スコムスscomscroll 2021/06/10 23:54

XCOM同人小説SCOM 本作 4-1 機密研究所

都心から遠く離れた山奥。
巨木がぎっしり並び、日差しをあまり通させない。
昼間にも薄暗いその中には雰囲気に似合わない一本道の道路が綺麗に敷かれていた。

道路を辿っていくと、その先に立つ立派な 3階建ての研究所。
グラウンドらしい庭も含めるとプロチームの野球場くらいに広い敷地は、人の背丈ほどの鉄柵で囲まれている。
SCOM隊員達には難なく飛び越えられる程度だが、ただ、今はそのタイミングではなかった。

研究所から約500メートルの距離を置いて、4人ずつで別れた2組の分隊が丘の上と下でそれぞれ身を潜めている。
ケイリとエイミが属した分隊は丘の上で、研究所の入り口からこの丘の近くまでパトロールしているエイリアンの警備隊を監察している。

蛇みたいな体に2本の腕がついたヴァイパーと呼ばれるエイリアンが2体。腹から尻尾の所をうねうねと捩らせ、地面を滑っていく姿も奇怪であるが、伸ばすと3メータを超える身長も威圧的だ。
そして、アドヴェントトルーパーが2人。

警備隊が進路を切り替えて、研究所に戻る様子を確認した後、うつ伏せていたケイリが起き上がり腕を上に伸ばした。

ケイリ:くうう…突撃は次の巡回でか…相変わらずお尻が重いな、ローガン大尉は。

ソフィア:ローガン大尉はいつも慎重ですからね。ヴァイパーがいる今の分隊よりは、アドヴェント兵だけの次のパトロールから処理した方が確かに安全でしょうし。

小さい声で、しかし聞き取りやすいはっきりした気高く鮮明な声で答えたのは、未だうつ伏せの姿勢のままでスナイパーライフルを構えるソフィアだった。階級はケイリより一つ下がる中尉。狙撃の腕では狙撃隊の中でケイリと1、2を争う実力者でもある。

ケイリと同じ、金髪の美人ではあるけれど、こちらは肩の上で整えられたショートカットで可愛い童顔。また、その顔立ちにふさわしい小柄な女性だ。
ただ、小柄な彼女の身体比率を崩さない程度で程よく膨らんだ胸は、実際の大きさに関係なくケイリ大尉にも負けないくらいに印象的である。

崖のギリギリまで立ち寄って丘の下を見下ろすケイリ大尉のパワードスーツに引かれた3本のラインがふわりと光る。彼女の髪の毛と同じ金色で光るラインが両肩と首の中央から胸の上を通り、両足首と股の中央部まで引かれていた。

ケイリ:ふうむ。本当にこの光って、遠くから見えないの? 前のと比べると結構軽いし、体に密着して動きやすいのはいいんだけど。

ソフィア:エイリアンのテクノロージなんて私も理解しにくいですけど、遠くなると程よく散乱して逆にカモフラージュになるみたいです。と技術部から聞きました。

ケイリ:へえ。そうなんだ。マニュアル読むの面倒くてすっ飛ばしたから知らなかったな。それで、ソフィちゃんは何で旧型のままなの?

濁った緑色のパワードスーツを着ているソフィアがうつ伏せたまま、視線をスコープから離さず答える。

ソフィア:材料が足りなくて、全員分支給までは間に合わなかったらしいです。大尉はともかく、私は後方でじっとしている場合が多いので、順番を後回しにしてもらいました。私よりエイミちゃんが装備した方が全体の戦力アップに繋がるでしょうから。

ケイリ:なるほどね。

2人の会話の間に、落ち着いた低い男の声が割り込む。
丘の下からの無線だ。

ローガン:ヴァイパー分隊の迎撃を頼む。トルーパー分隊は20秒後奇襲する。以上。

ケイリが大分丘に近づいた3人のトルーパーを見下す。

ケイリ:了解。任せて。

答えながら岩の後ろに跪いて身を隠す。
そして、同じく丘の上で潜めている3人の隊員に指示を下す。

ケイリ:私達は蛇野郎どもが戻ってくるまで待機だ。警戒体制に入って。

3人の隊員:ラジャー

女隊員 3人の返事が返ってきてすぐ、丘の下では銃撃戦が始まった。
ローガン大尉が率いる総4人の分隊は初回の集中射撃で1人のトルーパーの頭をヘルメットごとぶっ飛ばした。

