シロフミ 2020/08/05 22:36

旅する少女と異貌の民・その2

 ◆7◆

 ボク達が妊娠に気付いたのは、囚われてから74日目の朝だった。
 兆候はたぶん、かなり前からあったのだ。熱をもったように疼き、収まらないおなかの奥――それまで、重い生理の時くらいしか意識をしたこともなかった、子宮がやけにぽってりと熱く、下半身がぬるま湯につかっているような感覚。
 それと同時に頭の芯もぼんやりとしていて、身体のあちこちが妙に重い。それと反比例して、全身が――とくに、胸がやけに敏感になっていた。
 まともな栄養が取れていなかったとか、きちんと休めていないせいだとか、理由のつく説明はいくつかあったけれど、どこかボク自身、その事実を受け入れ、望んでいたように思う。
 数日前からの疑念が確信に変わり、特にひどくなった頭痛と悪阻と共に朝の食事を戻して――それを介抱してくれたメルが、同じように耐えきれずに嘔吐したのが、驚きの始まりだった。
「赤ちゃん、できた……んだよね。……あたしも、ポーレも……」
 口をぬぐい、ようやく落ち着いたメルがどこか他人事のように、そう言った。
 ボクにとっては、もっとも衝撃的な一言を。
「メルも……なの?」
「うん……わかるもん。……赤ちゃん、動いてるの」
 驚愕に目を見開き、どうにかそれだけ言葉を絞り出したボクに、まだ具合悪そうに呻きながらおなかをさすり、俯いて答えるメルに、正直ボクは驚きを隠せなかった。
 メルはまだほんの子供で、背も胸も足りなくて、ティグレと山登りの一番競争で張り合ったり、バルフェンに肩車されたりしているときもすっかり小さな子供のようだったから、そんなことの正しい知識なんてあるわけないと思っていたのだ。
 でも、考えてみればメルは踊り子として、歌や踊りを通して、女の子としての身体を見られる職業だ。レベッカのテントで働かされていた以前にも、そうやってあちこちのキャラバンを渡り歩いて厄介になっていたそうだから、たとえ直接的なものでなくとも、そうした『身体を使った』仕事をさせられたり、先輩のそうした行為を見せられたりすることもあったのかもしれない。
 ボクはそう考えて、むりやり自分を納得させた。年上として、みっともなく取り乱すところは、メルだけには見せたくなかったから。
「ポーレは……?」
「うん……ボクも、少し前から覚悟してたよ」
 ボクの月の障りは、もう何ヶ月も前から途切れている。旅の途中で体調を崩したり、取引で儲けを出そうと思い悩んだりで不規則になることもあったけれど、いまのこれは多分違うのだろうと――なんとなく、わかっていた。ひょっとしたら、母親としての勘というやつなのかもしれない。
 それもいまや、同じように小さくうごめくおなかの中の生命の息遣いとともに、確信に替わっている。
 だからこそ、メルには尋ねなければならなかった。
「メル、その、アレってまだだったんじゃないの……?」
 はっきりとは確認していなくとも、一緒に旅をしていれば同じ女の子どうし、わかることだ。クリュウが来る前のアルはいろいろ誤魔化すのに大変だったようだけれど、本当なら一番警戒しなきゃいけない歳のティグレはそういうのに凄く鈍感だし、バルフェンは大人だからあえて言わないようにしていたんだろうと思う。
 でも、たしかに。メルはまだ、初潮は来ていなかったはずだった。だって、そうでなければ踊り子なんて職業を続けて、メルのように可愛い子が女の子のはじめてを守りぬける筈がないんだから。
「うん……でも……」
 この数ヶ月で、角が取れるように、丸みを帯びてきた自分の身体をそっと抱きしめてメルは俯く。細くて、少し骨ばって、余分な肉のまったくない、彫刻のようにしなやかだった身体は、いつしかふんわりとした『オンナ』の柔らかさを見せるようになっていた。
 あいつらに犯されているとき、時々だけれど、メルが同じ女のボクでもぞっとするような、オトナの女としての艶やかさ、なまめかしさを見せることがあるのは、確かに感じていた。
 いやらしいことをされていると、そういうのも早くなるらしいという。
 だから――メルはいわゆる“お赤飯”の前に、最初の生命をその小さなお腹に宿したのだろう。あんなに濃くて凄い量の精液を、沙族達に毎日代わる代わる胎内に直で射精されているんだから、なにも無いほうがおかしいんだ。
「やっぱり、あかちゃん……できてると思う」
 どこか確信めいて、メルは頷いて見せた。
 ボクはただ曖昧に唸ることしかできない。違うといってみたところで証拠はないし、確かめることもできない。まさか、ここでメルのおなかを引き裂いて、その中に誰がいるのかを確認するわけにもいかない。
 そもそも疑うような事じゃなかった。ボクがそうなのだから、メルだって母親として、おなかのなかの新しい生命を感じ取っているんだろう。
 つまり。メルは、一度も――女の子としての『子供を産むため』の機能を、無駄にせずに、赤ちゃんを妊娠した。
 なぜだろう、その事実を認めることはボクの心を後ろ暗く汚し、ひどくささくれ立たせていた。
「ポーレ……」
 縋るようなメルの視線に耐えかねて、ボクははっと我に返り、そっとメルを抱き寄せる。頭を振るとすぐに陰鬱な気持ちは消えていった。
 メルはボクの胸に――あいつらの相手を続けて幾分サイズの増したボクの胸に、そっと頭をすり寄せる。ごつごつして冷たい鱗まみれの太い腕とは違う、ほんのりと暖かい、女の子の感触。ボク達に酷い事をしない、優しくてやわらかい、味方。
 メルの傾けた顔からうなじが肩にこつんと当たる。自分ではないヒトの体温を感じるのは、今は無性に気持ちが良かった。
「あいつらの――赤ちゃん、なんだよね」
「うん……」
 沙族は、決してヒトではない。
 言葉を話し、二本の脚で立って、武器を作り部族を作って行動するけれど、それは人間達とはけっして相容れない。狩人が標的と定めた動物を仕留めることを躊躇わないように、あいつらは人間達を襲うことを当然にしている。
 けれど。だからこそ。
 ボク達が、そんなやつらの子供を孕まされるなんて、思いもしなかった。
 人間とは全く違う骨格、爪の生えた四本指の手。ごつごつした鱗は緑と青の中間で、毛は一本も生えていない。凹凸のある身体は歳を経るごとにどんどん巨きくなっていく。蜥蜴と同じように陽が当らない寒いところでは思うように動けないため、砂漠の中でも特に暑い地域を出ることは滅多にない。
 大きな口に生え揃った牙や、長い鉤爪を備える手足、丸太のように太い尻尾。どれも、まるでトカゲやワニと同じだ。目蓋のない目は、細く縦長の瞳孔をきゅうっと細めて、ボク達をじっと見つめてくる。そこには意志や感情なんて感じ取ることはできず、ただただ剥き出しの、肉の欲望だけが覗いていた。普段は鱗に包まれたおなかの中にしまわれているペニスは、滑るような肉色をしていて、発情している間だけ外に顔を覗かせる。その形も、ボクの見知っている男の人のそれとは全然違っていた。
 そんなやつらの吐き出した下卑た欲望が、ボクのおなかの中で受精を遂げ、そのおぞましい子供が、生命を芽吹かせている。
 その危険性に思い至らなかった、いまだに本当の実感すら怪しい、ボク自身の迂闊さももちろんあるだろう。無惨にボクたちを襲った相手の子供が、いまボクのおなかの中に芽生え、息づいている――その事実は、改めて考えてみるだけであまりにもおぞましい。
 おなかの中を得体の知れない化け物に、今にも内側から食い破られてしまいそうな――そんな想像が頭をよぎり、覚えもしない幻の痛みがじくんとおなかの奥を震わせる。
 それはただの錯覚だけではない。ボクが母親になったことを知らせるように、熱をもち疼く下腹で確かに、小さな鼓動が力強く脈打つ。
 それがまぎれもない、真実であるのだと。ボクに自覚を促そうと言うかのように。
「……っ」
 胎奥に響く、おぞましい凌○の証に――ボクは声を潜め、メルとともにしばらく泣いた。




