時 自若 2021/06/20 11:30

浜薔薇の耳掃除「第39話」

(ん?)
お客様の顔を触った時に思ったので。
「お客様、お顔のマッサージしてからでもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
血行がよくなってからでもこの肌の感触が気になった。
(そうか、疲れか)
最近お客さんたちは悩みが多いせいか、それがむくみやたるみに出ていたりするのである。
「お湯をお持ちしました」
傑も気がついてお湯を持ってくる。
「体から疲れをとりたいので、こちらをお飲みください」
「ああ、わかった」
お湯?って言われても、蘆根さんのことだし、何か考えがあるのだろうと思って飲む。
そしてマッサージルームに移動。
このお客さんはマッサージルームに来るのははじめてで、物珍しいそうにしているが、もう目がトローンとなっている。
疲れがあるものはこの部屋に耐えられない、そういう部屋であった。
ごろんと寝転んでいるお客さんの足のつけ根や、脇の下を確認する。
(冷たいし、固いな)
これは何とかしなければ!
お腹を触る、そして軽く押して内蔵を目覚めさせる。
そこから足のマッサージに移るのだが、足も筋肉のバランスが悪い。
「えっ?これは何をするの?」
「ちょっと軽く力を入れてください」
使ってない筋肉に負荷を与えた。
このお客さんは筋トレをしてない方なので、普段使っている筋肉とそうではない筋肉のバランスが悪い。
(これだと、使ってない筋肉への負荷はひどいだろうな)
実際にバランスが悪くて痛みが出てしまい、蘆根にこっちからと負荷を行ってからは痛くないそうだ。
「なんかさ、歩くのって健康にいいっていうじゃん、でもなんか足が痛くて」
「足の表側ばっかり使ってて、裏側使ってないから、ちょっと裏側使うだけで楽になりますよ、気を付けてみてください」
へぇ~と思ったが、痛みが消えていた。
(本当に大丈夫だと思っていたのに、あの不具合はバランスが悪かったせいなのか)
ちょっと反省、そしてありがとう蘆根さんにかんしゃをする。
「蘆根さんって、ちょっとした不具合がすごいよくなるっていうか」
「ああこういうのって、マッサージ習ったりするおきにお客さんでいますからね」
あちこちのお店に行ったんだけども、あまり軽くなくて。
「あ~それわかる」
「そういうの悔しいじゃないですか、だからなんでそうなるのか調べたり、質問したり」
なので、蘆根は場合によっては面倒くさい扱いを受けてました。
「でもわかんないじゃないですか」
「蘆根さんみたいな人ありがたいよね、私らはなんでこれ悪いんだろうとか、調子が悪くなってもなんでっては思うが、実際に『なんでですか?』って聞かないもの」
「聞くとうるさいのが来たぞって言われたりしましたよ」
故に相性がいいのは求道者タイプです。
「俺がこの仕事についた辺りはまだ色んな方がおりましたから」
いわゆる昔かたぎの仕事人。
「もしも浜薔薇に来てなかったら、ずっとホテルで働いて、休みとかにあちこちのお店にいって話を聞くと言うのを今も繰り返していたんじゃないですかね」
そこまでいい終えると、お客さんが寝息してあるのに気がつく。
(おやすみなさい)
そして目覚める時には最高を与えたい。
音楽を流し始め、時間内に疲れを取れるだけとることにしようか。
まずは何をしようか、ああもちろん。
(わかりました、注文しておきます)
マッサージ終わった後の食事にもこだわってもらおう、出前してもらえる分と、家で食べてもらえる主菜、これとご飯さえあれば体が欲するものがとれるだろう。
(余計なものを体から出し、足りないものを補う)
その調整は今のところほぼ蘆根の勘と言えるが、その勘が当たるので本当に困ったものである。
フェカリスの飼い主からはそのうちそれもデータとらせてよと言われていた。
何を見て、どう判断しているのか、これを分析することで、より良いマッサージを誰でもできるのではないかという実験。
「ただ蘆根と話に来ることも楽しみにしているお客さんがいるのもわかるから、浜薔薇の魅力はマッサージと耳掃除だけじゃないと思うんだよね」
人柄とか愛想と好評価というやつである。
「そうか?」
「そうだよ、気づいてないの?」
「そんなの普通だろ」
ギスギスしている人間社会には蘆根のような人は貴重なようです。
「本当に蘆根さんがいなくなったら、ここら辺の地域一気に過疎に」
「コンビニは浜薔薇のおかげで成り立っているところがあります」
浜薔薇は予算が何千円かなので、お客さんがお金を持っていたりします。
「あっ、後、美味しかったら、コンビニのメニューでも載せますからね」
ホームページに載せると。
KCJの職員などがコンビニに行くとき。
「春苺のふわふわデザート、春苺のふわふわデザート」
たまにつぶやきながらコンビニに行きます。
「あった?」
「フェアやってたっていうか、ポップあった、浜薔薇の」
浜薔薇のブログで紹介されました春苺のふわふわデザートコーナーになってた。
「はい、これ、一緒に食べようぜ」
「わーい」
ガサガサ
「あっ、旨い」
「苺ソースいいね」
もちろんこういうのは傑さんのお仕事です。
「なかなか更新しないんできないのが悩みなんですけども」
「傑はそこら辺は妥協ないからな」
美味しかったら載せる、そのルールにいつの間にかなっているために、更新頻度は少ないのですが。
「傑くん、そういえばあれ知ってる?」
お客さんたちが美味しいものを教えてくれるようになりました。
そこで試すようになり、更新が早くなったという。
「まさかみなさんが教えてくれるようになるとは思いませんでした」
「いいじゃん、それで、そういうのって大事にした方がいいぞ、自分では想像してないことになったりするから」
その先に蘆根がいます。
彼の人生はもしも先人たちに習わなかったら、至極平凡なもので終わっていたでしょうが。
巧みの技とそれを費やしてはならない人たちによって。
「こんにちは!蘆根さん、これ食べる?差し入れ」
「ありがとうございます」
生まれも育ちも違う土地に縁を持ち、こうして店を続けています。

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