時 自若 2021/06/12 13:29

浜薔薇の耳掃除「第2話」

「あの先生怖くて…」
尾花少年は自分の耳鼻科の先生に対してそういった。
「一度耳垢が詰まった時に、もう詰まらせたくない、そう思ったぐらいですね」
「そんなに怖いのか」
そんな彼の耳掃除をしている蘆根(ろこん)はそうもらした。
「できれば蘆根さんに定期的に耳掃除してもらいたいですもん」
現在尾花は月に一回髪を切ってもらい、その時に耳掃除をしてもらうのだが…
「ぶっちゃけ俺って週に一回ぐらいきちんとしないと、耳かきしたときわかりますもん、音の通りが違うんで」
あれ?なんか耳がおかしいのかな?と思いきや、外から聞こえている音は普通、中をごそごそしていると、音通りが違う。
「じゃあ、バイトするか?」
「バイトですか?」
「実はさ」
蘆根は店の隣に猫のイツモと共に住んでいる。
その猫のイツモは、蘆根が仕事の際の遊び相手として、裏に住むワンコのフェカリスがいた。
「イツモがフェカリスをホカペ代りにして、散歩に行こうとしても離れなかったりするんでな」
それじゃあいいよと飼い主が諦めてしまう。
「だから毎日一回ちゃんと散歩をさせようと思って、バイトを募集しようって話になったんだ」
どこに頼むか?と思ったら、人材センターでもとなり、今日は金曜日だから、月曜日にでも連絡しようかという話になってた。
「全く知らない人よりは、やってくれるなら、週に一回耳かきとシェービングつけるぞ」
「やります」
そうしてフェカリスの主人にも話をすると、じゃあお願いするよとなった。
「じゃあ、行くよ、フェカリス」
お腹に優しい善玉菌ネームをつけられたワンコ、名前の由来はお父さんがヨーグルト、お母さんがフローラ。
「子供の頃、町内を駆け巡っているから、フェカリスかな」
町内と腸内もかけたんだという飼い主の素晴らしいネーミングセンスによってつけられた。
フェカリスの調子を見て、満足した顔をしたので、今日の散歩は終了し。
さて本日は週に一度の耳掃除とシェービングの日である。
これが目当てでバイトしたが、ちゃんとお金も出ている、今は貯めてて、パソコンのキットを買うつもりとのこと。
「キットってすげぇな」
などとあまりそういったのが得意ではない蘆根は、できる人を尊敬した。
「蘆根さん、じゃあ、お願いします」
「はいよ」
耳かきとシェービングサービスとはいったが、簡単には終わらせるつもりはない。
あまりメニューとしては出ないが、イチオシの本気の耳かきコースを勝手に行っていた。
(潤いミルクパックもしてやるぜ)
ここら辺は完全なる趣味である。
まず潤いミルクを顔に乗せていくが、その後マッサージをする。
(もっと顔のマッサージも出ないものかな)
そういったエステコースがある店で修行したのだが、浜薔薇の客層ではあまりでない。
指先で骨のラインを確認して、力を入れずに指でむくみを流していく。
「あっ、そこ気持ちいいです」
「疲れ目のツボだな」
ほとんど大人と同じような疲れ方をしている。
(これは一気に流してやらなければ)
カッ!
それが大人が出来ることである。
マッサージを終了後はタオルで蒸らしてやる、寒いときはいつもより五分長くは先日習ったことだ。
それでわかったのだが、夜はやはり気温が下がるので、猛暑でもない限り、夜は蒸しタオルを五分長くするでいいのではないかと思っている。
そういうことで、自分で試しにやってみたところ、毛穴の開き具合がちょうどいい。
採用である。
「眉毛もお任せでいいのか?」
「お願いします、よくわからないので」
尾花少年は地味だが、結構整っている。
(この整っているはなかなかないんだよな)
化粧ではごまかしきれない部分が優れていた。
眉は細くしない、この目鼻で細くすると、バランスが悪くなるから。