 ◆8◆

 ボク達が身篭ったことをはっきりと自覚してからも、昼沙族達の凌○は変わらず続いていた。奴等もそれを目的にしているのだろうにもかかわらず、ボク達が母親になった事もお構いなしに、ボク達を強引に犯し続けた。
 その乱暴極まりない強引な行為に、もしかしたら赤ちゃんが流れてしまうのじゃないかと不安になったりもした。
 もしかしたら不安に感じることがおかしいのかもしれないけど、でも、たとえどんな形であっても、おなかの中にいるのはボクの赤ちゃんだ。時におぞましく感じられても、それを心の底から厭い、疎ましく思う気にはなれなかった。
 夜と朝、その境目のような時間に与えられたわずかな時間に、ボク達は次の凌○に備え身を整えながら、わずかな会話を交わす。
「沙族って、あんな格好してるから……タマゴで増えるんじゃないのかな」
「……本当はそうかもしれないけれど、ボク達じゃどう頑張ってもタマゴは産めないよ、メル。だから、きっと、普通の赤ちゃんみたいに、おなかの中で育ってるんだと思う」
「――そっか」
 メルだって、本当に産まれてくるのが沙族のタマゴなのかもしれないと思っている訳じゃないだろう。そんなことを疑問に思うこともできないくらい、ボク達のおなかの中にははっきりと、生命の鼓動があった。
 わずかに膨らみ始めたおなかをそっと撫でるメルを見て、ボクも無意識のうちに、張り出した下腹部を擦ってしまう。過酷な砂漠に適応した見かけどおり、沙族達の生命力は旺盛で、一度孕んだ生命は簡単なことで潰えてしまうような心配は無用ということらしい。
 もしかしたら、普通の手段では堕胎することもできないのかもしれなかった。
「本当に、私達のあかちゃんなんだね……」
 メルの表情は慈愛に満ち、どこか愛おしげですらあった。メルだって出身は旅芸人の一座だ。動物が赤ちゃんを産むのに立ち会った事だってあるだろう。踊り子の一座の中にはそうやって、これと決めた男の人たちに子種をもらって、子どもを産み育て、後継者を育てる人もいると話に聞いたことがある。
 そのこと自体は悪いことじゃないと思う。男と女がそうなるのは、自然なことなんだと、ボクはお母さんに教わって育った。
 でも、ボク達自身がまもなくそうなると考えるのは、やっぱりとても不安で、怖かった。

