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シロフミ 2020/08/06 22:43

梨奈の成人式

 ノクターンノベルズ掲載分より。




 薄く曇った窓ガラスの下で、ファンヒーターが蒼い炎を燃やし、小さな音を響かせる。
 リビングに付けっぱなしのテレビのニュース番組には、背広や晴れ着に身を包んだ初々しい新成人たちの姿が映し出される。
 冬休みから続く連休も、残りわずかとなったこの日。
 多くの学生たちが社会人への第一歩を踏みだす国民の祝日に、梨奈もまたオトナへの仲間入りを果たしていた。
「っ、あ、あぁあ……ッ」
 両親が出掛け、無人となった家のリビングのソファの上。
 脱ぎ捨てたパジャマの上下と共に、一糸まとわぬ姿のまま仰向けに横たわった少女は、押し殺した嬌声を上げながら、ふかふかの冬毛を纏うパートナーと絡み合う。大胆に広げられた太腿の付け根、すっかり充血した粘膜の奥で、野太い剛直を迎え入れた柔孔は細かく泡立った淫蜜を溢れさせている。
「ふぁ……ロッキーっ、そ、そこ、こすっちゃ、だめぇ……」
 少女を組み敷くのは、体高75センチを超えようかというアイリッシュ・ウルフハウンド。灰色の毛皮は毛布のように暖かく、背中に回された梨奈の手はその中に沈み込んでいる。
 狩猟のために改良された強靭な足腰を生かすように、ロッキーは赤黒い生殖器を梨奈の幼膣深くに突き込んでは、ぐりぐりとこね回すように前後させる。敏感な場所を探り当てては擦りあげるその深い抽挿に、梨奈は声を上ずらせて何度も身体を仰け反らせた。
「んぁ、ぅ、あ、あっ、あーっ」
 堪え切れなくなった嬌声が、雌の悦びに色付いた甘い音色をもって跳ね上がる。
 初めての経験にも関わらず、既に梨奈の反応はすっかり成熟したオトナのものだ。明日からまた通学鞄を背負って、横断歩道を渡るのだとはとても信じられないほどに、少女はしっかりと逞しいパートナーの身体を受け入れていた。
 きゅ、きゅぅ、と深々と穿たれる肉竿を断続的に締め付けて、愛するパートナーにしっかりと快感を伝える。ほんの数十分前まで、破瓜の痛みと苦しさに悲鳴を上げていた少女と同じ姿とは思えない。
 しかし、まだ産毛もろくに見当たらない脚の付け根の下。ソファーの上に敷かれたタオル地の上には、確かに薄赤く、梨奈の“はじめて”の証が残されていた。
「んぅ、あ、だ、だめ、っ、ロッキーっ、また、またっ、キモチよくなっちゃうっ、ふわって、ふわあってなるぅっ……!!」
 体重をかけて押しこねられる柔孔が、ひときわ大きく粘膜襞をうねらせる。梨奈はまた小さな身体を震わせて、ロッキーの背中に回した腕に力を込めた。ぶるる、と背中が仰け反り、少女の背筋を甘い電流が駆け巡る。
 しっかりと繋がった生殖器の隙間から、こぷりっと蜜と混じり合った先走りが溢れ落ち、ぐちゅぐちゅと泡立ちながら梨奈のお尻の谷間を伝い落ちる。乙女の秘所を深々と刺し貫いて複雑な形に張り出した、赤黒肉の塊は、また一回り大きく膨らんだようだった。
「っ……っは、ふ、はぁーー…っ♪」
 目を細め、すっかり上気した頬をとろんと緩ませて、梨奈はロッキーに顔を寄せた。小柄な体を押し潰さんばかりに迫るパートナーの顔を見上げ、極上の笑顔をのぞかせる。
「ロッキー……」
 その名前を呼ぶだけで、梨奈の胸の中は嬉しさで一杯になってしまう。ロッキーの大きな目と濡れた鼻先を見つめて、梨奈はそのおでこをぐりぐりと、ふかふかの毛皮の首に擦りつけた。
 ロッキーがそれに答えるように、強い吠え声を上げる。それを聞いて、梨奈はまたぎゅうっと、スレンダーな身体を彼の身体に押し付けた。
「私も、ロッキーのことだいすき。だいすきだよ……っ」
 種族の壁が隔てる言葉の差もものともせずに。伸ばした顎の先で唇をそっと交わし。二人は愛の営みを再開する。
「ぁぅ、あ、っあ……ぁんっ……」
 二人の交わりは、ソファの上に仰向けになった梨奈の右の太腿を跨ぐように、ラッキーが後ろ脚を踏ん張って、生殖器を深々と繋ぎ合わせる格好だった。人と犬がもっともお互いの種族を尊重し、身体を重ねるための姿勢を、二人は自然と見つけ出していた。
「あ、あっ、あ。っ、ロッキーの、ま、また、おっきくなってる……っ」
 少女との交合の方法をすっかり知りつくしたロッキーは、たくましい後ろ脚でベッドを踏みしめては何度も何度も執拗に腰を打ちつける。梨奈も脚を割り広げ、少しでも深くロッキーを受け入れられるように、腰を寄せ、足を交互に絡め合う。
 そっと触れ合う胸と胸からお互いの鼓動を感じ、梨奈は切なさにぎゅっとロッキーにしがみ付いていた。
「ぁ、っあ、っあっ!!」
 少女の手指では包みこめないほどの大きさにまで勃起した肉竿は、ロッキーの腰のうねりと共に深々と少女の胎奥深くに打ち込まれる。体重を乗せ、一旦深く落とされた腰は、すぐさまずるんと持ち上げられる。
 サイズの合わない大きな肉槍が、身体の中に埋められたまま前後するたび、丸く広がった梨奈の柔孔はそこに引っかかるように入り口付近の粘膜を捲れさせ、小さな身体、細い腰までが吊りあげられるように持ち上げられてしまう。
「ふあぁああああ!?」
 あらゆる犬種の中でも最大とされる抜群の体格を生かし、ロッキーは力強く徹底的な腰の律動を繰り返していた。強引ながら実に巧みなその扱いに、いまや梨奈の理性はトロトロに蕩かされている。
「んぁ、ぅ、あ……、ロッキー、っ、す、ごい、よぉ、っ……!! んう、あ、あ、ぁ、だ、だめ、また来ちゃう、きちゃうう……っ」
 指などでは絶対に届かない、身体の奥の奥まで。いとも容易く貫き叩きつけられる生殖器が、まるで擂粉木のように少女の細く狭い孔をこね回す。すでに限界近くまで広がって、ロッキーのペニスに占領された少女の秘裂からは、抽挿のたびに泡立ち白く濁った粘液がこぷりこぷりと込み上げてくる。
 交合が始まって30分近く。途切れることのない犬の射精を打ち込まれ続け、すでに少女の膣内には、襞の一枚一枚、粘膜の隅々まで、余すところなくロッキーの遺伝子が擦り込まれているのだ。
「ぁ、んんっあ、ぁ、あ!! あ……っ……!!」
 顎を持ち上げ背中を仰け反らせた梨奈が、途切れ途切れの声を高く跳ねさせる。ピンと伸びた脚が小刻みに震え、ロッキーと繋がったままの小さな孔がきゅうと収縮する。
 可愛いお尻の穴までぷくりと縮こまらせて、少女の肉孔は肉竿からまた、たっぷりと新鮮な特濃ミルクを絞り取る。
「あ……あ、あついの、出てる、ロッキーのっ、いっぱい……っ」
 どぷり、と胎奥深くに放たれる熱い滾りの塊を感じ、梨奈の胸がとくんと強い鼓動を刻む。
 これが赤ちゃんを作るための素になるのだということを、梨奈は知っている。小さな下腹部を膨らませるロッキーのくれた愛のカタチに、知らず梨奈の目元には涙が浮かんだ。
 しかし、犬の射精はこの程度で終わるはずもない。根元を大きく膨らませ、いよいよ本格的な交接の体勢に入ったロッキーは、肉槍から激しくマグマのように白濁液を噴き上げながらも、梨奈の細く曲がりくねった柔孔を執拗に蹂躙していくのだ。
「ふあ…ぅ、あ、あっ、あ!! …ロッキー…、ロッキーの、すごいのっ、ロッキーのおちんちん、おっきくて、硬くてっ、ぐりぐりって、きもちいいトコ、擦って……っ」
 梨奈は夢中になって、自分の感じているキモチ良さを叫んでいた。言葉の通じないロッキーに、少しでも自分の悦びが伝わるように。今日この日、自分を“オトナ”にしてくれたロッキーへ、胸いっぱいの嬉しさを伝えるように。
 気持ちいい、気持ちいいよ、と。梨奈は精一杯の感謝を、訴え続ける。
「んっ……」
 息を荒くしているロッキーの大きな舌に、自分の舌先を触れさせるようにして。梨奈はロッキーに口付けた。
 ぬるりと混じり合う泡立った唾液を構わずに飲みこみ。くちゅくちゅと小さな舌を動かして、ロッキーの舌を吸う。
「んむ……んぅ、ぷぁっ……ロッキー、っ、もっと、もっと、して……」
 深く繋がり合うお互いの敏感な部分を意識しながら、梨奈は自分からも腰を突き上げて、ロッキーに続きをねだる。
 そして、梨奈はそっと手を伸ばし、深々と自分の身体を貫くロッキーのペニスの、その根元をやさしく握り締めた。
「私、もっとがんばるから……ロッキーのこと、キモチよくできるようになるから……」
 愛し合う二人の――否、一人と一匹の間に横たわる、大きな種族の壁。
 梨奈の握りこぶしよりも遥かに大きく膨らんだ、精瘤に梨奈が指を這わせると、ロッキーは初めて息を乱し、わふ、と小さな吠え声を上げる。
 そこをやわらかく、手のひらと指で包むようにして何度もさすりながら。梨奈はそっと甘い声で彼に囁く。
「ね……? ロッキー。もっと、いっぱい……」
 犬のペニスの根元に膨らむ、大きな瘤。ここが人間で言うのならばちょうどペニスの先端に当たる部位だった。ロッキーにとって一番の快感の元となるこの部位を、深く梨奈の身体の奥に繋ぎ合わせることこそ、ロッキーにとっての本当の交わりの姿なのだ。
 しかし、まだ未成熟な梨奈の幼膣では、とてもではないがロッキーのおちんちんの全てを受け入れることはできない。完全な興奮状態にあるロッキーの精瘤は、梨奈の両手でも包み込めないほどのサイズにまで大きく膨らむ。
 梨奈にしてみればほとんど、赤ちゃんを産むのと大差ないサイズなのだ。容易く挿入できるわけがない。
「んぁ、あぅ、あ…っ」
 ましてまだ梨奈は経験も浅く、つい昨日までは穢れを知らない乙女だったのである。ねちねちとロッキーの舌で、鼻先で、徹底的に大事なところを責められ続け、何度も何度もキモチ良くなって、それでようやくロッキーの滾りを受け入れることができたのだった。
 丹念な愛撫と、長い交合でもう十分にほぐれ、秘核を尖らせ蜜を噴き上げるまでに至った秘孔であっても、いまだロッキーのペニスは前半分も入りきっていない。いまだ未成熟な梨奈では、ロッキーと本当の意味で身体を重ねることはできなかった。
「ぅ、あ、ロッキーっ……」
 小柄な身体を精一杯開いて、少しでもロッキーのおちんちんを飲み込もうと躍起になる梨奈を、しかしロッキーは巧みな腰使いで絶頂へと導いてゆく。
 わう、という強い吠え声に、梨奈はまた背中を震わせる。
「っあ、や、ぅ、ロッキーっ、ま、また、また来るっ、きちゃう……っ」
 快感に意識が途切れそうになりながらも、梨奈は懸命にロッキーのペニスの根元をさすり、愛撫をやめない。すこしでもロッキーがキモチよくなれるように。
 てらてらと濡れ光る赤黒い肉の槍が、また深々と少女の細孔をえぐり、たっぷりと濡れぼそる少女の幼い秘所を深く出入りする。
「ロッキーも、ロッキーもっ、いっしょにっ、一緒に……ぃ……」
 きゅう、と精瘤の上に手のひらを添えて。梨奈は身体を波打たせ、下腹部を細かく痙攣させる。それに合わせてびくりとロッキーのペニスが震え、ごぴゅるるるぅ、と白く熱いマグマが噴き上がり、少女の胎内奥、ぷくりと膨らんだ子宮口を打ち据える。
「ひあ、ぅ、あ。あぁあああああ……っ!!!」
 腰を震わせ、がくがくを身体を仰け反らせて。梨奈の喉を嬌声が震わせる。
 いつか、きっといつか。
 今日この日、自分をオトナにしてくれたロッキーを、いつか――本当の意味で迎えてあげられるようになるために。ロッキーのお嫁さんになれますように。
 梨奈は神様にそう願いながら、愛しいロッキーに貫かれ、十四回目の絶頂を迎えるのだった。


 (了)

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シロフミ 2020/08/06 22:42

チョコレート・ブラウン

 ノクターンノベルス掲載分より。
 以前「獣○だいすき2」スレに投下したものです。
 ヒロインの幼さを強調した描写、獣○描写、妊娠描写などがあります。人間の男性は出てきません。


