シロフミ 2020/08/05 22:35

旅する少女と異貌の民・その1

【前回セッションまでのあらすじ】
 ラビオリールを後にし、長城を越えた沙帝国の街道で「のるたまご」の殻を拾おうと砂漠に踏み出したポーレ達は、[移動チェック]に失敗して過酷な砂砂漠の中に迷い込んでしまう。さらに[野営チェック]にも失敗したポーレ達は、その夜に不意をつかれて襲撃を受けてしまう。
 バルフェンとティグレの防戦もむなしく、囚われの身となったポーレとメル。
 二人を捕えた砂漠に棲む異貌の民「沙族たち」は、発情期を迎えて雌を確保するために砂漠に迷い込んだ旅人達を狙ったのだった。代わる代わる犯された二人は、やがて彼等の仔を孕み……

 リプレイ3巻7話、《ラック・ラック・ラック》をかけ損ねたあたりから分岐した展開。ポーレの手記を模しています。



 ◆1◆

 ボク達がここに閉じ込められてから、これで十二日が過ぎた。
 もっともっと長かったようにも思うし、つい昨日のことのようにも思う。日にちの経過がだんだん曖昧になってきているみたいだった。
 がりり、と手帳の一ページ目に十二本目の線を引き、ボクは胸に満ちたやるせない思いを吐息と共に静かに吐き出す。
 こんなことをしていても仕方がない、と解ってはいるけれど、ボク達にできることは驚くほど少ない。何かの役に立つかもしれないと思って書き続けている日記だけど、いまはこうして以前と同じことを続けている間だけ、自分を保っていられるような気だする。
 ペンを擦るボクの隣で、ぼんやりと天井の亀裂を見上げていたメルが、ぽつりとつぶやいた。元気よく跳ねていた左右に括った髪もだらりと垂れ下がり、表情にも疲労の色が濃い。
「ねえ、ポーレ、あたしたちどうなっちゃうのかな」
「……そんなの、ボクにもわからないよ……」
 何度繰り返したのかもわからないやり取り。メルの不安はどうしようもないことだろうけれど、ボクにはそうやって答える以外、何もできなかった。冷たい言い方だとなじられても仕方がない。でも、やっぱりメルと同じ囚われの身のボクにはなにも保障できないんだ。
 きっと聞こえの良い希望を並べることはできただろうけど、同じ運命に囚われたボクがそれを口にしても、空々しいだけで耐えられなかった。
「……っ」
 堪えきれなくなったんだろう。座り込んで脚を寄せて俯いたメルが、小さく肩を震わせる。すぐに頻りに目元をぬぐおうとする彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
 押し殺したその声を聞いていられなくなって、ボクはぎゅっと耳を手で塞いだ。
 薄暗い洞窟には、もちろん窓なんかない。天井にわずかに入った亀裂から差し込む光が、朝と夜を教えてくれるわずかな標だった。けれどそれも、雨や曇りの日にはわからなくなってしまう。
 それでもぼんやりと周りが見えるのは、壁や床にに自生しているルリイロゴケの作用だ。湿り気を嫌うふんわりとした苔は、尖った岩を覆って、それなりに快適なベッドを提供してくれている。おかげで夜目の利かないボク達にも、目を凝らせば辛うじて文字が書き取れるくらいの環境が保たれていた。
 洞窟にたったひとつだけの出口は、分厚い鋼鉄製の扉に閉ざされていた。強固な鍵と閂が掛けられていて、限られた時以外には決して開かない。もちろん、ボク達が力をあわせたくらいじゃビクともしなかった。
 盗賊やニンジャ……たとえばクリュウとかだったりしたら、なんとかあり合せの道具で鍵をあけたり、閂を切ることもできたかもしれない。ティグレやバルフェンがいてくれたら、力づくでドアを押し破ることもできたかもしれない。でも、複雑な鍵と丸太のように太い閂を開けることは、ボク達にはどうやっても不可能だった。
 空気抜きの天井の亀裂を目指そうにも、いくら岩肌がむき出しでもとっかかりのない岩壁を登ることなんてできないし、もし足を滑らせたらそのまま床に落っこちてしまう。苔のベッドはそれなりにふかふかだけれど、5mも上から頭をぶつけて無事でいられるかは試したくはなかった。
「…………」
 何度見回しても、結果は同じ。ボクたちの閉じ込められた洞窟は完全に外界と隔てられていて、ここから出られる要素なんてどこにも見当たらないのだ。
 それを確認するたび押し寄せてくる濃い絶望から目を反らすために、ボクはまた手帳をめくり、空いた頁に文字を綴る。
 思えば、これをはじめたのはボクが商人になろうと決心した時だった。その日にあったこと、思ったこと、自分のしたこと。商売のことであるかそうでないかに関わらず、ボクはこの旅をはじめて感じたすべてのことを、この手帳に綴っている。母さんのような商人を目指して、その夢を追いかけるなら、見聞きした大切なことや忘れたくない大事なことは、全部覚えていかなければならないと思っていた。
 そういえば、自分のことをボクと呼び始めたのも同じころだ。ぜんぶ商売のためだった。旅の間にも行商人は何人も見かけたけれど、ボクと同じ女の子の商人は驚くほど少なかった。一番歳の近かったのがあのレベッカなんだから、ちょっと笑ってしまいたくなる。
 世慣れた年上の男の人ばかりを相手にする商売のなかで、ボクは少しでも侮られまいと必死に背伸びをしていた。みんなが夢中になるお洒落や洋服なんかにも見向きもせずに、旅の噂に耳を澄ませ、一つでも多くの儲け話を探していた。アルほどじゃないけれど、ボクのことを女の子だと思わなかった人も、それなりにいると思う。
 けれど――そんなボクの格好にも惑わされずに、あいつらは旅路のボク達をたくみに見つけ出し、狡猾に罠をはって、仲間達と分断してから攫っていったんだ。
「……ポーレ」
 不意に名前を呼ばれて、ボクは顔を上げた。
 目を赤く泣き腫らしたメルが、ボクのほうを申し訳なさそうに見ている。
「なに、メル?」
「……あの、ごめんね。あたし、また……」
「いいよ。メルは悪くない」
「あはは、ダメだね……あたし、もっと元気出さなきゃいけないのに……こんなんじゃ」
 無理に笑顔を作ろうとするメルがいじましくて、ボクは目を反らす。
 メルの辛さは、ボクよりもきっと重い。だから、泣き崩れて頬を濡らしたまま、それでもなお笑おうとするメルは、痛々しいくらいに悲しかった。
「あんなこと、くらいで、くじけちゃ……ダメだよね、っ……」
「メル……」
 無理に上向こうとしたメルの表情がまたくしゃりと歪み、悲しみに彩られる。ボクはそっとメルに近寄ると、小さな身体をぎゅっと抱きしめた。一瞬、びくっ、と身を強張らせたメルは、ゆっくりと緊張を解いてボクの背中に手を回す。
 緊張の糸が切れたんだろう、。今度ははっきりと声を上げてメルが泣き出す。
 見知ったボクの傍に寄り添う間さえ、不安に震えるメルの首筋には、痛々しいまでに赤く腫れあがった“やつら”の手形が残っていた。