 お母さんに――なる。

 その事実を抗いようのない現実だと認めれば認めるほど、それと同時に――とても嫌な気持ちがいっしょに、ボクの胸の中に湧き起こった。最初は意識できなかったはずのそれは、いまや片時も離れず、ボクの心の隅に居座っている。
「メル……」
 抱きしめた小さな身体の、おなかの辺りを無意識のうちに気にしてしまう。
 こんな言い方は良くないけれど、洞窟に閉じ込められた最初のころ、メルがまだ初潮前なら、ボクのようにはならないだろうと安心していた部分があった。沙族は繁殖を目的にしているのだから、それに都合の良いメスだけを狙うはずだと思ったから。
 こんな目に遭うのは、ボクだけで済むんだと――自分が犠牲になればメルの安全を守れるかもしれないと安心する一方で、やつらの標的になりえないメルを憎く思ったこともあった。
 どうしてボクだけが、こんな酷い事をされなければいけないのかと。
「……ごめんね、メル」
 そして今は、メルもボクと同じ目に遭ったことが、憎い。
 このあさましい気持ちを正直に告白すれば。
 ボクだけじゃなく、メルまで、あいつらの赤ちゃんを身篭ったことが妬ましかった。
 だって、ボクだけだと思っていた。ボクだけが、まだコドモのメルと違って、犯されてはいても、真似事しかできないメルと違って、ちゃんと、オトナの女として、本当の意味であいつらの求めに応じられると、あいつらの満足のいくメスとして相手をできていると思っていたのだ。何度も何度も、子宮を小突かれながら膣内(ナカ)で射精を受け止めるたびに、ボクはそのことに優越感を抱き、心を支えていた。
 いくらメルが同じように犯されることに慣れ、女の子の悦びを覚え、気持ちよくなることができても、メルは本当の意味でまだ大人じゃないから、そのおなかに赤ちゃんを宿すことはできないと。
 あいつらの子供を妊娠できるのはボクだけなんだと。沙族の求めるメスで居られるのは、ボクだけなんだと。
 ――ボクはメルには負けていない証明ができると、そう思っていたのに。
「――――ポーレ、もうすぐ……時間だよ」
「そうだね……」
 どす黒い思考に沈んでいたボクを、メルの声が引き戻す。
 ボク達は互いにどちらとも無く離れて、身づくろいをはじめた。
 また今日もあいつらがやってくる。沙族達はボク達が妊娠したことなんかお構いなしに、あいつらはボク達を○すだろう。膨らんだおなかを構わず握り締め、振り回し、ずしりと体重を圧し掛からせることを躊躇わず、大きくて太いペニスをボクの身体の奥の奥まで叩き付けてくる筈だった。
 ボク達の身体は、あいつらのメスと違って、妊娠していてもいやらしく発情する。
 だから、あいつらには陵○をやめる理由が無いんだ。
 普通の動物や、家畜や、ほかの生き物は、交尾して赤ちゃんができれば、自然と番うことはなくなる。でもボクたちは、こうしておなかの中に確かに小さな生命の息吹を感じていても、だらしなく脚の付け根を濡らし、ペニスに貫かれることにいやらしく悦びを感じてしまう。柔らかくて温かくて、あいつらにとってこれ以上都合のいいメスなんて、他に居ないのだ。
 きっとボクたちは、あいつらを、一年中発情させ続けるのだろう。


 ボクのお母さんも、こんな気持ちだったのだろうかと、ふと思った。
 ボクは、故郷の村で兄弟やお父さんと一緒に村に暮らしていたけれど、お兄ちゃんや弟達と違って、ボクはお父さんと血がつながっているわけではない。
 ボクが物心ついたころ、ボクはいつも、お母さんと二人きりだった。
 お母さんと旅をしている間、ボクの親はお母さんだけで、小さい頃、ボクはなんども、お父さんがいないことに寂しくて泣いた。お父さんはどこ、と泣いてお母さんを困らせた。
 そんなとき、お母さんはいつも、泣いているような笑っているような、なんともいえない不思議な顔をして、ボクを抱きしめてくれた。
 その頃のボクは、その表情の意味が解らなかったけれど。今ならなんとなく想像がつく。
 ――たぶん、お母さんも、ボクの本当のお父さんが誰なのか、わからなかったんだ。
 旅に出る少し前に、ボクも気づいていた。時に過酷で、特に残酷な旅。たとえ多くの人々が倣うように旅をすることが当たり前のこの竜の大地であっても、それをたった一人でやりとげるのがどれだけ困難なことか。ボクは5人の仲間に支えられても、辛うじて損を出さないので精一杯だった。
 お母さんは凄い商人だったとは、旅先で何度も聞かされたけれど、たとえ天才だって機運や時流に恵まれずその商才を生かせないのが、商売の世の中だ。
 じゃあ、誰も知らない遠くの土地で、まだ商人としても未熟な若い頃のお母さんが、百戦錬磨の商人たちを相手にどうやって儲けを出していったのか――そんなのは少し考えれば、自然と想像が付く。
 お母さんはとても綺麗で、村どころか街道でも評判になるくらい美人だったから――その手段は、きっと素晴らしく効果抜群だったのだろう。
 だから、お母さんは遺憾なく、商人としての才能を発揮できたんだ。
 やがてお母さんは、今のお父さんと出会い、村にお店を出すことになる。お母さんの経歴を知りながら、なおそれを受け入れて家族になることを躊躇わないお父さんとの出会いはきっと、とてもとても幸運なことだった。
「……ああ、そっか」
「ポーレ……?」
 ボクは一人、涙していた。
 悲しみではなく、恐れでもなく、別の感動から。
 じゃあ、じゃあ。それなら。だとしたら。
 ボクがこんなふうに、あんな――あんな醜くて、恐ろしくて、ヒトとは違う、不気味な沙族たちの。誰の子かもわからないような、――おなかの中の赤ちゃんを、こんなふうに愛しいと思うのも。
 けして、間違ってなんかいないんだ。