「んくっ……」
 赤と白のカプセルをみっつ、こくりと水と共に飲み込んで。
 それが胃の奥でじわぁ、と溶解してゆくのを感じながら、友梨は空になったコップをサイドボードに下ろす。唇に残る湿り気を指でぬぐい、とく、とく、と下腹に疼く感覚がいよいよ高まってきたのを感じながら、そっとカプセルの余りを忍ばせた紙袋を鞄に戻す。
 これで、準備は整ったのだ。
「……ブラウン。おいで……?」
 貯金をはたいて借り切った高級ホテルの一室。ペットを招いたところで苦情も来ない専用の特別室は、防音も完璧に仕上がっているはずだ。
 友梨は椅子に浅く腰掛けなおし、静かに深呼吸をして息を整えると、隣の部屋で待ちきれないというようにぐるぐる回っていたパートナーを招いた。
「わぉんっ!!」
 すでに股間に赤黒い肉槍をはみ出させ、興奮していたブラウンは、お許しが出るや否や、飛び掛らんばかりの勢いでまっすぐに友梨に走り寄ってきた。
 大きな身体を仔犬のように跳ねさせて、ビターチョコレート色の尻尾を千切れそうなくらいに激しく振りたてて、鼻息も荒く友梨に顔を擦り付けてくる。
「んぅ……♪」
 ぬるぬると大きな舌で顔じゅうを舐め回され、友梨はくすぐったさに身体をよじる。ブラウンの荒い吐息はまるで焼けるように熱く、その熱量が伝播したように、友梨の胸も高鳴るのだった。
「わぉんっ!!」
 一声吠え、ブラウンはぐいと友梨の身体の上に乗り上げた。器用に後ろ脚で立ち上がり、すっかり手馴れた様子で前脚を友梨の肩にかけて、股間に猛る生殖器をぐりぐりと友梨の下腹部に押し付けてくる。
 友梨との長い生活で、どんな体勢ならパートナーと交われるのかをキチンと理解し、自分を受け容れてくれる友梨の身体がどんな具合になっているのかをすっかり熟知しているのだった。
「んぅ、ブラウン、もう我慢、できないんだ……わたしとおんなじだね」
 荒い息を上げながら早々と腰を揺すりはじめる愛犬を、友梨はそっと腕の中に招きいれた。制服のブラウス越しに硬く張り詰めたペニスを押し付けられ、熱い感触に友梨の下腹がきゅん、と疼く。
 気の早いブラウンは、下半身を擦り付ける腰使いで、巧みに友梨のスカートを捲り上げてゆく。
「ぁんっ……」
 露になった白い下着の上からぬめるペニスの粘膜を押し付けられると、下着の奥からもぢゅくぅ、と淫蜜が滲み出した。薄い布地一枚を隔てて、猛るペニスととろとろに解れた女性器が触れ合い、ぬめる粘液を混じり合わせる。
「あはっ……もぅ、ブラウンってばぁ……っ♪」
 友梨はたまらずぐいぐいと腰を押し付けてくるブラウンの首に腕を回し、ぎゅうっと胸元に引き寄せた。愛しい相手の身体を抱き締める興奮に高鳴る胸を感じながら、半分ほど捲れたスカートをおヘソの上まで大きく引き上げて、身体を前に突き出す。
「ブラウン……っ♪」
 甘くねだる声とともに、友梨は腰掛ける位置を椅子の縁ギリギリまで前に出し、善方へ突き出された股間を覆う下着の股布をずらした。
 ベッドの上へ、という思考も無いではなかったが、友梨の身体はこのまま、一刻も早くここでブラウンと繋がることを欲している。
 股間を覆う邪魔な布地が取り払われると、脚の奥の内側までもが無防備に晒し出され、少女の秘裂は瑞々しい果物のようにぱくりと口を開ける。
 まだ年端も行かない少女の身体の中心で、しかしその秘密の花園は熟しきった果実のように蜜を滲ませ、美しい花弁をほころばせていた。
 期待と興奮によって、触れずともくちくちと練りこまれて音を立てる柔孔の肉襞は、既に十分すぎるほどに蕩け、愛しいパートナーの半身を待ちわびている。
「ね、ブラウンも、わかるよね?」
 掠れた声で求めながら、友梨は焼けるように熱く脈動するブラウンのペニスを掴み、猛る獣性を開いた脚の奥へと導いてゆく。
「今日は、だいじょうぶだから……おクスリ、ちゃんと飲んだから……ね?」
「ぁおんっ!!」
 パートナーのサポートによって、ブラウンもすぐに蕩け滴る友梨の入り口を探り当てた。火傷しそうに熱い尖った先端が、ぐりぐりと友梨のほころびを突付き、浅く入り口をちゅくちゅくとかき回すと、待ちきれないようにすぐに胎内へと沈み込んでゆく。
「ふああっ、ブラウンっ……」
 体重をかけてブラウンが腰を擦り付ける動きにあわせ、友梨は腰の位置を微調整して応じた。尖った肉槍は白い腹部に埋まるように、ず、ず、と前後を繰り返し、ぬめる肉孔にめりこんでゆく。
「ぁ、あっ、入ってる、ブラウンのおちんちん、来てるよぉ……っ」
 野太い肉の塊が、少女の脚を大きく割り開いて、白い身体を深く刺し貫く。圧倒的な存在感で身体の奥底へとはまり込んでくる灼熱の塊をヘソ裏に強く感じながら、友梨はブラウンの首に回した腕に力を込めた。
「うぅゥ…ぅぁおんっ!!」
 長く太い肉杭を残らず友梨の中に埋め込むと、ブラウンは腹を密着させるように友梨を椅子の上へと押し付け、力強く腰を振り始めた。
 茶色い身体を支える後ろ脚がたくましく床を踏み鳴らし、友梨の身体を大きく下から突き上げる。
 ずんっ、ずんっと打ち上げられる肉杭が甘い音を立て続けに響かせながぱちゅんぱちゅんと少女の股間へ打ち付けられ、獣性に溢れた激しい動きに椅子が軋み、浮いた四脚が床を滑る。
 こね回され突き上げられるブラウンの腰使いに前後左右に不安定に揺される椅子の上で、友梨は我を忘れて愛犬との交わりに夢中になっていった。
「ぁ、あっあっ、あっ、ブラウン、そんなにおちんちんおっきくしちゃだめぇ……お、奥、つっつかないでぇ……っ♪」
 すでに子宮の口を叩く肉槍の先端からは、びゅるびゅると激しい射精液が迸り始めている。胎奥に浴びせかけられるねっとりとした感触とその熱量を感じ、友梨の唇はだらしなく緩み、朱に染まった頬の上で鼻先がふわふわと震える。
 一突きごとに子宮の入り口をノックする、複雑な形状をしたブラウンのペニスが、友梨を宙高くまで押し上げ、そのたびに貪欲に快楽を求める少女の生殖器はきゅん、きゅんと身体の芯まで反応する。
「だめ、ぇ、ブラウン、っ、そんなにしたら、気持ちよすぎて、ぁ、あかちゃん、できちゃうぅ……っ!! し、子宮がよろこんじゃってぇ、に、妊娠しちゃうよぉっ……♪」
 激しく柔孔を突き上げる愛犬に応えようと、『おクスリ』の効果を得て熱っぽく熟した友梨の身体の奥で、卵巣までもがぷちり、と成熟した卵子をつぎつぎ吐きだしていた。
 人間の雄とは比べ物にならない規模と威力で始まった射精は、どれほど激しく濃厚な熱汁を子宮口へ吹き付けてなおまったく衰えることなく、あっという間に少女の狭い膣奥を満たし、孔奥へと流れ込んでくる。
 愛犬の遺伝子がそこに迫っているのを感じ取り、友梨はさらに声をあげてブラウンにしがみついた。
「ぁ、あっ、来てる、きてるぅ、どくどくってされてるよぉ……、ブラウンのに、いっぱいに、おなかのなかいっぱいにされてるぅ……!! んぅ、あ、あっ、ぅ、あ!!」
 組み敷いているパートナーが今まさに受精可能な状態であることを悟り、ブラウンの荒い息はさらに激しいものとなっていた。律動のタイミングを早めながら、さらに腰を前に押し付けて、友梨の子宮を直接刺激しようとする。
 叶うことなら、友梨の成熟卵子のひしめく卵巣に直接精液をぶっ掛けてしまおうとせんばかりだ。
 軋む椅子が跳ね上がるように床を擦り、壁際にまで押し付けられた。少女の肢体をその上に押し付けて、ブラウンはずんずんと容赦なく友梨の胎内をえぐる。熱をもった神秘のゆりかごと、尖った肉槍の先端が熱烈にキスを交わし、桃色の閃光が友梨の頭を埋め尽くしてゆく。
「っは、あぁ、あ、ブラウンの、ブラウンのおちんちん、いっぱい、いっぱい、おくのとこ、ごつごつって、してるぅ……んむ、ちゅ、んぅ……っ♪」
「わふ、わぉ、わぉお!!」
「っ、ぷあ、ブラウン、ブラウンんんっ♪ ……おなか、びゅくびゅくってぇ、あぁっ、し、しきゅう、いっぱいにぃ……ブラウンのあついので、いっぱいになってるよぉ……♪」
 牙の隙間から伸ばされる舌を唇に挟み、絡め合いながら、友梨は自分からも腰を跳ねあげるようにして動いていた。
 興奮と共にブラウンの生殖器の根元は、その太さからも規格外なほどに充血し膨らみ始めており、深く腰を打ちつけ合うと、その感触がぐりぐりと雌芯を刺激するのだ。
 友梨もまた、ブラウンがいちばん『そこ』で感じることを知っており、敏感極まりない部分のぬめる粘膜同士の接触は、番うふたりの頭を白く染め上げてゆく。
「っぁあ、ぁああ、ブラウンっ、んむぅ、っれるぅ、っは、ひ、きもちいいとこ、いっぱい擦れて……すごいよぉ、すっごくきもちぃい……っ!!」
 友梨はたまらず、開いていた脚をブラウンの腰に絡めた。自然、力を込めてぐりぐりと両者の腰は押し付けあわされる格好になる。
 激しい律動で身体が離れそうになるのを嫌がっての無意識の行為だったが、それでもなお猛るブラウンは腰振りを止めることはなく、生殖器は交合したまま激しく密着しぐりぐりとねじり合わされた。
「っ、あ、あ、あっあ♪ ぁああッ♪ ぁあぁあーっ♪」
 語尾に甘いハートマークを乱舞させるとろけた声で、友梨は自身の拳大にまで拡張された、ペニス根元の精瘤をゆっくりと胎内に飲み込んでゆく。本来の少女の身体にはありえない機能すら、これもすべて、愛しい相手の全てを身体に受け入れたいという献身のなせる業だった。
 鍵と鍵穴がぴったりはまりこむように、友梨とブラウンの身体が結合する。
 いよいよ交尾の本番が始まった。ブラウンと友梨、一人と一匹は、種族を超え遺伝子の壁を打ち壊し、互いに愛しいパートナーを求め合う。
 なおもそのままぐりぐりと身体を震わせ、身体の奥で何重にも交わりあった生殖器が悦楽を謳い上げてゆく。
 何度も激しい射精でどろどろと凝った白濁液を注ぎ込み、友梨の身体を染め上げて行くブラウンに、友梨は何度も何度も声を上げ、四肢を突っ張らせて絶頂へと至る。
「あぁ、あぁあぁああぁ、ぁああぁあ……ッ♪♪」
 そうして長い長い交わりの果て、友梨の歓喜の悲鳴が十を数えた頃だろうか、やがてブラウンは静かに動きをとめた。
「ぁ、っ、っは、はぁ、はぁーっ、はぁっ……ふぅっ……」
 訪れたわずかな休息の中、まるで身体の中の一番敏感な部分を、そのまま愛犬の肉杭にずどんとくりぬかれてしまったような感覚に、友梨はうっとりと眼を細める。直接ふたりの神経が結びつきあい、ブラウンの全てが手に取るように感じられる。
 全身に浮かぶ球のような汗が、鎖骨から桜色に先端を尖らせた胸のささやかな谷間を伝い、腰へと流れ落ちてゆく。
 大きく開いたブラウンの口からも、真っ赤な舌が突き出されたまま、湯気のように焼けそうな呼吸が繰り返されていた。
「はぁ……っ♪」
 わずかな身じろぎでも、ぞくぞくっ、と深い満足感が身体の芯を深く痺れさせる。弾ける電流のような過激で強烈な快感はいったんおさまり、その余韻が波のうねりのように寄せては返しながら胎内を満たしていた。
 途方も無いほどに溢れる幸せが、少女の胸を高鳴らせてゆく。
 こうしている間も、ちりちりと触れあう身体の一番奥では、がっちりと子宮入り口にはまり込んだブラウンのペニスが、今も間断なく射精を続けているのだ。
「ブラウン、いっぱい出てるよぉ……わたしのおなかのなか、ブラウンのおちんちんのカタチにされちゃってる……っ♪」
 間違いなく、今の自分達は世界でいちばん相性のいい、最高のパートナーだと断言できるだろう。友梨はまだ息の荒いブラウンに頬ずりし、頭をぎゅうっと撫でた。
「わぅ……わぉんっ!!」
 しかし、ブラウンはそのまま力の入らなくなった友梨の腕を振り払うと、肩に掛けていた前脚を跳ねさせて椅子の上から降り、ぐるんと身体を反転させて友梨に背を向ける。
(あ……っ)
 これが犬としての正しい交尾の方法なのだと頭ではわかっていても、これまで肌を寄せあっていた愛しい相手の身体が、自分から離れることに、友梨は大きな欠乏を抱えるような錯覚を覚えてしまう。
「わぅっ」
「あ、ぁ、やだっ待ってよぉ!! 、ま、まだ……んゥっ……!?」
 振り立てられるビターチョコレートの尻尾はまるで猫じゃらしのよう。友梨はたまらずブラウンの腰を掴み、椅子の上、開いた脚の間に押し付けるように引き寄せた。
 まるで――雄雌が逆転したかのように、ブラウンの身体に友梨がのしかかっているような格好だ。
「ぁ、あっあ、あっ、あッ!?」
 しかし場を支配しているのは上に乗った友梨ではない。身体こそ離したものの、いまだ彼女の胎内奥深くにまで、雄の生殖器はがっちりと嵌まり込んでいるのだ。
 ブラウンが正反対に身体を向けてもなお、力強くみなぎる雄の滾りは全く衰えることなく、友梨はブラウンに全身を深く貫かれていた。
 ブラウンがわずかに動くたび、ペニスの先端は直接友梨の子宮口を突き上げる。同時に足踏みを繰り返すブラウンは、一時射精液によって十分にほぐれた友梨の胎内へ遠慮なく本当の射精を開始した。
 パートナーが体勢を変えたことでねじられた生殖器は、少女の孔をよじるように180度回転し、絡みつく柔襞をすり潰すようにらせんを描く。ごりっ、ごりっ、と充血し膨らんだ軟骨が膣内で暴れ回り、友梨は瞬く間に絶頂へ突き上げられた。
 その間にもひっきりなしに射精を続けるブラウンによって、小さな胎内は子宮どころかその奥までも、身体が内側から精液漬けにされていく。ぬめる肉襞が獣の射精に侵食され、歓喜をあげてうち震える。
「っぁぁああぅ、あは、ひぅっ……ぁああああ!!?」
 ブラウンがむずがるように制止の手を振り切って前に進もうとするたび、友梨の拳にも匹敵する、圧倒的で巨大な精瘤が、入り口に引っかかりごりごりと捻られる。
 クリトリスを裏側から押し潰され、膀胱や腸の蠕動すら圧迫する――人間との性交渉では味わうことができない、禁断の快楽。獣との交尾がもたらす甘美な快感に、少女の理性は弾け飛んだ。
 その間にも、友梨の胎奥には激しく白濁液が注がれ続けている。捲れあがった制服の下では、白い肌を覗かせる腹部がぷくりと盛り上がり、子宮や卵管まで侵食する旺盛な生命の源を飲み込んでいた。
「あは、ぁあぅ、あああぁうっ、あ、いっぱい、いっぱい出てる……ぅ、ブラウンのせーえき、いっぱい、いっぱいぃ……!! も、もう受精してるのにぃ、そ、そんなにいっぱい犯されたら、赤ちゃんいるとこなくなっちゃうよぅ……!!」
 堪えきれない欲情は唾液になって半開きの唇からこぼれ、じわ、と目元から涙になって溢れだす。感情や知性を置き去りに、本能だけで交わる雌の表情。あどけない少女からは想像もできないほどの淫靡な姿であった。
 もっと、もっとと禁断の快楽を貪る少女は、無意識にブラウンの身体を繋ぎ止めようとその腰を掴み、脚の間に引き寄せようとする。
 動物と繋がり、犯され、その射精を歓喜と共に受け止める――
 いけないことだと理解しているからこそ、それを破る瞬間の快感は凄まじいことになるのを、友梨は知っていた。
「ぁ、あぁ、だめ、待って、ブラウンんん、そ、そんな何回も、っ♪ だめぇ、っ♪ま、また、また受精しちゃう、また赤ちゃんできちゃうぅうっ!!」
「あぉぉおおんん!!」
「っうく、ひぅぁぁぁあぁああ!?」
 むずがるブラウンが尻尾を振って暴れるたび、少女の胎内を剛直がえぐる。それを押さえつけようとする友梨の腕の下で、なおもぱんぱんに膨らんだ精袋はどくどくと収縮し粘つく白濁液をポンプのように注ぎ込んでくる。
 着床したはずの受精卵をも飲み込まんとする獣欲に、友梨はなんども背筋を仰け反らせた。
 獣の交尾の方法で少女の胎内に溢れんばかりの白濁液を満たし、ブラウンは完全に友梨を己のものにしようとしていた。
 出口を密閉された狭い膣内を満たし、子宮内膜まで流れ込む奔放な生命の素が、どくどくと脈打ちながら神秘の揺り篭を蹂躙してゆく。粘性の塊に膣内を直接舐めしゃぶられているかのようだ。
「あは、っ、あっ、ブラウン、だいすき、ぶらうん大好きぃ!! ずっと、ずうっとこのまま……ぁ、赤ちゃん、ブラウンのあかちゃん、たくさん、たくさん妊娠したいぃ……ぜんぶ、もっと、もっといっぱい、ちょうだぃいっ……♪」
 子宮口を貫いて受精に即決する射精の感覚を全身で味わいながら、友梨はなんども絶頂に上りつめる。獣の愛し方に応えて排卵を続ける卵子が、ありったけの方法でブラウンを迎え、受け止めようとする。
 最愛の相手の子を孕む、雌の悦び、母の歓び。同時に幾重にも重なる途方もない恍惚が少女を飲み込んでゆくのだった。





 それから――どれほど経っただろうか。

 少女の子宮はすっかり熟したように腫れ上がり、二十四時間休むことなく熱を持っていた。
 とく、とく、と絶えることなくかすかな脈動を続ける下腹部、その奥の生命の揺り篭のなかに、確かにはっきりと、友梨は生命の鼓動を感じ取ることができた。
「あは……動いたっ♪」
 いつものカプセルを飲み込んだ後味を喉の奥に感じながら、友梨はいとおしそうに膨らみ始めた下腹部を撫でる。
 小さな、まだ膨らみも定かではない少女の胎内で、ぬめる粘液と卵胞に包まれて眠る、茶色い毛皮の子犬の姿を思い描く。
「ふふ、ブラウンも、もうすぐお父さんだよ?」
 ふかふかのベッドのシーツの上、隣ですうすうと眠るチョコレートブラウンの体躯をそっと抱き締め、少女は慈母の表情で目を細めた。
 もうすぐママになる、という自覚は、まだまだあどけない少女の仕草には似合わない、どこかインモラルな色香と雰囲気を漂わせてもいた。
「元気に、産まれてきてね……」
 まだまだ、指の先ほどにも満たないうちから夜毎元気に動く赤ちゃんの胎動を感じ取り、友梨は静かに目を閉じた。
 愛しいパートナーとともに暮らすこの至福の日々に、やがて新しい生命が加わる日を夢見て。


 (了)
 

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シロフミ 2020/08/05 22:38

旅する少女と異貌の民・その3

 ◆12◆

 これまでボク達の妊娠に構わず自分達の欲望を優先させ続けていた沙族達も、流石にメルが産気づいているのを知ると、メルを襲うのは諦めたらしかった。あるいは、この事態に至るまで、こいつらはボク達が自分達の子供を孕んでいることに気付いていなかったのかも知れなかった。
 考えてみれば、いくら人間のメスを攫う習性があるとはいえ、タマゴで産まれる沙族達が、人間のメスを犯した時にどうなるのかまで詳しく知っているとも限らない。孕んだ子供におなかを膨らませていようと、おっぱいを張り詰めさせてミルクを噴き出させていようと、赤ちゃんが動きまわるのに喘いでいようと、こいつらにはそもそもボク達の妊娠という身体の仕組みすら分かっていなかったのかもしれない。
 ともあれ、その日やつらはメルの異状を悟り、彼女を○すのは諦めた。
 その分、ボクはひとりで、いつもの倍の数の雄を相手にしなければならなかった。両脚を抱え上げられて揺さぶられたり、仰向けにされた上に思い切り圧し掛かられたり、赤ちゃんを宿した大きなおなかを揺すられるのはただでさえ辛いのに、次々順番を争って群がる沙族を全員満足させるのは、至難の業だった。
 彼らはメルを気遣うでもなく、といって無碍に扱うでもなく、ただ放っていた。
 もしかしたら自分達のメスとは違って、こういう形で赤ちゃんを産むボク達の様子に戸惑っていたのかもしれない。その証拠に、沙族達は産気づいて苦しむメルの傍には近づこうとせず、時折興味深くその様子を覗き込もうとするだけだったからだ。
 メルがどうなっているのか、唯一理解しているはずのボクは、ひときわ身体の大きい沙族に、足をつかまれて部屋の隅まで引きずられて、抱え上げられながら、メルが沙族の赤ちゃんを産み落とすその一部始終を、見せ付けられることになった。


 数十人の沙族を一人で相手にし、そいつらの精液をおなかの中に注ぎ込まれる羽目になったボクも決して楽だった訳ではないけれど、メルの比ではない。
 たった一人、洞窟に放り出されたメルは、何一つ経験のないまま、はじめてお母さんになるという大仕事を、自分の力だけで成し遂げなければならなくなったのだ。
 小さな身体に汗をびっしょりとかいて、悲鳴を上げながら、メルは必死に肩を上下させ荒い息を繰り返し、おなかを抱えて身体を震わせていた。断続的に押し寄せる陣痛に悲鳴を上げ、自分の意志とは無関係に収縮しようとする子宮がおなかの中を締め付ける苦しさに暴れる。大きく膨らんだメルのおなかは、時間の経過とともにどんどんと脚の付け根の方へ下りてゆき、その中にいる赤ちゃんが激しく暴れ動く。
「っつ、は、ぐぅ、うぅぁああうぅ~~ッッ……!!」
 舌を噛みそうになるのをこらえ、ぼろきれを握り締めて懸命に息継ぎをし、力をこめていきむメルにあわせて、メルの脚の付け根で、肉色の部分がびくびくと引きつり、内側に折り畳まれていた部分がせり出してくる。
「ぅぐ、っ、あ。ぁ、あぁあうぁあああああ!!!?」
 メルが呻きだして数時間が過ぎたころ。大きく左右に拡げられた足の間から、ばしゃりと大量の生ぬるい水が噴き出した。破水……たぶん、普通の赤ちゃんならそう呼ばれる状況。メルのおなかの中で、陣痛と共に腹圧が強まり、ついに粘液の中に赤ちゃんを包んでいた卵胞が破れたのだ。膜の内側を満たしていたぬるぬるの羊液が噴水みたいに溢れだして、メルのお尻の下に大きな水溜りを作る。
 5ヶ月ちかくの間、おなかの中の赤ちゃんを育み続けてきたゆりかごが、その機能を放棄したのだ。これでもう、メルの陣痛が奇跡的に収まって、赤ちゃんが暴れるのを止め、おとなしく子宮の中にとどまる可能性はなくなった。
 これ以上赤ちゃんはメルのおなかの中には居られない。まだ子供のはずのメルはここで、最後まで、赤ちゃんを産み落とし――出産を終えなければならなくなった。
 断続的に破水が続き、びちゃびちゃとぬめる羊粘液が苔のベッドを濡らす。これまで見た事もないくらい大きく、メルの女の子が引き伸ばされてゆく。どんなに大きな沙族のペニスに犯され、柔襞粘膜を裏返らせていた時よりも、大きく、激しく、奥の奥から。
 顔を仰け反らせ、白い喉を震わせて叫ぶメルのあそこが、ぐうっと大きく引き伸ばされ、生々しくひだひだの奥から、赤く充血した丸い部分が顔を見せた。降りてきた子宮が、その口を覗かせたのだ。
 あの中に、メルの赤ちゃんがいる。
「はぐぅうう……っ、あ、ぅ、ぅうぅううあううううっ……!!」
 陣痛に呻きながら、メルが低い声を上げて唸る。ありったけの力を込めて、おなかに力を入れていきむ。
 けれど、そうやってメルが何度も何度も、懸命にいきんでも。子宮の口はまだほとんど開いてはいなかった。赤ちゃんが通り抜けるどころか、指が一本通るかどうかも怪しいほど。
 メルの小さな身体には、赤ちゃんが大きすぎるのだ。激しい陣痛に喘いでなお、初産のメルの身体は、まだまるっきり、赤ちゃんを産むための準備を終えていない。
 十分に子宮の口が開かなければ、この状況でいくらいきんでも無駄だ。ただ、無駄に体力を減らしてしまうだけ。そのことが、初めての出産であるメルにはまだわからない。
「ッは、はーッ、はぁ……ッ」
 荒く息を繰り返し、ぎゅぅッとぼろ布を握りしめて、メルは可愛らしい喉が枯れるくらいに何度も叫ぶ。
「っ、で、出てきてよぉ……ッ、おねがい、はやく、早く出てきて……ッ!!」
 長い長い陣痛と、収まることのない胎動。ずる、ずるとお腹の中を動き回りながら、一向に顔をのぞかせることすらしないおなかの中の赤ちゃん。メルは懸命に痛みをこらえ、おなかの中に呼びかける。
「ねぇ……もう大丈夫だから、ちゃ、ちゃんと、産んであげるから……っ、おねがい、は、はやく、産まれてきて……ッ!!」
 赤ちゃんを産む、というのは、出産というのは、単純に母親だけの仕事じゃない。
 長い陣痛は、子宮を下降させて産道を緩ませ、大きな赤ちゃんが産まれてくるのを助けるものだし、いきむことで収縮を促し、赤ちゃんを押し出してやるのは、もちろん母親の仕事だけど。
 赤ちゃんのほうだって産まれる準備が整っていなければ、身体の外にまで出てくることはない。それどころか、赤ちゃんは無理矢理自分を産もうとする幼いママに抗うかのように、メルのおなかの中に留まろうとするように、メルのおなかの中にもがく様に手足を突っ張って抗おうとする。
 もうどうしようもないくらいに産気づいて、破水までしてしまったメルは、初産の困惑の中にありながらも、必死にママになろうと頑張り続ける。けれどそんなメルと、そのおなかの赤ちゃんは、滑稽なくらいにその意思が繋がっていなかった。
「ぅ、あ、やッ、……やだ、もうやだぁ、早く、出てきてよぉ……ッ!!」
 メルのおなかの膨らみは、数日前に比べてはっきり分かるくらい、身体の下のほうへと降りてきていた。
 これまではみぞおちからおヘソのあたりにかけて、緩やかに柔らかく盛り上がっていたのが、いまや脚の付け根、恥骨のすぐ上あたりまで膨らみが下降し、張り詰めたおなかははちきれんばかりに膨らんでいる。本当に、今にも裂けてしまいそうなほど。
 大きく育ちすぎた赤ちゃんは、もう、幼いママの小さな身体の中には納まっていられないのだ。けれど、そうやっていつ産まれてもおかしくない状況になっていながらも、赤ちゃんはなおも激しくメルのおなかの中をずる、ずる、と這い回り続けている。
「おねがい……っ、暴れないで、っ、お願いだからぁ!!」
 出産のために圧迫されて狭くなる子宮に文句をつけるように、メルのおなかの中で赤ちゃんはメルに抗い続けていた。その激しさと言ったら、はっきりメルのおなかが形を変えるのが分かるくらい。
 赤ちゃんが不機嫌に身体を動かし、メルのおなかを蹴とばすたび、まるく膨らんだメルの大きなおなかが、不格好に歪む。柔らかな子宮の壁をえぐられる衝撃に、メルはすでに息付く余裕すらない。
 陣痛と子宮の収縮で赤ちゃんを産み落とそうとする身体。まるっきり産まれる準備のできていない産道、産まれまいとする赤ちゃん。メルの身体がバラバラになってしまうのじゃないかと思うほど、激しく跳ね上がった。
「はぐ、ぅぅうううううううっ……」
 赤ちゃんが暴れまわるたび、メルは唇から泡をこぼして悲鳴を上げる。いったいどれほどの苦痛が、衝撃が、メルを襲っているんだろう。
 めりめりと骨を軋ませ、肉を裂く――このまま陣痛が続けば、いつそうなってもおかしくないかもしれない。想像するのも嫌になる恐怖が、ボクを怖気させる。
 それでもメルは諦めなかった。
 必死に、一生懸命に、おなかの中の赤ちゃんに呼び掛け、たったひとりで、ちゃんと赤ちゃんを産んであげるために――叫んでいた。命の危機すらありえる初めての、ママとしての大仕事から逃げ出すことなく、全身の力を振り絞り、歯を食いしばって、頑張るのをやめなかった。
「おねがい……私の、あかちゃんなんだから……おねだい、ママの、言うこと……聞いて……ちゃんど、産んで、あげるから……!!」
 メルはただただ、赤ちゃんを産み落とそうと必死に脚の間に力を込める。痛ましいくらいに充血し、とろとろと粘液を溢れさせたメルの大事なところが、くぱ、くぱっ、と押し広げられてはうごめく。
 徐々に。わずかずつ。
 ほんの少しずつ、少しずつ。じれったくなるほどの時間をかけて、メルの子宮の口が拡がってゆく。
 大きく開かれたメルの脚の間には、身体の内側、おなかの一番奥から、大きな塊がせり上がってきているのははっきりしていた。まる半日以上かけて、メルのそこは親指とひとさし指で輪を作ったくらいの大きさまで口を開けるようになっていた。
「はーッ、はぁー、っ、はぁーーっっ、っふ、ひ、っ、ふうっ……」
 けれどまだ、全然足りていない。
 メルのおなかの中の赤ちゃんが通り抜けるには、それくらいの隙間では、あまりにも小さかった。
 ただでさえ小柄なメルの、おまけに初産だ。それも仕方のないことかもしれない。確かに、女の子としてはあんなにも大きな沙族のペニスでも受け入れるようになっていたメルだけど、赤ちゃんを産むことと比べてしまえばまるで桁が違う。
 まして、メルの産もうとしている赤ちゃんは、普通とはまるで違う。
「んんぅ、っ、ぅぅぅぁあぁあ……ッッ」
 メルが涙を振り絞って脚を掴み、ぐうっと身体を弓のようにのけぞらせて懸命にいきむと、ぱくりと広がったぐうっとそこが反り返り、押し広げられた出口から、ぬるぬるとした羊膜につつまれた肉の塊が覗く。
 それは、明らかに人の肌の色をしていなかった。
「はやく……はやく、でてきてよぉ……!!」
 かすれた声で、メルは、懇願するように叫び続けた。