 ◆2◆

 ボク達を攫ったのは、砂漠のなかでも岩や瓦礫の多い地域に棲んでいるという、沙族というやつらだった。二本の手と二本の脚をもって、道具をつくり立って歩ことができるけれど、その丸太みたいに太い手足にはびっしりと鱗が生え、顔は蛇や鰐にそっくりだった。長い尻尾をくねらせて砂の中に潜って身を潜め、通りがかった獲物を襲う。
 砂の上では人間よりもずっと素早く、しかも力が強くて知恵もある。砂漠ではゴブローチと同じように人間からは忌み嫌われている生き物だった。
 むしろ、ゴブローチと比べてボク達と同じ言葉を喋ることができない分だけ、沙族達より厄介だと言っても良かった。出会えばお互いに殺し合うか、どちらかが追って来なくなるまで逃げるしかないという。
 奴らは沙帝国との国境、長城を越えたばかりのボク達を、砂の中に隠れながらひっそりと付け狙っていた。ボク達がうかつにも、たまごの殻を取ろうと街道を外れたのは、やつらにしてみれば絶好のチャンスだったんだろう。
 慣れない砂漠の旅に道に迷ってしまったボク達が、アルやクリュウとはぐれ、街道に戻ることもできないまま疲れ果ててテントを張ったタイミングを見計らって、やつらは一斉に襲い掛かってきた。狩人の勘ですぐに異常に気付いたティグレが応戦し、バルフェンも愛用の剣を構えてそれに加わった。
 襲ってきたのが沙族だと気づいたバルフェンは顔色を変え、普段はみせないような真剣な顔で、ボク達に大急ぎで逃げるように叫んだ。沙族にはどんな性質があるのか、バルフェンだけは知っていたのだ。
 ボクとメルはよくわからないまま、荷物をまとめて、彼らの襲ってきたほうとは逆向きに逃げ出した。
 けれど、沙族の数はボク達が思っていたよりもずっとずっと多かったんだ。
 数キロもいかないうちにボク達はすぐに沙族に取り囲まれ、そのまま捕まってしまった。
 ……唸り声を上げて勇敢にもたちむかったリラは、あっさり槍で突き殺された。メルの持っていた可愛い剣も、あっさり取り上げられてしまった。そしてやつらは、ボク達をこの洞窟に運び込んで、閉じ込めたんだ。
 はじめは、なにかの人質にボク達を誘拐したのかと思い、その後にあいつらの、人とは違う姿を見て、ボク達は食べられてしまうのかもしれないと恐怖を抱いた。
 けれど、それも違っていたことを、すぐにボク達は思い知らされた。
 やつらは、ボク達を人質でも食料でもなく、