 ◆9◆

「は……っ……くぅ……」
「メル、痛い?」
「へ、へいき……だいじょうぶ、だからぁ……」
 口を離して窺うと、メルは赤くなった顔を俯かせ、ぷるぷると左右に振る。甘く蕩けた言葉は、隠しようもない快感の証だ。
 ボクは唇をぬぐい、もう一度、メルの赤くなった右の乳房にそっと吸い付いた。
 この一月であっというまに膨らんだメルのおっぱいは、もう手に余るほど大きくて、つるんと張りを保っていた。小さなメルの身体にはアンバランスなくらいに先端をぴんととがらせて、ぽたぽたと白いミルクを吹き上げる。
 ボクは敏感すぎる先端をできるだけ刺激しないよう、そっと唇に挟んで舌を寄せ、吸い上げていた。
「ふあ……っ」
 メルが声を上げ、ボクの頭に回した手にぎゅうっと力を込める。
 ちゅう、ちゅう、と一息を分けて吸い込むたび、口の中にはじわぁっと甘いミルクが満ちてゆく。
「っは、くぅ……っ」
 背中を震わせてメルが仰け反る。きゅう、と僕の手のひらの中でもう一方のやわらかなふくらみが形を変え、またじゅわっとミルクを滲ませた。そこから溢れ落ちるミルクを吸いつき、舐め上げ、飲み込む。
「ポーレぇ……」
 たまらない声をあげながら、メルが目元を揺らし、きゅうとボクの頭をきつく抱き寄せる。メルのおっぱいに顔をうずめながら、ボクは苦しげに息を漏らして呻いた。
「んむ、ちゅ……むっ」
「ふわぁあ……っ」
 つん、とふくらみの先端を舌先でつつくと、メルはまた高い声で喘ぐ。まるっきりぺたんこだったメルのおっぱいとは思え菜くらいに、手のひらで包めないくらいまで膨らんだその柔らかさは、溢れるミルクにまみれて指に張り付くほど。張り出した感触はゴム鞠のようで、そっと揉んだ指先が埋まるように柔らかく心地いい。
 それは、ボクも同じだった。あいつらの赤ちゃんを妊娠して4ヶ月、まだあげる相手がいないのに、ボク達の胸はふた回りも大きく張り出して、ミルクをたっぷりと蓄えて膨らみ、タンクのように張り詰める。
 いくら吸っても絞っても、生まれてくる生命のために身体の中で作り出されたミルクはあっという間に胸を膨らませてしまい、先端からひっきりなしに溢れ出そうになる。そうなった胸は、とても重くて、ぱんぱんに張ってしまい――揺れるだけも辛いほどだった。そんな状態で沙族達に犯されていると、しまいには胸が千切れてしまいそうになる。あいつらは当然ながら、ボク達のおっぱいには興味なんて示しやしなかった。
 しかたなしに、ボク達はこうやってお互いのおっぱいを吸いあうようになっていた。けれどこれはとても気持ちが良くて、ボクもメルも、これまでほとんど知らなかった、胸の快感というものを新しく身体に刻み込んでしまっていた。
「ぁ、あっ……ぁああっ。ふわぁあ!?」
「んちゅ……んぅっ……はむ……」
「っ、あ、ポーレ、ひもちいいよぅ……っ」
 語尾も怪しくなるくらい蕩けた、甘い声が響く。メルとこんな事をするなんて、少し前まで考えられなかっただろう。メルもボクを足の付け根を甘くとろけさせ、蜜を溢れさせている。
 膨らんだメルのおっぱいを、優しく唇でついばみ、そっと吸う。じわっと滲むおっぱいを、ボクは少しずつ、少しずつ飲み込んでゆく。
 メルはボクに胸を吸われるたび、なんどもなんども高い声を上げて身体を震わせた。
 最近は、沙族たちも、犯している時以外はボク達を――ボク達のおなかにいる赤ちゃん達のことを、彼らなりに大切にしようと思っているらしく、持って来るごはんも柔らかく食べやすいものに変わっていた。それに加えて一日ごとにお互いのおっぱいをたくさん飲んでいるのだから、一時期はがりがりにやせ細ってしまっていたメルの身体も、いくらか丸みを取り戻している。
 むしろ、おなかの中に宿した生命のせいで、すっかり子供だったはずのメルも、今ではずいぶん大人っぽくなったようにも見えた。
「……っ…終わったよ、メル」
 ちゅぱ、と濃くピンクに色づいた乳房の先端を離し、ボクは言う。
「……んぅ……ありがと、ポーレ」
 ぐったりとボクの上に倒れこみながら、メルは大きく息をついていた。その表情はボクが見てもどきっとするくらいに色っぽく、淫らに蕩けたものに変わっている。
 上気した頬の上で、可愛い目がしっとりと潤み、色づいた唇と一緒に快感の余韻に震えている。口元にはわずかにこぼれた涎の跡も残っていて、堪え切れなかった喘ぎの痕跡をうかがわせる。
 ぱんぱんに張ってどうしようもなかったメルの胸も、幾分柔らかく、ひとサイズくらい小さくなっていた。あのぷるんと震える二つの乳房の中に詰まっていたミルクを全部、ボクが飲み干してしまったんだと思うと、自然、おなかの奥がかあっと熱くなるようだった。
「……っふ……」
 一方で、ボクの胸はさっきまでよりもさらに熱く、重くなってじんじんと疼いていた。興奮に尖った先端は赤くなってつんと上を向いて、外気に触れているだけでじわじわと昂ぶっている。メルの胸を吸っている間に、ボクも興奮してしまっていたのだ。
 まるで、胸の中につまった快楽の神経がぜんぶ剥き出しになってしまったみたい。そっと指先で、せり出した先端をつつくと、じゅわぁとミルクが滲み、雫になって地面に垂れ落ちる。我慢できず、メルの胸を吸っている間にも、ボクは自分でこの胸を弄っていた。
 ちりちりと焦げるようなその感覚は、言葉にできないほどに頭を痺れさせた。まるで、胸の奥――心臓のすぐ上あたりにある、熱く凝ったなにかがすっかり蕩けて、マグマみたいに乳房から噴き上がるみたいだった。
 男の人が射精するのにも、きっと良く似ているのじゃないかと思う。
「んぅ、っ、ふ……ぁあっ……!!」
 我慢しきれず、ボクは両手のひらで自分の胸に乗った柔肉を掴んでこねはじめてしまう。ずっしりと重く張り詰めた先端からミルクが迸り、甘い匂いと共に手のひらをぬるぬると汚してゆく。ぽたぽたとミルクを滴らせながら、ボクはもう手指を止められない。
「っ、んっ、あ、……ゃ、きも、ち、ぃい……っ」
 こんなことで感じてしまう自分が、信じられなかった。
 胸に詰まったミルク袋を絞るようにこねるたび、ふわりふわりと身体が宙に浮かび上がっていくかのよう。つんと尖った先端を指に挟むと、ぴゅう、と勢い良く噴き出した白い飛沫が地面に散る。
 がくがくと肩が震え、背中に甘い電流が走り、ボクは十分以上に育った胸のふくらみを掴みながら、腰を砕かせて地面に伏せてしまう。
「ポーレ……」
 そんなボクを覗き込んでいる、メルの姿があった。