 ◆13◆

 けれど――それでも、現実は過酷だった。悲壮な決意でママになろうとするメルを嘲笑うみたいに、初産の苦しみはメルを完膚なきまでに打ちのめした。
 実に半日。メルは、産まれてこない赤ちゃんに苦しめられたのだ。
「は……っ、は……っ、ひぅ……っ」
 長時間の陣痛といきみの繰り返しに、すっかり疲れ切ってしまったメルは、もう何もかもを失ったように、ぜいぜいと息を繰り返すばかり。おなかに力を込める余力すらとっくに尽き果て、顔も涙と鼻水でびちゃびちゃだ。
 哀れなほどに涙の痕が幾筋も頬を伝い、ぼさぼさになった髪が地面を擦る。
 何もかも初めてのメルと、未知の種族である沙族の赤ちゃん。
 きっと、本当なら誰かがつきっきりで励ましてやらなきゃならないはずだった。初産のメルはそれだけだって、産婆さんが必要なはずなのに。明らかに大きく育ちすぎた沙族の赤ちゃんは、メルがひとりきりで産むにはあまりにも困難だ。
 こんなふうに難産になるのは、きっと明らかだった。
「っ、嫌っ、もう嫌……なんで、なんで産まれてこないのっ!? ぁうぁあっ、ポーレ、ポーレぇ!!」
 心が挫けてしまったのか。メルは何度も何度もボクの名前を呼んだ。
 苦しい時、辛い時。
 ここで沙族に囚われる前の、旅の中でも。ボクたちはお互いに助け合い、お互いに手を取り合って、困難に立ち向かってきた。それはこの洞窟に閉じ込められてからも、変わらなかった。変わらなかったはずだ。
 けれど。
 ……ボクは、同じように大きなおなかを抱えたまま、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの沙族たちにかわるがわる犯され続けて、それどころじゃ、なかった。
 ボクの胸で、口で。ずらりと並ぶペニスをかわるがわる擦り、扱いて射精させている間にも、ボクの腰を掴んで抱えあげた大きな沙族が、太いペニスでボクの奥の深いところをごつごつ突き上げる。子宮口に押し当るその先端が射精を繰り返すたび、おなかの中の赤ちゃんは羊水を汚されるのを怒って不機嫌に身をゆする。
 メルの分まで、倍以上の数で群がる沙族たちの凌○を。ボクはやはり、ひとりきりで受け止めていなければならなかった。

 ――いや。
 この時ボクは、心のどこかで、あさましくも、安堵していなかっただろうか。
 今この時だけは、この、数多く群れる沙族、この場の全てのオスを、ボクが独り占めできることに――
 この場にいる沙族のオスたちが、メルじゃなく、ボクだけを見てくれていることに。

「ぁあああ、っぅ、あ、んぅ、んんぅぅううううっっ……!!」
 あれからいったい何時間が過ぎただろう。ボクの顔は沙族達の射精を何度も受け止め白くどろどろに濁り、べたべたと粘ついた白い濁液にまみれている。
 一向に産まれてくる様子のない赤ちゃんに、もう自暴自棄になって、メルが何度目かの絶叫をあげる。
 どんどん狭くなる子宮の中、不快もあらわに暴れもがく赤ちゃんを、足の付け根にせり出したおなかの膨らみを、陣痛の苦しさに耐えかねて、メルがぎゅっと押さえつけた時だ。
「んぅあッッ!?」
 突然メルの様子に変化が起きた。ばちゃりっ、と粘液を大きく飛び散らせて、メルの脚の付け根の間から、異形の赤ちゃんが顔を出したのだ。
 碧の鱗を生やした口先は、鳥の嘴か、蛇の鼻先に似ていた。赤く充血したメルの子宮口をくぐり抜けるように、赤ちゃんが大きく暴れ出す。
 いったいどういう心変わりだろう。なんの前触れすらなく、これまでかたくなにメルのおなかの中に留まろうとしていた赤ちゃんは、とつぜんまるで蜥蜴のように突き出した口先を暴れさせるように激しく波打たせ、無理やりに狭い、子宮の出口を潜り抜けようとしはじめたのだ。
「ぁ、あっ、あ、あぁぁああああッッ!!!!?」
 ぐうっ、とせり上がるようにメルが身体をのけぞらせる。
 同時、メルの脚の付け根、ぐうっとせり出したおなかの膨らみが、一気に下へと動き出す。ぎゅうっと収縮する子宮の中を足場にして蹴とばすように、力強く赤ちゃんが足を踏ん張って、メルの胎内から赤ちゃんが外へと飛び出そうとしている。
 文字通り、もうメルのおなかの中には収まりきらないというかのように。
「あぐぁあ、ぁ、ひぐ、ぁう、ぁあぁあああああ!?!?」
 半粘性の羊液の塊をかき分けるように、いっきにメルの出産は進む。既に限界までほぐれていた子宮口を裏返らせ、ずるぅ、と赤ちゃんの顔がメルの胎外に露出する。本当ならここから、何度も赤ちゃんが顔をのぞかせたり引っ込んだりを繰り返しながら、ゆっくりと顔を外に出してゆくのだけど――メルの出産は、排臨から先は一気に進んだ。
 顔を外に出した沙族の赤ちゃんは、はっきりと意志を感じさせるように動き、メルのおなかの中を掻き分けて這い出してきたのだ。
 メルの狭い産道から、器用に身体を捻るようにしてねじり、肩を覗かせ――
 さらに前脚の片方が、メルのあそこから外へと飛び出す。
「ぁ、あっあ、あぁぅぁ、っぁ、あぁ、ぃ」
 メルはと言えば、もう正気を失ったように目を見開いて、ぱくぱくと唇を開閉させるばかり。
 腕を飛びださせた赤ちゃんは、そのままメルの脚の付け根から、狭い産道の出口をかき分けるようにしてじたばたを身をもがかせ、さらにぐりぐりと身体をねじって暴れ出す。
「ぁ、い、ゃ、待って、だめ、ぁ。」
 何かの気配を悟ったのだろうか。メルが、かすれた声で制止を求めたその直後。
 ごぼっ、ずるぅっ、と。
 大きな塊が、一気にメルの脚の付け根にはい出してきた。
「っ、っっっ~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」
 のけぞるメルの細い産道を一気に膨らませ、かき分けるように、子宮口を裏返させて、大きな大きな肉の塊が這いずりだしてくる。粘液に塗れながらばちゃりっ、と羊水だまりの上に産み落とされる赤ちゃんが、腰から下を一気に、メルのおなかの中から引き抜いた。
 それはとても出産などとは言えない光景だった。ママになるための努力もなにもなく、単に、赤ちゃん自身が、メルのおなかの中から出てくるのを決めたかのよう。
 メルの矜持、小さなママの尊厳すらねじ伏せて。沙族の赤ちゃんが、五ヶ月を経てメルのおなかから産まれる。
 絶叫とも悲鳴とも違う、獣のようなメルの咆哮が、石窟を震わせた。
 その小さな身体をたわませたメルは、とうとう――大きな沙族の赤ちゃんを、限界まで押し開かれた脚の間へと産み落としたのだった。




「ッはー、はーッ、はッ……」
 生涯最大の大仕事を終えた忘我のメルの荒い息遣いが、狭い洞窟に響く。
 ばちゃばちゃと、血を滲ませた羊液の水たまりの中で、緑色の鱗だらけの小さな生き物が暴れ回る。そいつはメルの柔らかくてしなやかな身体から生まれ落ちたとは思えない、不細工で恐ろしい外見をしていた。
 沙族のオス達に比べても、手足の指もまだ丸っこく、爪も生え揃ってはいない。剥き出しの目にはまだ薄い膜がかかり、牙も生えそろっていない。確かに幼い、まだ未発達さを伺わせる、赤ちゃんと呼んでもいいような外見をしていた。
 けれど、そのごつごつとした顔や、瘤の並ぶ背中、長い尻尾――間違いなく、そいつは沙族の身体をしていた。メルのおなかでずっと育ったにもかかわらず、こいつは異形の、化け物だった。
 これだけ毎日犯され続けていても、ボクは沙族達の生態はよく知らない。けれど、ひょっとしたらこれは、早産だったのかもしれなかった。
 沙族は人間に近い知能や生活をしているらしいけれど、タマゴで育ち、あんな外見をしているくらいだ、森の獣みたいに、ちゃんと親と同じ格好に――産まれてすぐに動けるようになってから産まれてくるのが本当なんだろうという気がする。
 たぶん、メルの小さなおなかの中では、赤ちゃんがこれ以上大きくなることができず、子宮に納まりきらずに産まれてきてしまったに違いなかった。
「っは、はー、っ、はーっっ」
 まるで理性すら壊れてしまったかのように、白い喉を反らし、身体を仰け反らせて荒い吐息だけを繰り返すメルの足元で、けれどその不恰好な赤ちゃんは、力強く尻尾を振り回し、手足を踏ん張らせる。けれどぬめる羊水の水溜りの中では、きちんと立ち上がることも難しいようだった。
 あまりにも人とかけ離れたその姿は、本当に、それがメルと血のつながった生き物であるのかと疑いたくなるほど。
 目の前でメルのおなかからそれが産まれ落ちる瞬間を見ておきながら、ボクはそれが何かの間違いであるのではないかと――そんな事を考えていた。だって長い尻尾、不格好な口、緑色の肌、それらのどれも、メルの姿とは何一つ似ていない。
 あれが、メルのおなかの中で何カ月も育ち続けた赤ちゃんだなんて、信じられなかった。
 けれど――
「メル……?」
 あれは間違いなく、メルがママとして産み落とした、正真正銘、メルの赤ちゃんなのだ。
 とうとう、メルはお母さんになった。その証のように、暴れのたうつ赤ちゃんのお腹から伸びたヘソの緒は、たるむロープみたいに確かにメルのおなかの中へと続いていて。そいつがメルの産んだ赤ちゃんであることを、抗いようも無いくらいにはっきりと証明している。
 沙族の赤ちゃんはぬかるむ粘液の中で、じたばたともがき続ける。誰かの手を借りなければ生きていけない、半端な生命。けれどそんな姿である事は、かえって、メルのおなかで育ち生まれ落ちたことの証明だったのかもしれない。

 あれと同じ生き物が、ボクの胎の中にもいる。
 もっともっと大きく育って、産まれてくる。
 ……覚悟していたつもりの背中が、ぞうぅっと震えた。

「ぁ、あ、あ、ぅ、あ」
 ちょうどこの時、空気を読まずに――いや、もともと彼等にそんなものはない方が当たり前なのかもしれないけれど――ボクにまたがっていた沙族が、ちょうどボクの一番奥で達したところだった。
 赤ちゃんを宿した子宮に圧迫されて狭くなった膣奥にどくどくと注がれる、熱く吹き上がる生命の奔流。白濁の滾りが、胎内深くで射精され、いつものようにボクの女としての部分を歓びに打ち震わせる。
 けれど。それとともに、不意にきゅう、とおなかが痛んだ。
 これまで感じたことのない不安が急速にボクの身体の底に膨らむ。じわ、じわ、とおなかの底のほうで鈍い痛みがはじまり、それが徐々に上のほうに上ってくる。
 胎内奥深くで勢いよく、子宮の口を押し潰されるようにして射精され、ボクの身体は五ヶ月の赤ちゃんを宿して居てなお、あさましくメスの本能で精液を受け止めようと、胎奥で口を緩ませる。
 それは、開きかけた子宮を、じくん、と蠢かせるのに十分な刺激だった。
「ぁ…………ッ」
 ぞうっと背筋が冷たくなる。分かっていた筈だ。こんなにも大きなおなかを抱えて、後先考えず、激しく彼等と交わっていたらどうなるのか。本当なら、普通の性交だって避けなければいけない時期なのに。ボクはそんな事お構いなしに、沙族のオスたちに犯されようとしていた。
 猛烈な忌避感が、ボクを襲う。
 あんなことになったら――メルのようになったら。

 産みたくない。
 こんな子供なんて、産みたくない。

 麻痺していたはずの心が、悲鳴を上げた。





 ◆14◆

 ボクが産気づいたのは、その日の夕方だった。
 メルが彼等の赤ちゃんを産み落とす、その一部始終を見せつけられながら、ボクよりも幼い彼女がママになる有様を目に焼き付けながら、ひたすらに続いた凌○が原因だったのだろうか。
 あるいは、何度も何度も執拗に続いた、おなかの中の一番奥を突き上げる凌○が原因だったのだろうか。ともかく、おなかの中の赤ちゃんの事も顧みず、一番感じる子宮の口で沙族達のペニスを味わおうとし続けたボクへの、当然の罰だったかもしれない。
 元々、精力旺盛な沙族たちは、一度満足させてやっても時間が経つうちにすぐに回復してしまう。打ち止め、ということはないみたいで、時間さえあればいくらでも交尾ができるようになっているらしい。
 これまでの交わりでも、ボクがへとへとになって群がってくる彼等全員を相手し終わっても、その頃には一番最初の相手がまた、ぎんぎんにいきり立ったペニスを押し付けてくることなんかしょっちゅうだった。
 どう考えてもメルの出産が一時間や二時間で済んだことは思えないから、多分半日くらいは代わる代わる、交代に犯され続けていたのだろう。総計三桁に届くほどのペニスで何度も何度も犯され続けたあそこはすっかり充血して、わずかな刺激にも反応してぴゅうと潮を噴き上げてしまう。
「はぐ……ぅあう。あぁあぁあ……っっ」
 とても自分の声とは思えない唸り声が、洞窟の中に反響する。頭では理解していたけれど、赤ちゃんを産むってことがまさに、自分の命にも関わりかねない事なのだという事実を、ボクは今自分の身をもって体験していた。目の前で、あんなにも凄絶なメルの出産を見ていたのに――ボクはいざこの窮地が自分の身に降りかかるまで、その事を本当に理解しようとはしていなかったのだ。
「ポーレ、だいじょうぶ、大丈夫だから……っ」
 髪を振り乱して悶えるボクの手のひらを、そっと握って。一足先にママになったメルが、ボクを励ましてくれる。その言葉にはどこか、ボクを案じ、嗜めるような響きもあった。
「メルだって、ちゃんと頑張れたもん。ポーレだって頑張れるよ? ね?」
 そう言って、メルは掠れた声で歌いだした。出鱈目な節の中途半端な調子で、昔の記憶にあるメルの歌声とは似ても似つかない、へたくそな歌。
 けれどそれはあの旅の中。もう遥か記憶の向こうに霞んでしまった、あの竜の大地の果てを目指す毎日のなかで。ボク達を励まし、力づけ、勇気をくれた吟遊詩人(ミンストレル)の歌だった。
「っあ……は、っぐ、……ぅあぁ……ぁ」
 小さな手から感じる温かさが、辛い。
 たった一人で赤ちゃんを産み落とすという人生最大の大仕事を終え、すっかり疲れきってしまっているだろうに、メルは残った力を振り絞って、ボクを励ましてくれる。
 ……そう。
 結局ボクは、ママになるのにも、メルに先を越されてしまったのだ。
 まだ、ヘソの緒が繋がったままの沙族の赤ちゃんは、ついさっきまでメルのおなかの中にいたとは思えないくらいにしっかりとした動きでぬかるむ羊水を掻きわけ、メルの胸まで昇って来ていた。つんと先端を尖らせて膨らんだメルのおっぱいにとりついて、そこからこぼれるミルクをちゅうちゅうと吸っている。メルのあやし方が上手いのか、それともまだお腹の中に繋がったヘソの緒で心を通じ合っているのか。それまでの暴れ方が嘘のように、メルの赤ちゃんはメルになついていた。
 丸い歯が乳首にこりこりと当たっているみたいで、メルは時折ぴくりと表情を変える。
 ぱちゃ、ぱちゃとぬかるむ羊水だまりを、長い尻尾で叩くメルの赤ちゃん。メルの小さなおなかの中では、完全に育ち切れずに生まれてきてしまった、沙族と人とのハーフ。
 けれど、その大きさは普通の人間の赤ちゃんよりも、遥かに大きくてたくましい。メルは、立派に自分の赤ちゃんを産み、ママになるという試練を果たしたのだ。
 それなのに。
 それなのに。
「ぅあ……っあ」
 ボクは押し寄せる陣痛に呻く。おなかの中が焦げ、火で焙られているみたいだった。メルと違って、まだ産まれるまでにはもうしばらくかかると思っていた、ボクのおなかの中の赤ちゃんも、外に出たいと暴れ出している。ずる、ずる、と子宮の中を這い回る赤ちゃんは、ボクに激しく訴える。
 本来の沙族の雌ではないおなかでは、ここまで育つので精一杯だったんだろうか。
 ずきずきと腰骨を軋ませ、脚の付け根の筋肉を震わせる、激しく疼く、陣痛の波の中で。
 ボクは悔しさに涙の滲む目元を感じながら、張りを増す膨らんだおなかをそっと撫でた。


 あの直後、沙族のペニスを深く咥え込んでの射精に身体の奥に激しい違和感を感じたボクを、構わず抱えあげてきたのは、例の片目の沙族だった。
「っあ、ぁ、あっあ、ぁッ、あぁあ…っ!!」
 彼等の中でも一、二を争う体格をしたこいつは、その身体に恥じない大きな太いペニスで、ボクの一番深い所を○すのが好きだった。複雑に曲がって節くれだった瘤をいくつも見せたペニスが、ボクの大事なところを的確に犯し尽くす。
 いや――あるいは、ボクの身体が、こいつのペニスを一番気持ち良く締め付け、同時にこいつに犯されている間こそもっとも悦楽を覚えるように、適応したのかもしれない。
 そこはボクにとっても弱点のひとつ。こつんと子宮の入り口を突き上げられるたび、ボクの“女の子”は意思に反して深々と胎内に納まったペニスをきゅうぅっと絞り上げてしまう。ごつごつした沙族のペニスを思い切り感じながら、深く深く何度も粘膜を擦られるのは、頭の中を白く飛ばしてしまう程の快感だった。
 ボクを仰向けにさせることを、この刀傷の沙族は好まない。ボクは手を衝いて四つん這いにさせられ、大きく膨らんだボクのおなかを、まるで荷物でも抱えあげるように太い腕で持ち上げて。獣みたいにうつ伏せになったボクの背中から、何度も何度もペニスが突き込まれる。
 こうすることで、この片目の沙族はボクのナカが狭くなり過ぎないように調整しているのだった。
「ぅあ、あぁ、あ、あっ……」

 ずる、ずる、ずるるっ。

 重力に引かれて大きくたわんだボクのおなかの中で、赤ちゃんが激しく暴れまわる。ただでさえ自分のいるゆりかごをゆさゆさと激しく揺さぶられて不機嫌な赤ちゃんは、さらに無理やり自分のいる部屋の出口をごつごつと叩く父親たちに猛烈な抗議を繰り返すのだ。
 けれど、こいつ等は、ボクのおなかに、まさにいつ産まれてもおかしくないこいつ等の赤ちゃんが育っていることを理解できているのかさえ怪しい。単に、最近ボク達が積極的だった交わりを拒むように態度を変えたくらいにしか思っていないのかもしれなかった。
「あ、ぁ、や、……ぁ…っ」
 ずる、ずる。メルの出産を目の当たりにしたことでか、赤ちゃんの暴れ具合もいつもにも増して激しい。狭い卵胞のなかで何度も寝返りを打ち、風船みたいに引き伸ばされた子宮の柔壁を内側から揉むかのよう。まるで、自分も早く外に出せ、と訴えられているみたいな錯覚すらあった。
 さっきから、おなかの奥に感じる鈍い痛みもずきずきと強まり、ボクの不安を煽っていた。
「んぅあああぁ!?」
 一際激しい律動と共に、沙族のペニスが根元から大きく膨らむ。これが彼等の射精の予兆であることも、間もなくあの、どろどろとした熱い精液が、たっぷりとボクの胎内に注がれる快感も、ボクの身体は、心はもうすっかり覚えてしまっている。
 頭のどこかは危急を叫び、それを必死に拒否していたけれど。同じ人間相手ではなく、沙族との交合によって雌の喜びを隅々まで覚えさせられてしまった身体は、オスの迸りを渇望して激しく疼く。
 ぶくりと不格好に膨らんだペニスのふくらみが、ぐうっとせり上がり――ボクの身体の奥で、どくんと弾ける。
「………ぁ、あ、あ、ぅ、あ……ッ」
 まるでおなかの奥に直接、熱湯を注がれているみたい。半年前よりも遥かに敏感になった、雌の芯の部分で射精を受け止めるたび、ボクの心は躍る。
 強い雄の遺伝子を受け継いで、彼等を満足させられる立派な雌になったことを、繰り返し繰り返し実感することで、ボクはもうどうしようもないくらいに、成熟した“オトナの女”にされてしまっているのだ。
 そして、――――
「あ、……え……ぁ……ッ!?」
 どくどくと注がれる射精とともに、これまでよりも遥かに強く、ずくん、とおなかの底が痛んだ。
 いつもの反応できゅうとうねり、根元から沙族のペニスに絡みついて余すところなく精液を絞り取ろうとするボクの、身体の内側の粘膜の動きが――いつもと違う、強い違和感を湧き起こらせる。
 じん、と身体の奥に響く、まるで地震の前触れのような大きなうねり。
 じわじわとおなかの底のほうで鈍い痛みがはじまり、それが広がり、膨らみ、形をもって、質量をもって、徐々に腰の下から上のほうにせり上がってくる。
「あ。……あ、あ……」
 なににも喩えようもない――全くの未経験の感覚。なにか、とてつもなく巨大な何かが、ボクの身体を通り抜けて、この場に現れ来ようとするような。せめて言葉にするならそんな感じだった。
 ぞわあ、と背筋を伝わる怖気に、ボクはただ、ぱくぱくと唇を押し開き、声にならない声を途切れ途切れに上げるばかり。