そして、もう1人のトルーパーは腕や足を覆うアーマーがズタズタと弾かれたが致命傷にはならなかった。最後の1人は位置的にも厄介な角度で、無傷のまま岩の後ろに身を隠す。

ローガン:散開。それからリロードして待機。

簡潔な指示が重厚な声で流れてくる。4人は予め決めておいた場所に素早くダッシュし、それぞれ身を屈めて、ライフルやガトリングをリロードする。

生き残った2人のトルーパーは岩から身を乗り出し、遮蔽物となっている巨木に向けて強力な磁力ライフルを撃ち込む。
大人2人が腕をいっぱい伸ばして、やっと囲い切れるような巨木。
流石に貫通されることはないが、みるみる幹が細くなっていく。
アドヴェントの磁力ライフルを数撃てば、厚いコンクリートの壁さえも撃ち砕ける。一本の木を頼って長くは隠れていられないことくらいSCOM隊員なら常識だ。

トルーパー達に狙われていない場所の隊員が身を乗り出して、大口径ライフルを連射する。
惜しくも銃弾のほとんどは空を切っただけだが、トルーパー達も牽制を止めて身を隠さざるを得ない。
その間、撃たれて細くなった巨木の後ろにいた隊員が別の遮蔽物を探して移動する。
これを繰り返し、少しずつ戦線が後方に下がって行く。

アドヴェントの兵士がいくら連携が上手くて作戦遂行能力が優れていても、2人で4人を同時に牽制するのは不可能だ。

経験不足の新兵達はあたふたしてる内に近く寄り合って、敵のグレネード投擲をくらうこともある。しかし、この場にはローガンの緻密な作戦のもとでテキパキと動けるベテランしか来ていない。
SCOM隊員の射撃は当たらないことで有名だと、自虐ネタで用いることも多いが、流石に3回目の後退で、アーマーが弱っていたトルーパーに警戒射撃が命中し地面を転がせる。

人数で勝る時はこれほど安全かつ確実な方法はない。

ソフィア:ヴァイパー分隊が結構近づきましたけど、どうしましょうか。

状況を報告するソフィアは、先からうつ伏せの射撃姿勢のまま変わっていない。
岩の後ろで跪いているケイリが感心の視線を送りながら答える。

ケイリ:ソフィちゃんは私の後ね。エイミ。準備はいい?

隣の木の陰でずっと身を潜めていたエイミが、背中のホルダーから引き取ったプラズマソードのグリップを握り締める。まだ電源を入れていない為、オレンジ色で光る剣身は現れていない。

エイミ:はい。大丈夫です。

ケイリ:私が撃った後で、エイミちゃんは丘の下まで突撃。そしてソフィちゃんは私の保険だから、もし取りこぼしたら始末を頼む。それから、ナタリーちゃん。

赤い髪の毛を首筋の後ろで短く整えた、身長の低い可愛い印象の女隊員が答える。

ナタリー:はい。

ケイリ:ナタリーちゃんは保険の保険だから、エイミちゃんの少し後ろをついていって、少し距離を置いて隠れていてね。もし、上手くいったら撃たなくていいからね。

ナタリー:了解です。

一通り指示を伝えたケイリは岩の後ろから出て、より見晴らしのいいエイミの近くまで移動し、立ったまま崖に生えた木の影に身を合わせる。
そして、ヴァイパー達が丘のすぐ下を通りすぎて、ローガン分隊の方へ駆けていく姿を確認するとスナイパーライフルを持ち上げて射撃体勢をとる。

ケイリ:よっしゃ。いくわよ!

ドーン!