 ◆10◆

 荒い息のまま何もいえずにいるボクを、気づかうようにそっと身体をすり寄せてきたメルは、ボクの身体をやさしく上向けると、かたっぽの胸にそっと口をつけた。
「んぅ。ちゅ……ちゅる、ちゅぅう……んむっ」
「ぁ、~~~ッッ……!!」
 メルが慣れた手つきでボクの胸を掴み、指をうずめるようにして揉み、こね、ぎゅうと身体の真ん中に寄せ合わせるようにしてくる。可愛らしい口が、沙族達にしているようにいっしょうけんめいに開いて、ボクの胸を吸い上げる。
 先端だけをすうのではなく、膨らんだ乳房を、蒸しパンに噛みつくようにして口に含む。
 火傷しそうに熱い舌が乳首をねぶり、小さな唇がいっしょうけんめい胸の先っぽをついばむ。とろとろと溢れる唾液が、さらにボクを高ぶらせた。
「ぁ、あっ、あ、はぅ、ああっ……♪」
 大胆ではあるけれど、乱暴で粗雑な沙族の雄には決してできない、巧緻で繊細な舌使い。女の子だけの睦み合いが産む、細やかで鋭い愛撫。 火照った頬を恥ずかしげに俯かせて、ボクの胸を舐め、啜るメルに、ボクは興奮を抑えられない。ちゅぱ、と吸い上げられると同時、こらえきれないミルクのほとばしりがメルの口の中に吸い込まれていく。
「んぅ、ぽーれ……、へいき?」
「っ、っ……」
 はいもいいえも言葉にならず、ボクは必死にかぶりを振っていた。メルの愛らしい表情を窺う余裕もないもない。
 ん、とちいさく頷いたメルが、もう一度熱く膨らむ胸を吸い上げる。メルの口の中に恥かしいほどにミルクを次々吹き上げながら、ボクは仰け反って声にならない嬌声を繰り返す。ぎりぎりまで残っていたはずの理性まであっさり消えうせ、ボクの身体はたちまちその快感に溺れ、なんども気を遠くしてしまう。
 胸の快感は、犯される時のそれとはまた違っていた。赤ちゃんにあげる為のものだからだろうか、乳首を吸われて、胸を丁寧になぶられる間、頭の奥がほんわりと幸せに塗り潰されて、途方もなく嬉しくなってしまう。大事な友達と再会した時の嬉しさを、何百倍にも煮詰めて濃厚にしたような――言葉に出来ない法悦。
 それが、メルと胸を弄り合っている間に覚える快感だった。
 こんなことをもう一月も繰り返しているのだから、上手くなるのは仕方のないことだろう。いまはもう、ひと啜りされるだけでぴゅうぴゅうとミルクを吹き上げるボクの胸は、もういつ赤ちゃんが産まれてもいいように準備を整えているのだ。
 ボクとメルは、互いを練習台に、おなかの中の赤ちゃんを育てるための訓練をしているのだった。


