚れはそれだけに留まらなかった。僕は観察を続ける。お姉ちゃんのアソコが当たっていた部分に、カピカピとした白いシミが出来ていた。それは、女子が「えっちな気分」になった時に溢れるものらしい。

 最初に『おしっこ』によるシミを見つけた時から僕はそれに気づいていた。だけど一度は見て見ぬ振りをした。なぜならその液体は女子特有のものであり、男子の僕が知らないものだったからだ。

 よく「濡れる」とか言うらしいが。僕にその感覚は分からず、同級生の女子たちがそんな話をしているのを聞いたこともない。僕の主な情報源は深夜のテレビ番組と、いつ知ったのかも分からない曖昧なものばかりだった。だけど僕が知らないだけで、実は同級生である女子中学生たちも「濡れたり」しているのかもしれない。そして、実は同級生である男子中学生たちも口に出さないだけで知っているのかもしれない。

 そう思うと、何だか僕だけが周りから取り残されているような焦りを感じた。


 僕は、童貞だった。

 とはいえ、僕の歳でそれは珍しいことじゃないはずだ。クラスメイトのほとんどが僕と同じだろう。むしろ「童貞」という言葉とその言葉の指す意味を知っているだけ僕は同級生たちよりも進んでいるのかもしれない。だけどそれは僕が彼らと比べて、人一倍「えっち」なことに興味がある「ヘンタイ」というだけのことで。だとしたらあまり誇らしいこととは言えなかった。

 あるいは周りの友人たち(よく一緒に遊ぶ雅也や淳史)も実はすでに経験済みで、僕にそのことを隠しているのかもしれない。

 いやいや、とすぐにその考えを否定する。僕はアイツらの顔を思い浮かべてみた。とてもじゃないが、女子からモテるとは思えない。確かに淳史は運動神経が抜群で、男子の僕から見ても憧れる部分はある。だからといって女子からモテるのかといえばそれは別問題だ。「かけっこ」が速ければチヤホヤされていた小学生の頃とは違う。同級生の女子たちは男子よりもずっと大人で、そんなに単純ではないだろう。

 それに。雅也なんかは、僕がクラスの女子とちょっと話しているのを見ただけで「お前、アイツのこと好きなの?」などとからかってくる。そんな彼がまさか女子と秘密の関係になっているだなんて、それこそ「ぬけがけ」というものだ。

 とにかく。少なくとも僕の知り合いには、そんなマセたヤツなんていないはずだ。女子の裸を見たこともなければ、女子のアソコがどうなっているかなんて知らない。それどころか女子のパンツさえ見たこともなく、だとしたら今の僕の状況というのはお姉ちゃんがいる者だけに与えられた特権なのかもしれない。

 いや普通はお姉ちゃんがいるからといって、その下着を漁ったりはしないだろう。これまでの僕がそうであったように。お姉ちゃんというのは性別としてはともかく、だけど「女子」として扱うべき存在では決してないのだ。


 それでも。僕の手は股間へと伸びていた。左手でお姉ちゃんのパンツを持ちつつ、右手でズボン越しにアソコを握り締めていた。僕の意思によるものでは断じてない。無意識に、自然にそうしていたのだ。いつか女子からされることを期待するように、あくまで予行練習として自分を慰めていた。

――お姉ちゃんはどうなんだろう…?

 それはつまり「お姉ちゃんは処女なのだろうか?」という意味だ。僕は想像する。このパンツの持ち主を、これを穿いているお姉ちゃんを。

 お姉ちゃんは大学生だ。中学生の僕とは違う。まだ二十歳になってないとはいえ、立派な大人なのだ。家族にも話せない秘密の一つや二つ(あるいはもっとたくさん)抱えているに違いない。その内一つが『おもらし』であり(それはどちらかといえば子供の秘密だけど)、経験済みということなのかもしれない。

 お姉ちゃんは、どこで、誰と、したのだろう?聞くところによると、そういうのは男性側からアプローチするものらしい。やっぱり女子よりも男子の方がスケベだし、そういうことに興味がある。

