ももえもじ 2023/09/08 00:01

シェア彼氏!! 離島で男子は一人だけ

販売ページ
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ396969.html




一 放課後女子会


「ねえ、亜香里。リア」
「男が欲しいという話なら、もう聞き飽きてるわよ?」
「うッ……なんでよ!?」
「アオイ、毎日うるさい。同じこと」
「葵は早く受け入れるべきだわ。男子が戻ってこないという事実をね」
「なんで二人とも、そんなに冷静なん!?」
「いや、もう二年くらい経つもの」
「わ、私は元々、男子は、そんな……」
「なにその達観した風な……ホントは、むっつりスケベの癖に!!」
「はあ……私達に当たらないでよ、本当に」

 葵と呼ばれる女学生が檄を飛ばす。
 口を開けば「男、男!!」と、そればかりである。
 一言で表せば、単なる欲求不満だった。
 舞台となる孤島は、世界的な流行病により、もう二年も閉鎖した状態にある。
 最盛期には十万を超える人々が衣食住を彩っていた本島も、押し寄せる衰退の一途には抗えず、いまでは当時の賑わいなど見る影も無い。ほんの数十年の間に酷く閑散としてしまい、現在は人口が一万人を下回っている。
 その上で渡航が強く制限されている為に、島にヒトが行き来することもなく、この二年は、波風が立たない凪のような毎日が流れていた。

「女子校の人達も、みんな同じ気持ちなのかな?」
「欲求不満?」
「うん。だってオトコが居ないんだよ!? 女子校の学生って、全員常にオトコに飢えてるんかなッ!! アタシ達みたいにさッ!!」
「そんな訳ないでしょう。男子が居ないからと、一々騒いでいるのは貴女くらいだわ。それと、私とリアは取り立てて飢えてないから」
「いや、みんなも言ってるでしょ!! そりゃ最初はオトコが島から居なくなって快適だなってアタシも思ったけど、もう二年だよ。こんな長く伝染病が続くって誰も思ってなかったし、もういい加減に我慢も限界!! カレシにも会えないし!!  ってか、もう居ない訳だし!! みんなも、ストレス溜まってるって!!」
「わ、分かってるから、そんなに怒鳴らないでよ」
「女子校とは違う。此処は」
「そうね。本来の此処は共学だもの。ただ、目の前から急に男子が消えただけ。確かに、そんな例って他にあまり聞かないわよねぇ」

 そして本島には、同年代の異性が全く存在していなかった。
 女学生にストレスを齎す最大の原因である。
 別に死別している訳では無い。ただ、島に居ないというだけだ。
 昭和初期の、本島における男性の労働先は、大多数が海洋産業だった。
 時代を経るに連れて就職も多岐へと渡るようになるも、いまでも本島の男性は伝統という名の許に、若い内に本土で海洋学を強いられている。一年に二回と、島の若い男子を一挙に集めては、巨大船で大移動を行うのだ。

 その年も、通例に違わず本州での研修が進められていた。
 そこからのパンデミックにより、若人が本島と隔離された次第である。厳しい制限によって帰島する道が閉ざされてしまい、路頭に迷った男子は国が運営する臨時学園へと編入されていた。
 古臭い本島だから起こり得る事態であるも、それを中々受け入れられない葵が女の欲望を剥き出しに、幼馴染の亜香里、友人のリーアへと八つ当たりする。

「リーアはともかく、亜香里はなんでそんなに冷静なの?」
「私はともかく、って……」
「だってリーアはオトコとか興味ないでしょ?」
「興味が無い、こともない、けど……よく分かんない」

 伝染病が流行る直前に、オーストリアから滑り込んだリーアが首をかしげる。
オーストリアでの交際は皆無な上に、日本に来てすぐに島の男子が消えた為に、恋愛をよく知らなかった。

「ま、カレシが居た人達には、より辛いわよね」
「辛いってかムカつくんだよ!! 二年も離れていれば、そりゃ別れるのは仕方がないけど、向こうは本土で沢山の相手がいるのに、こっちには対象となる相手が一人も居ないっていうね!!」

 葵は本件で彼氏と断裂しており、それが一層と飢えに拍車を掛けていた。
 これは葵に限った話ではない。島といった閉鎖的な環境下では、都会と比べて男女の交際率が高いと言われており、葵の他にも本件でボーイフレンドを失った女子は多かった。
 また、本土で新たな出会いを模索する男子に対して、隔離された島ではそれも叶わない点が蟠りとなっている。

 実際に、リモートで遠距離恋愛を紡ぐ関係は、パンデミックが長期間に渡ると理解した男子側による一方的な別れ話で幕を閉じていた。
 怒りと欲求が膨らむ葵の気持ちは、亜香里も分からないでは無かった。

「亜香里は冷静よね?」
「そ、そうかしら?」
 的確な指摘だった。
 クールな亜香里も、そのひんがら目に一瞬だけ唾を飲む。
「だって、この学園で亜香里だけオトコの話が出て来ないんだもん」
「…………」

 亜香里が黙る。指で頬を掻きながら、虚空に目を泳がせている。
 それは、明らかに含みのある沈黙だった。

「なにかアタシらに隠してない?」
「さあ、どうかしらね」
「なにそのクソみたいな反応」
「こんな小さな島で……私がなにを隠してると思うの?」
「分かんないから聞いてるんでしょっ!?」
「そうよね。え、っと……」

 亜香里が空を見上げている。珍しく言葉に詰まっているようだ。
 慎重に言葉を選んでいるように見える。
 そんな意外な姿に、葵とリーアが顔を見合わせる。
 暫くが経つも、結局は亜香里から続く言葉が出ずに、放課後の女子会はお開きとなった。
 いつも通り、女子らしい話題で学園からの帰路を彩り、やがて分岐点を辿ると「また明日」と言って別れていく。

 時折り後ろを振り返りながら、ゆっくりと亜香里が歩を進めている。
 二人の姿が完全に見えなくなると、踵を返して通った道を逆戻りし始めた。
 自分の家路とは違う道である。
 辺りを警戒しながら、慌てるようにそそくさと歩く。
 薄暗い林道を通り、私有地を抜けて目的地まで急いでいる。
 小さな島では、殆んどの島民が顔見知りだ。

 こんな様子を誰かに見られたら、すぐに島全体へと噂が広まってしまう。
「やっぱり、いつまでも隠し通せる話では無いわね」
 溜息を吐いて次第には小走りを見せる亜香里。着いた先は、なんてことのない小さな一軒家である。ただ、そこは亜香里の家では無かった。

フォロワー以上限定無料

無料プラン限定特典を受け取ることができます

無料

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索