尾上屋台 2017/04/01 05:01

「○女戦記」

・アニメ公式
http://youjo-senki.jp/

架空のヨーロッパを舞台にした戦争モノですね。
航空機の代わりに、魔法で空飛ぶ人たちが戦いますが、概ね世界観は、実際の大戦時と同じって感じで。

一話目は、サイトとかで見たビジュアルとそう大差ないというか、イメージ通り、まあこういった作品なんだと。
で、二話目以降ですね、この作品が面白くなってくのは。

基本的に、戦争ってものが、よく描かれてる作品だと思います。
その残酷さや矛盾、人の欲望なんかを、かなりしっかり描けてる。
何気に、こういった作品では珍しいと思います。
僕も、映画含めてこの手の作品はちくちくと見てきましたが、大義や正義を前面に押し出してくる、要は戦争礼賛的な作品(と言うと言い過ぎなんですが)か、パーソナルな方に焦点を当てた、戦争反対的なものか、どっちかに針振ってるものがほとんどなんですよね。
この作品はそのどちらでもない、要はこういうことをしてしまう人間の愚かさみたいのを、ちゃんと見ている作品だなって思いました。

主人公は、どちらかというとアンチヒーロー的なキャラなんですが、小賢しく立ち回っても常に上の存在がいたり、裏目に出てしまったりと、そういう部分でなんとも憎めないんですよね(笑)。
これがまた、この世界観にすごくよくマッチしてて、すごく善良だったりすると、なんで戦争して人殺しまくってるんだって話ですし、悪い(ないしは欠落を感じるほどに鈍い)人間だと、ただ残虐さを見せるだけの作品になってしまうんですよ。
また敵対する存在として神を持ってきたってのも、この○女のルックスと相まって、すごくいいスパイスになってますよね。
もうちょい大雑把な作品なんじゃないかと思ってたら、細部まで実に緻密に関係性が組み立てられてて、これは久々に、すっごくレベルの高い作品だと思いました。
僕も今戦争モノの小説やってますけど、あ、この角度からの切り口もあるんだなあって。
そちらの方は既に終わりまでの大枠はできてるんで、今から何かを変更することもないのですが、ていうか、これ見る前に始めて良かったなあって(笑)。
技術的なものは別として、書き始める前にこの作品に影響受けてたら、積み上げてたものを大分崩さなくちゃいけなかったと思うので(汗)。
それくらい、しっかりとした作品です。

でも、最終話で描いてたテーマってのは、ほとんど同じかもしれませんね。
正義や大義で始めた戦争ってのは、終わらないんですよ。
どこかで区切りは着きますが、実際の歴史を見ればわかる通り、今なお収まらない戦争や紛争は、ほとんどが第一次大戦の頃からの続きなんですよね。
ヒストリーチャンネルでやってた「ワールド・ウォーズ」でも、第一次と第二次を連続した、大枠でひとつの戦争と捉えていたように、今の時代の争いのほとんどが、この時期に端を発しているといっていいわけで。

変な言い方ですが、封建制の頃の、相手の領土分捕りたいみたいな欲望丸出しの戦争の頃の方が、まだ終わりが見えるんですよ。
そこに稚拙な正当性やら何やらがあるにしてもですね。

近現代の戦争の始まりは、そのまま人類の歴史のターニングポイントといってもよく、それまでの戦争とは違うものになってく過程を、この作品はきちっと捉えていて、それは今までありそうでそんなにない(探したらいくつもあると思うんですが) 、特にこういった漫画/アニメ作品では希有な存在だと思いました。
そうそうそれそれ、その視点だよーって、特に最後は思わされました。
でもこの視点は、はっきりとそう言葉にしたのが最終話だったってだけで、作品の最初から、通底していたものですよね。
他の作品を落とす意図はないのですが、ここが欠けてるから、戦争モノってのは逆に軽くなっちゃう、ないしは、チャンバラの延長にしかなってないんじゃい!って思わされることも多くて。
ただ誰かが死んで悲しさを描くというのは、それ自体重要な描写でありながら、でも大きなテーマとして描くものではないんじゃないかと。
たくさんの人が死んで悲しいなあ、では、戦争モノでやる必要あるんだろうか?って思っちゃうんですよね。

根底にある人類の愚かさ、どうしようもなさを描いているという点で、この「○女戦記」は、傑出した作品だったと、そう思うわけです。

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