 お姉ちゃんは興味ないのだろうか?いや、そんなはずはないだろう。だからこそ、こうして下着を濡らしていたのだ。少なからず期待し、興奮していたのだ。

 お姉ちゃんが発情し、お股を湿らせる。普段のお姉ちゃんからは想像もつかない、好きな男子の前でしか見せない、僕の知らないお姉ちゃん。


 僕の妄想は膨らんだ。淋しさと嫉妬に焦がれつつも、やはり興味は尽きなかった。僕はズボン越しの右手をより速く動かした。未知なる快感が得られることを信じて、僕は疑似体験を加速させた。想像の相手は他の誰でもない、お姉ちゃんだった。

 今まさに僕の興奮は最高潮に達しようとしていた。だけど、まだ何かが足りない。想像だけではどうしても補えないもの。僕のまだ知らないお姉ちゃん。

 僕の左手にはお姉ちゃんの下着が握られている。そこに刻まれた秘密を知ることで自分を昂らせていた。いわばそれは視覚のみによる情報。それだけじゃ物足りない。もっと別の方法で、別の感覚で、お姉ちゃんのことを知りたいと思った。

 僕の顔はお姉ちゃんのパンツに近づいていった。顔がパンツに近づいているのか、あるいはパンツの方が顔へと近づけられているのか、「卵が先か、ニワトリが先か」僕には判らなかった。だけど確実に、その距離は縮まっていった。

 僕はお姉ちゃんのパンツの匂いを嗅いでみた。クンクンと鼻を鳴らすのではなく、深々と息を吸い込んだ。そこには「ステキ」で「えっち」な香りが待っている――、はずだった。


――ゲホッォ!!!

 僕は激しくむせた。鼻腔を満たした臭気に、吐き気さえ催した。吸い込んだものを吐き出そうと、異物を排除しようとする条件反射に思わず涙目になる。

――クサい!クサすぎる!!

 お姉ちゃんのパンツは異臭を放っていた。未だかつて嗅いだことない臭いであり、他に何にも例えようもないのだけれど、それでもあえて表現しようとするなら…。

 チーズや牛乳などの乳製品を腐らせ、そこに微かにアンモニア臭が混じっている、そんな独特の香りだった。興奮を高めるものではなくむしろ萎えさせるものだった。幻滅させる、といってもいいかもしれない。そこに女子に対する幻想は微塵もなく、妄想を醒めさせ、理想を破壊するものだった。

 現実のお姉ちゃんに重なるものでもなければ、非現実のお姉ちゃんを補うものでもなかった。あるいは僕の最も知りたくなかった部分であるかもしれなかった。

 それほどまでにお姉ちゃんのパンツはとんでもない悪臭がした。良い香りなどでは決してなかった。それ自体がもはや『汚物』のようですらあった。とてもじゃないがもう一度だって嗅ぐのは御免だった。それは、きつい罰ゲームのようだった。


 それでも。僕は再びお姉ちゃんのパンツを嗅いでみた。一度は背けた顔を寄せて、鼻を近づけた。そして今度は慎重に、少しずつ息を吸った。

 やはり鼻にツンとくる刺激臭。耐え難い臭い。一秒だって堪えることはできない。僕の嗅覚はすぐに悲鳴をあげた。だけど同時に体中に血液がみなぎる感覚があった。それは主に下半身へと向かい、僕の股間を痛いくらいに勃起させた。

 いや、すでに元々勃起はしている。これ以上ないくらいに、はっきりしっかりと。むしろ一度は萎えさせかけられもした。だけど今では…。

 僕はお姉ちゃん匂いで股間を愛撫されていた。いや、そんな平穏なものじゃない。乱暴すぎるその臭いは、僕のアソコを激しく励まし鼓舞したのだった。

 もはや居ても立っても居られなくなった。ズボンを下ろし、トランクスを脱いだ。僕のアソコが剥き出しになる。そそり立った僕のおちんちんが。

 すぐに直接、自分の手で触ろうと思った。ズボン越しより気持ちいいに違いない。だけど僕はその欲求を何とか抑えた。おちんちんを握りたくなるのを必死で耐えた。それはなぜなら、僕はあることを思いついていたからだ。

 僕の目先にはお姉ちゃんのパンツがある。僕の鼻先にはお姉ちゃんのシミがある。それを嗅ぐことで、匂いを確かめた。視覚と聴覚、その次は…。


 手に持った下着を下半身に移動させる。お姉ちゃんのパンツを股間に巻き付ける。柔らかくて薄い布の感触。先っちょに当たる部分はもちろん、お股の部分だった。

 僕はその小さな布を介してお姉ちゃんを感じ取り、その汚れた布と触れ合うことでお姉ちゃんに触れている。かつてお姉ちゃんのアソコにあてがわれていた部分が今は僕のアソコに当たっている。それを思うだけで、おちんちんの先から何やらヌルヌルとした液体が溢れてきた。

