フリーセンテンス 2023/01/15 10:50

新作の冒頭(本編土台)はこんな感じになっております。

こんにちは、フリーセンテンスです。
現在、もそもそと書いている新作ですが、とりあえず土台となる冒頭部分が完成いたしましたので、掲載したいと思います。

例によって、たぶんまた販売にあたって加筆修正すると思いますが、なんとな~く世界観を掴めていただければ嬉しいです。
それでは、どうぞ。

 ・・・・・・ガリマール王国においてセクトハウザー家が高い地位を獲得するにいたった理由は、ひとえに彼らが「魔怪蟲」と呼ばれる魔物を使役することができたからであった。
 この魔物は、魔導師にして天才錬金術師でもあった初代セクトハウザー家の当主アウストリウス・セクトハウザーが魔界の生物から「因子」を抽出し、それを「蜂」に注入することで産みだした人造生命体である。より正確にいえば、彼が産みだしたのは魔怪蟲の女王種であって、一般的に知られる魔怪蟲はこの女王種が産んだ卵から羽化した個体のことを指していう。
 魔怪蟲は、種族としてはひとつの種でしかないのだが、その大きさから形状は千差万別で、一個として同一の姿をしておらず、一見すると多種多様な種類で種族が構成されているように見える。大きな個体はそれこそ成熟した雄牛ほど、小さな個体は子どもの小指の爪ほどで、使役用途も多岐に及ぶ。戦闘はもちろん、暗殺、諜報、運搬、偵察、伝令、さらには治療や食用など、怪蟲個々の能力や性能によって幅広く活用できるのだ。その用途の多様性と広さたるや、既存の存在でコレを上回るモノはいないと断言できるほどである。
 アウストリウス・セクトハウザーはこの魔怪蟲を使役することでのし上がることに成功し、王家にあらずして公爵位を賜り、アウストリウス一代で大貴族にまで昇り詰めたのであった。
 アウストリウス・セクトハウザーは、決して強欲な人間ではなかったが、それでも人並の欲を持っていた。彼は美女を愛し、美食を尊しとしたが、それらを手に入れるための金銭をもっとも大事にする人間だった。
彼は優れた魔導師であり、天才的な錬金術師でもあり、宮廷に参上すれば身分の上下や男女の性差を問わず礼儀正しく接することができる社交的な人格者であったが、それと同時に平凡な俗物でもあった。だから恩賞や褒賞は喜んでもらったし、投資をして財産を増やすことにも熱心だったし、便宜を図って「謝礼」を貰うことにも躊躇いがなかった。
 その結果、築いた財産は莫大で、後に一族の拠点となる「セクトハウザー城」を筆頭に、王都の邸宅、避暑地の別荘、五〇を超す荘園、有望な銀山、各商会の株券、そして一億枚を超える金貨など、王国でも屈指の財力を有するにいたったのである。だが、アウストリウス・セクトハウザーの死後、彼の子孫たちは先祖が手に入れた地位を維持するために少なからぬ苦労をする羽目になるのだった。
 アウストリウス・セクトハウザーはひとりで千匹を超える魔怪蟲を使役することができ、この大群を養うだけの膨大な魔力を内に秘めていたのだが、彼の子孫たちはそうではなかった。そして、これはアウストリウス・セクトハウザーの死後に判明したことなのだが、そもそも魔怪蟲は非常に扱いが難しい魔物だったのである。
 力の強い個体ほど命令を聞かず、扱いを誤れば使役者は簡単に食べられてしまうだけでなく、そもそも女王種が産んだ卵を羽化させて育てるだけでも並大抵なことではなかったのだ。人造の生命体であるゆえ幼体の生命力は非常に弱く、与える栄養の比率を間違えただけで簡単に死んでしまう。そしてせっかく苦労して育てても、大きく成るにつれて扱いが難しくなり、時には制御不能に陥って暴走した挙げ句、使役者のみならず周囲に多大な被害を及ぼすことさえあるのだった。
 王国暦一五二年、アウストリウス・セクトハウザーの孫で将来を有望視されていた魔導師のギルギス・セクトハウザーが魔怪蟲の訓練中に急死した。使役中に魔力が尽きてしまい心臓発作を起こしたのである。その結果、彼が操っていた七十二匹の戦闘用魔怪蟲が制御不能に陥り、近くにあったカウザルという街に襲いかかった。街は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図となり、一二〇九人の住民が文字通りの意味で食い殺された。討伐のため派遣された完全武装の軍隊も大損害を被り、制御不能に陥った七十二匹の魔怪蟲を退治するのに丸三日もかかったのだった。
 この一件で、セクトハウザー家は大損害を被った。蓄えていた金貨だけでは賠償金を賄えず、別荘や鉱山、それに三〇個もの荘園を手放す羽目になっただけでなく、爵位も二段階引き下げられたのだ。この「カウザル事件」以外でも、セクトハウザー家は魔怪蟲による事件を起こしており、そのつど一族は財産を減らしていった。
「こ、このままでは、まずい・・・・・・」
 魔怪蟲による度重なる事件事故を受け、危機感を覚えたセクトハウザー家の人々は、従来の方法では魔怪蟲の使役は不可能と判断し、より安全に使役できるよう模索をはじめた。そして、多大な犠牲の果てに、ついにその方法を見出すにいたったのだった。それが後に「乳誕成腸胎内宿蟲」と呼ばれる外法であった。
 これはその外法名が示す通り、女性魔導師の乳房内で魔怪蟲の卵を羽化させ、消化器官内で育成し、子宮を「巣」とさせることで、魔怪蟲に自分の主人が誰であるかを匂いや味で覚えさせ制御するというものであった。刷り込み飼育の一種であり、懐かせるというよりは使役者を「親」と認識させることで強固な上下関係を構築し、本能的に命令を聞かせるよう成育させるのである。
ちなみに、これと似た方法で男性魔導師の体内で成育させる方法も模索されたのだが、やはり女性と男性では痛みへの耐性や肉体の構造から優劣がはっきりとしており、こちらの方は比較的初期の段階で失敗してしまっている。ゆえに、男性魔導師が魔怪蟲を使役しようとする場合は実力をもって従わせるほかなく、その苦労は並大抵ではなかった。
 この「乳誕成腸体内宿蟲」の法によって魔怪蟲の使役はしやすくはなったが、それでもこの方法は内容が内容だけに決して安全ではなく、場合によっては使役者が肉体や精神に再起不能の損傷を負ったり、あるいは耐えきれず発狂して自殺を選択する者も少なくはなかった。それでも、扱いが難しい魔怪蟲を手足のごとく自在に操れる利点は大きく、かくしてセクトハウザー家は徐々にかつての力を取り戻してゆくことになる。そして、その過程にて、セクトハウザー家にひとりの才ある娘が生まれたのだった。
彼女の名前はアンジェリカ・セクトハウザー。容姿端麗、才色兼備の美少女で、若干一五歳で全ての魔法をマスターした「天才」魔導師である。この物語は、後にセクトハウザー家中興の祖と呼ばれることになる美少女「胎魔師」の、決して世に出ることのない秘密の物語の記録である。


・・・・・・いつも通り長い冒頭で申し訳ございまえん(;'∀')

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