 そして――
 ボクがメルにおっぱいを吸われていると、すぐに『それ』はやってきた。できるだけ刺激しないようにと体重をかけないよう気づかうメルの身体の下、もうどこから見てもはっきり分かるほどにまあるく膨らんだおなかの奥で、ずる、ずる、とボクの意志とは関係なしに、『それ』が激しく暴れ出す。
「うぁ……っ」
「ポーレ、……痛いの?」
「だ、だい、じょぶ……、い、いつもの、だから……」
「辛かったら、言ってね? ……ポーレ」
 メルにも同じようにあることだから、すぐに意図は伝わった。
 膨らんだボクのおなかの中で、赤ちゃんが動きまわる――胎動の感覚。それはもう随分前から、はっきりと感じられていた。
 粘液に満ちた袋の中を、赤ちゃんが身をよじり、足をばたつかせ、激しく動き回っている。その動きは、力は日を増すごとに強く激しくなり、いまでは辛いくらいだ。
 おなかの中で暴れ出す赤ちゃんをなだめるため、ボクはそっと膨らんだおなかを撫でた。ずっしりと重く膨らんだおなかは、ぱんぱんに膨らんだ革の水袋みたいに硬く張りつめ、身体の外側にまでおおきくせり出している。おなかの内側を蹴飛ばされる回数は日に日に増し、胎動を感じない時はなかった。
 おなかを抱えた手のひらの下で、はっきりわかるくらいに、不機嫌になった赤ちゃんが暴れては、ぞる、ぞると身をよじり、寝返りを打って、むずがるようにおなかを蹴飛ばす。ボクはなんどもおなかを撫でて、それをなだめてやらなければならなかった。
「んぅっ……ご、ごめんね……ごめんね……?」
 メルに優しくおっぱいを吸われて、ボクが少しでも気持ちよくなってしまうと、それを敏感に悟って、おなかの赤ちゃんが動き出すのだ。
 いったいどうやってわかるんだろうと思うけれど、おなかの中の赤ちゃんは、自分のものであるはずのミルクを横取りしている誰かに怒って、そんな事をさせるなとボクに要求してくるのだ。それは俺のものだ、誰にも渡すな、と叫んでいるみたい。その傲慢さは、ボク達を抵抗も拒絶も構わずに次々に犯した沙族達の態度にそっくりだった。
 その感情はちゃんとボクにも伝わってきていた。不思議なことはない。だってボクはこの子のお母さんだから、そういうのは分かるようになっているのだろう。
「んんぅ、くぁ、ぅぅ……!!」
 膨らんだおなかが上下し、内側からゆっくりと盛り上がる。狭い子宮のなかで、赤ちゃんが不機嫌に身をよじって動き回る。
 ここ数週間で、赤ちゃんにはしっかりとした骨格や筋肉も出来たみたいだった。小さな身体が、力強い手足が、ボクのおなかを内側から圧迫する。ただでさえ、おなかの中の赤ちゃんはもう大きくなって、仰向けに膨らんだおなかを抱えているだけでも大変になってきているのに、こうも活発に動き回られるのはとても辛かった。
 身体の中身が圧迫されて、内側から引き裂かれてしまいそう。
 こうやって、ボク達がおっぱいの処理をしている間中、赤ちゃんたちは不機嫌になって、大きく膨らんだ子宮の内側から、粘液の中を暴れ回るのだった。
「んぅ、ちゅ……っは、ポーレ、いっぱい出るね……」
「ふぁ、あぅ、あ……、っあっ♪」
 胸を吸われながら、赤ちゃんがおなかを内側から、そこらじゅう構わずに蹴飛ばし続けられていると、どうにかミルクの処理が終わる頃には、ボク達はくたくたになって倒れてしまう。
 そうして、ようやく全部がおわり、息が途切れてどうしようもなくなってしまう頃になると――また、沙族たちがやってくる。
 ボク達は、おなかの中の赤ちゃんのためのミルクを絞ったばかりの胸で、飲み込んだ唇で沙族のいきり立つ生殖器を慰め、いっしょうけんめい扱いてやらねばならなかった。
 ボク達が妊娠していても、沙族たちはボク達を○すのをやめなかった。おなかに赤ちゃんがいるから、おねがい、静かにして、と懇願しても、彼らは聞き入れなかった。丸いおなかの上に構わず圧し掛かって、大きなペニスでがつんがつんと子宮を突き上げてくる。何かの拍子に赤ちゃんが傷ついてしまわないかと、ボクは泣き叫んで抵抗した。
 どうも、彼等の性欲はメスの発情によってコントロールされていて、繁殖期を迎えたメスがいる限りいつまでだって交尾を続けるらしい。こんなおなかをしていても、なるほど確かに発情しているボク達は、きっと彼らにとって性欲を満たす本当に都合のいいメスなんだろう。
 大きなおなかを抱えながら、懸命に彼らを受け入れ手いる間にも、まったく容赦しない沙族のリーダーにうつ伏せにされて後ろから覆いかぶさられ、腰が壊れてしまいそうなくらいにペニスを激しく打ち込まれ――子宮の中にまで、激しい射精の勢いでどくどくと白濁液を注ぎ込まれている間。
 ボクのおなかの赤ちゃんは凄まじく不機嫌になってひたすらに暴れ続ける。自分達が育っている子宮を、そこに満たされた卵胞の羊水を汚す不埒者を、逃すまいと抗議の声を上げ暴れるのだ。まさにそれをしているのが、自分達の父親だということにも気づかないまま。
 ボク達は、熱く灼けた太いペニスに、おなかに圧迫されて狭くくねるようになった膣を無理やりこね回される快感に悲鳴を上げ、野太く節くれだったその先端が子宮の口を押し潰し、赤ちゃんが育つゆりかごを突き破ろうとするのと。
 快適な育成環境を保てない、不出来な母親に対して不快を露わに、すぐ傍の父親たちのペニスを排除しようと子宮の中で暴れつづける赤ちゃんの胎動に挟まれて、毎夜毎夜、数え切れないくらい気を遣るのだった。




