フリーセンテンス 2021/03/08 09:36

次回作の加害者と被害者のお披露目

 次回作がちょっと形になったので、冒頭をご紹介


・・・・・・日本の教育制度には、一応ではあるが、「飛び級」という制度は存在している。これは「飛び入学」と呼ばれているもので、特定の分野で特に優れた資質を有する生徒が、高等学校を卒業していなくても大学に、大学を卒業していなくても大学院に、それぞれ入学することができる制度である。ただし、この制度を活用するにあたって厳しい条件があって、たとえば大学に「飛び入学」する場合、高等学校に二年以上在籍した実績が必要なだけでなく、校長の推薦や、制度が適切かどうかの判断も必要とされる。つまり、日本では、海外のように小学生が大学に入学する等という極端な「飛び級」は不可能であって、これを指して「日本の教育制度は遅れている」と指摘する声があるのは事実である。
 しかし、日本の教育制度は、一部のエリートを養成するために制度設計がなされたわけではなく、全ての子どもたちが平等に教育を受ける機会を得るために作られたものだ。確かに、優秀で明晰な頭脳を持つ一部の子どもたちやその親たちからすれば、日本の教育制度は「遅れている」と断言して足るのかもしれないが、そうでない子どもたちの方が圧倒的に多いのである。加えて、日本で「飛び級」が施行されていない理由は、「生徒は平等に扱わないといけない」という確固たる教育信念があるからであって、もし仮に、一部の優れた生徒だけを優遇したとなれば、日本の教育や社会格差は、それこそ「ワニの口」のように開く一方で、現在よりも遥かに酷い格差社会を増長していたことであろう。
 ただし、与えられた教育機会を生かせるかどうかについては、子ども本人の意思と力量、親の仲や経済力、そして努力遺伝子を含む各種要因が大きいことから、たとえ教育の機会が平等に与えられていたとしても、それを生かせない事例も数多い。この点に関しては「自業自得」と切って捨てることも可能であるが、社会のレールから外れた人間が各種犯罪に走りやすい事例を鑑みれば、教育を社会全体の問題と捉え、早急な対策を講じるべきであろう。日本にとって人材は、唯一、供給増産が可能な貴重資源であるのだから。
 東京都魔鬼孕村に設立された私立魔鬼孕学園は、日本の教育制度に則っているため、「飛び級」という制度はない。しかし、知能指数がズバ抜けて高い生徒たちに高度教育を施すための制度はある。それが「生物工学科」だ。
 この「生物工学科」に在籍する生徒は、特異的に頭の良いことで知られており、しかもその数は極めて少ない。一学年、ほんの一五人程度である。先にも述べたように、日本には「飛び級」という制度は存在しない。しかし、ズバ抜けて優秀な頭脳を持つ子どもというのは一定数存在するわけで、そのような子どもたちは、現状の教育では満足しないケースもある。親に経済力があればその財力にものを言わせて高度な教育を受けさせることは可能だが、そうでない子どもたちもいるのだ。たとえば、施設出身者とか。
そのような子どもたちに高度教育を施せないことは、日本の社会的損失に繋がる。先にも述べたように、人材を「人財」と見なし、その供給を担う教育機関を生産施設と仮定するならば、制度内で抜け道を探すしかない。そのような理由から、より高度な教育を施すために設立されたのが「生物工学科」なのであった。
この学科では、本来であれば大学や大学院で学ぶ内容の授業が受けられるだけでなく、バイオテクノロジーやサイエンステクノロジーといった専門技術を習得することができ、卒業生の中にはその道のスペシャリストとして活躍している者が数多い。そのうちのひとりに宇智田裕也という人物がいた。
 親の経済的な事情によって幼い頃から孤児院で育てられたという経歴を持つ彼は、魔鬼孕学園に入学した当初より非凡な才能を発揮して二年目で生物工学科に編入。そこでも各種講師陣が舌を巻くほどの頭脳を見せつけて、学園始まって以来の「天才」と称された。
魔鬼孕学園を卒業した後、返済不要の奨学金を受け取って海外の有名大学に入学した彼は、やはりそこでも天才ぶりを発揮して、そこをたった二年で卒業してしまった。それも首席でだ。大学を卒業した彼の元には、幾つもの製薬会社や化学メーカーから就職のオファーがあったのだが、それらを全て蹴って魔鬼孕学園に戻ってきたのは、あるプロジェクトに参加するためであった。
 そのプロジェクトとは「学園ベンチャー企業計画」である。学園の優秀な人材を、生徒・教師・講師の枠を超えて活用することを目的に設立されたこのプロジェクトは、魔鬼孕学園出資の元、ベンチャー企業を設立し、人材の活用を目的に設計された。この第一号として選ばれたのが、宇智田裕也の名で設立された創薬ベンチャー企業「グリーン・サイエンス」であったのだ。
「創造的な新薬の開発と提供を目指して――」
 というコンセプトでスタートしたこのベンチャー企業は、実体はほとんど宇智田裕也個人で運営がなされていたものの、創業からわずか五年でとんでもない成果を出して世間を驚かせた。アルツハイマー病の画期的な新薬の開発に成功したのである。
この新薬は、臨床試験で、重度のアルツハイマー型認知症患者に劇的な改善効果をもたらした。脳細胞の減少や脳の萎縮を止めただけでなく、記憶、見当識、理解・判断力、実行機能、言語、失行・先認といった中核障害に作用して、人格を回復・再形成する効果まで確認されたのである。この新薬の内容が報道されるや否や、「画期的な新薬だ!」として世間で騒がれ、宇智田裕也は一躍、時の人となった。
 多くのテレビ局や新聞社が彼の元に取材に訪れた。しかし、取材に応じたのは学園の広報担当者であって、宇智田裕也当人がメディアの前に現れることはなかった。
 一度、学園に不法侵入した雑誌記者が、研究棟から出てきた彼に突撃インタビューを申し込んだことがあった。
「あなたはなぜ、メディアの取材を受けないのですか!?」
と、警備員に取り押さえられながら質問を発したその記者に対して、宇智田裕也は下等生物を見るような目つきで応えたという。
「馬鹿と話すと、こっちまで頭が悪くなるんでね」
 そんな彼が学園の広報部を通じてメディアのインタビューを受けることになったのは、学園が夏休みに入った七月下旬のことである。多くの生徒たちが帰省して、学園が静寂に包まれるなかおこなわれたそのインタビューは、外部の記者を招いておこなわれたものではなかった。学園の新聞部から取材の申し込みがあり、宇智田裕也当人に承諾されて実現したものであった。
「後輩のためなら人肌脱がないとね」
と、彼は語ったというが、訪れるインタビュアーが二階堂くるみと知って受けたのではないか、というのが、関係者たちのもっぱらの噂であった。なにしろ、二階堂くるみは、去年の学園祭でおこなわれた美少女コンテストにて、得票数で同率一位に選ばれた「学園美少女神セブン」のひとりなのだから。


