時 自若 2021/06/17 16:37

浜薔薇の耳掃除「第30話」

「浜薔薇って、こだわってますよね」
「そうだな」
色々とこだわりのポイントがあるのだが、奥の個室一つにしても吸音と免震、この話は前にしたか。
「気温の管理も徹底しているからな」
おかみさんがヒートショックで倒れてから、浜薔薇では温度差を作らない構造になってはいるのだが。
「そのついでに、マッサージの個室も人間が過ごしやすい気温と湿度になっているから、ここに入っただけで、睡魔に襲われるからな」
現代人は時間から解放されるというのがとても大事なことのようです。
「やっぱりマッサージを習いにいった際に言われたんだよな」
蘆根くん、やれるんだったら、店作りにはこだわった方がいいからね、特に外の音が聞こえないようにするのは重要で…
「その時はホテルにいたからさ、ホテル業界っていうのはマニアっているんで」
そのマニアの方が蘆根のお客さんにいて。
「蘆根くん、この間ね…」
そういって自分のおすすめのホテルなどをひたすら話してくれるのである。
「その人がおすすめのホテルは、高級なものばかりではなくて、手頃な値段でもおもしろいとか、そういうのばかりでさ」
そのホテルに泊まっていたのならば、何が快適かわかっていった。
「特に需要なのは、これ便利だな、ここで差がつくのかだな」
当時は独立など全く考えてなかったのだが、その時に学んだ快適とは何かが、今参考になっている。
「自宅の部屋の作りもここ参考にしたんだが、1つ問題があってな」
「何ですか?」
「イツモが部屋からでなくなる」
そのためきちんとオンオフ出来る仕組みになっていた。
「まあ、猫ですからね」
「快適にするとそこから離れないからな」
蘆根が寝るときは快適な気温や湿度になるのを知っているので、イツモはダッシュして戻ってきます。
「前に行った中国茶の先生とのコラボイベント、あれは良かったってコメントに書かれてました」
「ああ、あれな、あのおかげであたたかいお茶をたっぷり飲んでもらってから、マッサージすするんで、老廃物本当に流れるからさ」
「またやらないんですか?」
「先生がな、あの後な」
蘆根、私は土作りからやり直そうと思うんだ、だから次の茶は三年は待っててほしい!
「って」
「この業界ってみんな極端ですよね」
「でもな、嫌いじゃないぜ!」
「ええ~!」
傑は困惑をしている。
「俺もどっちかっていうと暴走するから、傑がいてくれてよかったぜ」
浜薔薇のこだわりすぎてしまうという部分を上手く調整しているのが傑であった。
「…そのお茶の先生って、農家の方ですか?」
「いや、全然、自分で畑からやってみたいなって」
「もう戻ってこないかもしれません」
「えっ?そうか」
「農業方面は自己流じゃダメですから、きちんと指導者いないと失敗しますし、まだイベントとかやるならまだしも、そういうのやめちゃうのはな」
という話をして、一ヶ月しないうちに。
「蘆根くん、もう一回お茶を出してみないか」
思ったより上手くいかなかったらしかった。
「こだわりはいいですけども、それはそれ、これはこれでお願いします」
「はい」
傑に言われて、お茶の先生はぐうの音も出なかったようだ。
「奥さんと喧嘩になってね」
「相談もなしにやるからですよ」
「面目ない、いけると、いけると思ったんだ!」
「先輩」
「なんだ?」
「しばらくの間、助けると思って、マッサージにはお茶をつけてみましょう」
「いいのか」
「なんかいつもよりいいお茶が在庫になりかけているの見るとね」
「わかった」
というわけで、ただいま浜薔薇のマッサージにはお茶の先生が監修した美味茶選メニューがついております。
「あっ、美味しい」
この時期にしか味わえないお茶をご用意いたしました。
「浜薔薇ってどんどんサービスがよくなっている気がするわ」
「はっはっはっ、それならもっとご利用お待ちしてます」
「するする!」
マッサージの後に、次回の予約を入れてくれるようになった。
「最初、冗談半分でいったんだが、本当に予約が入ると驚くものだな」
「先輩って、何だかんだいってお客さん作るの上手いですよね」
「まあ、そりゃあ、そっちが本当に上手い人間がいてだな」
「あっ、そりゃあ元カノだもんな」
「うっ」
「えっ?」
タモツに言われた一言で蘆根は怯み、傑は驚いている。
「こいつ、浜薔薇に来たのは俺の仕事を学ぶためもあるんだがよ、その時付き合っていた彼女と別れてな、居づらくなったのもあるんだわ」
「知らなかった」
「はっはっはっはっ」
「詳しい話は知らねえが、別れただけはわかったもんで、まあ、それならってことでしばらく手伝ってもらうことにした」
「えっ?じゃあ、もしもそうでないなら」
「さすがに断っていたんじゃねえか?あの時の蘆根は見せてやりたかったぜ」
全てを忘れるために仕事に打ち込みすぎて、浜薔薇の跡継ぎすごい人来たみたいよって噂になった。
「仕事していると無になれるんでな…」
その無はなっちゃダメなやつ!
運命というのは恐ろしいもので、もう一度こんなことが起きたら、同じ目は出るかと言われると恐らくでない、今の浜薔薇というのはおそらく存在自体が奇跡である。

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