ゆう探 2021/09/25 10:00

【小説】キャンプの招かれざる客(現代ホラー風)


こんにちは、みやろくです。

今週の小説は現代ホラー風小説。

大学サークルメンバーで訪れていたヒロ達。
食事の準備をしていた時に食材の量と人数が合わないことが気づく。

キャンプに紛れ込んだ招かれざる客の魔の手がヒロ達にせまる。

キャンプの招かれざる客

とある山の川の近くで五人組がキャンプをしていた。
彼らは同じ大学サークルのメンバーでよく一緒にキャンプに来ている。
現在は手分けして夕食の準備中だ。
「あれ?おかしいな」
メンバーの一人、ヒロが食材を見て頭をかいた。
「どうした?」
隣で紙のコップや皿の準備をしていたカズが覗き込む。
「四人分しか食材がないんだ」
「え?マジ?」
料理をしていた女性陣のタツコ、マキ、アザミも集まってくる。
「買い物行ったの誰だっけ?」
ヒロは他の四人を見渡す。
「みんなで行ったでしょ?」
とアザミ。
「そうだ。確か四…いや五人で行ったよな」
ヒロは買い物の様子を思い出す。妙に記憶が曖昧になっているが、確かに五人で行った記憶がある。
「うーん、量はみんなで確認したはずなんだけどな」
とマキ。確かに食材や道具は全て人数分買ったはずだ。全員で量は確認したので間違えようがないのだが。
「まあ、ないもんはしょうがない。分け合って食べよう」
いろいろ疑問はあったがヒロ達はあまり気にしないようにした。余計なことでトラブルになって楽しいキャンプをつまらないものにしたくない。そんなことを考えながらヒロ達は持ち場へ戻る。
それから一〇分ほど経った頃、タツコがヒロの方に歩いてきた。キョロキョロしながら何かを探しているようだ。
「ヒロ君、私のスマホ知らない?」
「いや、知らないけど」
「あれえ?さっきまであったんだけどな」
「さっき水汲み行った時じゃない?」
「それか。ちょっと見てくる」
「行ってらっしゃい。暗いから気をつけて」
タツコは懐中電灯を手に取り、暗い森の奥へ歩いて行った。
その後料理が作り終わり、ヒロは盛り付けを始める。
「おい。ヒロ。何で五皿に分けているんだ?」
カズに指摘されヒロは手を止める。
「あれ?今日は四人だったか。五人いたような気がしたんだけど」
ヒロは辺りを見渡す。カズ、マキ、アザミ、そしてヒロを入れた四人。それが今日キャンプに来ているメンバーだ。
「さっき食材が足りないとかいう話をしたような」
「あれ?確かにそんな話」
確かに五人いたような気がヒロはしていた。だが、もう一人を思い出そうとしてもどうしても思い出せない。
「気のせいだよ。四人だったでしょ?」
とアザミ。
「うーん、そう言えばそうだったけなー」
違和感の正体が掴めないままヒロは料理を四皿に盛り付け直す。そして食事を始めた。
食事中ももやもやが消えなかった。何かを忘れている気がする。しかしそれが何かは思い出せない。
もやもやのせいでヒロは夕食を食べた気がしなかった。
(気落ちしていたらダメだ。楽しいキャンプなんだし)
気を取り直して食器の片付けに入る。
しかしそこでまたしても違和感。
「あれ?」
紙の皿と割り箸が四セットある。ヒロは今日一緒に来たメンバーを見る。
カズとアザミ、そしてヒロの三人のはずだ。なのに四セットある。
(他に誰かいた?いやそもそも三人ではなく五人では?いや四人?どっちだ?)
頭が混乱してくる。
違和感を覚えていたのはヒロだけではなくカズも同じのようだ。険しい表情でヒロに近づいてくる。
「おい、何かおかしくないか?人が増えたり減ったりした妙な感覚がする。なのに誰がいたか思い出せない。どうなってんだヒロ!」
半ばパニック状態でカズはヒロに掴みかかった。
「俺にもわからん」
カズの後ろからアザミが落ち着いた様子で歩いてくる。
「どうしたの?慌てて」
アザミはにっこりとヒロに笑いかけた。
「アザ…いや、お前誰だ」
「ふふふ」
アザミの顔が不適な笑みに変わった。