 ずるぅ……っ。

 ボクの身体を徹底的に犯しつくしていた、刀傷を遺す片目の沙族が、ボクの胎内に深々と埋まっていたペニスを引き抜く。ぬらぬらと光るペニスからは、まだぴゅるぴゅると残った精液が噴き上がり、ボクの身体とのあいだにねとねとと白く凝った粘液の糸を引いていた。
 同時、栓をされていたボクの大事なところからは、どろおっと粘つく大量の白濁が零れおちる。どく、どくとまるで心臓がそこに移ってしまったみたいに、脈動を始めるおなかが、どんどんと強い痛みを増していた。
 彼が離れるとすぐに、次の沙族が、待ちかねたというようにボクの脚を掴んだ。
「っ…………」
 久しく、感じていなかった嫌悪感。そしてそれをはるかに上回る、本能的な忌避感が、一気に沸き起こる。ボクは激しい拒絶と共に掴まれた脚を思い切り振りまわしていた。
「だ……だめ……ッ!!」
 力の入らない腕を使って、なんとか彼等から逃れようとする。しかし彼等がそんな事を聞き入れてくれる筈もない。これまで従順だったメスが相手なのだ、些細な抵抗など、快楽を高めるためのスパイスだと思っているかもしれない。
 もがいたボクの脚は、沙族によって思い切り押さえつけられてしまった。
 脚の隙間へと、また呆れるくらい反り返り、既に根元を膨らませる射精の兆候を見せた、太く大きいペニスがあてがわれる。鈴口がぐっと粘膜を抉る感覚に、ボクはとうとう悲鳴を上げた。
「お、お願い……!! だ、だめ……やめて、やめてよ!! い、今は……っ」
 どくん、どくん、とおなかの中が大きく波打つ。身体の奥からうねるように、じわじわと鈍い痛みがその勢力を増してくる。
 もう疑いようもない。まだ、産まれるのは先だと思っていたはずの、赤ちゃんが。ボクのおなかの中の赤ちゃんが。
 このまま、いま、ここで、産まれようとしているのだと。ボクの本能が、はっきりそう告げていた。
「今は駄目、だめなの!! あ、赤ちゃん、赤ちゃんが、っ、……ボクの赤ちゃん、産まれちゃう……っ」
 ……もともと、女の身体というのは妊娠の確率を上げるため、胎内奥深くで射精されるたびに子宮の口を緩めて、受精を起こりやすくするようになっているらしい。
 十人以上にも及ぶ沙族の射精をかわるがわる何度も受け止めて、ボクの身体はおなかに赤ちゃんがいるのにも関わらず、いやらしく彼等の遺伝子を飲み込もうと子宮の口を緩ませてしまったのだ。ただでさえごつごつとおなかの奥を突き上げられる刺激はご法度なのに、挙句ボクは、もう一杯のおなかで、こいつらの子供をさらに孕もうとすらしていた。
 無茶を繰り返した結果、落ち着いていた子宮の状況は一気に限界を迎え、安定状態だったおなかの揺り籠が、みしみしと軋む。
 その刺激はまだ、きゅうと差し込むような痛みではなかった。けれど違和感は収まることなく、じわじわと、しかし確実に勢力を広げてゆく。
「あ。……ッ」
 それにあわせて激しく暴れまわる赤ちゃんが、おなかの中でぐるぐると動き回り、激しく身を揺すって、揺り籠の出口を蹴破ろうとしているのが分かった。膨らんだおなかいっぱいに育った身体を持て余すように、ボクのおなかを内側から蹴りつける。
 子宮の口を内側から激しく突かれ、ボクはその場にへたりこんだ。じんじんと疼く脚の付け根の奥で、閉じていた狭い口が白濁にまみれて緩み始めている。
「だ、だめえ……ッッ!!」
 不安と共に心が跳ねた。思わず息を止めてしまうと同時、意識せずにおなかに力が入ってしまう。同時、赤ちゃんが身体を反らすように頭を跳ねさせた。
 無意識のうちのいきみが、子宮をぐっと収縮させる。ボクの身体まで、ボクの意識を裏切ろうとしていた。
 これまでおなかの上のほうにおさまっていた子宮が、ゆっくり下降を始め、その出口が身体の外へと降りてくる。ぐうっとせり上がるような圧迫感と同時に、おなかの底が破れて、身体の中身の大事な者がすべて、外へぶちまけられてしまいそうな気配があった。
「んぅあッ……ぁ、は、ぐぅ……ぅうっっ」
 張り詰めた卵胞が膨らみ、外へと押し破られそうになる。苦悶と共に歯を食いしばり、ボクは懸命にそれを堪えていた。手足が震え、ぶるぶると背骨や骨盤までが軋む。
「っあ、は、はっ……」
 ボクは懸命に、湧き起こる出産の予兆を押さえ込もうとした。こみ上げる苦痛を押さえ込み、必死におなかをさすって、暴れようとするおなかのなかの生命に呼び掛ける。
(だ、だめ、おとなしくしてて……今は、だめ、いまだけはっ……!!)
 けれど。今まさにボクを抱え込んだ沙族は、そんなことに配慮なんかしてくれるわけがない。懸命に堪えているその、秘芯へとペニスをあてがい、無理やり挿入を果たそうとする。ボクが拒絶の意志を見せているせいか、膣口はきゅっときつく締まり、狭くなったそこに具合よくペニスを押し込もうとする彼にとっては、都合良く快感をもたらしているらしかった。
「あ、だ、だめ、だめっっ、だめえっ!!」
(い、いま挿れられたら、あ、赤ちゃん、生まれちゃう……っ!!)
 脳裏に悶絶を繰り返しながら苦しみ続けたメルの姿が浮かぶ。ごつごつとした岩のような肌。鱗におおわれた長い尻尾。手にも足にも延びる長い爪。大きな口からはみ出す牙。
 あんな、あんな姿の。赤ちゃんが。
「お、お願い、ほ、他のとこなら、く、くちでも、胸でも良いからッ、何でもしてあげるから…!! いま、今だけはだめ……だめ、ええ……っ!!」
 ボクは胎奥に疼く陣痛の予兆をこらえながら、手であそこを押さえ、沙族の侵入を跳ねのけようとした。涙声で訴えるボクの懇願は、しかし、まったくの無意味でもあった。
 急に抵抗を始めたボクを持て余したのだろう。沙族は他の仲間と一緒にボクの脚を引っ張り上げる。そして宙づりにされた格好のボクの身体の中心へ、しっかりと反り返った太いペニスを押し当て、腰を突きだす。
「っあああああっ!?」
 まだ緩み始めた子宮の口がめがけ、粘液と密の助けを借りて勢いよくずるんと押し込まれたペニスが、思い切り突き込まれた。身体の芯を貫くオスの滾りにボクが仰け反ると同時、沙族はボクの身体を抱え込み、激しい挿入を始める。
 同時に子宮で暴れ出した赤ちゃんが、ボクを身体の内側からも責め立てる。
 びくり、とはっきりとした鳴動があった。鈍い痛みが一気に膨らみ、ずきずきというはっきりした波の形をとって、おなかが激しく痛み始める。
 陣痛だ。
 もがくボクをよそに、ボクの出産も、始まってしまったのだ。
「ぁう、あ、っっぐ、、ふぁ、は……ぁ。ぁああ!?」
 痛みと快感と、混乱と恐怖と。訳のわからない感情がない交ぜになって、ボクの頭の中はもう、人としての思考すら失いはじめていた。





 ◆15◆

 そうして。ボクが完全に産気づいて。とうとう堪え切れずに子宮の口を開かせ、卵膜を破かせ破水してしまうまで、沙族たちはボクを犯し続けた。
 激しく羊液を噴き出させ、子宮の収縮と胎動のもたらす苦痛に呻き、もう後戻りできない事態に陥ってなお諦めきれずにやめてと叫んでも、お願いと訴え縋っても。彼等はボクを離してくれなかった。
 最初はボクというメスへの執着と自惚れていたそれは、けれど全く違っていたことに気付くまで、そう時間はかからなかった。
 ……だって、当然。
 彼等は産気づいたメルには手を出すどころか、赤ちゃんを産む邪魔をしないようにと近づこうともしなかったのに。
 ボクには赤ちゃんが産まれそうになっても、彼等はまるで気にせずに交わりを続けていた。
 それはボクに雌としての魅力があったからでもなんでもない。……彼等はボクのことを生殖の対象としてではなく、ただの欲望の解消装置だとしか捕えていなかったのだ。
 結局、全部、ぜんぶ、最後まで。
 ボクの独りよがりと勘違い。ボクは最初から、あいつらに正しい雌としては見られていなかったんだ。
 ボクはただ、メルよりも年上だというたったそれだけのことに縋って、自分の女としてのプライドを惨めに保ってきただけだ。メルよりも優れたメスだってことを証明してやりたい一心で、あさましい欲望に身を晒してきただけだった。
 挙句、メルのお姉さんを気取っていながら、こうしていま、出産の恐怖に無様に悶え苦しんでいる。

 こんな赤ちゃんは、産みたくない。
 ……メルと同じような、きちんと育ちきっていない、未熟な姿じゃなくて。
 ちゃんと、きちんとした姿に育った、沙族の立派な赤ちゃんを産んであげることが。
 ボクの最後の、最後に縋った希望だったのに。
 メルよりもボクの方が優秀な、生殖に耐えうるメスなのだと、訴えるための最後の最後の希望だったのに。
 それすらももう、叶わないのだ。

 ずる、ずる、ずるると。狭い子宮の中で身をよじり、ひっきりなしに暴れ回る赤ちゃんがおなかを内側から蹴飛ばそうとしている。ボクの子宮はもうだらしなく口を開き、赤ちゃんの頭を半分覗かせていた。
「っあ、あぁ、あぁああぁああ……」
「ポーレっ……頑張ってっ!!」
 ぐったりと横たわったまま、気丈にボク身を案じ、励ましながら手を握ってくれているメル。けれどボクはそんな彼女にすら嫉妬している。だって今もメルの胸には、産まれたばかりの沙族の赤ちゃんがしがみ付いていて、器用におっぱいを吸っているのだ。
 たった一人で、ボクがあさましい優越感に浸って、無様に大きなおなかを揺らし、沙族のオスたちと交わっている間にも。自分の力だけで頑張り抜いて初産の試練に耐え、赤ちゃんを産み落としたメルに、喩えようもない劣等感を感じながら。ボクはいつ終わるとも知れない陣痛に悶え苦しんでいた。
「あ、あぅあ、っあ……っ、ふぁ、あぁうあ、あぁぁぁぁ……ッッ!!」
 腰が震え、収縮する子宮の感覚にあわせて、ぶしゅっと膣口から粘液の塊が溢れ落ちる。すっかり出口まで降り切った子宮の内側、緩んだとはいえまだまだ通り抜けるには細すぎる子宮口に、むずがる用に赤ちゃんが鼻先を押し付ける。
 その内圧に、ボクは何度も喉を反らし、悲鳴を上げ続けた。
 この苦しみも、この痛みも、この悔恨も。ぜんぶ、ぜんぶ、ボクへの報いだ。


「うぁあ……ひぐ、っ、あ、は、ぐぅう……ッ」
 ――あれからどれくらい経っただろう。
 陣痛はまだ続き、赤ちゃんはいっこうに生まれてくる気配がない。蛙みたいに開いた脚の付け根は、火箸を押し当てられたみたいに熱く、疼いて止まらない。脚の付け根まで降りてきた子宮が、その内側で暴れる赤ちゃんと一緒に、たわみ、震え、歪む。
 五ヶ月の間、頑張って赤ちゃんを育て続けたボクの女親としての証が、もうすぐその役目を終えようとしていた。
 ……押し寄せる陣痛の波が遠のく合間に、こうして手記を綴ってはいるけれど。もう思うように手も震えてしまって字も満足に書けないみたいだった。
 きっと後で読み返してみても、何が書いてあるのかはわからないだろう。これからそんな事が出来るのかどうかも分からない。
 でも、これを残さなければボクは本当にボクではなくなってしまうに違いなかった。
 このおなかの中の小さな生命を、自分の血を分けたボクの赤ちゃんを、無事産み落とすことができた時。その姿を目にして、この腕の中に抱きあげた時。
 ボクはきっとその歓びに耐えられない。
 こんな惨めなボクでも、ちゃんと彼等の赤ちゃんを産むことができるのだと、分かってしまったら。ボクはただ本能のままに、沙族に犯されて、その子を産むことに悦びを覚えるだけの、メスに堕ちてしまうだろう。
 もう、ずっと昔の事になってしまうけれど。旅の間には、お産に立ち会ったこともあった。たまたま連れ合った山小屋で、一人の女の人がお母さんになる瞬間にも一緒したことがある。
 あの時お母さんになったあの人は、こんな想いを抱いていたんだろうか。
 辛くて、苦しくて、不安で、怖くて、嫌で、逃げ出したくて。
 もうなんでもいいから、このおなかの中の生命を、早く産んでしまって楽になりたい。弱音を吐く心がそう叫ぶ。でも、まだこうして子宮が疼き、痛みが続いているうちはそれはできない。産道が十分に開き、赤ちゃんが生まれてくる準備ができる前に、いくらいきんでも赤ちゃんはそこを通り抜けられないし、母体も消耗するだけだ。メルのお手本を見ているのだから、せめてそれだけは、ちゃんとしておきたかった。
 そう、メルの出産だって、半日は楽にかかったはずだ。ボクの出産がそれより早く済むとも思えなかった。
 ボクが、ボクでなくなってしまう前に。……きっと最後に残された道は、その前に死んでしまうことなんだろうけど。
 そんな事、出来る筈もない。だってボクは、
 もうすぐお母さんに――


 (ここから後は筆跡が乱れ、判別できない)






 (了)

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シロフミ 2020/08/05 22:36

旅する少女と異貌の民・その2

 ◆7◆

 ボク達が妊娠に気付いたのは、囚われてから74日目の朝だった。
 兆候はたぶん、かなり前からあったのだ。熱をもったように疼き、収まらないおなかの奥――それまで、重い生理の時くらいしか意識をしたこともなかった、子宮がやけにぽってりと熱く、下半身がぬるま湯につかっているような感覚。
 それと同時に頭の芯もぼんやりとしていて、身体のあちこちが妙に重い。それと反比例して、全身が――とくに、胸がやけに敏感になっていた。
 まともな栄養が取れていなかったとか、きちんと休めていないせいだとか、理由のつく説明はいくつかあったけれど、どこかボク自身、その事実を受け入れ、望んでいたように思う。
 数日前からの疑念が確信に変わり、特にひどくなった頭痛と悪阻と共に朝の食事を戻して――それを介抱してくれたメルが、同じように耐えきれずに嘔吐したのが、驚きの始まりだった。
「赤ちゃん、できた……んだよね。……あたしも、ポーレも……」
 口をぬぐい、ようやく落ち着いたメルがどこか他人事のように、そう言った。
 ボクにとっては、もっとも衝撃的な一言を。
「メルも……なの?」
「うん……わかるもん。……赤ちゃん、動いてるの」
 驚愕に目を見開き、どうにかそれだけ言葉を絞り出したボクに、まだ具合悪そうに呻きながらおなかをさすり、俯いて答えるメルに、正直ボクは驚きを隠せなかった。
 メルはまだほんの子供で、背も胸も足りなくて、ティグレと山登りの一番競争で張り合ったり、バルフェンに肩車されたりしているときもすっかり小さな子供のようだったから、そんなことの正しい知識なんてあるわけないと思っていたのだ。
 でも、考えてみればメルは踊り子として、歌や踊りを通して、女の子としての身体を見られる職業だ。レベッカのテントで働かされていた以前にも、そうやってあちこちのキャラバンを渡り歩いて厄介になっていたそうだから、たとえ直接的なものでなくとも、そうした『身体を使った』仕事をさせられたり、先輩のそうした行為を見せられたりすることもあったのかもしれない。
 ボクはそう考えて、むりやり自分を納得させた。年上として、みっともなく取り乱すところは、メルだけには見せたくなかったから。
「ポーレは……?」
「うん……ボクも、少し前から覚悟してたよ」
 ボクの月の障りは、もう何ヶ月も前から途切れている。旅の途中で体調を崩したり、取引で儲けを出そうと思い悩んだりで不規則になることもあったけれど、いまのこれは多分違うのだろうと――なんとなく、わかっていた。ひょっとしたら、母親としての勘というやつなのかもしれない。
 それもいまや、同じように小さくうごめくおなかの中の生命の息遣いとともに、確信に替わっている。
 だからこそ、メルには尋ねなければならなかった。
「メル、その、アレってまだだったんじゃないの……?」
 はっきりとは確認していなくとも、一緒に旅をしていれば同じ女の子どうし、わかることだ。クリュウが来る前のアルはいろいろ誤魔化すのに大変だったようだけれど、本当なら一番警戒しなきゃいけない歳のティグレはそういうのに凄く鈍感だし、バルフェンは大人だからあえて言わないようにしていたんだろうと思う。
 でも、たしかに。メルはまだ、初潮は来ていなかったはずだった。だって、そうでなければ踊り子なんて職業を続けて、メルのように可愛い子が女の子のはじめてを守りぬける筈がないんだから。
「うん……でも……」
 この数ヶ月で、角が取れるように、丸みを帯びてきた自分の身体をそっと抱きしめてメルは俯く。細くて、少し骨ばって、余分な肉のまったくない、彫刻のようにしなやかだった身体は、いつしかふんわりとした『オンナ』の柔らかさを見せるようになっていた。
 あいつらに犯されているとき、時々だけれど、メルが同じ女のボクでもぞっとするような、オトナの女としての艶やかさ、なまめかしさを見せることがあるのは、確かに感じていた。
 いやらしいことをされていると、そういうのも早くなるらしいという。
 だから――メルはいわゆる“お赤飯”の前に、最初の生命をその小さなお腹に宿したのだろう。あんなに濃くて凄い量の精液を、沙族達に毎日代わる代わる胎内に直で射精されているんだから、なにも無いほうがおかしいんだ。
「やっぱり、あかちゃん……できてると思う」
 どこか確信めいて、メルは頷いて見せた。
 ボクはただ曖昧に唸ることしかできない。違うといってみたところで証拠はないし、確かめることもできない。まさか、ここでメルのおなかを引き裂いて、その中に誰がいるのかを確認するわけにもいかない。
 そもそも疑うような事じゃなかった。ボクがそうなのだから、メルだって母親として、おなかのなかの新しい生命を感じ取っているんだろう。
 つまり。メルは、一度も――女の子としての『子供を産むため』の機能を、無駄にせずに、赤ちゃんを妊娠した。
 なぜだろう、その事実を認めることはボクの心を後ろ暗く汚し、ひどくささくれ立たせていた。
「ポーレ……」
 縋るようなメルの視線に耐えかねて、ボクははっと我に返り、そっとメルを抱き寄せる。頭を振るとすぐに陰鬱な気持ちは消えていった。
 メルはボクの胸に――あいつらの相手を続けて幾分サイズの増したボクの胸に、そっと頭をすり寄せる。ごつごつして冷たい鱗まみれの太い腕とは違う、ほんのりと暖かい、女の子の感触。ボク達に酷い事をしない、優しくてやわらかい、味方。
 メルの傾けた顔からうなじが肩にこつんと当たる。自分ではないヒトの体温を感じるのは、今は無性に気持ちが良かった。
「あいつらの――赤ちゃん、なんだよね」
「うん……」
 沙族は、決してヒトではない。
 言葉を話し、二本の脚で立って、武器を作り部族を作って行動するけれど、それは人間達とはけっして相容れない。狩人が標的と定めた動物を仕留めることを躊躇わないように、あいつらは人間達を襲うことを当然にしている。
 けれど。だからこそ。
 ボク達が、そんなやつらの子供を孕まされるなんて、思いもしなかった。
 人間とは全く違う骨格、爪の生えた四本指の手。ごつごつした鱗は緑と青の中間で、毛は一本も生えていない。凹凸のある身体は歳を経るごとにどんどん巨きくなっていく。蜥蜴と同じように陽が当らない寒いところでは思うように動けないため、砂漠の中でも特に暑い地域を出ることは滅多にない。
 大きな口に生え揃った牙や、長い鉤爪を備える手足、丸太のように太い尻尾。どれも、まるでトカゲやワニと同じだ。目蓋のない目は、細く縦長の瞳孔をきゅうっと細めて、ボク達をじっと見つめてくる。そこには意志や感情なんて感じ取ることはできず、ただただ剥き出しの、肉の欲望だけが覗いていた。普段は鱗に包まれたおなかの中にしまわれているペニスは、滑るような肉色をしていて、発情している間だけ外に顔を覗かせる。その形も、ボクの見知っている男の人のそれとは全然違っていた。
 そんなやつらの吐き出した下卑た欲望が、ボクのおなかの中で受精を遂げ、そのおぞましい子供が、生命を芽吹かせている。
 その危険性に思い至らなかった、いまだに本当の実感すら怪しい、ボク自身の迂闊さももちろんあるだろう。無惨にボクたちを襲った相手の子供が、いまボクのおなかの中に芽生え、息づいている――その事実は、改めて考えてみるだけであまりにもおぞましい。
 おなかの中を得体の知れない化け物に、今にも内側から食い破られてしまいそうな――そんな想像が頭をよぎり、覚えもしない幻の痛みがじくんとおなかの奥を震わせる。
 それはただの錯覚だけではない。ボクが母親になったことを知らせるように、熱をもち疼く下腹で確かに、小さな鼓動が力強く脈打つ。
 それがまぎれもない、真実であるのだと。ボクに自覚を促そうと言うかのように。
「……っ」
 胎奥に響く、おぞましい凌○の証に――ボクは声を潜め、メルとともにしばらく泣いた。