大口径スナイパーライフルの鈍重な銃声が森の中に響き、地面を滑りながら結構速い速度で前進していたヴァイパーの頭を正確に撃ち抜く。

鼓膜が裂けそうな甲高い叫びと共に、もう一体のヴァイパーと2人のトルーパーが進撃を止めて振り向く。
スナイパーライフルの銃声が聞こえた方向を見定めて、トルーパーが磁力ライフルを構える…

ドーン!

一発目の狙撃から数秒も経たない内にケイリが放った二発目の銃弾はまたもや正確にトルーパーの頭を撃ち抜いた。
そして、ケイリは姿勢を変えず、肩を僅かに回転させ銃口の角度のみを微調整すると、躊躇なく3発目の銃弾を放った。

パシャーっ!

反撃を諦めて頭を腕で囲んでいたヴァイパーは左腕が破裂されるだけで済んだ。
10秒も経たない内に、敵の戦闘力を1人でほぼ喪失させたケイリは、どこか不満そうな顔で無線を飛ばす。

ケイリ:賢いわね。エイミ! 行け!

エイミ:はいっ!!

すでに丘の下に到着していたエイミが豪快に飛び立ちながら、握っているグリップの電源を入れる。
グリップからはオレンジ色で光るプラズマの剣身が現れ、シュワワと周りの空気を蒸発させた。

シュパッ!!

エイミが振り下ろしたプラズマソードは肉の焦げる匂いを漂わせながら、ヴァイパーの左腕を切り落とした。

ケイリ:エイミ! 危ない!! 下がって!!

エイミ:え、ええっ!!!

エイミが着地した瞬間、両腕を失ったヴァイパーは、まるでショットガンを撃つような勢いで長い舌を伸ばす。その舌は瞬く間にエイミの両腕と胴体ごとクルクルと巻き付け、凄まじい力でエイミをヴァイパーのすぐ前に引っ張っていく。

エイミ:うああっ! いやだぁぁ!! とぐろに巻かれるっ!!

丘の上ではケイリがスナイパーライフルのリロードを行っている。
ヴァイパーのとぐろ巻き攻撃はそれ自体にも、SCOMのパワードスーツを破壊できるほどの威力がある。その上、巻かれた隊員が自力で脱出することは不可能で、敵の集中攻撃の的となる厄介なスキルだ。
しかし、その状況を1ミリも逃さず把握しているケイリの目に動揺は見えなかった。

ケイリとは少し離れたところで、ずっとうつ伏せたまま待機していたソフィアはケイリがリロードを開始した瞬間、自分のスナイパーライフルをそっと地面に置いて、腰のホルスターから狙撃兵用大口径ピストルを取り出していた。
彼女はピストルを持った片手を真っ直ぐ伸ばし、地面に密着させて安定させると、躊躇うことなく引き金を引く。

ピストルとは思えない鈍重な銃声が響くと、次の瞬間ヴァイパーの頭から紫の血が噴出され、エイミはとぐろから解放された。不自然な姿勢で落とされたエイミが地面にお尻餅をつく。
まだピンチから逃れた訳ではない。最後に残ったトルーパーはすでに磁力ライフルの銃口をエイミに定めていた。

ところが、ピストルを腰のホルスターに戻し、地面に置いていたスナイパーライフルを素早く握り直して、スコープから見えるトルーパーを確認し、引き金を引くソフィアの方が、数段も速かった。

トルーパーは胸部を貫かれ、奇声と共に後ろへ飛ばされる。

ナタリー:オールダウン。クリアでーす。

ナタリーが構えていたライフルを下ろし、無線で報告すると同時に、ケイリとソフィアは丘の崖から一気に飛び降りる。
パワードスーツが着地の衝撃をうまく吸収してくれて、2人は座り込んでいるエイミの方へすかさず駆けつける。
それに続いてナタリーも皆んなの方に寄ってくる。
座り込んだままのエイミが頭をかきながら笑ってみせる。

エイミ:あはは…助かりました。ありがとうございます。

ケイリがエイミの頭を撫でる。

ケイリ:無事で良かった。まあ順調だったね。

ケイリはエイミが立ち上がるのを手伝ってから、その場の皆んなを見渡しながら話す。

ケイリ:いよいよ中に潜入するぞ。まずはローガン分隊と合流しよう。


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