 ――雌として、使うつもりだったんだ。

 その日の夜、ボク達のいる洞窟にやってきた沙族たちは、荒い息をこぼし興奮した声を上げていた。中にはもうはっきりと、脚の間に野太いペニスをびくびくといきり立たせているやつまでいた。
 その時になってボクはようやく“そのこと”に気付いたんだから、我ながら危機感の無いことだと思う。旅をしていて、女の子が一番最初に気をつけなければいけないのはそのことなのに。
 やつらはそのまま、ボク達に次々と覆いかぶさってきた。
 あいつらは、多分においか何かで、ボク達が成熟したメスかどうかを区別していた。だからボクのほうが、優先して狙われたんだろう。
 必死の抵抗なんて、まるで紙のよう。たぶん十匹以上いたやつらは、代わる代わるボクの上に乗り、ボクの身体に太く大きな肉杭を突き立てて、激しく腰を叩きつけた。ボクはそのたびに悲鳴を上げて、喉が枯れるまで泣き叫んだ。
 その時のことはほとんど覚えていないけれど、やめて、やめて、離して、ポーレが死んじゃう、助けて!! というメルの懇願だけが、妙にはっきりと聞こえていたのが印象に残っている。
 押し寄せた沙族達に、気が遠くなるくらいの長い間、犯されて。
 ボクはそのまま気を失った。
 思い出したくもない、一生かかっても忘れられないだろう悪夢は、けれど次の日も、その次の日も同じように始まって、同じように続いたのだ。
 夜になるとやつらはやってきて、一晩中ボクたちを犯した。それがもうずっと、ずっと続いている。
 壁の印が12日目を示しているんだから、毎晩と言っても12晩なんだろうけど、それが2週間に満たない日々だとは、冷静に考えてみても本当の事だとは思えない。
 唯一の救いは、やつらがメルよりもボクに興味を示してくれたことだ。ボク達の中で一番『女の子』な格好をしていても、まだちいさなメルには、雌としての価値は薄かったのかもしれない。だからせめてメルだけでも守れればと思って、3日目から、ボクはやつらに抵抗しなくなった。
 けれど、嫌悪感を懸命にねじ伏せて、頑張ろうと思ってもボク一人だけじゃやつら全員をひきつけることはできなかった。押し寄せる沙族達の数は十じゃとてもきかない大勢で、そいつら全員をボクが一人で同時に相手できる訳がない。
 どうしてもあぶれてしまう奴らが出て、そいつらはすぐにメルに群がった。メルもあいつらの汚らしいペニスを咥えさせられたり、ぺたんこの胸を無理やりつかまれて、どろどろした精液を顔中にぶちまけられたりしてしまうのまでは防げなかった。
 そしてとうとう、昨日。
 ――メルも、あいつらに犯されてしまったんだ。
 ずうっと、ボクとあいつらの行為を見せ付けられていたんだから、メルはその恐ろしさを誰よりもよく思い知らされていただろう。人間とはまるで違う、冷たい鱗と、ナイフみたいな爪の生えた太い腕に掴まれて、股間にびくびきとのたうつ太いピンク色の杭みたいなペニスを、股の間に突き立てられる瞬間を――誰よりもよく、メルは見知っていたはずだ。
 メルの絶望に彩られた悲鳴は、まだボクの耳の奥に反響している。
 ボクの時よりも、きっとメルは辛かったろうと思う。
 よりにもよって、あんな相手に、女の子のはじめてを奪われてしまったんだから。
 メルよりもほんの少しだけ、ボクが冷静で居られるのは、旅に出る前に、村の友達に頼んで、はじめての経験をさせてもらったからだ。
 ……旅は村のみんなが言うほど楽なものじゃなく、過酷なことだって少なくない。そんな時、女の子であることはきっと邪魔をすることもあるから。だからそうしておいた方がいいと、母さんの代わりに、ずっと世話になっていた斜向かいのおばさんに言われてのことだった。
 でも――メルは違う。ボクのように、好きだったかどうかははっきり解らないけれど、少なくとも一緒に暮らした見知った相手じゃなくて、あんな化け物みたいなやつらに、はじめてを散らされたんだ。きっと死んでしまいたいくらいに、苦しいだろうと思う。
「メル、……痛いの?」
「ううん、平気だよっ。これくらい、ぜんぜん――平気」
 それなのに、いつもと同じように無理して笑顔を作ろうとするメルが痛々しくてたまらなかった。
 メルの細い足の間には、まだうっすらと赤い血の痕も残っている。沙族達の大きな身体に圧し掛かられて、むちゃくちゃに振り回されて――太くて大きな肉の杭が、白い身体の奥まで打ち込まれる。
 無惨な光景に目をそらそうとしても、やつらがそれを許してくれなかった。やつらはメルが仲間に陵○されるのを見せ付けるように、ボクを抱え上げて揺さぶり続けた。あいつらの万力みたいな力を振りほどく事もできないままに、ボクはずっとメルが悲鳴を上げて暴れるのを見せつけられていた。
 メルも同じ。ボク達は、犯されている間じゅう、お互いの悲惨な姿を見せられつづけていたのだ。
 ……やつらはいつも、十人以上でやってくる。
 これまで、たった一人のメスだったボクの回りで、代わりばんこに順番を待っていたやつらは、メルもボクと同じようにメスとして使うことができるのだと知ってから、後先考えずにボク達に群がってくるようになった。
 顔も、胸も、唇も、手のひらも、みんなみんなやつらの欲望を受け止めるのに使わされた。
 男の子のことはよく分からないけど、射精というのは一人一回、で済むものじゃないらしい。へとへとになって最後の奴を相手している頃には、最初のやつがとっくに回復して、びくびくと雄の匂いを滾らせたペニスをボクの顔に押し付けてくる。他の奴らがボクを犯している間、それを見てまた興奮する奴も少なくなかった。
 それがずっと、あいつらが飽きるまで、ずうっと続く。
 だからそんなにも多勢の沙族達の相手をするのは尋常じゃなくて、やつらがとりあえず満足するまでの長い長い時間が終わるころには、ボクもメルも意識はほとんどなくなってしまっていて、疲れ果てたまま気絶し、泥のように眠り込んでしまうのだ。
 そして、半日も過ぎる頃にはいつもの最悪な目覚めがやってくる。
 最近ボクが見る夢は二種類で、大体は平凡な旅の中で、さっきまでの出来事が悪夢だったと思っている夢と、沙族達に犯され続けて殺されてしまう夢のどちらかだ。
 そのどっちでも、最悪な事は変わらない。目を覚まして、ああ、やっぱり夢じゃないと思いながら起き上がり、ボク達は吐きそうになるのを堪えながら、汚されたあそこや口や、身体を清める。
 やつらはやってくる時に水や食料を洞窟の中に置いていく。半分カビたパンや汚れた水でも、ボク達には大切な食事だった。砂漠では水は貴重で、沙族は人間は比べてとても少ない水分で生きていくことができる。だから、奴らがボク達を生かしておきたいと考えているのは理解できた。
 その水を使って、ボク達は一晩中振り回されて擦り切れた身体を拭うのだ。どうせまた夜にはどうしようもないくらい汚されるのだと解っていても、そのままにしておくことはできなかった。
 そうしている間中、ずっと、ずっと、
 惨めで、
 情けなくて、
 涙が出てくるばかりだった。
 ボク達は、またその日の夜も、沙族達に犯されるために、身を繕って綺麗にしているんだから。こんな惨めなことがあるだろうか?
 でも、でも、けれど。
 もし、ボクが捨て鉢になって、汚れを拭うこともせず、汚いままに地面に転がっていたら。あいつらはメスとしての価値を失くしたボクに興味を失って、処分してしまおうと思うかもしれない。そんなのは、絶対に、絶対に、嫌だった。
 だから、ボクは精一杯、あいつらに媚びて見せるしか、ない。それ以外に他の道が、ないんだ。
 ふと、旅の皆のことが思い浮かぶ。
 ……ティグレも、バルフェンも、アルもクリュウも、いまどこで何をしているんだろう。
 どうして助けに来てくれないんだろう。ひょっとして、ボク達のことを忘れちゃったんだろうか。それとも、あの時の襲撃でみんな、沙族に殺されてしまったんだろうか。
 そんなことはない、きっと必ず、助けに来てくれるはず。これまで何度もピンチの事はあったけど、最後にはちゃんと、無事に助かることができた。できたんだ。そうやって何度も自分に言い聞かせても、どこか心からは信じきれない。
 それくらいには、ボクは疲弊して、擦り切れて、疲れ切っていた。
 だって、一体何日経てば、何日待てばいいんだろう。ルリイロゴケのぼんやりとした灯りのなかでは、日にちの感覚もなくなっている。
 いまでは、毎日押し入ってくる沙族たちだけが、今日と明日の境界だ。
 それ以外の時間は眠っているか気絶しているかで、ほとんど意識がないのと同じだ。やつらに犯されている間だけ、ボクは生きているような気さえしてきていた。こんなことじゃいけないと思いはするものの、いまはもう、心が磨り減ってしまっているようで、悲しい、悔しいと思う感情さえ自分の思い通りにならない。
 夜毎、乱暴に跨られている時の衝撃と、痛みと、熱さだけが、ボクの希薄な意識をつなぎとめる実感になりつつある。
 ……いっそ、本当に気を狂わせてしまえたら、楽なのかもしれないけれど。
 それもできない、臆病なボクは、こうやって毎日を文字につづるしか出来ないんだ。