 ◆8◆

 ボク達が身篭ったことをはっきりと自覚してからも、昼沙族達の凌○は変わらず続いていた。奴等もそれを目的にしているのだろうにもかかわらず、ボク達が母親になった事もお構いなしに、ボク達を強引に犯し続けた。
 その乱暴極まりない強引な行為に、もしかしたら赤ちゃんが流れてしまうのじゃないかと不安になったりもした。
 もしかしたら不安に感じることがおかしいのかもしれないけど、でも、たとえどんな形であっても、おなかの中にいるのはボクの赤ちゃんだ。時におぞましく感じられても、それを心の底から厭い、疎ましく思う気にはなれなかった。
 夜と朝、その境目のような時間に与えられたわずかな時間に、ボク達は次の凌○に備え身を整えながら、わずかな会話を交わす。
「沙族って、あんな格好してるから……タマゴで増えるんじゃないのかな」
「……本当はそうかもしれないけれど、ボク達じゃどう頑張ってもタマゴは産めないよ、メル。だから、きっと、普通の赤ちゃんみたいに、おなかの中で育ってるんだと思う」
「――そっか」
 メルだって、本当に産まれてくるのが沙族のタマゴなのかもしれないと思っている訳じゃないだろう。そんなことを疑問に思うこともできないくらい、ボク達のおなかの中にははっきりと、生命の鼓動があった。
 わずかに膨らみ始めたおなかをそっと撫でるメルを見て、ボクも無意識のうちに、張り出した下腹部を擦ってしまう。過酷な砂漠に適応した見かけどおり、沙族達の生命力は旺盛で、一度孕んだ生命は簡単なことで潰えてしまうような心配は無用ということらしい。
 もしかしたら、普通の手段では堕胎することもできないのかもしれなかった。
「本当に、私達のあかちゃんなんだね……」
 メルの表情は慈愛に満ち、どこか愛おしげですらあった。メルだって出身は旅芸人の一座だ。動物が赤ちゃんを産むのに立ち会った事だってあるだろう。踊り子の一座の中にはそうやって、これと決めた男の人たちに子種をもらって、子どもを産み育て、後継者を育てる人もいると話に聞いたことがある。
 そのこと自体は悪いことじゃないと思う。男と女がそうなるのは、自然なことなんだと、ボクはお母さんに教わって育った。
 でも、ボク達自身がまもなくそうなると考えるのは、やっぱりとても不安で、怖かった。

 お母さんに――なる。

 その事実を抗いようのない現実だと認めれば認めるほど、それと同時に――とても嫌な気持ちがいっしょに、ボクの胸の中に湧き起こった。最初は意識できなかったはずのそれは、いまや片時も離れず、ボクの心の隅に居座っている。
「メル……」
 抱きしめた小さな身体の、おなかの辺りを無意識のうちに気にしてしまう。
 こんな言い方は良くないけれど、洞窟に閉じ込められた最初のころ、メルがまだ初潮前なら、ボクのようにはならないだろうと安心していた部分があった。沙族は繁殖を目的にしているのだから、それに都合の良いメスだけを狙うはずだと思ったから。
 こんな目に遭うのは、ボクだけで済むんだと――自分が犠牲になればメルの安全を守れるかもしれないと安心する一方で、やつらの標的になりえないメルを憎く思ったこともあった。
 どうしてボクだけが、こんな酷い事をされなければいけないのかと。
「……ごめんね、メル」
 そして今は、メルもボクと同じ目に遭ったことが、憎い。
 このあさましい気持ちを正直に告白すれば。
 ボクだけじゃなく、メルまで、あいつらの赤ちゃんを身篭ったことが妬ましかった。
 だって、ボクだけだと思っていた。ボクだけが、まだコドモのメルと違って、犯されてはいても、真似事しかできないメルと違って、ちゃんと、オトナの女として、本当の意味であいつらの求めに応じられると、あいつらの満足のいくメスとして相手をできていると思っていたのだ。何度も何度も、子宮を小突かれながら膣内(ナカ)で射精を受け止めるたびに、ボクはそのことに優越感を抱き、心を支えていた。
 いくらメルが同じように犯されることに慣れ、女の子の悦びを覚え、気持ちよくなることができても、メルは本当の意味でまだ大人じゃないから、そのおなかに赤ちゃんを宿すことはできないと。
 あいつらの子供を妊娠できるのはボクだけなんだと。沙族の求めるメスで居られるのは、ボクだけなんだと。
 ――ボクはメルには負けていない証明ができると、そう思っていたのに。
「――――ポーレ、もうすぐ……時間だよ」
「そうだね……」
 どす黒い思考に沈んでいたボクを、メルの声が引き戻す。
 ボク達は互いにどちらとも無く離れて、身づくろいをはじめた。
 また今日もあいつらがやってくる。沙族達はボク達が妊娠したことなんかお構いなしに、あいつらはボク達を○すだろう。膨らんだおなかを構わず握り締め、振り回し、ずしりと体重を圧し掛からせることを躊躇わず、大きくて太いペニスをボクの身体の奥の奥まで叩き付けてくる筈だった。
 ボク達の身体は、あいつらのメスと違って、妊娠していてもいやらしく発情する。
 だから、あいつらには陵○をやめる理由が無いんだ。
 普通の動物や、家畜や、ほかの生き物は、交尾して赤ちゃんができれば、自然と番うことはなくなる。でもボクたちは、こうしておなかの中に確かに小さな生命の息吹を感じていても、だらしなく脚の付け根を濡らし、ペニスに貫かれることにいやらしく悦びを感じてしまう。柔らかくて温かくて、あいつらにとってこれ以上都合のいいメスなんて、他に居ないのだ。
 きっとボクたちは、あいつらを、一年中発情させ続けるのだろう。


 ボクのお母さんも、こんな気持ちだったのだろうかと、ふと思った。
 ボクは、故郷の村で兄弟やお父さんと一緒に村に暮らしていたけれど、お兄ちゃんや弟達と違って、ボクはお父さんと血がつながっているわけではない。
 ボクが物心ついたころ、ボクはいつも、お母さんと二人きりだった。
 お母さんと旅をしている間、ボクの親はお母さんだけで、小さい頃、ボクはなんども、お父さんがいないことに寂しくて泣いた。お父さんはどこ、と泣いてお母さんを困らせた。
 そんなとき、お母さんはいつも、泣いているような笑っているような、なんともいえない不思議な顔をして、ボクを抱きしめてくれた。
 その頃のボクは、その表情の意味が解らなかったけれど。今ならなんとなく想像がつく。
 ――たぶん、お母さんも、ボクの本当のお父さんが誰なのか、わからなかったんだ。
 旅に出る少し前に、ボクも気づいていた。時に過酷で、特に残酷な旅。たとえ多くの人々が倣うように旅をすることが当たり前のこの竜の大地であっても、それをたった一人でやりとげるのがどれだけ困難なことか。ボクは5人の仲間に支えられても、辛うじて損を出さないので精一杯だった。
 お母さんは凄い商人だったとは、旅先で何度も聞かされたけれど、たとえ天才だって機運や時流に恵まれずその商才を生かせないのが、商売の世の中だ。
 じゃあ、誰も知らない遠くの土地で、まだ商人としても未熟な若い頃のお母さんが、百戦錬磨の商人たちを相手にどうやって儲けを出していったのか――そんなのは少し考えれば、自然と想像が付く。
 お母さんはとても綺麗で、村どころか街道でも評判になるくらい美人だったから――その手段は、きっと素晴らしく効果抜群だったのだろう。
 だから、お母さんは遺憾なく、商人としての才能を発揮できたんだ。
 やがてお母さんは、今のお父さんと出会い、村にお店を出すことになる。お母さんの経歴を知りながら、なおそれを受け入れて家族になることを躊躇わないお父さんとの出会いはきっと、とてもとても幸運なことだった。
「……ああ、そっか」
「ポーレ……?」
 ボクは一人、涙していた。
 悲しみではなく、恐れでもなく、別の感動から。
 じゃあ、じゃあ。それなら。だとしたら。
 ボクがこんなふうに、あんな――あんな醜くて、恐ろしくて、ヒトとは違う、不気味な沙族たちの。誰の子かもわからないような、――おなかの中の赤ちゃんを、こんなふうに愛しいと思うのも。
 けして、間違ってなんかいないんだ。




 ◆9◆

「は……っ……くぅ……」
「メル、痛い?」
「へ、へいき……だいじょうぶ、だからぁ……」
 口を離して窺うと、メルは赤くなった顔を俯かせ、ぷるぷると左右に振る。甘く蕩けた言葉は、隠しようもない快感の証だ。
 ボクは唇をぬぐい、もう一度、メルの赤くなった右の乳房にそっと吸い付いた。
 この一月であっというまに膨らんだメルのおっぱいは、もう手に余るほど大きくて、つるんと張りを保っていた。小さなメルの身体にはアンバランスなくらいに先端をぴんととがらせて、ぽたぽたと白いミルクを吹き上げる。
 ボクは敏感すぎる先端をできるだけ刺激しないよう、そっと唇に挟んで舌を寄せ、吸い上げていた。
「ふあ……っ」
 メルが声を上げ、ボクの頭に回した手にぎゅうっと力を込める。
 ちゅう、ちゅう、と一息を分けて吸い込むたび、口の中にはじわぁっと甘いミルクが満ちてゆく。
「っは、くぅ……っ」
 背中を震わせてメルが仰け反る。きゅう、と僕の手のひらの中でもう一方のやわらかなふくらみが形を変え、またじゅわっとミルクを滲ませた。そこから溢れ落ちるミルクを吸いつき、舐め上げ、飲み込む。
「ポーレぇ……」
 たまらない声をあげながら、メルが目元を揺らし、きゅうとボクの頭をきつく抱き寄せる。メルのおっぱいに顔をうずめながら、ボクは苦しげに息を漏らして呻いた。
「んむ、ちゅ……むっ」
「ふわぁあ……っ」
 つん、とふくらみの先端を舌先でつつくと、メルはまた高い声で喘ぐ。まるっきりぺたんこだったメルのおっぱいとは思え菜くらいに、手のひらで包めないくらいまで膨らんだその柔らかさは、溢れるミルクにまみれて指に張り付くほど。張り出した感触はゴム鞠のようで、そっと揉んだ指先が埋まるように柔らかく心地いい。
 それは、ボクも同じだった。あいつらの赤ちゃんを妊娠して4ヶ月、まだあげる相手がいないのに、ボク達の胸はふた回りも大きく張り出して、ミルクをたっぷりと蓄えて膨らみ、タンクのように張り詰める。
 いくら吸っても絞っても、生まれてくる生命のために身体の中で作り出されたミルクはあっという間に胸を膨らませてしまい、先端からひっきりなしに溢れ出そうになる。そうなった胸は、とても重くて、ぱんぱんに張ってしまい――揺れるだけも辛いほどだった。そんな状態で沙族達に犯されていると、しまいには胸が千切れてしまいそうになる。あいつらは当然ながら、ボク達のおっぱいには興味なんて示しやしなかった。
 しかたなしに、ボク達はこうやってお互いのおっぱいを吸いあうようになっていた。けれどこれはとても気持ちが良くて、ボクもメルも、これまでほとんど知らなかった、胸の快感というものを新しく身体に刻み込んでしまっていた。
「ぁ、あっ……ぁああっ。ふわぁあ!?」
「んちゅ……んぅっ……はむ……」
「っ、あ、ポーレ、ひもちいいよぅ……っ」
 語尾も怪しくなるくらい蕩けた、甘い声が響く。メルとこんな事をするなんて、少し前まで考えられなかっただろう。メルもボクを足の付け根を甘くとろけさせ、蜜を溢れさせている。
 膨らんだメルのおっぱいを、優しく唇でついばみ、そっと吸う。じわっと滲むおっぱいを、ボクは少しずつ、少しずつ飲み込んでゆく。
 メルはボクに胸を吸われるたび、なんどもなんども高い声を上げて身体を震わせた。
 最近は、沙族たちも、犯している時以外はボク達を――ボク達のおなかにいる赤ちゃん達のことを、彼らなりに大切にしようと思っているらしく、持って来るごはんも柔らかく食べやすいものに変わっていた。それに加えて一日ごとにお互いのおっぱいをたくさん飲んでいるのだから、一時期はがりがりにやせ細ってしまっていたメルの身体も、いくらか丸みを取り戻している。
 むしろ、おなかの中に宿した生命のせいで、すっかり子供だったはずのメルも、今ではずいぶん大人っぽくなったようにも見えた。
「……っ…終わったよ、メル」
 ちゅぱ、と濃くピンクに色づいた乳房の先端を離し、ボクは言う。
「……んぅ……ありがと、ポーレ」
 ぐったりとボクの上に倒れこみながら、メルは大きく息をついていた。その表情はボクが見てもどきっとするくらいに色っぽく、淫らに蕩けたものに変わっている。
 上気した頬の上で、可愛い目がしっとりと潤み、色づいた唇と一緒に快感の余韻に震えている。口元にはわずかにこぼれた涎の跡も残っていて、堪え切れなかった喘ぎの痕跡をうかがわせる。
 ぱんぱんに張ってどうしようもなかったメルの胸も、幾分柔らかく、ひとサイズくらい小さくなっていた。あのぷるんと震える二つの乳房の中に詰まっていたミルクを全部、ボクが飲み干してしまったんだと思うと、自然、おなかの奥がかあっと熱くなるようだった。
「……っふ……」
 一方で、ボクの胸はさっきまでよりもさらに熱く、重くなってじんじんと疼いていた。興奮に尖った先端は赤くなってつんと上を向いて、外気に触れているだけでじわじわと昂ぶっている。メルの胸を吸っている間に、ボクも興奮してしまっていたのだ。
 まるで、胸の中につまった快楽の神経がぜんぶ剥き出しになってしまったみたい。そっと指先で、せり出した先端をつつくと、じゅわぁとミルクが滲み、雫になって地面に垂れ落ちる。我慢できず、メルの胸を吸っている間にも、ボクは自分でこの胸を弄っていた。
 ちりちりと焦げるようなその感覚は、言葉にできないほどに頭を痺れさせた。まるで、胸の奥――心臓のすぐ上あたりにある、熱く凝ったなにかがすっかり蕩けて、マグマみたいに乳房から噴き上がるみたいだった。
 男の人が射精するのにも、きっと良く似ているのじゃないかと思う。
「んぅ、っ、ふ……ぁあっ……!!」
 我慢しきれず、ボクは両手のひらで自分の胸に乗った柔肉を掴んでこねはじめてしまう。ずっしりと重く張り詰めた先端からミルクが迸り、甘い匂いと共に手のひらをぬるぬると汚してゆく。ぽたぽたとミルクを滴らせながら、ボクはもう手指を止められない。
「っ、んっ、あ、……ゃ、きも、ち、ぃい……っ」
 こんなことで感じてしまう自分が、信じられなかった。
 胸に詰まったミルク袋を絞るようにこねるたび、ふわりふわりと身体が宙に浮かび上がっていくかのよう。つんと尖った先端を指に挟むと、ぴゅう、と勢い良く噴き出した白い飛沫が地面に散る。
 がくがくと肩が震え、背中に甘い電流が走り、ボクは十分以上に育った胸のふくらみを掴みながら、腰を砕かせて地面に伏せてしまう。
「ポーレ……」
 そんなボクを覗き込んでいる、メルの姿があった。




 ◆10◆

 荒い息のまま何もいえずにいるボクを、気づかうようにそっと身体をすり寄せてきたメルは、ボクの身体をやさしく上向けると、かたっぽの胸にそっと口をつけた。
「んぅ。ちゅ……ちゅる、ちゅぅう……んむっ」
「ぁ、~~~ッッ……!!」
 メルが慣れた手つきでボクの胸を掴み、指をうずめるようにして揉み、こね、ぎゅうと身体の真ん中に寄せ合わせるようにしてくる。可愛らしい口が、沙族達にしているようにいっしょうけんめいに開いて、ボクの胸を吸い上げる。
 先端だけをすうのではなく、膨らんだ乳房を、蒸しパンに噛みつくようにして口に含む。
 火傷しそうに熱い舌が乳首をねぶり、小さな唇がいっしょうけんめい胸の先っぽをついばむ。とろとろと溢れる唾液が、さらにボクを高ぶらせた。
「ぁ、あっ、あ、はぅ、ああっ……♪」
 大胆ではあるけれど、乱暴で粗雑な沙族の雄には決してできない、巧緻で繊細な舌使い。女の子だけの睦み合いが産む、細やかで鋭い愛撫。 火照った頬を恥ずかしげに俯かせて、ボクの胸を舐め、啜るメルに、ボクは興奮を抑えられない。ちゅぱ、と吸い上げられると同時、こらえきれないミルクのほとばしりがメルの口の中に吸い込まれていく。
「んぅ、ぽーれ……、へいき?」
「っ、っ……」
 はいもいいえも言葉にならず、ボクは必死にかぶりを振っていた。メルの愛らしい表情を窺う余裕もないもない。
 ん、とちいさく頷いたメルが、もう一度熱く膨らむ胸を吸い上げる。メルの口の中に恥かしいほどにミルクを次々吹き上げながら、ボクは仰け反って声にならない嬌声を繰り返す。ぎりぎりまで残っていたはずの理性まであっさり消えうせ、ボクの身体はたちまちその快感に溺れ、なんども気を遠くしてしまう。
 胸の快感は、犯される時のそれとはまた違っていた。赤ちゃんにあげる為のものだからだろうか、乳首を吸われて、胸を丁寧になぶられる間、頭の奥がほんわりと幸せに塗り潰されて、途方もなく嬉しくなってしまう。大事な友達と再会した時の嬉しさを、何百倍にも煮詰めて濃厚にしたような――言葉に出来ない法悦。
 それが、メルと胸を弄り合っている間に覚える快感だった。
 こんなことをもう一月も繰り返しているのだから、上手くなるのは仕方のないことだろう。いまはもう、ひと啜りされるだけでぴゅうぴゅうとミルクを吹き上げるボクの胸は、もういつ赤ちゃんが産まれてもいいように準備を整えているのだ。
 ボクとメルは、互いを練習台に、おなかの中の赤ちゃんを育てるための訓練をしているのだった。


 そして――
 ボクがメルにおっぱいを吸われていると、すぐに『それ』はやってきた。できるだけ刺激しないようにと体重をかけないよう気づかうメルの身体の下、もうどこから見てもはっきり分かるほどにまあるく膨らんだおなかの奥で、ずる、ずる、とボクの意志とは関係なしに、『それ』が激しく暴れ出す。
「うぁ……っ」
「ポーレ、……痛いの?」
「だ、だい、じょぶ……、い、いつもの、だから……」
「辛かったら、言ってね? ……ポーレ」
 メルにも同じようにあることだから、すぐに意図は伝わった。
 膨らんだボクのおなかの中で、赤ちゃんが動きまわる――胎動の感覚。それはもう随分前から、はっきりと感じられていた。
 粘液に満ちた袋の中を、赤ちゃんが身をよじり、足をばたつかせ、激しく動き回っている。その動きは、力は日を増すごとに強く激しくなり、いまでは辛いくらいだ。
 おなかの中で暴れ出す赤ちゃんをなだめるため、ボクはそっと膨らんだおなかを撫でた。ずっしりと重く膨らんだおなかは、ぱんぱんに膨らんだ革の水袋みたいに硬く張りつめ、身体の外側にまでおおきくせり出している。おなかの内側を蹴飛ばされる回数は日に日に増し、胎動を感じない時はなかった。
 おなかを抱えた手のひらの下で、はっきりわかるくらいに、不機嫌になった赤ちゃんが暴れては、ぞる、ぞると身をよじり、寝返りを打って、むずがるようにおなかを蹴飛ばす。ボクはなんどもおなかを撫でて、それをなだめてやらなければならなかった。
「んぅっ……ご、ごめんね……ごめんね……?」
 メルに優しくおっぱいを吸われて、ボクが少しでも気持ちよくなってしまうと、それを敏感に悟って、おなかの赤ちゃんが動き出すのだ。
 いったいどうやってわかるんだろうと思うけれど、おなかの中の赤ちゃんは、自分のものであるはずのミルクを横取りしている誰かに怒って、そんな事をさせるなとボクに要求してくるのだ。それは俺のものだ、誰にも渡すな、と叫んでいるみたい。その傲慢さは、ボク達を抵抗も拒絶も構わずに次々に犯した沙族達の態度にそっくりだった。
 その感情はちゃんとボクにも伝わってきていた。不思議なことはない。だってボクはこの子のお母さんだから、そういうのは分かるようになっているのだろう。
「んんぅ、くぁ、ぅぅ……!!」
 膨らんだおなかが上下し、内側からゆっくりと盛り上がる。狭い子宮のなかで、赤ちゃんが不機嫌に身をよじって動き回る。
 ここ数週間で、赤ちゃんにはしっかりとした骨格や筋肉も出来たみたいだった。小さな身体が、力強い手足が、ボクのおなかを内側から圧迫する。ただでさえ、おなかの中の赤ちゃんはもう大きくなって、仰向けに膨らんだおなかを抱えているだけでも大変になってきているのに、こうも活発に動き回られるのはとても辛かった。
 身体の中身が圧迫されて、内側から引き裂かれてしまいそう。
 こうやって、ボク達がおっぱいの処理をしている間中、赤ちゃんたちは不機嫌になって、大きく膨らんだ子宮の内側から、粘液の中を暴れ回るのだった。
「んぅ、ちゅ……っは、ポーレ、いっぱい出るね……」
「ふぁ、あぅ、あ……、っあっ♪」
 胸を吸われながら、赤ちゃんがおなかを内側から、そこらじゅう構わずに蹴飛ばし続けられていると、どうにかミルクの処理が終わる頃には、ボク達はくたくたになって倒れてしまう。
 そうして、ようやく全部がおわり、息が途切れてどうしようもなくなってしまう頃になると――また、沙族たちがやってくる。
 ボク達は、おなかの中の赤ちゃんのためのミルクを絞ったばかりの胸で、飲み込んだ唇で沙族のいきり立つ生殖器を慰め、いっしょうけんめい扱いてやらねばならなかった。
 ボク達が妊娠していても、沙族たちはボク達を○すのをやめなかった。おなかに赤ちゃんがいるから、おねがい、静かにして、と懇願しても、彼らは聞き入れなかった。丸いおなかの上に構わず圧し掛かって、大きなペニスでがつんがつんと子宮を突き上げてくる。何かの拍子に赤ちゃんが傷ついてしまわないかと、ボクは泣き叫んで抵抗した。
 どうも、彼等の性欲はメスの発情によってコントロールされていて、繁殖期を迎えたメスがいる限りいつまでだって交尾を続けるらしい。こんなおなかをしていても、なるほど確かに発情しているボク達は、きっと彼らにとって性欲を満たす本当に都合のいいメスなんだろう。
 大きなおなかを抱えながら、懸命に彼らを受け入れ手いる間にも、まったく容赦しない沙族のリーダーにうつ伏せにされて後ろから覆いかぶさられ、腰が壊れてしまいそうなくらいにペニスを激しく打ち込まれ――子宮の中にまで、激しい射精の勢いでどくどくと白濁液を注ぎ込まれている間。
 ボクのおなかの赤ちゃんは凄まじく不機嫌になってひたすらに暴れ続ける。自分達が育っている子宮を、そこに満たされた卵胞の羊水を汚す不埒者を、逃すまいと抗議の声を上げ暴れるのだ。まさにそれをしているのが、自分達の父親だということにも気づかないまま。
 ボク達は、熱く灼けた太いペニスに、おなかに圧迫されて狭くくねるようになった膣を無理やりこね回される快感に悲鳴を上げ、野太く節くれだったその先端が子宮の口を押し潰し、赤ちゃんが育つゆりかごを突き破ろうとするのと。
 快適な育成環境を保てない、不出来な母親に対して不快を露わに、すぐ傍の父親たちのペニスを排除しようと子宮の中で暴れつづける赤ちゃんの胎動に挟まれて、毎夜毎夜、数え切れないくらい気を遣るのだった。




