緊縛の視姦室 2021/05/29 16:09

【新規】覗かれて~人妻は緊縛プレイに墜ちる#01

#01 被虐の徒花

 目覚めた時、リビングには誰もいなかった。
 天井の照明も消されている。
「あ……あれ?」

 一樹(かずき)は目を瞬かせ、肩にかけられていた毛布をめくった。
 ソファから立ち上がろうとする。
 途端、めまいがした。頭の芯がずきずきとし、再び、ソファに座り込んでしまう。
 ゆっくりと、深呼吸をしていると、痛みとともに、めまいも去っていった。

 ——ここは……。
 記憶を辿ろうとすると、暗がりのなかで、目の前のテーブルに置かれた飲みかけのグラスやおつまみが載せられた皿や小鉢、灰皿にスマートフォンなどが視野に入ってきた。
 ゆっくりと立ち上がると、今度はめまいも頭痛もしなかった。
 吐息をつき、ソファを離れた。
 リビングを横切り、照明のスイッチを入れる。

 天井の蛍光灯が瞬いた。
 一樹は顔を俯かせ、光に慣れてから、周囲を見渡した。
 やはり、人の気配はなかった。
 リビングの反対側にはアイランドキッチンと、廊下へと続くドアが見えている。

 キッチンとリビングの丁度、境目あたりに立つと、一樹は頭に手をやった。
 ——おかしいな。
 今日は、学生時代から親しくしていた友人たちが集まり、家で呑んでいたはずだった。
 呑み会は月一回の恒例で、だいたい、終電前の十一時頃にお開きとなり、見送った後は一樹もそのまま寝床につく、というのがいつものことだった。

 妻の茉里奈(まりな)も人をもてなすのが好きで、新しいレシピをどこからか見つけてきては、一樹たちに振る舞う、というのを楽しみにしていた。
 呑み会のメンバーは一樹の他には琢己(たくみ)、健吾(けんご)、それに晃(あきら)に固定されており、都合があって来られない、ということはあっても、新しい顔ぶれが加わるということは、なかった。
 いずれも、年齢は四十歳前後で、晃以外は既婚者だった。会社の上司の愚痴や妻の悪口といった日々の不満を互いにぶつけ、ストレスの解消としているのだった。

 一樹は仲間でも一番、アルコールに強く、眠くなりはしても、つぶれたり、気分が悪くなったりすることは、一度もなかった。
 それが、友人たちが帰ってしまったことにも気づかない程、寝入ったりしてしまうとは。

 リビングの壁にかけられている時計を、見上げた。アナログ表示の大きな電子時計は、今が真夜中をすぎた一時を示している。
 ということは、寝入ってしまった一樹に構わず、友人たちは帰ってしまったのだろう。

 友人たちには済まないことをした、と思いながら、茉里奈はどこにいるのだろう、と首を傾げた。
 いつまでも、目を覚まさない一樹に腹をたて、さっさと寝てしまったのか、それとも、今だけ席を外しているのだろうか。

 一樹はソファに戻ると、座り直した。飲みかけのビールを飲み干すと、再び、頭痛がした。
 頭を振り、束の間、目を閉ざした。
 やはり、呑みすぎなのだろうか。スパイス風味の豆菓子を口のなかでかみ砕くと、眠る準備をするために、立ち上がった。

 と——テーブルの上に置いていた一樹のスマートフォンが一瞬、画面を点灯させた。
 一樹はスマートフォンを手にすると、着信ではなく、新着のメールが届いたようだった。
 いつもなら、メールは朝に起床してから、まとめてチェックすることにしているのに、一樹は心当たりがあり、画面をスワイプさせ、メールアプリを開いていた。

 アドレスは覚えのないもので、件名は『賭けに勝ったぞ』とあった。
 それを目にした途端、一樹は心臓を鷲づかみにされたような衝撃を受けた。
「——うッ!」
 声にならないうめき声をあげ、激しいめまいに襲われた。
 三度、頭痛に見舞われる。
 立っていられなくなり、その場に踞った。