 ◆3◆

 がり、がりとドアをかきむしる爪の音。それがやつらがやってきた合図だ。
 分厚い扉を押し開けて入ってくる沙族達が、ボク達の前に押し寄せてくる。
 ぼろぼろのフードの下から覗くのは、ごつごつとした瘤だらけの緑色の皮膚。奴らの身体はその半分が鱗に覆われている。猫背の背中から伸びるのは丸太のように太い、鰐みたいな尻尾。人間とトカゲの中間のような顔には目蓋もなく、ぎょろりとした蒼い目玉には細い瞳孔が開いてせわしなく動いている。爬虫類みたいな顔をしているくせに、こいつらの身体は熱く、粘つく唾液を滴らせて吐く息はいつも白い。
 フードから突き出した長い口からぞろりと並んだ牙がはみ出し、大きな手のひらの指の一本一本にも、細いナイフみたいに太くて鋭い爪が伸びている。こいつらが本気になれば今のボクやメルなんかはあっというまに噛み千切られ引き裂かれ、ボロ雑巾みたいに捨てられてしまうだろう。捕まってすぐ、隙を付いてドアの外へ逃げ出そうとした時、ボク達はそれを思い知った。
 洞窟に入ってきた沙族たちはもう発情を始めていて、股間から野太いペニスをはみ出させているやつらばかりだった。興奮しきった彼らは、少しでも気に入らないことがあると、構わずに暴力を振るう。
 力のある優秀なオスが、従順に従うメスを獲得できる。強いオスだけが限られたメスを独占して、より力のある子孫を残すのがこいつらの社会だ。
 だから、ボク達はできるかぎり沙族の機嫌を損ねないように、おとなしく言うことを聞いてやらなければならなかった。
 ボクとメルは、それぞれの沙族たちに囲まれるようにして洞窟の隅と隅に引きずられてゆく。ボクもメルもすっかり諦めていて、もう逃げやしないとわかっているはずなのに、こいつらは警戒を解かなかった。
 まあ、もしメルと隣り合って犯されていたとしても、それは絶望を際立たせることにしかならないだろうけれど。
「っ……ふ」
「ぅあ……」
 どさり、と苔の上に投げ出されたボクの前に、股間に生々しい肉色のペニスをいきり立たせた沙族たちが並ぶ。普段は身体の中にしまってあるらしいけれど、ボクはこうなっている以外の、こいつらの姿を見たことがない。
 言葉は通じなくとも、その蜥蜴みたいな口からしゅるしゅると漏れる息遣いで、やつらの気分はなんとなくわかる。ぎらぎらと目を滾らせて群がってくる沙族たちに身体を千切られてしまわないよう、まず一番最初にボク達がすることは、もっとも力のある強いオスの傍に擦り寄ることだ。
 もし、迂闊にもこいつらの中で同じくらいの強さを持っているやつらの間にうっかり入ろうものなら、順番を巡って争いが始まる。ボク達はやつらにとってただの所有物で、気に入ったおもちゃのように奪い合われる存在だ。
 たたでさえ乏しい知性を発情してさらに薄れさせているこいつらに、加減を知らない力で腕を掴まれ脚を噛まれ取り合いになってしまったら、間違いなくボクは死んでしまう。
 だから、メスとして身を守るためにも、ボクは他のオスたちよりも強い、一番乗りをしても誰も文句の言えない大きなオスの相手を、最初にしてやらなければならなかった。
 ボクに群がってきた群れの中で一番強いのは、片目の沙族。ほかのやつらよりも頭一つ大きく、大きな刀傷で右目を失っている奴だ。たぶん、どこかの狩人か隊商の護衛にやられたんだろう。そんな深い傷を持っていてなお、こいつは凄い威圧感を放っていて、ほかの沙族たちを一睨みで黙らせる。
「んぅっ……」
 こみ上げてくる嫌悪感を必死に押し殺し、ボクはそいつの足元に這いよって、ボロボロの服を脱いだ。
 まるで場末の娼婦みたいに、身体をくねらせて自分が悦んでいることを教え、服を脱いで敵意のないことを示し、自分から沙族の股間に顔をうずめ、目の前で反り返ったペニスを掴んで、口に含む。
 これからボクは何時間もの間、こうして懸命になってこいつらを満足させてやらなければならなかった。
「うく……あ、ぐっ……」
 順番を待ちきれない沙族たちが、びたんびたんと尻尾を地面に打ち鳴らし、ボクの足首を掴んで引き寄せようとする。けれど片目の沙族がしゅぅっと低い唸り声を上げると、そいつらはたちまち萎縮して後ずさった。
 10人以上の沙族に、本当に毎晩毎晩代わる代わる、彼らが欲望をすっかりはき尽くすまで犯されてしまえば、絶対に身体がもつわけがない。だからすこしでも、ボクは他の場所でこいつらを愉しませてやらなきゃいけなかった。
 剥き出しになった胸のふくらみを身体の前に寄せ合わせて、得体の知れない粘液にぬめるペニスを左右から挟み、いっしょうけんめい扱く。手でも覆いきれず、口にも含みきれないこいつのペニスを気持ちよくさせる方法はこれしかなかった。酒場の寝物語や風聞で聞いたことがある方法を使って、ボクは片目の沙族に奉仕する。
 脈打つ太い肉の杭は、昨日もおとといもボクの身体に深々と打ち込まれ、胎奥までを容赦なく引き裂いた凶器だ。焼けた鉄のように熱く火照るそれは、酷い匂いをさせていて、触れるだけでも吐きそうになる。
 それを必死に堪えて、ボクは沙族を気持ちよくさせるために懸命だった。
「んぅ、むっ、れるっ、はむっ……っぷ……」
 胸の間からはみ出したペニスの先端を口に含み、唇をすぼめて吸い上げ、舌を使って先端を刺激する。ペニスの鈴口のところからは先走りの苦くてしょっぱい味が溢れ、それはぴゅるぴゅると吹き出して顔まで飛ぶ。毎日毎日同じことをしているのに、こいつらの猛り具合はまったく衰える様子がなかった。
 片目の沙族が唸るようにい喉を震わせて、ボクの頭を大きな手で掴み激しくペニスに押し付けた。
 半分は胸肉に埋まっていても、それでも呆れるくらい太くて大きな肉の塊に、ボクの口が割り裂かれ、喉奥までぬめる剛直が滑り込む。
「んぶっ…!? えぐっ、ぅぶっ……っは、ぐ、っ」
 噛み付いてやろうとか、千切ってやろうとか、そんな勇ましいことは思いつけもしない。あるのはただ、柔らかくて硬い、おぞましいな感触が喉の奥、胃までを貫く苦痛。本当に自分がただのモノにされているような感覚さえある。
 それでもボクは、顎が外れそうに大きい肉竿を、吐き気を堪えて喉の奥まで咥え込むのだ。
 一生懸命に舌を動かし、喉をすぼめて、ペニスをしごく。
 喉奥までみっちりと、口腔をおぞましい肉に埋められて――今この瞬間、ボクの唇は、商売のための取引交渉でもなく、ご飯を食べる事でもなく、恋を語ることでもなく、こいつらの欲望を少しでも多く処理してやるためだけ存在している。
 自分がただの肉の孔になってしまったことを思い知る、一番惨めな瞬間。
「っ、ぐ、えふ、れるっ……」
 息が詰まり、口腔を占領する醜い塊を吐き出そうとえずくボクの口の中で、ペニスがびく、びくと震え、根元から大きく脈打って、先端へと灼熱の滾りが集まってゆく。
 片目の沙族が激しく腰を震わせる。胸から唇、舌、そして喉。まるでオオシロウシの腸でできたホースに水を流した時みたいに、膨らんだ肉の塊がペニスの根元から順番に競りあがってくる。ボクは、滾る肉竿と触れたありったけでその瞬間を感じ取った。
 ごぼぅ、と喉の一番奥に叩き付けられる白濁を、どうすることもできずにただ飲み込まされる。
 ぬるぬると胸に挟まれたペニスがくねり、なんどもなんどもポンプのように白い粘液の塊を唇への奥へと注ぎ込んでくる。どぶ、どぶ、と脈打ちほとばしる精液は、一口二口で飲み込めるようなものじゃない。これを直接、膣内(ナカ)で出されたりしたら、本当におなかが張り裂けてしまいかねなかった。
「っっ、げほっ、ぅぐっ、ぇうっ……ッ」
 片目の沙族が満足そうに息を吐き、ようやく頭を万力のように押さえつける手が緩む。そこから逃れ、喉を塞いでいたペニスを吐き出してから、ボクは暫く動けなかった。