 ◆11◆

「うぁ……っ」
 ずる、ずる、ずる、と。今日もおなかの赤ちゃんは、大きく膨らんだボクの子宮を占領するように動き回っている。
 あいつらの――ボクの赤ちゃん。
 身体を丸めて、手足をばたつかせ、粘液の中をぐるぐると。1日に何時間かを除いて、赤ちゃんは落ち着きなく動き続けた。産まれてくる前に、外の世界で生きてゆくための運動をしているかのようだ。
 もう赤ちゃんの身体は小さな筋肉の塊ではなくて、ごつごつした皮膚や、曲がった背中に出っ張ったごつごつとした背骨と、大きな頭、そこから伸びる太くて長い尻尾の感触まで分かるくらいに、がっしりと育っているのも分かった。
 普通の人間の赤ちゃんは、こんなにも活発に動き回るものなんだろうか。残念ながら、妊婦になったのがはじめてのボクにはよくわからない。
 毎日代わる代わる、沙族達に犯され続けて、ボク達の身体は、そんな刺激すら敏感に感じ取ってしまうくらいに仕込まれている。赤ちゃんが大きくなるための準備すら、あさましく快感として受け取ってしまう、いやらしい身体になってしまっていた。
 いまでは、夜明けの前に動きだすおなかの赤ちゃんに浅い眠りを中断され、ぼんやりと明け方の光を感じるのが日課になってしまっている。全身はすっかり疲れ果て、暇さえあればうとうとと目を閉じてしまうことがほとんどで、まともに考えるのも難しい。
 日記を書いている暇も、もう無いに等しかった。この文章だって、何日もかけて書き足しているのだ。
 そんな有様でなお、ボクの身体はそれに悦んでいるらしい。
 起きる頃にはいつも、足元はいやらしくほころび、蕩け、くちゅくちゅに蜜を溢れさせて塗れているのだ。そっと指を伸ばせばぴりりと甘い電流が背筋を走り、思わず飛び出す喘ぎ声を抑えきれない。
 そのことにはじめは衝撃を受けたものだけど、もう今は慣れてしまっていた。
「…………っ」
 なにしろ、ほとんど一日中、窮屈でしょうがないと暴れ続ける赤ちゃんの相手をし続けていなければならない。ボク達はそれにすっかり参ってしまっていた。そもそも大きく育ち続けた赤ちゃんは、粘液に包まれた卵胞ごと、風船みたいに膨らんだおなかいっぱいに詰まっている。身体を起こすだけでも凄い重さが、腰に圧し掛かってきて、四つん這いになるのも辛い。。
 これが荷物を背負ったり抱えたりしているだけなら、下ろせば済むことだけど、これはそんなわけにはいかない。母親になるってことは、そう言うことだ。
 ――きっとお母さんは、ボクを産むまでずっとひとりで、父親の助けも借りず、音を上げることもなく、10ヶ月もこの重さに頑張り続けたんだろう。それに比べれば、たった4ヵ月半で呻いているボクなんか、情けないのもいいところだ。
 けれど、ひとつだけ言い訳させてもらうなら、人間の赤ちゃんは、きっとここまで元気じゃないだろう。
「…………」
 でも。そうやって元気なあかちゃんが、いまは、たまらなく、愛おしい。経緯はどうあれこうやってボクのおなかの中に芽生え、根付き、育った小さな生命が――今のボクに希望と元気を与えてくれる。
 いつしか、ボクは日に日にまあるく大きくなる自分のおなかを、そっと撫でて、心地よさを感じる自分に気付いていた。
 沙族の子種、それもはじめは望まない形で妊娠したのであっても、ボクがおなかを痛めて産む大切な赤ちゃんだ。ボクの生命を繋いで生まれてくる赤ちゃんが、そうやって毎日元気よく動いているのは、理屈ではなくとても素敵なことに感じられた。


「メル、そろそろ起きないと……」
 その日の朝。いつもよりも遅くまで眠っていたメルを起こそうとして、ボクはメルの様子がおかしい事に気付いた。
 うつ伏せになったメルは汗をびっしょりとかいて、触れた二の腕もびっくりするくらい熱い。身体を丸めるようにしてぐっと息をつめ、きつくを歯を食いしばって。
「ポーレ……っ」
 荒い息を堪えて、縋るようにボクの名前を呼ぶその様子で、ボクはようやく、メルの異状を理解する。
 メルは産気づいていた。視線を動かせば、ボクに負けないくらい大きくなったメルのおなかが、ゆっくりではあるけれど確実に、大きく動き、波打っている。
 汗に濡れたメルの額には、髪が張り付いて、細い手足が小さく震えた。
「や……だ……っ、これ、怖い……どう、しようっ……」
「め、メル、落ち着いて……ゆっくり、息……」
「は、はッ、はぁッ……」
 ボクは無理矢理メルの身体を支え、襤褸を敷き詰めた苔のベッドに仰向けにさせた。額にびっしょりを汗を浮かべたメルが、ボクの頼りないアドバイスに従って、必死に息を繰り返す。それでも押し寄せる衝撃にはまるで頼りなく、メルは何度も悲鳴を上げる。
 メルの足の付け根はこれまでにも見たことがないくらいびっしょりと湿り、大きなおなかの膨らみは、昨日までよりも下の方、脚の付け根のほうに向かって降りてきていた。
 もう、赤ちゃんを内側に収めきれなくなった子宮が降下して、その口をじわじわと拡げているのだ。その余波がいま、メルを襲っているのだと分かった。じっとりとぬめる液に湿ったメルの脚の奥が、張り裂けてしまいそうに膨らんでいる。
「っ、あ、あ、っ、あーっ!!」
 突然ぐぅっ、とメルのおなかがうねり、メルは目を見開いて叫ぶ。メルのおなかの中で、赤ちゃんが力強く動いている。その様子から見るに、多分、陣痛は昨日の夜くらいから始まっていたんだろうと分かった。
 原因はたぶん、昨日メルを一番に独り占めしたあの刀傷の沙族だ。どういうわけか久しぶりに姿を見せた彼は、この部屋に入ってくるなりまっすぐにメルの元に近づくと、しゅうしゅうと激しく唸り声を上げながらメルの細い身体を掴んで離さず、あきれるくらい何度も何度も交尾をしていた。
 赤ちゃんのいる大きなおなかを揺すり、何度も何度も野太いペニスを深々と突き立てられながら、メルは甘い嬌声を繰り返して達していた。おなかの奥に射精された白い粘液が、とうとう結合部分から音を立てて溢れてしまうまで。メルはひたすら、あいつに犯され続けた。
 ひょっとすると――あいつはメルの事を気に入っていたのかもしれない。大きな身体で傷を負っているということは、沙族の中でも高い地位をもっていて、これまで何度も修羅場を潜った経験があることを示している。また何か、大きな争いや狩りが近々予定されていて、あいつはそのために、メルに新しい子種を仕込もうとしたのじゃないだろうか。
「っあ、ぅあ……、やだ、っ、やだぁあ……痛いい、おなか、裂けちゃうぅっ…!!」
「大丈夫、メル、落ち着いて、息をしっかり!!」
 激しく暴れ酔うとするメルの身体を必死に押さえ、ボクは懸命に彼女を励ます。
 あんなに大きなおなかを、構わずあそこまで無茶苦茶に、乱暴に子宮を突き上げられていれば、メルがこうなってしまうのも仕方がないのかもしれない。
「ぁ、や、ポーレ、っは、ふ、……こ、怖い、怖いよぉ……っ、動いてる、赤ちゃん動いてる……ッ」
「メルしっかり、大丈夫、大丈夫だから!!」
「や……、おなか、裂けちゃう……熱い、熱いよぉ……!!」
 びく、びく、とまるで見えない手が掴んでいるみたいに、メルの膨らんだおなかがうねる。
 そこにはっきりと、自分ではない別の生命の意思を感じて、メルは混乱していた。――あるいは、おなかの中の赤ちゃんの不安や焦燥みたいなものを、メルも感じ取ってしまっているのかもしれない。
「ぁ、っあ、ああああぁああ!?」
「メルっ!?」
 がくん、と身体を仰け反らせ、メルが悲鳴をあげる。メルの下腹部に緊張が走り、脚の付け根に広がった女の子がぷしゅ、と小さな潮を噴き上げる。
 メルの力の篭った指先にきつく掴まれて、ボクの腕の皮膚が破れ、血が滲む。ボクは痛みに顔をしかめながら、メルにちょうどいいように、寝床のぼろ布を引き裂いて、握らせた。はあはあと息を荒げるメルの口に、水を含ませる。
 喉を湿らせる水を飲み、めるはぜえぜえと息を荒げた。
「ぁ……ポーレ、おなか……あたし、赤ちゃん……っ、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから、落ち着いて、メル!!」
 沙族の赤ちゃんが、何ヶ月で生まれるのかボクには分からない。そもそも、タマゴで生まれるのかもしれない彼等の赤ちゃんが、ボク達のおなかで育った時どうなるのかなんて、誰も知らないことかもしれない。
 だから、メルのこれが危険な状態なのか、それとも正常な出産なのか、はっきり区別もつかなかった。
 いくら女の子らしくなったとはいっても、半年前まで“女の子”ですらなかったメルがはたして無事に赤ちゃんを産めるのか――メルの身体には不釣合いなほどに大きなおなかを見て、ボクは不安になる。それにおそらく、これは普通の沙族の出産――あるいは、産卵とも違うはずだった。沙族の子種が、人間の女の子を犯して受精させた生命なのだ。異形の胎児が、きちんと母体を安全に保って生まれてくるのかもわからない。あの鋭い牙や爪、恐ろしい力を持つ手足をもった生き物がまともに産まれてくれるのだろうか。
 メルが出産を終える前に、赤ちゃんが暴れ回るのに耐えきれず、命を落としてしまう可能性すらあった。
 焦るボクが、なんとかメルを楽にしてやろうとしていた時。

 いつもの、がたん、と閂をはずす音が聞こえた。

「え、っ」
 いつもより早い――と振り返る間もなく、そこには群れる沙族がひしめいている。彼らは洞内のボク達の様子を気にする事もなくぞろぞろと部屋に入ってくると、おなかを抱えて苦しむメルを遠巻きに見ながら、ボクのほうをじろりと振り向いた。

 ……その日。
 メルは、ボクが犯されている目の前で、沙族の赤ちゃんを産んだ。


 (続)

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シロフミ 2020/08/05 22:35

旅する少女と異貌の民・その1

【前回セッションまでのあらすじ】
 ラビオリールを後にし、長城を越えた沙帝国の街道で「のるたまご」の殻を拾おうと砂漠に踏み出したポーレ達は、[移動チェック]に失敗して過酷な砂砂漠の中に迷い込んでしまう。さらに[野営チェック]にも失敗したポーレ達は、その夜に不意をつかれて襲撃を受けてしまう。
 バルフェンとティグレの防戦もむなしく、囚われの身となったポーレとメル。
 二人を捕えた砂漠に棲む異貌の民「沙族たち」は、発情期を迎えて雌を確保するために砂漠に迷い込んだ旅人達を狙ったのだった。代わる代わる犯された二人は、やがて彼等の仔を孕み……

 リプレイ3巻7話、《ラック・ラック・ラック》をかけ損ねたあたりから分岐した展開。ポーレの手記を模しています。



 ◆1◆

 ボク達がここに閉じ込められてから、これで十二日が過ぎた。
 もっともっと長かったようにも思うし、つい昨日のことのようにも思う。日にちの経過がだんだん曖昧になってきているみたいだった。
 がりり、と手帳の一ページ目に十二本目の線を引き、ボクは胸に満ちたやるせない思いを吐息と共に静かに吐き出す。
 こんなことをしていても仕方がない、と解ってはいるけれど、ボク達にできることは驚くほど少ない。何かの役に立つかもしれないと思って書き続けている日記だけど、いまはこうして以前と同じことを続けている間だけ、自分を保っていられるような気だする。
 ペンを擦るボクの隣で、ぼんやりと天井の亀裂を見上げていたメルが、ぽつりとつぶやいた。元気よく跳ねていた左右に括った髪もだらりと垂れ下がり、表情にも疲労の色が濃い。
「ねえ、ポーレ、あたしたちどうなっちゃうのかな」
「……そんなの、ボクにもわからないよ……」
 何度繰り返したのかもわからないやり取り。メルの不安はどうしようもないことだろうけれど、ボクにはそうやって答える以外、何もできなかった。冷たい言い方だとなじられても仕方がない。でも、やっぱりメルと同じ囚われの身のボクにはなにも保障できないんだ。
 きっと聞こえの良い希望を並べることはできただろうけど、同じ運命に囚われたボクがそれを口にしても、空々しいだけで耐えられなかった。
「……っ」
 堪えきれなくなったんだろう。座り込んで脚を寄せて俯いたメルが、小さく肩を震わせる。すぐに頻りに目元をぬぐおうとする彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
 押し殺したその声を聞いていられなくなって、ボクはぎゅっと耳を手で塞いだ。
 薄暗い洞窟には、もちろん窓なんかない。天井にわずかに入った亀裂から差し込む光が、朝と夜を教えてくれるわずかな標だった。けれどそれも、雨や曇りの日にはわからなくなってしまう。
 それでもぼんやりと周りが見えるのは、壁や床にに自生しているルリイロゴケの作用だ。湿り気を嫌うふんわりとした苔は、尖った岩を覆って、それなりに快適なベッドを提供してくれている。おかげで夜目の利かないボク達にも、目を凝らせば辛うじて文字が書き取れるくらいの環境が保たれていた。
 洞窟にたったひとつだけの出口は、分厚い鋼鉄製の扉に閉ざされていた。強固な鍵と閂が掛けられていて、限られた時以外には決して開かない。もちろん、ボク達が力をあわせたくらいじゃビクともしなかった。
 盗賊やニンジャ……たとえばクリュウとかだったりしたら、なんとかあり合せの道具で鍵をあけたり、閂を切ることもできたかもしれない。ティグレやバルフェンがいてくれたら、力づくでドアを押し破ることもできたかもしれない。でも、複雑な鍵と丸太のように太い閂を開けることは、ボク達にはどうやっても不可能だった。
 空気抜きの天井の亀裂を目指そうにも、いくら岩肌がむき出しでもとっかかりのない岩壁を登ることなんてできないし、もし足を滑らせたらそのまま床に落っこちてしまう。苔のベッドはそれなりにふかふかだけれど、5mも上から頭をぶつけて無事でいられるかは試したくはなかった。
「…………」
 何度見回しても、結果は同じ。ボクたちの閉じ込められた洞窟は完全に外界と隔てられていて、ここから出られる要素なんてどこにも見当たらないのだ。
 それを確認するたび押し寄せてくる濃い絶望から目を反らすために、ボクはまた手帳をめくり、空いた頁に文字を綴る。
 思えば、これをはじめたのはボクが商人になろうと決心した時だった。その日にあったこと、思ったこと、自分のしたこと。商売のことであるかそうでないかに関わらず、ボクはこの旅をはじめて感じたすべてのことを、この手帳に綴っている。母さんのような商人を目指して、その夢を追いかけるなら、見聞きした大切なことや忘れたくない大事なことは、全部覚えていかなければならないと思っていた。
 そういえば、自分のことをボクと呼び始めたのも同じころだ。ぜんぶ商売のためだった。旅の間にも行商人は何人も見かけたけれど、ボクと同じ女の子の商人は驚くほど少なかった。一番歳の近かったのがあのレベッカなんだから、ちょっと笑ってしまいたくなる。
 世慣れた年上の男の人ばかりを相手にする商売のなかで、ボクは少しでも侮られまいと必死に背伸びをしていた。みんなが夢中になるお洒落や洋服なんかにも見向きもせずに、旅の噂に耳を澄ませ、一つでも多くの儲け話を探していた。アルほどじゃないけれど、ボクのことを女の子だと思わなかった人も、それなりにいると思う。
 けれど――そんなボクの格好にも惑わされずに、あいつらは旅路のボク達をたくみに見つけ出し、狡猾に罠をはって、仲間達と分断してから攫っていったんだ。
「……ポーレ」
 不意に名前を呼ばれて、ボクは顔を上げた。
 目を赤く泣き腫らしたメルが、ボクのほうを申し訳なさそうに見ている。
「なに、メル?」
「……あの、ごめんね。あたし、また……」
「いいよ。メルは悪くない」
「あはは、ダメだね……あたし、もっと元気出さなきゃいけないのに……こんなんじゃ」
 無理に笑顔を作ろうとするメルがいじましくて、ボクは目を反らす。
 メルの辛さは、ボクよりもきっと重い。だから、泣き崩れて頬を濡らしたまま、それでもなお笑おうとするメルは、痛々しいくらいに悲しかった。
「あんなこと、くらいで、くじけちゃ……ダメだよね、っ……」
「メル……」
 無理に上向こうとしたメルの表情がまたくしゃりと歪み、悲しみに彩られる。ボクはそっとメルに近寄ると、小さな身体をぎゅっと抱きしめた。一瞬、びくっ、と身を強張らせたメルは、ゆっくりと緊張を解いてボクの背中に手を回す。
 緊張の糸が切れたんだろう、。今度ははっきりと声を上げてメルが泣き出す。
 見知ったボクの傍に寄り添う間さえ、不安に震えるメルの首筋には、痛々しいまでに赤く腫れあがった“やつら”の手形が残っていた。





 ◆2◆

 ボク達を攫ったのは、砂漠のなかでも岩や瓦礫の多い地域に棲んでいるという、沙族というやつらだった。二本の手と二本の脚をもって、道具をつくり立って歩ことができるけれど、その丸太みたいに太い手足にはびっしりと鱗が生え、顔は蛇や鰐にそっくりだった。長い尻尾をくねらせて砂の中に潜って身を潜め、通りがかった獲物を襲う。
 砂の上では人間よりもずっと素早く、しかも力が強くて知恵もある。砂漠ではゴブローチと同じように人間からは忌み嫌われている生き物だった。
 むしろ、ゴブローチと比べてボク達と同じ言葉を喋ることができない分だけ、沙族達より厄介だと言っても良かった。出会えばお互いに殺し合うか、どちらかが追って来なくなるまで逃げるしかないという。
 奴らは沙帝国との国境、長城を越えたばかりのボク達を、砂の中に隠れながらひっそりと付け狙っていた。ボク達がうかつにも、たまごの殻を取ろうと街道を外れたのは、やつらにしてみれば絶好のチャンスだったんだろう。
 慣れない砂漠の旅に道に迷ってしまったボク達が、アルやクリュウとはぐれ、街道に戻ることもできないまま疲れ果ててテントを張ったタイミングを見計らって、やつらは一斉に襲い掛かってきた。狩人の勘ですぐに異常に気付いたティグレが応戦し、バルフェンも愛用の剣を構えてそれに加わった。
 襲ってきたのが沙族だと気づいたバルフェンは顔色を変え、普段はみせないような真剣な顔で、ボク達に大急ぎで逃げるように叫んだ。沙族にはどんな性質があるのか、バルフェンだけは知っていたのだ。
 ボクとメルはよくわからないまま、荷物をまとめて、彼らの襲ってきたほうとは逆向きに逃げ出した。
 けれど、沙族の数はボク達が思っていたよりもずっとずっと多かったんだ。
 数キロもいかないうちにボク達はすぐに沙族に取り囲まれ、そのまま捕まってしまった。
 ……唸り声を上げて勇敢にもたちむかったリラは、あっさり槍で突き殺された。メルの持っていた可愛い剣も、あっさり取り上げられてしまった。そしてやつらは、ボク達をこの洞窟に運び込んで、閉じ込めたんだ。
 はじめは、なにかの人質にボク達を誘拐したのかと思い、その後にあいつらの、人とは違う姿を見て、ボク達は食べられてしまうのかもしれないと恐怖を抱いた。
 けれど、それも違っていたことを、すぐにボク達は思い知らされた。
 やつらは、ボク達を人質でも食料でもなく、