いつの間にかヒロは暗闇に立っていた。真っ暗で何も見えないし、何も聞こえない。そして誰もいない。
「ふふふ」
笑い声と共に暗闇からヒロの前にアザミが現れる。
「おい、みんなをどこにやった。お前は何者だ?」
「アザミだよ…知ってるでしょ?」
にっこりと笑うアザミ。
「それにみんなって誰?」
アザミは不思議そうな顔で首を傾げる。
「みんなってのは…あれ…?」
思い出せない。
誰の顔も出てこない。
一緒にキャンプに来たメンバーだけではなく誰の顔も名前も頭に浮かばなかった。大学の同期も教授や講師・恩師・親戚・親の顔すらも…。
「何で、何で誰も思い出せない」
頭を掻きむしるヒロ。いくら考えても誰も思い出せない。覚えているのは…。
「いいじゃない。アザミのことだけ覚えてれば。他の子の記憶なんかいらないでしょ」
アザミはヒロの頭を抱きしめる。
「むぐっ」
柔らかい胸に顔が包まれた。息苦しいけど、気持ちいい。
「記憶を全部アザミで染めてあげる❤︎アザミだけがヒロ君の記憶」
「ふわあああ」
抱かれているとどんどん力が抜けていく。胸から香る甘い匂いで頭がクラクラしてくる。ヒロは抵抗の意思を失いアザミに身を委ねる。
「ふふふ」
アザミはヒロのズボンを下ろす。露になったペニスを右手で掴み、ゆっくりと扱き始めた。
「ああ…」
胸の柔らかさと甘い匂いで思考力と抵抗力が奪われた状態での手コキ。気持ち良さのあまりヒロは思わず声を漏らしてしまう。
「ここで射精しちゃうと記憶も一緒に溶け出ちゃうんだ❤︎でも怖くないよ。アザミが一緒だから」
記憶が消える恐怖感も甘い快楽の前に消えていく。
彼女以外の全てを失ってもよいーー。
彼女の与える快楽はそう感じるくらい心地よかった。
「ヒロ君、大好き❤︎アザミのこと呼んで❤︎」
「アザミ…」
とろんとした表情でヒロは呟く。もうヒロの頭の中はアザミでいっぱいになっていた。アザミのことしか考えられない。
「ほら、アザミ以外の記憶、全部吐き出して❤︎」
アザミは強くヒロのペニスを扱きあげる。
どぴゅっ。
射精と共に何かが溶け出ていく。しかし、もうどうでもよかった。
アザミの記憶さえあればあとは何もいらない。
「ヒロ君、ずっと一緒だよ❤︎」


次の日。
山の麓で男一人女二人が気絶しているところを発見される。幸いすぐに病院に運ばれたため命に別状はなかった。
どうやらサークル仲間三人でキャンプに行った途中で遭難してしまったようだ。どこをどう歩いてきたか記憶にないが、どうにか下山したところで力尽きたらしい。
その日のうちに三人とも退院できたため、カズ、タツコ、マキの三人は家に帰ることにした。
「そういえばヒロは?」
カズはマキに尋ねる。しかしマキは首を傾げる。
「え?ヒロって何?誰かのあだな?」
「え?何だっけ?」
カズも思い出せずに考え込む。
「寝ぼけたんじゃないの?」
とタツコ。
「ははは、そうかもな」
「でもどっかで聞いた響きだよね」
「そうねえ。有名人か何かかなあ」
マキとタツコも足を止めた。割と最近どこかで聞いたことがあった。しかしどこで聞いたかは全く思い出せない。
「まあ、そのうち思い出すだろう」
違和感は完全に拭えなかったが、思い出せそうもないのでカズ達は家路についた。


あとがき的な

「最初からヒロだけ連れ去ればよくない?」というセルフツッコミ。

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