 ◆4◆

 べとべとと口の中に溜まった白濁を吐き出して、噎せ返るほどの獣臭さに顔をしかめ、下を向いて咳き込む。
 その間にも、胸に挟まれたままの沙族のペニスは、なおも残った精液を噴き上げる。びゅる、びゅっ、と噴水のようにボクの顔を汚す白く濁った青臭い粘液を、ボクは顔じゅうで受け止めさせられた。
「っ――は、っ、はぁっ、えほっ……」
  片目の沙族はしゅうしゅうと息を漏らしながら、なおも強くボクの胸にペニスを押し付けていた。大してない膨らみの谷間にねじ込まれたペニスはしつこく精液 を迸らせ、べっとりと糸を引いている。飛び散った精液がとろとろと垂れ落ち、頭がくらくらしそうに濃いオスの匂いが、ボクの意識を塗り潰してゆく。
  こうやって――口や手のひらで気持ちよくさせられることに、沙族たちは慣れていないらしい。同じように瘤だらけ、鱗だらけのこいつらのメスは、こんなこと をするには不向きな身体をしているからだ。そう言う意味では、こいつらは柔らかくて温かいボク達人間のメスを、とても重宝しているらしかった。
 だからなのか、本来の目的を達さなくても、こうして胸や舌や唇で満足させられれば、こいつらはさして文句も言わずに帰っていく。
 ……もっとも、それだって一匹につき一回じゃ済まないんだけど。
 でも、それは逆に言えば、ボク達がこうして、こいつらを気持ち良くさせて、満足させるに十分な雌である限り、ボク達の最低限の命の安全は、保たれるのだということだ。
 そう言う意味では、メルもやつらの『役に立つ』事が証明されてしまったのは、悪い事ばかりではないはずだった。やつらのきまぐれで殺されるのと、延々果てもなく犯され続けることのどちらがマシなのかは、分からないけれど。
 あさましいボクの打算を知ってか知らずか、休む間もなく、ボクの目の前には次のペニスが突きつけられていた。
 順列で言うならおそらく2位と3位のオスが、左右からボクに次の相手を要求する。彼らの群れの中ではここまではなんとか序列らしきものができているが、これ以降の順位はあまり明確ではないようで、ボクを捕まえる順番は日毎に違っていた。
「っふ、は……んぅっ……ぁむっ……れるぅ……」
 2匹が同時の場合は、丁寧に時間をかけてなんていられない。片方を唇で、もう片方を胸で相手する。どちらかに気を取られるともう片方から強烈な催促を受けるので、疎かにならないように懸命にペニスを扱いた。
「んあう、待って、だめっ、じゅ、順番だからぁ……」
 洞窟内に小さな叫びがあがる。見れば、メルが足首を掴んだ沙族に抵抗しようとしているところだった。
  メルも、ボクの有様をずっと見せられていたから、沙族達の修正は良く知っていた。でも彼女にはまだ小さな胸しかないので、ボクのようにはできない。だから たったひとつしかない小さな口に精一杯ペニスをほおばって、苦しさに呻き、目に涙を浮かべながら舌を絡ませて舐め上げる。でもそれで相手できるのは、あく まで一匹のオスだけだ。眼をぎらぎらさせて発情した沙族達が、大人しく順番を待ってくれるわけがない。
 地面に引きずり倒されたメルの下半身に待 ちきれなくなった沙族が群がり、横倒しにした腰を抱え、まだ昨日の血の跡を残した脚を大きく割り広げて欲望を擦り付ける。苦しくて喘ぐメルが少しでも口を 離そうものなら、沙族は乱暴に怒り、メルの頭を掴んで小さな唇にむりやりペニスをねじ込んだ。
「んぅ、ぁ、やぁ、っ、ポーレ、ぇ……いや、助けてぇ……っ」
「メル……ぅぐっ!?」
 ボクはぬるぬると口を塞ぐペニスの隙間から叫ぼうとするが、快楽を貪るのに夢中になった沙族が、獲物の言葉なんか聞くはずもない。
 まだメスとしては未成熟で、見た目はちっちゃいメルも、ボクと同じようにちゃんと女の子で、ペニスを受け入れる部分があることを知った沙族たちは、もうメルを○すのに手加減するつもりはないようだった。
 やつらはいつにも増してメルを執拗に取り囲み、細い身体を抱え込む。
 ただでさえ、踊り子(ミンストレル)の華奢な身体だ、小さなメルの身体では群がる沙族に抵抗するなんてできっこない。メルをころんとひっくり返した沙族の一匹が、まだ真っ赤になっているメルのあそこに、深々と節くれだったペニスをあてがう。
「いや、嫌ぁ……やだようっ……もう、痛いのやだっ、やめてぇ……!!」
「んぐ、ぅ、ぷあっ」
 口孔を埋める肉竿を舐めるわずかな息継ぎの暇に、ボクは必死になって懇願の声を絞り出した。
「んぅ、メル、メルに、酷いことしないで……っ!! ぼ、ボクが……ボクがするから、代わりに、相手、してあげるからっ……め、メルを離してあげてよっ……!!」
 けれど、叫ぶボクの唇には、サボるなとばかり先走りを噴き上げるペニスが押し込まれる。一度目の精液を飲み込まされてしまったボクの喉は、さっきよりもスムースに滑りよく相手の肉竿を受け入れてしまう。
 ボクの口は、もう商人として――いや、人として言葉を喋るよりも、そうやってこいつ等のための肉孔として、精液を搾り取ることのほうが上手くなっているのかもしれない。
「ぁ、あぁあ、やだぁ、やだっ、やめて、抜いてよぉっ、痛い、いたいぃ……」
  涙を堪えて顔を背けるその向こうで、メルの小さな入り口に、沙族が容赦なく体重を圧し付けて、無理やりペニスを沈み込ませていった。昨日開通したばかりの 繊細で敏感な小さな孔を、凶悪な肉の凶器が欲望のままに前後する。ま新しく二度目の開通をしたメルの少女孔から、じわりと赤い血が滲んでいた。
 締まりがいい、なんて下品な表現は取引のときにもよく耳にする冗談だったけど、メルみたいな小さな身体に、あの大きなペニスはアンバランス過ぎる。まっすぐではなく、枝のように節くれだってぐねぐねと曲がった沙族のペニスが、メルの小さな孔をこじ開け、こね回す。
 メルの絞り出すような叫び声が狭苦しくなった洞窟に反響する。
 けれど、ボク達を○すのに夢中になった沙族たちは、もう何一つ聞く耳を持たなかった。
 二手に分かれ、ボク達を洞窟の隅と隅に引き離したのは、こいつらなりの機転だ。メルとボクがそれぞれ自分たちを相手できると判って、こうすればこれまでの倍の頻度でメスを○すことができると知って、やつらなりに頭を働かせている。
「ん、ぁっ、ぅくっ、あっ、あ、あっ」
 ボクの方にも、待ちきれなくなった沙族の一匹が襲い掛かってきた。
  両手の塞がったボクの身体を抱え込むようにひき押せて、弓なりに仰け反ったペニスを脚の間に押し付けてくる。一気に3匹を相手にする羽目になって、ボクの 身体はバラバラになりそうだった。沙族達はそれぞれ、柔らかなメスを自分一人が占有しようとボクの身体に爪を立て、手元に引き寄せようとしているのだ。
 どれかひとつの手を休めれば、たちまち丸太のような腕がボクを殴りつけ、太い爪が肌をえぐっていくだろう。おぞましい恐怖に晒されながら、ボクは懸命に唇を動かし、舌を絡め、胸を寄せ合わせ、内腿にきつく力をこめ、腰をくねらせて三本のペニスを扱く。
 ぎゅうぎゅうと力任せに掴まれてペニスに押し付けられる胸は千切れそうなくらいにひしゃげ、喉奥にまるでそこが性器だといわんばかりに激しく肉塊がねじ込まれる。
 そして、ねぷり、と粘つく音を立てて尖った肉の槍がボクのおなかの奥に押し込まれてゆく。まだ十分に濡れてもいない孔を無理やり貫くペニスは、ボクが悲鳴を堪えて呻くのにも構わずにひたすらに前後を繰り返し、ボクの胎内を陵○していった。