 ――雌として、使うつもりだったんだ。

 その日の夜、ボク達のいる洞窟にやってきた沙族たちは、荒い息をこぼし興奮した声を上げていた。中にはもうはっきりと、脚の間に野太いペニスをびくびくといきり立たせているやつまでいた。
 その時になってボクはようやく“そのこと”に気付いたんだから、我ながら危機感の無いことだと思う。旅をしていて、女の子が一番最初に気をつけなければいけないのはそのことなのに。
 やつらはそのまま、ボク達に次々と覆いかぶさってきた。
 あいつらは、多分においか何かで、ボク達が成熟したメスかどうかを区別していた。だからボクのほうが、優先して狙われたんだろう。
 必死の抵抗なんて、まるで紙のよう。たぶん十匹以上いたやつらは、代わる代わるボクの上に乗り、ボクの身体に太く大きな肉杭を突き立てて、激しく腰を叩きつけた。ボクはそのたびに悲鳴を上げて、喉が枯れるまで泣き叫んだ。
 その時のことはほとんど覚えていないけれど、やめて、やめて、離して、ポーレが死んじゃう、助けて!! というメルの懇願だけが、妙にはっきりと聞こえていたのが印象に残っている。
 押し寄せた沙族達に、気が遠くなるくらいの長い間、犯されて。
 ボクはそのまま気を失った。
 思い出したくもない、一生かかっても忘れられないだろう悪夢は、けれど次の日も、その次の日も同じように始まって、同じように続いたのだ。
 夜になるとやつらはやってきて、一晩中ボクたちを犯した。それがもうずっと、ずっと続いている。
 壁の印が12日目を示しているんだから、毎晩と言っても12晩なんだろうけど、それが2週間に満たない日々だとは、冷静に考えてみても本当の事だとは思えない。
 唯一の救いは、やつらがメルよりもボクに興味を示してくれたことだ。ボク達の中で一番『女の子』な格好をしていても、まだちいさなメルには、雌としての価値は薄かったのかもしれない。だからせめてメルだけでも守れればと思って、3日目から、ボクはやつらに抵抗しなくなった。
 けれど、嫌悪感を懸命にねじ伏せて、頑張ろうと思ってもボク一人だけじゃやつら全員をひきつけることはできなかった。押し寄せる沙族達の数は十じゃとてもきかない大勢で、そいつら全員をボクが一人で同時に相手できる訳がない。
 どうしてもあぶれてしまう奴らが出て、そいつらはすぐにメルに群がった。メルもあいつらの汚らしいペニスを咥えさせられたり、ぺたんこの胸を無理やりつかまれて、どろどろした精液を顔中にぶちまけられたりしてしまうのまでは防げなかった。
 そしてとうとう、昨日。
 ――メルも、あいつらに犯されてしまったんだ。
 ずうっと、ボクとあいつらの行為を見せ付けられていたんだから、メルはその恐ろしさを誰よりもよく思い知らされていただろう。人間とはまるで違う、冷たい鱗と、ナイフみたいな爪の生えた太い腕に掴まれて、股間にびくびきとのたうつ太いピンク色の杭みたいなペニスを、股の間に突き立てられる瞬間を――誰よりもよく、メルは見知っていたはずだ。
 メルの絶望に彩られた悲鳴は、まだボクの耳の奥に反響している。
 ボクの時よりも、きっとメルは辛かったろうと思う。
 よりにもよって、あんな相手に、女の子のはじめてを奪われてしまったんだから。
 メルよりもほんの少しだけ、ボクが冷静で居られるのは、旅に出る前に、村の友達に頼んで、はじめての経験をさせてもらったからだ。
 ……旅は村のみんなが言うほど楽なものじゃなく、過酷なことだって少なくない。そんな時、女の子であることはきっと邪魔をすることもあるから。だからそうしておいた方がいいと、母さんの代わりに、ずっと世話になっていた斜向かいのおばさんに言われてのことだった。
 でも――メルは違う。ボクのように、好きだったかどうかははっきり解らないけれど、少なくとも一緒に暮らした見知った相手じゃなくて、あんな化け物みたいなやつらに、はじめてを散らされたんだ。きっと死んでしまいたいくらいに、苦しいだろうと思う。
「メル、……痛いの?」
「ううん、平気だよっ。これくらい、ぜんぜん――平気」
 それなのに、いつもと同じように無理して笑顔を作ろうとするメルが痛々しくてたまらなかった。
 メルの細い足の間には、まだうっすらと赤い血の痕も残っている。沙族達の大きな身体に圧し掛かられて、むちゃくちゃに振り回されて――太くて大きな肉の杭が、白い身体の奥まで打ち込まれる。
 無惨な光景に目をそらそうとしても、やつらがそれを許してくれなかった。やつらはメルが仲間に陵○されるのを見せ付けるように、ボクを抱え上げて揺さぶり続けた。あいつらの万力みたいな力を振りほどく事もできないままに、ボクはずっとメルが悲鳴を上げて暴れるのを見せつけられていた。
 メルも同じ。ボク達は、犯されている間じゅう、お互いの悲惨な姿を見せられつづけていたのだ。
 ……やつらはいつも、十人以上でやってくる。
 これまで、たった一人のメスだったボクの回りで、代わりばんこに順番を待っていたやつらは、メルもボクと同じようにメスとして使うことができるのだと知ってから、後先考えずにボク達に群がってくるようになった。
 顔も、胸も、唇も、手のひらも、みんなみんなやつらの欲望を受け止めるのに使わされた。
 男の子のことはよく分からないけど、射精というのは一人一回、で済むものじゃないらしい。へとへとになって最後の奴を相手している頃には、最初のやつがとっくに回復して、びくびくと雄の匂いを滾らせたペニスをボクの顔に押し付けてくる。他の奴らがボクを犯している間、それを見てまた興奮する奴も少なくなかった。
 それがずっと、あいつらが飽きるまで、ずうっと続く。
 だからそんなにも多勢の沙族達の相手をするのは尋常じゃなくて、やつらがとりあえず満足するまでの長い長い時間が終わるころには、ボクもメルも意識はほとんどなくなってしまっていて、疲れ果てたまま気絶し、泥のように眠り込んでしまうのだ。
 そして、半日も過ぎる頃にはいつもの最悪な目覚めがやってくる。
 最近ボクが見る夢は二種類で、大体は平凡な旅の中で、さっきまでの出来事が悪夢だったと思っている夢と、沙族達に犯され続けて殺されてしまう夢のどちらかだ。
 そのどっちでも、最悪な事は変わらない。目を覚まして、ああ、やっぱり夢じゃないと思いながら起き上がり、ボク達は吐きそうになるのを堪えながら、汚されたあそこや口や、身体を清める。
 やつらはやってくる時に水や食料を洞窟の中に置いていく。半分カビたパンや汚れた水でも、ボク達には大切な食事だった。砂漠では水は貴重で、沙族は人間は比べてとても少ない水分で生きていくことができる。だから、奴らがボク達を生かしておきたいと考えているのは理解できた。
 その水を使って、ボク達は一晩中振り回されて擦り切れた身体を拭うのだ。どうせまた夜にはどうしようもないくらい汚されるのだと解っていても、そのままにしておくことはできなかった。
 そうしている間中、ずっと、ずっと、
 惨めで、
 情けなくて、
 涙が出てくるばかりだった。
 ボク達は、またその日の夜も、沙族達に犯されるために、身を繕って綺麗にしているんだから。こんな惨めなことがあるだろうか?
 でも、でも、けれど。
 もし、ボクが捨て鉢になって、汚れを拭うこともせず、汚いままに地面に転がっていたら。あいつらはメスとしての価値を失くしたボクに興味を失って、処分してしまおうと思うかもしれない。そんなのは、絶対に、絶対に、嫌だった。
 だから、ボクは精一杯、あいつらに媚びて見せるしか、ない。それ以外に他の道が、ないんだ。
 ふと、旅の皆のことが思い浮かぶ。
 ……ティグレも、バルフェンも、アルもクリュウも、いまどこで何をしているんだろう。
 どうして助けに来てくれないんだろう。ひょっとして、ボク達のことを忘れちゃったんだろうか。それとも、あの時の襲撃でみんな、沙族に殺されてしまったんだろうか。
 そんなことはない、きっと必ず、助けに来てくれるはず。これまで何度もピンチの事はあったけど、最後にはちゃんと、無事に助かることができた。できたんだ。そうやって何度も自分に言い聞かせても、どこか心からは信じきれない。
 それくらいには、ボクは疲弊して、擦り切れて、疲れ切っていた。
 だって、一体何日経てば、何日待てばいいんだろう。ルリイロゴケのぼんやりとした灯りのなかでは、日にちの感覚もなくなっている。
 いまでは、毎日押し入ってくる沙族たちだけが、今日と明日の境界だ。
 それ以外の時間は眠っているか気絶しているかで、ほとんど意識がないのと同じだ。やつらに犯されている間だけ、ボクは生きているような気さえしてきていた。こんなことじゃいけないと思いはするものの、いまはもう、心が磨り減ってしまっているようで、悲しい、悔しいと思う感情さえ自分の思い通りにならない。
 夜毎、乱暴に跨られている時の衝撃と、痛みと、熱さだけが、ボクの希薄な意識をつなぎとめる実感になりつつある。
 ……いっそ、本当に気を狂わせてしまえたら、楽なのかもしれないけれど。
 それもできない、臆病なボクは、こうやって毎日を文字につづるしか出来ないんだ。





 ◆3◆

 がり、がりとドアをかきむしる爪の音。それがやつらがやってきた合図だ。
 分厚い扉を押し開けて入ってくる沙族達が、ボク達の前に押し寄せてくる。
 ぼろぼろのフードの下から覗くのは、ごつごつとした瘤だらけの緑色の皮膚。奴らの身体はその半分が鱗に覆われている。猫背の背中から伸びるのは丸太のように太い、鰐みたいな尻尾。人間とトカゲの中間のような顔には目蓋もなく、ぎょろりとした蒼い目玉には細い瞳孔が開いてせわしなく動いている。爬虫類みたいな顔をしているくせに、こいつらの身体は熱く、粘つく唾液を滴らせて吐く息はいつも白い。
 フードから突き出した長い口からぞろりと並んだ牙がはみ出し、大きな手のひらの指の一本一本にも、細いナイフみたいに太くて鋭い爪が伸びている。こいつらが本気になれば今のボクやメルなんかはあっというまに噛み千切られ引き裂かれ、ボロ雑巾みたいに捨てられてしまうだろう。捕まってすぐ、隙を付いてドアの外へ逃げ出そうとした時、ボク達はそれを思い知った。
 洞窟に入ってきた沙族たちはもう発情を始めていて、股間から野太いペニスをはみ出させているやつらばかりだった。興奮しきった彼らは、少しでも気に入らないことがあると、構わずに暴力を振るう。
 力のある優秀なオスが、従順に従うメスを獲得できる。強いオスだけが限られたメスを独占して、より力のある子孫を残すのがこいつらの社会だ。
 だから、ボク達はできるかぎり沙族の機嫌を損ねないように、おとなしく言うことを聞いてやらなければならなかった。
 ボクとメルは、それぞれの沙族たちに囲まれるようにして洞窟の隅と隅に引きずられてゆく。ボクもメルもすっかり諦めていて、もう逃げやしないとわかっているはずなのに、こいつらは警戒を解かなかった。
 まあ、もしメルと隣り合って犯されていたとしても、それは絶望を際立たせることにしかならないだろうけれど。
「っ……ふ」
「ぅあ……」
 どさり、と苔の上に投げ出されたボクの前に、股間に生々しい肉色のペニスをいきり立たせた沙族たちが並ぶ。普段は身体の中にしまってあるらしいけれど、ボクはこうなっている以外の、こいつらの姿を見たことがない。
 言葉は通じなくとも、その蜥蜴みたいな口からしゅるしゅると漏れる息遣いで、やつらの気分はなんとなくわかる。ぎらぎらと目を滾らせて群がってくる沙族たちに身体を千切られてしまわないよう、まず一番最初にボク達がすることは、もっとも力のある強いオスの傍に擦り寄ることだ。
 もし、迂闊にもこいつらの中で同じくらいの強さを持っているやつらの間にうっかり入ろうものなら、順番を巡って争いが始まる。ボク達はやつらにとってただの所有物で、気に入ったおもちゃのように奪い合われる存在だ。
 たたでさえ乏しい知性を発情してさらに薄れさせているこいつらに、加減を知らない力で腕を掴まれ脚を噛まれ取り合いになってしまったら、間違いなくボクは死んでしまう。
 だから、メスとして身を守るためにも、ボクは他のオスたちよりも強い、一番乗りをしても誰も文句の言えない大きなオスの相手を、最初にしてやらなければならなかった。
 ボクに群がってきた群れの中で一番強いのは、片目の沙族。ほかのやつらよりも頭一つ大きく、大きな刀傷で右目を失っている奴だ。たぶん、どこかの狩人か隊商の護衛にやられたんだろう。そんな深い傷を持っていてなお、こいつは凄い威圧感を放っていて、ほかの沙族たちを一睨みで黙らせる。
「んぅっ……」
 こみ上げてくる嫌悪感を必死に押し殺し、ボクはそいつの足元に這いよって、ボロボロの服を脱いだ。
 まるで場末の娼婦みたいに、身体をくねらせて自分が悦んでいることを教え、服を脱いで敵意のないことを示し、自分から沙族の股間に顔をうずめ、目の前で反り返ったペニスを掴んで、口に含む。
 これからボクは何時間もの間、こうして懸命になってこいつらを満足させてやらなければならなかった。
「うく……あ、ぐっ……」
 順番を待ちきれない沙族たちが、びたんびたんと尻尾を地面に打ち鳴らし、ボクの足首を掴んで引き寄せようとする。けれど片目の沙族がしゅぅっと低い唸り声を上げると、そいつらはたちまち萎縮して後ずさった。
 10人以上の沙族に、本当に毎晩毎晩代わる代わる、彼らが欲望をすっかりはき尽くすまで犯されてしまえば、絶対に身体がもつわけがない。だからすこしでも、ボクは他の場所でこいつらを愉しませてやらなきゃいけなかった。
 剥き出しになった胸のふくらみを身体の前に寄せ合わせて、得体の知れない粘液にぬめるペニスを左右から挟み、いっしょうけんめい扱く。手でも覆いきれず、口にも含みきれないこいつのペニスを気持ちよくさせる方法はこれしかなかった。酒場の寝物語や風聞で聞いたことがある方法を使って、ボクは片目の沙族に奉仕する。
 脈打つ太い肉の杭は、昨日もおとといもボクの身体に深々と打ち込まれ、胎奥までを容赦なく引き裂いた凶器だ。焼けた鉄のように熱く火照るそれは、酷い匂いをさせていて、触れるだけでも吐きそうになる。
 それを必死に堪えて、ボクは沙族を気持ちよくさせるために懸命だった。
「んぅ、むっ、れるっ、はむっ……っぷ……」
 胸の間からはみ出したペニスの先端を口に含み、唇をすぼめて吸い上げ、舌を使って先端を刺激する。ペニスの鈴口のところからは先走りの苦くてしょっぱい味が溢れ、それはぴゅるぴゅると吹き出して顔まで飛ぶ。毎日毎日同じことをしているのに、こいつらの猛り具合はまったく衰える様子がなかった。
 片目の沙族が唸るようにい喉を震わせて、ボクの頭を大きな手で掴み激しくペニスに押し付けた。
 半分は胸肉に埋まっていても、それでも呆れるくらい太くて大きな肉の塊に、ボクの口が割り裂かれ、喉奥までぬめる剛直が滑り込む。
「んぶっ…!? えぐっ、ぅぶっ……っは、ぐ、っ」
 噛み付いてやろうとか、千切ってやろうとか、そんな勇ましいことは思いつけもしない。あるのはただ、柔らかくて硬い、おぞましいな感触が喉の奥、胃までを貫く苦痛。本当に自分がただのモノにされているような感覚さえある。
 それでもボクは、顎が外れそうに大きい肉竿を、吐き気を堪えて喉の奥まで咥え込むのだ。
 一生懸命に舌を動かし、喉をすぼめて、ペニスをしごく。
 喉奥までみっちりと、口腔をおぞましい肉に埋められて――今この瞬間、ボクの唇は、商売のための取引交渉でもなく、ご飯を食べる事でもなく、恋を語ることでもなく、こいつらの欲望を少しでも多く処理してやるためだけ存在している。
 自分がただの肉の孔になってしまったことを思い知る、一番惨めな瞬間。
「っ、ぐ、えふ、れるっ……」
 息が詰まり、口腔を占領する醜い塊を吐き出そうとえずくボクの口の中で、ペニスがびく、びくと震え、根元から大きく脈打って、先端へと灼熱の滾りが集まってゆく。
 片目の沙族が激しく腰を震わせる。胸から唇、舌、そして喉。まるでオオシロウシの腸でできたホースに水を流した時みたいに、膨らんだ肉の塊がペニスの根元から順番に競りあがってくる。ボクは、滾る肉竿と触れたありったけでその瞬間を感じ取った。
 ごぼぅ、と喉の一番奥に叩き付けられる白濁を、どうすることもできずにただ飲み込まされる。
 ぬるぬると胸に挟まれたペニスがくねり、なんどもなんどもポンプのように白い粘液の塊を唇への奥へと注ぎ込んでくる。どぶ、どぶ、と脈打ちほとばしる精液は、一口二口で飲み込めるようなものじゃない。これを直接、膣内(ナカ)で出されたりしたら、本当におなかが張り裂けてしまいかねなかった。
「っっ、げほっ、ぅぐっ、ぇうっ……ッ」
 片目の沙族が満足そうに息を吐き、ようやく頭を万力のように押さえつける手が緩む。そこから逃れ、喉を塞いでいたペニスを吐き出してから、ボクは暫く動けなかった。




 ◆4◆

 べとべとと口の中に溜まった白濁を吐き出して、噎せ返るほどの獣臭さに顔をしかめ、下を向いて咳き込む。
 その間にも、胸に挟まれたままの沙族のペニスは、なおも残った精液を噴き上げる。びゅる、びゅっ、と噴水のようにボクの顔を汚す白く濁った青臭い粘液を、ボクは顔じゅうで受け止めさせられた。
「っ――は、っ、はぁっ、えほっ……」
  片目の沙族はしゅうしゅうと息を漏らしながら、なおも強くボクの胸にペニスを押し付けていた。大してない膨らみの谷間にねじ込まれたペニスはしつこく精液 を迸らせ、べっとりと糸を引いている。飛び散った精液がとろとろと垂れ落ち、頭がくらくらしそうに濃いオスの匂いが、ボクの意識を塗り潰してゆく。
  こうやって――口や手のひらで気持ちよくさせられることに、沙族たちは慣れていないらしい。同じように瘤だらけ、鱗だらけのこいつらのメスは、こんなこと をするには不向きな身体をしているからだ。そう言う意味では、こいつらは柔らかくて温かいボク達人間のメスを、とても重宝しているらしかった。
 だからなのか、本来の目的を達さなくても、こうして胸や舌や唇で満足させられれば、こいつらはさして文句も言わずに帰っていく。
 ……もっとも、それだって一匹につき一回じゃ済まないんだけど。
 でも、それは逆に言えば、ボク達がこうして、こいつらを気持ち良くさせて、満足させるに十分な雌である限り、ボク達の最低限の命の安全は、保たれるのだということだ。
 そう言う意味では、メルもやつらの『役に立つ』事が証明されてしまったのは、悪い事ばかりではないはずだった。やつらのきまぐれで殺されるのと、延々果てもなく犯され続けることのどちらがマシなのかは、分からないけれど。
 あさましいボクの打算を知ってか知らずか、休む間もなく、ボクの目の前には次のペニスが突きつけられていた。
 順列で言うならおそらく2位と3位のオスが、左右からボクに次の相手を要求する。彼らの群れの中ではここまではなんとか序列らしきものができているが、これ以降の順位はあまり明確ではないようで、ボクを捕まえる順番は日毎に違っていた。
「っふ、は……んぅっ……ぁむっ……れるぅ……」
 2匹が同時の場合は、丁寧に時間をかけてなんていられない。片方を唇で、もう片方を胸で相手する。どちらかに気を取られるともう片方から強烈な催促を受けるので、疎かにならないように懸命にペニスを扱いた。
「んあう、待って、だめっ、じゅ、順番だからぁ……」
 洞窟内に小さな叫びがあがる。見れば、メルが足首を掴んだ沙族に抵抗しようとしているところだった。
  メルも、ボクの有様をずっと見せられていたから、沙族達の修正は良く知っていた。でも彼女にはまだ小さな胸しかないので、ボクのようにはできない。だから たったひとつしかない小さな口に精一杯ペニスをほおばって、苦しさに呻き、目に涙を浮かべながら舌を絡ませて舐め上げる。でもそれで相手できるのは、あく まで一匹のオスだけだ。眼をぎらぎらさせて発情した沙族達が、大人しく順番を待ってくれるわけがない。
 地面に引きずり倒されたメルの下半身に待 ちきれなくなった沙族が群がり、横倒しにした腰を抱え、まだ昨日の血の跡を残した脚を大きく割り広げて欲望を擦り付ける。苦しくて喘ぐメルが少しでも口を 離そうものなら、沙族は乱暴に怒り、メルの頭を掴んで小さな唇にむりやりペニスをねじ込んだ。
「んぅ、ぁ、やぁ、っ、ポーレ、ぇ……いや、助けてぇ……っ」
「メル……ぅぐっ!?」
 ボクはぬるぬると口を塞ぐペニスの隙間から叫ぼうとするが、快楽を貪るのに夢中になった沙族が、獲物の言葉なんか聞くはずもない。
 まだメスとしては未成熟で、見た目はちっちゃいメルも、ボクと同じようにちゃんと女の子で、ペニスを受け入れる部分があることを知った沙族たちは、もうメルを○すのに手加減するつもりはないようだった。
 やつらはいつにも増してメルを執拗に取り囲み、細い身体を抱え込む。
 ただでさえ、踊り子(ミンストレル)の華奢な身体だ、小さなメルの身体では群がる沙族に抵抗するなんてできっこない。メルをころんとひっくり返した沙族の一匹が、まだ真っ赤になっているメルのあそこに、深々と節くれだったペニスをあてがう。
「いや、嫌ぁ……やだようっ……もう、痛いのやだっ、やめてぇ……!!」
「んぐ、ぅ、ぷあっ」
 口孔を埋める肉竿を舐めるわずかな息継ぎの暇に、ボクは必死になって懇願の声を絞り出した。
「んぅ、メル、メルに、酷いことしないで……っ!! ぼ、ボクが……ボクがするから、代わりに、相手、してあげるからっ……め、メルを離してあげてよっ……!!」
 けれど、叫ぶボクの唇には、サボるなとばかり先走りを噴き上げるペニスが押し込まれる。一度目の精液を飲み込まされてしまったボクの喉は、さっきよりもスムースに滑りよく相手の肉竿を受け入れてしまう。
 ボクの口は、もう商人として――いや、人として言葉を喋るよりも、そうやってこいつ等のための肉孔として、精液を搾り取ることのほうが上手くなっているのかもしれない。
「ぁ、あぁあ、やだぁ、やだっ、やめて、抜いてよぉっ、痛い、いたいぃ……」
  涙を堪えて顔を背けるその向こうで、メルの小さな入り口に、沙族が容赦なく体重を圧し付けて、無理やりペニスを沈み込ませていった。昨日開通したばかりの 繊細で敏感な小さな孔を、凶悪な肉の凶器が欲望のままに前後する。ま新しく二度目の開通をしたメルの少女孔から、じわりと赤い血が滲んでいた。
 締まりがいい、なんて下品な表現は取引のときにもよく耳にする冗談だったけど、メルみたいな小さな身体に、あの大きなペニスはアンバランス過ぎる。まっすぐではなく、枝のように節くれだってぐねぐねと曲がった沙族のペニスが、メルの小さな孔をこじ開け、こね回す。
 メルの絞り出すような叫び声が狭苦しくなった洞窟に反響する。
 けれど、ボク達を○すのに夢中になった沙族たちは、もう何一つ聞く耳を持たなかった。
 二手に分かれ、ボク達を洞窟の隅と隅に引き離したのは、こいつらなりの機転だ。メルとボクがそれぞれ自分たちを相手できると判って、こうすればこれまでの倍の頻度でメスを○すことができると知って、やつらなりに頭を働かせている。
「ん、ぁっ、ぅくっ、あっ、あ、あっ」
 ボクの方にも、待ちきれなくなった沙族の一匹が襲い掛かってきた。
  両手の塞がったボクの身体を抱え込むようにひき押せて、弓なりに仰け反ったペニスを脚の間に押し付けてくる。一気に3匹を相手にする羽目になって、ボクの 身体はバラバラになりそうだった。沙族達はそれぞれ、柔らかなメスを自分一人が占有しようとボクの身体に爪を立て、手元に引き寄せようとしているのだ。
 どれかひとつの手を休めれば、たちまち丸太のような腕がボクを殴りつけ、太い爪が肌をえぐっていくだろう。おぞましい恐怖に晒されながら、ボクは懸命に唇を動かし、舌を絡め、胸を寄せ合わせ、内腿にきつく力をこめ、腰をくねらせて三本のペニスを扱く。
 ぎゅうぎゅうと力任せに掴まれてペニスに押し付けられる胸は千切れそうなくらいにひしゃげ、喉奥にまるでそこが性器だといわんばかりに激しく肉塊がねじ込まれる。
 そして、ねぷり、と粘つく音を立てて尖った肉の槍がボクのおなかの奥に押し込まれてゆく。まだ十分に濡れてもいない孔を無理やり貫くペニスは、ボクが悲鳴を堪えて呻くのにも構わずにひたすらに前後を繰り返し、ボクの胎内を陵○していった。




