尾上屋台 2016/10/17 01:44

六割バッターだった

基本的に、スポーツは苦手だった。
ただ、いくつか、これは上手い方だったんじゃないかというスポーツがある。
ほとんど、遊びレベルの話だったけど、得意だったんじゃないかと思えるスポーツも、あるにはあったのだ。

小学生の頃は、遊びといえば、野球が多かった。
あまりきっちりとしたルールに基づいて、という感じじゃなく、カラーバットとカラーボールで、とりあえず集まった人数で野球らしきものをやる、という例のアレだ。

最近の子たちは、あまりこういう遊びはしていないのかもしれない。
というのも、自分たちが子供だった時と比べて明らかに、空き地の存在が少なくなっているからだ。
ちょっと遊べそうな場所があっても「ボール遊びはしないで下さい」なる看板があることも多く、そもそも子供がスポーツのようなことをして遊ぶ風景自体、少なくとも都内では、もう死滅してしまっている気がする。

ともあれ、野球だ。
自分がスポーツ、運動が苦手だったというのは、学校の授業のほとんどが、走ることを中心とした、基礎体力を測るものが多かったからだと思う。
子供の頃は、小さかった。
今も背は低い方だけど、中学一年くらいまでは身長順に並ぶと前から二、三番目だったのだ。
小さいので、単純に歩幅は小さいし、筋肉量も少ない。
学校で測られる基礎体力では、運動が苦手と思ってしまうのも、無理はなかったのだろう。
ただ、体育の授業ではあまり行われない球技、特に野球は一緒に遊んでいる仲間からは一目置かれる程度には、できた。
野球で遊ぼうという時には、それぞれリーダーを決めて、順番にチームメイトを決めていく。
この時に一番、ないしは二番手で選ばれるのが、自分だった。

特に得意だったのは、バッティングだった。
小さい身体でホームランんを量産するものだから、初めて遊ぶ人間は大抵驚く。
力はなかったが、所詮は小学生が遊ぶ程度のスペースなので、バットの芯に当てれば、大した力はなくてもボールは面白いように飛ぶのだ。
バットコントロールには自信があった。
多分意識して広角に打ち分けられるのは、あの当時では自分だけだったと思う。
これにはちょっとした仕掛けがあって、右打席の場合、左足をちょっとホームベースの方に近づけるだけで、右方向への強い打球が打てる。
加えて、空き地でのプレイである。
きちんとした正方形の場所などないといってよく、大抵は右打席、それも引っ張ることしかできない人間ばかりなものだから、狭いライトフェンス(フェンスというより塀) までなら、流しても充分ホームランを狙えたというわけだ。

ある時、よく集まる人間の中で、誰のバッティングが優れているのか、測ってみることになった。
かなりの成績を残している自負はあったが、仲間の中に一人、リトルリーグに入っている人間がいた(当時はみんな遊びとして野球をやっていても、リトルリーグにまで入る人間はクラスに一人いればいい方)。
この男は背はそこそこだが運動神経は良く、おまけに遊びとしてじゃなく野球をやっている。
とりあえずこの男の次くらいなんじゃないかと思っているが、数字として出してみるというのは面白いと思った。
期間は大体一ヶ月、週三、四日はプレイしてたと思う。

結果、この男の打率は.750、自分は.660だった。
基本的によく打つ人間というのは、打てなかった時の記憶が強い。
なので、この男に打率で負けたとはいえ、こんなに打っていた自分に驚いた。
ちなみに他の仲間の打率は概ね.250前後。
三割越えてるのも二人を除いては一人しかいなかったと記憶しているので、やはりかなり打っていたのだ。
そして、正確には何本だったか忘れてしまったけど、ホームランでは自分の方が10本くらいは多かったと思う。
この男に勝てる部分があったのだ、という強烈な記憶があるのだが、数字の方はハッキリとは覚えていない。

ちなみに自分のバッティングは常にホームラン狙いで、ホームランじゃなかった時は、アウトになったかのような失望感があった。
足は遅いので、右中間を真っ二つにしても、三塁ベースまで到達できた試しはない。
あー他のヤツだったら三塁まで余裕なのに、という苦い思いをよく味わっていた。

野球以外にも、サッカー、ドッジボールと、球技全般は、小学生くらいまでは明らかに得意分野だったと思う。
たまに体育の時間でそれらが行われることがあったが、基本は走ったり鉄棒を使ったりと、そういう部分でしか評価は行われなかったので、体育の成績はいつも、五段階評価で二だった。
今の絶対値とは違い、自分たちの頃は通信簿は相対値だったので(成績順に、一から五まで均等に割り振る)、よく体育で一をくらわなかったと思ってしまうくらいだ。

ある体育の授業の時、確かサッカーをしていた時だったと思うが、運動の得意な女子から、プレイ中にボールを奪う機会があった。
その女子が、「尾上みたいな運動できないヤツにボール取られるなんて!」と言っていたのを覚えている。
その時に野球をやっていた仲間がその女子に「おいおい、尾上は野球やらせたらとんでもないバッターなんだぜ」と言っていたのは、今でも昨日のことのように、覚えている。

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