尾上屋台 2017/03/31 03:34

「クズの本懐」

・アニメ公式


恋愛モノってのはそんなに好物じゃないんですけど、その分だけ、機会あれば見るようにはしてるんですよ。
実際、小説の仕事でもそういうのメインにやってましたし、まあ、引き出しは増やしておいた方がいいかなと。
もちろん、仕事以外でも、増やしておくにこしたことはないですよね!

ともあれ、今作もタイトルだけはよく耳にしていたので、アニメ化これ幸いと、見てみることにしました。
基本、今言ったみたいに、恋愛モノに触れる時って、自分の視点を増やすというか、あまり自分が考えないようなことを学ぶみたいな意味合いが強いんですよ。
というのも、恋愛くらいパーソナルな感情、視点ってないじゃないですか。
突き詰めていくと、びっくりするくらい、人によって恋愛観みたいのって、違うんですよね。
単純に男女という区分けじゃなく、それこそ人の数だけ価値観があるって感じで。
ええ、若い時分には男女問わずうんざりするくらい恋愛の相談に乗ってきた自分なもので(笑)、あー、ホント人によって違うなあと、それがひとつの結論でもあるわけです。

という前置きをまたひっくり返すことになりかねないですが(笑)、今作の登場人物の心情ってのは、この手の恋愛モノの作品の中では、かなり理解できるなあって、思っちゃったりしました。
大体恋愛モノで共感できるキャラってのは、一人いればまだいい方くらいに構えてるんですが、この作品ってのは、「あーわかるわかる。わかるわあ」って思わされることが多くて。
それぞれ個性もアクも強いキャラたちなのに、それぞれにちょっとずつ、あーこれは共感できるかもなあって部分があって、その意味で楽しめました。
加えて、今まで聞いてきた他の人の恋愛観なんかも重ねると、ほぼ全ての登場人物の心情がかなりはっきりと理解できて、僕の中では、恋愛モノでは珍しい体験ができたとも言えそうです。

一応主人公は花火ちゃんなんですけど、途中から茜先生に結構食われちゃいましたよね(笑)。
終盤は、どっちが主人公なんだろうって感じで。
でもこれ、きちんと恋愛を描こうと思ったら、ある意味当然の帰結でもありますよね。
学生内で、報われない初恋だけを描く作品なら花火ちゃんだけで押して行けるわけですが、そこから先って話になると、ちゃんと恋愛できるキャラってのは必要になってくるわけで。

あ、この段階で自分的ヒロイン上げとくと、これは茜先生で決まりだなあと。
初めに内面的に空っぽだったみたいのが大きかったと思うんですけど、この人だけが、相手の気持ちというか、存在みたいなものに、ちゃんと気づける人なんですよね。
思い込みの強いキャラの多い今作ですけど、そういうのに自分で絡めとられなかった分、ちゃんとした人に出会えれば、ちゃんと自分を見つめ直すことができるんですよ。
おー、なんというか、この人の心情の移り変わりみたいのはなんともリアルというか、ある意味では王道かもしれないですよね。
ちゃんと幸せになれる要素ってのを初めから持っていて、それを花火や麦と絡めてくってのは、かなり上手い表現だったなあと、あらためて思いますね。
作中美人として描かれてるわけですが、これはリアルで、決して美人でなくてもモテるタイプですよねえ。
基本的に、人のことを拒絶しないですから。
それは恋愛だけでなく、様々なことに言えるわけですけど。
そしてモノローグで語るほどに、内面的に空虚ではなかったですよね。
気づけるだけの素養が充分あったって感じで。
むしろ思い込みが強い方が、内面的に何もなくなっていくことって、しばしば見かけるわけでね。

思い込みの強さって意味では、最可くらい行ければって感じですよね。
あそこまで突き詰めれば、自分の足で歩いていけるわけですよ。
甘えや狡さみたいなものって、結局他人に頼った時に出てくるわけで、それに気づいた後の最可ってのは、もう一人で歩いていけるし、そうであればこそ、いずれちゃんとした相手に出会えるだろうなって予感がありますよね。
精神的に自立できればこそ、そういった人間の存在にも気づけるわけで。
その時にはきっと、いい甘え方や頼り方をできるんだろうなって思います。
その意味では、この子も充分、魅力的な子ではありました。

充分キャラを絞って、単に惚れたハレたの恋愛モノにしなかったところに、この作品の良さがありました。
そしてこの少ない人数で、よくもあんなに毎回派手な展開にしていったなあと思うと、あらためて脱帽です。
誰しもある、歪みのある感情の描写と関係性から始めて、ああいう形に落としていけるってのは、ありそうで中々ない作品だったと思います。
恋愛モノでジェットコースター的展開に持ってくってのは、僕なんかがやろうとしてもかなり難しいと思ってるので、この作品ってのは、とても勉強になりました。
終盤ちょっと影が薄くなったとはいえ、花火ちゃんを主人公に据えたってのも、こうして最後まで見てみると納得ですよね。

多分構成上の上手さを詰めようとすると、もっと終盤の出番も増やした方がいいんでしょうけど、きちんとテーマに沿って描いていこうとすると、やっぱ今作の終盤の部分はきちんと描いた方がいいわけで。
年齢以上に幼かった主人公が、最後には色んなことに気づきますし、それゆえにこそ、周りの人間のことも理解できるように、いつの間にかなっている。
彼女が最後に見せた気遣いを見れば、ああ、この子はもう大丈夫だなって思いました。
失恋ってよりも、気づきによって既に、この子はクズの本懐を遂げてしまってますよね。
最後にストンとそういうとこで落とした辺り、あらためてこの作品は、良いものだったなあと。

今期アニメの中でも、屈指の作品だったと思います。

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