 ◆5◆

「あぐっ、んぅ、あ、ぁう、あっ……」
 イヤで、いやで、嫌でしょうがないはずなのに、勝手に声が上がってしまう。喉が押し潰され、ひゅうひゅうと漏れる息と一緒に、抱えられた腿がぱちんぱちんと鱗の皮膚に押し付けるたび、声が跳ねる。
 繰り返し犯され続けたせいなんだろうか。ボクは、外見の見分けもつかないこいつらの、区別が付くようになっていた。
  身体の中に押し込まれるやつらの厭らしい肉の形――長さや、太さや、硬さ、節くれだちかた、それに曲がり具合や、瘤の付き方、先端の形、雁首の反り返り具 合。どのペニスがどこにぶつかって、どこを擦っているのか、その一匹一匹の違い。ボクにはそれが少しずつ解るようになってしまっている。
 はじめは貫かれることの苦しさと、痛み。
 そして、そのうち――それが与えてくれる、むず痒いような、もどかしいような、熱っぽい不思議な感覚が、おなかの奥に、背骨の裏側に広がってゆく。
 ○す相手が違うことで、それがひとつひとつ違うことを、ボクはすこしずつ感じ取れるようになってしまっていた。
「んぅ、ぁ、あっ、っあ」
 そうしていると、いつの間にかボクのナカがじんわりと濡れ、よじり合わさって、ペニスをきゅうっと抱きとめるようにしているのを自覚するのだ。
 ボクの頭がぼうっと霞み、おなかの奥にずぅんと熱が溜まり始める。恐怖のなかでこいつ等の慰みものにされることから、心が逃げようとして、偽物の幸せな気分を作り出す。
 いつしか我知らずに声が甘く蕩け、鼻にかかった小さな吐息が狭い洞窟に溢れてゆく。
 喘ぎ声に反応して、口の中に突き込まれた太い肉の塊がますますいきり立つ。幸か不幸か、ボクは、それなりにこいつ等のお気に入りであるらしい。
 沙族達はほとんど誰が誰なのか区別の付かない格好をしているけれど、ボクは口に押し込まれたペニスの形から、それがどいつなのかを判断して、一番弱いところを探り当てることができた。
「んぁ……ぅ、んむっ……れる…りゅっ」
 昨日の、一昨日の時のことを思い出しながらそいつの敏感な部分を見つけ、舌を絡め根元から根気よく舐め上げる。ペニスの根元にはみ出してぶらぶらと震えている、精液をパンパンに溜め込んだ大きな袋を掴み、柔らかく揉む。
  突き上げられる腰と、おヘソの裏に溜まってゆく熱が、意識を霞ませる。にゅぷ、にゅぷ、と柔らかくほぐれたボクの中が、突き込まれる肉竿に連動するように 甘く蕩けて絡みつく。意識してぐっと下胎に力を篭めると、ボクの膣がきゅうっと締まって、ごつごつとしたペニスがぎゅぅっととボクの中から押し出されるの が分かった。
 その感覚がたまらないらしく、ボクに跨る沙族はきいきいと高い声を上げて鳴いてはしゃにむに腰を打ち付けてくる。
 どこをどうすれば、こいつらのひとりひとりが気持ちよくなれるのか――ボクの身体はもう、それをしっかり覚えていた。
 はじめは、少しでもこいつらの陵○を早く終わらせようと、少しでも早く、楽になろうと、商売で仕入れを値切るために相手の隙を窺うように、戦いの時に魔物の弱点を探るような気持ちで試行錯誤をしていたはずだった。
 けれど、いまは――
「――んぷ、っ、っは――…っ、ここ、弱いんだよね……?」
 確認するように雁首の裏を舐め上げ、根元を激しく指で擦る。甲高い鳴き声を上げて、僕の顔にぐりぐりとペニスをねじつけて、沙族の一匹が射精する。びゅるびゅると目の前を舞う白い粘液のシャワーが、糸を引いてボクの身体に次々と降り注ぐ。
 その瞬間、噎せ返るような匂いに頭がくらくらとしながらも、ボクの胸はわずかに高鳴る。
 それは取り引きで、交易で――うまく儲けを見つけ、満足のいく商売ができた時のような、不思議な達成感だった。
 女の子が腕力で勝てる筈もない、逞しく強いオスを――ボクなんか気まぐれひとつでくびり殺してしまえる相手を、ボク自身が屈服させているような、そんな感覚。
 この瞬間だけは、ボクがこいつらに支配されているんじゃなく、ボクがこいつらを夢中にさせているんだというような、到達感、自信にも似た、不思議ななにか。
「ぁは、っ、ぁう、あ、あっ」
  ボクが唇と喉に感じる射精のほとばしりにぼうっとなっていると、しゅう、と興奮の息を漏らした沙族が腰を振るって、深く抱え込んだ腰に、ペニスをねじつけ てくる。歪で節くれだって、曲がりくねった肉の杭が、どくんとボクの胎内を突き上げるたび、じんっとお腹の奥が痺れて、頭がぼうっとなる。おヘソの裏側の 右奥、そこにぐりぐり押し付けられる硬い引っかかりが、ぞわぞわと背筋を震わせた。
 そう、こいつは――一番ボクを、気持ち良くするのが上手な沙族だ。
「ぁ、あっ、あっ」
 たまらず、ボクはきゅう、と腰を引き絞る。
 そして――それに耐え切れず、身体の奥深くに突き刺さった肉の杭が、弾けるようにぶるぶると震える。指なんかじゃとても届かない、深い深ぁいところに、熱くどろどろと凝った白濁の塊が、容赦なく打ち込まれてゆく。
 まるで噴火するマグマのよう。
 熱く煮え滾る、意志のあるもののようなどろどろの塊が、ボクの“雌の芯”を塗りつぶしてゆく。
 それは本当は、恐ろしいことのはずだった。
 こんなやつらでも、心から受け入れてしまったら、抵抗を失ってしまったら、女の子であるボク達がどうなるのか、ボクも、メルも、知らされていたはずだった。
 沙族達がボク達人間の女の子を攫おうとする理由。沙族のメスというのはとても貴重で、しかも繁殖期以外は凶暴で、群れ一番のオスですら近付けないほどに気難しい。だから、こいつらは従順で『使いやすい』メスを欲して、ボク達人間の女の子を攫うのだと言う。
 つまり。
 こいつらは、ボク達と交配できる可能性があるらしい。最初に襲われた時、バルフェンはそう言ってボクたちを懸命に逃がそうとしたのだ。
 だから、ボクの中に射精を許すことは、沙族の赤ちゃんを妊娠しちゃうかもしれない危険性を持っていた。
 一回だけならまだ、運がよければなんとかなるかもしれないけれど、毎日、何匹もの相手に代わる代わる犯され続けていれば、その確率は何十倍、何百倍にも。限りなく、必然まで跳ね上がる。
 けれど――そうやって、びゅるびゅると吐き出される白濁液をおなかの奥にたっぷりと受け止めるその瞬間、その一瞬だけは、まるで自分が自分じゃなくなったみたいに、そうしていることが、とてもとても誇らしくなる。
 その一瞬、本当にそのときだけは――隣で大きく揺さぶられているメルよりも、ボクのほうが選ばれた、ボクのほうが優れているんだって、感じられてしまう。
 大勢のオスたちに群がられて、子を孕まされようとしていることが、嬉しいとさえ思えてしまう。
「あ……は……っ」
  この時だけは、隣で、嫌がって、鳴いてばかりのまだ全然コドモなメルよりも、ボクのほうが――世間的な平均と比べれば、ボクもそんなに立派なほうじゃない だろうけれど――この石窟の中では、ボクのほうが優れた雌であるってことを証明できたような、強い達成感、誇らしさがあった。
 たぶんそれは、身体の本能に染み付いた、雌の悦びだ。
 ボクにかきらず、女の子なら誰もが持っている、女性としての優越感。より強い雄を満足させたことの嬉しさと、強い雄を受け入れて、その子供を孕むことの悦びなんだ。
 これはきっと、女が子供を産む身体のつくりをしている限り、決して失われることのない欲望なんだと思う。ボクはこうして、こいつらに毎晩犯されながら、少しずつ雌に、大人のオンナにされてしまっているんだろう。
 ……だから今は、怖い。
 いつか、誰かがボク達をここから救い出してくれたとしても――そのときにはもう、ボクはボクの知らないボクになってしまっているんじゃないかって、そんな気がする。
 そんな不安もすぐに消えてゆく。代わる代わる沙族に犯され、沸き上がる快楽を堪えきれずに何度も何度も悲鳴を上げながら、ボクはいつしか、意識を途切れさせてゆくのだ。




 ◆6◆

 メルとボクが、交互に犯されるようになってからさらに10日以上が過ぎた。攫われてからなら一月近くが経ったのだろう。途中で何度か手帳に線を引き損ねて、正確な日にちはもうわからなくなっていた。
  そもそも、ボク達の毎日はもう、意識がなくなるか疲れ果てて眠るまで犯されてから、目を覚ます事の繰り返し。一日の区切りなんで曖昧だ。日付の境界がわか らなくなるくらいまで徹底的に犯されつづけた日もあったし、どこからかやってきた余所の集落(クラン)の沙族たちと一緒に、いつもの倍以上の数に取り囲ま れてまる一日を過ぎてもなお交尾が終わらないこともあった。
 あいつらの生態はよくわからないけど、いったいいつになったらボク達に飽きるのだろう。獣の発情期だって、長くても一月は続かないはずだ。最初の頃は、それがボクのひそかな心の支えだった。
 ティグレ、バルフェン、それにアルとクリュウ――ボク達の旅の仲間がどうなったのかは相変わらず分からない。けれど、多分もう、ボク達はここから助け出さられることは無いのかもしれない。
 その事実を目の当たりにしても、不思議と恐ろしくはなかった。
 諦め、なのかもしれない。ここに閉じ込められて一月。六人みんなでいっしょに旅をしてきたのと同じくらいの時間が過ぎて、ボクにはもう彼らの顔や声も、よく思い出せなくなっていたから。
 ボク達はもう、普段から服を着ずに過ごしていた。上着もシャツも外套も、もうとっくに破られ擦り切れて、身に纏えるようなものじゃなくなっていた。
 毎日のように押し寄せては、順番も守らずに乱暴に覆いかぶさってくる沙族たちは、ボク達が邪魔になるようなものを身につけていると、乱暴にそれを引き裂きながら怒る。首や腕が絞まってもお構いなしで、時には鬱陶しい袖を噛み千切ろうとしたことまであった。
 迂闊に着ていたシャツで首を絞められて以来、ボク達はそれに抗うのを諦めて、服を着るのをやめることにした。辛うじて残った襤褸の余りは、洞窟の隅にかき集めて身体を横たえる寝床になっている。
 たぶん、その日からボク達は、人間であることを少しずつやめはじめてしまったんだろう。
「ポーレ……っ」
「ん、メル……」
 いまは犯されているとき以外にも、ちりちりとお腹の中に残る、擱き火のような熱が絶えず、ちろちろと炎を上げ続けている。
 囚われて以来途絶えることのない陵○に、いつしかボク達の身体はそれを受け入れてしまった。
  ぼうっとした頭は四六時中構わずに熱っぽく、お腹の奥にはじんじんと滾りっぱなし。脚付け根はいつも、じっとりと湿って、ぬるりといやらしい蜜を滲ませて いる。前戯もなしにいきなりペニスを押し込まれても、すんなりと受け入れてしまう位に――ボクの身体は蹂躙の日々を受け入れていた。
「…………」
 身体の奥を突き上げる逞しい肉杭を思い出すと、こぷり、とおなかの奥から白い粘液の塊が溢れ落ちてくる。呆れるくらいに注ぎ込まれた精液は、いくらぬぐってもかき出しても、ボクの身体の一番奥に残り続けているのだ。
 自分の身体が残らず奴らのものにされてしまった、と言うことを認めるには、この一月近くの時間は十分すぎた。
 それでもメルは髪を括るリボンと、腕にかけたアクセサリを外そうとはしなかった。それだけが唯一、メルをかつての自分――世界一の踊り子になろうと旅を続けていた頃の自分と繋げるためのものだからだろう。
  ボクも同じように、この手記を付けることをやめる気にはなれなかった。こうして自分の身体に起きたことを書き綴っておかないと、ボクは本当に言葉も考える ことも忘れて、ただあいつらに犯されることだけを繰り返す、ただメスの悦びを甘受するだけの、肉の人形になってしまうだろう。
 この手帳のページが尽きてしまうのと、ボクがこれすらも諦めてしまうのと、どっちが先になるかくらいの違いしか、ないのだろうけれど。
「――ふぁあああ!?」
  大きな沙族に抱えあげられながら、メルがひときわ深く貫かれて、声を上げる。その叫びにも、最初の頃のような悲鳴の成分は少なく、代わりに甘く切ない響き が大半を占めていた。深く腰をかがめた沙族が腰を叩きつけるたび、じゅぶ、くちゅ、という滑り湿ったいやらしい音も、いっしょに漏れ聞こえてくる。メルの 細い肢体は、野太いペニスを根元まで受け入れて、巧みにその滾りを受け止めようと妖しく蠢く。
 今夜も、ボク達はやつらに犯されていた。
 メルの身体に覆いかぶさった沙族が、深く腰を打ち下ろし、目を細めて、腰をぶるぶる震わせる。鰐みたいに太い尻尾がびたんびたんと地面に叩き付けられていた。
  鱗の身体押し潰されそうになったメルは、大きく広げさせられた膝をわななかせ、おなかをびくびくと跳ねさせる。多分今頃、手足を押さえ込まれ、腰を掴ま れ、どこにも逃げ場のないメルのおなかの中には呆れるくらい大量の射精が行われているのだ。あの、頭の中まで真っ白に染め上げられるくらいに、鮮烈で圧倒 的な、生命の滾りを――メルは、あの小さな体いっぱいに受け止めている。
 ボク達が従順であることを理解し、雌としてきちんと発情することを知って以来、沙族たちは執拗なほどに種付けを試みるようになって、ボク達が胸や口で彼らの欲望を満足させようとするのにさえも、激しい怒りを露にした。
 けれど――
「んむっ、ちゅ……はむっ……」
 ボクは何度それを怒られても、進んで彼らのペニスを握り、優しくしごいては、胸の谷間に、唇に白濁液を受け止める。肌に張り付き胸に浴びせかけられ、喉を満たす噎せ返るような生臭さと、胃の腑に落ちて行く粘ついた感覚は、もうすっかり病み付きになっていた。
 こいつ等のメスには出来ないことを――身体のどこででも彼等の滾りを受け入れられる、柔らかくあたたかな、抱きごこちのよい雌であることを、示したい。そうすることで、少しでもボクの有意性を、生き残るための価値を与えたかった。
 それは、商売にとっても大事なことの筈だ。
 都合のいい言い訳をつくりだして、自分のあさましい欲望を押し隠し。ボクは惨めに欲望に溺れている。人間ですらない、不気味な怪物たちとの交わりに、生命の悦びを覚えている。
「ぁあぁあッ、出てる、いっぱい、でてる、よぉ……っ」
 がくがくと揺さぶられながら、膣奥を満たす射精の感覚に打ち震える。ピンと爪先まで伸びた脚が小刻みに痙攣し、きゅうとうねる柔襞が、ごつごつとしたペニスを締め付ける。
 いまやボクは、彼らの奴○であり、所有物であるそのこと自体よりも、本当にそうなっても寂しさや悲しさを覚えないかもしれない、自分のほうが怖かった。
  ここに連れてこられた頃には思い出せた最新の相場計算や、流行り物の取り引き、交易所のサイン。拙いながらでも商人であった頃、あろうとした頃のボクを形 作るいろんな知識が、少しずつ少しずつこぼれ落ちて、代わりにそこには、いやらしいことしか考えられないオンナとしての自分が棲み付いている。
 どんな風にペニスを口に含んで、握って、扱いて、舐め回して、胸に挟んで――どうすれば一番良くこいつらを満足させられるかを、ボクは誰よりも詳しく知ってしまった。
 それをもっと試したい、もっと深く、交わり合いたいと、心の底から望む自分自身を、日に日に抑えられなくなっている。
「んあ……また……びゅるびゅる……って……」
 大きく割り広げられた脚の間に、巨きくて逞しい沙族の身体を受け止めて、背中をごつごつと擦られる時の。
 仰向けになった沙族の、天を衝くペニスに、驢馬に乗るようにまたがって根元まで飲み込みながら、ボク自身の体重でおなかの奥を抉られながら激しく揺さぶられる時の。
 うつ伏せになって、動物のように後ろから抱え込まれながら、熱っぽい子宮の入り口を押し潰され、がつんがつんと突き上げられる時の。
 その瞬間瞬間の、雌の悦びが、もう片時も忘れられない。
 ボクが、ボクだけが、こんなにも多くのオスを夢中にさせている。そのことがいつしか、ボクの意識の支えになりつつあった。
「んぅ……はっ、……ふぁ……ぁ!」
 まるで獣のように声を上げて、どこかに飛びそうになる自分の身体を支え、快感を貪るボク。二月前までは考えられもしなかった自分が、そこにいる。
  どんな格好であいつらの相手をさせられるのだろうとか、どこをどんな風に擦って、舐めて、挟んであげると喜ぶのだろうとか。そんな知識が、ボクの頭を占め ていく。旅のための知恵は余計なものと失われ、身体に残された悦びと一緒に、いやらしい事ばかりが少しずつ身についていく。
 彼らを満足させて――熱い迸りを胎内に受け止めて。何十回と繰り返されたそれを経験するたびに、ボクはそうやって猛り狂う彼らを達させることを、誇らしく、喜ばしく思うようになっていた。
 そう、ちょうど良い取引ができた時のような。うまく儲けを作れたときのような。あの素敵な気分。
 それはボクだけが感じているのじゃない……のだろう。
 メルももう、踊るのも、歌うことも少なくなった。渡り鳥のように、本当に歌うのや踊るのをやめたら死んでしまうんじゃないかと思っていたメルも、だ。
「ぁ、あっ、あ、あっ♪ ッ、ぅあ、あッ♪」
  いまや、メルの声はこいつらに犯されている時に、どれだけ気持ち良いのかを知らせる喘ぎのために使われていた。ボクの隣で高い声を出して、相変わらずきれ いで澄んだ甘い声を上げて、しまいにはキモチいい、死んじゃう、と繰り返すメルも、ボクと同じように、後戻りできないほどに、こいつら専用の『メス』にさ れてしまっていた。
 だって事実、
 今は、あいつらがボクだけを見てくれないのが、少し寂しくて、妬ましい。
 メルがいなければ、ボクはあいつら全員を受け入れてあげることができるのに。もっともっと沢山の雄に犯されて、もっともっと強いオスを悦ばせてやる事ができるのに。

 ――そんな恐ろしい想像をしてしまうのも、もう1回目や2回目じゃないのだ。

 ボク達は、目を覚ますと、どちらともなく寄り添いながら、溜めておいた雨水を使って身体を拭い、髪を梳かし、その日の準備を終えて、扉が開くのを待っている。
 あいつらがまたここにやってきて――ボク達を犯してくれるのを、ボク達と交わるのを、待ち焦がれている。少しでも早く、一匹でも多く、あいつらを夢中にさせて、滾りに滾った射精を全身で受け止めたい。
「――――」
「…………」
 ボクとメルは、もうお互いに言葉を交わすことは無く。
 より多く、あいつらを惹き付けて、たくさん、たくさん交配したいと。それが自分の優秀さを示すものだと、どこか誇らしく思いながら。競うようにあいつらを相手する。
 同じように悲劇を経験しながら、ボク達は互いに、やつらのより良い交配相手として、相手には負けられないと想っているのだ。
 なんて浅ましい考え――
 けれど、そう思うことは、どうしてもやめられなかった。



 (続)

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