 お姉ちゃんの「染み付きパンツ」が僕から出たもので濡れる。お姉ちゃんの汚れと僕の穢れが直接的に混じり合うことで、間接的にお姉ちゃんと交わっている。

 ふと。全身に何かがこみ上げてくるような感覚があった。背筋がゾクゾクと震え、何かがアソコから飛び出してしまいそうだった。僕のまだ知らない何かが…。

 それを許してしまえばこれまで以上の熱情を得ることができる、そんな気がした。だけどそれをしてしまえば二度と正常に戻ることはできない、そんな危機も感じた。

 僕は予感を抱いた。今さら罪悪感に襲われた。だが快感には勝てそうになかった。

 僕のスピードはさらに高められた。右手の動きが、意識が、現実さえも凌駕した。

 そして。ついにその瞬間を迎える。

――ピンポ~ン!!

 ふいに、甲高い音が家中に響き渡る。僕の行為を正解だと肯定してくれるものではもちろんない。

 僕は心臓が止まりそうなくらい驚き、動きを止めた。チャイムの音だと気づくのに数秒掛かった。

――ピンポン!!

 再びチャイムが鳴らされる。今度は短く、客人の焦りが伝わってくるようだった。

 それは誰かの呼ぶ声であり、あるいは神様からのお告げなのかもしれなかった。「もう、それくらいにしておきなさい」と。

 僕は迷った。訪問者を無視して継続すべきか、預言者に従い中断すべきか、を。

 結局、僕は「神さまの言うとおり」にした。お姉ちゃんのパンツを洗濯機に戻し、トランクスとズボンを履き直し、玄関の方へと向かった。

 その選択が僕にとって正解であったのかは分からない。だけど結果的にいうなら、僕はその選択によってある一つの「洗濯」の可能性を失ってしまったのだった。


――ピンポン!!

 廊下を歩いている間、もう一度だけチャイムが鳴らされる。切羽詰まったような、そんな音。

――うるさいなぁ…。

 僕は不機嫌になる。あと少しのところで邪魔をされたから、という理由もあった。果たして、そんなにも急かす必要があるのだろうか?

 ようやく玄関にたどり着いた。だけど、すぐにドアを開けることはしない。

――ドアを開ける前に、まず誰が来たのかをちゃんと確認しなさい。

 ママからきつく言われていることだ。一人で留守番する時なんかは、特に。

 ママの言いつけに従い、僕は覗き穴に近づこうとした。だがその必要はなかった。


「ねぇ、誰かいない…?」

 ドア越しに心細く言ったその声は、僕のよく知っているものだった。

――なんで、お姉ちゃんが…?

 僕の頭は混乱する。

――お姉ちゃんはバイトで、夕方まで帰らないんじゃ…?

 確かにそうだったはずだ。だからこそ昨日の夜ママに「晩御飯はいらないから」と言っていたはずだ。それなのに。僕は動揺を隠せなかった。

 ふと昔読んでもらった童謡を思い出す。「三匹の子豚」や「赤ずきんちゃん」を。それらの物語を聞きながら、子供ながらに思ったものだ。

「どうして、ちゃんと姿を確認しないのか?」と。

 警戒しつつも僕はドアに近づいた。覗き穴に顔を寄せ、外に居る人物を確認する。


 そこにはお姉ちゃんがいた。僕の想像なんかとは重ならない現実のお姉ちゃんが。やっぱり本物だったんだ。僕がお姉ちゃんを偽物と間違えるはずがなかった。

 だとしたら、ドアを開けることにもはや躊躇う必要はなかった。

「ちょっと待って!」

 僕は答えた。

「あっ!純君…!!」

 お姉ちゃんは僕が家に居たことに喜び、安堵しているらしかった。ついさっきまでお姉ちゃんのパンツで僕が何をしていたかなんて、お姉ちゃんは知る由もなかった。

 僕はすぐに鍵を開けて、お姉ちゃんを家の中に入れてあげるつもりだった。だけどその間際、お姉ちゃんは言った。

「良かった。お姉ちゃん『トイレ』に行きたかったの…」

 僕は再び、股間に集まってくる熱さを感じた。


――続く――

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