 スマートフォンを取り落としそうになったが、何とか、掌に収めた。
 床に片手と両膝をついた姿勢のまま、周囲に視線を向けた。

 誰かに見られている——。
 そう思ったが、それは一樹の勘違いだった。
 依然、リビングにいるのは、一樹のみだった。

「茉里奈! 茉里奈、どこにいる。返事を……いるなら、返事をしてくれ」
 少し、呂律のまわらない声で、一樹は呼びかけた。
 めまいに苦悶の表情を浮かべながら、リビングとキッチンのなかを歩き回った。
 廊下へと続くドアを開け、向こうを覗き込む。

 廊下の向こうは玄関と二階に続く階段、それに客間や寝室へと続いているはずだった。
 玄関へ行き、靴を見れば、晃がまだ、家に残っているかどうか、確かめることができる。
 そう思ったが、突然、吐き気がして、一樹は黙ってドアを閉ざした。
 しばらくの間、壁に背中を預け、吐き気が収まるのを待った。

 それから、一樹は躯をふらつかせながら、ソファまで歩くと、倒れ込むようにして座った。
 スマートフォンを見る。ホームボタンを長く押して、スリープを解除した。
 スワイプをして画面を切り替え、それからメールアプリのアイコンを、じっと眺めた。

 ふと、一樹は自分の指が震えていることに、気づいた。
 スマートフォンを膝に置き、手首を掴むのだが、それでも、指先の震えは止まることはなかった。

 このまま、メールを見なかったことにして、眠りに就く、という選択肢もまだ、一樹には残されていた。
 いや、むしろ、そうすべきなのではないか。
 心の声はしきりに、一樹に向かってそう、訴えてきていた。
 しかし、一樹自身、そうしないであろうことは、よくわかっていた。

 深呼吸を二度、三度としてみる。
 落ち着かせようとするが、何も変わりはなかった。
 ため息をつくと、一樹は覚悟を決めた。
 アイコンを押し、メールを開いた。

 例の見知らぬアドレスのメールを開いてみる。
 この時ほど、このメールが悪戯か何かで、開いた途端、一樹をがっかりさせて欲しいと願ったことはないだろう。
 しかし——メールは悪戯でも、ウイルスでもなかった。
 件名はさっき、確認した時と同じ、『賭けに勝ったぞ』だった。
 目を閉ざし、一樹は一ヶ月前、晃と話したことを、思い出していた。

     ★   ◆   ■

「……んで、もうどのくらい、茉里奈ちゃんとセックスしていないんだよ」
 居酒屋のカウンター席で、それなりに酔っ払い、出来上がった頃に、晃は切り出してきた。
「どのくらいって……えーと」
 答えに詰まった一樹を見て、晃がにんまりと笑った。肩をばしばしと叩いてくる。

「つまり、いつもの悪癖が出てきてしまったってことだ」
「そんなこと……」
「あるだろう。だったら、どのくらい、茉里奈ちゃんを放っておいているんだ。一年か、二年……いや、それよりもっと、か」
「二年以上も、抱いていないわけじゃない」
「それじゃ、一年近くは、セックスをしていないってことだな」

 一樹と晃は、同じ学生からの友人同士でも、少し毛色が異なる。
 つきあいとしては、中学生時代からだから、三十年以上に渡っている。
 高校を卒業してから、一樹は専門学校へ、晃は一般大学へ通っているから、途切れているのだが、偶然ながら家も会社も近く、いつの間にか、こうして居酒屋などで飲むようなこともしていた。

 が、一樹は晃に対して、苦い思い出を抱いていることがあった。
 晃に数回、彼女を取られているのだ。
 それは、一樹の奇妙な性癖も関わってきている。

 一樹は長い間、女の子とつき合っていると、どうしても性的な興味を抱けなくなってしまうのだ。
 つまり、ペニスが勃たなくなり、相手とセックスができなくなってしまう、という性癖を背負い込んでしまっているのだ。
 そのせいで、どんないい娘とつきあっていても、関係が短いままで終ってしまうのが常だった。