 ◆5◆

「あぐっ、んぅ、あ、ぁう、あっ……」
 イヤで、いやで、嫌でしょうがないはずなのに、勝手に声が上がってしまう。喉が押し潰され、ひゅうひゅうと漏れる息と一緒に、抱えられた腿がぱちんぱちんと鱗の皮膚に押し付けるたび、声が跳ねる。
 繰り返し犯され続けたせいなんだろうか。ボクは、外見の見分けもつかないこいつらの、区別が付くようになっていた。
  身体の中に押し込まれるやつらの厭らしい肉の形――長さや、太さや、硬さ、節くれだちかた、それに曲がり具合や、瘤の付き方、先端の形、雁首の反り返り具 合。どのペニスがどこにぶつかって、どこを擦っているのか、その一匹一匹の違い。ボクにはそれが少しずつ解るようになってしまっている。
 はじめは貫かれることの苦しさと、痛み。
 そして、そのうち――それが与えてくれる、むず痒いような、もどかしいような、熱っぽい不思議な感覚が、おなかの奥に、背骨の裏側に広がってゆく。
 ○す相手が違うことで、それがひとつひとつ違うことを、ボクはすこしずつ感じ取れるようになってしまっていた。
「んぅ、ぁ、あっ、っあ」
 そうしていると、いつの間にかボクのナカがじんわりと濡れ、よじり合わさって、ペニスをきゅうっと抱きとめるようにしているのを自覚するのだ。
 ボクの頭がぼうっと霞み、おなかの奥にずぅんと熱が溜まり始める。恐怖のなかでこいつ等の慰みものにされることから、心が逃げようとして、偽物の幸せな気分を作り出す。
 いつしか我知らずに声が甘く蕩け、鼻にかかった小さな吐息が狭い洞窟に溢れてゆく。
 喘ぎ声に反応して、口の中に突き込まれた太い肉の塊がますますいきり立つ。幸か不幸か、ボクは、それなりにこいつ等のお気に入りであるらしい。
 沙族達はほとんど誰が誰なのか区別の付かない格好をしているけれど、ボクは口に押し込まれたペニスの形から、それがどいつなのかを判断して、一番弱いところを探り当てることができた。
「んぁ……ぅ、んむっ……れる…りゅっ」
 昨日の、一昨日の時のことを思い出しながらそいつの敏感な部分を見つけ、舌を絡め根元から根気よく舐め上げる。ペニスの根元にはみ出してぶらぶらと震えている、精液をパンパンに溜め込んだ大きな袋を掴み、柔らかく揉む。
  突き上げられる腰と、おヘソの裏に溜まってゆく熱が、意識を霞ませる。にゅぷ、にゅぷ、と柔らかくほぐれたボクの中が、突き込まれる肉竿に連動するように 甘く蕩けて絡みつく。意識してぐっと下胎に力を篭めると、ボクの膣がきゅうっと締まって、ごつごつとしたペニスがぎゅぅっととボクの中から押し出されるの が分かった。
 その感覚がたまらないらしく、ボクに跨る沙族はきいきいと高い声を上げて鳴いてはしゃにむに腰を打ち付けてくる。
 どこをどうすれば、こいつらのひとりひとりが気持ちよくなれるのか――ボクの身体はもう、それをしっかり覚えていた。
 はじめは、少しでもこいつらの陵○を早く終わらせようと、少しでも早く、楽になろうと、商売で仕入れを値切るために相手の隙を窺うように、戦いの時に魔物の弱点を探るような気持ちで試行錯誤をしていたはずだった。
 けれど、いまは――
「――んぷ、っ、っは――…っ、ここ、弱いんだよね……?」
 確認するように雁首の裏を舐め上げ、根元を激しく指で擦る。甲高い鳴き声を上げて、僕の顔にぐりぐりとペニスをねじつけて、沙族の一匹が射精する。びゅるびゅると目の前を舞う白い粘液のシャワーが、糸を引いてボクの身体に次々と降り注ぐ。
 その瞬間、噎せ返るような匂いに頭がくらくらとしながらも、ボクの胸はわずかに高鳴る。
 それは取り引きで、交易で――うまく儲けを見つけ、満足のいく商売ができた時のような、不思議な達成感だった。
 女の子が腕力で勝てる筈もない、逞しく強いオスを――ボクなんか気まぐれひとつでくびり殺してしまえる相手を、ボク自身が屈服させているような、そんな感覚。
 この瞬間だけは、ボクがこいつらに支配されているんじゃなく、ボクがこいつらを夢中にさせているんだというような、到達感、自信にも似た、不思議ななにか。
「ぁは、っ、ぁう、あ、あっ」
  ボクが唇と喉に感じる射精のほとばしりにぼうっとなっていると、しゅう、と興奮の息を漏らした沙族が腰を振るって、深く抱え込んだ腰に、ペニスをねじつけ てくる。歪で節くれだって、曲がりくねった肉の杭が、どくんとボクの胎内を突き上げるたび、じんっとお腹の奥が痺れて、頭がぼうっとなる。おヘソの裏側の 右奥、そこにぐりぐり押し付けられる硬い引っかかりが、ぞわぞわと背筋を震わせた。
 そう、こいつは――一番ボクを、気持ち良くするのが上手な沙族だ。
「ぁ、あっ、あっ」
 たまらず、ボクはきゅう、と腰を引き絞る。
 そして――それに耐え切れず、身体の奥深くに突き刺さった肉の杭が、弾けるようにぶるぶると震える。指なんかじゃとても届かない、深い深ぁいところに、熱くどろどろと凝った白濁の塊が、容赦なく打ち込まれてゆく。
 まるで噴火するマグマのよう。
 熱く煮え滾る、意志のあるもののようなどろどろの塊が、ボクの“雌の芯”を塗りつぶしてゆく。
 それは本当は、恐ろしいことのはずだった。
 こんなやつらでも、心から受け入れてしまったら、抵抗を失ってしまったら、女の子であるボク達がどうなるのか、ボクも、メルも、知らされていたはずだった。
 沙族達がボク達人間の女の子を攫おうとする理由。沙族のメスというのはとても貴重で、しかも繁殖期以外は凶暴で、群れ一番のオスですら近付けないほどに気難しい。だから、こいつらは従順で『使いやすい』メスを欲して、ボク達人間の女の子を攫うのだと言う。
 つまり。
 こいつらは、ボク達と交配できる可能性があるらしい。最初に襲われた時、バルフェンはそう言ってボクたちを懸命に逃がそうとしたのだ。
 だから、ボクの中に射精を許すことは、沙族の赤ちゃんを妊娠しちゃうかもしれない危険性を持っていた。
 一回だけならまだ、運がよければなんとかなるかもしれないけれど、毎日、何匹もの相手に代わる代わる犯され続けていれば、その確率は何十倍、何百倍にも。限りなく、必然まで跳ね上がる。
 けれど――そうやって、びゅるびゅると吐き出される白濁液をおなかの奥にたっぷりと受け止めるその瞬間、その一瞬だけは、まるで自分が自分じゃなくなったみたいに、そうしていることが、とてもとても誇らしくなる。
 その一瞬、本当にそのときだけは――隣で大きく揺さぶられているメルよりも、ボクのほうが選ばれた、ボクのほうが優れているんだって、感じられてしまう。
 大勢のオスたちに群がられて、子を孕まされようとしていることが、嬉しいとさえ思えてしまう。
「あ……は……っ」
  この時だけは、隣で、嫌がって、鳴いてばかりのまだ全然コドモなメルよりも、ボクのほうが――世間的な平均と比べれば、ボクもそんなに立派なほうじゃない だろうけれど――この石窟の中では、ボクのほうが優れた雌であるってことを証明できたような、強い達成感、誇らしさがあった。
 たぶんそれは、身体の本能に染み付いた、雌の悦びだ。
 ボクにかきらず、女の子なら誰もが持っている、女性としての優越感。より強い雄を満足させたことの嬉しさと、強い雄を受け入れて、その子供を孕むことの悦びなんだ。
 これはきっと、女が子供を産む身体のつくりをしている限り、決して失われることのない欲望なんだと思う。ボクはこうして、こいつらに毎晩犯されながら、少しずつ雌に、大人のオンナにされてしまっているんだろう。
 ……だから今は、怖い。
 いつか、誰かがボク達をここから救い出してくれたとしても――そのときにはもう、ボクはボクの知らないボクになってしまっているんじゃないかって、そんな気がする。
 そんな不安もすぐに消えてゆく。代わる代わる沙族に犯され、沸き上がる快楽を堪えきれずに何度も何度も悲鳴を上げながら、ボクはいつしか、意識を途切れさせてゆくのだ。