 ◆11◆

「うぁ……っ」
 ずる、ずる、ずる、と。今日もおなかの赤ちゃんは、大きく膨らんだボクの子宮を占領するように動き回っている。
 あいつらの――ボクの赤ちゃん。
 身体を丸めて、手足をばたつかせ、粘液の中をぐるぐると。1日に何時間かを除いて、赤ちゃんは落ち着きなく動き続けた。産まれてくる前に、外の世界で生きてゆくための運動をしているかのようだ。
 もう赤ちゃんの身体は小さな筋肉の塊ではなくて、ごつごつした皮膚や、曲がった背中に出っ張ったごつごつとした背骨と、大きな頭、そこから伸びる太くて長い尻尾の感触まで分かるくらいに、がっしりと育っているのも分かった。
 普通の人間の赤ちゃんは、こんなにも活発に動き回るものなんだろうか。残念ながら、妊婦になったのがはじめてのボクにはよくわからない。
 毎日代わる代わる、沙族達に犯され続けて、ボク達の身体は、そんな刺激すら敏感に感じ取ってしまうくらいに仕込まれている。赤ちゃんが大きくなるための準備すら、あさましく快感として受け取ってしまう、いやらしい身体になってしまっていた。
 いまでは、夜明けの前に動きだすおなかの赤ちゃんに浅い眠りを中断され、ぼんやりと明け方の光を感じるのが日課になってしまっている。全身はすっかり疲れ果て、暇さえあればうとうとと目を閉じてしまうことがほとんどで、まともに考えるのも難しい。
 日記を書いている暇も、もう無いに等しかった。この文章だって、何日もかけて書き足しているのだ。
 そんな有様でなお、ボクの身体はそれに悦んでいるらしい。
 起きる頃にはいつも、足元はいやらしくほころび、蕩け、くちゅくちゅに蜜を溢れさせて塗れているのだ。そっと指を伸ばせばぴりりと甘い電流が背筋を走り、思わず飛び出す喘ぎ声を抑えきれない。
 そのことにはじめは衝撃を受けたものだけど、もう今は慣れてしまっていた。
「…………っ」
 なにしろ、ほとんど一日中、窮屈でしょうがないと暴れ続ける赤ちゃんの相手をし続けていなければならない。ボク達はそれにすっかり参ってしまっていた。そもそも大きく育ち続けた赤ちゃんは、粘液に包まれた卵胞ごと、風船みたいに膨らんだおなかいっぱいに詰まっている。身体を起こすだけでも凄い重さが、腰に圧し掛かってきて、四つん這いになるのも辛い。。
 これが荷物を背負ったり抱えたりしているだけなら、下ろせば済むことだけど、これはそんなわけにはいかない。母親になるってことは、そう言うことだ。
 ――きっとお母さんは、ボクを産むまでずっとひとりで、父親の助けも借りず、音を上げることもなく、10ヶ月もこの重さに頑張り続けたんだろう。それに比べれば、たった4ヵ月半で呻いているボクなんか、情けないのもいいところだ。
 けれど、ひとつだけ言い訳させてもらうなら、人間の赤ちゃんは、きっとここまで元気じゃないだろう。
「…………」
 でも。そうやって元気なあかちゃんが、いまは、たまらなく、愛おしい。経緯はどうあれこうやってボクのおなかの中に芽生え、根付き、育った小さな生命が――今のボクに希望と元気を与えてくれる。
 いつしか、ボクは日に日にまあるく大きくなる自分のおなかを、そっと撫でて、心地よさを感じる自分に気付いていた。
 沙族の子種、それもはじめは望まない形で妊娠したのであっても、ボクがおなかを痛めて産む大切な赤ちゃんだ。ボクの生命を繋いで生まれてくる赤ちゃんが、そうやって毎日元気よく動いているのは、理屈ではなくとても素敵なことに感じられた。