 あれは——高校三年生の時だっただろうか。一樹の性癖のせいで、破局寸前だった恋人が、晃とセックスをしているのを、見てしまうという事件があった。
 もう、別れる寸前だったとはいえ、放課後の図書室で、晃と対面立位でキスをしながら、絶頂に達する恋人の姿を、まともに目撃してしまったのだ。

 恋人のはじめての浮気場面を、しかも、その相手が、一樹と一番、仲のいい友人というショッキングなシーンを目にして、しかし、これ以上はないという程、興奮もしていた。
 寝盗らせ気質——そういう性癖があると知ったのは、かなり後のことになるのだが、その時の興奮を忘れられはしなかった。

 その一件以来、晃とは距離を設け、その後、数人の女の子と恋人関係にはなったが、一樹の性癖のせいで、うまくいかなくなった。
 悩んだ末、一樹は思いきって、自分の性癖のことを晃と恋人に、打ち明けてみた。

 結果的に見れば、寝盗らせをしてみても、うまくはいかなかった。
 打ち明けた途端、罵声を浴びせかけられて、すぐに別れてしまったこともあったし、同意してもやはり、長続きはしなかった。
 その際、一樹の恋人を晃に奪われてしまうということもあった。

 晃のセックスが一樹よりずっと、上手いからなのか。寝盗らせの性癖にうんざりしてしまったのか。それとも、その両方なのか。
 確かめたことはない。ただ、晃のほうが一樹よりも社交的で躯つきなども男らしく、人間的な器も大きい、というのは、思い当たることではあった。

 社会人となってから、一樹はマッチングアプリを介して今の妻である茉里奈と結婚し、一方の晃は四十代を迎えても一度も結婚せず、独身を貫いていた。
 茉里奈は——一樹にとって、不釣り合いに思えるほど、できた女性だった。
 決して美人ではないが、一度も灼いたことがないのではないか、と思えるほどの白い肌に、スレンダーな躯つき、脚はほっそりと長く、ぽってりとした唇がセクシーで、柳眉をきゅうと撓めると、もっと悩ましげな表情を浮かべさせてあげたいと、そう思ってしまう。

 その茉里奈と、一樹はかなり長いこと、セックスをしていなかった。
 原因はもちろん、一樹の寝盗らせ気質が頭をもたげかけているからだ。
 自分では、そんなことはない、と声を大にして否定したかった。

 茉里奈の女体に決して、興味を失ったわけではない。
 今でも——いや、三十路となり、羞じらいの表情を浮かべながら、熟れた肉体をなよなよとくねらせ、悦びの声をあげながら、抱きつかれたりすると征服欲が頭をもたげ、茉里奈のすべてをしゃぶり尽くしたいと、そう思うのだ。

 が、それを逆に負担に感じてしまうのか、茉里奈に迫られても、ペニスは項垂れたまま、求めに応じてくれなかった。
 清楚な佇まいながら、茉里奈はセックスが好きで、一樹を昂らせるためならば、とアダルトビデオまがいの淫らなことも試みてくれたりもした。
 茉里奈の精一杯の献身がわかっているだけに、できるものならば、彼女に悦楽を味あわせて、絶頂の極めを経験させてあげたい——そう思うのだが、一樹にはどうすることもできないのだった。

 もしかすると、一樹は茉里奈と結婚するべきではなかったのかもしれない。
 一樹以外の男と結婚していれば、こんな苦労を茉里奈に味あわせることはなかったに違いない。
 そう考えれば考えるほど、一樹は気分を落ち込ませてしまうのだった。

 晃はそんな一樹が抱えている悩みに気がつき、何度も声をかけてきていた。
 が、過去に寝盗らせでひどい目にあってきた一樹は、晃の誘いに、首を頷かせはしなかった。
 肉体でつながることはできなくても、茉里奈と一樹の間に揺るがしようのない絆はしっかりと存在すると、確信を抱いていた。

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