(今日もいいな)
次の準備をしていると、タモツ先生がふらっと来て。
「ん、なかなかだな」
そういって店から出ていった。
(会心だと思っていても、なかなかなんだよな)
それが結構悔しい。
シェービング、自分でも剃り出してはいるかま、そこまでこだわってはいないようだ。
唇のギリギリ、顎のライン、首筋を綺麗に剃りあげていく。
そして毛穴のパック、これが固まったら耳かきである。
ペリペリペリ…
パックを剥がしていくと、キラキラした黄色ががった角栓がずらりと並んでいる、これで産毛も綺麗に取れている。
(剃ったとしても、やっぱり根元までとった方がいい状態が何日か続くんだよな)
そしてこれの難しいところは、猛暑だと毛穴が開きすぎて、汗がベタベタになることだろう。
(そうなると化粧水とかきちんとやっている人じゃないと出来なくなる)
お肌の弱い人やあまりやらない人はたまにやるとしたら、この時期というやつだ。
では耳かき。
(この間髪を切ったときの、細かい毛がやっぱり入っているな)
一かきすると、塵のような垢に黒い毛が刺さっていたり、巻き込まれたりする。
(耳かきするタイミングは難しい)
一回にやってしまえればいいだろう。しかし、髪を切るやシェービングは濡れた状態が望ましいが、逆に耳掃除は乾いた状態がベストだったりする。
特にこうして、髪を切った後の細かい毛のことを考えると、耳かきはその日当日よりも一日ぐらいおいてなど、そんなことを色々と考えてしまうのだ。
蘆根からすると、髪を切って、風呂に入って、寝て、次の日ぐらいに耳掃除をしてもいいんじゃないかなと。
もしも自分のお客さんでそれがいいというのならば、そういう予約の取り方もしてみたかったりする。
そして耳と向き合いたい。
耳掃除をし、耳たぶや中を剃り、その後泡を立てて洗ってすっきりさせたい。
「う~ん」
尾花少年は耳かきの気持ち良さに睡魔がやってきていた。
まだまたま長くかかるので、眠気が来てもしょうがあるまい。
うちの店にある標準サイズの耳かきを出した、これより細いものも太いものもあるが、基本的にはこのサイズを使う。
まっすぐな穴ならば奥まで見えるし、これだけでいいが、曲がって奥まで良く見えない人はピンセットなど、その辺は臨機応変である。
しかし少年時代というのは凄まじい、先日も耳かきをしたのに、なんでこんなに溜まるのかぐらい入っていた。
ペリペリ…
剥がしても、剥がしても終わりのない作業。
ピッ!
そしてたまに取れる驚きの色とサイズ。
(この間も結構綺麗にしたと思ったのにな)
自分の見落としがあったのであろうか…などと思ったところに、またデカイのがゴロン!
(ここはさすがに掃除したところだな)
そんなところにもまた出来ている、そういってもいいぐらい耳垢がゴツゴツとした耳。
(これは燃える)
耳かき好きならばおそらくこの耳のスゴさがわかるだろう。
カリカリカリ…ポロ!
ゾクゾクっとするはずだ。
今日のところはこの辺にしておいてやるぜ!な気分になったところで、泡を立てて、耳の外側と後ろを洗う。
そして泡を洗い流して…
「はい、おしまい」
「う…あっ、ありがとうございました」
「もっと寝ていたいだろうが、家に帰ってから寝てくれよ」
「わかりました」
こんな感じで尾花少年は週に一回耳掃除とシェービングをしている。
「なあ、膝枕の耳かきのお姉さんって良くない?」
同級生に聞かれたが。
「俺の行っているところも耳掃除が旨いからな」
「ええ、でも男だろ?やっぱお姉さんがいいや」
なとというが、お前はわかってないなと心の中ではそう思うのであった。

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