 ◆6◆

 メルとボクが、交互に犯されるようになってからさらに10日以上が過ぎた。攫われてからなら一月近くが経ったのだろう。途中で何度か手帳に線を引き損ねて、正確な日にちはもうわからなくなっていた。
  そもそも、ボク達の毎日はもう、意識がなくなるか疲れ果てて眠るまで犯されてから、目を覚ます事の繰り返し。一日の区切りなんで曖昧だ。日付の境界がわか らなくなるくらいまで徹底的に犯されつづけた日もあったし、どこからかやってきた余所の集落(クラン)の沙族たちと一緒に、いつもの倍以上の数に取り囲ま れてまる一日を過ぎてもなお交尾が終わらないこともあった。
 あいつらの生態はよくわからないけど、いったいいつになったらボク達に飽きるのだろう。獣の発情期だって、長くても一月は続かないはずだ。最初の頃は、それがボクのひそかな心の支えだった。
 ティグレ、バルフェン、それにアルとクリュウ――ボク達の旅の仲間がどうなったのかは相変わらず分からない。けれど、多分もう、ボク達はここから助け出さられることは無いのかもしれない。
 その事実を目の当たりにしても、不思議と恐ろしくはなかった。
 諦め、なのかもしれない。ここに閉じ込められて一月。六人みんなでいっしょに旅をしてきたのと同じくらいの時間が過ぎて、ボクにはもう彼らの顔や声も、よく思い出せなくなっていたから。
 ボク達はもう、普段から服を着ずに過ごしていた。上着もシャツも外套も、もうとっくに破られ擦り切れて、身に纏えるようなものじゃなくなっていた。
 毎日のように押し寄せては、順番も守らずに乱暴に覆いかぶさってくる沙族たちは、ボク達が邪魔になるようなものを身につけていると、乱暴にそれを引き裂きながら怒る。首や腕が絞まってもお構いなしで、時には鬱陶しい袖を噛み千切ろうとしたことまであった。
 迂闊に着ていたシャツで首を絞められて以来、ボク達はそれに抗うのを諦めて、服を着るのをやめることにした。辛うじて残った襤褸の余りは、洞窟の隅にかき集めて身体を横たえる寝床になっている。
 たぶん、その日からボク達は、人間であることを少しずつやめはじめてしまったんだろう。
「ポーレ……っ」
「ん、メル……」
 いまは犯されているとき以外にも、ちりちりとお腹の中に残る、擱き火のような熱が絶えず、ちろちろと炎を上げ続けている。
 囚われて以来途絶えることのない陵○に、いつしかボク達の身体はそれを受け入れてしまった。
  ぼうっとした頭は四六時中構わずに熱っぽく、お腹の奥にはじんじんと滾りっぱなし。脚付け根はいつも、じっとりと湿って、ぬるりといやらしい蜜を滲ませて いる。前戯もなしにいきなりペニスを押し込まれても、すんなりと受け入れてしまう位に――ボクの身体は蹂躙の日々を受け入れていた。
「…………」
 身体の奥を突き上げる逞しい肉杭を思い出すと、こぷり、とおなかの奥から白い粘液の塊が溢れ落ちてくる。呆れるくらいに注ぎ込まれた精液は、いくらぬぐってもかき出しても、ボクの身体の一番奥に残り続けているのだ。
 自分の身体が残らず奴らのものにされてしまった、と言うことを認めるには、この一月近くの時間は十分すぎた。
 それでもメルは髪を括るリボンと、腕にかけたアクセサリを外そうとはしなかった。それだけが唯一、メルをかつての自分――世界一の踊り子になろうと旅を続けていた頃の自分と繋げるためのものだからだろう。
  ボクも同じように、この手記を付けることをやめる気にはなれなかった。こうして自分の身体に起きたことを書き綴っておかないと、ボクは本当に言葉も考える ことも忘れて、ただあいつらに犯されることだけを繰り返す、ただメスの悦びを甘受するだけの、肉の人形になってしまうだろう。
 この手帳のページが尽きてしまうのと、ボクがこれすらも諦めてしまうのと、どっちが先になるかくらいの違いしか、ないのだろうけれど。
「――ふぁあああ!?」
  大きな沙族に抱えあげられながら、メルがひときわ深く貫かれて、声を上げる。その叫びにも、最初の頃のような悲鳴の成分は少なく、代わりに甘く切ない響き が大半を占めていた。深く腰をかがめた沙族が腰を叩きつけるたび、じゅぶ、くちゅ、という滑り湿ったいやらしい音も、いっしょに漏れ聞こえてくる。メルの 細い肢体は、野太いペニスを根元まで受け入れて、巧みにその滾りを受け止めようと妖しく蠢く。
 今夜も、ボク達はやつらに犯されていた。
 メルの身体に覆いかぶさった沙族が、深く腰を打ち下ろし、目を細めて、腰をぶるぶる震わせる。鰐みたいに太い尻尾がびたんびたんと地面に叩き付けられていた。
  鱗の身体押し潰されそうになったメルは、大きく広げさせられた膝をわななかせ、おなかをびくびくと跳ねさせる。多分今頃、手足を押さえ込まれ、腰を掴ま れ、どこにも逃げ場のないメルのおなかの中には呆れるくらい大量の射精が行われているのだ。あの、頭の中まで真っ白に染め上げられるくらいに、鮮烈で圧倒 的な、生命の滾りを――メルは、あの小さな体いっぱいに受け止めている。
 ボク達が従順であることを理解し、雌としてきちんと発情することを知って以来、沙族たちは執拗なほどに種付けを試みるようになって、ボク達が胸や口で彼らの欲望を満足させようとするのにさえも、激しい怒りを露にした。
 けれど――
「んむっ、ちゅ……はむっ……」