 二階堂くるみは活達な少女である――という認識は、彼女を知る者であれば共有して把握する事柄であった。
彼女の所属は運動部ではなく新聞部であり、部の名前だけ聞けばデスクワークをメインとした活動をイメージされがちであるが、彼女は机に座っているよりもむしろ外で活動することを好み、作成する記事のネタを集めるために西へ東へ奔走することが多かった。その取材エリアは学園内に留まらず、必要とあれば遠出をして取材をおこなうため、彼女が作成した記事は外部情報とリンクすることが多い。
 学園新聞「魔鬼孕タイムズ」の記事は、生徒のプライバシーに配慮した一部記事を除いてインターネット上に掲載されており、誰でも閲覧できる仕様となっている。過去には掲載された記事が大手新聞社の最優秀賞に選ばれたこともあり、そのため、ジャーナリスト志望のくるみにとって新聞部での活動は、いわば社会に出るまでの前哨戦であって、彼女は在学中に是が非でもスクープ記事をモノにしたいと常日頃から思っていた。
 そんな彼女にとって朗報が訪れたのは、学園が夏休みに入る直前だった。ダメ元で申し込んでいた宇智田裕也へのインタビューが、なんと許可されたのだ。これはくるみにとって願っても無いチャンスといえた。
「彼への取材に成功すれば、あたしの名前は一気に知れ渡ることになる。これは絶対ッ、ものにしないと!」
記者として活動するうえで、彼女は「武器」ともいえるふたつの要素を兼ね備えていた。
 ひとつは容姿で、これは彼女が「学園美少女神セブン」に選ばれていることからも判るように、まだ幼さとあどけなさが残ってはいるものの、その整った顔立ちは、十分、否、それ以上に美しく、彼女と相対した異性は、その容姿に視線を固着させてしまうか、あるいは理性を保つため反らしてしまうと言われていた。その場合、往々にして視線を下に向けてしまうのだが、すると、もうひとつの「武器」が、相対する異性から理性を奪いにかかってくるのである。
 彼女が武器として活用する要素のもうひとつが、平均水準を逸脱したサイズの大きな「乳房」であった。日本人離れしたその乳房は、中学時代から急激に発育・成長し始めて、現在では軽く見積もってもEカップ以上の豊かさに成っていた。しかも、まだ成長中だという。この乳房が、彼女の美貌と相まって性的な化学反応を起こすと、取材相手を魅了してやまなくなるのだ。
取材中、くるみは自分の乳房を、意図的に揺らしたり、寄せたり、あるいは近づけたりして、相手の意識を自分の胸に集中させるよう仕向ける。すると、相手は理性のタガが外れて釘付けになってしまい、本来であれば口にしないようなことまでベラベラと喋ってくれるのだ。彼女が一ノ瀬ノエルの記事を作成した時、関係者しか知りえないような情報を掲載できたのは、取材を受けた相手がくるみの色香に惑わされ、下心丸出しでベラベラ喋ってくれたからだ。
 自分の「性」を取材の武器にすることに対して、くるみは罪悪感を覚えたことはない。むしろ、天より与えられたこの色香こそ、自分の最大の強みだと承知しており、性の積極活用に躊躇いはなかった。だからこそ、宇智田裕也を取材するにあたって、露出が抑えられながらも、胸が強調される仕様の服を選んでインタビューに臨んだのである。誘惑する気、満々である。
「どんなに頭がよくったって所詮は男。ふふん、みてなさい。あたしの魅力で惑わして、一から十まで全部、喋らせてあげるから」
ある意味で、彼女は宇智田裕也を見下していたのである。男は皆、同じ。どんなに頭がよくて天才的であっても、ひと皮剥けばその本質はみんな一緒。理性よりも性的欲求に忠実で、頭ではなく下半身で考える生き物。その程度の認識であったからだ。
 だが、彼女は知らない。
 この世には、同じ人の皮を被っていながらも、中身がまるで「別種」で、常識では計り知れない異常な思考回路を持つ生き物が存在しているという事実を、人生経験が浅い彼女は、まだ知らないのであった・・・・・・。


一応、今回の加害者と被害者のご紹介でした。
この後、ヒロインは・・・・・・色々酷いことされて、アルツハイマー病治療薬の生体材料にされちゃいます。流血などのグロい展開はないので、その点はご安心ください。
新作も、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索