柱前堂 2021/01/23 23:58

地下ボクサーの媚薬を吸い出す

短いインターバルの間に、出来るだけのことはやった。ユキの呼吸はいまだ熱を帯びて切なげだけど、何もしないよりはずっと落ち着いた。

けれど、ここからが勝負だ。運営スタッフに渡されたマウスピースを、目の前に持ってきて眺める。
新品の白いマウスピースには、べっとりと半透明の薬が塗りたくられている。地下ボクサーを発情させ弱らせる、即効性の媚薬だ。
ラウンドのたびに新しく塗り直されるこの媚薬マウスピースを、私がユキに咥えさせないといけない。

「ユキ、口開けて」
「ん……」

ユキの唇と唇の間に、乾きかけて粘度を増した唾液が糸を引く。5ラウンドに渡って殴り合い、疼きを抑えこんだユキの体は限界が近い。そこに媚薬を盛ったマウスピースを咥えさせるのだ。
ユキの口にマウスピースを押し込む。上の歯にマウスピースをあてがうと、溢れた媚薬がにゅるっと押し出されてくる。歯茎に触れた媚薬に早くも反応したのか、ユキは口を閉じて私の指をしゃぶり上げる。マズい、こんなに昂っているなんて。

慌てて指を引き抜くと、ユキは切なげな目で訴えてくる。それに応えて首に手を回し、ユキのねだるようにもぞもぞする唇にキスをする。
唾液を送り込み、媚薬が溶けたそれを吸い上げる。マウスピースに盛られた媚薬を削り落としたりするのは反則だが、一度口に入れてしまえばそれを吸い出すのは自由。少しでも地下ボクサーの負担を減らすための、セコンドの最も重要な仕事だ。

マウスピースを揉み洗いするかのように舌で舐め回し、媚薬を少しでもこそげ取る。甘くピリピリする味は本能的な警戒心を煽るけれど、それこそユキの口に残してはおけない。精力的に舐め取り、吸い上げなければ。

だというのに、ユキの舌が絡みついてきてうまく動けない。艶かしく動く肉塊が、情熱的に私の舌を愛撫し、締めつけ、挿れる穴を探して舐め回す。激しく動き回る私達は、柔らかい唇に覆われた結合部から唾液を漏らして口角を汚す。
ユキ。ユキ。ユキ。求められて熱が移ったかのように、私もユキの口腔を舐め回す。二人の舌がダンスのように縦横無尽に、溶けたマシュマロみたいにべっとりと、絡み合って一つになる。

突然肩を引かれ、ユキと引き剥がされる。キスに夢中になってセコンドアウトの合図にも気付けなかったのだ。ユキに言葉をかけることもできず、運営スタッフに引かれてリングを降ろされる。

一人残ったユキの背中はふらふらとして頼りない。リングの上で闘うことを忘れ、今にもオナニーを始めてしまいそうな上気した頬。
ボクシングで劣勢に立たされたユキは、運動量が増え受けたダメージを回復させるために血流が増えた。それで媚薬の効きが良くなると、動きが落ちてさらに殴られる悪循環に陥っていた。地下ボクシングで望まれる一方的なサンドバッグショー、その今日の犠牲者に選ばれてしまった。

きっとユキはこのラウンドは保たないだろう。まだ余裕のある相手に滅多打ちにされ、苦悶と快楽の表情を晒してノックアウトされる。その姿を見せつけられたとき、ユキ以上に媚薬を飲んだ私もイッてしまうのだ。

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