 ボクは何度それを怒られても、進んで彼らのペニスを握り、優しくしごいては、胸の谷間に、唇に白濁液を受け止める。肌に張り付き胸に浴びせかけられ、喉を満たす噎せ返るような生臭さと、胃の腑に落ちて行く粘ついた感覚は、もうすっかり病み付きになっていた。
 こいつ等のメスには出来ないことを――身体のどこででも彼等の滾りを受け入れられる、柔らかくあたたかな、抱きごこちのよい雌であることを、示したい。そうすることで、少しでもボクの有意性を、生き残るための価値を与えたかった。
 それは、商売にとっても大事なことの筈だ。
 都合のいい言い訳をつくりだして、自分のあさましい欲望を押し隠し。ボクは惨めに欲望に溺れている。人間ですらない、不気味な怪物たちとの交わりに、生命の悦びを覚えている。
「ぁあぁあッ、出てる、いっぱい、でてる、よぉ……っ」
 がくがくと揺さぶられながら、膣奥を満たす射精の感覚に打ち震える。ピンと爪先まで伸びた脚が小刻みに痙攣し、きゅうとうねる柔襞が、ごつごつとしたペニスを締め付ける。
 いまやボクは、彼らの奴○であり、所有物であるそのこと自体よりも、本当にそうなっても寂しさや悲しさを覚えないかもしれない、自分のほうが怖かった。
  ここに連れてこられた頃には思い出せた最新の相場計算や、流行り物の取り引き、交易所のサイン。拙いながらでも商人であった頃、あろうとした頃のボクを形 作るいろんな知識が、少しずつ少しずつこぼれ落ちて、代わりにそこには、いやらしいことしか考えられないオンナとしての自分が棲み付いている。
 どんな風にペニスを口に含んで、握って、扱いて、舐め回して、胸に挟んで――どうすれば一番良くこいつらを満足させられるかを、ボクは誰よりも詳しく知ってしまった。
 それをもっと試したい、もっと深く、交わり合いたいと、心の底から望む自分自身を、日に日に抑えられなくなっている。
「んあ……また……びゅるびゅる……って……」
 大きく割り広げられた脚の間に、巨きくて逞しい沙族の身体を受け止めて、背中をごつごつと擦られる時の。
 仰向けになった沙族の、天を衝くペニスに、驢馬に乗るようにまたがって根元まで飲み込みながら、ボク自身の体重でおなかの奥を抉られながら激しく揺さぶられる時の。
 うつ伏せになって、動物のように後ろから抱え込まれながら、熱っぽい子宮の入り口を押し潰され、がつんがつんと突き上げられる時の。
 その瞬間瞬間の、雌の悦びが、もう片時も忘れられない。
 ボクが、ボクだけが、こんなにも多くのオスを夢中にさせている。そのことがいつしか、ボクの意識の支えになりつつあった。
「んぅ……はっ、……ふぁ……ぁ!」
 まるで獣のように声を上げて、どこかに飛びそうになる自分の身体を支え、快感を貪るボク。二月前までは考えられもしなかった自分が、そこにいる。
  どんな格好であいつらの相手をさせられるのだろうとか、どこをどんな風に擦って、舐めて、挟んであげると喜ぶのだろうとか。そんな知識が、ボクの頭を占め ていく。旅のための知恵は余計なものと失われ、身体に残された悦びと一緒に、いやらしい事ばかりが少しずつ身についていく。
 彼らを満足させて――熱い迸りを胎内に受け止めて。何十回と繰り返されたそれを経験するたびに、ボクはそうやって猛り狂う彼らを達させることを、誇らしく、喜ばしく思うようになっていた。
 そう、ちょうど良い取引ができた時のような。うまく儲けを作れたときのような。あの素敵な気分。
 それはボクだけが感じているのじゃない……のだろう。
 メルももう、踊るのも、歌うことも少なくなった。渡り鳥のように、本当に歌うのや踊るのをやめたら死んでしまうんじゃないかと思っていたメルも、だ。
「ぁ、あっ、あ、あっ♪ ッ、ぅあ、あッ♪」
  いまや、メルの声はこいつらに犯されている時に、どれだけ気持ち良いのかを知らせる喘ぎのために使われていた。ボクの隣で高い声を出して、相変わらずきれ いで澄んだ甘い声を上げて、しまいにはキモチいい、死んじゃう、と繰り返すメルも、ボクと同じように、後戻りできないほどに、こいつら専用の『メス』にさ れてしまっていた。
 だって事実、
 今は、あいつらがボクだけを見てくれないのが、少し寂しくて、妬ましい。
 メルがいなければ、ボクはあいつら全員を受け入れてあげることができるのに。もっともっと沢山の雄に犯されて、もっともっと強いオスを悦ばせてやる事ができるのに。

 ――そんな恐ろしい想像をしてしまうのも、もう1回目や2回目じゃないのだ。

 ボク達は、目を覚ますと、どちらともなく寄り添いながら、溜めておいた雨水を使って身体を拭い、髪を梳かし、その日の準備を終えて、扉が開くのを待っている。
 あいつらがまたここにやってきて――ボク達を犯してくれるのを、ボク達と交わるのを、待ち焦がれている。少しでも早く、一匹でも多く、あいつらを夢中にさせて、滾りに滾った射精を全身で受け止めたい。
「――――」
「…………」
 ボクとメルは、もうお互いに言葉を交わすことは無く。
 より多く、あいつらを惹き付けて、たくさん、たくさん交配したいと。それが自分の優秀さを示すものだと、どこか誇らしく思いながら。競うようにあいつらを相手する。
 同じように悲劇を経験しながら、ボク達は互いに、やつらのより良い交配相手として、相手には負けられないと想っているのだ。
 なんて浅ましい考え――
 けれど、そう思うことは、どうしてもやめられなかった。



 (続)

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