「メル、そろそろ起きないと……」
 その日の朝。いつもよりも遅くまで眠っていたメルを起こそうとして、ボクはメルの様子がおかしい事に気付いた。
 うつ伏せになったメルは汗をびっしょりとかいて、触れた二の腕もびっくりするくらい熱い。身体を丸めるようにしてぐっと息をつめ、きつくを歯を食いしばって。
「ポーレ……っ」
 荒い息を堪えて、縋るようにボクの名前を呼ぶその様子で、ボクはようやく、メルの異状を理解する。
 メルは産気づいていた。視線を動かせば、ボクに負けないくらい大きくなったメルのおなかが、ゆっくりではあるけれど確実に、大きく動き、波打っている。
 汗に濡れたメルの額には、髪が張り付いて、細い手足が小さく震えた。
「や……だ……っ、これ、怖い……どう、しようっ……」
「め、メル、落ち着いて……ゆっくり、息……」
「は、はッ、はぁッ……」
 ボクは無理矢理メルの身体を支え、襤褸を敷き詰めた苔のベッドに仰向けにさせた。額にびっしょりを汗を浮かべたメルが、ボクの頼りないアドバイスに従って、必死に息を繰り返す。それでも押し寄せる衝撃にはまるで頼りなく、メルは何度も悲鳴を上げる。
 メルの足の付け根はこれまでにも見たことがないくらいびっしょりと湿り、大きなおなかの膨らみは、昨日までよりも下の方、脚の付け根のほうに向かって降りてきていた。
 もう、赤ちゃんを内側に収めきれなくなった子宮が降下して、その口をじわじわと拡げているのだ。その余波がいま、メルを襲っているのだと分かった。じっとりとぬめる液に湿ったメルの脚の奥が、張り裂けてしまいそうに膨らんでいる。
「っ、あ、あ、っ、あーっ!!」
 突然ぐぅっ、とメルのおなかがうねり、メルは目を見開いて叫ぶ。メルのおなかの中で、赤ちゃんが力強く動いている。その様子から見るに、多分、陣痛は昨日の夜くらいから始まっていたんだろうと分かった。
 原因はたぶん、昨日メルを一番に独り占めしたあの刀傷の沙族だ。どういうわけか久しぶりに姿を見せた彼は、この部屋に入ってくるなりまっすぐにメルの元に近づくと、しゅうしゅうと激しく唸り声を上げながらメルの細い身体を掴んで離さず、あきれるくらい何度も何度も交尾をしていた。
 赤ちゃんのいる大きなおなかを揺すり、何度も何度も野太いペニスを深々と突き立てられながら、メルは甘い嬌声を繰り返して達していた。おなかの奥に射精された白い粘液が、とうとう結合部分から音を立てて溢れてしまうまで。メルはひたすら、あいつに犯され続けた。
 ひょっとすると――あいつはメルの事を気に入っていたのかもしれない。大きな身体で傷を負っているということは、沙族の中でも高い地位をもっていて、これまで何度も修羅場を潜った経験があることを示している。また何か、大きな争いや狩りが近々予定されていて、あいつはそのために、メルに新しい子種を仕込もうとしたのじゃないだろうか。
「っあ、ぅあ……、やだ、っ、やだぁあ……痛いい、おなか、裂けちゃうぅっ…!!」
「大丈夫、メル、落ち着いて、息をしっかり!!」
 激しく暴れ酔うとするメルの身体を必死に押さえ、ボクは懸命に彼女を励ます。
 あんなに大きなおなかを、構わずあそこまで無茶苦茶に、乱暴に子宮を突き上げられていれば、メルがこうなってしまうのも仕方がないのかもしれない。
「ぁ、や、ポーレ、っは、ふ、……こ、怖い、怖いよぉ……っ、動いてる、赤ちゃん動いてる……ッ」
「メルしっかり、大丈夫、大丈夫だから!!」
「や……、おなか、裂けちゃう……熱い、熱いよぉ……!!」
 びく、びく、とまるで見えない手が掴んでいるみたいに、メルの膨らんだおなかがうねる。
 そこにはっきりと、自分ではない別の生命の意思を感じて、メルは混乱していた。――あるいは、おなかの中の赤ちゃんの不安や焦燥みたいなものを、メルも感じ取ってしまっているのかもしれない。
「ぁ、っあ、ああああぁああ!?」
「メルっ!?」
 がくん、と身体を仰け反らせ、メルが悲鳴をあげる。メルの下腹部に緊張が走り、脚の付け根に広がった女の子がぷしゅ、と小さな潮を噴き上げる。
 メルの力の篭った指先にきつく掴まれて、ボクの腕の皮膚が破れ、血が滲む。ボクは痛みに顔をしかめながら、メルにちょうどいいように、寝床のぼろ布を引き裂いて、握らせた。はあはあと息を荒げるメルの口に、水を含ませる。
 喉を湿らせる水を飲み、めるはぜえぜえと息を荒げた。
「ぁ……ポーレ、おなか……あたし、赤ちゃん……っ、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから、落ち着いて、メル!!」
 沙族の赤ちゃんが、何ヶ月で生まれるのかボクには分からない。そもそも、タマゴで生まれるのかもしれない彼等の赤ちゃんが、ボク達のおなかで育った時どうなるのかなんて、誰も知らないことかもしれない。
 だから、メルのこれが危険な状態なのか、それとも正常な出産なのか、はっきり区別もつかなかった。
 いくら女の子らしくなったとはいっても、半年前まで“女の子”ですらなかったメルがはたして無事に赤ちゃんを産めるのか――メルの身体には不釣合いなほどに大きなおなかを見て、ボクは不安になる。それにおそらく、これは普通の沙族の出産――あるいは、産卵とも違うはずだった。沙族の子種が、人間の女の子を犯して受精させた生命なのだ。異形の胎児が、きちんと母体を安全に保って生まれてくるのかもわからない。あの鋭い牙や爪、恐ろしい力を持つ手足をもった生き物がまともに産まれてくれるのだろうか。
 メルが出産を終える前に、赤ちゃんが暴れ回るのに耐えきれず、命を落としてしまう可能性すらあった。
 焦るボクが、なんとかメルを楽にしてやろうとしていた時。

 いつもの、がたん、と閂をはずす音が聞こえた。

「え、っ」
 いつもより早い――と振り返る間もなく、そこには群れる沙族がひしめいている。彼らは洞内のボク達の様子を気にする事もなくぞろぞろと部屋に入ってくると、おなかを抱えて苦しむメルを遠巻きに見ながら、ボクのほうをじろりと振り向いた。

 ……その日。
 メルは、ボクが犯されている目の前で、沙族の赤ちゃんを産んだ。


 (続)

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